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永遠のアセリア
Meaning of War -Little Soldiers Company-
序章第4話[終りそして始まり−Opening−]






AM10:25 ラキオス国境付近

国境は修羅場であった。
あちらこちらで草が燃えた跡があり、木は折れ、地面はまるで砲弾が炸裂したようにえぐれている。
しかしこれは砲や戦車などでできたのではなく、すべてあの一見すると普通の少女達によってなされたことだ。
停止した車両から次々と躍り出る隊員達。

「拠点確保!周辺警戒!!」
「伍長!!機関銃を配置だ、両翼に添えろ」
「了解!」

機関銃を手ごろな位置に添える。
この惨状を見たせいで隊員達もかなり緊張していることだろう。
そして重症なものがいる彼女達に衛生兵を向わせた。
回復魔法とやらで直っているものもいたがいかんせん無事なものがほぼいない、とても追いついていない。

「中隊長、医薬品が足りないので予備の使用許可をいただきたいのですが…?」
「許可します。怪我の具合も見て皆にも手伝わせるように」
「はい」

ミリエスが状態を見、ほかの隊員達に応急手当を指示している。

「シュネ!状況を聞ける子に今の状態を確かめて」
「了解」

比較的無事そうな子を探す。
見回すと、仲間のそばで怪我の治療に当たっているポニーテールの緑スピリットがいた。
近づいてくるアタシ達に気が付いたのか治療を中断し直立不動の体勢をとる。
続けるよう促し状況を聞く。

「五名が死亡、隊長が撤退を命令したので国境へと引き返しましたが敵の追撃のため、殿に三名残しここまでたどり着けました」

落胆も、強弱もなにもない機械みたいに紡がれる言葉。
まるで心をどこかに置き忘れたようだ。
しかし今の問題は現在の状況である
昨日見たときは15人ほど見たが、今は七人しかいない。
ということは殿の三人も未帰還ということなのだろう。

「その三人の安否は?」

ルージュが聞いたのをそのまま訳して彼女に伝える。

「不明です」

変わらない声色。
仲間だろうに…
少しは心配にならないのだろうか。

「どうする?」

我々の言葉でルージュに問う。
顎に手を当てて考え込むルージュ。

「どうしました?」

そこへやってきたのは言わずともソーマ・ル・ソーマ、彼はそういうと緑スピリットの子をにらみつける。
するとその子は数歩下がり俯いてしまった。
上官…いやちがうやはり奴隷だからか。
しかしいまさらだがこういう奴は部下に慕われることは無いだろうと思う。
こういう力で押さえつけるタイプはどうしようもない。
気持ちを切り替え、ソーマにかいつまんだ説明をしたが次の言葉に耳を疑った。

「では戻るとしましょうか」
「は!?」
「ですから戻るのですよ。大部分が生きているのですから問題ありません」
「のこりの三人はどうするんですか!生きているかもしれないのに!!」
「残念ですが自力で戻ってこられないスピリットなど必要ありません。迎えに行く価値など無いのですよ」

ギリッ
その言葉を聴いた瞬間怒りが湧き上がってきた。
どうしてここまで物扱いできるのか。
自分達と同じ形してるだろうに…
「Goddamn…」(ちくしょうめ…)と、聞こえないくらい小さな声で呟く。





「生きていると思う?」

唐突に言われたのはそんな言葉。
最初は自分自身に言われているとは解らなかった。
人間はスピリットに質問はしない。
決めることは勝手に決めて私達に命令する。そして私達はそれを実行する。それだけ。
意見はできない。する権利も無い。
仲間を見捨てることをあの帝国の隊長が言ったのを、私はいつものことと聞き流していた。
だからあの人が言ったことも聞き流しかけていた。





何て言った?





生きていると思う?





だれが?





あの三人が?





誰に聞いている?





私に…?





人間がスピリットに意見を求めた?





「おーい…」

気がつけば目の前で手を振られていた。
どうやら予想外のことに放心してしまっていたようだ。

「は、はいマナの乱れは感じられなかったので生存している可能性は高い…です」
「うん、ということはまだ交戦中か、逃げているか」

おそらく後者だろう…と思う。
彼女達はバーンライトではそれなりに腕の立つスピリットだ。
それが戻ってこられないのだからおそらく…
考え込んでいる私をよそにあの人間達は意味の解らない言葉で話し合い始めた。
そして一通り話し終えた後ただ一言、私のわかる言葉でこう言った。

「救助に行く」

耳を疑った。
助ける?
何を?
スピリットを?
人間が?
今度は地図を広げまたわからない言葉で話し合い始めた。
私は時々来る質問に答えながら、それを見つめ続けた。
なぜこの人間は他の人間と違うのか考えながら。





「ぞろぞろ行くより少数のが良いと思うんだよね」
「そうね、もしものときは迫撃砲で砲撃して…何門あったっけ?」
「そのもしものとき車載機銃だけではきついしね、たしか107mmが5門」
「ヘリの援護も考えたほうが…」
「でも逃げている場合他の地域の哨戒で発見できる可能性も…」

と、作戦を立ててゆく。
ソーマは渋っていたが、最後にはうんと言わせた。

「で、問題はあの二人ね…」

あの二人というのはラキオスのスピリットたちのことである。
じつは国境付近ということでこれ以上連れまわすこともできないと踏んだシュネア達は開放しようと考えていたのだ。
もちろん帝国の許可は取っていない。
もめごとも覚悟していたが、二人を連れてきたのは正解だったと思う。
いざって時は捕虜交換ができるからだ。

「考えてても仕方が無い。アタシ達でこの先に乗り込んでみつけるしかないでしょ」
「あたしのこと馬鹿にしたくせに、あんたもポジティブ突っ込み思考よね」
「いや〜それほどで――」
「ほめてないから」
「でも一理あるわ。このままここで議論しててもその3人の生存率が落ちていくだけ」

ルージュの言葉にコクリとアタシとクリルは頷き。





カチャカチャ
ジープのボンネットで装備を整える。
弾帯にライフルのマガジンをいれ、手榴弾、拳銃の弾を確認する。
水筒に水を満たして終了。
フル装備では邪魔なだけなので必要最小限にとどめる。

――ヴォォォォォォォォン!
カイユースが飛び立っていく、街道以外で退路にするであろう地域を捜索するためにだ。
スピリット同士は互いに感知できるということなのでバーンライトでまだ動ける者を同乗させた。
もちろん言葉がわからないので簡単な意思疎通の手順を決め出発させた。
アタシ達はジープで街道沿いを捜索する。
たぶん戦闘中なら、こっちもラキオスと交戦することになる。
まぁあちらが物分りのいい連中なら苦労はしないのだけど。

「軍曹、連れてきました」
「あいよ!そのへんに置いといて」

部下の一人がラキオススピリットの二人を連れてきた。
二人は依然として武器だけ取り上げられている状態で拘束らしい拘束はされていない。むしろフリーハンドだ。
スピリットという種族は武器と一身同体らしいのであとあとそれも積み込むことになるだろう。
自分の準備を進めながらアタシは釈放のことも話さなければならないと考えていた。
途中で暴れられると厄介だし、開放されると知っていれば無理なリスクを犯す必要も無くなる…と思うけど。
一瞬大丈夫だよねと不安に陥る。

(暴れられたら人間の力じゃ抑えられないらしいからなぁ…って段々不安になってきた)

と、いろいろ考えつつ空弾倉に手際よくライフル弾を込める。
左手に弾倉、右手に弾。掌の中にある5.56mm弾を指で誘導し弾倉のなかに互い違いに入れていく。
最初のころは小さい弾で四苦八苦していたこの作業も今となっては朝飯前だ。
三十発入れると次の弾倉に移る。入れるのは初戦で空けた三個。そして今は二個目。

「あなたたちは……何者なんですか?」

静かに、でも力強く堂々と聞いてきたのは緑スピリットの少女。
少女といってもシュネア自身とあまり変わらない背格好だ。
当然の疑問だろう
この世界ではありえない武器を使い、永遠神剣も持たないのに自分達を圧倒したこの人間達。
生き残ったのは自分ともう一人だけ。
最初はなぶり殺すために生かしておいたのかと彼女は思っていた。
しかし違っていた。
自分で動く荷車に乗せられ、あろうことか食事まで出されたのだ。(しかも意外とおいしかった)
見ると見張っている人間も同じものを食べている。
スピリットは人間から差別され、蔑まれる存在である。だから同じものを食べることさえ
その人間がスピリットと同じものを食べているのだから彼女達にとっては目を疑う光景だったろう。
他にも3人、人間の男がいたが特に問題は無かった(一人を除いてあの後目を合わせるたび睨まれたが)
そしてそこで抱いた疑問をシュネアに向ってぶつけたのだ。

「カタリナ連邦陸軍兵…なんだけどこっちに着てからはエトランジェって呼ばれているね」

緑スピリットの少女も「ああやっぱり」と納得した。
そしておもむろに一歩、二歩とシュネアに近づいていく。
赤スピリットはそれに困惑した表情を浮かべるが止めるタイミングを逸してしまっていた。
しかし近づく前に先ほどのバーンライト緑スピリットが立ちはだかる。
シュネアはそれを手で制して止める。
緑スピリットも神剣がなければ何もできないと考え直し指示に従った。
それを横目で見ながらもシュネアの前に立った彼女はその自身の属性の示すエメラルドの瞳でシュネアのアクアマリンの瞳を見つめる。
それに少し緊張しながらもシュネアは瞬きせずに見つめ返す。

ジ―――
じー(汗)
ジジー―――
じぃ…?(激汗)


「助けてもらった……とでも言うのでしょうか?」
「まぁ…そうなるのかな」
「まだエトランジェ様はこちらの世界に疎いようですね…では助けてもらったお礼に一つだけ忠告します――」
「次からは敵に情けをかけないことをお勧めします――いくらエトランジェでも剣も持たない方達に勝ち目はありません」
「……ご忠告ありがとう。だけどアタシ達のスタイルを変える気は無いよ」
「――!?なぜですか?」
「それはアタシ達が兵士だからさ、民間人、戦闘能力を失った者とにかく敵対しないものは殺さない、でも――」

言葉を区切り真面目な顔になるシュネア。

「敵対するなら…容赦できないけど……ね。こっちも必死だから…」

そう言うとヘルメットをかぶり込め終わった弾倉をポーチに入れた。

「シュネーー!!」

呼ばれたシュネアはラキオスの緑スピリットと赤スピリットを見回しそして自身の上官の元に歩いていった。
残されたのはバーンライトの緑スピリットとラキオスの緑スピリットは互いに顔を見合わせたのだった。





ルージュのもとに着くとそこににはもう一人、ソーマがいた。

「ああ、やっと来ましたか、いやはや貴方がいないと会話ができないというのも不便なものですねぇ」
「すみません、話せる者がもう何人か居ればいいのですけど」

でもなぜ自分は話せるのだろう。
こんな言葉は聞いたことも習ったことも無いのに。

「おっと、本題からそれましたね。私が言いたかったのは神剣を持たないあなた方だけでは心もとないのでこのウルカの部隊から何人かお

貸しするということなのですよ」

と、アタシの死角にいたのかソーマの後ろから前に少し出て目礼するウルカ。

「はぁ…?」

少し間抜けな返しになってしまった。
しかしその意図を理解できた。
いわゆるお目付け役だ。
まだ完全に信用されるのは無理な話だってことはわかっているが。

「同行する者の選定はウルカ、あなたに任せますよ」
「承知しました」
「では、私はやることがありますので」

と踵を返してどこかへいくソーマ。

「やれやれ…お目付け役立ってさ」

その場に居るだれもが自分と同じくやれやれといった表情をする。
言葉がわからないウルカだけがその場の空気に困惑している。

「で、ウルカ?誰をつけてくれるの?」
「それですが…実はもう志願した者がおりまして」

そう言ってウルカに促されて出てきたのは…

「……ルシア!?」
「は、はい!フツツカモノですがよろしくお願いします!!」

使い方間違ってるよ…





AM10:48 ラキオス領内

バーンライトから続く一本道を二台のジープが疾走している。
一台は上部にM240機関銃がついており、もう一台は長く伸びた筒状の物体、無反動砲が装備されていた。
乗っているのはルージュを始めシュネアの第04分隊、そしてルシア、ラキオスの二人のスピリットそしてもう一人。

毎度おなじみこの"自走する車"にあたふたしている緑スピリットだ。
他のスピリットはもう何度目かなので落ち着いている。
大型のジープなのでこれだけ乗っても優々している。

発見は突然だった。
最初に探知したのはスピリットであるルシアたち。
そして銃座に着いていたクリルがそれを視認した。

「11時の方向!!」

それは数人の人影だった。
双眼鏡で確認するとラキオススピリット隊であることがわかる。

「"2号車、その場で待機し援護しろ"」
「"こちら二号車フロイド、了解。グットラック"」

無線を終えると前進する1号車。
恐怖はない。
ただ自分達の決めた仕事をこなすだけだからだ。





ラキオスのスピリット隊。
それに混ざって異質とも取れる男が一人、気持ち悪くニヤニヤしている。
彼はラキオススピリット隊隊長であり今回のバーンライトとの戦の指揮を執っていた。
しかしこの世界の例にならい戦闘中は後方に下がっており、ここに居るのもバーンライトが撤退したために他ならない。
そしてこの男、傲慢で出世欲が強く今回の勝利によってさらなる自身の昇進を確信していた。
忌み嫌われるスピリット隊長としておさまっているのも彼にとって昇進の為のステップであるだけなのだ。

(くっくっくっ、これでまた昇進だ、いつまでもこんなスピリット共の所にに居る俺じゃないからな、くくく)

自然と笑みがこぼれるのを止められないらしい。
そんな男がにやけながら見回していると目に入ったのは三人のスピリット。
青、緑、赤、セオリーを踏んだ編成。
しかしラキオスのではないことは服装を見れば解る。
ただ三人とも満身創痍で内二人は体の一部を欠損しそこから血を噴出していた。
治療はされず、ただ放置されているだけなのだが…

「何をしている、さっさとそいつらを処分しろ!!」

一瞬で男の上機嫌な顔は消え怒声が飛ぶ。

「は、はい!」

あわてて返事をするのは副隊長である緑スピリット、メイド服姿が特徴のエスペリアであった。
そしてその指示に従おうと思いながらも、悲しみの表情をぬぐえなかった。

「ねぇねぇ、エスペリアお姉ちゃん。あの3人殺しちゃってもいいの〜?」

明るいがその内容は物騒なことを言うのはまだ幼さが目立つオルファリル・レッドスピリット。
エスペリアはそんなオルファに悲しみの表情をしながらもコクリと一度頷く。
それを見たオルファリルは、まるでおもちゃを買ってもらった子供のようにはしゃぎながら敵スピリットが倒れている場所にかけてゆく。

既に起き上がることもできない二人のそばに比較的傷が軽い一人がつきそってる。
軽いといってももはや立ち上がる元気も無く、体中の傷からはマナの霧が立ち上ってる。
早く治療しなければ、人間で言うところの出血多量で死に至るだろう。
その表情も、力なくただ死を待つ病人のように生気が無い。諦めているのだ。
彼女よりも傷の重い他の二人も再生の剣に還るのももはや時間の問題であった。
そんな彼女たちに近づいてくる一人の少女。
はしゃいでいて一見すれば歳相応の愛くるしさをかもし出している。
しかし持っているのはその体に似合わない巨大な双剣。
切ることに向いていなさそうな無骨なものだ。

「だ・れ・にしようかなぁ〜♪…きーめた!」

まるでお菓子を選ぶように、そして一人に狙いを定め自身の剣をふりあげ…

――ドス!!
「げは!?が……あぐぁぁぁ!」

一番重症だった緑の少女につきたてられる剣。
ぐったりしていたが、目を見開き苦しみの声を漏らす。

「あはっ♪おもしろ〜い、もっとひねるとどうなるかなぁ?」

ミリミリミリ…
剣が横にひねられ骨が軋みへし折れる音が聞こえる。

「ぎゃ、あ…あ…あぁぁぁぁぁ……ぁ…………ぁ…

悲鳴を上げながら肘の上から無くなった腕と千切れてしまった足をあばれさせる。
そのうちゴポリと大きな血の塊を吐き出しだんだんと動かなくなっていった。
そして完全に生を停止させた少女はその体をマナの霧へと変える。
その光景をまるで他人事のように見続ける一番傷の軽い青の少女。
軽いといってももう動けるような状態ではない。

彼女はこの一見無慈悲な"処分"を救いのように感じていた。
どっちにしろ生きては戻れない。
瀕死の重症で苦しみ続けるよりはましだなぁと考えていた。

この三人は親友同士だった。
つらいときは励ましあい、楽しいときは喜びあい、スピリットとして忌み嫌われ差別されるそんな中、友情というささやかな幸せと暖かさ

を享受していた。
今殺された緑の少女、いつも他人のことばかり気にして自身を省みなかった彼女。
緑スピリットだからといって皆を守ってくれた。
一番の重傷を負ったのもこの多勢に無勢のなかで一番敵をひきつけたせいだ。

(マナの導きが…あらんことを……)

そう、たった今再生の剣へと還っていった親友に祈りをささげる。
そして自分達もすぐ後を追うことになることを思い出し、苦笑いを浮かばせた。
そういえばと思い出したのはもう一人の"親友"。
感情を表に出すのが苦手だった子。
だけど人一倍不器用でいつも訓練も私生活も四苦八苦してた。
緑スピリットなのに障壁を張るのが下手でいつも自分達でカバーしてたっけ。
だけど回復魔法は強力でいつも助けられてた自分達。

(あの子だけでも生き延びられて良かった…)

そう考えながら青の少女は目を閉じた。
自らが先か、傍らの友が先か…もうどちらでもよかった。

「き〜めた♪」

幼い少女の無垢な死の宣告が聞こえた気がした。





――ブロォォォォン…
突然聞こえ始めたその耳慣れない音に全員が振り向く。
見るとバーンライト方向から来る何か、それもかなりの速度だ。

「なに…あれ…」

部隊でもベテランの部類に入るスピリット、その青スピリット特有の青髪をポニーテールにしたセリアは呟いた。
その見慣れぬ物体に警戒し剣を構える。

「ヒミカ!!ハリオン!!」

同僚の二人を呼び警戒を促す。
ヒミカはコクリと頷き、ハリオンは「あらあら〜」といつもどおり間延びした口調。
しかし二人とも瞬時に配置につく。
そしてその物体は人だかりの十メートルほど前で止まる。





「わぁお…殺気立ってるなぁ」

銃座についていたクリルが顔を引きつらせながら呟く。

「それじゃあ私が――」

といって運転席から降りていこうとしたルージュを止める。

「待って、待って、ルーじゃ言葉はなせないでしょうが?それに中隊長なんだから…ここはアタシが行く」

無表情のなかにアタシへの非難が含まれていた。
まぁこの微妙な差がわかるのもつき合いが長い証であるのだけど。
それを無視し後ろに居るルシアたちと打ち合わせをする。

「じゃあルシア、アタシが合図したらその二人と二人の武器もってきて、いい?」
「は、はい!」
「それから……えーと…あー…」

いま後部座席はルシアとバーンライト兵に挟まれる形でラキオスの二人が座っている。
そしてそのバーンライトの緑スピリットの名前を呼ぼうとしたのだが、まだ聞いてないことを思い出した。

「ミレーニア…ミレーニア・グリーンスピリット」

自分のほうを見てどもってるから察したのだろう、名乗ってくれた。

「オーケー…ミレーニア、アタシと一緒に来てもらうよ」
「おーけー…?」

思わず混ぜたこっちの言葉に意味が解らず訝しげな表情をする。

「あー…それはいいんだけどとにかく一緒に来てほしい」
「…わかりました」
「…よし、クリル!しっかり援護してよね」

バシッと銃座についていて足しか見えないクリルのそれを叩く。
バンバンと天井を叩く音が聞こえ肯定と受け取り、そして車を降りるためドアを開けた。





謎の物体の側面がひらき中から一人の"人"が出てきた。
ラキオススピリット達はその物体からは明らかに神剣反応が出ていたのでバーンライトかと思い警戒していたのだ。
出てきたのは確かに人間なのだが、いかんせんその格好が謎なのだ。
緑や茶色をまぜこぜにしたような服、兜でさえも同じ模様だ。
そして武器と思しき黒い棒状の何か。一瞬永遠神剣かと思われたが、神剣反応がないのでそれを否定する。

「いったいなんなの……?」

セリアは呟くが答えるものは居ない。
出てきた人間はそれほどまでに怪しげであった。
そして出てきた反対側も開き出てきたのは今度はスピリット。
それもバーンライトのである。ラキオス側に緊張が走った。
そのままその二人はこちらに歩いてくる。
油断を誘っているのか…それとも交渉なのかまもなく明らかになるのだろうと誰もが感じていた。



ザ……ザ……ザ……

一歩づつゆっくりと"敵"へと近づいていく。
正直たった二人で向っていくのはドキドキだ。
隣にいるミレーニアもやはり緊張しているようだ。

「だいじょぶ、だいじょぶ、こういうのはビビッたら負けなんだよ。だから堂々とね」
「はぁ……そういうものなんですか…?」
「そういうものなんです!」
「……堂々と…堂々と…」

アタシの言葉を反芻する彼女

「ところで、三人はここに居るの?」
「いえ…さきほどマナの乱れとともに一人が消えた感じがしました…おそらくもう」

無感情だと思っていた彼女にはじめて感情の断片が見えた気がした。
悔しそうに…悲しそうに俯いてしまっている。
そんな彼女の肩をポンポンとたたく。
下手な慰めは帰って逆効果なのを知っていたからだ。
そんなアタシを驚きの目で見てきた彼女、たぶんそんなことをされたのは初めてのことだったのだろう。

「助けよう…生きている子たちだけでも」

アタシの言葉に、「はい!」とさっきまでとはまるで違う元気な返事を返してきた。

「よし」っとあたしも呟くが、すでに敵のレンジ内に入っており。アタシ達を囲むようにラキオススピリットがいた。
それに警戒しながらも前方に見える、人だかりの方向へと歩く。
あちらもこっちに気付いているらしく他のスピリットとは格好の違う何人かがこちらに歩いてくるのが見えた。
アタシは自身のライフルのセレクターをフルオートに変えいつでも撃てる状態にする。

「こんちわ」

とアタシは緊張感のない声で挨拶する。
怯えを見せればつけこまれる。
しかし…相手側もまた気が抜ける格好をしてらっしゃる。

(メイド服…?)

目の前に緑色のメイド服を着たスピリット。
たぶん武器の形状から緑スピリットだろう。
でも戦うメイドさんなんて狙っているとしか思えない。(何をだ…)

そして片やちっちゃい赤いゴスロリ風の服装をしたちびっ子。
いや…これはやりすg…
そういうニーズもあるということなのだろうか?

「失礼ですが、あなたは?」

聞いてきたのはメイドさんだ。

「カタリナ連邦陸軍歩兵師団第4レンジャー大隊F中隊……」

そこまで名乗ってやめた…
目の前のメイドさんはキョトンとして理解してない。

「あー…つまりはカタリナって言う国の兵隊です。自分はシュネア・カルロン、そちらの指揮官と話がしたいのですが?」

と丁寧に答え自分の目的を話す。

「俺が、指揮官だ!!」

目の前のメイドさんが答える前にその後ろからずずいと出てきた男。
てっきりメイドさんが指揮してるのかと思ったが後ろにいらっしゃったとは。
やれやれと思いながらも、ヘルメットを取り挨拶しようとしたら

「スピリットごときが人間の俺と話とは自分の立場を知れ!!」

怒られた。
多分この髪の色のせいだ。
出発前のソーマの教授で簡単なスピリットの見分け方などを教えてもらっていた。
スピリットは自身のカラーを瞳や髪などに顕著に表す。
つまりアタシは一見すれば青スピリットということだ。
まぁスピリットのような剣は持ってないし、人間離れした能力も無いけどね。

「自分はスピリットではありません…まぁエトランジェとは呼ばれていますが」
「エトランジェ……」

その単語にピクリと目の前の隊長と名乗る男は反応した。
ほかのラキオススピリット達もボソボソと耳打ちしたりさらに空気は重くなった。

「それで…エトランジェ殿は何用でここまでいらっしゃったのかな?」
「それは…そこで死に掛けている二人を返していただこうと思いまして」
「それで、お前達だけなのかね?」
「ええ…ここに来たのは我々だけですが…?」

ほぅと目の前の男はアタシと倒れている二人を交互に見やる。
さらに嘲笑うかのような表情で…あきらかにこちらを見下している。

「しかしこっちに返して得がない。おまけにわが国に攻め込んできたのはバーンライトではないか!今お前達を国境審判で消すことだって

できるのだぞ」

急に強気になった。
こちらが少数と聞いたとたん。
解りやすくて逆に笑えてくる。

(器ちっちゃいなぁ…)

などと失礼なことを考えたが口が裂けても言わない。

「もちろん、ただとは言いませんそれなりの対価を用意してますよ」

と言ってアタシはジープに合図を送る。

――ビターン!!
慌ててジープから出たため派手に顔面を地面にぶつけた。
それでも懸命にラキオスの二人を下ろしこちらにつれてくる。
まだ会って数日だが、なかなかの努力家だと伺えた。(ちょっとドジだけど)

「あの二人と交換…というのはどうでしょうか?」
「カムリ!ノア!!」

青いポニーテールにしたラキオススピリットが叫ぶ。
思ったとおり、仲間意識は高そうだ。このまま交換に持ち込めばいい。
だけど時間がない。
二人はかなりの重症のようだからいそがなきゃ。

「そういうことか…リュケイレムの森で警備のスピリット度もが消えたという報告があったがお前達だったのか」
「そちらが先に襲ってきたんですよ。我が軍の交戦規定でも正当防衛として認められていることです」

まぁ原因を作ったのはこちらだけどね。
しかも領土審判というおまけつき♪

「それで?どうしますか?」

男は考え込む。
この男の欠点、それは己の利益になるか否かでしか物事を判別できないことだ。
今回も例外なくその基準で思考をめぐらせていた。
今までにあの二人に費やしたエーテル量と敵を処刑したときに得られるであろうエーテルを比べる。
明らかに前者のほうがかかっている。
しかし止せばいいのにこの男はさらに自分が得をする方法を考え出していた。

「いいだろう、その交換許可しようじゃないか」

見下したような言い方は変わらない。
それにシュネアは「どうも」と一言いい。
ルシアに合図を送る。
するとルシアは二人にそれぞれの神剣を返す。
それと同時にシュネアとミレーニアは倒れている二人を回収する。
予想以上に重症でもう助からないとシュネアは思ったが、回復魔法があるのでなんとかなりそうというミレーニアに安堵した。
ミレーニアは赤スピリットの子を、シュネアは青スピリットをそれぞれ抱え連れ出す。
シュネアはルシアに自身が抱えた子をバトンタッチし「先にもどれ」と伝えたあとラキオスの指揮官に向き直る。

「では、これでお互い幸せになれたということでこれで失礼しますね」

正直シュネアはこのまま済むはずがないと感じていた。
なぜならここは敵国領内でありこっちは圧倒的不利。
そして自分たちエトランジェといわれるものは各国がほしがる貴重な戦力とのことだ。(ソーマ先生の熱い御教授より)
だからシュネアは男の次の言葉にも驚かなかった。

「残念ながらそうはいかないな…」

ピタリとジープへと向っていた二人が止まる。それと同時に男も手で合図をする。
ミレーニア自身の槍に手をかけようとしたものの、周りに居るラキオススピリットが先に剣を構えた。

(やっぱり…)

鴨が葱背負って現れたのに逃がす人は居ない。
そりゃそーだろうなぁと考えながらシュネアは思案をめぐらせた。
どう切り抜けるかと周りを見渡す。
するとどうやらラキオスはシュネアのことばかりを気にしているようでルシアたちやジープの方向は手薄になっている。
少し考えた後彼女はルシアたちに「そのまま行け」と手で合図を送る。
ルシアとミレーニアはお互い顔を見合わせながらもジープへと走っていった。
「よし」と小さく呟いてシュネアは男の方へと向き直る。

「お互い、ハッピーに終われたんですよ?どうしてわざわざこんな…」

そういいながらシュネアは自分を囲んでいるスピリットたちを見回す。

「たしかにバーンライトのスピリット共は返してもいいと言ったが、だが貴様のことは言ってはいない」

そうニタリと笑いながら男が答えた。

「くくく、いくらエトランジェといえどこの数は抜けられまい!おとなしく我らに下るのだな、さもなければ…」

男がそういうとスピリットたちは剣を向ける。

「さもなければ…何です?殺すとでも?」

少しの怯みも無くシュネアは尋ね返す。

「その通りだ、我々とくるか、それとも死ぬかだ」
(エトランジェを持ち帰れば俺は英雄になれる、くくく)

ふぅっとため息をつくシュネア。
大方、自分を連れ帰れば褒美でももらえるのだろう。
やれやれと思っていると、声を上げる者がいた。

「隊長!危険です、その人たちは…」
「だまれ!スピリットごときが勝手に口を開くな!!」
(たしかカムリだったかノアだったかせっかくの部下の助言聞かないなんて駄目指揮官だなぁ)

そう考えながらシュネアは次の手を模索していた。





AM11:03 シュネアの居る地点より約50m後方1号ジープ

ジープにつくルシアとミレーニア。
けが人の二人を荷台の広いところに乗せるとミレーニアはそのまま治療を始めた。
その顔はかなり慌てているようで額には汗がにじんでいた。
それをほっぽりだしてルシアは車に乗っている二人にシュネアの危機を知らせようとしたが如何せん言葉が通じない。
しかし当のその同僚二人は双眼鏡をのぞきその様子を伺っていた。
シュネアが腰から何かを取り出すのが見えたとたんルージュは無線をとる。

「チェックメイトキング、チェックメイトキング、こちらブラックロック、どうぞ」
「"こちらチェックメイトキング、どうぞ"」
「砲撃支援要請、5、6、0、合図したら全力攻撃」
「"チェックメイトキング了解、オーバー"」
「2号車!そろそろやるわよ!105mm用意しておいて」
「"こちらフロイド了解、蹴散らしてやります!"」

無線を置いたルージュはルシアにニコリと微笑み、再び双眼鏡を覗きだした。

――ジャキン!
クリルが機関銃のコッキングレバーを引く。
言葉がわからないルシアは困惑しながら再びシュネアが居る方に向き直った。





同時刻 ラキオス軍の真っ只中

「むむむ…」

八方塞、ここまで囲まれるとさすがに一人じゃきつい…

(しかし女の子に囲まれるのも悪い気がしないなぁ、フロイドだったらもっと喜びそうだけど♪)

「ん…動いたら殺す……」

右に居る甲冑をつけた長髪の青スピリットが言う。
そして左に居る小さな赤スピリットの女の子。笑顔がかわいいが手に持った大きな双剣がそれを台無しにしている。
そして正面メイド服姿のスピリットが神妙な面持ちで槍を突きつけている。
どうやら殺すというのは本気のようだ。

どう切り抜けるか、手榴弾じゃだめだ…囲まれてるから一方排除してももう一方からやられる。
それにアタシも破片とかでやばい。
これだけ囲まれていても全員に効果があり、かつアタシに被害がない武器……

――あった

アタシは左手で腰のマウントを探る、弾帯の後ろスモークグレネードの隣にそれはあった。
手榴弾とは違い円筒形、スモークとは違い黄色いラインが入れて区別してあるスタングレネード。
ゆっくりとそれを手に取る。

「動かないで下さい!」

エスペリアはこのとき漠然としたいやな予感にとらわれていた。

(この人は兵士だといっていた…ではあれは武器…?)

この人間、確かに神剣を持っていないが手に持ったあの筒状の物体が只物ではないと感じていたのだ。
他のスピリットたちも同様らしく、ただの人間相手に緊張しすぎていた。

そんな敵となった周りの少女達を横目にシュネアは

スタングレネードの安全ピンを抜いた。

「さぁ…答えを聞こうかエトランジェ!」

男の言葉にため息一つし

「いやだ!」

空に放り投げたのだ。

アタシはすぐさま耳をふさぎ目を閉じて伏せた。
スタングレネードの信管ヒューズは3秒。

ひとつ…

放り投げられた"物"を目で追いかけるスピリットたち。

ふたつ…

しかし伏せたシュネアに疑問を持ちそちらを見る一部のスピリットもいた。そして…

みっつ…
――ド!!!!!!

太陽のような閃光と雷を超える轟音が辺りを覆った

それは一瞬でおさまりあたりは静寂で包まれる。

「め…目が…ああぁぁぁ」

スタングレネードを見ていたスピリットや男はム○カ様のように目を覆い悶えている。
多分耳もイカレていることだろう。
シュネアはすばやく立ち上がり自分の味方が居る方へと全力疾走。

――ゾク…
「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

背筋の悪寒と後ろからの叫び声にすばやく伏せる。
次の瞬間、胴のあった場所を大剣が薙いでいく。

「あっ……あぶな!?」

ほとんど直感の行動だった。

「ん……逃げるなら…殺す」

甲冑をつけた青スピリット。
アタシを見ていたおかげで直接閃光は見なかったのかだから追跡ができたのだろう。
しかし轟音で三半規管をやられたのかふらふらしていた。
その表情も辛そうである。
たぶんそれが無ければたとえ伏せたとしてもアタシは真っ二つにされていた。

好機と感じアタシはすばやく立ち上がり目の前の青スピリットに突進する。
予想外の動きだったのか青スピリットの顔は一瞬で驚きに染まる。
その一瞬がアタシの待っていたもの。
ライフルを槍のように構えそのストック(銃床)で青スピリットの甲冑のない腹部を思い切り殴りつけた。

「!!――ゲフゥ!?」

腹部のダメージに自然と前かがみになる青スピリット。
アタシはストックを引き、止めをさすためちょうどいい位置まで来た頭部に狙いを定める。
「ごめん」と心の中で呟くとストックを下から撥ね上げる。

「アグゥ!!!」

そのまま青スピリットの顎の部分を捉え殴り上げた。
形としてはアッパーカットを食らわせたことになるが、ストックは強化プラスチック製であり相当硬い。
剣を放しそのまま仰向けに倒れる青スピリット
いくらスピリットといえど、対人戦の訓練をされた兵士の攻撃は効いたようだ。
アタシは生死を見届けずに走り出す。というかそんな余裕はない。
たとえ死んでいなくても今のはかなり効いたはずだ。

「アセリア!!」

後方からする叫び声、おそらくアタシが殴り倒した奴の名前だろうと思う。
後ろをチラリと見てアタシは驚愕する。
さっきのメイドさんがオリンピック選手顔負けの速さであたしに迫っていたからだ。

「マジっすか!?」

とても人間業じゃない。
逃げ切れないと踏み、銃を構えながら振り向く。
振り返ったときすでにメイドのスピリットは10mを切った位置に来ていた。
遠心力でゆられた水筒がチャポンと音を立てる。





振り返るシュネア。
その手に持つ武器、銃口がエスペリアを捉える。

――ゾクリ!
向けられたとたんエスペリアの背中を悪寒が走る。
あれは危険だと直感で悟る。

「くっ!!」

自身のシールドハイロゥを一瞬のうちにその武器と自分の間に張る。

――タタタタタタタタタタン!!

構えられた武器の先端が光り、同時にシールドハイロゥに予想以上の衝撃が起こる。

――カンカンカンカンカンカンカンカンカン!!
「くぅぅっ!?」

弾は正確にエスペリアを捉えていた。
シールドハイロゥで弾くも、予想以上の衝撃に彼女はよろめく。

「ちぃ!!シールドなんて反則でしょうがぁ〜」

シールド上で散った火花を見て、相手に当たってないとわかったシュネアはぼやく。
5.56mmじゃあのシールドは貫けない。

「仕方ないか!」

左手で手榴弾を取る。
口で安全ピンを抜き、エスペリアへと投げつける。

よろけながらもなんとか体勢を立て直すエスペリア。
しかしその時点で既にシュネアは手榴弾を投げ終えていた。

「か、風よ!守りの力となれ!ウィンドウィスパー!!」

投げつけられた物を見てエスペリアは詠唱する。
彼女の周りで守るように風が渦を巻く。
手榴弾はエスペリアの数メートル離れて落下しそこで爆発した。

――ドゴォン!!!
「きゃぁぁぁ!!」

殺傷力のある破片は防げても爆風のエネルギーまでは防げず飛ばされるエスペリア。
シールドを広げていたせいで余計に圧力を受ける始末となった。
ドオッっと地面を転がるエスペリア。

「たぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

突如右側から飛び出す青スピリット

「くっ!」

――タタタン!
エスペリアとの戦いに弾を使いすぎたシュネアは3点バーストに切り替え節約を図る。

「がっ!?」

腹部に当たり倒れこむ敵青スピリット。

――ゴォ!!
「!やばっ!!」

迫る火球。
とっさに路肩に飛び込む。

――ドゴォン!!!
着弾し街道の路面を吹き飛ばす。

「Jesus Christ!!ま、魔法って半端ない……!!!」

到底女の子が使う言葉ではないが、まるで隕石でも降ってきたかのように吹き飛んだ路面を見て冷や汗を流す。
しかしそれに惚けている暇もなく迫る別のラキオススピリット。
地面に伏せていたためライフルを向けるのが間に合わない。

――ドガガガガガガガ!!
乾いた連続音とともに土柱が路面から上がる。
クリル達の援護射撃だ。

「ぐぁぅ!?」

体から首。頭まで穴をあけられ血を噴出す。

ドチャ
湿った音を立てて倒れこむスピリット。
斬りかかろうとしていたシュネアと目が合う。

ハァハァハァ……
その青スピリットは既に事切れていた。
まだその顔は幼く、シュネアは自身の妹に重なって見えた。
目の前に広がる光景にフェイロス人特有のその青い瞳が歪む。

「…まだ子供じゃないか…」

目を見開き、光の無くなった瞳は、まるでシュネアを非難しているかのようだった。
しかしそれも一瞬で、命を落としたスピリットは例外なくマナの霧になる。
次の瞬間には跡形も無く消え去っていた。

「DAMN!」(くそ!)

感傷に浸る暇はない。
ここは戦場だ。
余計なことを考えれば……死ぬ。





――ドガガガガガガガ!!
車載M240機関銃が薬莢をばら撒きながら唸っている。
戦友に切りかかろうとした少女を仕留めたのはクリル・リグフィード伍長だ。

「ルー!!あの馬鹿釘付けにされてるよ!!」

――ドガガガガガガガ!!
一言しゃべり再び射撃を開始する。
五発に一発発射される照準補正のための曳航弾が一直線に伸びて美しい。

「フロイド!!援護だ、敵を蹴散らして退路を確保!!」
「"了解!!"」

無線に吼えるルージュ。
無反動砲で敵を攪乱しシュネアの援護をするのだ。
迫撃砲隊も準備はできているが、狙いが正確ではないためシュネア自身を巻き込む可能性もある。
ジープで突進しようにもさっきの魔法の威力を見れば危険を冒すことはできない。

「だけど…」

これでは見捨てることになってしまう。
いくらここから援護射撃できてもすべてを防ぎきれない。

(どうする…)

そのときシュネアの後方で魔方陣が起こり、禍々しいオーラが立ち上った。

「ねぇ!ちょっとあれやばくないの!!?」

その禍々しさにクリルも気が付いた。

「くっ!」

珍しく悔しさに表情を歪ませるルージュ。

――ガシャ!ガシャ!
車のギアを一速にいれ発進体制をとる。
もう彼女の我慢も限界だったのだ。
このまま突っ込みだめもとでシュネアを回収し引き上げる。
もうそれしかないとルージュがアクセルを踏もうとしたとき




















目の前を…




















純白が覆った…




















「天……使……?」




















ルージュもクリルもその表現しかできなかった。




















「ハァ…ハァ…ハァ…」

敵の攻撃を掻い潜りながらの撤退はさすがのレンジャー隊員といえどきつい。
おまけに今までの戦いとは違い白兵戦ばかりだ。
銃撃戦とは違い体力の消耗が激しい。
そんな時後ろから感じる重圧。
禍々しさを含んだその圧力に少しだけ後ろを振り返る。

「みんなを…みんなをいじめるのは許さないんだからぁ!おまえなんか死んじゃえ!!」

――ゴォ!!

と風があのゴスロリちっくのちびっ子の周りを渦巻く。
メイドさんのときとは違いそれは守るためではなく、奪うための力。

「理念のオルファリルが命じる!その姿を業火と変え敵に降り注げ!!」
「ふれいむしゃわ〜!!」

アタシの真上で赤いオーラというかなんと言うか、が渦を巻く。

「ちょっとマジ!?」

いままで撃たれたどの魔法より凶悪そうに見える。
やがてその渦の中から無数の炎が生み出される。
逃げられない…





















「アイスバニッシャァァァァッ!!」





















突然叫び声とともに気温が一気に低下した。

「こ…今度は何!?」

凍えるような寒さ。吐息までもが白く、気のせいではないことを示している。
まるで雨のように降り注ごうとしていた炎がみるみる消えて行き、渦を巻いていたオーラも消える。

呆気にとられているアタシの前に…

純白の翼を持った天使が舞い降りた…

「だだだ…大丈夫ですか!!?」

かなり裏返っているがルシアの声。
しかし今ルシアには、天使を髣髴とさせる純白の翼が生えていた。

「あ…う、うん」

いろいろなことが一度に起こりすぎて何がなんだかわからなくなっている自分。
しかしルシアを見ると足が震えていた。
勇気をふりしぼった助けに来てくれたのだろう。
そうこうしている内に再び敵が集まってくる。
ルシアは剣を構え

「立てますか?」

そういわれて自分の腰が抜けていることに気が付いた。

「ごめん…無理っぽい…」
「では、飛びますよ、私につかまってください!」

そういうとルシアはアタシの腰に手を回し抱える体制をとる。
そしてその背の翼が輝いたかと思うとフワリと自分の体が浮くのを感じる。

「えっ?あっ?おおお――!?」

それを感じた瞬間次はものすごい加速。
重力加速度9.8m/sを生身で体験する。(意味無)

飛び去るアタシ達を追撃しようとするラキオススピリット。

――ヒュン!!!!!
――ドガン!!!!!!

走り出そうとしたとたん足元で爆発が起きた。
そのまま空に放り出されるラキオススピリット。

「何!?神剣魔法か?」

しかしそれはちがった。
口径105mmの弾が目にも留まらぬ速さで飛んできたのだ。





「次弾装填!!」

フロイドが指示するとサリアが砲の後部を開き、ジョンが砲弾を込める。

「なんで、俺がこんなこと…」
「今は非常事態だ我慢しろよ」
「照準修正20M前方!」

サリアが狙いをつける。

「撃て!」

――ドガァ!!
砲の後部から大量のガスが噴射され砲が飛んでゆく。


「な!何をしている!さっさとあのエトランジェを殺さんか!!」

感覚の麻痺から立ち直った男は、無様に命令し続ける。
もはや、頭の中はパニック状態なのだろう。

「なぜだ!なぜだ!完璧だったはずだ!!この屑スピリット共!お前達が能無しだから俺は――」

――ドガン!!!!!!

男の怒声はそこまでだった。
飛来した無反動砲弾の直撃で木っ端微塵になったからだ。

ビシャビシャ…

男だった"物"の破片が降り注ぐ。

「ひぃぃ」

男の周りにいたスピリットたちはその光景に悲鳴を上げる。
あたりは血だらけであり男の内臓や肉片が飛び散っていた。





ルシアの飛行はかなり早かった。
ほんの3、4秒でジープに着いた。

「あ…ありがとう、助かったよ」
「い、いえ。その、前に助けてもらいました…から…」

そう言ってルシアは顔を伏せてしまう。
たぶん照れてるのだろう。

「おい!おふたりさん!浸ってるところ悪いけどのんびりしてられないよ!!」

――ドガガガガガガガ!!
クリルが機関銃で射撃している。
後ろを振り返ると、ラキオススピリットが追撃してきているのが見えた。
ルシアに車に乗るよう促し、自身も助手席に乗り込んだ。

――ガチャガチャ!!
――キィィィィィィィィィィィ!!

乗った瞬間ルージュはギアをバックに入れアクセルを踏み込む。
急激な加速Gを感じながら自身に投げつけられる無線機。

「それで砲兵隊に攻撃命令を出して!」
「わかった!チェックメイトキング!チェックメイトキング!こちらブラックロック、砲撃開始!砲撃開始!」
「"了解!!発射!発射!発射!"」

無線の向こうで迫撃砲独特の発射音が何回も聞こえる。

――ヒュン、ヒュヒュン!!

空気を切り裂く音が頭上から聞こえたかと思うと今までジープがあった辺りで巨大な土柱が何本もあがる。

「こいつはすごい!!」

クリルが歓喜の声を上げる。
しかしアタシはその砲撃の間から飛び出す一つの影を捉えた。
ルシアと同じ髪をポニーテールにした青スピリット、純白の羽を広げこちらに突進してくる。
その速度は時速100kmを超えていた。

「ちぃぃ!!」

舌打ちしながらクリルは機関銃をその青スピリットへ向けようとした。
しかし相手の速度画は早すぎあっという間に追いつかれた。
ドンっとボンネットの上に着地したかと思うとその剣を横薙ぎに振るう。

「危ない!!!」

アタシは銃座に着いているクリルのベルトを掴むと力ずくで車内に引き込む

「おわっ!?」

ズルゥと勢い良く沈むクリル。

――スパァァン!

今までクリルの首があった辺りを高速で凪ぐ剣。
しかし危機一髪クリルの首が飛ぶことは無かったが、グリップを掴んだまま下に落ちたためテコの原理で上を向いた機関銃の半ばが断ち切

られた。

「ちっ!!」

しくじったとばかりに顔を歪ませた青スピリットは今度はその剣を助手席に突き立てようとする。
しかし車内からは見えないためだれも気が付かない。
そしてその剣は天井の軽装甲をやすやすと突き破りシュネアの体に……

突き刺さらなかった。

「うわっうわっうわ!?」

運が良かったか足と足の間つまり股の間にちょうど突き刺さり難を逃れた。
しかし当の本人はパニック状態。
何かを思いついたようにシュネアは腰に手をやる。
下士官から支給されるM92拳銃をホルスターから抜くと天井に向けて

――ドン!ドン!ドン!ドン!

音と同じ数の穴が天井に開く。

「キャ!?」

貫通した弾は青スピリットの足を打ち抜いた。
青いニーソックスに穴が開き赤い血が飛び出る。
バランスを崩した彼女はボンネットを転がり剣とともに地面に落ちた。
慣性で数メートル転がり止まる。


――ギィィィィン
ルージュはバックのまま車をユーターンさせ停止。

――ガチャガチャ
ギアを前進に入れそのままバーンライト方向へ走り出した。
シュネアは無線をとり砲兵隊につなぐ。

「砲撃やめ、退却完了、砲撃やめ」

無線を置き一息
まだ車内にはさっき撃った硝煙が漂っていてルシアやミレーニアは咽ていた。
窓を開け煙を出す。
涼しい風がこわばっていた体を癒してくれる。

「ふぅ…終わったね」
「いや…きっと始まったのよ、たった今」

ルージュの言葉に、アタシとクリルは顔を見合わせた。





ラキオス軍は混乱から立ち直り撤収準備を始めていた。
指揮官が戦死、そしてベテランスピリットの半分がこの戦いで死んだ。
その撤収を遠くから見つめる一人の男、ソーマ・ル・ソーマ。
望遠鏡で様子を見ながら、顔をニヤつかせ愉快そうである。

「神剣をもたずあの威力ですか…」

めくれあがった路面、迫撃砲の攻撃に巻き込まれ手足を失ったスピリットがもがいていた。
それを治療する生き残ったスピリット。
その様子に舌なめずりしながら望遠鏡から目をはなす。

「これは…面白いことになりそうですねぇ。クックックッ」

そう呟きその場を後にした。
この事件は後にエルスサーオ事件と呼ばれ。
後に主戦力の大半を失ったラキオスはバーンライトと停戦条約むすんだ。
聖ヨト暦329年チーニの月青ふたつ日のことであった。





あとがき
第四話終了。これで序章は終了です。
次回からは帝国編。いろいろと始まります。
今回書いている途中でいろいろとシチュエーションが浮かびすぎ長くなっちゃいました。
がんばって戦闘シーン書いてみたのですが、意味わかんなかったらすみません_| ̄|○ガンバッタンデスケド

さてさて、シュネアが殴り倒したスピリット、アセリアでしたー!
あっアセリアファンの人本当にすみません…よりによって顔を…
まぁ顎ぐらい砕けたかもしれませんが回復魔法があるので無問題!y=ー( ゚д゚)・∵ターン
エスペリア…正直シールドハイロゥの強度がわかりませんが、とりあえず小銃じゃ無理かなと思いこんなんにしました。
オルファ…無垢な子供ゆえに残酷、とゲームの初め思いました。あの敵の緑スピリットを刺し殺すシーンはちょっと嫌悪が…
ということで今回殺されたのも緑スピリットにしたわけなのですけど。
そしてセリア、ヒミカ、ハリオン出しました。ちょっと苦しかったかなと思いつつ、年長スピはユートが来る一年前ならもう戦線に出てると判断。ちなみに最後足を撃ち抜かれたのはセリアです。
今回名も無きスピリットの心情などを少し表現。
いかに非人間扱いでも、仲間との友情はあるはずです。
軍隊とはそういうものなんです。たとえ半分剣に飲まれてたとしても…





用語解説
◆5.56mm弾
本作ではカタリナ軍の標準的弾薬として登場。
主に小銃と軽機関銃弾です。
5.56mm NATO弾は、北大西洋条約機構(NATO)により標準化された小火器用の弾薬。NATO標準番号は STANAG 4172 で、NATO加盟国の軍隊を中心に幅広く採用されている。通常弾の他、曳光弾、空砲弾、模擬弾がある。


◆107mm重迫撃砲
M2 107mm迫撃砲は、アメリカ軍が第二次世界大戦頃より使用していた重迫撃砲です。陸上自衛隊でも、107mm迫撃砲として採用しており、普通科連隊の重迫撃砲中隊が装備している。
名称:107mmM2重迫撃砲
口径:107mm
砲身長:1,285mm
重量:161kg(砲身47.6kg。底板77kg)
最大発射速度:20発/分
持続発射速度:5発/分
射程:500m〜4,000m
射界:左右7度、高低45〜60度
弾薬重量:11.3kg
弾種:榴弾、迫燐発炎弾、照明弾、ロケットアシスト弾(射程を延伸する)
操作人員:6名
製作:豊和工業(ライセンス生産)(米軍供与分もあり)
今回ラキオス国境から2、3kmで行われたので十分射程に入ると判断。
砲弾でかいです。抱えないと持てないほど。
重砲なので範囲攻撃も十分です。たぶん巻き込まれればスピリットでも手足が飛ぶでしょう。というか飛ばします。飛んでくれなきゃ困ります。


◆M240機関銃
M240は1970年代から使用され始め、アメリカ軍で広範にわたって使われている、7.62mm NATO弾を発射する、中量級の汎用機関銃である。基本的にはNATO加盟国軍が採用しているFN MAGをアメリカ軍向けに改修設計したもので、他の機関銃と違い、まず同軸機銃として採用され、後に歩兵用に採用されたという経緯を持っている。アメリカ軍において、歩兵部隊、戦車の同軸機銃、車輌・ヘリ・舟艇への搭載用まで幅広く運用されている。中量級の機関銃としてはもっとも軽く、高い信頼性を持っている。また、結果的にNATO諸国との火器の標準化を果たしたこととなり、これらの点が高く評価されている。
種類 汎用機関銃
製造国 アメリカ合衆国
設計・製造 FN社
口径 7.62mm
銃身長 627mm
ライフリング
使用弾薬 7.62mm NATO弾
装弾数 ベルト式
作動方式 ガス直圧、オープンボルト
全長 1,245mm
重量 12.5kg
発射速度 650-950発/分
銃口初速 905m/s
有効射程 3,725m
カタリナ軍のジープに標準装備されている機関銃という設定。
クリルは重火器が大好きなので今回はM249に代わり操作してました。


◆105mm無反動砲
無反動砲は、砲の後方からガスや砲弾と同じ質量の物体を射出することで発射時の反動を相殺するこのにより、駐退復座機構や頑丈な砲架を省略することが出来た砲である。105mm無反動砲はアメリカ合衆国が開発した無反動砲。アメリカ陸軍のみならず、日本、オーストラリアなどでも採用されている。
口径:105mm
砲身長:3333mm
砲身重量:115kg
総重量:215kg
最大射程:7700m
有効射程:1100m
搭載車量:ジープ、トラックなど
正直対人としてこれを使うのはいかがなものかと思いましたが。
今回は榴弾を発射しました。
ラキオス隊長には直撃弾で逝ってもらいました。


◆スタングレネード
強力な閃光と、大音響で人間の五感を麻痺させ棒立ちにする。
いわゆる非殺傷兵器です。制圧するための兵器。
ただ耳をふさぎ光を見なければ何てこと無いものなのです。(たぶん)
今回は逃げる隙を作るために仕様。しかしなぜ一般部隊に配備されてたかは謎…♪

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