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 少しずつ崩れ行く平穏

 かつての日常は手の届かないところへ

 今はまだ取り戻せないけど

 いつかきっと再び手にする機会はあるはずだから

 

 この世界で俺は同胞と出逢った

 そいつは悩んで、苦しんで生きていた

 俺にはまだそんな苦しみは与えられていない

 俺に出来ることはただ一つ

 一緒に馬鹿をやって、笑いあうだけだ

 

 やがて戦いがはじまる

 俺にも苦しみはいつか訪れるだろう

 でも、今はまだそのときじゃないから

 ただ楽しく生きよう

 

 

 

 スピリットの館

 

 「とりあえず、自己紹介をしましょう」

 エスペリアが言う。

 謁見の間から場所は変わってスピリットの館の食堂っぽいところ。

 そこに集まっているのは5人。

 朔夜、悠人、エスペリア、名前を知らない青と赤の二人のスピリット。

 実は食事中だったりする。そう、夕食。

 時間は日本風味で午後5時半くらい。

 まあ、普通だ。

 

 「じゃあ、まずは高嶺からだな」

 「……なんでそうなる」

 念のために言っておくが、これは朔夜と他の4人が互いを知るために行おうとしていることだ。

 ぶっちゃけると、既に朔夜と知り合いである悠人は自己紹介をする必要などない。

 「ふつう、吾川が最初だろ」

 そう言うのももっともだった――が。

 「…ちっ、我侭なヤツだな」

 「なんで俺が我侭!?」

 朔夜は普通じゃなかった。

 「…ふう、いいか、先手必勝という言葉がある。つまり、先手はそれだけで有利なんだ」

 「だからなんだよ」

 「せっかくのチャンスを断るなんてヤツはだめだってことだ」

 「それはそうだけど――」

 「だから、俺に先手を譲ってもらったんだから感謝してちゃんと自己紹介をやれ」

 「結局それか!しかも感謝って!!あつかましいにも程があるぞ!!!」

 ツッコミの連続で悠人は大変そうだ。

 「おお……ツッコミ三段式、ハイレベルだな」

 「話を聞け」

 「聞いてるって、段階的に勢いをつけていく上級者むけのツッコミだったな」

 「話の『内容』を聞けよ!」

 「二人とも、喧嘩はやめてください!!」

 一喝。

 『ごめんなさい』

 「……でも、これはケンカじゃなくて一種のコミュニケーションで………ブツブツ」

 「何か言いましたか?」

 「なんでもありません」

 朔夜のささやかな反論は圧倒的なスマイル(¥0)によって消滅した。

 タララララーン

 そして、この場の最高権力者はエスペリアになりました♪

 

 

 「俺の名前は朔夜だ」

 自己紹介が始まった。

 「はい」

 「おしまい」

 なんと5秒で終わった。

 「短っ!」

 「サクヤさま、真面目におねがいします」

 「すいません」

 ニッコリ笑ったエスペリアの顔はなぜかとても怖かった。

 『スマイル¥0、お金で買えない恐怖がある、プライスレス』

 なにか『灼熱』が呟いた

 

…………………………………………………………………………

 

 「……こんなもんか?」

 朔夜の自己紹介が終わった。

 ちなみに何一つおかしなところは無かった。

 ただ、朔夜は納得してない様子だ。

 「はい、そうですね」

 「なんだか何一つ言ってない気がするんだが……」

 「気のせいですよ」

 『私も何一つ言われてない気がします……』

 呟く『灼熱』。

 『「はあ……………」』

 「………まあ、ともかくそっちの番だ……エスペリアから時計回りに」

 やはり納得がいかないような表情をしている朔夜。

 それはともかく、自己紹介が始まる。

 

 「では…私は『献身』のエスペリアといいます」

 落ち着いた物腰である。

 「こう見えてもラキオスのスピリット中では一番の古株なんです」

 「じゃあ、リーダーみたいなもんか」

 「はい、それと基本的にこの館は私が管理しています」

 「ほお、この広い館を……やるなあ、さすがメイドさんだ……戦うメイドさん(ボソッ

 「…?……あの、『めいどさん』とはなんですか?戦う、はわかるのですが……」

 エスペリアは地獄耳だった。

 「……っ、簡単に言えば、いろいろと身の回りの世話をしてくれる…給仕みたいなもの…かな」

 少し控えめに言う。

 「ああ……まあ、たしかにエスペリアを見てメイドさんっぽいと思ったけど」

 悠人も同意。昨今の秋葉ブーム(?は、一般の人間にも自然と知識を与えているようだ。健全な範囲内で。

 「…お二人の話を聞くと、私は『めいどさん』みたいですね」

 言葉の意味を知らぬからこそ続く会話もある。

 万一、エスペリアが朔夜達の世界におけるメイドさんについての定義を知れば『メイドさん』は『冥土さん』となるだろう。

 すなわち、 『メイドさん』=『秋葉系青少年の煩悩対象』

 そのことを知られたならば――妄想してみた

 

「死んでください」

 「あぁぁぁっぁぁあぁぁっぁぁあ!!」

                以下、自主規制

 

 

 続いて、青スピリット。

 「ん……アセリアだ」

 ………………………終了。

 「それだけ?」

 「ん」

 何か問題ある?ってな視線。

 さっきの朔夜の5秒自己紹介を上回る2秒自己紹介。

 朔夜はこれを認められない。なぜなら、5秒でダメだったのに2秒でオッケーなはずがないから。

 さっき、朔夜が自己紹介を詳しくする必要がなかったことになっちゃうから。

 だから朔夜は考える。

 (そんな自己紹介では、エスペリアが認めないはずだ!)

 「アセリアは、『ラキオスの蒼い牙』という二つ名があるんですよ」

 「うおおおぉぉぉぉぃぃぃ!!」

 「きゃっ!…どうしたんですか、サクヤさま?」

 「エスペリア、あの自己紹介はいいのか?…しかも補足とかしてるし!」

 「はい?……ああ、アセリアはこういう娘ですから」

 「俺もこういう子なのかもしれないじゃないか」

 「違いますよね?(ニッコリ)」

 「ぐうううぅぅうぅぅぅっっ!!」

 否定を許さない圧力が朔夜を襲う。

 「……はい」

 タラララーン

 エスペリアは、スキル『強制力(朔夜専用)』をおぼえた。

 「……まあ、アセリアみたいな吾川ってのも想像できないな」

 悠人の呟きは誰も聞いちゃいなかった。

 

 

 で、赤スピ。

 「オルファは、オルファっていうんだよっ!オルファリル・レッドスピリット!」

 元気いっぱいだ。

 「……今此処にあの破戒僧がいなくて良かったと切に思う」

 だって見るからにロリっぽいんだもん、と心の中で付け足す。

 『……………………へえ』

 『灼熱』が何か言いたげな雰囲気を出す。

 だから、朔夜も口には出さず、言う。

 (…なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ)

 『このロリコン』

 「なんだとコラァ!」

 口に出しちゃいました。

 もちろん、悠人他3名はいきなりキレた朔夜にビックリだ。

 「お、おい吾川……おまえ、どうしたんだ?」

 「サクヤさま…?」

 「……?」

 「むぅ〜?」

 カタチは違えどみんななんか腫れ物をさわるみたいに態度が微妙によそよそしくなっている。

 「…あ〜、今のは、『灼熱』にたいしてなんだ。気にするな」

 「「「…はあ………」」」

 弁明するが、それでもやっぱり視線は痛いままだった。

 

 

 ちなみに、オルファの悠人に対する呼称についてのお約束はというと……

 

 「ねえ、パパとサクヤはどういう関係なの?」

 「パパ?……パパって………高嶺のことか?」

 「タカミネ?」

 「あ〜、コレのことだ」

 悠人を指差す。

 「うん、パパはパパだよ♪」

 超笑顔です。

 「……………………なあ」

 「………なんだ」

 「お前の子供じゃないよな?」

 「あたりまえだ」

 「じゃ、アレか、パパでない者をパパと呼ぶ俺らの世界でも稀に見られるヤツ」

 「…………?……なんのことだ?」

 「たとえば、『パパぁ〜、あのバッグ買って〜♪』ってなかんじの、えんk」

 「違うッッ!!」

 

 そして、本当の理由を教える。

 「実は、オルファが佳織とあって、いろいろ話して、それで家族にあこがれて……俺のことをパパ、って呼ぶようになったんだ」

 「……説明下手すぎだ……よくわからんが、俺はお前が光陰と同じ道を歩み始めたのかと思って焦ったぞ」

 「それはないから安心してくれ」

 「うむ」

 

 ……こんなかんじでした。

 

 

………………………………………………………………

 

 そんなこんなで自己紹介兼食事は終わった。

 で、その日は朔夜が長旅で疲れているのもあって、早めに解散、お部屋で休憩となった。

 ちなみに、朔夜がリクェムをこっそり残そうとしてエスペリアに叱られたのはまた別のお話。

 

 

 その日の夜

 

 「おい、吾川……」

 部屋に悠人がやってきた。

 「俺にそっちの趣味はないぞ」

 「…何の話だよ」

 「要するに、俺は男に夜這いされても嬉しくない」

 「勝手な想像をするなっ!」

 「高嶺ってツッコむの大好きだよなぁ」

 「ああもう、このタイミングで言うと卑猥に聞こえるからやめろっ!」

 …夜遅くまでご苦労様です、悠人くん。

 

 

 「……ともかく、真面目に話がある」

 一段落して、落ち着く。

 「……なんだ?」

 朔夜も珍しく真面目だ。

 「……お前は、これでいいのか?」

 「…もっと、わかりやすく言え」

 ごまかすように、言う朔夜。

 「……だから、吾川はこのままラキオスに仕えて戦うことになってもいいのか、って聞いてるんだ」

 だが、悠人の口調は、若干、粗い。

 「………今更だな」

 「ああ、そうかもしれない。だけど、お前が戦う必要はないだろ」

 「…そうでもない、……高嶺、お前が戦いを選択したのは、妹と、エスペリア達のためだろ?」

 「…ああ」

 妹のことを話題に出され、苦い表情。

 「俺だって、数少ない同じ世界の仲間を見捨てたくないし、この世界に来てから親しくなった奴らもいる」

 「………………」

 (そう、ここで俺がラキオスから離れれば――あいつらを、ミアを、裏切ることになる…それだけは、駄目だ)

 そう、心の中で自分の意思を再確認する。

 「ま、なんにしても俺はお前らと一緒に戦うさ――だから、よろしくな、『悠人』」

 「吾川………」

 「おいおい、そこは『朔夜』と呼べよ」

 あきれたように言う。

 「……ああ、よろしく、朔夜」

 二人、軽く笑う。

 

 そして、二人はようやく仲間としての一歩を共に踏み出した。

 

 

 

 翌日

 

 「突然ですが、魔龍ってなんですか?」

 朝食終了後、明日からの任務について話をしましょう、とエスペリアが提案するや否や朔夜が尋ねた。

 「……どうして敬語なんですか?」

 「……なんでだろう」

 どうでもいい会話だった。

 

 「……魔龍というのは、簡単に言えば肉体がマナで構成された巨大な生き物です」

 「見た目は?やっぱり羽がはえた蜥蜴みたいなのか?」

 朔夜が尋ねる。

 「え、ええ……そちらの世界にも龍はいるのですか?」

 「実在はしないと思うけど、伝説上の生き物として知られてるんだ」

 悠人が答える。

 「そうなんですか、この世界でも龍は崇められるほどの存在なんですよ」

 「ラキオスの国旗〜♪」

 オルファは訳もなく楽しそうだ。

 「……なあ、ラキオスの国旗に祀られてるようなモンを討伐していいのか?」

 「………………そういうものですから」

 朔夜の疑問は、エスペリアに少し悲しそうな表情をさせただけだった。

 

 その後、一時間くらい説明とかは続いた。

 細かいことを言えばきりがないが、簡単に言えば、

 リクディウス山脈まで適度にスピリット倒しながら行く → 魔龍ブッ殺 → 帰還  ……だ。

 (単純といえば単純だけど……エスペリアはやっぱり大変なんだろうなあ……)

 アセリア、オルファは言うまでもなく、悠人もエスペリアに頼りっぱなしだった。

 (ま、俺がちょっとは頑張るか)

 小さな決意は、……叶わないかもしれない。だって朔夜だし。

 

 

 ここは屋敷の裏手にある広大な空間……ここで日々彼らは練磨するのだ。

 「てなわけで訓練中の俺がいます」

 『誰に説明してるんですか?』

 「……誰に説明してるんだよ?」

 「悠人の負け」

 「はあ?」

           キンッ

 

 そんなこんなで訓練中。

 ここにいるのは……3人。 アセリア、悠人、朔夜だ。

           ガカッ

 「オルファちゃんは佳織ちゃんのところへ、エスペリアは姫様のところへ行ってるらしいです」

 『「だから誰に説明してるんだよ(ですか)?」』

 「おお、引き分け」

 「なにがだよっ、というか質問に答えろ」

          ガギッガッ

 いいかげん悠人もイライラしているようだ。

 「ああ、『灼熱』と悠人のツッコミスピードを比べてたんだ」

 「もう片方の質問の答えは?」

 「明言は出来ないが……敢えて言うなら奇特な方々だな…ッ」

 「わけわかんねぇ…よっ!」

          ギキーンッ

 「……人生、そんなこともあるさ」

 「……そうですかッと」

 

 ………会話の流れだけ聞いたやつには無駄口ばかりだと思うかもしれない。

 だが、実は二人、剣を交えながら話している。

 訓練なので本気ではない、が、ダラダラやっているわけじゃない。

 朔夜はともかく悠人はそれほど器用ではないはずだが……

 

 「休憩するか」

 「そうだな……しかし悠人、おまえ喋りながら戦うことにいやになれてる気がするぞ」

 「初めての実戦のとき、妙に熱いセリフを言いながら戦ってたからな」

 「たとえば?」

 「……………………………」 (思い出し中)

 「………………ボッ///」 (赤面) 

 「キモイ」

 「……………悪かった」

 友からの一言に少し悲しみを感じる悠人だった。

 

 

 

 夕食time

 

 「エスペリアさん、…聞きたいことがあるとです」 (ヒ○シ風味)

 「なんですか?」

 朔夜の変な喋り方をいっそ見事にスルーしたメイドさん。

 「何故、俺も、悠人も、オルファも嫌いな……『コレ』を食卓に昨日に続けて出すんですか?」

 「好き嫌いはいけませんよ、サクヤさま」

 諌める口調のエスペリア。

 だが朔夜も心から訴える。

 「それは正論かもしれない、けど2日連続なんて、そんな酷なことは無いでしょう、なあ?」

 朔夜が援護射撃を要請した!!

 「あ、ああ……そうかも……(ギロッ)…いや、やっぱり好き嫌いは良くないと思う。俺は我慢して食うぞ」

 エスペリアの『にらみつける』こうげき!!

 悠人は裏切った!!

 「オルファは!?」

 朔夜は最後の希望にすがった!!

 「お、オルファも、パパと、同じかな……あはは、は……」

 希望は既になかった! 朔夜は目の前が真っ暗になった………………。

 「ちゃんと、食べてくださいね」

 GAME OVER (嘘)

 

 

 「ところでさ、3人の服、他のスピリットと違うのはなんで?」

 「……………え」

 突然の話の転換。

 「いや、俺なりに考えたんだけど……エスペリアはスピリットの中で一番エライから、とか、アセリアは『青い牙』だから、とか」

 「え、ええ…………」

 「だけどオルファは思いつかなかったんだよなあ、オルファ、なんでかわかる?」

 「わっかんない!」

 「……だよねー」

 うーん、と腕を組んで悩む朔夜。

 「え、えーと、ほら、よくカオリさまのところに行くから、とかではないでしょうか」

 異様に焦ったような雰囲気のエスペリア。

 「そうかなぁ、そうすると結構簡単に服って変えられるのか」

 「お、おそらく……」

 「ふーん………………」

 「………………………………………?」

 朔夜の真意は、だれにもわからなかった。

 

 

 

 深夜

 

 訓練場、一人、男が立っている。

 朔夜だ。

 

 一人、剣を構え、精神統一――己が内に秘められた熱く、紅い力を感じる。

 恐ろしいまでの自分の力、信頼に足り得るスピリット達の力、そして悠人の力。

 それを感じ、尚、魔龍という存在に対する恐怖の予感。

 そしてそれを和らげるため、強さを願う。

 今、朔夜がしているのはそのための特訓。

 

 「………………ふう」

 息を吐く。

 身動き一つせずに、それでも流れ落ちるほどの汗。

 「くそ、またあとで風呂に入りなおしだ」

 『まだまだ余裕はありそうですね?』

 からかうような『灼熱』の声。

 「無理、ない」

 『残念です』

 「これいじょうは、マジで……帰る」

 『はいはい……よく頑張りました』

 そんな他愛も無い会話をかわし、館へ帰って行く。

 

 何一つ異常の無いような世界で、ただ一つ。

 それは、その場所の異様なまでの『熱さ』。

 外の平均気温は、10度ほど。

 だが、その場所だけは、違った。

 壁にかかっている温度計、それは、あまりの熱で壊れていた。

 

 

 夜は深く、そして、朝が訪れるとき、旅立ちのとき。

 それまでの、ひとときの休息。

 

 

 

 

 あとがき

 

 ごめんなさい

 あまりの忙しさに死亡。 これからは気をつけます。

 突然ですが、あとがき、次から廃止

 理由――めんどうくさい

 それでも作品は投稿します、ちゃんと、たぶん

 

                                                                                                                                                                                     

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