─聖ヨト歴330年 エクの月 青 よっつ日 昼
  第ニ詰所


突然のレスティーナの訪問に2人は戸惑ったが、とりあえずテーブルにつくことにした
尊の正面にレスティーナが、左隣にヘリオンが座っている
ヘリオンは部屋に戻ろうとしたのだが、レスティーナに「貴方にも関係のある話だから」と引き止められていた

ミコ「わざわざここにいらっしゃってまで伝えたかった事は何でしょうか?」

尊は単刀直入に聞いた

レス「普段どおりの言葉づかいでかまいませんよ」
ミコ「そうですか。わかりました」

尊敬語から丁寧語にかえて話す尊
敬語である事に変わりないのであまりかわったようには感じられなかった

ミコ「では、話というのは何ですか?」

レスティーナは、少し間をおいてから口を開いた
しかし一つ一つ言葉を選んでいるような感じでいまいち歯切れが悪い

レス「ミコト、貴方はこの国についてどう思いますか?」

尊も少し間を置いてから口を開いた

ミコ「何故はっきりと国王のやり方についてどう思うかと、聞かないんですか?」
ヘリ「!?」
レス「!?・・・・どうしてそれを?」

レスティーナとヘリオンの表情が驚きのものに変わる

ミコ「謁見の時の貴方の目を見ていましたからね。気になったんですよ。あの場で唯一国王を哀れみの目で見ていた貴方が。その貴方が会ったばかりの僕のところを訪ねてきてする話はそれくらいしかないと思ったんですよ。といっても大部分が勘です」
レス「勘・・・・・ですか?」

拍子抜けしたような顔でレスティーナが言う

ミコ「はい。まぁ、カマをかけてみたわけですよ」
レス「そうですか・・・・。ですが、もう回りくどく言う必要もありませんね。それで貴方の考えは?」
ミコ「はっきりいえば共感できるところは無いですね。私利私欲のために人を使いそれで得た利益を自分が得る。ユートさんとカオリさんの事がなければ係わり合いになりたくはない人ですね」
レス「そうですか。できれば力も貸したくないと?」
ミコ「そうですね」

ミコトはきっぱりと言った

レス「・・・・・・」

レスティーナはまた考えるようにしていたがやがて決心したように口を開いた

レス「では、貴方の力、私に貸して下さる気はありませんか?」

これも予想の範囲内だったのだろうか、尊は驚いた様子も無く返す

ミコ「それは貴方の考え次第ですね。貴方の目的は何ですか?」
レス「恒久平和です」

きっぱりとそういったレスティーナの目には強い意志が秘められていた
それほど本気だという事だ

ミコ「・・・・スピリットについては?」

尊は一番聞きたかったことを質問する

レス「私は恒久平和の中に差別は存在しないと考えています」

その言葉を聞き、ほんの数秒考えてから尊は答えた

ミコ「・・・・わかりました。ヘリオンさんたちを見ていてどうにかしたいとは思っていたんですよ。まさかこんなに早く話があるとは思っていませんでしたが。僕なんかでよろしければいくらでも力をお貸しますよ」
レス「ありがとうございます」

レスティーナの顔がぱっと明るくなった
今まで見た事が無い笑顔だった
もっとも昨日からの付き合いでは当たり前かもしれないが

ミコ「具体的にはどうすればいいんでしょうか?」
レス「まずは私直属の部下になってもらおうと思ったいます」

そこでレスティーナはヘリオンの方を向いた

レス「指揮官であるミコトがなると貴方たちも必然的にそうなってしまうのですがかまいませんか?ヘリオン」
ヘリ「はい、大丈夫です。皆さんもわかってくれますよ」

と、その時第二詰所のドアが開いた
入ってきたのは4人のスピリットだった
噂をすればなんとやらである

ネリ「あ・ヘリオンにレスティーナ様〜。それと・・・・・誰?」

話は一時中断となり自己紹介&状況説明の時間となった














ミコ「・・・ということです」

尊はことの説明を終えた
ちなみにミコトの4人の第一印象は

自称“くーる”の天真爛漫娘   ネリー=ブルースピリット
語尾を延ばす内気な少女    シアー=ブルースピリット
礼儀正しい活発な姉御肌    ヒミカ=レッドスピリット
マイペースなお姉さん      ハリオン=グリーンスピリット

だった

レス「皆さんはかまいませんか?」

レスティーナが気ほどヘリオンにしたのと同じ質問をする

ネリ「大丈夫だよ〜」
シア「だよ〜」
ヒミ「私に依存はありません」
ハリ「かまいませんよ〜」

四社四ようの返事で承諾する四人

レス「では、話は私がつけておきます。これからよろしくお願いしますね。今日はゆっくり休んでください」
ミコ「はい。わかりました」

尊が今日は休む暇さえ与えてもらえない事を知るのはレスティーナが出て行った後だった





─聖ヨト歴330年 エクの月 青 よっつ日 夜
  森の中


尊が歩いているのはラキオス国外の真っ暗な森の中だった

ミコ(ふぅ。今日は昨日以上に大変だった気がする・・・・・)

尊は歩きながら考えた

ミコ(レスティーナさんにはゆっくり休んでくれといわれたけど、まったく休めた気がしない・・・あの後ネリーさんのいたずらに振り回され、泣きそうになったシアーさんを慰め、ハリオンさんには子ども扱いされ、幻想にはからかわれ・・・・・やめておこう。きりが無いや。女性に振り回される性格は相変わらずか・・・・・)

自分の性格を恨めしく思いつつ諦め気味に思考を中断した
幻想『どうしたの?尊』

落胆した原因の1人が話し掛けてきた
話は聞いていなかったようだが、尊が落胆したのがわかったらしい

ミコ「いや。なんでもないよ」

とりあえず誤魔化しておいた
本当のことを言ったら何を言われるか少し気になったが精神的に疲れそうなのでやめておく

幻想『なんでもないならいいんだけど。・・・・・・あ、そろそろ着きそうだよ』

言われて尊は顔をあげた
尊の目に映ったのはリーザリオ街だった

幻想『皆はミコトがこんなことしてるって知ったらどうなるのかな?』
ミコ「それは、やっぱり驚くんじゃないかな」

誤魔化す様に笑いながら尊が言った

幻想『でも皆が知る頃にはほとんど終わってると思うけどね』

いたずらっ子のように幻想が言った

尊はリーザリオの街に向かって歩いていった









作業を終え尊はラキオスに向かって歩いていた

幻想『・・・・ねぇミコト。ちょっと聞いていい?』

真面目な声で幻想が聞いてくる

ミコ「?いいですよ」

少し怪訝そうにしながら尊は言った

幻想『ミコトはさ、何であんなにスピリットのことをどうにかしたいって思うの?確かにかわいそうだと思うけど、でも昨日知ったばっかりだよね?スピリットの事は』

ミコ「そうだよ。でも困った人は助けるべきだって幻想も言ってたじゃないか」

幻想『でもそれだけじゃ説明できないんだよね。今の一番の目的でしょ?それ』
ミコ「!・・・・・」

尊は少し動揺したが顔にはださなかった

幻想『ミコトがラキオスに来たのはユートとカオリがいたからでしょ?国王の命令に従ったのもカオリの為だった。でもレスティーナに力を貸すのは違うよね。もちろんカオリの為って言うのもあるけどそれが一番じゃない。もしそうならあんなにあっさりと決断しないもんね』
ミコ「・・・・・・・」
幻想『それにレスティーナの話すべてに共感したわけじゃない。恒久平和って言うのはどうでもいいんでしょ?スピリットの事が解決すれば実は国なんてどうでもいいと思ってるんじゃない?』
ミコ「そんなことは無い!」

今度は顔にも動揺が出てしまった

幻想『ごめんどうでもいいなんて思ってないよねでもスピリットの事についてはどうしてなのかは知っておきたいから・・・・』

ミコトはしばらく黙っていた
やがて沈んだ口調ではなした

ミコ「今はまだそのことには触れないでくれますか」
幻想『・・・・・うん、わかった』

ラキオスに帰るまで二人は一言も言葉を発しなかった






ミコ(やっぱり不自然なのかな?でもこんなに早くばれるとは思ってなかったな。だけどあの事・・・はまだ話すのは早すぎる)

尊は歩きながら考えていた

??(まだ早い?ただ話すのが恐いだけだろう)

尊の心の中で別の自分の声がする
これは比喩ではなく本当にもう1人の尊・・・・・・の声がするのだ

ミコ(またか・・・・)

尊はうんざりしたように返す

??(臆病なやつだな。そんなにまたきらわれるのが恐いか?捨てられるのが恐いか?)
ミコ(黙れ!)
??(そうだよなぁ。本当の自分・・・・・を知れたらおしまいだもんなぁ)
ミコ(やめろ)

自分でも感情があらぶっているのがわかる
呼吸も荒かった

??(いつだってそうだったもんなぁ。まったく同情モンだぜ。ひゃはははははははははは)
ミコ(やめろやめろヤメロやめろヤメロヤメロ)

もう尊はまともに思考できなかった
ただ機械のようにラキオスに向かって歩いた







その時幻想もまた悩んでいた

幻想(やっぱりミコトは優しいままだ。変わらないなぁ。やっと見つけられた。でもあの後何があったんだろう?さっきの様子からしてただ事じゃないと思うんだけど・・・・・とにかくしっかりミコトについていてあげよう。ミコトは私の大切なたった一人の――――なんだから)



2人の契約者はお互いに秘密をもってた
それがあかされる日はまだ遠い