─聖ヨト歴330年 エクの月 青 みっつ日 夕方
 守り龍の寝床前


尊たちは洞窟から出た。
案外洞窟の中にいた時間は長かったらしく目が暗闇に慣れていたようで太陽の光がまぶしかった。

ユー「まさか生きて出られるとは思わなかったな。」

洞窟を出たところで悠人が口を開いた。

エス「そうですね。すべてミコト様のおかげです。」
ミコ「いえ、たいした事はしていませんよ。たまたま通りかかっただけですし、気にしないで下さい。」

尊は笑顔でかえした。

ユー「それにしても、お前もこっちにきてたんだな。今までどこにいたんだ?」
ミコ「今まで・・・・・・ですか?今までといっても今日この世界に来たばかりなんですけど。」
ユー「今日!?本当に今日きたのか?」
ミコ「はい、少なくとも意識があったのはそうです。」

悠人の動揺ぶりに驚く事も無く尊がかえす。

ユー「一ヶ月以上もズレがあったんだな。・・・・・・・・・まてよ?」
ミコ「どうしました?」
ユー「お前、何でこっちの言葉が分かるんだ?」
ミコ「はい?」

尊は悠人が言っていることの意味がわからなかった。

幻想『あ・ファンタズマゴリアとハイペリアでは言葉が違うんだよ。』

困っている尊に幻想が答えた。

ミコ(そうなんですか。まぁ異世界ですし当たり前といえば当たり前ですね。 でもなんで僕に理解できるんですか?)
幻想『それは戦闘の知識を送ったみたいにその知識もミコトに送ったからだよ♪』
ミコ(そうだったんですか。)

謎が解けたところで尊は悠人に答えた。

ミコ「幻想が戦闘とか言葉とかの知識を送ってくれたみたいです。」
ユー「幻想?」
ミコ「僕の永遠神剣ですよ。」
ユー「あぁ、さっきの大鎌か。っていうかなんで今無いんだ?」

悠人の言葉の通り今の尊は手ぶらである。
もちろん幻想は服に隠せるような代物ではない。

ミコ「あぁ、今はしまってあるだけですよ。」
ユー「しまってある?」
ミコ「はい。」

尊がそういうと目の前の空間に幻想がはじめて尊の前に現れた時と同じ様な闇の穴があいた。
尊はその中から幻想を出した。

ミコ「と、こういうことです。」
ユー「能力を上げる力といい、知識を送ったりできることといい、永遠神剣って何でもありなんだな。」

悠人はその光景を見て改めて永遠神剣の凄さをしった。
尊がまた闇の穴に幻想をしまいこむ。
悠人はその光景を見入っていたが、しばらくしてあることに気づいた。

ユー「なぁミコト。話は変わるんだけど、もしかしてさっきの戦闘が初めてか?」
ミコ「はい。そうですけど何か?」
ユー「いや・・・・・・なんでもない。」

悠人はさらりと答えた尊に劣等感を感じずに入られなかった。
いくら知識があったとしても知識だけで戦う事はできない。
そして戦闘への恐怖は知識でどうこう出来るようなものではないと身をもって知らされていた。
何よりさきほどの戦闘で桁違いの実力を見せ付けられ、それが初めての戦闘であるのだから劣等感を感じないほうがおかしいだろう。
そんな悠人の心境を知ってか知らずかオルファが明るい声で悠人に話し掛けた。

オル「ねぇ、パパ〜。オルファ達にもこのお兄ちゃんのこと紹介してよ〜。」
ユー「あぁ、そうだな。えっと、こいつはミコト。おれの友達だ。」
ミコ「ミコトです。宜しく。」

尊は丁寧に会釈した。

ユー「ミコト。この三人はおれの仲間だ。えっと、蒼くて長い髪の娘がアセリアで、茶髪にウェーブがかかっててメイド服を着てるのがエスペリア、 赤い髪を二つにしばってるのがオルファだ。」
アセ「ん・・・・・ヨロシク。」
エス「ミコト様、よろしくお願いします。」
オル「ヨロシクね〜。ミコトお兄ちゃん。」
ミコ「はい」

三者三様の挨拶に尊は笑みでかえす。

ミコ「ところでユートさん。何がありました?」
ユー「?・・・・・・何のことだ?」

突然の質問に悠人は戸惑った。

ミコ「ここに来てからのことです。理由もなしに女の子を連れて龍退治なんてするはず無いでしょう?」
ユー「まぁそうだな。隠す事でもないし・・・・・・・。」

悠人はファンタズマゴリアに来てからのことを事細かに話した。




















ミコ「・・・・・・そうですか。佳織さんが・・・・・。」
ユー「そういうわけで今はラキオスのエトランジェとして戦ってる。だけど・・・・・・・はっきり言って戦況はかなり厳しい。」
ミコ「・・・・・・・・。」

悠人の声の沈み具合から戦況の悪さは容易に想像できた。

ユー「なぁ、ミコト。お前の力を貸してくれないか? エスペリア達もいいだろう?」
エス「はい。仲間が増えるのは喜ばしい事ですし、それにミコト様がいてくれれば心強いです。」
ユー「というわけだ。ダメか?」

尊の答えは決まっていたが、とりあえず幻想にも許可をえておく事にした。

ミコ(・・・って状況なんですけど、いいですよね?幻想。)
幻想『もちろんだよ。困ってる人は助けなきゃ♪』
ミコ(それもそうですね。)
ミコ「幻想の許可も出ましたし僕はかまいませんよ。」
ユー「本当か?」

悠人の顔が喜びのものに変わる。

ミコ「はい。というかこれからの行動とか寝床の確保とかをどうしようか悩んでいたんで好都合ですよ。 むしろこちらからお願いしたいくらいです。」
ユー「ありがとうミコト。」
ミコ「礼を言いたいのは僕ですよ。」

尊の謙虚な態度に悠人は心の中で感謝した。

ユー「よし、じゃあ後は王に報告するだけだな。早く行こう。」

そういう悠人の声はこの世界に来てから一番明るい声だった。
友人との再会を、悠人は素直に喜んでいた。





─同日、夕方
 リクディウス山脈


尊たちは城までの道を仲間になったばかりの尊の話題を中心に話しながら歩いていた。
もうすでに太陽はオレンジ色に染まっている。

幻想『ミコト。ユートの様子がおかしいよ。』

突然幻想がミコトに話し掛けてきた。
その言葉どおり悠人は顔色が悪いようだ。
とりあえず悠人の隣に行き声をかける。

ミコ「大丈夫ですか?だいぶ辛そうですけど。」
ユー「ちょっと頭がくらくらするだけだから大丈・・・。」

言い終える前に悠人の体がふらついた。

ミコ「おっと。」

その体を尊が支える。

エス「ユート様!?」

その様子を見てエスペリアが駆け寄る。

エス「ユート様・・・・・大丈夫ですか?」
ユー「はは・・・・・ちょっと、疲れたかな・・・」

悠人はそういって笑ってみせる。
しかしその笑みに力が無い事は悠人自信よく分かっっていた。

エス「・・・・・・」

エスペリアの表情が曇る。

アセ「!どうした?」
オル「パパァ、病気なの?」

アセリアとオルファも心配そうに悠人の顔を覗き込む。

ユー「大丈夫だって・・・・」

相変わらず力の無い笑みで悠人が言う。

オル「全然大丈夫に見えないよぉ・・・・・」

ドクッ!!ドクッ!!
悠人の鼓動が異常に強くなる。

ユー(ぐっ!!ど、どうなってんだ・・・・・・)

悠人の顔色がどんどん悪くなる。

エス「・・・アセリア。ユート様は私とミコト様が看ています。先にオルファを連れて報告に行ってくれませんか?」
アセ「ん・・・わかった。」
オル「え〜。オルファもパパといる〜!!」

オルファが不満そうに頬をふくらませる。

エス「オルファ。ユート様は大丈夫だから。」
ユー「ああ・・・少し休めば、すぐ戻れると思う。」

悠人がゆっくりと答える。

オル「・・・ほんとう?」

オルファリルは心配そうにエスペリアと悠人の顔を交互に見比べる。

ユー「ああ、本当だ。」

悠人は苦しさを表に出さないように注意しながら、力強く頷いた。
オルファはそれでも心配そうだったが、最後はアセリアに腕を引っ張られて連れて行かれた。


ユー「ふぅ・・・つっ・・・う、はぁ・・・」

悠人は気がゆるんだのか、そのまま地面にへたり込む。

ミコ「大丈夫ですか?ユートさん」

エスペリアに悠人を預けながら尊が言う。

エス「ユート様、大丈夫ですか?」

エスペリアは悠人の額に手を当てた。

ユー「ぐぅっ!?」

その時、悠人の身体がビクリと震えた。

エス「ユート様!?」
ミコ「ユートさん!?」
ユー「なっ、なんなんだ、これは・・・ぐぁああ!!」

突然悠人が大声で叫ぶ。

エス「ユート様っ!!ど、どうなされたのですか!?」
ミコ「『求め』がっ!!」

尊の叫び声に、エスペリアは『求め』を見た。
キーン・・キーン・・・
『求め』は強く輝いていた。

エス「干渉を受けている・・・?それじゃあ、やっぱり・・・」
ユー「ぐぁあっ!!がっ・・うぁぁああっ!!あがぁあああ!!」

ドサッ!!

エス「キャッ!!」

突然、悠人はエスペリアを地面に押さえ込む。

ユー「うわぁあああああ!!あぁああああ!!!」
エス「キャッ・・・くぅ・・ユート、様・・・」
ユー「はぁーっっ!!あぁ、はぁあーっ!!」

悠人は荒い息を吐いてエスペリアを組み伏せる。
ユー「はあぁっ・・エスペリア・・ッ!!」
エス「だめです・・・ユート様、負けないで・・・!!」
ユー「はぁっ、くぅっ・・・辛いん・・だ・・・っ」

悠人は顔面汗だくになって苦悶の表情を浮かべる。

ユー「ぐぁああっ!!」
エス「くぅっ・・ユート様・・・が、頑張って・・・ください・・っ!!」
ユー「あぁっ・・・がぁっ!!」
ユー「あがっ、ぐ、ぐぁああああ!!!」
エス「ユート様!!ユート様!!」
ミコ「・・・・・・」

ドゴォッ!!!

ユー「がぁっ!?」

尊は鳩尾を的確に捉え悠人を蹴り飛ばした。
悠人の身体はエスペリアの上を通過して、そのまま受け身も取らずに地面に転がる。

エス「ミコト様!?」

エスペリアが血相を変える。
尊は悠人の側に駆け寄駆け寄った。
そして、そのまま悠人の肩を掴んで言う。

ミコ「ユートさん。」
ユー「み・・・・こ・・と!!」
ミコ「貴方はカオリさんを助けるんでしょう?自分の事もままならない人が他人を助けられるんですか? 剣なんかに負けてていいんですか?」
ユー「う・・うぁあああ!!!」

悠人は尊を振り払うと、そのまま近くの木に向かって走り出す。

エス「ユート様!?」
ユー「うぉおおおっ!!」

ガツッ!!ガツッ!!ガツッ!!
悠人は、凄まじい勢いで自信の頭を木の幹にたたき付ける。

ユー「くそっ!!くそっ!!くそっ!!」
ミコ「ユートさん!?」
エス「ユート様、おやめ下さい!!それではあなたがっ!!」
ユー「うわぁあああああ!!!」

悠人は『求め』を抜くと、自分の身体に向ける。
そしてそのまま剣を振り下ろした。
ガキン!!
自分に刺さるはずのそれは大鎌の刃によって阻まれた。

ミコ「そんなことをしても誰も喜びませんよ。もっと他にする事があるでしょう?」
ユー「あ・・・あぁ・・・?」

悠人はゆっくりと剣を落とす。
ドサリ・・・
そして、力無く地面に倒れた。

エス「ユート様!!」

慌ててエスペリアが悠人に駆け寄る。

エス「ユート様・・・あまり、びっくりさせないで下さい・・・」

エスペリアは悠人の上半身を優しく抱き起こす。

エス「はぁ・・・心臓が止まってしまうかと思いました・・・」
ユー「エスペリア・・・ごめん”」
ミコ「大丈夫ですか、ユートさん?」
尊は心配そうに尋ねた。

ユー「ああ・・・何とか。」
ミコ「・・・腹は何ともないですか?」

悠人は先程蹴った箇所をさする。

ユー「・・・そこは・・やばいかも・・・」
ミコ「すいません・・・」
ユー「いや・・・いいよ。」

悠人は小さく笑った。

ユー「エス・・ペリア・・・」

悠人は自分を抱きかかえるエスペリアを見た。

エス「ユート様・・・大丈夫なのですね?」
ユー「ああ、変な頭痛は消えた・・・でも、なんだったんだ、今のは?」
エス「何でもありません・・何でも・・・」

涙声で呟くエスペリアに、悠人は何も言えなくなる。

ミコ「・・・」

しかし、そんなエスペリアを尊は厳しい視線で見つめていた。

ユー「早く、追いつかないと。オルファが心配してる・・・」

尊のそぶりに気づかなかった悠人は呟いた。

エス「はい・・・でも、もう少し休憩してからです。」

エスペリアの言葉に安心したのか、悠人は瞳を閉じると、すぐに寝息を立てた。



ミコ「・・・エスペリアさん」

エス「・・・」
悠人を抱きながら、エスペリアは無言で悠人の頭を撫でる。

ミコ「ユートさんに何故嘘を・・・?」
エス「・・・・・・・・」

エスペリアは無言だった。
長い間沈黙が続いた。
沈黙を破ったのはエスペリアだった。

エス「『求め』の支配は強くなっています。 そしてユート様にかかる負担もどんどん大きくなっています。」
ミコ「・・・・・・」
エス「これ以上ユート様に負担をかけるわけにはいかないんです。 そのために私が犠牲になってもかまわない。」

エスペリアの顔には強い意志と諦めの表情が浮かんでいた。