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 生きるために、命を燃やす。

 炎は強ければ強いほど、早く燃え尽きる。

 だけど、あなたの炎は強いのにいつまでも燃え続ける。

 ヒトは我等を呼ぶ、永遠者と。

 永遠の炎をその身に灯すものよ。その力を示せ。

 ふたたび命を燃やし、この世界を照らし続けるのだ。

 

 

 

 どこかわからない場所――

 

 「リュトリアムを手に入れたのはよかったですが、まさか黒き守護者を奪われるとは――迂闊でした」

 少女――少なくとも、見た目は――は、悔しそうに呟く。

 「そうね、結果的にはちょっとこっちが損かな…」

 それに答えるのは、また別の少女――黒い外套に身を包んでいる。

 「…そうですね。…ところで『彼』の様子は?」

 「問題ないでしょ、たぶん。だいたいコレはあいつ自身のためなんだから。あいつにとっては『法皇』の相手のほうがオマケなんだし」

 「それはそうですが…彼も不憫なものですね…」

 「まあね…不完全な存在だもの……」

 「…………………」

 静まりかえる部屋の中。空気は重い。

 「まあ、それはともかくこの剣」

 どこからともなく取り出した、少女の手には似合わない――紅い剣。

 「これは……彼の……………?」

 「そ。今は力と記憶の大半を封じられて、だいたい四位くらいになってるけど」

 剣を掲げて、言う。

 「それも、彼が、自分で?」

 「ええ。……変わってるよねぇ。目的のためとはいえ、相棒をこんなふうにするくらいだもの」

 「……………はい」

 その目にあるのは嘲りか、哀れみか。

 心の内は、わからない。

 

 「ところで、そっちはどう?悠人君はともかく、『氷輪』の器は完成したの?」

 少女は若干ためらいを含んだ表情で、言う。

 「…いえ、ですが少なくとも門が開くときまでには完成します」

 「そう。なら大丈夫ね。…アイツも変なこと命令するわよね。なんでこんな面倒なこと」

 気だるそうに、言う。

 「……黒き守護者が奪われた今、氷輪の器の存在はなくてはならない重要な鍵となりえます。結果的にはこれでよかったのではないでしょうか」

 「…そうね。ま、どちらにしても、これは彼が望んだこと。もうどうしようもないし、止めることも出来ない…」

 彼女は、哀愁を感情に含ませた表情で、言う。

 「ま…なるようになるでしょ………………」

 「そうだと、いいんですが…」

 少女の不安はよく当たる。

 唯一の不安要素は現在の『彼自身』。

 二人の会話は、他の誰にも知られることなく、闇に溶けていった………。

 

 

 

 ――俺は、捨て子だったらしい。

 そのことを知ったのは13才のとき。

 俺が親を突然の交通事故で無くし、遺産目当てに群がるうさんくさい連中の相手をしていた頃。

 そいつは、いきなり現れ俺が捨て子だったことを教えた。

 いきなり言われて信じられなかったが、あっさりと確認は取れた。

 叔父はそのことを知っていた。

 何でも、橋の下で拾ったらしい。

 漫画じゃないんだから…そう、言おうと思ったが実際ホントのようだった。

 けど、例え血が繋がっていなくても、親が俺を愛してくれていたのはわかっていた。

 そんなことは、当時の俺にとっても今の俺にとっても問題ではなかった。

 そう言うと、そいつは笑った。

 微笑ましそうに、悲しそうに、笑った。

 ――気に入らない。俺をそんな目で見るな。

 言っても、叫んでも、アイツの俺を見る目は変わらない。

 やがて、俺はそのときのことを思い出せなくなっていた。

 けれど、今になっても忘れられないあの言葉。あの囁き。

 ――最後にソイツが俺を見て、一言

 「もう、戻れないの」

 そう、囁いたこと――。

 

 

 

 200X年12月8日

 

 「おい朔夜、こんなところで何してんだ?」

 放課後、光陰は家に帰る途中で、一人ベンチに座り空を見上げている友達――吾川朔夜を見つけた。

 「別に、月を見てるだけだ」

 朔夜は夜空を見上げたまま、言う。

 「月、か…。」

 つられて光陰も月を見る。

 「ああ、月光の下一人物思いにふける少年。絵になるだろ?」

「お前、そんなことのためにここにいるのか。…寒くないか?」

 「寒いのは、嫌いじゃないからな」

 ニヤリと笑う。

 「いや、だからってこのクソ寒い中で……まあ、いいか。お前のことだしな。言っても無駄だろ」

 「ああ、無駄だ。…と言いたいがそろそろ俺も帰ろうと思ってたところだ。よかったな」

 「いや、別に良くはないんだが…」

 光陰はあきれた様子で、笑った。

 「実を言うと、なんかもうつま先の感覚とかなくなってきてるんだ」

 「帰れよ」

 光陰はあきれきっている様子である。

 それに対し朔夜はやれやれと言った様子で、返す。

 「お前は俺の話を聞いてなかったのか?つま先の感覚がないんだ…歩けねえよ」

 「そうか、じゃあまた明日な」

 光陰は踵を返す。

 「待てよ、……待ってくれ、………待ってください」

 どんどん立場が低くなっていく朔夜。

 「うるせぇなあ……なんだよ?」

 「光陰様〜お慈悲を〜お恵みを〜」

 「……………………」

 すがりつく、朔夜。何かが吹っ切れたのか、とことん下手に出る。

 「…………おまえ、なあ」

 「頼む、マジやばいんだ」

 なんか土下座してたりする朔夜。

 「……普通、そこまでするか?」

 「たとえなんと言われようとも、あれは3年前のことだった。自転車が壊れ直している最中だったお前に俺は何の親切間からか手伝った」

 「……………いきなりなんだよ?」

 「まあ、聞け。――それが原因で俺は遅刻し散々な目にあった。二年後オマエに何の因果か再開し俺達は友達となった」

 「…………………………」

 「そして今困り果てている俺を見捨てて行こうとする友達のはずの男。ああ、俺はあのときどうして君を手伝ったのだろう…神様教えて」

 「わかった、わかった!なんか俺、すげえ悪者みたいじゃねえか!俺のカイロやるから恨み言は止めろっ!」

 朔夜はカイロを受け取り、言う――

 「感謝はしないぞ」

 「しろよ」

 漫才再開―――――――

 

 朔夜はカイロを受け取りつま先を暖めている。

 「俺の足はレンジで解凍できるようには出来てないんだ」

 「意味わかんねえよ…ったく」

 光陰は少し不機嫌そうに呟く。

 「俺は帰るぞ。じゃあな、朔夜。……あー寒」

 「我慢しろ」

 「お前が言うなっ!」

 光陰が見えなくなった後、カイロを手に朔夜は呟く。

 「いやーホントいい奴だなぁ……泣けてくらあ………いい奴はいつだって損するもんだぜ、光陰」

 ニヤリと笑う。

 

 なんてことのない日常はまだ続いている。少なくとも、今このときは――。

 

 200X年12月10日

 

 「邪魔だ」

 突然、朔夜に向かってかかる声。

 朔夜が後ろを振り向くと、そこには秋月瞬がいた。

 「ああ、すまない、虫の居所が悪かったんだな」

 「………貴様、今なんて言った」

 瞬は学校でも1、2を争う問題児。朔夜も敵にまわしたくはない…はずなのだが、

 人をからかうことが体にしみついているのか、つい口をすべらせる。

 「あー、いや、今日はいつにもまして機嫌が悪いなーと思って。それでどうしたのかなー、と」

 「……貴様の知ったことではない、これ以上僕にふざけた口をきくな」

 「ああ、すまないな。そうするよ」

 (こっちだってふざけるつもりじゃなかったんだよ)

 「フン」

 どこか虫の居所が悪そうに去っていく。

 「…もう少しどーにかならんのか、あの性格」

 自分のことを棚にあげて不機嫌そうに呟く、朔夜だった。

 

 「そういえば…」

 瞬が去った後、ある女の子から聞いた話を思い出す。

 『私と、秋月先輩は幼馴染なんです…』

 「あの超問題児が唯一心を許す相手が幼馴染の女の子、ね…実は純情だったりするのか?」 

 言いつつ忍び笑いをもらす。

 「しかし…あの子も凄いなぁ。あるときは幼馴染、またあるときは妹、なんてレアなキャラなんだ」

 そこまで言ってから、朔夜は呆れた様に言った。

 「全く、俺が言えたものじゃないがもう少し真っ直ぐ生きられないのか?」

 

 ふと、朔夜は何かを思いついたかのように呟いた。

 「孤高の王子が望んだものはただ一人の少女、か。夢見がちだねえ…まったく、あきれたもんだ」

 

まだ、世界は日常の中にある。

 

 200X年12月13日

 

 「アンタ、何してんのよ?」

 目の前にいるのは、岬今日子。光陰つながりで朔夜とも面識があった。

 「いや、その『凶器』を振り回しているのが見えてな、なんとなく観察していただけだ」

 「凶器って…アンタね」

 「凶器じゃないのか?ソレは。後ろの被害者、仮にKさんに尋ねれば確実に『凶器だ、アレは』と答えると思うぞ」

 「うるさいわね…アンタも被害者の一人になりたい?」

 「いや、結構。それにしてもすさまじい威力だな。それは本当に紙で出来てるのか?」

 しれっとした様子の朔夜。

 「当たり前でしょうが、一体何で出来てると思ってたのよ?」

 「未知の金属、超技術、熱き漢の汗と涙…とか?」

 「そんなわけないでしょうが!」

 うがー、といった様子の今日子。

 「まあ、落ち着け。…話は変わるがお前は今までに何人の返り血を浴びてきたんだ?」

 「あのね…いきなりそういうこと聞く?返り血なんて浴びてないわ、たぶん」

 「たぶんかよ」

 「うるさいわね…大体アンタが……あ」

 そこで何かを思い出したかのように突然しゃべるのをやめ、叫んだ。

 「やっば――!」

 そして、今日子は顔を青くさせ、朔夜に向かって言う。

 「ア、アタシ顧問に呼び出されてたんだった。そういうワケだから、じゃ!」

 ひどく焦っている。よほど顧問が恐ろしいか…あるいは、よほどの事ことをしたのか…

 ものすごい勢いで走り去ってゆく背中を見て、呟く。

 「この壊れた玩具が……………………」

 

 その言葉は今の今日子の勢いを比喩的に表現したに過ぎなかった。

 だが、それは意図することのなかったイメージを生み出し、心に不安を残す。

 何か、変だった。まるで、この世界が知らない別のモノに感じられてくる。

 「何だって言うんだ、一体……」

 苛立ちの声が空にむなしく散っていく。

 

 少しずつ、しかし確実に何かが変わっていく。

 

 200X年12月15日

 

 「きゃ…っ!」

 誰かとぶつかる。目の前にいるのは…女の子。

 「悪いな、ん?君は…佳織ちゃん…?」

 朔夜はその女の子が知り合いの妹ということに気づいた。

 「えっと、その…吾川…先輩…?お久しぶりです…。」

 少女――高嶺佳織は、少し考えた後、思い出したように言った。

 「ああ、久しぶりだね。部活の帰り?」

 「はい。先輩は…?」

 「ん、俺は…ちょっとね。」

 「ちょっと…?」

 知りたがっているような佳織の様子を見て、朔夜はニヤッと笑い、答える。

 「うん、『ちょっと』教頭の椅子にブーブークッションを仕込んだだけ」

 ちょっとどころではないことに、佳織は戸惑う

 「え…それって」

 「うん、明日教頭が出勤して席に座ったとたんに、『ブー』って音がなる。嫌われ者の教頭も晴れて職員室の人気者に!ってワケ」

 「そ、そうですか…」

 佳織は、『それって、大変なことじゃないですか?』と言おうと思っていたのだが、その声が最後まで放たれることはなかった…

 ちなみに翌日の朝、職員室で突然の辱めを受けることになった教頭は、『永遠の笑いもの』としての烙印を押されることになる。

 

 「おーい、佳織―!」

 突然の自分を呼ぶ声に佳織は振り向き、兄の姿を見て微笑み、返事をした。

 「あ、お兄ちゃん」

 「佳織、それに…吾川?どうしたんだ?なにかあったのか?」

 佳織の兄――高嶺悠人が尋ねた。

 「ちがうよ…今、偶然会ってちょっとお話してただけ」

 「そうか…」

 朔夜は何か悠人から微妙な空気を感じた。

 「あ、俺の家こっちだから…じゃあな、お二人さん」

 「あ、はい。さようなら、先輩」

 そのまま統夜が帰ろうとすると、

 「あ、ちょっとまて吾川」

 悠人が呼び止めた。

 「ん?なんだ?」

 悠人が近寄ってきて耳元で囁く。

 「佳織と何話してたんだ?」

 「なんでわざわざ耳元で尋ねるかは知らんが、俺の『日課』についての話だが?」

 「え………日課…………?」

 『日課』と聞いた佳織が信じられないような目で朔夜を見る。

 そういうと、悠人は疑うようにこっちをみてから、

 「それって…いつものアレのことか?」

 「ああ、今日は教頭の椅子にブーブークッションを」

 「わかった、もういい。別にたいしたことがなかったならいいんだ。」

 話を変に切ろうとする、悠人。

 「なんだ?気になるなあ」

 「いや……いいんだ、ほんとに。」

 「そうか?俺には……」

 「いいって言ってるんだ!」

 突然の怒鳴り声に驚く、二人。

 「…おいおい、どうしたよ。佳織ちゃんが驚いてるぜ?」

 「あ……すまん、佳織。驚かせて…」

 「ううん、いいの………」

 (………………………………………?)

 妙な空気。この空気は――嫌だ。

 「まあ、この話は終わりだ。俺は帰る。じゃあな!」

 「あ、おい……」

 一人、逃げる。

 

 二人から逃げ、朔夜は帰る途中でふと頭をよぎったフレーズを口にだす。

 「歪んだ兄妹、か…」

 そう、無意識に。

 

 日常の崩壊は、近い。

 

 200X年12月18日

 

 放課後――朔夜は一人歩く。

 普段歩く道。何も考えずにいても自然と足は動く。家に向かうように。

 しかし、その日だけはいつもと違った。

 何かに操られていたかのように、歩き続ける。

 何処にあるのかわからない目的地を目指すように。

 休むことなく歩き続け、息が切れはじめる。

 それでも、この感覚に逆らう気は不思議となかった。 

 

 気がつくと、朔夜は神社の前に立っていた。

 「神木神社…?」

 そう、石に彫られていた。

 さっきまでの感覚は、今はなくなっている。

 「ふう…………」

 石段に座り休んでいる。

 「………ッ!」

 すると、今まで以上の強い焦燥感に駆られた。 

 『境内に行け』

 心が命ずるままに階段を駆け上がっていく………。

 

 「……………!……………………!」

 何か聞こえる。そう思うと、焦燥感がどんどん募ってゆく。

 石段を、駆け上がり、駆け上がり、駆け上がり…………!

 その先に何があるのか。

 

 「な…………!」

 ――視界全体を覆い尽くす金色の光が広がる。

 だが、それでも焦燥感は止まらない。

 『進め、進め、進め、進め、進め、進め、進め、進め、進め……………!』

 心が求めるがままに境内に向かって歩き続ける。

 

 やがて、目の前には人の姿。

 「誰……?」

 ワカラナイ

 「誰なんだ………?」

 オボエテイナイ

 「覚えていない……?つまり、知っていた………?」

 自分の中の声に戸惑う。

 そのまま声はむなしく空に散っていく。

 金色の光の中で、謎は深まる。

 

 光はおさまることなく、強くなっていく。

 意識は次第に薄れていく。それでもまだ焦りはどこかに残っている。

 『旅立て、異世界へ』

 「あ…………………………」

 心の声が大きくなる。

 薄れていく意識の中、最後に見たのは――

 コノカオハ、シッテイル

 「あなたは自分からこの道を選んだの。だから、絶対に後悔だけはしないで――」

 そう、悲しそうに笑う、少女の姿だった………………

 

 

 

 

 

あとがき

 疲れた………。初めて書いたため、読みにくい部分が多々あるでしょうが、我慢してくださいね。

 それにしても、やはり読むのと書くのはちがうなぁ………。書いても書いても終わらない。

 自分でも納得いかないところがたくさんでてきますし。

 さて、物語はここから始まるんですが、朔夜のキャラでこの物語やっていけるのかひどく不安です(汗

 できるだけ早く執筆するように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。

 

 

 

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