作者のページに戻る

聖ヨト暦329年チーニの月青いつつの日
ラキオス城 謁見の間



「おのれぇ!!忌々しい、よりによって我が領内に現れたエトランジェを奪われるとは!!」

報告を聞いたラキオス王の激怒の声がこだまする。
第04分隊のラキオス領脱出、帝国側についたF中隊の規模、そして国境付近での戦闘。

「神剣も持たぬ者にむざむざとやられるようなスピリットはさっさとマナに還してしまえ!!」

戦力の回復したスピリット隊を使い一気にバーンライトを落とそうと考えていたラキオス王。
国境付近での戦闘は勝利間近であった。しかしそこへ現われたエトランジェたちによりスピリット隊の被害は甚大。
ラキオスは現代戦というものを痛烈に味わう結果となった。

「お待ちください父様」

王とは正反対、冷静なレスティーナが口を開く。

「エトランジェが神剣無しであそこまでの武力を持っていたのはこちらの計算外でした。それに報告ではハイペリアの軍隊とのことです。戦いに慣れていたとしてもおかしくはありません」

一拍置いて続ける。

「それより危惧すべきは、それが帝国の手に渡ったということではないでしょうか?今は少しでも戦力を温存しそれらとの戦いに備えるべきです!」
「う、うむ…引き続き帝国の動きに警戒するように」
「はっ!!」

なんとか威厳を保ちつつ命令を下す。
そんな父親を横目にレスティーナは退場していった。





同日夕方 
ラキオス スピリット訓練場



ラキオス城の訓練場。
普段はスピリットたちの訓練が繰り広げられているが時間が時間なだけに人気が無い。
しかしこの場所に、二つの影。

「はい…カムリとノアの報告では、規模100人程度だそうです」
「それほど多くの…神剣を持っている気配は無かったと聞いていますが…?」
「はい、しかしたった一人でも油断していたとはいえ私達の追撃を振り切りました。只者ではないと思います」

報告しているのがエスペリア、それを聞いているのがレスティーナであった。
レスティーナはこの世界の人間としては珍しくスピリットへの差別を良しとしない人物である。
父王であるルーグゥ・ダイ・ラキオスはエトランジェを横取りされたことばかりを気にし、その本質まで考えようとしていない。
どちらが王としての器に優れているか一目瞭然であるが、今問題なのはそこではなかった。

「何名かが遠距離攻撃に対しバニッシュを試みましたが全く効果がありませんでした…そのために……」
「飛行機械、自走する車…そして強力な武器……異世界の軍隊、父様が考えているよりも危険かもしれませんね」
「申し訳ございません。私達が捕獲していれば…」
「それは違いますよエスペリア。たとえその一人を捕らえたとしても残りが健在ならば相手にとって痛手ではありません。
                                                むしろ取り返そうと貴女達にもっと被害が出ていたことでしょう」

レスティーナの顔は純粋に生きて帰った者のことを喜んでいた。
この世界でスピリットは忌むべき存在とされている。
それに関わる人間も然り。
レスティーナ自身もこんなコソコソとではなくおおっぴらにエスペリアと話がしたいだろう。
しかし今は耐えねばならない。世界が変わるまでは演じなければならない。

「ところで、アセリアは大丈夫でしたか?」

エスペリアの顔に影が差し始めていたのを察したのか、話題を変えるレスティーナ。

「はい、大事ありませんでした。でも負けたのがよほど悔しかったのか今も少し不機嫌ですけど…」
「そうですか…フフッ」
「?」

ふくれ面のアセリアを想像し思わず吹き出してしまうレスティーナ。
そんなレスティーナに困惑しながらも表情を緩めるエスペリア。
と、ここで何かを思い出したように袋を取り出すエスペリア。
中からはなにやらジャラジャラと金属がぶつかり合う音がする。

「それですか…?」
「はい…これがエトランジェたちが残していったものです。おそらく彼女らの武器に関係するものかと思います」

そう言いながら袋の中身を取り出す。
それは黄色に鈍く光りながら筒状をしている。
すなわち薬莢であった。
大きいものが7.62mm弾、そして小さいものが5.56mm弾である。
しかしそんなことが彼女達にわかるはずも無く、何に使うものなのかさっぱりという顔をしている。

「武器らしきものの側面から飛び出すのを見ましたが、これが何を意味するのか解りません…ただあの武器に必要不可欠な物ではないかと…」
「これが…」

レスティーナはまじまじとその物体を観察する。
まるで何かの入れ物のような形。
中空であり入り口のほうは絞られたように細くなっている。
底の部分には何か文字のようなものが書かれているが当然彼女にカタリナ語が読めるはずは無い。
そして彼女はその中のにおいをかいだ。

「これは…火薬?」
「えっ…?あ…本当ですね」

レスティーナの言葉にエスペリアも同じ行動をする。
いわゆる硝煙の香りがそこからわずかに出ていた。
この世界では火薬はまだ未発達であり、鉱山などでの発破用のものしか広まっていなかった。
軍事利用は全く考えられていない、なぜなら戦闘はスピリットたちの役目である。
神剣魔法は火薬の破壊力を軽く凌駕し、その剣の一振りで大抵の障害物はゼリーのように破壊される。
ましてや炸薬につかい物を発射するなどという考えは皆無である。
なのでこの世界における火薬は工業的な利用でしか存在しない。

「なぜ火薬が…」

顎に手をあて考えるポーズをとるレスティーナ。
無理もないことだがこれだけで銃というものを理解するのには材料不足であろう。
しかしどういう位置づけの武器ということは想像がつく。

「エスペリア、あなたはエトランジェから力は感じられなかったと言いましたね?」
「はい、彼女が武器を使用したときも、彼女自身からもマナを感じられませんでした」

「ふむ」とまた考え込むレスティーナ。

「もし…そのエトランジェ全員がその武器を持っているとしたら…もしその武器がエトランジェをはじめスピリットや人間まで扱えるとしたら……」
「……その武器は私達の世界で言う剣や槍のようなものかもしれません。そうなれば当然予備も存在するはず」

そう言って俄かにレスティーナの顔色が悪くなる。

「父様は聖ヨトの血に囚われている…近いうちにまたバーンライトに侵攻しようとするでしょう」
「……っ!そのときにその武器が広まっていたら……」
「新たな武器を得たスピリットたちとの戦闘になればいくらエスペリアたちでも……」

銃が広まればこんどこそラキオスのスピリット隊は全滅の危機に陥るだろう。
近い将来訪れるであろう災厄を想像し顔を青くする二人だった……





永遠のアセリア
Meaning of War −Little Soldiers Company−
第一章〜妖精達と来訪者の軌跡〜
第1話[交渉−Negotiation−]






聖ヨト暦329年チーニの月赤いつつの日 夕方
帝都サーギオス郊外 スピリット詰所付近



ラキオス軍との戦闘から三日あまりでF中隊はバーンライト王国、ダーツィ大公国を経てサーギオス帝国にたどり着いた。
これだけの短期間にバーンライト王国からサーギオス帝国までこれたのはひとえに自動車という文明の利器のおかげといえよう。
現在F中隊は帝都郊外、ウルカ隊も入ってるスピリット兵舎近くにキャンプを張っている。
サーギオス帝国はこの世界でも有数の軍事大国であり、保有するスピリットも軽く100人を超えていた。
現在ここにはウルカ隊4小隊12名を含む40名ほどのスピリットが暮らしていた。
兵舎といってもひどいことに屋根と壁があって辛うじて家と言えといえるほどのものであった。
F中隊が張っているテントの方がまだ良心的である。しかし彼女達はそんなことに文句一つ言わず過ごしている。

現在ここが拠点になるということでトラックの物資を下ろし用途ごとに分けて集積する作業が行なわれていた。
前線への補給だったため様々なものが大量にあった。
武器弾薬はもちろん、食料、雑貨、娯楽用品までなんでもござれだ。
向こうではジープやトラックなどに燃料補給がされている。
燃料といっても化石燃料ではなく純水だ。
水素燃料エンジン、タンクに入れられた水を水素と酸素に急速分解。
二次タンクにそれらを集め適度な割合に混合、燃焼させるというものだ。
ジープ、トラックはもちろん戦車やヘリもこのエンジンが使われている。

前大戦時に化石燃料が大幅に普及した。
しかし数十年後に温暖化問題が浮上、化石燃料に変わるエネルギーとして提唱されたのがこの水素燃料であった。
問題も多かった、化石燃料に比べると劣る発生エネルギー、有害な過酸化水素の発生などなど、改良にはさらに多くの時間を有した。
それから百数十年、水素燃料の利用は安定しそれまで化石燃料が担ってきたほとんどの物と代わった。

と蛇足はこれくらいにして帝国に到着し五日目、今キャンプはあわただしさに包まれていた。
なぜなら指揮官に召還命令が帝国側から来ていたからだ。
中隊長のルージュ、そして通訳のシュネアだ。
ルージュは現在物資のリストまとめを、シュネアは帝国軍施設から持ってきた地図や書類の翻訳をしていた。
もって来たのは主に歴史と最近の国々の情勢関係、そして軍事資料である。
言うまでも無いが選んだのはルージュであって決してシュネアではない。

「この忙しい時にむちゃくちゃ言ってくれるよね〜」

とシュネア、現在は先任軍曹兼通訳ということで部隊再編成までは中隊本部就きとなっていた。
実際物資の確認、集積、部隊の再編成など問題は山積みである。
例え一時の指揮官不在でも作業の遅延は避けられないだろう。

「まあ…私はただ物資を把握すればいいだけだけど」
「それでもルーが居るのと居ないのじゃみんなの士気がちがうよ」
「そうそう!あんたはもっと自覚をもったほうがいい!」

ドスドスと一応女子なのにそれが微塵も感じられない言動と足音でテントに入ってきたのはクリルだ。
その手に湯気の上がるキャンティーンカップが三つ。

「お嬢様方、お茶の時間でございます」

などとおちゃらけてカップをテーブルに置く。
ちなみにカップに入っているのはお茶などではなく軍から支給されるインスタントコーヒーだ。
水を入れるだけで熱々のコーヒーになるという野戦用の物だがまだ荷がまとまってない今は贅沢を言えない。

「はいはい…何一つとして萌える要素はないから」
「なんだ〜つれないなぁ」

軽く流したシュネアに、苦笑いしながら残念がるクリル。
そのままテントの隅にあった椅子をひきよせ同じテーブルに着く。

「やっと半分くらい終わった、荷出しの終わったトラックは北側に集結させてる」
「そう、ご苦労様」
「いいなぁ…アタシもそっちやりたかった…」

エンピツを口にくわえフルフルさせながら呟く。
頭を使うことが苦手なシュネア。
特に勉強方面は絶望的である。
実際資料をまとめるに当たりルージュの教えを請っている状態だ。

「そりゃあたしがこっちの言葉解るんだったら代わってもらってるさ!」

やれやれといったジェスチャーをし椅子にもたれかかるクリル。口にコーヒーを含みながら遠い目をする。

「しっかしこれからどうなっちゃうんだろうね…」
「………(ズズズ)」
「……(フー…フー…)」

重い空気が流れる。
誰もが思っていることだが、口にするものはいなかった。
ここは異世界である。
元の世界なら例え外国の戦場にいようとも故郷に手紙を出せば届くし、休暇には戻ることができた。帰る場所と繋がっていたのだ。
それがどれだけ過酷な戦いをする兵士の心を救ったか…
だがここはどんなに望んでも故郷には戻れない。繋がってはいないのだ。
不安は毒と同じ、いつの間にか広がり精神を破壊し尽くしてしまう。
だから皆感じていても何も言わないのだ。

「……なるようにしかならないわ」

そう呟いたのはルージュだ。

「だから余計なことを考えないで…生きていなければ帰れたとき損でしょう?」

少し考えた後無言のまま何度も頷くクリル。

「そだね…ごめん、どうかしてた…」
「アンタにしてはえらく弱気じゃない?」
「うっさい…」

シュネアの冷やかしをごまかすようにがぶ飲みするクリル。
飲み終わると思い出したように口を開いた。

「ふー…そういえばさっき記者さんが捕虜見てたけど何してるわけ?」(ク)
「なんか見たことあるとか…もしかしたらやつかもしれないとか言ってたけど何のことかわからないわ」(ル)
「フーン…」(シュ)
「あの人元空挺出身らしいよ、東の方の紛争に派遣されたこともあるって」(ク)
「へぇ〜…」(ル)
「それはアレか?何かの伏線かなんか?」(シュ)
「だと思うけどね…」(ク)
「…」(ル)

よくわからない会話が交わされたが、この部隊で異色なマッキンレー記者への興味は否めない。

「「「なんなんだろうねぇ…」」」

三人の声がはもったその時、

「"中隊本部どうぞ"」

突然テントに据え付けてある鉄の箱、無線機から声が上がる。
シュネアがマイクを取る。

「はい、こちら中隊本部。そちらは?」
「"キャンプ入り口ですが、お客さんが来てます。どうやら伝令のようでクラシックな鎧つけてます"」
「了解、お客さんだってさ」

3人が立ち上がる。
ルージュとクリルが先にテントを出る。
残されたシュネアはカップに残っていたコーヒーをグイと飲み干し考える。

「生きる…」

一言呟く。
刹那、脳裏に最悪の情景がよぎったのを首を振って否定する。
前に読んだ物語、そこでは全滅しわずかに残った者も散々になってしまう結末だった。
そんなことにはならない、大丈夫そう自分に言い聞かせる。
――パン!!
両手で頬をたたきネガティヴな考えを吹き飛ばす。

「んし…」

すこしヒリヒリする頬に後悔しながら彼女もテントを出て行った。
そして時間は少し遡る





同日 昼過ぎ
帝都サーギオス サーギオス城の会議室



「だからこちらのスピリット共を使い力ずくで従わせれば良いのだ!来訪者ごときに気をもむ必要はないわ!」
「しかし向こうが迎え撃った場合、こちらにも被害が出るかも知れぬぞ?なにせ奴らも兵士なのだからな」
「そうだ、ソーマの報告によれば、たった一人でラキオスのスピリット隊を掻き乱したそうではないか」
「だがこちらは数がちがう、多少の損害は出るだろうがすぐにも制圧できる!神剣もないのだからな!」
「しかし、剣がなくとも――…」

と熱い談義が繰り広げられていた。
もちろん今回捕獲(?)に成功したエトランジェの処遇についてなのだが、何せ数が多い上、
バーンライトで見せた戦闘能力でさすがの帝国も強行策に出られないでいた。
しかし力ずくで従わせるという発想しかないこの世界独特の考えから抜け出せず、議論は平行線をたどっている。

その会議室の中黙して語らない人物がいた。
口調を荒げ、騒ぎ立ててる重臣たちを尻目に沈黙を続けている。
この人物こそサーギオス帝国皇帝ルチアーナ・セヅナス・サーギオスであった。
整った顔をしており男性とも女性とも取れる中性的なイメージを持っている。
その座した後方には二人の軽甲冑をつけたスピリットがその部屋の一部のように微動だにせず立っている。
その表情は兜に隠れてうかがい知ることはできない。
皇帝はため息一つつくとおもむろに口を開いた。

「良いだろうか?」

その透き通るような声が混沌とした部屋に響くと、さっきまでの喧騒はピタリと止む。

「仮定をならべて議論してても何も始まらなぬ。余が直接会ってみよう」
「なっ!下賎な来訪者などに陛下が直接会われるなど前代未聞ですぞ!?」

重臣の一人が声を張り上げる。
他の者もその通りだといわんばかりに頷いたり、似たようなことを叫ぶ。
それを片手で制するルチアーナ。

「ソーマよ、そなたから見て奴らをどう思う?」

会議室にいながらルチアーナ同様沈黙を守り続けてきたソーマ・ル・ソーマがゆっくりと立ち上がる。

「おそれながら…彼らの武器や規模を総合すると、我々と敵対した場合負けることはなくとも勝つこともできないでしょうねぇ」
「ほぉ…それはなぜだ?」
「おそらく、いえ確実に彼らの世界にはスピリットは居ないのでしょう。ですから人間の携帯する武器が発展しあの形となった。そしてあの武器には人間にスピリットと同等かそれ以上の戦闘力を与えることができます。大型の武器であれば部隊規模でスピリットを消耗するでしょうねぇ」

誰もが沈黙した。
そんなことになれば帝国の軍事力は一気に低下し、拮抗しているマロリガンなどの敵対国に攻める口実を与えかねない。

「それに彼らは恐らく人間をも殺すことができます」
「なんだと!?」
「少し考えればわかることですよ。彼らの世界では人間同士が戦っている…つまり敵対する行動をとれば躊躇無く攻撃してくるでしょう」
「そして、人の殺せないスピリットでは対抗できない…と言うことか」
「はい陛下、どちらにせよ遠距離攻撃に対してレッドスピリット以外の接近戦スピリットは近づく前にやられるでしょうなぁ」

最後の方は皮肉が込められた。ソーマはにやにやしながら再び席に着く。
場を支配するのは沈黙。エトランジェとはいえ神剣を持たなければただの人間同然である。
そして帝国のスピリットはこの大陸最強と言われるほどの部隊である。神剣を持つエトランジェでも圧倒できる戦力を誇る帝国。
たかだか100人程度の剣も持たないエトランジェに自国のスピリットが勝てないといわれたのだから当然である。
そして下劣なエトランジェにペコペコしなければならない自分達の姿に頭痛を覚える者達。

「ならば…余が自ら出て行けば彼らの信頼も少しは高まろう。それにハイペリアについても興味がある」
「ら、来訪者ごときに信頼も何も…」
「余の使命は我が帝国を世界屈指の大国に育てること、そのためには安い代償であろう…」
「おまけに彼らはハイペリアの軍人だそうだ…軍人がどういうものかそなた達の方がよく知っているのではないか?…ソーマよ!」
「はっ」
「其方に仲介役をまかせる。日程を調整し報告するのだ」
「かしこまりました」

丁寧に礼をするソーマ。
それに頷くルチアーナ。

「今日はここまでとしよう」

ルチアーナの言葉がかかると会議室の全員が起立し敬礼する。
そして自身も席を立ち無言のまま会議室を出ていった。

「まったく…陛下はまだまだお若いと見える…」
「エトランジェなど力で屈服させてしまえばよいものを」

重臣達がやれやれと皮肉いっぱいにそう呟くとその周りの重臣たちも同様にため息などをつく。
中にはその意見に賛同しない者もいたが、だまって部屋を出るだけであった。
実際、4年前に前皇帝が突然崩御しその皇太子だったルチアーナが即位したのだが。
如何せん若すぎるということが周りの反感を買っていたのだ。
だから若さゆえのあやまt…
ともあれ会議室を出たルチアーナはまっすぐに自室へと歩みを進める。
人間の一般衛兵が詰める区画を抜けるとスピリットが詰める区画となる。
皇帝妖精騎士団、帝国スピリット隊より選りすぐられた精鋭たち。
皇帝の直属であり、他のスピリットとは違い教養面でも人間に引けをとらない高等教育をほどこされている。
やがてサーギオス城の最奥、皇帝の寝室などがある区画に達した。
ここの警備には皇帝妖精騎士団からさらに選りすぐられたスピリットとこれもまた選りすぐられた人間の兵士、俗に言う親衛隊とでも表せようか。
本来ならばスピリットだけで護衛は事足りるのだが、それでは立場がないと人間兵士もお飾りながら配備されていた。
当然スピリットと人間は相反するもの、連携などというものはなく水と油のように分かれての警備行動となっている。
たどり着く私室、その扉の両側には番兵としてスピリット二名が配置されている。
皇帝の姿を視認した二人は敬礼すると扉を開ける。
扉をくぐる皇帝と二人のスピリット、そして扉が閉じられた瞬間

「ククク…」

くぐもった堪えるような笑い声。
よく見ると皇帝自身がお腹を抱えるように縮こまりプルプルと震えている。
何が起こっているかわかっている二人のスピリットは頭を抱えるようにため息をついた。

「あははははははははははははははははっみっ見たか二人ともあの…あの老いぼれ共に一泡吹かせてやったぞ!ブプププ」

爆笑しながらスピリットである二人に向き直った皇帝は愉快痛快とばかりに笑い続ける。

「プププッ普段から強引に――」
「陛下、お控えください…どこに誰の目があるかわからないのですよ?」
「そ、そうですよ陛下、もっと自重されてください。こちらはひやひやなのですから…」
「し…しかし……ブププププフッ…た…たまらん…」

サニー・グリーンスピリットとルネッサ・レッドスピリット
皇帝自身が即位した日から身辺警護として置かれている親衛隊員である。
侍女並に近くに置かれたものだから、皇帝自身のあーんなことやこーんなことまで知り尽くしていた。
経験からこれはしばらく止まらないなと二人が思い始めたとき。

――コンコン
ピタリ
扉をノックする音が聞こえたとたんそれまでの笑いが嘘のように停止する。

「入れ」

ひどく冷めた声で答えるルチアーナ。
先ほどまでとくらべるとかなりシリアスだ。

「失礼いたします陛下」

と入ってきたのは初老の男性。
皇太子時代から側仕えをしているセバスという人物だ。
この帝国に数少ない皇帝の味方といえる人間である。
安堵のため息をする皇帝。

「なんだセバ爺か…心臓が飛び出るかと思ったぞ、爺の合図はノック3回だと言っておろうが」
「これは失礼いたしました陛下…なにぶん老いぼれたのか『じゃくねんせいあるつはいまー』が始まっておりまして…」
「じぃ…それはセバ爺の年齢にはカウントされないと思うのだが……それにこの間廊下で直角フェイントをかけて曲がっていたのを見たぞ…?」
「いやぁ見られてしまいましたか…年寄りのおちゃめですどうかご容赦を」
(((それは本気で言っているのか…?)))

絵で表せばセバス以外の後頭部にでかい汗が現れていたことだろう。

「まぁ…いい…それで?何の用だ」

諦めた感じに口を開く皇帝。

「はっ、今日の分の書類です。サインをいただきたく」
「そうか…やれやれ」

執務用の机に座り書類に向う。
内容を大体理解するとサインをしていく。
そうして何枚かこなしていくと不意に手が止まりルチアーナの表情が強張る。

「また…処刑か……」

そこにはそのスピリットのプロフィールと処刑という結論に至った次第が書かれていた。
部屋全体に暗いオーラがかかる。

「陛下…私は陛下がこの国を変えていける方だと信じております」
「ああ…」
「しかしながら陛下にはまだ敵が多ございます。ここで目立つ行動はお控えください」
「わかっておる…」
「……陛下はまだ彼女のこと「言うな!!」――はっ…申し訳ありません」

セバスの言葉に声を荒げるルチアーナ。
リバティとサニーも渋い顔でそれを見守る。
意を決したルチアーナはスラスラとサインをする。
しかしその表情は悔しさに歪んでいるようだった。

「すまない…しばらく一人にしてくれ」
「はっ…」「はい…」「わかりました…」

ルチアーナの力ない言葉に三者三様にかえし部屋を出てゆく。
――パタン…
静かに扉が閉まると椅子を軋ませ背を持たれかける。

「私も同罪…だな…リバティ…」

自虐するように呟くと再び処刑許可証を見る。
その書類の名前のところにはこう書いてあった。
『ルシア・ブルースピリット』





聖ヨト暦329年チーニの月赤いつつの日 夕方
帝都サーギオス郊外 帝都への街道



注目を浴びている、とジープの後部で揺られているシュネアは思った。
帝都に来る前も様々な町を通ったがこの世界ではオーパーツである自動車は注目の的であった。
まだ郊外でそれほど人の影も少ないがそれでもまばらに行き交う人々の視線をびんびんと感じていた。
今は伝令に来た兵士を乗せて市街地にある軍の詰め所へと向っている最中である。

「すごい!すごい!エクゥなんかより断然早い!!」

子供のようなはしゃぎ声。
だれかといえば伝令の兵士である。
運転席のフロイド、助手席のルージュ、そして伝令の兵士とともに後部の銃架に掴まる状態でシュネアが乗っている。
三人とも迷彩服であるがヘルメットはかぶらず同じく迷彩のキャップをかぶっている。
装備の方もベルトにマガジンポーチはなくM92拳銃だけであった。

「軍曹ぉ、あいつなんて言ってるんです?」

運転しているフロイドが尋ねた。
先ほどから意味不明の言葉でわめき散らしているこの外国人が気になっていたようだ。

「あー…エクゥより早くてすごいってさ…」
「エクゥ?」

今度は助手席のルージュが尋ね返してくる。
しかし当のシュネアも物がわからないらしく答えられない。

「ねぇ…ねぇ…ねぇってば!!
「……っ!なんだ?

夢中になっていたらしく声をかけただけでは気が付かなかった兵士に肩をたたき尋ねる。
兵士は驚きながらも興奮冷めやらぬといった表情でシュネアのほうを向いた。

「エクゥって何のことなの!?」
「ああ、あれがエクゥだよ!」

と道沿いを走っている荷馬車を指して言う。
余談であるが、幌をつけていないオープンタイプのジープなので風のおかげで聞こえにくく大声で話している。

「ああ〜馬のことか」
「おうよ!エクゥで駆け回るのもなかなか良いんだがこの自動車ってやつのほうがずっと早い。気に入ったよ!」

しかしよくしゃべる奴だなとシュネアは思った。
これまでに来た帝国からの伝令はだれもが気だるそうに、なぜか蔑む視線で、挙句の果てに舌打ちしたりしたものだった。
中には「エトランジェ風情が…」と聞こえるくらいの愚痴をもらした者までいた。
しかし目の前にいる彼はそんなそぶりは微塵もなくむしろ行き過ぎるほど友好的であった。

「ハイペリアってすごいんだな!改めて見直したよ!」
「そりゃありがとぅ!」

実際何のお礼か自分も理解してない。
だいたい不思議なことだ、在るかもはっきりしない異世界のことをなぜ知っているのか。
カタリナ側の人間は誰一人として異世界の存在など微塵も知りはしなかったのだ。
「俺は異世界から来た!」などとカタリナで言おうものなら頭のお医者さんに連れて行かれるのが関の山である。
しかしここではそういったことはなかった。もとより然も当然なことといった運びだ。
もしかして異世界からの来訪者はよくあることなのだろうかと彼女は思った。



…………

……





帝都は予想以上の賑わいだった。
道は人で溢れ、商店からは店主の威勢のよい声が上がっている。
夕方なので夕食時なのだろう籠を下げた女性が目立つ。
そしてさっきまで快調な走りを見せていたジープは……一転して徐行運転となっていた。
原因は道を行ったりきたりしている馬車(エクゥ車)であった。
さすが一国の首都だけありかなりの数の馬車が往来している。
そのため自然と徐行となりシュネアたちのジープも同じスピードになっているのだ。
目的の場所まであと2ブロックほどなのだが、時速5kmほどしか出てないのでまだまだかかりそうだった。

結局帝都に入ってから30分以上もかかってようやく軍詰め所にたどり着いた。
フロイドに車で待機するよう伝え、伝令の兵士とともに建物に入る。
二階に上がるとなにやら騒がしい声が聞こえてきた。

「どうか…どうか今一度ご再考を!」
(あれ?あの声は確か…)

たしかウルカの声だ。
まだ会って数日だけれどやけに声を荒げている。
声のする部屋を覗くと、案の定ウルカがいた。
部屋の奥にはソーマ、そしてもう一人

(ルシア…?)

自分が助けた少女がいた。
何をしているんだろうと考えているとソーマがため息交じりに口を開いた。

「しつこいですねぇ、これは既に決定事項なのですよ」
「しかし!ルシアのバニッシュ能力は強力です。そのおかげで手前達の隊は困難な任務をこなせたのです」
「ですが今回のことも彼女が原因ではなかったのですか?そのせいで貴方の部下も一人死んだではありませんか?」
「それは――」
「それにこれは上層部からの指示でしてねぇ、私にもどうしようもないのですよ。ルシア・ブルースピリットは処分されるのです」

処分って、つまり営倉行きとかそういうことだろうか。
しかしそれくらいであのウルカが声を荒げないだろう。
なんとなくいやな予感がする。

「やれやれまたか…」

そんなことを考えてたシュネアの横にいた兵士がぼそりと呟く。

「いったいなんのこと?」
「処刑だよ。この国に限らず戦えなかったりへまをやったスピリットは処刑や研究所の実験に使われるのさ」
「なっ…!そんな…」
「おたくらのところがどうかは知らないけどそれがこの世界の決まりさ…気持ちのいいものではないがな」
「それじゃ…あの子も……」
「そういうことだ」
「狂ってる…」

あんな小さな子まで処刑する。
まるっきり奴隷よりひどい。
戦えなくても後方任務などで適材適所に配置するということすらしない。
ただひたすらに戦わせる、それがスピリットの存在理由だと聞いてはいたが…
使えなければ棄てる、まるで物かなにかのようだ。

「シュネ、さっきから何を話しているの?」

これまで蚊帳の外にいたルージュが疑問を口にする。
アタシが事を話すと、ルージュも絶句した。
当たり前だ、元の世界では考えられないことなのだから。

「文明国では…考えられないことね……」

自分達の世界で言う中世あたりであろうか。
奴隷制やら些細なことで処刑が行なわれていた時代があったことを思い出す。
それから二千数百年かけて自分達は文明の光を手に入れた。
この国もいずれは手に入れるであろうが、それにはまだかなりの時間がかかる。
この世界では自分達の考えの方が異端なのかもしれないが、当然納得できるものではない。

「この話はこれで終りです。連れて行きなさい。ウルカ貴方ももう下がってよろしいですよ」

ソーマが命じるとその後ろに控えていたスピリットがルシアを拘束する。
ウルカもソーマに目礼すると踵を返して出口へと歩く。
そこで初めてアタシ達がいるのに気が付いたらしく驚いた顔をした。

「シュネア殿…ルージュ殿…」

そうして目礼したウルカにアタシ達も会釈する。
いつもは凛としている彼女も今はその面影がない。
そして遅れてて出てくる拘束されたルシア。
ウルカと同じく驚いた顔をした後、必死に作り笑いをしてくれる。
だがその瞳に映る絶望の色までは隠せていない。
拘束している二人のスピリットに急かされるも、立ち止まり何かを言おうとしている。

「あの…あの時は…ありがとうございました……」

泣きそうな声で紡がれる言葉。
それを伝えると歩き出し最後に一言紡ぐ。

「さよなら」

その瞬間アタシはどうしようもない憤りを覚えた。
なぜ、どうしてこんな理不尽がまかり通るのかと。
誰にだって生きる権利はあるというのは常識では有る。
そして自分達はそれを守るため戦いに身を投じた。
だからこそどうしようもない気持ちが湧き上がってくる。
例えそれがこの世界では通じないとしても。

「ストップ!」

ガシっと肩をつかまれルージュが小声で囁く。
そこで我に返る。
そうだ、仕事をこなしに来たのだ。
自分の悪い癖、一つのことに集中せずいろいろ考えて結局中途半端になってしまう。
今は集中しなければならない。
そう考えているとルージュは笑顔を作りウィンクしてくる。
「まかせて」と言っているようだけど何か名案でも出たのだろうか?
そうして兵士の案内で部屋へと入っていく。



…………

……





(この先は同時通訳となっており、訳するシュネアを省いてお送りしています)

「…というわけでして、公式発表前に陛下があなた方にお会いしたいそうで」
「それはもちろん構いませんが…なぜです」
「ふむ、陛下を含めまだ多くのお偉方々はあなた方に疑問を持っています。神剣をもたない来訪者に価値があるのか…つまり戦えるのかとねぇ」
「なるほど…ごもっともですね」
「しかし陛下はあなた方に高い関心をお持ちです。何が何でもあなた方の協力をとりつけたいのでしょうねぇ」

そういってニタリと笑うソーマ。

「それで、いかがです?」
「出頭しろというのならいつでもかまいません。常に準備を整えています」
「結構…では決定次第伝令を送ります。以上です」
「わかりました」

と、下がろうとしたアタシの腕をルージュが掴んでとめる。
何事かと見つめるアタシにもう一つと付け加える。

「もう一つご質問が……」
「なんです…?」
「スピリットは国の所有物だと聞いています。このスピリットたちに対する最終的な決定権は誰にあるのですか?」
「……?国の所有物に関する全権は皇帝陛下がお持ちですが…なぜです?」

笑った…それは本当に些細な表情の変化。
付き合いの長いアタシでも微妙にしかわからないくらい。
でも確かにルージュは笑っていた。

「いえ…ただ知りたかっただけです……それでは失礼します」

そう言って敬礼し怪訝な顔をするソーマに背を向け出口へと歩き出す。
アタシもそれに続くがいまいち理解できない。
たしかにスピリットに対する仕打ちは理解しがたいものだけどだからと言って国のトップでも同じ考えだったら意味が無い。

「ねえ…ねえ!どういうことさ?」

階段を下りながら先へと進むルージュをとめる。

「いい?この国は私たちを確保しておきたい。そのために衣食住は保障してくれるでしょう。
          でも、いざというときには私たちの力を使って戦わせようとする。その時のための保険ってところかしらね」
「それとこれとどういう関係が…?」
「後で話すわ」

そう言うとジープへと歩いていく。
アタシもそれに続きジープへと向っていった。



…………

……





「ということで皇帝との直接対話の場を設けることになった」

中隊本部テントに集められた面々。
各小隊長と各小隊先任下士官の面々、部隊の中核を担う隊員たちだ。
指揮官の顔をしたルージュが隊員達

「そこで、我々の立場を確保するため以下の要求をすることにする」
「まず食住の確保、これは当然だなテントでは限界がある。食料は原材料を、調理はこちらでやる。それと兵舎建築のための要員と資材の提供」
「夏場のテントは蒸しますからね、大事なところまで汗疹になっちまいます」
「そうなったら貴方の場合"処理"もままならないからでしょう?」

笑いがもれる。

「まぁそれは置いとくとして、あとは我々自身ある程度行動の自由など」
「そうですねこの駐屯地に押し込められてしまったら脳みそまで溶けてしまいます」
「ふふっ、そうねその辺も陛下に頼むわ…明日また会議を開く各部隊でも隊員達と相談してほしい」

全員が頷いたりゼスチャーしながらそれに答える。

「さて次にこちら側から供与できるもの…カルロン軍曹、お願い」
「はい、まずは軍施設の資料で調べました結果をご報告します」

ここ数日かけて翻訳しまとめた資料を広げ読み始める。

「現在このサーギオス帝国を含めこの大陸の国々は現在緊張状態にあり、
              特に隣接するマロリガン共和国とは小規模な戦闘が絶えないそうです」
「それは同盟国も同様のようで、先日のバーンライト王国はラキオス王国と、
              そして我々が通過したダーツィ大公国も隣国であるイースペリア王国と緊張が高まっています」

さっきまでの柔らかな雰囲気は一変、皆の表情が強張る。
国同士の緊張、それが戦争につながることを身にしみて知っている自分達にとって決して他人事ではない。

「過去の帝国史を見ますと、ほとんどが侵略戦争でありダーツィ大公国以南にあった小国をすべて併合し現在の国土となっています」

ざわざわと俄かに騒がしくなる室内。
当然だ、侵略者と戦ってきた自分達が侵略を繰り返してきた国家にいるのだから心中穏やかではないだろう。
しかしカタリナも大昔のこととはいえ勢力を伸ばすとき同じことをしてきたということは忘れてはいない。
それを併合と言うか侵略と言うかはのちの歴史次第なのである。

「この世界ではエトランジェ…来訪者と呼ばれる我々ですが、前回現れたのはえー…75年前ですね。
              彼らは『求め』『誓い』『空虚』『因果』という永遠神剣を用いて戦ったとありました」
「そして戦いの後当時の王族たちが王位継承を巡り対立、大陸全土に散り今に近い形で国を築いたようですね」

アタシの話が終わるとルージュが立ち上がり話をつなぐ。

「この緊張状態、そして過去の歴史が物語るようにこの世界が我々に求めるものは戦うことだと推測できる」
「我々はこの国にとどまり元の世界に帰る方法を探しつつ、我々の武器、戦術などを軍事顧問として教授しようと思う」
「ちょちょちょっとまってくれ」

話の最中に腰を折る声。
全員の視線がそちらに向く。
人差し指を立て待ってくれのサインを出している人物。
ヘリ部隊隊長であるジャック・オニール空軍大尉だった。

「君の話はわかった…だが武器や技術を提供すると言うのには私は賛成しかねる」
「はい大尉…仰りたい事はよくわかります…」
「ではなぜだ?このことがさらに軍事的緊張を高め争いを誘発するかもしれないんだぞ?」
「さらに軍規違反ということも承知しています」
「じゃあどうして?この世界の連中には剣と槍でつつましく戦ってもらえばいいだろう…?」
「我々が訓練することで救える命があるかもしれないからです…」

ジェスチャーを加えて話していた大尉の動きが止まる。

「この世界にはスピリットという種族がいるのはもうご存知だと思います」
「あぁ、あの美女ぞろいの女の子達だな、一緒に写真でもと言ったら断られて…」
「「「………」」」

一瞬にして回りの視線が痛さを増す。
オニール大尉は視線を泳がせた後「…続けてくれ」と力なく促した。

「彼女たちは兵士でありまた兵器であります。その力は強大であり、スピリット一人で人間の守備する要塞を攻略できるほどだとか…」
「しかし彼女達は戦争奴隷として各国に従事し人権はおろか生存権さえない状態なのです。
               戦えないスピリットに価値は無い。だから処刑されると言うことがまかり通っています」
「では戦えれば…そうすれば今処刑されようとしているスピリットたちの命を存えさせることができるのではないでしょうか?」

ルージュが訴えかけるように話しかける。
オニール大尉をはじめその場にいるすべての者がその話に聞き入る。

「我々が兵士として戦う理由の根底は"理不尽な暴力からの解放"では無いでしょうか?ならば彼女達に生きる道を示しても良いと思うんです。それがたとえ死につながる道だったとしても生きる努力をさせてあげたいのです」
「まぁ…それはなぁ……しかし軍事力を他国に供与するなど…」
「それが軍規で禁止されているのはそれによって更なる殺戮、そして自国への脅威となるからでありますが…
異世界であるここから我が国に攻め込むのは不可能です。
殺戮の方にいたってはスピリットの力を考えれば不思議なほど起こってはい無いところを見ると…断言はできませんが危険は薄いかと思います」

これがルージュの考えていたこと…
きっとあの時ソーマに尋ねたのは一瞬にしてこれを思い立ったからだろう。
長い付き合いだけど頭の回転の速さにはいつも驚かされる。

「……オーケィ!もともと私は君たちの指揮官じゃないしな…まかせるよ」
「ありがとうございます大尉」

気にするなと言うジェスチャーをし背もたれに寄りかかるオニール大尉。
ルージュはそれに頷くと話を続ける。

「それで話を戻すが、この作戦には各部隊の協力が不可欠」

一同を見回す。

「レンジャー各隊」

各小隊長、各小隊先任下士官、そしてアタシが頷く。

「機甲部隊」

久々登場戦車部隊長ファルク少尉。
机に足を掛けか〜な〜りふてぶてしく座っている。

「いつでもいけるぜ」

仏のように目を閉じてそう答える。
彼女の性格は有名なので誰も突っ込み入れず代わりにため息をつく。

「オニール大尉…」
「……大丈夫だ、そんな目で見なくても協力はする」

ルージュの顔にも笑顔が浮かぶ。

「ありがとうございます…ではミーティングはここまで、解散」

ガタガタと椅子やテーブルが動く音。

「ああーっと…一つ付け加えておきたいんだが…」

立ち上がり出口付近へ向っていたオニール大尉が思い出したように振り返る。
ふたたび全員の視線が向くが……

「元の世界に戻れてもこんな決定をしたことをお偉いさん方に告げ口は無しの方向で頼む、怒られるのが怖いからな」

どっとテント内が笑いに包まれた。





聖ヨト暦329年チーニの月緑ふたつの日 昼過ぎ
帝都サーギオス 城内廊下



――カツン…コツン…カツン
石造りの廊下を歩く複数の足音

そのうち二人分は回りのものと靴音が違う。
合成ゴム製のジャングルブーツ靴底は音を出しにくい構造をしているせいか、二人の周りを囲む衛兵の靴音とは明らかに違っている。
靴音が違うなら服装も違う。
そうカタリナ連邦軍戦闘服に身を包んだルージュ・スピアーズ中尉とシュネア・カルロン軍曹である。
迷彩戦闘服だが、その装備はピストルベルトと拳銃のみだ。

荘厳な造りの城内に圧倒されてアワアワ言ってるシュネア
はっきり言って田舎者丸出しだ…
それと対象的にルージュはいつものごとく無表情と言うか冷静である。
これが仕官と下士官の格の違いだろうか?(たぶんちがう……)
キョロキョロし続けているシュネアは放って置き、周りについている衛兵達をそれとなく見やる。
ルージュを見ていたせいか目があってしまい慌てて目をそらす衛兵。

(あまり歓迎はされていないみたいね…)

目を合わせた瞬間兵士が目に浮かべたのは"恐怖"
いくらルージュが無表情でつり目である意味怖い顔だとしてもその度を越えた反応だ。
自分の表情がどんなものか理解しているルージュもいささか傷つくだろう。
このときまだルージュ達はエトランジェの伝説のすべてを知ってはいない。

「ここで待っていろ!」

案内されたのは城の奥まった場所。
周りに部屋は無い様でまだおくに続く道があるのだがなぜか衛兵達は彼女達を残して立ち去ってしまった。
まるでこれ以上かかわりあいたくないと言うような態度でだ。

「だってさ…ほぉぇぇぇ……」

シュネアの翻訳を聞き(こんな所におかれても困るのだが)と考えながらルージュはまだアワアワしているシュネアを一発小突いた。

――ゴッ!

訂正…殴った。

いったぁ…なにするのさぁ〜」
「観光に来たわけじゃないのよ?恥ずかしいから田舎者丸出しは自重して」
「誰が田舎者なのさ!誰が!」

そう言いながらも殴られたところをさすりおとなしくなるシュネア。

「まぁそれはそうとこんなとこでどうする?」
「知らないわよ…皇帝との謁見だって言うから来たのに」
「なにか訳があるとか…?」
「訳があるにしても無用心すぎよ、ボディチェックもなし、見張りもなし、私達が暗殺者だったらどうするつもりかしらね?」
「そりゃぁたしかにね…」

見回すが辺りには誰もいない。
これはセキュリティ上絶対によろしくは無いと思われる。
二人が途方に暮れかけたそのとき。

「あっこちらにおいででしたか」

突如後ろからかかる声に振り向く二人。
そこにいたのは金属製の軽甲冑(いわゆる防御無視♪)に身を包んだ少女がいた。
下に着ているレオタードや髪の色、武器の形状が槍なこともふくめると緑スピリットであることがわかる。

「ご案内させていただく皇帝妖精騎士団第一部隊サニー・グリーンスピリットです」

快活そうな声で自己紹介をし胸に拳を当てて敬礼をする。
それに気がついた二人も自分達式の敬礼で返す。

「こちら中隊長のルージュ・スピアーズ中尉、自分はシュネア・カルロン軍曹です」

通訳がてら自分達を紹介するシュネア。

「中尉…?軍曹…?」

怪訝な表情で聞き返すサニー。
この世界には無い単語で意味を図りかねているのだ。

「ああ…軍隊内の階級のことですよ」
「なるほど、大方は伺っております。あなた方が軍属と言うことも含めて」

疑問が解けてすっきりしたのか笑顔を見せるサニー。

「ではお二人をご案内したいのですが…」

そういいながらサニーは辺りを見回す。
しかしそれが見つからないと言った表情でため息をつく。

「なにか問題でも?」
「あっ…いえ実はもう一人案内担当がいたのですが……また――」

――ドドドドドドドドドドドド!
まるで広原を疾走するバッファローの足音が近づいてくる。

「あっ来ました」

冷静にその音を分析するサニー。
そしてスッと右腕を肩の位置まで上げて伸ばす。

「遅れてごm――ぐばきゃるご!?

走ってきた本人はきれいにその腕に自らの首を絡め断末魔とともに転がってゆく

「「おー」」

その芸術的な様に息をもらすシュネア&ルージュ。
ダメージのせいで未だ痙攣を続けるスピリット(仮)に向って歩き出すサニー

「ルネッサ〜言ってたよね〜今日はちゃんと起きるって〜。な〜んで今頃来たのかなぁ〜?」

むんずとルネッサとよばれたそれを摘み上げると笑顔で話し始めた。
笑顔の目元にダークフォースを纏っているのは決して見間違いではない。

「ゲホッゲホッ…いやその起きようとしたんだよ!だけど――」
「だけど〜?」
「……なんでもありませんごめんなさい」(((;゜Д゜)))

ダークフォース全開+青筋の笑顔に命の危機を感じ次の言葉を飲み込んだルネッサ。
真っ青になったルネッサといい笑顔でダークフォースを発するサニー。

――クスクスクス

その笑い声にピタリと止まる二人。
振り向くとシュネアがカタリナ語でルージュに今の一部始終を説明しているところだった。
何を言っているか解らないサニーとルネッサだが自分たちのことで笑われていると言うことに気づき慌てて姿勢を正す。

(あなたのせいでアホだと思われちゃったじゃない)
(ひどい!そっちこそラリアットなんかしなきゃばれなかったでしょ!!)
(ああでもしなきゃ私の怒りが収まらなかったのよ)
(そんなむちゃくちゃな!?)

小声で続きをおっぱじめた二人。
しかし丸聞こえだと言うことに気がついてないあたりがアホさを露呈している。

「あの〜そろそろよろしいでしょうか?ククッ」
「「はい……」」

笑いを堪えながら二人に尋ねるシュネア。
真っ赤になって萎むサニー&ルネッサ。
だがおかげでシュネアの緊張が解けたようだ。

「申し遅れました皇帝妖精騎士団第一部隊ルネッサ・レッドスピリット…です」

自己紹介をしてお辞儀する。
若干警戒心が現われた声であったが当のシュネアはどこ吹く風である。

「えーと、こちらルージュ・スピアーズ中尉、自分はシュネア・カルロン軍曹です。ヨロシク♪」

緊張が解けたせいで言葉の硬さがなくなってきたシュネア。
そんなシュネアの裏表ない態度にルネッサは予想外だったという顔をして惚けてしまった。

「……なにか?」

ジィーっと見られていることに気が付いたシュネアが尋ねる。

「いえ、人間が…そんな普通の反応で返してきたのは初めてだったもので」
「っ――ルネッサ!!失礼よ」

サニーの叱責が飛ぶ。
それに悪びれた風も無くそっぽを向くルネッサ。
この世界の人間がスピリットに対する仕打ちを

「でも、本当のことだし……」
「もっっ申し訳ありません!」
「いっっいえっ別に気にしてませんから頭をあげて下さい」

ペコペコ頭を下げるサニーに慌てるシュネア。

(これって失礼なことになるのかなぁ?)
(言われたのは貴方でしょ?気にしてないなら構わないんじゃない?)
(うぅ〜他人事だと思って〜)
(私には言葉がわからないしわかったとしても気にしないしね)

ボソボソと相談するカタリナ人二人。
確かにカタリナにも根の深い差別は存在するがこの世界ほどのものではない。
ましてや現在において命にかかわるほどのものは皆無だ。
だから二人にはこの世界の歪さが理解できないのだ。
サニーが必死に謝る理由もシュネアのためではなくルネッサを守るため。
エトランジェとはいえ相手は人間。
人にたて突いて彼女が罰を受けるのを避けたいためだ。

「本当に大丈夫ですから!それより陛下との時間が……」
「「あっ」」

本来の目的から大きく逸れ先ほどまでのホンワカ感はどこかへと吹っ飛んで気まずい空気となりそして再びアホな空気に戻ったのだった。



…………

……





同時刻
サーギオス城 皇帝の応接間



窓から外を見ていた。
天気は晴れ、テラスにでれば心地よい風と日光を楽しむことができるだろう。
だが今はそんな気分に浸れる心境ではなかった。

「陛下こちらは準備ができました」
「うむ」

執事のセバスがもてなしの準備ができたことを告げてくる。
重臣の何人からは、エトランジェをもてなすなど言語道断と言う意見が上がっていた。
でも自分はそうは思わない。
自分達の住む場所を生活を守ってくる者に対してなぜ蔑にする事ができよう。
それはスピリットに対しても同じに思う。
なぜ?いつからこうなったのか?
いくら自分が考えようと口に出すことはできなかった。
口にすれば、まだなり立て皇帝の自分に反旗を翻す口実を与えかねなかっただろう。
どうしてスピリットを軽蔑しない者が人類の裏切り者のような世の中になったのか。

「考えるだけ無駄……か…」

そう無駄だ。
過去をどう考えようと変えられることは何も無い。
これからどうするか。どう変えられるかだ。
そのために力が必要だ。
エトランジェの力が……

「陛下、お見えになりました」

メイド服をきた侍女ティーダが報告してくる。

「わかった、すぐに行こう」

私の運命の分かれ道がやってきた。



…………

……





ドアが開きまずサニーとルネッサがなぜか息を切らして入ってくる。
そして後から入ってきた二人。こちらもなぜか息を切らしている。
しかし話には聞いていたが本当に奇妙な服を着ている。
様々な濃さの緑をランダムに配色したような服。

「噂どおり奇妙な服装だな」
「陛下…!」
「う…うむ」

セバスの叱責が飛ぶ。
ついつい口が滑ってしまった。

一人目が顔を上げる。
銀髪でこげ茶の釣り目。
きつい顔だが意志の強そうな女性だ。
報告にあった部隊長のルージュ・スピアーズだろう。

二人目が顔を上げる。
帽子の周りから青髪が見える。
そしてこっちが補佐のシュネア・カルロンか…
そしてその顔が見えた瞬間――思考が停止した。

「リバ…ティ…?」
「そんな…なぜ彼女が!?」

この中で自分以外に唯一彼女を知るセバ爺も言葉を失う
それほど彼女に似ている。

……か…へい…陛下!
「っ――あ?ああ」

ティーダの言葉に我に返る。
前を見ると敬礼らしいポーズをとったエトランジェの二人が顔を見合わせているところだった。
自己紹介をしていたらしいが聞き逃してしまった。
まぁ二人の名は報告にあったので問題は無いが。

「コホン…余がサーギオス帝国皇帝ルチアーナ・セヅナス・サーギオスである。登城ご苦労であった」
「皇帝陛下との会見、光栄の極みであります」

まさか顔だけではなく声までそっくりとは因果な話だと思う。
しかしその声には若干の硬さがあった。恐らく場慣れしていないせいだろう。
ボソボソとルージュがシュネアに耳打ちしている。
恐らく言葉を選んで言わせているのであろう。

「立ち話もなんだ、掛けたまえ」

そう言いエトランジェ二人の後ろに控えているサニーとルネッサに目配せする。
二人は部屋中央のテーブルにエトランジェ二人を導くと椅子を勧める。
それに軽く会釈して座る二人。
サニーは笑顔を返したがルネッサはそれにはにかみ顔を赤めてそっぽを向く。
そういえばあやつは人間が苦手だったことを思い出した。

「まずはそなた達の立場について説明しよう」



…………

……





(なるほど…だから歓迎されてなかったわけね)

この世界でスピリットとエトランジェがどういうものか。
またその扱いが早い話ゴミ以下だと言うことも。
となるとこちらの要求が通らない可能性も出てくる。
それくらい自分達の立場は弱いものなのだ。
そして絶望した部分もある。
誰もがスピリット、エトランジェを差別する明確な理由が無いことだ。
たしかに人種差別はそのようなものだろう。
自分達の元の世界に無かったとはいえない。
実際軍に入って、髪の色や目の色が顕著な人種は蔑みの目で見られることもあった。
だがそういう人間は少数派であり、法だけではなく沢山の人たちが差別は好ましくないと思っている。
しかしこの世界ではレイシズムが公的にまかり通っている。
こういったことは経験が無い、細心の注意を払う必要がある。

「実はこの会見にもかなりの反対があった」

当然だ。

「お話はよくわかりました。具体的に我々にどうしろとおっしゃるので?」
「まずそなたらには我が帝国のために働いてもらう」
「それは……戦争になるということですか?」
「うむ、知っての通りこの世界はいま微妙な情勢の上になりたっておる」
「ラキオス王国…ですか?」
「そうだ、我が同盟国であるバーンライトはラキオスと、ダーツィはイースペリアと、そして我がサーギオスはマロリガンという感じにな」
「そしてその侵略に手を貸せと言うのですね」
「……国民がそう望むのならばな」

一瞬だけ皇帝の顔が歪む。
どうやらそれが本意ではなさそうだ。
しかし独裁国家の癖に弱腰な態度である。
資料では軍事においてはこの世界最強のはずだ。
なぜ既存の軍で攻め落とさないのか。
いやそれとも落としたくないのか…

「残念ながらその要請は受けかねます」
「ほぅ……」

声のトーンを落とし眉をひそめる皇帝。

「我がカタリナ連邦国は隣国からの脅威にさらされ目下戦争状態です。そんな状態でその行為に手を貸せと言うのが無理な相談です」
「拒否権は無いぞ」
「ではこの話はここまでですね」

ガタリと椅子を鳴らして立ち上がる。
戸惑いながらもそれに続くシュネア。
だがそれを許さないものが一人。

「残念ながらそうはいかん」

続くように立ち上がる皇帝。
それを訝しげに思うエトランジェ二人。
そしてルージュはあることに気が付く。

(メイド……メイドはどこ!?)

皇帝の後ろに控えていたはずのメイドのティーダ。
その姿が無いことに気が付いたルージュは咄嗟にホルスターへと手を伸ばす。
その動作に同じく危険を悟ったシュネアもホルスターから拳銃を抜く。
その刹那

――シャァン!

流れるような音が頭上より響く。
ルージュは死角で見えなかったがシュネアからははっきりと美しく飛翔するメイドの姿、そしてその手には短刀。
ルージュは皇帝に向けて、そしてシュネアはルージュの後ろに降り立つティーダに向けてそれぞれ照準をつける。
しかしティーダの動きは早かった。
シュネアが引き金に指を掛ける前にその短刀をルージュの首元に突きつける。
結果シュネアは発砲する機会を逸し銃を突きつけるだけとなる。
そして彼女の首もとにもサニーとルネッサの神剣が突きつけられる。

「従えないと言うのならば仕方が無い。そなた達を消し残った者を従わせるとしよう」

これで話は終りとばかりに立ち上がる皇帝。
それと同時にエトランジェ二人に突きつけられている神剣にも力が込められる。
ティーダに短刀型神剣を突きつけられているルージュの首からは刃に触れた皮膚から血がにじんでいた。
しかし彼女は動じない。確固たる決意を宿した瞳で皇帝を見据えている。
皇帝自身もルージュの瞳から目を離さず無言のにらみ合いが続く。
やがてルージュが話し始める。そしてそれをシュネアが聖ヨト語へと変換する。

「それは無駄です。ここで私達を殺そうと、次のものが指揮を執り部隊を運用します。それに我々は圧力には屈しない」
「気のせいか脅しに聞こえるが?」
「警告です」
「武力には武力で対抗します。たとえ敵わずとも最後の一人まで戦い抜くでしょう」

話がヒートアップしてくる。

(ちょっと…カンベンしてよ……)

一番冷や汗をかいてるのはシュネアだ。
むしろ既に大粒のものが何度も頬を伝って落ちる。
何しろ話の板ばさみにあっている上、刃物を二人分突きつけられているのだから。

「ですが私達は良好な関係を築きたくここにきました」

硬い表情をすこしだけ柔らかくし語り掛けるように話しかける。

「どうかご再考を、皇帝陛下!

既に首からは血が滴り襟を汚し始めている。
それでもルージュは皇帝から目を離さない。

(これだけの覚悟がある者達ならあるいは…)

皇帝は思案をめぐらせる。
自分の考える帝国像、その実現のための力に彼女達はなってくれるかもしれない。
これは賭けだ。勝てば理想を、負ければすべてを失う。

「良かろう…話を聞こう」

目を伏せ再び椅子に着く皇帝。
エトランジェ二人は安堵のため息を漏らし銃を戻す。
それと同時に二人に突き付けられていた神剣も下げられた。
銃をホルスターにしまい、シュネアは急いでルージュの元に駆け寄る。

「大丈夫!?っ血出てるよ!」
「大丈夫よ、そんなに大げさにならなくていいわ」

シュネアは懐からバンダナを取り出すと首を滴っていた血を拭き取る。
すでにふさがり始めたのか傷口は血がにじむ程度で滴るほどはもう出なかった。

「シュネ、話の続きを」
「わかった」

一応の進展にホッと胸をなでおろすルージュ&シュネア。
一方神剣を納め皇帝の下へと戻ろうとしたティーダ。
彼女にとって軽傷ながらも傷を負わせたというのは予定外であり自身の主人からも禁じられていたことだった。
自らの神剣を突きつけそれに屈服するか否かを見極めるだけの作業のはずであったのだが、
予定外だったのはこの来訪者二人が武器を携帯していたということ。
自身の主人に武器が向けられ慌てた彼女は危うくルージュの首をとばすところであった。
そんなティーダの内心を知ってか少しにらみつける程度で済ます皇帝。
ため息一つし気持ちを入れ替えると来訪者二人の話に耳を傾けるのだった。



…………

……





「兵舎に食堂、浴場建築に食料供与、我国の法の範囲内での自由行動を認めろか……また御偉連中が騒ぎ立てそうだな」

またあの自分達の保身のことしか頭に無い連中の騒ぎ立てる会議室を想像してウンザリするルチアーナ。
なぜかすこし最初のころよりは地が出始めているような気がする。

「まぁそれらは認められんことも無い。そなた達は今までの来訪者とは違うようだしな」

先ほどルージュが流した血。
もし普通のエトランジェならばすぐにマナへと帰しただろう。
しかし実際彼女の血はマナに還らず今も彼女の服を紅く汚している。
それをネタに重臣達を納得させられるかもしれないとルチアーナは思っていた。

「しかしこれは難しいぞ……処刑対象スピリットたちの供与」

渋い顔をしてエトランジェ二人の顔を見る。

「……と、申しますと?」

ルージュには渋っている理由がよくわからない。
戦力外だったものが戦力となるのに何の抵抗があるのかと。

「まぁ…スピリットは道具、人の好きにしていいもの、あまつさえその処刑を楽しむ輩までおる」

諦め半分といった感じで呟く。
その表情は影となって伺うことは難しい。

「まぁ、難しいが会議で諮ることにしよう。善処はするが約束はできんぞ?」
「ありがとうございます、陛下」
「その代償にお主たちが提供するのは外国勢力からの我が国及び同盟国の防衛支援、武器及び戦術の供与及び訓練といったところか」

やや防衛と言うところを強調するルチアーナ。

「そなたたちの力は先日のラキオスとの交戦で証明された。いまさら反対するものはいないだろう」
「たったあれだけの戦闘でですか?」
「うむ、知っての通りスピリット達の戦闘能力は人間のそれをはるかに上回る。それは彼女達の持つ永遠神剣の与えるものなのだ。逆に神剣を持っていないこれは携帯していないという意味だがスピリットは人より多少強い程度なのだがな」

周りにいる皇帝妖精騎士団の面々を見ながら語るルチアーナ。
それにつられルージュとシュネアも見るが彼女達にはとてもそんな風には見えなかった。
皆15〜18と言った年齢の少女たちでその持っている無骨な武器を除けば自分達と何が違うのかわからないだろう。

「早い話が人間が戦っても勝てないということだ。その人間でもエトランジェという存在はそのスピリットを凌駕すると言われている。もちろんエトランジェ自身も永遠神剣の加護によって力を得るわけで神剣を持たないものは力を発揮できん…つまり人間と変わらない訳だな」
「つまり我々がその永遠神剣も無しにスピリットを倒した点が異常なわけですね?」
「そうだ、武器もそうだがいったいそなた達の軍隊はどのような戦術のもと戦っているのだ?」
「簡単に言ってしまえば一身同体です。歩兵隊、機甲部隊、砲兵隊、航空部隊などと密接に連携し合って敵を粉砕します」
「……歩兵はわかるのだがそのほかのは一体何なのだ?」
「あー…そうですね解りませんよね?えーまず航空部隊というのは――…」



…………

……





「すごいな!そんなに自在に空を飛べる機械があるのか」
「ええ、その戦闘機には及ばないもののヒューイヘリでも自在に飛べますよ」
「すばらしい…これが技術の差と言うものか」
「それも…戦争があって発展したものですよ」
「この銃も……戦争の耐えない人類の武器の完成した形ですよ」
「歴史の積み重ねが永遠真剣の力も凌駕するとは……末恐ろしいことだな」
「ええ……」

あの後、話は兵科から兵器まで多岐に及んだ。
サーギオス皇帝が特に興味を示したのは飛行機械だった。
空を自由に飛ぶと言うのはどこの人間でも夢に持っているんだろう。

「陛下…そろそろ……」
「ん?おお…もうそんな時間か」

執事の人が小声でささやくとサーギオス皇帝は思い出したように相槌を打つ。

「すまない、次の予定があってな。だが実に有意義な時間であった」
「こちらこそ陛下、一瞬肝を冷やしましたが実に有意義な話し合いでした」

ルージュとサーギオス皇帝はお互いに苦笑いしあう。
そしてルージュは握手をするため右手を差し出す。
一瞬戸惑うルチアーナ、だがすぐ微笑んでそれを握り返す。
その微笑が顔立ちにともなってすごく女性的に見えるのは気のせいかな?
ルージュと握手したサーギオス皇帝は今度はアタシにも握手を求めてきた。
アタシごときが他国のトップの人と握手なんて考えても見なかった。
アタシはルージュを見る。
戸惑っているのがバレバレなんだろう、微笑むと小さく頷いて促してくれた。
アタシはそれを見ると決意し差し出された手を握り返した。
その瞬間サーギオス皇帝はうれしいような、悲しいような表情を一瞬見せる。
それを疑問に思ったが、促されるまま退室するしかなかった。

「ヒヤッとしたわね」

そのルージュの言葉に我に返ったアタシはさっきの緊張を思い出し抗議する。

「ヒヤッと所じゃ無いよ!もう少しでアタシぶっ放すところだったんだから!!」
「でも結果的にうまくいったじゃない?結果オーライよ」

ふふんと言った感じで勝ち誇るルージュにさっきまでの抗議の意思が一気に冷めていく。

「もう何度目に言うか覚えてないけどさ…アンタって見かけによらず神経図太いよね」
「お褒めに預かり光栄です」

「いくわよ」とアゴでしゃくりを入れたルージュにアタシは笑いながらついて行った。

「次からはアタシ抜きでやってくださいね中尉殿」
「ああ、それも重要ね。こっちの世界の言葉を覚えないと、長い滞在になりそうだし」
「それをやってくれないとアタシが過労死します」



…………

……





「ふぅ…」

二人が退室したあと背もたれに寄りかかりルチアーナは一息つく。
その表情からは懐かしさと悲しさが感じられる。

「まさか声までそっくりとはな……」
「陛下、リバティのことはあなたの責任ではございません」
「爺…アレは誰のせいでもない私のせいだよ。私が少し考えれば防げたことだ」

自虐的に呟くルチアーナ。
幼いころ自分の護衛であり世話役であり友達であったスピリット。
母親を早くになくした彼にとって母親みたいな存在であった。
だからなのだろう、彼がこの世界において数少ないスピリットを差別しない人間なのは。
だが今では彼女を知るものはルチアーナのほかにセバスだけ。
彼女が行なったのはルチアーナの望みをかなえるための行為。
だが彼女は死んだ、彼女がもし人間なら赦されただろう行為。
しかし彼女は赦されなかった…理由は簡単"スピリット"だからだ。

「無くせるだろうか」

そう呟き立ち上がる。
そして窓のほうへ行く、丁度下は城門へとつながる中庭の一本道。
そこをエトランジェ二人が歩いてゆく。
声は聞こえないが楽しそうに談笑しているのが伺える。
武器を向けられた時に見たスピアーズ中尉の目。
意思が強そうに見えて、けれど一点その意思にある曇、迷いとも言うだろうか。
横でも同じく武器を突きつけられている部下、カルロン軍曹に気をとられていた。

「部下想い…素晴しい事だがそれが足枷となることもある」

だが、とも思える。
自分の目的には必要な精神だ。
人間とスピリットを区別しない彼女達。
これは改革への道か、破滅の罠か。

「賭けようじゃないか私のすべてを……」

二度とこないだろうこのチャンスに。





この日の会議でエトランジェたちの要求はすべて受諾された。
しかし全会一致などではない、エトランジェなどが要求などという意見が大多数を占めていたからだ。
故に皇帝自身による強攻決定であった。
次の日、その結果を伝える伝令とスピリット委譲の命令書が駐屯地へ届けられるのだった。





あとがき
4ヶ月ぶりに失礼しますスミキルです。
一作2週間を目標にしてきましたが……
なにこの間。゚(゚´Д`゚)゜。
まぁラグナロクオンライン復帰や就職活動などあったので仕方ないッちゃ仕方が無いけど…
さてさて今回の話、作る間がありすぎたせいかかなりダラダラとなってしまいました。
読んでくれる方々には状況だけわかっていただけたらいいかなぁと思います。
伏線引きまくり、同時通訳で主人公空気だったりと文章力ないなぁ、ああ…もっと言葉を知りたい(´・ω・`)
でもアレですね、時間たちすぎたせいで初心を忘れていましたよ。
いままでの話見てみたら今よりわかり易く書けてるなぁっと(汗)
次回からは初心を取り戻した文章を書きたいです。
新章突入を機に設定も書き直したんですが、楽しいですねw
それに時間かけすぎたって言うのもあるかもしれませんね…
かなりまにあ〜っくな用語とか書いてありますが引かないで下さいw
書いたことに突っ込んでいただけると作者は喜ぶかもしれませんw
実際調べてて自分でも初めて知ったと言うのもあるのでw
次回は早く書けるように務めます。

作者のページに戻る