作者のページに戻る

イレギュラーズ・ストーリー

 

 

第十四章 真実は失望と共に

 

「・・・・・・お前達か・・・・・。」

現れた五人に視線を送る。

「・・・・・・・シン・・・・・様・・・・・。」

そんなシンを見て、ヘリオンは呆然と呟いた・・・・・。

 

シンはキョウコを抱きかかえたまま、突如現れたヘリオン達を冷静に見定めた。

(ヘリオン・・・・・・・。)

シンは一瞬だけ申し訳なさそうな眼をする。

ヘリオンたち五人は呆然とシンを見ている。

状況を掴みきれていない様だ。

「・・・・・・シン様・・・。」

ヘリオンが再び声を漏らす。

突然の展開で冷静な思考が出来ない。

シンと再会できた事の喜びは勿論あるだろう。

だがこの状況が、その想いを迷わせていた。

「アンタ、何をやっているの!!」

皆が戸惑っている中で、セリアがいち早く現状の異常さを理解し、行動に移した。

鋭い視線をシンに向けながら、強く問いかける。

「・・・・・久しぶりだな、皆。俺がラキオスを出て随分経ったが・・・・、皆変わらないな。」

笑顔を浮かべながら、質問とは関係無いことを答える。

「そんな事聞いてないわ!これは一体どういう事なの?」

再び同じ事を繰り返すセリア。

「・・・・・・・ハハハ・・・、どうもこうも無いさ。見れば解るだろう?・・・俺が最近何をやっていたのか・・・、解っているんろう?」

短く笑い、余裕のある声で返答する。

「シン・・・、やはり貴方がやっていたんですか・・・、最近のスピリット襲撃は?」

ようやく混乱から回復したヒミカが問いかける。

「シン君、どういう事なんですかぁ〜?」

ハリオンも同じように問いかけてくる。

「そうだ・・・。スピリットを襲っていたのは俺だよ。・・・・・・そして今度はエトランジェ・・・。」

軽くキョウコを持ち上げる。

「・・・・う・・ぁ・・。」

その反動で傷が痛み、呻き声を上げるキョウコ。

「・・・・・その人はユート様の・・・・。」

ヒミカはエトランジェという言葉で、シンが抱えている人物を特定する。

「そう、コイツはユートの大事なヤツだ。」

「何故そんな事を?何故スピリットやエトランジェを襲うの?」

セリアは解らないと言った顔で問いかける。

セリアがそう言った時、マロリガン方面で大きなマナの揺らぎを感じる事が出来た。

そして、よどんでいた空が少しずつ晴れ渡っていく。

おそらくユート達がコアの暴走を止める事に成功したのだろう。

「・・・・どうやらコアの暴走は止まったようだな・・・・・。」

セリアの問いには答えず、マロリガンの方を見る。

「シン!答えてください!!」

「隠し事はメッですよ!」

ヒミカとハリオンが強い口調で、セリアと同じように問いかけてくる。

「・・・今はまだ言うつもりは無い。・・・・ユートとコウインが居る時に話してやるよ・・・・・・。」

そう言うとシンは、倒れているクォーリンの方をちらりと見て、再びセリア達に視線を戻す。

「・・・・お前達に伝言を頼みたい。・・・・俺と岬はニーハスの町で待っている。・・・・・来なかったら、岬とは二度と会えないと、ユートとコウインに伝えてくれ。」

「クッ、キョウコ様を放せ。」

立ち上がる力もなく、地面に倒れたまま話すクォーリン。

「・・・・言った筈だ。お前には俺を止める力は無い。・・・・・・・・・・・・・・・・力無き者が語る言葉なんてものは、所詮悲劇でしかない。」

そう言って眼を伏せるシン。

「・・・そう・・・。・・・無力である事は・・・・・・・・悲劇でしかないんだ・・・・・。」

ギュッと手に力を込める。

「シンが何を考えてるのかは解りませんけど、簡単に行かせると思っているんですか・・・。」

そのシンの態度を怪訝に感じながらも、ヒミカは小さながらも力強い声で話しかけた。

「・・・・お前達にオレは倒せんさ。それに岬もいる事だしな。・・・・戦うのは簡単だが、今俺達が戦えば、岬や周りのスピリット達は皆死んでしまう。そんな事は出来ないだろう?」

冷静に答えるシン。

だが実際には、戦いになればシンはあっさりと負けるだろう・・・・。

「キサラ・・・・シン!・・皆には手を出さないでって言ったでしょ。」

名前を言い直しながら、強く言うキョウコ。

「解ってるさ。だがあいつ等が手を出してきたら、お前が危険なんでな。」

「「クッ。」」

セリアとクォーリンの声が重なる。

ヒミカとハリオンシアーも似たような顔を浮かべている。

自分達の隊長の大事な人。それに既に戦争が終わった以上、敵スピリットだからと言って犠牲になってもいい、などと言う道理は無い。

「・・・安心しろよ。今すぐ岬をどうこうするつもりは無い。ちゃんと傷の手当もしてやるし、飯だって食わせてやる。最大限丁寧に扱わせてもらうつもりだ。・・・・・・俺にとってもコイツは大事なヤツだからな・・・・・。」

そう言って、僅かに下がるシン。

「では、今の伝言をユートとコウインに伝えてくれ。俺たちはニーハスで待っている。・・・二、三日中には来る様にな。」

「ゴメン、クォーリン。ユウとコウインに伝えておいて。・・・・・私は無事だからって・・・・。」

そう言ってシンと抱えられたキョウコはクルリと振り返り、背を向けて歩き出した。

歩き出したシンに、皆何も言えずに立っているしかなかった。

 

「シン様!!」

それまで呆然としていたヘリオンが、背を向けて歩くシンに悲壮な口調で声をかけた。

ヘリオンの言葉にピタリと足を止める。

背は向けたままだ。

「どうして・・・・どうして・・何も言ってくれないんですか・・・?」

搾り出すように声にするヘリオン。

シンが自分に対して何も声をかけてくれなかった事が、たまらなく辛かった。

シンの眼に自分が映っていない事が、たまらなく辛かった。

どうして?

自分はこんなにも待ち望んでいたのに・・・。

 

立ち止まったシンは、決意したように話し始めた。

「・・・・ヘリオン・・・・オレはもう、お前の知ってるオレじゃない・・・・・。」

背中を向けたまま、静かに答えるシン。

「・・・・・オレはもう、昔には戻れない・・・・。・・・・もう・・・・・お前の側に居る事は出来ない・・・。・・・・・だから・・・、」

そこで一旦止まる。そして・・・、

「・・・だからもう、・・・・・・・・・オレを見るのは・・・・止めるんだ・・・・・・・。・・・・オレの心の中にはもう・・・・、・・・お前は・・・・・いない・・・・。」

シンはそう言いきり、再び歩き出した。

 

「・・・・あ・・・ぁ・・・・。」

そのシンの言葉を聞き、ヘリオンは涙を流した。

そして、つっかえ棒が外れたかの様に地面に膝をついた。

ヘリオンは声を上げる事無く、涙だけを静かに流し続けた。

シンの背中を見ながら・・・・・。

 

そしてシンもまたヘリオンに背中を向け、歩きながら静かに涙を流した。

(・・・うっ・ぅ・・・・・すまないヘリオン・・・。)

僅かにキョウコを抱える手が震えている。

そしてキョウコは、泣き震えるシンに抱えられたまま、そんなシンの涙を見ていた・・・・・。

 

 

《マロリガン》

「・・・・・どうしてこうなるんだ・・・・・・。」

手で顔を覆いながらユートは呟いた。

陥落したマロリガンに用意された宿場の広間に、ユートの他、ラキオスのスピリット隊及び【因果】のコウインが集まっていた。

傷の酷い稲妻部隊は全員休んでいる。

そしてヘリオンも・・・・・

居心地の悪い空気がその部屋を包む。

皆何も語らない。

コウインも眉をひそめたまま床を見つめている。

オルファやネリーは、堪えきれずに何か話そうとするが、その場の雰囲気に負け、結局黙ってしまう。

それだけ、ヒミカ達から伝えられた言葉は重いものだった。

「・・・・どうしてこうなるんだ・・・。コアの暴走も止めて、コウインやキョウコも無事に助けられたと思ったのに・・・・・どうして・・。」

どうしてこんなに上手くいかないんだろう。

何をやっても裏目に出ているような感触だった。

長い沈黙が部屋を包む。

その沈黙を破ったのはコウインだった。

「ユート。俺はキョウコを連れ戻しに行く・・・・・・。」

コウインに普段の軽い態度は無く、真剣な表情でユートに話しかけた。

「・・・俺だって行くさ・・・。落ち込んでいても仕方ない。キョウコを助けなきゃな。」

俯いていたユートは、顔を上げ、コウインが普段するような不適な笑みを浮かべた。

「それに、シンは俺達二人に来る様に言ったんだろ?」

ヒミカを見るユート。

「はい。ユート様とコウイン様のお二人は必ず来るように言っていました。シンはニーハスの町で待っています。」

ヒミカの言葉を聞き、再びコウインの方を見る。

「・・・・きっとアイツにも事情があるんだ。話せば解ってくれるはずだ・・・・。」

シンは、ユートとコウインがくれば事情を説明すると言っている。

コウイン達の時とは違い、話し合いで解決できる余地がある。

それだけが一縷の希望だった。

「・・・・ユート。もしアイツがキョウコに危険にさらすような事があれば、その前に俺はシンを殺す・・・。」

コウインは冷静に言い放った。

「・・・待ってくれ、それは!シンにも何か事情がある筈なんだ!!」

コウインのセリフに、ユートは思わず立ち上がり声を荒げる。

「・・・言ったろユート?俺にとってキョウコ以上に大切なものはいない。・・・・もしシンが俺達の敵に・・・・・・いや、キョウコの敵になるようなら、俺は躊躇しないぜ。」

「・・・・・。」

その言葉にユートは何も言えなくなった。

ユート自身、同じ理由でコウインと殺し合いをする事になったのだ。

コウインもキョウコも死なせる事は無かったが、今回もそうだとは限らない。

何としてでも、それだけは止めたいが、コウインのキョウコへの想いの大きさは知っている。

ユート自身にとっても、キョウコはカオリやコウインと同じくらい大事なヤツなのだ。

だがそれはシンに対しても同じだった。

付き合いこそ短いが、この世界で一緒に戦ってきた仲間なのだ。

ユートにとって、キョウコかシンのどちらかを選ぶ事なんて出来なかった。

「へっ。そんなに難しい顔するな、ユート。まだそうなると決まった訳じゃないだろう?」

いつも通りの不適な笑いを浮かべるコウイン。

「・・・・・分かった。とにかく明日の朝出発しよう。・・・皆、疲れているだろうけど頼む・・・。」

マロリガン戦が終わったばかりで本当なら、暫くは休みを取らせたかった。

ユートは申し訳なさから皆に頭を下げる。

「ユート様、顔を上げてください。」

エスペリアが慌てて声をかける。

「そうですユート殿。ユート殿達だけの問題では無いでしょう。手前らにも手助けする理由はあります。」

ウルカも優しく声をかけてくる。

そんな二人につられて、みんなも同じように言ってくる。

そして色々話しているうちに、最初の気まずい雰囲気はいつの間にか無くなっていた。

セリアやハリオンは二人で、

「シン君には、説教ですねぇ〜。」

「そうね。一度懲らしめてやらないとね。」

など言っている。

 

「・・・・・ヘリオンは?」

少し落ち着きを取り戻した部屋で、ユートはヒミカ達に聞いた。

「・・・・・・・・泣き疲れて部屋で眠っているのでしょう。」

セリアが答える。

その答えに再び沈黙する部屋。

シンとヘリオンの仲を知っているユート達はやりきれない表情をする。

シンと再会した時、二人にどんなやり取りがあったかは、ユートやマロリガン攻略組は知らない。

ヒミカやセリアに聞いても、ヘリオンに対して悪いと思ったのだろう、教えては貰えなかった。

だが、ヘリオンの様子を見る限り、どう考えても良い事があったとは思えない。

シンがいなくなってからの精神的成長すら、意味をなさない程に落ち込んでいた。

「・・・・そうか・・。今はそっとしておく方がいいだろう。・・・・とにかく明日の朝には出発する。短いけど、今日はゆっくり休んでくれ。」

そう言って、ユート達は明日の為に解散した。

 

 

「・・・・・・・・。」

ヘリオンはベッドの上で一人寝転がっていた。

仰向けになってボーっと天井を見つめているが、その眼には何も映っていない。

部屋に篭って一人でずっと泣いていた。

泣いて、泣いて、泣きつくして、もう涙は出てこない。

後に襲ってきたのは、虚無感や喪失感。

何も考えられなかった。

ようやく会えた愛しい人。

その愛しい人から言われた決別の言葉。

「もう・・・・シン様の心に私はいない・・・・・・。」

そう言ってうつ伏せになり、ベッドに顔をうずめる。

自分で口に出して、自己嫌悪に陥ってしまった。

脳裏に浮かぶのは、かつての一緒に過ごした日々。

戦争で常に死と隣りあわせだったが、それでも愛しい人の隣にいる事は嬉しかった。

それに、その戦いは自分達のようなスピリットの解放につながるモノ・・・・。

この戦いさえ勝ち抜けば、もう殺される事も、殺す事も無い。

大切な人と、のんびり過ごす事ができるようになる。

戦いのせいで愛しい人や、仲間たちを失う様な事も無くなる。

此処まで頑張る事ができたのは、そんな思いがあったからだ。

そしてその思いを支えてくれたのが、シンだった。

「・・・・・・・どうして・・・・・。」

枯れ果てたハズの涙が一筋流れる。

自分という存在を・・・、自分の思いを・・・、根底から支えてくれた大切な人が居なくなってしまった。

もうシンの眼に、自分は映っていない。

別の何かを見ている。

そこに自分の入る隙間は無かった。

ヘリオンは、自分は捨てられたのだと認識した。

「・・・・・・・ハハハ・・・・。」

ベッドに腰を掛け、力なく笑う。

もう、自分が戦い続ける理由も無いのかもしれない。

愛しい人に捨てられ、何の目的も見当たらない。

未だに、殺すという事には慣れない。

いや、一生なれる事は無いだろうし、慣れたくも無い。

自分は死にたくないし、相手だって死にたくないだろう。

だったら戦いなんて止めてしまえばいい。

戦う理由も無いのに、生死をかける必要は無い。

 

・・・・・・・・・だが、それでも戦いを止めるわけにはいかなかった。

自分だけの我侭で、戦いを放棄する訳にはいかない。

皆、戦っているのだ。

仲間を見捨てて、自分だけが逃げるわけにはいかない。

仲間の為に・・・、この世界を良くする為に、自分は戦わなくてはいけない。

自分に戦う理由が無いと言うのなら、仲間達にそれを求めればいいだけだ。

自分達の女王が掲げる、スピリットの解放や文明の変革。

素晴らしい事だと思う。

虐げられているスピリットの解放や、この世界を守るためのエーテル文明の変革。

何も縋れるものが無いと言うのなら、全力でこれにのめり込もう。

この世界の為に刀を抜こう。

この世界の為に戦う仲間の為に刀を抜こう。

それが、自分が進むべき新しい道だろう。

・・・・・その進むべき道の前に、障害が立ち塞がるというのなら、戦わなくてはいけない。

例え、それが大切な人であったとしても・・・・・。

ヘリオン思わず【失望】を握り締める。

だがその表情は、決意の言葉とは裏腹に、苦悩の顔だ。

理屈で解る事は出来ても、感情まではどうにもならない。

いや、まだ信じ切れてないのだ。

一方的に別れを告げられただけで、事情を説明されていない。

何か事情があるのだろうし、それ次第ではもとの仲に戻れる可能性もある。

一縷の希望を胸に抱く。

だが、覚悟だけはしておかなくてはいけない。

もし、本当にシンが敵として目の前に立つのなら、その時は仲間の為、この世界の未来の為にも・・・・、

「・・・・・・・私が・・・・・斬ります・・・・。・・・・シン様。」

ヘリオンは小さいが、力強い声で呟いた。

 

 

《ニーハス》

シンとキョウコは、ヒミカ達と別れた後、暫くしてニーハスに着いた。

現在は町の外れで夜営している。

暖かい時期だし、川や森も直ぐ近くにあるため、野宿には困らなかった。

焚き火を挟んでシンとキョウコが座っている。

キョウコは木にもたれかかっている。

随分回復したとは言え、まだ全快とはいかない。

それでも、一人で動く事できるまでには回復している。

今は近くの川で捕ってきた魚と、森で採ってきた木の実を食べ終わり、休憩しているところだ。

キョウコが逃げ出す事はなかった。

怪我も治ってないし、何より神剣を奪われている。

神剣を持っていないのなら、いくらエトランジェといえども、普通の人より少しだけ身体能力が高いかな、という程度なのだ。

それに、逃げるつもりも無かった。

危害を加えるつもりが無い事は、今までの態度や行動から解っていた。

それは、シンが傷を癒してくれた事からも解った。

何より、キョウコ自身、シンについて知りたかった。

ニーハスまでの道中は、お互い話す事は無かった。

キョウコの傷の問題もあったが、そういう雰囲気ではなかったからだ。

あの別れ際の事が気になるキョウコ。

会話の内容と、シンの涙が矛盾しているのだ。

おそらく、あのブラックスピリットはシンの恋人だろうと考えているキョウコ。

会話の内容からして、別れを告げていたように思う。

だが、シンは明らかに悲しみの涙を流していた。

おそらく何か事情があるのだろう。

自分を連れて行った事を含めて、シンの目的が何なのかは解らないが、どうやら好きでやっているのでは無いらしい事は解った。

 

此処に着いて随分回復したし、雰囲気も和らいでいる。

キョウコはそろそろシンと話をしようと思いシンの方を見た。

すると偶然シンも、キョウコを見ていた。

お互いの視線がぶつかる。

キョウコはちょうどいいと思い、口を開こうとした。

「黙れ・・・。」

キョウコが口を開くよりも先にシンが口を開いた。

「まだ何も言って無いでしょうが!」

何も言ってないのに、いきなり黙れと言われ、憮然として言い返す。

「顔に出てる・・・・。」

「むぅ〜・・・・・。」

シンの指摘に思わず唸る。

「まぁ、いいわ。単刀直入に聞くけど、何が目的なの?」

キョウコの質問に、シンはキョウコの眼をジッと見る。

「な、何よ・・。」

その視線にたじろぐキョウコ。

だがその視線にも負けず、キョウコは言葉を続けた。

「・・・何考えてんのか知らないけど、好きでやってる訳じゃないんでしょ?でなきゃ、あんな涙流さないわよね?」

キョウコの一言にシンはうつむく。

「あの事は忘れろ・・・・・。」

見られていたのは分かっていたが、改めて泣いた事を指摘されると、恥ずかしいものだ。

「・・・・あの子、恋人だったんでしょ?」

「・・・・・ヘリオンの事は言うな。・・・・お前には関係ない。」

「へぇ〜、ヘリオンって言うんだ。・・・・それに、無理やり連れてきておいて無関係って事は無いでしょう?」

ちょっと怒りながら答える。

シンは考える。

確かに、ユート達が来た時点で事情を説明するつもりでいたが、先に説明しておくのもいいかもしれない。

先に説明しておく事で、自分の立場を理解してもらう。

どちらにしても、逃げ出す事はない。

知ったところで、キョウコ自身にはどうする事も出来ない。

仮にユート達が来なくても、その時はキョウコを使えばいいし、ユート達が力尽くでキョウコを取り戻そうとしても、その時は人質としてキョウコを利用すればいい。

勿論そんな事はあり得ないのだが・・・・。

たとえ、どんな展開になっても自分に損は無い。

そこでシンは顔を上げた。

「・・・いいだろう岬。事情を説明してやる。だが、事情を説明したところでお前の扱いに変わりは無い。」

「解ったわ。構わないから話して。・・・・っと、それから私の事はキョウコでいいわ。アタシもアンタの事はシンって呼んでるしね。」

「いいだろうキョウコ。だが、知らないでいた方が良かったと、後で後悔するなよ・・・・。」

そしてシンは静かに話し出した。

 

【真実】と自分の関係。

【真実】に対する自分の想い。

【真実】のマナが失われた事。

【真実】を回復するにはマナが必要である事。

ユート、コウイン、キョウコはその為に必要である事。

キョウコは、ユートとコウインを抑えるための人質である事。

マナが失われる経緯の事など、かなり省略して話したが、それでも結構時間がかかった。

 

「神剣の為にこんな事してるって言うの!?」

キョウコは大声で言った。

「お前には解らないだろうな・・・。もともと理解してもらおう、なんて思っていない。」

キョウコにはシンの考え信じられなかった。

神剣に支配されかけたキョウコにとっては、それは到底理解できないものだった。

「・・・でも、どうしてユウやコウインやアタシが必要なわけ?」

あまり、頭のよろしくないキョウコは疑問をぶつける。

「お前も支配されていた間の記憶はあるんだろ?だったら解るだろう・・。どうすればマナが手に入るか・・。」

「そ、それは・・・・。」

シンの言葉に何も言えなくなるキョウコ。

キョウコの記憶では、【空虚】はスピリットを殺す事でマナを得ていた。

「お前達を選んだのはエトランジェだからだ。エトランジェはスピリットよりも遥かに濃密なマナで構成されている。・・・・・それを頂く。」

「・・・・アタシを人質にして、ユウとコウインを殺すつもりなの?」

「・・・・そうだ・・・。」

シンはハッキリと言った。

「正面から戦っても、今の俺じゃどうやっても勝てん。・・・・・・だからお前が戦い、傷つくその時を待っていた。ユート達じゃ傷ついても油断できないからな・・・。ユートがお前達を見捨てて、殺すとも思えなかったし・・・・・・。そして、それは上手くいき、現在につながる訳だ。」

そう言ってシンは大きく伸びをする。

「納得してもらえたかな?」

「できる訳無いでしょ!ユウやコウインを殺すなんて、そんな事させないわ!!」

キョウコが激昂する。

「・・・・・だったら、お前が犠牲になるか?・・・・・お前が相手なら、ユートやコウインと違って死なせる事無く、マナを頂く事が出来るが?」

思わせぶりにキョウコを見る。

「そ、そうなの?だったら何でそんな事考えるのよっ。誰も死なずに済む方法があるなら、そっちを選べばいいじゃない。」

キョウコは眼を丸くして答える。

「ほう・・・、いいんだなキョウコ?」

シンは嘗め回すようにキョウコを見る。

「な、何よ。誰も死ななくて済むなら、そっちのが良いわよ。」

シンの意味深な視線に思わずたじろぐが、キッパリ言った。

キョウコの答えを聞き、シンは立ち上がり、キョウコの側に行く。

そして・・・、

「じゃあ、服を脱いで、裸になれ。」

「へっ?」

シンの言葉にポカンとなるキョウコ。

暫くシンの顔を見て、それから、

「な、な、な、な、な、何考えてるのよ、このスケベ!」

顔を赤くして、慌ててシンから離れる。

「何って、マナを貰うんだよ。お前がそれで構わないって言っただろ?」

離れたキョウコに近づきながら、ニヤニヤしながら答えるシン。

「は、裸になる事と何の関係があるのよ。」

後ずさりしながら、話すキョウコ。

「知らないのか?マナを奪うもう一つの方法は、肉体的に交わる事だ・・・。品の無い言い方をすれば、セックスするって事だ。」

キョウコの目の前に座り、サラッと答える。

「なっ!!じょ、じょ、冗談じゃないわよ!!何でアンタなんかと!!」

さらに後ずさりをする。が、木にぶつかって止まる。

「お前がそれでいいって言ったんだろ?・・・それに、この行為にそういった感情は必要じゃない。」

追い詰めたキョウコに手を伸ばすシン。

「や、や、やめ・・・・。」

傷の為思うように逃げる事もできずに、思わず眼を瞑る。

普段の強気なキョウコからは想像できないほど弱々しい姿だった。

そしてシンは、そんなキョウコを抱きかかえた。

「あ、え?」

急に抱きかかえられて慌てふためくキョウコ。

そのまま抱きかかえられ、焚き火の前に座らされた。

「安心しろ。今、お前をどうこうするつもりは無い。お前一人だけのマナじゃ【真実】は完全には回復しないからな。」

ポカンとしているキョウコ。

「今回の事が上手くいかなかったら、その時はお前を抱く。・・・・その時の覚悟はしておけ。・・・・俺は【真実】のためならどんな事でもやるからな・・・。」

そう言ってシンは木にもたれかかった。

寝るつもりなのだろう。

「俺が寝てる間に逃げようとしても無駄だぞ。ちゃんと見てるからな。・・・・お前もまだ全快じゃないんだ。休め・・・・。」

そう言って、シンは静かに眼を閉じた。

後には、未だにポカンとしているキョウコだけが残った。

 

 

・・・・・翌日

「起きろ。」

寝ているキョウコに向かってシンは一声かけた。

「・・・・ん?ん〜。」

パチパチと眼を開け、眠たそうにシンを見るキョウコ。

シンを見て辺りをキョロキョロする。

どうやら、自分がどんな状況に置かれているのか理解できないらしい。

暫くキョロキョロしていたかと思うと、頭をかきながら呟いた。

「・・・・ああ、そうだっけ。・・・・・むぅ・・・・。」

眠たそうに眼をこする。

「やっと起きたか。さっさと顔を洗って、眼を覚ませ。・・・・・多分、もう直ぐユート達が来る。」

焚き火の周りに魚を刺しながら、朝食の準備をするシン。

「・・・・ん・・・・。・・・・・・えっ!?」

暫く寝ぼけていたが、シンの一言で眼を覚ます。

「ちょっ、ちょっともう少し早く起こしなさいよ!」

完全に八つ当たりだ。

慌てて、近くの川でパシャパシャするキョウコ。

「・・・・・・・この状況で爆睡するか普通?自分が人質だって事を忘れてないかキョウコ?」

呆れ口調で文句を言うシン。

「煩いわね〜。なんだかしんないけど、ぐっすり眠っちゃったのよ。」

文句を言って、焚き火の前に腰を下ろすキョウコ。

傷はもう随分いいようだ。

「・・・・・・・たぶん【空虚】から解放されたからだろうな。」

魚の焼き加減を見ながら、ポツリともらすシン。

「ふ〜ん。そんなもんなの?」

同じく魚をおいしそうに見ながら、気の無い返事をするキョウコ。

まるで人事のようである。

「・・・・・むぅ・・。」

ジックリ、魚が焼けるのを見るシン。そして・・・、

「・・・・・・・・むっ!・・・よし、食え。」

そう言って串に刺さった魚を取る。

「待ってました〜♪」

キョウコも魚を取る。

「・・・・・我ながら美味すぎるな。」

シンプルに塩だけで味付けしたのだが、これがまた美味い。

レモンとか醤油をちょっと垂らしても美味かっただろう。

「ホ〜ント美味しいわね。意外な才能ね・・・。」

魚を食べながら意外そうな顔をする。

「・・・・・一人旅が長かったし、もとの世界でも一人暮らしだったからな・・・。」

魚を食べ終わり、川で手や口周りを洗う。

「へ〜、そうなんだ。」

キョウコも食べ終わり、川で洗う。

「さて、と。・・・・さっきも言ったとおり、ユートやコウインの性格を考えれば、今日の昼にでも来るだろう。長い間お前を放って置くとは思えんしな・・・。その時は予定通り人質になってもらう。」

話題を変えて、改めて話す。

「・・・・・どうしてもやるの?他に方法を考えればいいじゃない。」

キョウコは昨日話を聞いて、他に方法がありそうだと感じた。

「・・・・こんなことしても、罪の意識に苛まれるだけよ・・・。」

実体験のように話すキョウコ。

「・・・・・・・他の方法ね・・・。今更だな・・・。・・・・今更引き返せないし、そのつもりも無い。もう充分罪を背負ってる。・・・・・・・まぁ、事情を説明して、ユート達が解決策を見つけられるんなら、話は別だがな。」

そう言って、キョウコを見るシン。

「それとも、お前が俺に抱かれるか?俺は別にそれでもいいぜ。」

ニヤリと笑う。

「じょ、冗談じゃ無いわ。そんなのゴメンよ!!」

シンの言葉に慌てて答えるキョウコ。

「そうだろう?・・・・・まぁ、だがその覚悟はしておけ。」

そう言って立ち上がり、キョウコに近づく。

「絶対イヤよ!!」

「言ったろ?お前の感情は関係ない・・・・・。」

キョウコの後ろに回り、両手を縛る。

キョウコは大人しく縛られる。

神剣の無い今、抵抗しても無駄だ。

「それでもイヤよっ!」

「・・・・・・・俺が嫌いか?」

「・・・・・こんな事されて、嫌われないとでも思ってる訳?」

「・・・・じゃあ、好きになれ。そうすりゃ、抱かれる事にも抵抗感がなくなるだろう・・・・。」

サラッと、とんでもない事を言うシン。

「・・・・・アンタ・・・バカにしてんの?」

呆れ顔でシンを見るキョウコ。

「・・・・別に。・・・・言ったろ?お前の感情は問題じゃないって。・・・・こう言ってるのは俺の優しさだ。ありがたく思え・・・。」

キョウコを縛り終え、地面に座らせる。

シン自身は、直ぐ隣にあった岩に腰掛ける。

そして精神を集中させ、静かに眼を閉じるシン。

「・・・・・・・・。」

シンの淡々としたセリフと、真剣な表情にキョウコは何も言えなくなった。

 

 

「・・・・来たな。」

シンがポツリと言った。

「来たって・・・ユウとコウイン!?」

シンはその問いには答えず、【真実】を握り締める。

「お前は大人しくそこに座ってろ。・・・・・・・下手な動きを見せれば・・・・・・・・殺す。」

【真実】を突きつけながら言い放つ。

「ちょっと・・・・昨日みたいに、も〜少し優しく言えない訳?」

キョウコは文句を言う。

シンはキョウコをチラッと見ると、再び視線を戻す。

「殺すかもしれないヤツに必要以上に優しくしてどうする?・・・・昨日とは違う。・・・・大体、昨日はべつに優しくしてた訳じゃ無い。」

キョウコを見ずに、ぶっきらぼうに答えるシン。

「ひょっとして・・・・照れてんの?」

ニヤッとするキョウコ。

「・・・おめでたいヤツだな、お前は。・・・何でお前ごときに、照れなきゃいかんのだ。まったく・・・・。」

「ハイハイ。そういう事にしといてやるわ。」

キョウコの一言にブツクサ文句を言うシン。

此処最近ではありえなかった感情の波だ。

やはり事前に説明したのは不味かったかもしれない。事情を共有した事で、キョウコに対して随分甘くなってしまっている。

この一日足らずで、キョウコに情が移りつつある事をシンは自覚した。

このままでは計画が失敗するかも知れない。

ユート達にも説明などせずに、問答無用で接した方がいいかもしれない。

「・・・・おしゃべりはそこまでだ。あいつ等がもう来る。」

話を強制的に終わらせる。

実際ユート達はもう直ぐそこまで来ている。あと十分もかからないだろう。

「・・・・全員で来るとはね・・・。」

遠見で見た映像の中にはユートとコウイン及び、ラキオスの皆が映っていた。

・・・・・・・・その中にはヘリオンの姿もある。

その顔には決意が見られる。

「・・・・・ヘリオン・・・・。」

シンは小さく呟いた。

 

 

 

「・・・・・シン・・・・。」

「キョウコか無事か?」

シンの前に、ユートとコウインが立った。

その後ろにはラキオスの皆が複雑な顔を浮かべて立っている。

「アタシは無事よ。今のところは・・・。」

キョウコは冷静に答える。

その姿を見て、ユートとコウインは安堵の息をもらす。

「・・・・久しぶりだな、ユート。みんなも変わらず元気そうで何よりだ。」

場違いなほどニコやかに話しかけるシン。

「・・・・・・・・シン・・・、お前は何を考えてるんだ?何故スピリットやキョウコを襲ったんだ?」

「そうだな、俺達二人が来れば事情を説明してくれるんだろ?」

ユートとコウインが切り出す。

「まぁ、そう慌てるなよ、ユート、コウイン。ちゃんと説明はするさ。その前にユート。」

「何だ?」

「ヨーティアと連絡は取れるんだろ?神剣を使って・・・。ヨーティアにも聞いてもらうつもりだ。」

イオの神剣を通して、遠くでも連絡が取り合える事は、遠見の能力で知っていた。

「・・・・・分かった。ちょっと待ってくれ・・・。」

そう言って神剣に意識を集中させるユート。

おそらくイオの神剣に思念を飛ばしているのだろう。

暫くしてユートは顔を上げた。

「・・・・つながったぞ、シン。」

「そうか・・・。・・・・久しぶりだなヨーティア。」

懐かしそうに声をかけるヨーティア。

久しぶりだね、このボンクラ。

いきなりの罵倒。

「ははは。変わらないな。お前のとこに居た時の事を思い出すよ。」

アンタは、変わっちまったようだね・・・。

幾分寂しそうに呟くヨーティア。

「そうだな・・・。お前の所を離れて色々あった・・・・。変わるには十分な程の事がね・・・。」

・・・・・・・。

「湿っぽくなっちまったな。昔の事は今はいい。・・・・・さてと、ユート。これから取りあえず事情を説明してやる。その後どうするかはお前たちの勝手だ。」

シンはそう言って語りだした。

内容はキョウコに説明したのと同じだ。

マナを失う経緯などは、同じように省いた。

ソーン・リームであった事は、なるべく思い出したくないのだ。

思い出すだけで、憎しみと、悲しみと、無力感が襲ってくる。

全ては【真実】の為に・・・・

淡々と説明していくシン。

そして説明が終わった時、皆キョウコと同じような顔になっていた。

 

 

「・・・・・そ、そんな事の為に、スピリットやキョウコを襲ったって言うのか!?」

やはり信じられないのだろう。皆も同じような顔をしている。

「お前達には理解できないだろうな。・・・・・神剣に翻弄されてきたお前達にはな・・・・。理解してもらおうとは思っていない・・・・だが、これが真実だ。」

「じゃあ、スピリットを襲っていたのはマナを得るためなのか?」

ユートが問いかける。

「そうだ。俺にとって【真実】は全てだ。その為にはなんだってやる。」

「前に俺と会った時は、既に力が無かったんだな。上手く騙されてたわけか・・・。」

そう言って不適に笑うコウイン。

「・・・・いくらマナを得るためだからって、どうしてそんな事を・・・。」

ユートが他にも方法はあるだろう、という顔になる。

「・・・・ハハハ。ユート、コウイン。お前達になら解るだろう?・・・・・自分にとって心から大切なもののためなら、例えそれが、どんなに血塗られた道であったとしても、進むのみ・・・。止まれないんだよ。」

「「・・・・・。」」

その言葉にユートもコウインも渋い顔をする。

コウインも大切なキョウコの為に、親友であるユートを殺そうとした。

ユートは大切なカオリの為に、たくさんのスピリットを斬り、自らの手を血で汚してきた。これからもそれは続くだろう。

「・・・俺にとって【真実】以上に大切なものは、この世界にも、向こうの世界にも存在しない・・・・。・・・・・コウイン、お前のセリフだったな。」

そう言って笑うシン。

「・・・・他に・・・、他に方法は無いのか?」

ユートが叫ぶ。

「・・・・・・なんなら、キョウコとラキオスの皆を俺に差し出すか?肉体的に交わるだけでもマナを得られるぞ。そうすれば死なせる事は無い。」

ユート達の後ろに控えている皆を見る。

「冗談にしては笑えないわよ、アンタ・・・。」

セリアが威嚇するように口にする。

「冗談なんかじゃないさ、セリア。・・・・既に立証済みだ。思いついたヒントは、以前【求め】に支配されたユートが、風呂場でヘリオンを襲おうとした事だ。あれでピンときたね。」

シンの口からでた、ヘリオンという言葉に、ヘリオンが反応する。

此処に来てまだ、一言も話さない。何を考えているかは解らない顔をしている。

「・・・・そんな事は出来ない・・・。」

ユートは力強く答えた。

「だろう?・・・・・と言う事でユート、コウイン。マナを得るために、俺に殺されてくれ・・・。」

冷たく言い放つ。

「今のお前に、俺達を殺れると思ってるのか?」

コウインが問いかけてくる。

「・・・・まぁ、正面から戦ったんじゃ、どうやっても負けるな。今の俺はかつての三割にも満たない力しかないからな。」

そう言って横に座ってるキョウコを見る。

「・・・・その為にキョウコがいる・・・。・・・言いたい事は解るだろう?」

ニヤリと笑う。

「・・・・シン。他に方法を探せばいいでしょう?その為に説明したんでしょうが?」

キョウコがシンを見る。

「そうだ、シン!俺達も何か方法を考えるから、キョウコを解放してくれ。」

ユートも同じようにシンを見る。

「・・・・・やはり気が変わった。・・・・甘い態度を取って情が移ったら、いざと言う時冷徹に接しきれなくなるかもしれないからな。・・・・今此処で、終わらせる事にした・・・。」

そう言ってキョウコに【真実】を突きつける。

「・・・・と言う事で、ユート、コウインここで死んでくれ。・・イヤならそれでもいい。・・・その時は此処でキョウコを殺し、次は・・・カオリちゃんだ。」

「なっ!!」

シンの言葉に思わず声を上げるユート。

「そんな事はさせないぞ、シン!!」

「だろうな、ユート。お前にそんな事は出来ないだろうな。お前はカオリちゃんは勿論、キョウコも見捨てる事はできない。いや、エスペリアやアセリアや他の誰がそうであっても、お前は見捨てる事はできないだろう。・・・・そこがお前の良さであり、欠点でもある。」

シンは物悲しそうに笑う。

「・・・・俺には無い強さだ・・・。」

顔を伏せるシン。

「・・・・・終わらせようユート、コウイン。」

そう言って、スッと眼を細める。

「そうだな。もう終わらせよう。・・・・・今なら力ずくでお前を抑える事もできるんだぜ、シン?」

【因果】を振り回し、切っ先をシンに突きつけるコウイン。

「その時はキョウコを殺す。・・・・それでも十分ではないがマナは奪える。」

「へっ。仮にキョウコ一人のマナを奪っても完全じゃないだろう?人質を無くしたお前をただで帰すと思ってるのか?」

シンと駆け引きをするコウイン。

「だったらそうするか?キョウコを見捨てるか?お前にそれが出来るのか?」

「・・・・・・。」

何もいえずに不適な笑みを浮かべるコウイン。

駆け引きはコウインの負けのようである。

だがシンはその不適な笑みが気になった。ヤケに余裕の態度だ。

「ユートだってそれは出来ないだろう?」

「当たり前だろう。」

冷静に言い放つユート。これも気に入らない。

あのユートがこの場面で、冷静でいられるとは・・・どう考えてもおかしい。

(変だな・・・。ヤケに態度に余裕が感じられる。)

「俺達は死ぬつもりはないし、キョウコも返してもらう。勿論カオリにも手は出させない。」

「何を考えているユート?」

疑問に思い問いかける。

「ここから、俺達がお前に攻撃を仕掛けるまで三秒もかからないだろうな。」

コウインが余裕の笑みを浮かべる。

「・・・・三秒あれば十分だ。その間にキョウコを殺す。」

コウインの物言いに疑問を感じながらも答えるシン。

「ようは、その三秒をかせげればいいわけだろう?」

「いくぞ、シン。」

ユートとコウインが神剣を構える。

 

「・・・・本気か?」

シンはユート達の考えが解らなかった。

自分が、本当にキョウコを殺せるわけが無いとでも思っているのだろうか?

・・・・・甘い、あまりにも甘すぎる。

スッとユートとコウインを見据えるシン。

その時、別の方向から二つの声が放たれた。

「「アイスバニッシャー!!」」

いつの間にサイドに移動したのか、アセリアとセリアの二人がそこにはいた。

(しまった!!)

慌てて身構えようとしたが遅かった。

ユートとコウインに意識が行き過ぎていた。後ろに控えていた皆の動きを見ていなかった。

完全にシンのミスだった。

自分を含めて、周りがどんどん凍っていく。

身体を動かす事はできるが、極端に鈍い。

「「はっーー!!」」

勿論そのチャンスをユートとコウインが見逃すはずが無い。

神剣を構えて突っ込んでくる。

「っく・・・、うぉーーーー!!」

力を振り絞り、無理やり氷による戒めを脱出する。

そして、キョウコを見る。

「悪いなキョウコ・・・・。死んでくれ・・・。」

【真実】を引いて、突きの構えを取る。

「ちょっ、やめ・・・。」

キョウコの顔が恐怖に歪む。

「「キョウコーー!!」」

ユートとコウインが焦りの表情を浮かべる。予想以上に戒めが早く解けてしまった。

だが無情にもシンは槍を放った。

キョウコに迫る【真実】。

もうダメかと思われた。

しかしその時、真実が一瞬、力強く光った。

 

「ぐあぁぁーーーーー!!」

突然頭を抱えて、地面を転がりだすシン。

ユートとコウインは訳が解らなかったが、その隙を逃さずキョウコを保護した。

「「大丈夫かキョウコ?」」

ユートとコウインが同時に同じ事を口にする。

「アタシは大丈夫よ・・。それより・・・一体どうなったの?」

転げ回るシンを見ながらキョウコが呟く。

「俺にも解らん。急に苦しみだしたからな・・・。」

コウインが答える。

「うっ、ぐぁぁぁーー・・・。・・・どうしてだ・・・【真実】?もう少しだったのに・・・。もう少しでお前と会えたのに・・・・。」

どうやら、神剣から強制力をかけられたらしい。

僅かに残っていた力を、【真実】はシンを止めるのに使った。無意識の事だったのだろう。

 

ラキオスのみんながユート達の周りに集まってくる。

そして同じようにシンの様子を見る。

「・・・・シン様・・・・・。」

ヘリオンがポツリともらす。

その声に反応したのか、シンはフラリと立ち上がった。

そして、ふらつく足取りで、そのまま皆の前から立ち去ろうと後ろに下がる。

「シン様・・・何処に行くつもりですか?」

ヘリオンは静かに聞いた。

「・・・・・次の方法を探す・・・・。」

「・・・・また同じように止められますよ・・。【真実】自身に・・。」

「・・・それでも俺はやる。・・・【真実】をもう一度復活させるためなら、何度だってやるさ!!・・・・たとえ【真実】に見捨てられても、お前達を敵に回してでも・・・・・。」

ヘリオンを皆がら、言い放った。

「・・・・・・そうですか・・・・・。」

ヘリオンは悲しそうに答えた。

「・・・・・もう、戻れないんだよ・・・・ヘリオン・・・。」

ギュッと【真実】を握り締める。

皆はシンとヘリオンのやり取りを見守っている。

「・・・・シン様・・・。もしシン様が、私達の前に敵として立つと言うのなら・・・、これ以上罪を重ねると言うのなら・・・、」

そう言ってシンの眼を見る。

「・・・私が・・・ここでシン様を止めます。・・・・私が・・・・シン様を斬ります。」

ヘリオンの一言に皆がざわめく。

「ヘ、ヘリオン!!」

慌ててユートがヘリオンに声をかける。

「ユート様・・・・、此処だけは私にやらせてください。お願いします。」

ヘリオンの真剣な表情にユートは下がらざるえなかった。

皆がざわめく中シンだけは笑っていた。

「・・・・・強くなったな、ヘリオン・・。・・・・初めて会った時のオドオドした態度からは想像できないほどに・・・・。」

「・・・・・私はシン様と出会って変われたんです。・・・・今の私があるのはシン様のおかげです。・・・・だから私が止めます。」

シンはニッコリ笑って口を開いた。

「・・・それでいい。・・・・俺を止めるには、俺を殺すしかない。・・・・・・ハハハ、皮肉な事だが・・・・・・・・‘真実’は常に‘失望’と共にある・・・。」

そう言って【真実】を構えるシン。

ヘリオンはその言葉に悲しそうな顔をする。

「いくぞっ!!」

ヘリオンに向かって飛び込んでいく。

そして、攻撃を繰り出す。

ガキーン!!

ギンッ!

全ての攻撃はヘリオンにあっさり止められる。

何度攻撃を繰り返しても、その攻撃が届く事は無い。

初めてシンとヘリオンが戦った時の逆だった。

あの時はシンが圧倒した。

何度か剣を交えて距離を取る二人。

「・・・・・・・本当に強くなったな・・・・・ヘリオン・・・・・。」

荒い息を吐きながら呟くシン。

「・・・・シン様のおかげです。・・・・・・・・でもシン様は弱くなりましたね・・・。身も心も・・・・。」

シンとは対照的に余裕の態度で答えるヘリオン。

しかしその顔は悲しそうだった。

「・・・・・次で終わらせます・・・・。シン様との訓練をもとに生み出した、この技で・・・・。」

そう言って刀を鞘に納めるヘリオン。

「・・・・・・・来い、ヘリオン。」

シンは自嘲気味に笑った。

逃げる事は適わない。

受けきる事も不可能だろう。

(此処で、ヘリオンの手にかかって果てるのもいいかもな・・・・。)

「・・・・いきます、シン様・・・。」

スッと眼を閉じるヘリオン。そして・・・・、

「画竜点睛の太刀!!」

カッと眼を開きヘリオンは・・・・・消えた。

ヒュン。

風が抜けたかのような音が聞こえると、ヘリオンはシンの背後に立っていた。

既に刀は鞘に収められている。

その眼からは涙が流れていた。

 

ブシューーーーーーー!!!!

シンから大量の血が吹き出た・・・・。

 

                                                                        続く

 

あとがき

十四章アップです。

どうなってしまうのだろう主人公シンは・・・・。

さて、次回はこの続きを勿論書きますが、最後辺りは帝国戦へと入るつもりです。

サルドバルド戦後からマロリガン戦が終わるまで結構長かったので、帝国戦はあまり長くないと思います。

帝国戦見せ場はシュンとの戦いの時だけですからね・・・・。もっともソーマをどうしようか悩んでいるわけではありますが・・・・。

どうなるかは私にもまだ解りません。

という事で次回もよろしくお願いします。

作者のページに戻る