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「・・・・・次で終わらせます・・・・。シン様との訓練をもとに生み出した、この技で・・・・。」

「・・・・・・・来い、ヘリオン。」

「・・・・いきます、シン様・・・。」

スッと眼を閉じるヘリオン。そして・・・・、

「画竜点睛の太刀!!」

カッと眼を開きヘリオンは・・・・・消えた。

ヒュン。

風が抜けたかのような音が聞こえると、ヘリオンは一瞬の内にシンの背後に立っていた。

既に刀は鞘に収められている。

そして、その眼からは涙が流れていた。

ぶしゅーー!!

激しく血を噴き出させるシン。

流れ出た血は、すぐにマナの霧となって消えていく。

(願わくば・・・俺のマナを【真実】に・・・・。)

そしてシンの意識はゆっくりと途切れていった。

 

 

イレギュラーズ・ストーリー

 

 

第十五章 変わらない場所

 

「・・・・・・ふぅ。」

一人の巫女服の女性がお茶を飲む手を止めて、ゆっくり溜め息をつく。

「どうしてあそこで止めた訳?今までは、そんな事しなかったのに。」

その場には彼女しかいないが、女性は誰かに問いかけた。

『・・・あそこであの娘を殺してしまったら、もう戻れません。堕ちていくだけです。・・・・それでは困りますし・・・。』

何もない空間から別の女性の声が聞こえてくる。いや、僅かにボンヤリと光っている。

「だったら、最初から助ければ話は早かったのに。」

巫女服の女性が不機嫌そうに答える。

『それでは意味がありません。・・・そもそも、あれは私がやった訳ではありません。あくまで【真実】の意志です。』

「そうなの?・・・まっ、いいけどね、どっちでも。・・・・・・約束さえ守ってくれれば、アンタが何をしても。」

巫女服の女性は軽く息をつきながら答えた。

「それより・・・、そろそろ時深もテムオリンも動き出しそうなんだけど・・・どうする?」

話題を変えて話しかける巫女服の女性。

『・・・・・分かっています。ですが、実際動き出すまでは放っておきましょう。』

何も無い空間が、静かに答える。

「了解!っと。」

巫女服の女性はそう言って、再びお茶を飲み始めた・・・・。

 

 

《ラキオス》

・・・・暗闇の中、シンは一人で中を漂っていた。

慌ててキョロキョロと辺りを見回す。

そして、近くに【真実】がある事を確認すると、【真実】を引き寄せて安堵の息をつく。

強く・・・強く【真実】を握り締める。

もう二度と何処かに行ってしまわない様に・・・・。

顔を上げてボンヤリと辺りを見回す。

何も無い。

ただひたすら、闇がその場を支配した。

その中で暫くボーっとしていると、すぐ近くに二つの大きな光の塊が現れた。

「・・・・・テムオリン!タキオス!!」

光の塊の中に居たのは、憎むべき敵。

【真実】を傷つけた張本人。

光を纏った二人は、ゆっくりシンに近づいてくる。

シンは、その憎むべき相手を前にして、何故か一歩も動く事が出来なかった。

そして、テムオリンとタキオスはシンを挟むように立った。

「うふふふふ。所詮坊やはこの程度ですわ。」

「シンよ!貴様の力には失望したぞ。」

そう言って二人は、左右から近づいてきた。

テムオリンとタキオスの纏った光の塊がシンを押し潰していく。

「くっ!!」

シンは舌打ちをする。

避けたいところだが、足が動かない。

手で押し返そうとするが、その光はヤケに弾力があり力が入らない。

「っぐ!・・くる・・・・しい・・・・。」

思わず眼を閉じる。

光の塊に押しつぶされ息が出来ない。

意識が朦朧とする。

 

 

意識を途切れさせまいと、慌てて眼を開ける。しかし辺りには何も見えない。闇が広がるだけだ。

自分を押しつぶしていた光の塊は勿論、肝心のテムオリンやタキオスの姿も見えない。

それどころか自分の身体さえ見えない。

眼が見えなくなったのだろうかと疑う。

だが、相変わらず圧迫される苦しみはある。

「っぐ!・・くる・・・・しい・・・・。」

圧迫しているものを押し返そうと、見えない手を伸ばす。

手を動かしている感覚も、圧迫しているモノを触っている感覚もある。

「あうん♪」

「?」

変な声が聞こえた。

ボヨ〜ン。

もう一度触る。ヤケに弾力がある。

「あうん♪」

「・・・・・・!?」

その声を聞いてシンは何かに思い当たり、慌てて身体を動かした。

身体を離すと、そこには、同じベッドの中で一緒に横になっているハリオンの姿があった。

「ウワァァァーーー!!何やってるんだ、ハリオーーーン!!」

いきなりの事でパニックになるシン。

「うふ♪シン君おはよう。」

そう言って再びシンを抱き寄せるハリオン。

その豊満な胸の中に再び埋もれるシン。

「っ!!!」

一体どうなっているのだろうか?

何がなんだか解らない。

ハリオンの胸に埋まりつつ考えていると、外の方からバタバタと大きな音を立てて近づいてくる足音が聞こえてきた。

バタンッ!!

そして勢いよく扉が開かれる。

「シン様!!」

入ってきたのはヘリオンだった。

「な、な、な、何してるんですかぁ、ハリオンさん!!!!」

ベッドの上の光景を見て大声を上げるヘリオン。

「あらへリオンちゃん。」

相変わらずのマイペースで答えるハリオン。

「うふ♪」

そして再びシンを抱きしめる。

「は、は、離れて下さい!!」

慌ててハリオンに近づきシンを引き離す。

「あらあらあら。」

名残惜しそうにシンを離すハリオン。

「むぅ〜〜!!」

可愛い声を上げて怒ったヘリオンは、引き離したシンを自分の腕の中に収める。

「・・・ヘリオン・・・?」

シンはボソッと呟く。

状況を理解できていない。

「・・・ここは・・・。・・・一体何が・・・・。」

辺りをキョロキョロしながらボソボソ呟くシン。

「シン様・・・・。」

ヘリオンは眉をひそめてシンを見る。

「ヘリオン・・・。」

シンはそんなヘリオンの顔を見て少しずつ理解していった

先ほどの光景が夢であった事。

此処が何処なのか。

自分に何が起こったのか・・・。

 

 

シンが目覚めた事は、すぐにユート達の知るところとなった。

ユート、コウイン、キョウコの三人及びラキオスのスピリット達がシンの部屋に集まった。

全員は入れないので、実際に中に居るのは、年長者であるエスペリア、セリア、ハリオン、ヒミカ、ファーレーン、そしてヘリオンの六人である。

部屋の中に重苦しい空気が立ち込める。

「・・・・・・・・・・どうして俺を殺さなかった・・・・・?」

シンが俯いたまま、ポツリと切り出した。

「それは俺達じゃなく、ヘリオンちゃんに聞くんだな。」

いつもの様な余裕の笑みを浮かべてコウインが答えた。

コウインの言葉を聞きヘリオンの方を見る。

二人の視線がぶつかる。

「・・・どうしてだ・・・。・・・・俺は自分の望みを適える為に、罪を犯してきた・・・。・・・【真実】の復活のために進んで罪を犯してきた・・・・・。そしてお前を捨てた。」

視線を逸らさずシンは話し続けた。

「・・・・シン様。・・・・・・・・・私はそれでもシン様が好きです。理屈じゃないんです。」

同じように視線を逸らさず離すヘリオン。

「・・・・・何があっても、シン様の側に居たいんです。」

「だから俺を助けたって言うのか?・・・・・甘い。甘すぎるぞ、ヘリオン。」

シンは鋭くヘリオンを睨む。

「俺は生きている限り、【真実】復活の為なら何度でも同じ事をする。相手がお前達だって例外じゃない!近くに居るお前達を必ず襲う事になる!!」

そう言って皆の顔を見る。

「「「「「「返り討ちです。」」」」」」

‘ね’とか、‘よ’とか語尾の違いはあったが、その場の全員が同じ答えを出した。

「今のアンタじゃ無理ね。」

セリアが鼻で笑う。

「・・・・コウイン、お前は俺が憎く無いのか?お前の恋人を殺そうとしたんだぞ?・・・・・それにキョウコも。俺はお前を殺そうとしたんだぞ?」

コウインが腕組みをしながら答えた。

「まっ、確かに許せないな・・・・。でもまぁ、俺もユートに同じ事したしなぁ・・。」

「私は別に・・・・無事だったし。私も人の事言えないし・・・・・・ねぇ?」

何が、ねぇ?なのか解らないが、どうやら二人ともあまり根に持ってないらしい。

「・・・・・・ユート・・言ったろ?俺は同じ事をするって・・・。カオリちゃんを狙うかもしれないんだぞ?」

今度はユートに振ってみる。

「それは俺がさせない。・・・・それに俺達も言っただろ?返り討ちだって。」

ユートもコウイン達と同じ事を言う。

「・・・・もういい。」

シンは諦めたように言葉を吐いた。

そして傷ついた身体を無理やり起こそうとする。

「シン様。どうするつもりですか?」

ヘリオンが冷静に問いかけてくる。

「どうもこうもあるか。お前達が俺を殺すつもりが無いなら、此処出て行く。」

「今度は私も付いていきますよ。」

シンの言葉に、ヘリオンはさも当然のように即答した。

「・・・・・ついて来てどうなる?俺はやめるつもりはない。むしろお前を襲うかもしれん。」

「言ったじゃないですか。私が止めるって。それに、襲われても返り討ちです。」

にこやかに答えるヘリオン。

「シン。出て行っても意味がないだろう?出て行って、同じ事をやろうとしてもヘリオンに止められる。それなら此処に残ったらどうだ?」

ユートが提案する。

「ヨーティアも力になってくれる。その為にヨーティアにも話を聞かせたんだろ?」

周りのスピリット達も同意する。

その言葉にシンは少し考える。そして・・・、

「・・・・・それこそどうなる。言ったろ?此処に居れば、俺は必ず皆を襲う。」

「シン君♪私達も言ったでしょ?その時はメッ、だって。」

ハリオンがにこやかに答える。

「そうですシン様。あなたの帰りを待っていた娘もいるんです。ですから此処に残ってください。」

ファーレーンはセリアやヒミカ達を見ながらそう言った。

「そ、そうね。その娘達の為にも・・・残ってもらわないとね。」

セリアがしどろもどろに答える。

「そ、そうですシン。ネリーとかシアーとかニムもシンが帰ってくるのを待っていたんですから。」

ヒミカも同じ事を言う。

「そうだぞ、シン。ヘリオンちゃん達を悲しませてはいけない。お前は此処に残るべきだ。」

コウインが真面目なのか不真面目なのか解らない顔で答える。

シンは皆の顔を見ながら考えた。

(ヨーティアが解決策を見つければそれで良し。見つからないなら、出て行けばいいか・・・。それまでは何とかしてキョウコのマナを・・・。)

色々と画策するシン。

シンは、まだキョウコの事を諦めていない。

やはりスピリットとエトランジェでは構成するマナの密度も量も違う。

簡単には諦めきれない。

スッと顔を上げるシン。

「・・・・・いいだろう。取りあえずは此処に残ろう。」

そしてキョウコを見る。

「だが、隙があればキョウコ、お前の身体を頂く。」

「アンタねぇ〜。まだ懲りてないわけ?・・・・そんなに私の事が好きな訳?」

キョウコは呆れながらも、頬を染める。

「何処までもおめでたいヤツだな、お前は。・・・・女としてお前に魅力を感じた事など一度もない!」

スパァーーン!!

何処から取り出したのか、キョウコはハリセンでシンの頭を叩いた。

「まったく失礼なヤツね。私の何処に魅力が無いってのよ。まったく。」

ぶつぶつ文句を言うキョウコ。

「・・・このっ・・。・・・・・そんなところがだよ。少しはヘリオンの様におしとやかさを身につけたらどうだ?」

シンのセリフにヘリオンが顔を赤くする。

「シ、シン様///////

「そうだな。キョウコはもう少しヘリオンちゃんを見習った方がいいな。」

「そうだな。毎回ハリセンは痛いもんな。」

よせばいいのに、コウインとユートがシンのセリフに同意する。

「ア・ン・タ・ラ。」

パチパチ。

キョウコの身体に雷が走る。

「天誅!!」

ズドォーーン!!

キョウコオリジナル、ライトニングハリセンが炸裂する。

「あわわわ。シ、シン様!!」

「ユ、ユート様!!」

シンとユートにエスペリとヘリオンが慌てて駆け寄る。

そんなシンとユートの周りに他のスピリット達も集まってきた。

皆に見守られ再び気絶するシンとユート。

コウインは一人寂しく焦げていた。

 

 

シンが眼を覚ましてから三日が経った。

マロリガン戦が終わって既に七日が経っている。

傷はもう随分よくなっていた。

深い傷だったが、致命傷にならない様に斬られていたし、エスペリアとハリオン、それにニムが交代で治癒してくれたからだ。

 

今部屋にはシン一人しか居ない。

幸いにも【真実】は手元にある。

今のシンでは、神剣があっても何も出来ないという、コウインの判断で【真実】を返してもらう事が出来た。

その事には感謝している。

「・・・・・どうするか・・・。」

部屋の窓を開けて夜空を見上げる。

ハッキリ言って暇だ。

【真実】の事はヨーティアに任せてあるし、自分ではする事が何も無い。

宣言どおりに皆を襲おうとしても、現状では不可能だ。返り討ちにされてしまう。

しかも監視がついているため、下手な事は何も出来ない。

もっとも監視といってもそれ程きついものではない。

隣の部屋にヘリオンが引越し、シンの様子を見ているぐらいだ。

部屋を出るときは必ず一声かけられる。

内容によってはそのまま着いて来る時もある。

ちなみに館の入り口付近の部屋には、ヒミカやセリアが居るため勝手に館を出る事は出来ない。

「・・・・そう言えば、傷が治ってなかったから風呂に入ってないな・・・。」

くんくん。

匂いを嗅いでみる。

「・・・むぅ〜・・・。」

汗臭い。

「よしっ!傷も良くなったし風呂に入るか。・・・・・コイツも洗ってやらないとな。」

【真実】を持ち上げる。

長い旅路でろくに洗ってやる事も出来なかった為、結構汚れている。

ベッドから立ち上がり、部屋を出る。

すると隣の部屋からヘリオンが出てくる。

「シン様、何処に行くんですか?」

「風呂だ。傷も良くなったからな。」

「どうして神剣を?」

ヘリオンが一応尋ねる。

「コイツも洗うからな・・・。ラキオスに居た頃は毎日やってた事だぞ・・・・。・・・・・なんなら一緒に入るか?」

シンはニヤッと笑う。

「えっ//////!・・・あ、あの・・・そ・・の・・・・ぁぅぅ・・・・・・・ひ、ひ、一人で入ってください!」

ヘリオンは顔を真っ赤にさせて答え、部屋に戻っていった。

「そんなに恥ずかしがる事か?」

シンはぶつぶつ言いながら風呂場へと足を進めた。

 

風呂場に着きスパスパっと服を脱ぐ。

ガラッ。

扉を開けて浴場の中に入る。

先に誰かが入っていたのだろうか。もうもうと湯気が立ちこめていた。

頭からお湯をかぶる。

傷がしみるが大した事はない。

そして、湯船に浸かる。

「ふぅ〜〜〜。」

ラキオスの風呂に入るのは何ヶ月振りだろうか。

 

「ん、なになに、誰かいるの〜?」

「ん?」

別の方から誰かが声をかけてきた。

どうやら先客が居たようだ。

しかもわざわざこちらに近づいてくる。

「・・・・誰だ・・?」

シンも声をかける。

「え?」

驚きの声。そして湯気の向こうに居たのは・・・、

「きゃぁぁ〜〜〜っ!!」

意外なほど可愛らしい声を上げて、キョウコが身体を隠す。

「やかましぃぃ〜〜!!」

負けじと大声を上げるシン。

「こ、このバカシン!なんだって、入ってくるのよ!!」

キョウコがくってかかる。

「何だ、キョウコか・・・。」

どうでもいいかのように答えるシン。

「何だ、じゃないでしょうが!このスケベーー!!」

再び大声を上げるキョウコ。

「煩いなぁ〜。大人しくは入れんのか、お前は?」

シンはそう言って湯船の方を指す。

「ん?」

指した湯船には別の人影があった。

「あれ?ウルカじゃないか・・・。」

「はい。今はラキオスに身を置いておりますゆえ。・・・・・こうして言葉を交わすのも、随分と久しぶりの事です・・・。」

イースペリアで剣を交えた時の事を思い出す。

ウルカは強かった。今まで戦ったスピリットの中でも一位、二位を争うほどの強敵だった。

「ああ、久しぶりだな。」

「ちょ、ちょっとウルカ。何和んでんのよ。早く追い出さないと。」

キョウコが突っ込む。

「何故でありましょうか?」

「何故って・・・、イヤでしょう?」

「・・・??・・・・・手前は特に気になりませんが?」

冷静に答えるウルカ。

「それに、手前は嬉しいのです。ゆっくり風呂を楽しむという習慣はラキオスに来てからのこと故。」

のんびりと安らいだ表情で言うウルカ。そこにいるのは戦場で恐れられた者の顔では無い。

「それから、風呂場では騒がぬのがしきたりと聞きます。キョウコ殿も気をつけられたほうがよろしいでしょう。」

「まさにウルカの言う通りだぞ、キョウコ。大人しく入ってろ。」

シンがウルカの言葉に心の底から同意する。

「・・・・ああ、もう解ったわよ。ただし極力こっちをみないでよ。」

大人しく胸を隠しながら湯船に浸かるキョウコ。

ウルカにいたっては隠そうする気持ちすら見えない。

シンもわざわざ隠そうとする事も無い。

【真実】を湯船につけ、丁寧に洗っている。

「シン殿は、何をしておられるのですか?」

【真実】を洗っているシンを見てウルカが話しかけてきた。

「そうね、一体何やってんの?」

キョウコも聞いてくる。

「・・・【真実】をな、洗ってるんだ。毎日の日課だったし、洗ってやらないと機嫌が悪くなるんだよ。それにコイツは大事なパートナーだからな・・・。」

【真実】を洗いながら、ポツリポツリ話すシン。

「おお。それは素晴らしい。」

ウルカは随分感心している。

どうやら、共感するものがあるらしい。

「へぇ〜、そんな事やってるんだ。」

キョウコも不思議そうに見る。

その言葉にふとキョウコを見るシン。

「・・・?・・・・キョウコ・・・・、お前何か変わったか?」

唐突にそう切り出す。

「か、変わったって、何がよ?」

シンに見られて、どもりながら答える。

「・・・・・・三日前は気付かなかったが・・・・なんと言うか、随分女らしくなったというか、いい身体になったというか・・・。」

「それは、手前も感じておりました。身体が丸みを帯びたような気がします。」

ウルカも同意する。

//////な、何言い出すのよ!!」

顔を赤くさせて、お湯をバシャバシャさせるキョウコ。

「まぁ・・・どうでもいいが・・・・。ん?」

そこである事に気付く。

(待てよ・・・・・・。今は絶好のチャンスじゃないか?・・・・二人とも神剣を持ってないし。)

値踏みするように二人を見る。

「ちょっ、ちょっと何考えてんのよ。まさかまた襲おうとか考えてないでしょうね。」

キョウコがズバリ聞いてくる。

「・・・・まさにその通りだ。よく考えたら、お前達は今神剣を持ってないしな。絶好のチャンスだ。」

「無駄ですシン殿。手前の神剣は脱衣所に置いてありますゆえ、すぐに取り寄せる事が出来ます。それに例え神剣が手元に無くとも、ある程度は神剣の加護を受けられます。今のシン殿ならば、それで十分でしょう。」

ウルカは冷静に答えた。

「・・・・フン。」

ウルカの言葉を聞き、ふてくされるシン。

「まったくアンタは、いい加減諦めなさいよ。ヨーティアが方法を探してくれてるんでしょうが。」

「この程度で諦めるんなら、最初からやらないさ。」

湯あたりを防ぐために、一度ザバッっと音を立ててシンは立ち上がる。

「ちょ、ちょっと少しは隠しなさいよ。」

隠す事もせずに立ち上がったシンから眼を背ける。

「気にするな・・・。」

「気にするわよ!」

キョウコが言い返す。

ガラッ

その時浴場の扉が開いて、誰かが入ってきた。

「あれ?ユートじゃないか。」

「あれシンも風呂に入ってたのか。」

腰にタオルを巻いたユートが入ってきた。

「こ、このバカユウ!なんだって入ってくるのよ!!」

キョウコがそれに突っ込む。

「キョ、キョウコ!?・・・いや、キョウコが入ってるとは思わなかったんだって。」

ユートは慌てて弁解する。

「それに、シンも一緒に入ってたみたいだし、別にいいだろ?」

へりくだった言い方でユートは何とかキョウコを抑えようとする。

「いいではありませんか、キョウコ殿。皆で入る風呂というのもいいものです。」

ウルカが落ち着いた口調で話す。

「そうだな、今更気にする事でも無いだろう・・。」

再び湯船に浸かりながらシンも同意する。

「むぅ〜、解ったわよ。・・・さっさと入ったら?いつまでもそんな所に居ると風引くわよ。」

キョウコは渋々了解しユートにも風呂を勧めた。

「そ、そうか。助かるよ・・・。」

そう言ってユートも湯船に浸かる。

暫く四人してボーっと湯に浸かる。

ウルカとシンはこの状況を意識することなくリラックスできている。

しかしキョウコとユートはどうにも落ち着かない。

異性と共に入っていると言う事もあるのだろうが、ユートに落ち着きが無い。

チラチラとキョウコの方を伺っている。

「・・?・・ユートも感じたか?」

そんなユートの態度に気付いたシンが話しかける。

「な、何がだ?」

キョウコの方を見ていたユートが慌ててシンの方に向き直り、問い返す。

「キョウコだよ。随分女らしくなったと思わないか?魅力的な体つきになったと言うか何と言うか・・・。」

キョウコを見ながらシンが答える。

「んなっ//////!!ア、アンタはまたっ!」

キョウコが顔を赤くさせる。

「そ、そ、そんな事無いんじゃないか?ハハハハハ。」

妙に動揺するユート。

「ちょっとユウ。そんな事無いってどう言う事よ!アタシには魅力がなって訳?」

キョウコがコブシを握りながらニコやかに凄んでくる。

「そ、そんな事は断じてない。」

首をブンブンしながら答えるユート。

「だよな〜。いい女になったって褒めてんだ。少し落ち着けよ、キョウコ。」

再び立ち上がり、キョウコに向かって言うシン。

「わ、分かったわよ。って、ちょっとアンタ少しは隠しなさいよ。」

大人しくシンの言う事を聞いて、再び突っ込むキョウコ。

「気にするなと、言ってるだろう?」

「気にするわよ。」

「気にすると思うぞ、シン。」

ユートも突っ込んでくる。

「フン。・・・俺はもう上がる。お前達はゆっくり語らってくれ。」

そう言って浴場の扉へと向かう。

「シン。この後はご飯だからリビング集まってくれよ。ああ、部屋に戻るんなら、ヘリオンにも伝えてくれ。」

ユートが出て行くシンに向かって声をかける。

「・・・・分かった。」

後ろ向きのまま片手を上げて答えるシン。

そしてそのまま脱衣所へと消えていった。

 

 

「・・・・おい。一体どうするんだ?」

ユートにとってそれは、体験した事のない深刻な事態だった。

絶望的な気分でリビングに集まったメンバーを見る。

「・・・・誰かまともに料理できないのか?」

ユートの言葉に皆沈黙を持って返す。

要するに誰もいないのだ。

前線待機等の理由で、戦力の半数はラキオスにはいない。ウルカも風呂から上がって前線に行ってしまった。

そして今日に限っていないもの達が重要だった。

「ネリーはできないよぉ〜。」

「シアーも〜。」

「す、すみません。自信ないです〜。」

ネリー、シアー、ヘリオンが敗北宣言を出す。

残ったのはナナルゥとアセリア。

アセリアの料理がまだ食べられる段階では無い事は皆知っている。

「・・・・ナナルゥはどうなんだ?」

シンがナナルゥに聞いてみる。

「・・・・調理を試みた事はありません。・・・・命令ならやってみます。しかしその場合、食材を無駄にする可能性もありますが・・・。」

「・・・いや、そんなに無理しなくていいよ。」

ユートが落胆しながら答える。

つまるところ、この場にまともな料理人はいない。

「それで、結局メシはどうなるんだ、ユート?」

コウインが聞いてくる。

「いっその事、市場に出て屋台か何かで済ますか?」

ユートの提案にキョウコがシンを見ながら口を挟む。

「アンタ料理上手いんだし、アンタが作ればいいでしょう?」

その言葉に皆一斉にシンを見る。

「シン様、料理できるんですか?」

ヘリオンが期待に満ちた目で見る。

「・・・・俺が作れるのはシンプル料理だけだ。魚を焼いたり、野菜炒めをしたり・・・その程度だ。エスペリアのような手の込んだものは作れんし、味もいたってシンプルなものばかりだ・・・・。」

シンの話を聞き、期待に満ちた目で皆がシンを見る。

「・・・・何を期待してる?・・・・・止めとけ。俺が作ったら睡眠薬とか入れるかも知れん・・・。」

サラッととんでもない事を言い出すシン。

「お前なぁ・・・。」

ユートが呆れ顔で答える。

「大丈夫よ。私も一緒に作るし。」

任せなさい、とばかりに勢い込むキョウコ。

「は?」

「お、おいおい、マジかキョウコ!?」

ユートとコウインが信じられないといった顔で声を上げる。

シンがコウインの隣に移動し、囁く。

「おいコウイン。キョウコの料理の腕は大丈夫なんだろうな?」

「知らん。・・・・完全に未知数だ。」

キョウコと料理がどうしても結びつかない。

不安いっぱいになる皆。

「さてと、アタシとシンだけじゃ大変だろうから、他にも誰か手伝ってくれる?出来れば、調味料とか食材の知識のある人がいいんだけど。」

皆の不安をよそに、キョウコは張り切っている。

「それじゃあ、ヘリオンだよ。お料理の勉強してるんだもんねぇ〜。」

「え、えぇ〜。私ですか〜?」

「おっし、それじゃヘリオンに決定ね。よろしくね。」

「わ、私はまだ勉強中で、シン様に食べて頂けるほど上手じゃありません。」

しどろもどろに、妙な事を口走るヘリオン。

「シンだけに作るわけじゃ無いわよ〜ヘリオン♪」

ヘリオンの言葉にキョウコがからかう。

「あ、あぅ///////

真っ赤になるヘリオン。

「くぅ〜、羨まし過ぎるぞ、シン。」

コウインがシンをつついてくる。

/////むぅ。」

珍しく動揺するシン。

一度捨てたとは言え、改めてヘリオンの気持ちを聞くと照れくさいものだ。

「よ、よろしく頼む、ヘリオン。」

「シン様・・・・。」

「料理の勉強しているヘリオンが必要なんだ・・・。」

「!! が、頑張りますっ!」

シンに必要だと言われて、俄然やる気を出すヘリオン。

「美味しい料理作りましょうね!」

とびっきりの笑顔で答えるヘリオン。

「あ、ああ////

そのヘリオンの顔に照れるシン。

(ヘリオン・・・。)

その時シンは、やはり自分はヘリオンが本当に好きなのだと改めて自覚した。

「な〜んか、いい雰囲気出してるわねぇ〜。私は邪魔だったかな?」

キョウコがそんな二人を見て、呟く。

「そ、そんな事ありません。」

ヘリオンが慌てて答える。

「そうだな。そんな事より早く作っちまおうぜ。」

シンも慌てて答える。

そして三人はキッチンへと消えていった。

 

三人が去ったリビングでは。

「ユート様、できるまで遊ぼ〜。」

「遊ぼ〜。」

ネリーとシアーがユートにくっついて来る。

どうやらオルファのやり方を参考にしたらしく、身体全体でぶつかってくる。

「くっ、ユート。なんて羨ましい。」

コウインが悔しそうに見る。

「羨ましいといわれてもなぁ・・。」

「ネリーちゃん、シアーちゃん。ユートは忙しいみたいだし、俺と遊ばないか?」

ニヤニヤしながら二人に近づくコウイン。

「やぁ〜」

「ユート様のほうがいいもんねぇ〜。」

拒む二人。

「そんな事言わずにさぁ〜。」

なおも言い寄るコウイン。

バリバリバリバリバリバリ!!

そんなコウインを、キッチンから伸びてきた稲妻が直撃した。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」

プスプスといい感じに焦げながら、ダウンするコウイン。

ユートはコウインが沈黙した所で、キッチンの様子を見るべくこっそり覗く。

ネリーとシアーもそれに習う。

 

「ふざけるな、貴様!!何だ、これは!?」

シンの大声がキッチンの中で響き渡る。

「ふざけてないわよ!どっからどう見たってシチューでしょうが!!」

負けじとキョウコの大声が響き渡る。

「お、落ち着いてください二人とも。」

その二人を、ヘリオンが諌める。

「いや、これだけは黙ってられないぞヘリオン。・・・・紫だぞ?何をどうしたらシチューが紫色になるんだよ!ヘドロを作るんじゃない!!」

「あ、あぅ・・それは・・・。」

言葉に詰まるヘリオン。

ヘリオン自身、キョウコの作ったシチューには不安を抱いていた。

「ヘドロですってぇー!これはれっきとしたシチューよ!文句は食べてから言いなさいよっ!!」」

キョウコの大声が再度響き渡る。

 

「うわぁ、やってるな、二人とも。」

そんな様子を覗き見たユートが呟く。

「・・・・・それにしても紫のシチュー・・・・大丈夫なのか?」

不安になるユート。

さらに二人のやり取りが聞こえてくる。

「面白い。食べて不味かったら、お前全部食えよっ。」

シンが鋭い目つきでキョウコを睨む。

「・・・ユウが食べるわよっ。」

サラッと言うキョウコ。

「えっ?」

それを聞いたユートは、まさに‘えっ?’っと言う顔になる。

「お、俺が食うの?」

放心状態になるユート。

そして、シンとキョウコとヘリオンが料理を持ってリビングに入ってきた。

テーブルに並べられる料理の数々。

ユートは冷静にそれらを見る。

まずシンの持ってきた料理。

バターでソテーされたであろう焼き魚。いい匂いが漂ってくる。いかにも美味しそうだ。

他にも、大根のサラダに、野菜炒め。

色取りもよく、食欲をそそる料理だ。

一方、キョウコの料理はと言うと・・・。

紫色のシチューらしき謎の物体・・・。

色のせいか、具材がよく判らない。

四角い物体は肉だろうか・・・。

美味いとか不味いとか以前に、食べられるのだろうか?

ゴクッ。

ユートの喉が鳴る。

(これ、不味かったら俺が食うのか・・・。)

食べないという選択肢は無い。

そんなことしたらキョウコに殺されてしまう。

「ユウ。食べなさい。」

キョウコが絶望的な宣告をする。

「俺のが美味しいぞ・・。」

シンが諭す。

シンの料理にいたっては既にネリーとシアーがパクついている。

「オイシー♪」

「オイシー♪」

二人とも美味しそうに食べている。

ナナルゥとアセリアも同じようにシンの料理を食べている。

(ま、まずい。このままでは中和する料理が・・・。)

どんどん減っていくシンの料理。

「ちょっと、ユウ!早く食べなさいよ。」

「うっ・・・。」

キョウコに脅され?仕方なくシチューに手を伸ばすユート。

「が、頑張ってくださいユート様。」

ヘリオンがエールを送る。

しかし、何をどう頑張ればいいのだろうか。

パクッ。

眼を瞑りながら思い切って口の中にシチューを流し込む。

口の中に広がるシチュー。

「・・・・ん?・・・・あれ?」

「どうしたユート?口が腐ったのか?」

スパーン!!

シンの一言にキョウコのハリセンがとぶ。

「失礼ね、アンタは!」

「い、いや・・・・美味い・・・・。」

ボソリと呟くユート。

ユートは覚悟していたが、なかなかどうして。見た目とは裏腹に美味いではないか

「そんなバカな!!」

慌てて紫のシチューを口に運ぶシン。

「・・・・・・・・・・・・・むぅ・・・・美味い・・・かも・・。」

認めたくは無いが、キョウコの作った紫のシチューは結構美味しかった。

ユートとシンの食べる様子を見ていた皆が、その一言でキョウコのシチューを食べ始める。

「・・・・普段と同水準です・・・・。」

「・・・・ん。・・・美味しい・・・。」

ナナルゥとアセリアが呟く。

「「オイシー♪」」

ネリーとシアーの声がハモる。

「ふふ〜ん♪私は残り物とか使って料理するのが得意なの。」

得意げに話すキョウコ。

「・・・・意外だな・・・。」

ボソリと呟くシン。

「フフン。どう、見直した?」

「まあまあだな・・・・。」

「よ、よろしい。」

素直に認めるシンの言葉に動揺する。

それから比較的平和に食事が進んだ。

ちなみにコウインはご飯が終わる頃に復活した。

 

 

部屋に戻ったシン。

ベッドにゴロッとなる。

天井を見ながら考える。

皆変わらない。

あんな事をした自分を、前と変わらず受け入れた。

拍子抜けするくらい変わらなかった。

そんな雰囲気につられて、自分もラキオスにいた頃の自分に戻っていた。

やっぱり此処は居心地が良い。

良過ぎるほどに・・・・。

「【真実】。変わらないな此処は・・・。」

【真実】を握りながら呟く。

だが、本当に自分は此処に居てよいのだろうか?

前の様に皆の側に居てよいのだろうか?

皆もヘリオンも変わらず受け入れてくれるからと言って、ずっと此処に居てもよいのだろうか?

疑問が次々と浮かんでくる。

此処を出るべきではないか?

ここに居れば、自分はきっと弱くなる。

【真実】を復活するのに、その弱さはきっとマイナスになる。

ここにいる皆が・・・、ヘリオンが弱点になる。

「・・・・・・・。」

ゴロッとうつ伏せになる。

暫くベッドに顔をうずめる。

「・・・・・離れたくない・・・。」

噛み殺すように呟く。

弱くなると判っていても、離れたくなかった。

どんなに強がっていても、シンは皆との触れ合いに飢えていた。

【真実】を失って以来、ずっと一人だった。

自分でその道を選んだとは言え、皆に会いたかった。

犯した罪を忘れるくらいに、ここは居心地が良かった。

「・・・・離れたくない・・・。此処にいたい。・・・・・・・俺は此処に居てもいいんだろうか・・・・?」

知らず内に涙が流れていた。

 

「・・・・いいですよ。此処に居ても・・・。」

独り言に答えが返ってきた。

慌てて顔を上げるシン。

扉の所にはいつの間にかヘリオンが立っていた。

「ヘリオン・・・。」

涙を流したままヘリオンを見るシン。

「・・・俺は・・・、此処に居てもいいのか・・・?」

俯きながら問いかける。

「・・・・ダメだと言えば、シン様は文句を言わず此処を出て、また一人で全てを抱え込み、また一人で悩むでしょう?・・・・・・そしてまた一人で傷つく。」

シンの座るベッドに近づき、シンの目の前に立つヘリオン。

「・・・・此処に居てください。・・・・私の側に居てください・・・。・・・もう離れるのはイヤです・・・。」

そう言ってシンを優しく抱きしめる。

柔らかな感触がシンを包み込む。

懐かしい感触だった。

遠い場所に置いてきたハズのぬくもり・・・・。

いつの間に追いついてきたのだろう・・・。

いや、気付かなかっただけで、それはいつも近くに在ったのかもしれない。

前しか見てなかったから気付かなかった。

見る方向を変えれば、・・・自分の帰る場所、自分を迎えてくれる場所はあったのだ。

今だけは此処に居よう。

素直に甘えよう。

大切な人に支えられながら、【真実】を取り戻そう。

「・・・・・・側に居てくれ・・・・・。」

シンは座ったままヘリオンを引き寄せ、抱きしめ返した。

「・・・・ハイ・・・。」

それに答えるようにヘリオンは抱きしめる力を強めた。

二人の影はいつまでも重なっていた・・・。

 

                                                                           続く

 

あとがき

十五章アップです。

再びラキオスに戻ったシンです。

あっさりとラキオスのみんなに受け入れてもらい、シン自身あっさりと溶け込んでいるあたりが変な気もしますが・・・、タイトルの通り、以前と変わらない雰囲気を出したかったんです。それとシンの弱いところを出したかったという事もありました。

次回からは本格的に帝国戦が始まるでしょう。

今のところどういう風にシンを絡めていくか、悩んでいる所です。帝国戦の最後辺りは考えてるんですが、最初辺りがね・・・。

どうなるか分かりませんが、次回もよろしくお願いします。

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