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 イレギュラーズ・ストーリー

 

十七章 失意

 

ガキーン!

ドォォォーーーン!

あちこちで剣戟や、爆発音が響き渡る。

剣を振っては、敵を切り裂き。

槍を突いては、貫く。

夢でもなく、テレビの向こうの出来事でもない、現実の戦争がそこにはあった。

ただその戦争は、ある種の神秘性に富んだモノだった。

美しい容姿をした女性達が剣や、槍を振る。

死に逝く時は黄金の霧となり、幻想的なまでに美しい光景として余勢を残す。

その戦争の只中にあって、ユートは自分がまるで神話の中の世界にもぐりこんだ様な錯覚を覚えた。

 

 

ケムセラウトへ全兵力を集結させたラキオス軍は、ルカモの月に入るやいなや、<法皇の壁>への一斉攻撃を開始した。

ダスカトロン砂漠の侵食を拒絶するように築かれ、外敵の侵入を完璧に防いできた堅牢無比な壁だった。

しかし逆を言えば、敵に後ろを取られる事も無いし、補給線の心配もする必要ない。

基本的に一本道なために、戦力を分散させる必要も無い。

まさに全ての力をもって、<法皇の壁>の突破に取り組む事が出来た。

 

流石に非常に訓練された帝国のスピリット隊は強かった。

しかし【因果】のコウインと【空虚】のキョウコ、二人の強力なエトランジェに加え、旧マロリガン共和国の残存スピリット部隊を編入した新生ラキオススピリット隊。

当初懸念されていた各部隊間の連携も【真実】のシンを通してスムーズに行われ、<法皇の壁>は、ラキオス軍の攻撃開始から半月と持たず陥落した。

 

さらに今度は<法皇の壁>を逆に拠点として利用し、リレルラエルに向けて進軍を開始する。

リレルラエルまでも基本的に一本道のため、後方の憂いは無い。

途中で伏兵が待ち構えていたようだが、それもシンの‘遠見’の力で事前に察知する事ができ、特に苦戦する事も無く進軍を続けた。

そして、ラキオス軍は、<法皇の壁>を破った勢いを衰えさせる事なく、一気呵成に帝国の玄関口とも言える都市、リレルラエルを制圧する事に成功した。

 

だが問題は此処からである。

今までの帝国のスピリット隊は飽くまでも門番といったところだろう。

此処から先は帝国の主力部隊が待ち構えてるはずだ。

通常の主力部隊に加え、皇帝側近の近衛兵、帝国最強のエリート部隊と名高い皇帝妖精騎士団、以前ウルカが隊長を務めていた遊撃部隊。

考えるだけでも頭が痛くなってくる。

そして最大の問題は・・・・・

 

《リレルラエル》

そこにはユート、コウイン、キョウコ、エスペリア、シンが集められていた。

他のスピリット達は警護にあたっている。

「ユート様。わたくし達は<法皇の壁>を穿ち、リレルラエルを攻略した事で、帝国制圧への拠点を手に入れた事になります。」

エスペリアが皆を見回し、静かに話し始める。

「今後はさらに南下し、今度は<秩序の壁>を突破しなければいけません。・・・しかし此処からが問題なのです。」

「何が問題なんだ?」

ユートはよく判らず?顔になる。

「・・・ユート。お前はもう少し敵の事を知れ。」

シンが呆れるように言う。

コウインも苦笑する。

「な、何の事だよ。」

<秩序の壁><法皇の壁>とは少し違う防御構造になってる。」

コウインがボソリともらす。

「ユート様、<秩序の壁><法皇の壁>とは違い、エーテルを壁全体に供給する事で絶大な防御力を作り出しているのです。此ればかりは神剣を持つわたくし達と言えども、突破する事は出来ません。」

「えっ?じゃあ、どうするってのよ?」

キョウコも?顔になる。

「・・・まずはそのエーテル供給を止めなくてはいけない。」

近くのイスに座って聞いているシンが口を開く。

「エーテルを供給しているのは、ゼィギオス、サレ・スニル、ユウソカの三都市だな。この三都市を制圧しなけりゃ、<秩序の壁>は突破できない。」

シンの言葉を次いでコウインが答える。

「その通りですユート様。三都市の<秩序の壁>へのエーテル供給を止めなければいけません。」

三人して丁寧にユートに教える。

「えーっと、つまり何が問題なんだ?」

結局よく解かってないユート。

「地図を見ろ。地図を!」

シンが呆れて言う。

「ルートが二つに別れるだろう?セレスセリスを通ってゼィギオスへ向かうルート。シーオスを通ってサレ・スニルへ向かうルート。」

「戦力を分散させなければいけないって事さ。」

シンとコウインが代わる代わる教える。

「別に一つずつ制圧してもいいんじゃないの?」

キョウコもよく解っていない。

「「「それは難しいだろう(でしょう)。」」」

エスペリア、コウイン、シンがハモる。

「一つずつ制圧してたら、時間がかかり過ぎる。ここは帝国領内の深部になるしな。」

「持久戦は辛いって事さ。」

「それに、一つを集中して責めてたら、手薄になったリレルラエルが危ない。リレルラエルを奪還されたら背後を取られちまうからな。たとえ戦力を分散させてでも、二箇所同時に進軍、攻撃、制圧した方が、危険が少ないんだよ。」

「問題なのは、その戦力をどう分担させるかだな。」

コウイン、シン、コウイン、シンの順番で解りやすくユートとキョウコに説明していく。

「なるほどな・・・。で、何か案はあるのか?」

「それなんだがな・・・。俺の考えとしては、ユート・コウインを隊長とする部隊と、エスペリア・ウルカを隊長とする部隊の二つに分ける事を提案する。」

シンが提案する。

「根拠はなんだ?」

コウインが無精髭をさすりながら聞いてくる。

「まずは四人とも部隊を指揮した経験があるということだな。二つ目に防衛の要である、コウインとエスペリアを分ける。コウインとユートを一緒にしたのは、【求め】も【因果】も敵の探知能力には優れてるだろ?敵の襲撃前に素早く察知できるはずだ。例え察知が遅れたとしても、特に力の強いエトランジェが二人いれば、戦力的な不安はなくなる。」

「なるほどな。」

妙案だという顔でコウインがうなずく。

「逆にエスペリア・ウルカは神剣の力としては四神剣には及ばない。しかし俺がこっちの部隊に入る事で、遠見の能力を使えるし、ウルカには帝国内に関して土地勘がある。つまり確実にこちらが先手を打てるわけだ。そうすればかなり有利に戦闘を迎えられる。一つ一つの力はエトランジェほどじゃないが、これなら戦力的なバランスが取れるわけだ。・・・・・ウルカに関して言えば戦闘能力はユートより上だしな。」

一旦意見を聞くために四人を見る。

「どうだ、エスペリア?キミから判断して。」

「わたくしはそれで構わないと思いますが・・・。」

さらにコウインを見る。

「ん?俺もそれでいいと思うぜ。後は他のみんなをどう振り分けるかだな。」

次いでユート。

「えっと、いいんじゃないか?」

キョウコ。

「えっと、いいんじゃないの?」

本当にこの二人は解っているのだろうか・・・・。

 

結局シンの提案が採用され、ユート・コウイン部隊とエスペリア・ウルカ部隊の二つに分けられた。

エスペリア・ウルカ部隊にはシンとキョウコも入っている。

そうなると当然シンの側にくっついているヘリオンもこちらである。

バランスを考えて同じブラックスピリットのファーレーンはユート・コウイン部隊。ファーレーンにくっついているニムも同じ。

ならばハリオンはエスペリア・ウルカ部隊。

ユート大好き三人娘である、オルファ、ネリー、シアーの三人はユート・コウイン隊。

やたらとコウインが喜んでいたが・・・・。

セリアとヒミカはエスペリア・ウルカ隊。

年少組みが多い為、アセリアとナナルゥはユート・コウイン隊となった。

此れで戦力的なバランスは比較的問題ないだろう。

 

進軍のために一度でもリレルラエルから出たら、少なくとも一ヶ月近くはお互いの隊が顔を合わせる事は無いだろう。

勿論エーテルジャンプを利用すれば可能だが、その装置を作るのにも時間が掛かる。

基本的にゼィギオスとサレ・スニルを制圧しなければ、それは無いと言っていいだろう。

お互いこれっきりという事もありうる・・・。

 

制圧したリレルラエルで次の進軍の準備、及び休息の為、三日間の時間がとられた。

そしてリレルラエル制圧から四日目の朝。

ラキオス軍は動き始めた。

 

「それじゃあ、みんな。これからは部隊が二つに別れる。それぞれの隊がゼィギオスとサレ・スニルを制圧した後、ユウソカを目指す。三都市のエーテル供給を止めれば<秩序の壁>を突破できる。そしたら後はサーギオス帝都まで一直線だ。」

隊長であるユートが皆を見回し、そう告げる。

三都市さえ制圧できれば、後はいっきにいける。

長かった戦争ももう直ぐ終わる。

皆の表情は引き締まっていた。

そして、二つの隊はそれぞれの目的地にむかって進軍を開始した。

 

 

《エスペリア・ウルカ隊》

エスペリア、ウルカを隊長とした部隊は、セレスセリスを通ってゼィギオスへ向かうルートを進軍していた。

リレルラエルを出発して早三日。

予想通り敵の主力部隊が襲撃をかけてきたが、事前に敵を察知する事ができた為、大きな苦戦を強いられる事は無かった。

「なぁ、エスペリア。セレスセリスまで後どのくらいかかる?」

シンがウルカと共に先頭を歩くエスペリアに声をかける。

「距離からすれば後二、三日だと思いますが・・・。」

少し困った顔で答えるエスペリア。

「申し訳ございません。帝国に入るのは初めての事なので、わたくしにも詳しくは判りません。」

済まなさそうに答える。

「いやいや、そんな謝る必要は無いぞ。」

手を振りながら答える。

「此処からならば、セレスセリスまでは二日とかからないでしょう。」

そんな様子を見て、隣を歩いていたウルカが答える。

始めから土地勘のあるウルカに聞けばよかったのだ。

「サンキュー、ウルカ。」

(後二日か・・・。)

シンは思う。

セレスセリス、次いでゼィギオスへ着いたとして、自分にいったい何が出来るのだろう?

戦闘要員としてはまるで役に立たない。

エーテルジャンプ装置を建造する暇も無いので、連絡要因としてもあまり意味が無い。

イオの【理想】のように、神剣を通して連絡が取れればいい。

【真実】なら出来そうな気はする。

だが今は【真実】は休眠状態にある。

何もする事が無いのだ。

事前に敵を察知できるのは良いとしても、実際に戦闘になったらする事が無い。

ヘリオン達の後ろで邪魔にならないよう見ているしかない。

敵に捕まりでもしたら、役に立たないどころかただの足手まといだ。

それだけはゴメンだった。

「はぁ・・。」

静かにため息を漏らす。

「ため息とは珍しいわね。」

「そうですね。どうしたんですかシン?」

どうやらため息が聞こえたらしく、シンの直ぐ後ろを歩いていたセリアとヒミカが、話しかけてきた。

「うむ・・・。弱音に聞こえるかもしれんが、ハッキリ言ってしまえば、俺は何かみんなの役に立っているのだろうか、と思ってな・・。」

普段のシンならこんな弱気を吐くような事は無い。

例外があるとすれば、ヘリオンと【真実】の前だけだった。

「何言ってるのアンタ?」

セリアがキョトンとしている。

セリアにしてみればかなり意外な一言だったのだろう。

もっともそれはヒミカも同じだ。

「そうですよ、シン。」

「いや、自分で言うのもなんだが、今の俺の存在価値は事前に敵を察知できる。此の一点に限る。実際の戦闘においては、お前達の後ろで邪魔にならないように見ている事しかできん。・・・・それが・・・なんと言うか、その・・・申し訳ない、と思ってしまうわけだ。」

シンの言葉にセリアの顔はさらにキョトンとなる。

「アンタ、熱でもあるんじゃないの?アイスバニッシャーで冷やしてあげましょうか?」

セリアが突っ込む。

「こら、セリア!」

ヒミカがセリアの言葉をたしなめる。

「お前に言った俺がバカだったぜ。」

シンがそっぽ向く。

「そう。アンタがバカな事を言ったのよ。」

セリアが腕を組んでウンウン頷く。

「お前なぁ・・・。」

ジト眼でセリアを見るシン。

「いえ、セリアの言う通りですよ、シン。」

ヒミカがセリアの言葉に賛同する。

「シン。貴方はバカな事を言いました。・・・シンの価値は戦闘能力だけにあるわけじゃ無いでしょう?・・・・勿論それもあるんでしょうけど。」

そう言ってヒミカは後ろをチラッと見る。

最後尾はヘリオンとキョウコとハリオンが談笑しながら歩いている。

それを見てヒミカは微笑む。

そして再びシンの方を向いて話し出す。

「シン、貴方の価値はむしろ、その存在にこそ重点を置くべきだと思います。シンが居るだけで、あの子達は笑顔になれます。」

「そうね。ヒミカの言うとおり、それで良いんじゃない?」

セリアも同意する。

二人の言葉は嬉しかった。

まだまだ自分の居場所は此処にあるのだ。

「お前達二人はどうなんだ?俺がいたら嬉しい?」

ちょっとからかってみる。

「えっ!?わ、わたしは・・・その・・別に、・・・・み、みんなと一緒ですよ。」

赤くなりながらも笑顔を見せるヒミカ。

「わ、私は別に・・・う、嬉しくないわよ。って言うか、私の笑顔を見ようなんて、じゅ、十年早いわ。」

顔を赤くさせてブンブン首を振るセリア。

そして慌ててそっぽ向く。

「と、とにかく下らない事でいちいち弱気にならないで頂戴。そ、そっちの方が隊の士気に影響がでるわっ。」

「そういう事ですね。シン。」

「ああ。ありがとう二人とも。」

シンは心底二人に感謝していた。

皆を裏切ったあの日から、自分にはもう居場所は無いと思っていた。

だが、戻ってきた場所は前と変わっていなかった。

皆、前と変わらず受け入れてくれた。

何度も確かめた事だが、それでも不安だったのだ。

だけど二人と会話はそれを再確認する事が出来た。

とにかく今は自分の出来る事をやろう。

たとえ帝国戦が終わっても自分の戦いは、まだ終わりではないのだ・・・。

 

「そう言えば・・・・・、ウルカは帝国に誰か知り合いとかいないのか?」

シンがふと思いついて問いかけてみる。

考えてみればウルカがラキオスに来た理由を知らない。

だが帝国に居た頃は親しい者達も居たはずだ。

それならば随分長い間あってない事になる。

ピクッ・・・。

シンの言葉にウルカが反応する。

心なしか震えているようだ。

「・・・わ、悪いこと聞いたか?」

恐る恐る聞いてみる。

「・・・いえ・・・。手前には友と呼べるものは居りませんでした。」

小さな声でポツリともらすウルカ。

「強いて言うなら、カオリ殿でしょうか。短い間でしたが・・・。それに・・・、」

そこで一旦言葉をとめる。

歩きながらも皆は、ウルカの話に耳を傾けていた。

「・・・手前に部下が居りました。共に戦の最前線で剣を振った部下が・・・。」

ウルカはそう口に出して心配そうな顔をする。

「その部下達はどうなったんだ?」

「判りません。」

首を振りながら答える。

「以前手前は神剣が使えなくなり、帝国から放逐されたのです。・・・戦えぬスピリットなど、何の価値も無いのだから仕方の無い事・・・・。それ以後部下達の消息は不明です。」

冷静に答えるウルカ。

今の状況を考えれば落ち着いた態度だった。

「随分冷静なんだな・・・。お前の部下が今も健在なら、今後戦う事になるかも知れないんだぞ?」

「承知の上です。手前は恩を受けたユート殿、レスティーナ殿の為に剣を振ることを決めたのです。ようやく見つけた戦う為の理由・・。たとえ相手がかつての部下であっても手前は剣を振ります・・・・・。」

迷いの無い信念の宿った眼だ。

最初から覚悟していたのだろう。

シンは眼を瞑り、懐かしむかのように笑う。

・・そして思う。

何かの為に何かを切り捨てる。

それが正しい事だとは思わない。

だが人は誰しもそういった選択に迫られる時が来る。

かつての自分がそうだったように。

そういう時に必要なのは強い信念、揺ぎ無い心なのだ。

「・・・そうか。ならいいんだ。」

そこで会話を切り上げ、一行は再びセレスセリスに向かって歩みを速めた。

 

 

同じ頃、シーオスを通ってサレ・スニルへ向かうルートを進軍するユート・コウイン隊。

あと少しでシーオスに入るところまで来た。

現在はシーオス付近の森を通過している所だ。

シーオスはもう直ぐそこだ。

神剣を持ったエトランジェ、スピリットの能力ならば例え休憩を入れたとしても、丸一日もかからないだろう。

コウインという強力な戦力が加わってか、ほとんど苦戦する事も無く此処まで来た。

コウインはユートとは違い、指揮官としても優れていたし、判断力にも優れていた。

残念な事にユートは指揮の経験はあっても、重要な判断はエスペリアに任せきりだったので、どうにも頼りない。

勿論みんなの為に身体を張る姿は、ユートの頼りなさをカバーして優しさを見せる。

「もう少しで、シーオスかぁ。」

独り言を呟くユート。

ユートとアセリア、ファーレーン、ニムの四人で少し先行して偵察を行っている。

残りはコウインと共に少し遅れてやってきている。

いざという時、かたまってないと危険だが、この方が索敵範囲が広がるのだ。

リレルラエルを出発して既に幾日かが過ぎている。

エスペリア達は無事だろうか?

もうセレスセリスに着いたのだろうか?

とっくにゼィギオスを制圧してしまったのだろうか?

そんな思いがユートを駆け巡る。

過ぎた時間を考えれば、ゼィギオス制圧しているなんてありえないのだが、ユートは色々と考えてしまう。

「ユート様。考え事は危険ですよ。」

ファーレーンがそんなユートを見て声をかけてくる。

「ああ、悪い悪い。エスペリア達の方は大丈夫かな、と思ってな。」

ユートが謝りながら答える。

「エスペリア達はユートよりは大丈夫だと思うし。」

ニムがつっこむ。

「こら、ニム!ユート様に失礼でしょう。」

ファーレーンが慌ててニムをたしなめる。

「ハハッ。いや、いいよ。本当の事だしさ。まぁ、実際、エスペリア達なら上手くやってると思うし。」

軽く答えるユート。

離れた仲間たちを信じているのだ。

勿論、現在共に行動している仲間たちもだ。

その全員で事を成し、生き残るのだ。

勿論カオリも含めてだ。

シュンとの決着は必ずつける。

ユートが改めて、そう決意した時だった。

ピィーーーーン

此処からでは見えないが、どうやら前方の木々の向こう側にマナが集まっているようだ。

「・・・・ユート。」

アセリアが警告する。

「解っている。みんな迎撃体勢をとれ。」

ユートが素早く支持を出す。

直前まで気配を感じなかった。

それに、この現象は自分達が利用しているエーテルジャンプと同じ現象だ。

エーテルジャンプが使えるのはラキオスだけだと思っていたが、別に帝国が実用化していても何の不思議も無い。

おそらく何者かが転送されてくるのだろう。

しかし、この感じ取れる神剣の強さはどうだろう。

明らかにスピリット達のそれとは違う。

むしろ、コウインやキョウコ、シンに感じるものと同種のものだ。

ユートの【求め】を握る力が強くなる。

(ま、まさか・・・・。)

同時に【求め】からの干渉が強くなる。

此れほどの強制力をかけられたのは初めてだった。

しかしユートも成長している。

気合をいれ、【求め】の強制力に抗い、身体の自由を取り戻す。

【求め】の言わんとしている事は解る。此れほどまでの純粋な感情なのだ。

ユート達が身構えている中、マナの収束が終わった。

いくつかの神剣の気配を感じる。

その内一つはやはり、スピリットのモノとは違う。

そして木々を掻き分け、それは姿を現した。

「シュン!!貴様―――!!」

そこに立っていたのは紛れも無くシュンと幾人かのスピリット。

そしてカオリ・・・。

「遅かったな。・・・もっと早く来ると思っていたんだがなぁ。・・・待ちくたびれちゃったよ。」

ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべるシュン。

「安心しろよ。もう待つ必要は無い。」

歯をむき出しにして笑う。

【求め】の力を引き出しすぎたか、獰猛さがましているようだ。

「ユート様、神剣にのまれないよう・・・。」

ファーレーンが後ろから声をかける。

今のユートにとっては、それすらも耳に入っていない。

「お・・お兄ちゃん・・・。」

辛そうに答えるカオリ。

いつもとは違うユートの変化に戸惑っているのだろう。

「カオリが怯えるのも解る。・・・随分いい表情しているじゃないか。」

ユートにはシュンが何を言っているのかわからない。

(怯えている・・・・?)

そんな筈がない。

だが、カオリがこちら側に逃げてこないのは何故だ・・・。

それどころか、なるべくユートと眼を合わせないようにしているようにも見える。

「カオリは気付いているのさ。貴様が獰猛な殺戮者だと言う事にな。」

「違う!!俺は殺したくて殺してるわけじゃない!!」

「へぇ・・・よく言う。私利私欲の為にスピリットを殺しまわってるヤツが。」

「なんだと!!」

「所詮お前も偽善者なんだよ。あのレスティーナと言う、女王気取りのバカ女と同じだ。大義名分を掲げて、その影では何をしている?世界の為の戦いと言いつつ、スピリットを使って侵略と破壊を繰り返しているだけじゃないか!」

憎々しい目でユートをにらむシュン。

「お前も同じだ。カオリの為に何人ものスピリットを殺して、力を手に入れたんだろう?そしてその力で今度は僕を殺そうとしている。・・・・自分の為に。カオリを手に入れるために、たくさんのモノを踏みにじってきたんだ、お前は!!」

「それを・・・・貴様が言うのか!貴様が!!」

「当たり前だ、ずっとずっと僕のカオリを騙し続けてきた男が!!」

「俺はカオリを騙してなんかいない!!」

「そう思ってるやつが一番タチが悪いんだよ。思った通り、お前は最悪の人間だ。・・・だがそれももう終わりだ!お前の化けの皮は剥がした。後はカオリの眼を覚ましてやるだけだ。」

ユートの言葉にシュンは顔を歪めて笑った。

見ているだけで気分が悪くなる。

そしてシュンは赤く輝く【誓い】を構える。

「お前の好きにはさせない!絶対にだ!!」

そしてユートは蒼く輝く【求め】を構えた。

そして両者同時に大地を蹴った。

「あははははーー。死んじゃえ!死んじゃえよ!!」

「ウォーー!!バカ剣いくぞー!!」

シュンとユートの戦いが始まった事で、残りのスピリットも一斉にアセリア達と剣を交え始めた。

 

ユートとシュンの戦いはユートが優勢に事を運んでいた。

そしてユートの渾身の一撃がシュンに襲い掛かった。

「くっ!」

手応えはあった。

シュンのオーラフォトンの壁は粉々に砕け散った。

そして再び剣を構え力を込める。

練り上げたオーラフォトンが【求め】に収束していく。

シュンをこの世から消し去る・・。その目的の為だけに・・・。

「っく。虫けらの分際で僕に・・・僕に・・・。」

「その虫けらにお前は殺されるんだ!!塵となって消えろーーー!!!」

そしてユートは、弧を描くように一気に【求め】を振り降ろ・・・!!

「・・・・っ!!」

そこでユートにとって思いもよらぬモノが飛び込んできた。

「良かった。僕もカオリも死んじゃいけない、二人とも助かるには、この方法が一番だった。」

ユートの目の前に飛び込んできたのはカオリだった・・。

「シュン・・・お前は・・・っ!!」

【求め】はカオリの眼前、数センチのところで止まっていた。

いや、ユートが全力で止めたのだ。

あのままではカオリごとシュンを叩き斬っていただろう。

そしてそれがユートに一瞬の隙を作った。

「やっぱり僕が正しかったぁーーー!!!」

その隙を逃さず、シュンが【誓い】を突き出した。

ズシュッ。

嫌な音が響き渡った。

「お、お兄ちゃん・・・・。」

カオリが弱々しい声で呼びかけてくる。

「ユート様!」

「・・・ユート!」

「あっ!ユート。」

ファーレーンとアセリアとニムもユートの姿を見て声を上げる。

ユートは涙を流すカオリの顔を見ながら、膝を着き、そして前のめりに意識を失った・・・・。

・・・・・・

・・・・

 

その後どんなやり取りがあったかは解らない。

次にユートが眼を覚ました時は、既にコウイン達によって制圧された、シーオスの宿の一室だった。

聞いた話では、どうやらカオリが、自分がシュンのもとに居続ける事と引き換えにユートの命を救ったのだそうだ。

それを聞いてユートは涙を流した・・・。

悔しさと怒りで身体が震える。

だが泣いているばかりいるわけにはいかない。

「俺はカオリを助けないといけないんだ・・・。皆もきっと助けてくれる。」

自分の弱さを認める事は難しい事だ。

しかし認めたからこそ、ユートはさらに強くなれるだろう。

心身ともに・・・。

今までが一人で背負い込みすぎていたのだ。

ずっと一緒に戦ってきた仲間がいる。

・・・・ずっと一緒に育ってきたコウインやキョウコもいる。

頼る事は悪いことではない。

一人ではないのだ。

「キョウコ達は無事かな・・・・・。」

ユートは部屋の中で一人、ポツリと漏らした・・・・。

・・・・・・・・・

・・・・・

・・

 

その頃エスペリア達は、コウイン達と同じくセレスセリスを落とす事に成功していた。

敵もそれほど多くなく、比較的簡単に制圧する事が出来た。

今度は此処を拠点として、目的地であるゼィギオスへと進攻を開始しなければならない。

出発は二日後になる。

それまでは、此れまでの行軍の疲れを癒せばいい・・・。

 

「さて、と。次はいよいよゼィギオスだな。」

セレスセリスの宿の一室でシンがポツリともらした。

「そうですね。上手くいけばいいんですけど。」

シンの独り言に応えるヘリオン。

「大丈夫だろ。客観的に見ても、俺達の部隊は強い。問題ないさ。」

「そ、そうですかぁ〜?えへへ/////

シンに褒められ喜ぶヘリオン。

単純である。

よく言えば素直か・・・。

「ユート様達は大丈夫でしょうか?」

話題を変えてヘリオンが口を開く。

「大丈夫だろう。まぁ、コウインもいる事だしな・・・。余程の事が無い限り、あいつ等も今はシーオスを制圧したくらいじゃないかな。・・・・・‘遠見’が使えれば確認できたんだが・・・・。」

そう言って、【真実】を握り締める。

「シン様・・・。」

そんなシンの様子を見て、腕にしがみつくヘリオン。

「・・・ん・・・心配するな、ヘリオン。」

「はい・・・。」

ちなみに二人は相部屋だった・・・・。

 

 

セレスセリスを制圧して三日目の朝。

エスペリア達はゼィギオスに向けて進軍を開始した。

基本的に一本道。迷う事は無いだろう。

だが途中からは、ゼィギオスを囲むようにしてトーン・シレタの森が広がっている。

見通しも悪くなるし、敵の待ち伏せも多くなるだろう。

今まで以上に神経を使う行軍となる。

 

「な〜んか薄気味悪い森ねぇ〜。」

キョウコがポツリともらす。

それほど薄気味悪いとは思わないが、幽霊とかの類が苦手なのだろうか・・・。

「何だ、キョウコ。お前怖いのか?」

シンが茶化す。

「そ、そんな訳無いでしょう!!」

慌てて否定する。

此処は既にトーン・シレタの森の中だ。

森に入るまでは幾度か戦闘があったが、森に入ってからはピタリと敵の襲撃はなくなっていた。

それも、薄気味悪さを助長しているのだろう。

「ですが確かに変です。急に敵の襲撃がなくなるなど・・・。」

エスペリアも思うところがあるのだろう。

「罠でしょうかねぇ〜。」

場違いに緊張感の無い声でハリオンが言う。

「確かに・・・。考えられる可能性は二つだな。」

ハリオンの言葉にシンが答える。

「一つはハリオンの言うとおり罠。もう一つは・・・・・・。」

「絶対的に腕に覚えのある者が、守りについているか・・・と、いったところでしょう。」

シンの言葉を継ぐようにウルカが口を開いた

ウルカの言葉に頷き返すシンとエスペリア。

「隊列は崩さぬよう注意して進みましょう。」

エスペリアが皆に声をかける。

先頭はエスペリアとウルカ。

最後尾はハリオンとヒミカとセリア。

真ん中にシンを間に挟むようにして、キョウコとシンとヘリオン。

強襲されても対応しやすい隊列だ。

一行は最大限辺りを警戒しながら進んだ。

 

一時間ほど進んだだろうか。

シンの提案で一度立ち止まる。

「いくらなんでも変だな、これは。ちょっと‘遠見’で周囲を見てみるから待っててくれ。」

そう言って近くの木に寄りかかる。

「そうですね・・。いくらなんでもこれは無防備すぎます。」

「確かに誘い込まれて様な感じがするわね。」

ヒミカとセリアも同意する。

今のシンでは2、3キロ範囲しか見れない。

最大限、力を行使したとしても6、7キロと言った所だろう。

だが、それでも他の神剣の索敵範囲よりは広い。

静かに眼を瞑るシン。

見守る一行。

「どうですかシン様。」

エスペリアがそう尋ねる。

「ふむ・・・・。特に敵の姿は見えない・・・・・・ん!?」

何かを発見したのか、キョロキョロ動いていたシンの目が止まる。

「何か見つけたのでしょうか?」

ウルカが尋ねる。

「これは・・・・・間違いない、敵だな。」

静かに口を開く。

「此処から4、5キロほど南下したと所に、ちょっと森がひらけてる場所がある。そこにスピリットが二部隊と人間が一人いるな。」

やはり敵はいた。待ち伏せていたようだ。

「帝国のスピリットなの?」

キョウコが問いかける。

「間違いないな。あの人間には見覚えがある。名前は忘れたが・・・・確かサルドバルトへ軍事同盟を結びに来ていた、帝国の使節だったヤツだ。」

眼を瞑ったまま、キョロキョロしながら答える。

「スピリットはどうでしょうか?」

エスペリアが、人間の事よりもスピリットの事を聞く。

結局は人間。

実際の戦闘ではたいした意味は無いのだ。

そう考えていた。

「・・・・かなり強いな。今の俺じゃ詳しくは解らんが、サルドバルトに来ていた、当時のヤツの護衛も相当な強さだった、と記憶している。今がどうかは判らんが、あの時より弱くなってると思えん・・・。」

淡々と情報を紡ぎだすシン。

「どっちに しても先に進むしかないんでしょ?」

キョウコがあっさりと言う。

だが言われてみればその通りだ。

「だな。考えてても仕方ない。先に進もう。相手は二部隊と人間一人。数の上じゃこっちの方が有利だ。いくら強いと言っても負けは無いはずだ。と言うより負けるわけにはいかん。」

「そうですね。幸い相手の特徴も判りましたし、準備は万全にしていきましょう。」

エスペリアが皆に指示を出す。

おそらく向こうも既に、こちらに気付いているだろう。

だから、特に動く事もせずに進路上で待っているのだろう。

余裕の表れだろうか。

それとも、何らかの罠を仕掛けてるのか。

どちらにせよ、エスペリア達は進軍するしかなかった。

 

それから数分。

エスペリア達の索敵範囲に入り、全員敵を捕捉している。

その神剣から発せられるマナの強さはかなりのものだ。

一筋縄ではいかないだろう。

「これは・・・まさか・・・。」

ウルカがポツリともらす。

「どうしたんだ、ウルカ?」

ウルカの異変を感じたシンが声をかける。

「いえ、何でもありませぬ。手前の気のせいでしょう・・・・。」

そう言って、黙るウルカ。

それ以上は聞けない雰囲気だ。

仕方無しにシンも行軍を続ける。

そして、再び数分行軍した時、ひらけた場所に出た。

 

 

「待っていましたよ。」

三十歳半ばくらいだろうか。

隊長と思われる男がそう声を上げた。

周りには神剣にのまれたスピリットが、意志を感じさせない瞳でこちらを見ている。

その男は何と言うか・・・・酷く生理的嫌悪感を感じさせる。

全員そう感じるようで、渋い顔をしている。

いや、エスペリアとウルカだけは何か愕然とした表情を浮かべている。

それを不審に思いながらもシンは男の言葉に答えた。

「生憎だが、こっちに用は無い。とっとと消えろ。」

「私も貴方になど興味はありません。私が用があるのはエスペリアですよ。」

卑下た声でエスペリアの名を呼ぶ。

「ソ、ソーマ様・・・。」

呼ばれた本人はブルブル震えている。

「あの時見逃したのは正解でしたねぇ。此処までに成長するとは思っていませんでしたよ。」

ニヤニヤしながらエスペリアを舐めるように見る。

「・・・・・。」

エスペリアは何も答えず、相変わらず震えている。

「気持ちの悪いヤツだな。お前とエスペリアにどんな関係があるのか知らんが、敵である事は間違いないようだな。」

シンのその言葉に皆が臨戦態勢をとる。

しかし、エスペリアとウルカだけは未だに動かない。

「どうしたの二人とも?」

キョウコが二人に声をかける。

「て、手前は・・・。」

ウルカは何かを悩みながらも、構えをとる。

エスペリアは動かない。

「わ、わたくしは・・・。」

「さぁ、こちらに来るのです。エスペリア!貴方の居場所はそこではありません。自分がどんな女だったか、忘れたわけでは無いでしょう?」

シン達を無視してエスペリアに話しかける男。

エスペリアは尚も震えながら、男を見ようとしない。

「ゴチャゴチャ煩いわね!あんた!何か知らないけど、エスペリアをアンタなんかに渡すわけ無いでしょう!みんないくわよ!!」

キョウコの声を合図にエスペリア、シンを除く全員が動き出した。

男の周りに居たスピリット達も、音も無く動き出す。

「おや、エトランジェ殿。貴方は動かないのですか?」

シンに向かって笑みを浮かべながら言い放つ男。

その顔から見て、シンが力を失った事を知っているのだろう。

だからこその余裕か。

相手のスピリットは六人。

こちらもシンと、何かを恐れ動こうとしないエスペリアをのぞいて六人。

戦力的に五分だと思われるが、どうもウルカの様子がおかしい。

いつもに比べて動きが鈍い。

動作に躊躇いの様なものを感じる。

しかもこのスピリット達、かなりの使い手のようだ。

みな徐々に押されていく。

「どうしたのです、エスペリア。このままいけば、どうなるか解らない貴女では無いでしょう?お仲間を救いたいのでしたら、どうすればいいか、解りますね?」

相変わらずのいやらしい顔でエスペリアに声をかける男。

「いちいち煩いやつだ。」

そう言うや否や、シンは男に向かって攻撃を仕掛けた。

【真実】を突き出す。

いくら力が落ちているとは言え、相手は所詮人間。

適わない道理は無い。

そう考えていた。

だが・・・、

ガキィーーーン!!

シンの突きは、男の剣によって受け流された。

無駄の無い動きだった。

「なっ!?」

(この男は自ら剣を使うのか?)

まさかの真実。

しかしいくら剣を使うと言っても、エトランジェの一撃を受け流すとは、本来ならありえない。

「無様ですねぇ〜。エトランジェの一撃が、こんなにも情けないとは。」

男はニヤつきながら、そう言った。

「くっ!」

そう言って再び攻撃を仕掛けた。

 

一方キョウコ達は・・・。

「ライトニングブラスト!!!」

ズドォーーーン!!

強力な一撃が敵のスピリットを襲う。

かなりの強さを持ったスピリットもこれには適わなかった。

キョウコの神剣魔法をまともに食らい、ほとんど跡形も無く消えてしまった。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

荒い息を吐くキョウコ。

「はぁ、はぁ、このままじゃ不味いわね。」

周りを見渡しながら呟く。

エスペリアは何か事情があるのか、まったく動こうとしない。

ウルカの様子も、どこかおかしい。いつものキレがない。

と言うより守ってばかりで、攻撃しようとしない。

要となる二人がおかしい為、他の皆もいつものキレがない。

それに、この敵スピリット達は本当に強い。

今、一体倒したが、状況が不利なのには変わりが無かった。

その時ふと、シンと敵の男が戦っているのが目に入った。

「あんのバカ。前に出てくんじゃないわよ!」

慌てて救援に向かおうとするキョウコ。

だがその時、ウルカと戦っていたスピリットがウルカを無視して、キョウコを襲ってきた。

ウルカは問題にならないと判断したのだろう。

ウルカも何故か動こうとしない。

「くっ。」

キョウコは再びスピリットと剣を交えた。

向こう側ではハリオン、ヘリオン、ヒミカ、セリアで四人のスピリットと戦っていた。

 

ザシュッ!!

敵の神剣がヒミカとセリアを切り裂く。

それと同時にヘリオンとハリオンが一体のスピリットをマナの霧と化した。

「し、しまったわね。」

セリアが辛そうに声を上げる。

「・・・・・・っ。」

相当の深手なのだろう。ヒミカも眉をしかめている。

相手のスピリットを一体、倒したが、こちらは二人が深手を負ってしまった。

実質これからは、二対三だ。

ウルカやエスペリアがいつも通りに動いてくれれば問題は無いのだが・・。

その二人はやはり動こうとしない。

エスペリアはただ震えているだけ。

ウルカは何かを躊躇っているようだ。

「ハァー。月輪の太刀!!」

ヘリオンの一撃が敵を襲う。

しかしその一撃は残念ながら敵のグリーンスピリットによって、阻まれてしまう。

すかさず別のスピリットが反撃してくる。

「わっ。」

ヘリオンの顔、スレスレのところを敵の斬撃が通り過ぎていく。

自分でよく避けれたものだと思うヘリオン。

ハリオンはもう一体のスピリットを相手にしており、ヘリオンの援護にまわれそうにない。

実質へリオンは一人で二人のスピリットを相手にしていた。

このままでは本当に不味い。

ヘリオンもそう感じていた。

(エスペリアさん。ウルカさん・・・。)

一向に動こうとしない二人に一瞬、眼をやる。

しかしそれがいけなかった。

ドンッ!!

「きゃっ!!」

敵の攻撃をまともに食らってしまった。

幸いにも神剣を使った攻撃ではなく、ただの体当たりだったので致命傷にはならなかった。

しかしそれでも、体勢を崩されダメージを負ってしまった事に変わりは無い。

瞬く間に二人のスピリットに囲まれる。

「わっわっわ!」

焦るヘリオン。

「ヘリオン!!」

その姿を視界におさめたシンが、男への攻撃を止めヘリオンのもとへ急いで駆けつけようとした。

しかしその行動は二人のスピリットによって阻まれる。

シンめがけて神剣を振るうスピリット。

「ぐわっ!!」

シンは、敵の一撃を受け止めただけで吹き飛び、後方の木に激突した。

「うっ、つう。」

あまりの衝撃に顔をしかめる。

意識が朦朧とする。

衝撃で息が出来ない。

これほどまで力の差がついていようとは。

「シン!!」

それを見たキョウコがシンのもとに駆けつける。

「エスペリア!シンに癒しを!」

キョウコはエスペリアを見てそう言った。

しかしエスペリアは。

「わ、わたくしは・・・・。」

青ざめた表情で動こうとしない。

「くっ、みんな一度戻って!!体勢を立て直すわ!!」

キョウコがそう命令する。

ハリオンも、深手を負ったヒミカもセリアも何とか戻ってきた。

敵もどうやら一度集まるようだ。

しかしヘリオンがやってこない。

「ヘリオン!!」

ヘリオンは二人のスピリットによって囚われていた。

「は、はなしてください。」

ジタバタするが、スピリットは動じる事も無くヘリオンを抑えている。

その時、敵の男が一歩前に出た。

「さぁ、エスペリア!来るのです。あなたがこちらに来ればこのスピリットは解放しましょう。」

エスペリアを見て言い放つ男。

「この事態は貴女が招いた事なのですよ。あなたがしっかり戦えていればこんな事にはならなかったのですからね。・・・・かわりませんねぇ、その魔性ぶりは。あの時もそうでしたでしょうか。」

ニヤニヤ笑いながら言葉を発する男。

その言葉にエスペリアは今まで以上に顔を青くする。

「おっと、ウルカ。貴女の事を忘れていましたよ。感動の再会を演出して差し上げましたが、いかがでしたか?」

ウルカもエスペリアと同様に青い顔をする。

しかしその目は男を睨んでいる。

「アンタ!ヘリオンを離しなさい!」

キョウコが叫ぶ。

「離せと言われて離す人がいますか?」

バカにした目でキョウコを見る。

「エスペリア。時間を与えましょう。」

キョウコを無視してエスペリアに話しかける男。

「もし、その気があるのなら、一人でゼィギオスまで来なさい。そうすればこのスピリットは解放してあげましょう。」

「ソ、ソーマ様・・。」

「こなければそれまでです。このスピリットがどうなるか・・・、それは貴女が一番よく知っていますね。」

卑下た笑みを浮かべ一歩後ずさる男。

「ヘ、ヘリオンを離せ。」

意識を朦朧とさせながら口に出すシン。

「シ、シン様〜。」

目に涙を浮かべながらシンの名を呼ぶヘリオン。

このまま連れて行かれれば何をされるか解らない。

だがキョウコたちもヘリオンを人質に取られている以上、迂闊に動けない。

「では、ゼィギオスで待っていますよ。」

男はそう言うと、スピリットに抱えられ物凄いスピードで森の中へと消えていった。

「シ、シン様――!!」

「ヘ、ヘリオン・・・。」

ヘリオンの叫び声を聞きながらシンは意識を失った。

 

 

                                                                            続く

あとがき

はい。十七章 失意アップです。

何か最後の辺はかなりテキトーな感じになってしまいました。すいません。

まぁ、タイトルどおり色んな人の失意がテーマとなっていますね。

ヘリオンがどうなるかはまだ解りません。

ひょっとしたらソーマの手篭めにされてしまうかも・・・・。

い、嫌過ぎる。

何とか三週間くらいでアップさせます。

それでまた次回。

 

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