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 知っているのは戦いの日々。

 生まれてから戦いの連続だった。

 安住の場所なんて何処にもなかった。

 不完全な存在のクセに、力だけは強い。

 だから誰も俺を満たしてはくれなかった――アイツ以外は。

 けど、アイツは消えた。他でもない、俺自身の手で、殺した。焼いた。

 唯一の心の支えを失ったとき、俺は求めた。

 全てを忘れて、今とは違う日々を。

 たとえ、それが仮初の夢だったとしても。

 それが、俺の渇きを満たすのならば――

 

 

 

 夢。そう、コレは夢だ。

 自分で夢ってわかるのって…なんて言うんだっけ?

 白昼夢?

 …違うと思う。確か、それは非現実的な空想という意味の言葉だ。

 まあ、ある意味正解な気もする…。

 だって―――赤ちゃんがまるで魔王みたいに敵をなぎ払ってるんだし…

 「ふはははははははははは」

 とか、赤ちゃんが真顔で言ってるのは、衝撃的かつ斬新だ。

 しかも魔法使いっぽく炎とか掌から出してるし。

 魔法少女ならぬ魔法ベイビーだ。

 だから、コレは夢だ。間違いない。

 ――えっと…………たしか……そう!明晰夢だ!

 夢の中でコレが夢だって理解できてなおかつ意識がハッキリしているコト。

 男のロマン。いや、漢か?

 だが、実際は違う。…そう、違うのさ……

 なんか全てがやりたい放題――自由と書いて、フリーダム!!

 可愛い女の子召還してウハウハ!

 この世の全てに敵などいない!みたいな!!

 ……こんなのを予想してたんだが全然ダメだな。

 まず、俺いねえし。

 何も出来ねえよ。

 物語の途中でいきなり主人公じゃなくなったみたいな気分。

 しかも主人公は赤ちゃんっぽい。

 最凶赤ちゃんもしくは魔法ベイビー>>>俺 

 >が3個もついちゃったよ。

 足元にも及ばないとはこのことだ。

 なんか悲しいな………寝よう。

 夢っていうのはレム睡眠っていう体は眠ってるけど脳は覚醒している状態で見る。

 だから、ノンレム睡眠に入ればいい。

 たしか、時間の経過と共にその二つの睡眠は繰り返されるはずだ。

 よって、しばらく暇してればいいはず。

 うん、雑学万歳だな。

 さあ、寝よう!

 ………………………………………ぐう。

 

 

 

 ラセリオ、スピリットの家

 

 

 「……知らない天井だ」

 目覚めてすぐにどこかで聞き覚えのあるセリフを言う。

 太陽が真上までのぼっている。昼だ。

 「……何処だ、ここは」

 寝起きだからかテンションが低い。

 「………なにがあった?」

 「…………………………………………」

 沈黙。

 『……何もおぼえてないんですか?』

 突然の声。

 しかし寝起きのテンションは無敵だ。

 「…ああ、おぼえてない」

 『そのわりには冷静ですね』

 「寝起きだからな」

 『「………………………」』

 再度沈黙。

 「とりあえず、お前は何処にいる」

 『右を向いてください』

 壁があった。

 「………お前は壁か?」

 『あ、まちがえました。左です』

 何もない。

 「…………お前は空気か!」

 『…ちょっと目線をおろして見るとかしませんか?普通』

 ベッドには、剣が立てかけられていた。

 「………………ああ、思い出した」

 『そうですか、よかったです』

 「ああ、『灼眼』」

 『違います』

 即刻否定。

 「それじゃあ、灼眼のシャ」

 『ストップ。それ以上は危険です』

 主に著作権とか。

 「…………そうだな、『灼熱』」

 『…………最初からそう言ってください』

 

 「で、何があった?つーかあんな馬鹿みたいな威力だとは知らなかったぞ」

 『すいません……実は、本来とは違う魔法を教えてしまったみたいで』

 「うっかりじゃすまないレベルだったな。だいたい、ありゃなんだ?核の炎か?」

 つい責める口調になる。

 だが、実際大変なことをしたのだ。仕方がない。

 『すいません……ですが、あの神剣魔法については私にもわからないんです』

 「……どういうことだ。お前が教えたんだろ?」

 シリアスモードっぽい朔夜。

 普段の馬鹿な状態よりも少し二枚目風味である。

 『…いつのまにか知っていたよくわからない知識なんです』

 「……意味がわからんな」

 『……………はい』

 「ふむ…………………、………ん?」

 ドアの隙間から覗く小さい影が一つ。

 それは、気付かれたことがわかるとゆっくりと中に入ってきた。

 (あれは………………!)

 そのスピリットは朔夜があの時巻き込んでしまったはずの、あのスピリットだった。

 

 「………気がついた」

 若干の親しみが通ったような口調。

 あくまで少女にしては、だが。

 「あ、ああ……」

 言いかけて、気がつく。

 (おい、俺、こいつらの言葉喋れるのか?)

 『はい。私を持っていれば、ですが』

 「……?」

 首をかしげる少女。その仕草は、

 (…………いいな。)

 朔夜のピンポイントだったりした。

 バチイィィィィインッッ!

 「痛ッツツ!」

 突然頭の芯からくる鋭い痛み。

 (な、なにすんだっっっ!)

 『見ず知らずの子供にときめかないでください!』

 (不意打ちだったんだ、しょうがないだろ!?)

 『言い訳しないでください!』

 そんな問答をしているとは全くわからない少女。

 「…大丈夫?………頭」

 「ええっっっ!」

 (そんな、こんな可愛い子にいきなり『頭、大丈夫?』→『おかしいんじゃない?』的なことをいわれるなんて!)

 「……?」

 「……も、もちろん」

 別に少女は普通に頭を抑えて痛がっている朔夜を心配しただけなのだが、そんなことには気づかない朔夜だった。

 というかそれよりも『おかしいんじゃない?』と脳内変換されているのに『もちろん』と答えるのはどうなのか。

 朔夜はそのことにも全く気付いていなかった。

 「…そう……みんな、呼んでくる」

 部屋から出て行く少女。

 そして、何かジワジワとくる痛み。

 『…あなたにこんな趣味があるとは思いませんでした』

 ジトッとした恨みがましい口調。

 「な、何を……そんなはずは」

 『ないんですか?』

 強い口調は否定の言葉を受け付けない。

 「……少なくとも、この世界に来るまでは…」

 『……へえ。……まあ、いいです。ちゃんと気を引き締めてください』

 「…わかってる」

 (…俺は…ロリコンだったのか……?あの破戒僧と同レベルなのか………?)

 見ず知らずの少女を見て可愛いと思った自分を思い出す。

 (………やばいかも……)

 少女が出て行ったドアを見て悩む朔夜だった。

 

 

 

 「あら〜。もう、大丈夫なんですか〜?」

 目の前にいるのは、5人の少女。

 ざっと赤、緑、青、青、青。

 「ねえねえ、名前、なんていうの?ネリーは、ネリーっていうんだよ!」

 とびだして来たのは、青いポニーテールの少女。

 「…吾川朔夜だ」

 「アガワサクヤ?変な名前」

 「いきなり失礼なやつだな。朔夜が名前で、吾川が苗字だ。朔夜と呼んでくれ」

 「サクヤ様ですね〜わかりました〜」

 間延びした様子でしゃべる少女。わりと、脱力する。

 「…様は別にいらないんだけど……それと、お前らの名前は?」

 まだ名前を知らない4人に向かって名前を聞く。

 

 「はい〜私は、ハリオンっていいます〜。みんなのお姉さんですよ〜」

 「……はあ…お姉さん…?」

 「はい〜♪」

 間延びしたしゃべり方の少女――ハリオン

 (けど、お姉さんって何?)

 ……その問いはしてはいけない気がした。

 

 「ヒミカです。よろしくお願いします」

 「あ、うん」

 「「………」」

 ハッキリして真面目そうなのは――ヒミカ

 ただ、真面目すぎる気もするけど……。

 

 「ネリーは」

 「お前はもう聞いた」

 言い切る前にそれを止める。

 「む〜〜〜」

 不満そうに頬を膨らませる、やかましいのは――ネリー。

 

 「シ、シアーです…よ、よろしくおねがいします………」

 「うん、よろしく」

 「は、はい………」

 オドオドした小動物系は――シアー

 ……近づいたら逃げそうだ。

 

 「…………ミア」

 「「……………」」

 沈黙。→そして世界は動き出す。

 「…それだけ?」

 「…………?」

 感情の起伏を感じさせない少女――ミア

 ただ、なんか掴めない…。

 

 とても個性的な面々だ――それが、最初の印象。

 

 一気に5人の少女の自己紹介が行われた。

 名前を覚えるのが苦手な朔夜としては、結構つらかった…

 そして、ネリーのマシンガン質問タイムは延々と続く。

 (少し、休ませてくれ…………!)

 心の叫びは、誰にも届かない。

 

 「そろそろ、お昼ごはんにしませんか〜?」

 ハリオンの一言で、雑談会はとりあえず落ち着く。

 ネリーの勢いも、空腹には勝てないようだ。

 ちなみに繰り広げられたネリーとの壮絶な死闘(会話)の一例を敢えてあげるならば――

 

…………………………………………………………………………………………………………………………………

 「ねえねえ、サクヤは」

 「うるさい黙れ」

 「なんでネリーがしゃべろうとすると」

 「だから黙れ。さっきから俺は10分近くお前の声しか聞いてないぞ」

 「プンって、何!?もしかして、ハイペリアのこと!?」

 「話の内容を聞け。黙れと言ってるんだ」

 「そんなことより、プンって何?」

 「ついに無視か。お前はロクな大人に」

 「いいから!」

 「ついに話を最後まで聞かなくなったな。……いいだろう、語ってやる。プンとは時間の単位だ。以上」

 「え〜、それだけ〜?」

 「文句があるなら聞くな」

 ………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 こんなカンジだ。こんな会話が一時間近く続いたのだ。

 ちなみに、ネリーとの雑談で得られた数少ない情報としては――

 ・ 森で発見されてから、3日ほど眠り続けていた。

・ 三ヵ月ほど前に、王都に別のエトランジェがあらわれていたこと。

・ 戦争がもうすぐ起きそうなこと。

 こんなところだ。

 特に、他にエトランジェがいるということが気になったが、みんな詳しくは知らないらしい。

 なんでも、エトランジェは男と女の二人で、片方は永遠神剣第四位『求め』に選ばれたそうだ。

 (知り合いだったらいいのにな……秋月以外で)

 そう、思わずにはいられない朔夜だった。

 

 

 

 数日後

 

 昼食も終わり、部屋で休む。

 目覚めてから、この世界のことを座学で学んできた。

 結論――変な世界だ。スピリット、永遠神剣、エーテル技術…どれも元の世界ではありえない。

 だが、この世界の常識云々についてはだいたいわかった。

 喋ることも神剣の加護なしでも出来るように特訓中。ついでに文字も教わっている。………まだまだだが。

 それと、身体の調子もかなり回復したためかじっとしてられない。

 

 「久々に思いっきり運動したい………」

 『それなら、鍛錬でもしません?』

 突然の提案。

 「鍛錬か…つまらないな………」

 『いいじゃないですか。私を上手く扱えるようにするためです。どうせ暇なんでしょ?』

 「暇じゃないぞ。いくらでもしたいことはある」

 『……例えば?』

 「久々の悪戯……標的はネリーで、ヤツが昼寝しているときにリクェムを口に詰め込んで…」

 『……くだらない。体調もそろそろいい感じでしょう?訓練すべきです』

 「くだらないとは失礼な……俺の生きがいを」

 『………それじゃあ、その生きがいとやらを早く終わらせて鍛錬しましょう』

 「そんなに俺に鍛錬させたいか……まあ、わかったよ」

 『はい、それでは!』

 「まずは悪戯だ」

 『…………………』

 外は、ムカツクくらい晴れていた。

 ちなみにそれから数分後、一人のスピリットの悲鳴が館中にこだました。

 曰く、「リクェム嫌い〜」…らしい。

 

 「あれは……ミアと、ハリオンか。何してるんだ?」

 朔夜の視線の先には、剣(槍)を構えて特訓っぽいことをしている二人の姿があった。

 「あの二人は会話が成立するのか?二人とも己が道を行く、マイペースちゃんだぞ?」

 『…意外になんとかなるんじゃないですか?』

 「そうかな……まあいい、ここは自ら確かめるのみ。…ハリオ〜ン、ミア〜、何してるんだ〜?」

 二人は振り向き、朔夜に近づきながら答える。

 「あら〜、サクヤ様じゃないですか〜。私達は、訓練してたんですよ〜」

 「………サクヤ、なんでココに?」

 二人は訓練をしていたからか少し汗ばんでいる。

 その姿は、ミアはともかくハリオンは艶かしい。

 「ああ、少し剣の特訓でもしてみようかと」

 そんなことを口先では言っておきながら、内心感動している。特にハリオンの素敵な胸元を見ると。

 (すばらしいな……国宝級だ………)

 『アナタはまた……!』

 (ま、待て!相手が子供じゃないだけましだろ!?)

 『なんですか、その言い訳は!』

 (じゃあ、子供にときめいてろって言うのか!?)

 『…………………』

 「それじゃあ〜、サクヤ様の実力を、見せてください〜」

 「え、実力?」

 一瞬、なんのことかわからなかった。『灼熱』との会話と胸元に気をとられていたから。

 「はい〜。エトランジェ様は私たちよりも強いって聞きますから〜」

 「……ああ…」

 納得する。それに、一度スピリットに勝っている。自信がないわけじゃない。

 「…OK、やってやろうじゃないか」

 そして、二人の戦いは始まる。

 「……わたしの出番少ない」

 ミアが誰も聞こえないくらいの小さい声で呟いた。

 

 互いに、得物を構える。

 「では〜、いきますよ〜」

 そう言うと、ハリオンが攻撃をはじめる。

 「………………!」

 速い。見えないわけではないが、速い。

 「くっ………!」

 辛うじてかわすが、それが攻撃する機会を奪う。

 結果、防戦一方になる。

 戦闘慣れしていないことは、防御から攻撃への移り変わりのタイミングを掴めない要因となる。

 また、槍は剣と違い、突くことに特化された武器だ。また、リーチも長い。剣士との戦闘とはワケが違う。

 朔夜はそのことをわかっていなかった。それがまず致命的だ。

 そしてもう一つ。彼は先の戦闘のときほどマナを扱えていなかった。

 すなわち、オーラフォトンを展開していないのだ。

 スピリット、あるいはエトランジェの戦いにおいて最も重要なのはいかにうまく力を引き出すか、である。

 そのため、今の朔夜はエトランジェどころかスピリットにも劣るのだ。

 「うあっ!!……………くっ」

 体勢が崩れた状態への攻撃を無理に防ぐことで、朔夜は地面に倒れる。

 すぐに立ち上がって距離をとるが、危機的な状況に変わりはない。

 「その速さで、よくかわしますね〜。びっくりです〜」

 「ビックリなのはこっちだ。……なあ、『灼熱』。なんか力が弱いんだが……」

 『それはそうですよ。オーラフォトンも展開してないいじゃないですか』

 「オーラフォトンって……あの紅い光か………どうやって使うんだ?」

 『……わからないんですか?』

 「……あの時は妙にハイテンションだったから、ノリで……」

 『……そうですか。…じゃあ今回はサポートしますから、ちゃんとおぼえてくださいね』

 「…了解」

 そして、朔夜は詠唱をはじめる。自らに、赤い光の加護を与える、そのために。

 

 「独り言をぶつぶつ言う、危ない人……」

 「あの〜…どうしたんですか〜?」

 二人とも、朔夜に対して少し引き気味だ。

 ミアに至ってはストレートに危ない人とまで言っている。

 「……もう、大丈夫だ。それとミア、失礼なことを言うな」

 そう言って、朔夜は紡ぐ。力を得るために。

 

 「…我が纏うは炎の衣。その身を包むは抱擁の顕現」

 少しずつ力が溢れ出し、そして解放されていく。

 「……………これ………」

 「本気で、ということですかね〜?」

 朔夜以外の二人はその力を感じ、呟く。

 だが、二人は次の瞬間その力に驚かされる。その紅き光に。

 「……その熱き力に抱かれ我は目覚める、我こそは永遠神剣第四位『灼熱』の主、朔夜!…我に、力を!!」

 その呪文<スペル>は、言葉通り、彼を永遠神剣の主として、目覚めさせた。

 

 「……………………!」

 「……あら〜、これはすごいですね〜……」

 ミアは言うまでもなく、ハリオンも言葉ほど落ち着いてはいない。

 今、対峙している二人の距離はおよそ10メートル。

 そしてその距離からでも感じられるほどの圧倒的な熱量。

 今の朔夜に近づくことそれ自体が危険に感じられるほどだ。

 「…これは〜、こちらも本気で………」

 「………ストップ、ハリオン」

 ハリオンが言い終わる前に、ミアがそれを制す。

 「危ないですよ〜、ミアちゃん〜」

 「……それはハリオンも同じ。……ブルースピリットの私のほうがうまく戦える」

 そう言ってハリオンの前に立ち、朔夜と向き合う。

 「……今の俺は、上手く手加減できないぞ」

 「それに〜、ミアちゃんはまだちゃんと戦ったことがないでしょ〜?」

 二人の呼びかけにも意味はない。

 本来あらゆることに興味を持たない彼女が唯一興味を示す対象、――朔夜。

 そんな彼女の「特別」を止めることは出来ない。たとえ、それが朔夜であっても。

 「………大丈夫、まかせて」

 「でも〜、」

 「……いいから、見てて」

 そういって朔夜に向き合う。

 「…本当に、いいんだな?」

 「…………うん」

 そして、その言葉を引き金として、二人の戦いが始まる。

 

 

 

 「………………!」

 ハリオンは驚いていた。

 エトランジェである朔夜の本気…それもあるが、それ以上にその攻撃に耐えて反撃をする目の前の小さな少女に。

 エトランジェ――朔夜の戦闘技術は、時折鋭さを見せるとはいえ基本的に未熟。

 そして、スピリットは少なくとも技術だけなら劣らない。

 だが、その力――出力は圧倒的にエトランジェが勝る。

 その違いを埋められるほどの技術があれば別だがミアは最近発見された未熟なスピリットだ。勝てるはずがない。

 だが、実際は朔夜が押しているとはいえ、打ち合うことができている。

 そして、朔夜は先程までとは違い凄まじい力を振るっている。

 ハリオンでも耐えられないかもしれないほどの一撃、それを耐えるミア。

 この状況から導き出される結論――ミアの出力が非常に高いという事実。

 それにハリオンは驚いていたのだ。

 そして、朔夜も。

 

 「はあぁぁぁぁっ!」

 「くっ……………………!」

 どれだけ攻撃してもあと一歩が届かない。

 主導権を握ってはいるが勝利を掴む為の決定的な隙を作ることができない。

 ミアはギリギリのところで耐え抜き、反撃してくる。

 「くっ、なんで倒れないんだ!?」

 『この娘、意外にやりますね……オーラフォトンに緩急をつけるか、魔法でも使います?』

 ミアから距離をとると、『灼熱』が提案する。

 「オーラフォトンに緩急?なんだそれ?」

 『オーラフォトンの勢いを調節するんです。オーラフォトンの勢いを抑えて、次の瞬間一気に放出したり』

 「そうか……それで、どうするんだ?」

 『……これは、サポートどうこうよりあなた自身が身に付けるものです。湧き出る力を意識的に押さえつけるんです』

 「そうか……感覚的にはわからないでもないが、うまくいく自信はないぞ」

 『それで構いません、やっちゃってください!』

 「…………ああ!!」

 

 「………また危ない人になってる…」

 ミアは呟く。…そりゃそうだ。

 ミアの視点から見れば、いきなり戦っていた相手が一人で喋りだすのだ。

 ミアの視点からモノを見たいなら、朔夜と『灼熱』の会話の場面を『  』の会話抜きで読んでいけばよくわかる。

 変人か妄想好きかキチ○イだ。

 「………『灼熱』と話してたんだ」

 弁明は切ない。

 「…なあ『灼熱』、口に出さないで会話とか出来ないのか?」

 『……できますよ?っていうか何回かそれで話したと思いますが?』

 「そういえば!!」

 それだけの話。

 

 「くそ、やる気が一気に失われた…」

 「……………神の意思」

 「なんだそれは?……ともかく、いくぞ!」

 そして、戦いは終局《フィナーレ》に向かう。

 

 「はあぁぁっ!」

 「………はっ!」

 打ち合われる剣。二つの剣は一方は燃えるように熱く、そして一方は氷のように冷たい。

 相反する二つの剣とその担い手が作り出すその光景は美しく、切ない。

 打ち合いが再開されておよそ2分たった。

 「くぅっ!」

 「……………っ!」

 二人の剣が交わり、ほんの少し距離が開く。

 先刻までならそこでミアの方がすぐに攻撃し、戦いは継続されるはずだった。

 だが、ミアは疲労から少し踏み込みが遅れた。

 そしてその遅れは決着の結果に影響する。

 

 (いまだっ………!?)

 朔夜は打ち合い、離れた瞬間オーラフォトンの勢いを抑えようとした。

 しかし、初めてすることを簡単に出来るはずがない。

 失敗こそなかったが、そのタイミングをずらしてしまった。

 本来なら、それで終わり。

 ミアへの攻撃のタイミングがずれ、せっかくの切り札の効果がなくなるところだった。

 だが、偶然が起きた。

 ミアの踏み込みが遅れた。

 互いに一瞬タイミングがずれることで、再度ピントがあう。

 「はああぁぁぁぁぁっ!」

 そして、抑えられたオーラフォトンが解き放たれ、終局の一撃が放たれた。

 

 

 「…………強い」

 「当然だ、俺はエトランジェ様だぞ?」

 ミアは朔夜によりかかり、朔夜はミアを抱き止めていた。

 戦いは終わっていた。

 結果として、ミアは朔夜の攻撃を正面から受けた。

 吹っ飛びこそしなかったが立っていられるような状況ではなかった。

 そのままミアは倒れそうになり、それを朔夜が慌てて抱きとめた。そして現状に至る。

 さすがに『灼熱』も何も言わない。

 「…………………」

 「…………………………」

 二人は抱き合い(結果的に)、何も言わない。

 沈黙はある時は苦しく、そしてある時は心地よい。

 今、二人の間にあるのは心地よさだけだった――――

 

 「あら〜、なんだか幸せそうですね〜♪」

 「「 !!!!!!!!!!!!!! 」」

 二人はとりあえず離れる。高速で。

 「あら〜どうしたんですか〜?そのままでもいいのに〜」

 二人の世界をあっさり破壊したハリオン(ヒミカやシアーではまず近づけなかった)は、自覚のないまま二人に近づく。

 朔夜などは顔が真っ赤だし、ミアの顔もほんのりと赤い。

 「え、いやその……そう!傷の手当てを!」

 「サクヤ様がするんですか〜?」

 「……いえ、その……お願いします。…あ、ミアを先に、な?」

 「…………………………うん」

 「はい〜♪」

 ハリオンはなんだかとっても楽しそうだった。

 二人の顔はまだ赤かった。

 

 「………………………………」

 治療が終わり、朔夜は空を見る。

 なぜか気分が昂ぶっていて、それが心地いい。

 そんな気分のまま館に戻る。

 何かを忘れたまま。

 

 「サクヤ、はっけ〜ん!」

 「はっけ〜ん」

 ネリーとシアーがやってくる。笑顔で。

 その手には――リクェム。

 「なっ…………!」

 実は、朔夜もリクェムは大嫌いだった。

 それに気付いたヒミカは、憤慨していたネリーにそのことを教えたのだ。

 「や、やめろ。話せばわかる」

 かつて暗殺された総理大臣と同じセリフを放つ。

 そのとき、朔夜は初めて彼らの気持ちが分かったような気がした――絶望だ。

 「ふふ、ダメだよ〜♪」

 「よ〜♪」

 迫ってくるリクェムと、笑顔のネリシア。

 そして――エトランジェの叫び声が館中に響いた。

 曰く、「ネリーのこと、忘れてた〜」…らしい。

 

 

 

 

 

 あとがき

 こんにちは、神です(このSS内限定)。

 ようやく、オリキャラ同士が絡み合いました……。

 それはさておき、前回のあとがきで更新一回につき一話掲載する!とか言ってましたが、無理かもしれません。ごめんなさい。

 理由は、今年受験があって忙しいからです。

 ですが、可能な限り上記の宣言を守っていく気なのでよろしくお願いします。

 次の物語から、(多分)悠人くんやアセリアがでてきます。

 彼らが好きな人は次の更新まで待ってください。

 それでは、また。次の話で。

 奇特にもこんな物語を楽しみにしている方がいらっしゃいましたら、またよんでください。

 

 

 

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