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イレギュラーズ・ストーリー

 

 

第十三章  マナを求めて・・・ 

 

ユートの言葉で、部屋の中が静まる。

「えっ?」

ヘリオンがまさかの表情で聞き返す。全員似たような表情だ。

そんな顔をした皆に、ユートはもう一度言った。

「・・・最近のスピリット襲撃の犯人は、・・・・シンなんだ。」

キッパリと言うユート。

推測でしかないとは言ったものの、実際にはシンだと確信していると言ってよい。

「シン・・殿ですか・・・。」

一番にウルカが反応する。

ウルカはシンと一度しか遭った事が無かったため、冷静でいられたのだろう。

ウルカの一言を皮切りに、皆がざわめく。

「な、何かの間違いじゃないんですか?ユート様も直接確認したわけでは無いんでしょう?」

ヒミカが恐る恐る聞いてくる。

ユートの顔が曇る。

「スピリットを襲った犯人は、槍型の永遠神剣を持った男性だったそうです。」

答えづらそうなユートに代わって、ヒミカの問いに答えたのはエスペリアだった。

「他にエトランジェがいるという可能性はないんですかぁ〜?」

ハリオンも眉を八の字にして聞いてくる。

「先ほど、その犯人と直接戦ったこの町のスピリットに話を聞いてきました。・・・・・身長、体型、髪型、服装、持っていた神剣の形状・・・。それら全てがシン様と一致しています。」

「そんなっ!!」

エスペリアの一言にヘリオンが勢い良く立ち上がり叫ぶ。

「何でシン様がそんな事するんですか!」

一気にまくし立てる。

「そうだよぉー。」

ネリーが頬を膨らませながらそれに続く。

声には出さないがシアーも似たような表情を浮かべている。

「アイツは何を考えているの?」

声こそ荒げないが、いかにも怒っているセリア。まだ確定したわけではないのだが、セリアの中ではシンが犯人だと確定したようだ。

パンパン!!

ユートが手を叩く。

「皆落ち着いてくれ。」

皆に問い詰められていたユートが、手を叩いて皆を落ち着かせる。

幾分静かになる部屋の中。

「さっきも言ったが、まだ確定したわけじゃない。・・・・だけど、此処からはそのつもりで行動しようと思う。」

そこでいったん話をきる。

そして皆には、一番言いづらい言葉を口にした。

「・・・・最悪・・・・・・、今回はシンと敵対にする事になるかもしれない・・・。」

「そ、そんなぁ・・・。」

ヘリオンが泣きそうな顔で声に出す。

「ヘリオン・・・・。シンはスピリットを襲ってるんだ・・。・・・・進軍途中に皆がシンに襲われるような事があるかもしれない・・・。シンがスピリットを襲っているのを見かけるかもしれない。・・・・もし、そんな事になったら例え力ずくでも止めてくれ・・。」

「まだシン様がそうだと決まったわけじゃありません!!」

ユートの言葉にヘリオンが怒鳴り返す。

ヘリオンの勢いに再び場が静かになる。

誰も何も話そうとしない。

声にする事が、シンを犯人だと認めてしまうようで、怖かった。

長い沈黙が辺りを支配する。

 

「・・・・それは命令ですか?」

 

沈黙の中、それまで何も言わなかったナナルゥが口を開く。

皆がナナルゥを見る。

もしシンが犯人だとしたら、次に遭う時は、たとえシンを傷つける事になったとしても止めなければならない。

喜びの再会と言うわけにはいかなくなる。

ユートが命令だと言えば、スピリットである自分達はそれに従わなくてならないのだ。

皆の表情が強張る・・・。

 

そんなみんなの顔を見てユートが口を開く。

「何か勘違いしてないか、みんな? そんなに深く考えなくていいだけど・・・・・。とにかくシンを見つけたら話を聞くために、抑えていてほしいだけだよ。」

「えっ?・・・あっ・・・そうですね・・・。」

ヘリオンがしどろもどろに答える。

その答えに皆は安心する。

確かに話を聞くのは当然の事だ。

ヘリオンも皆も勘違いしていた。

ユートの、「たとえ力ずくでも・・・」と言う言葉の意味を取り間違えていたのだ。

シンを止める=シンが敵になる、と思っていた。

「そうね。話してみないと解らないわね。」

納得するセリア。

皆もウンウンと首を縦に振る。

しかしヘリオンだけは厳しい顔をしている。

「とにかくみんな、明日はまた進軍が始まる。いや、明日までしか時間は無い。明日は厳しい一日になると思うから、休息はしっかりとってくれ。」

最後にユートが締める。

その一言で全員、ユートに挨拶をし、それぞれの部屋へと戻っていく。

ヘリオンも重い足取りで自分の部屋に戻っていった。

 

《ヘリオンの部屋》

ヘリオンは部屋に戻るなり、ベッドに顔を埋めた。

心なしか体が震えている。

「・・・・・シン様・・・・・・。」

大切な人の名前を口に出す。

その声には力が無い。

頭の中がグチャグチャになる。何も考えられない。

先ほどユートから聞かされた話。・・・・・信じたくないのに、信じざるを得ない状況になっている。

エスペリアもそれを肯定している。

・・・全ての情報から考えて、スピリットを襲っているのはシンだと・・・・・。

ユートは話しを聞くだけだと言っていたが、最悪シンと敵対するかもしれないのだ。

「・・・・・・そんなの、・・・・なんで・・・イヤだよぉ〜・・・。」

その時の情景を思い浮かべ、思わず言葉をもらしてしまう。

しばらく、小さな泣き声をあげ続ける。

「・・・ヒック・・・・・ううう。・・・・・・ヒッ・・。」

しばらく泣いて顔をあげる。

「・・・・・でも、もし本当にそうなったら・・・・・?」

もしそうなったら、ユートの命令どおり力ずくでも止めなくてはいけない。

もっとも、力で適うと思ってはいないが・・・。

でも、話を聞きたい。

ラキオスを離れた間に何があったのか。何故スピリットを襲うのか・・・。

でも、それらはヘリオンの中ではあまり重要ではない。

シンが何を考えてスピリットを襲っているのかは解らない。

何かの事情でスピリットを憎むべき対象として見るようになったのかもしれないし、他に何か事情があるのかもしれない。

ただヘリオンは、その憎むべき対象の中に自分が入ってるかもしれない、という事が恐かったのだ。

大切な人に・・・、心から愛している人に、憎むべき存在として見られるのが恐かった。

 

しかし、覚悟は決めなくてはいけない。

まだ犯人がシンだと決まった訳では無いが、そうなった時の、そして戦わなくてはいけなくなった時の覚悟だけは決めなくてはいけないのだ・・・。

「・・・・・シン様・・・・。」

そう考えながらヘリオンは眠りに落ちていった。

 

 

小高い岩場の上にシンが一人座っている。

「ユート達はニーハスに入ったみたいだ・・・・。」

ここは、ニーハスより南に二、三キロ南に下った辺り。

視線の先にニーハスの町の明かりが漏れているが判る。

そんな中遠見の能力でユート達の様子を探っていた。

「どうやら、ユート達も俺の存在に気付いたようだな・・・・・・。」

少し顔を伏せる。

「・・・・・・・ヘリオンも知ったんだろうな・・・・。」

知られたく無かった。

スピリット隊の皆に。そして何よりヘリオンに・・・。

「・・・・・・・・今更か・・・・。」

自嘲気味に笑う。

今更何が言えるというのだろう。

自分が皆の気持ちを裏切ったと言うのは紛れもない事実。

そして、それが自分の意志によるものだというのも紛れもない事実なのだ。

ユートのように神剣に取り込まれた訳じゃ無い。

ただ自分の為に、皆を裏切る。

「・・・・そう決めたんだ・・。」

【真実】を握る手に力がこもる。

「・・・・明日で決まる。・・・・・・問題があるとするなら、第二の皆か。」

ユートやエスペリア達はマロリガンを直接攻めるだろう。

だが全ての人員をマロリガン攻略に当てると思えない。

何人かは、ミエーユからの増援の可能性を考えて後方待機を命じられるハズだ。

その際、遭遇してしまう可能性も高い。

「・・・・考えても意味無いな。どちらにせよ、チャンスは一度しかないんだしな・・・。邪魔が入ろうが、入るまいがやるしかない・・・。」

そして再び、ニーハスの方を見定める。

ユートの動きを見逃してはならない。

ユート、コウイン、そしてキョウコ。三人のエトランジェが接触し、交戦した時こそチャンスなのだ。

一度きりのチャンス、見逃すなんて愚を冒すわけにはいかない。

「明日は、長い一日になりそうだ・・・・。」

ニーハスを見据えながら、小さく呟いた。

 

 

《ニーハス》

朝早く、町の入り口にラキオススピリット隊は集まっていた。

今日でマロリガン戦が終わる。

終わらせる事が出来なければ、大規模なマナ消失で全てが消えるだろう。

 

ユートの前にスピリットの皆が並ぶ。

明らかに眠れてない顔が複数いる。

やはりヘリオンが酷い。

泣きはらしたのだろう。目が赤い。

ユートはそれを気にしながらも隊長として話し始めた。

「みんな、今日で終わらせる。何としてでもマナ消失を食い止めるんだ。」

いったんそこで言葉を切り、エスペリアと交代する。

「マロリガン攻略ですが、全員をマロリガン攻めに参加させる事はできません。ミエーユの防衛部隊が援軍として戻ってくる可能性もありますので、マロリガン攻略組と、後方待機組の二つに部隊を分けます。」

皆を見ながら説明を続けるエスペリア。

「マロリガン攻略組みは、ユート様、アセリア、オルファ、ウルカ、ファーレーン、ニムントール、ナナルゥ、ネリー、そしてわたくしです。 残りの、ヒミカ、セリア、ハリオン、ヘリオン、シアーの五人は、マロリガンからある程度距離を取ったところで後方待機していてください。もし、ミエーユから敵部隊が戻ってくるような事があったら、迎撃をお願いします。五人では厳しいでしょうが、あくまで時間稼ぎなので無理はしないで下さい。」 

エスペリアが一通り説明し、話を終える。

「これが最後だ。みんな頑張ろう。」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

最後にユートが締めて終わる。

みんな元気に返事をしたが、元気の無いヤツもいるようだった。

ユートもそれには気付いていたが、ユート自身、コウインとキョウコの事で精一杯だった。

シンはまだ敵対すると決まった訳でもないし、話をすればシンも解ってくれると楽観的に考えていた。

・・・・・・・・・・・・だがその甘い考えは、ユートをさらに深く悩ませる事になった。

そしてマロリガンへと進軍を開始した。

 

 

ギンッ!ギンッ!

剣と剣のぶつかる音が響き渡る。

ユート及びマロリガン攻略組は、立ちはだかる稲妻部隊と交戦しながらマロリガンへと向かっていた。

「はっーー!!」

ユートの振るった一撃がスピリットを切り裂く。

斬られたスピリットは、マナの霧となって霧散していった。

「はぁ、はぁ、はぁ。」

荒い息を吐きながらユートは膝をついた。

「大丈夫ですかユート様?」

幾分疲れた顔をしたエスペリアが聞いてくる。

「・・・ああ。こんなところで休んでいられないからな。」

笑いながら答える。

「ニム!来てください。」

「何〜?」

元気な顔をしたニムがとことこやってくる。

ニムは攻略組の中でも後方で守っているので、それ程疲れていない。

「ユート様に癒しをお願いします。」

「分かった。いくよ、ユート。・・・アースプライヤー!!」

緑色の光がユートを包んでいく。

少しずつユートの体力が戻っていく。

「ふぅ。ありがとうニム。助かったよ。」

ニムを見てニッコリ笑うユート。

「べ、別にいいし・・。」

ユートの礼に頬を赤くさせる。

「よし。もう直ぐマロリガンだ。気合入れていこう。」

ニムとエスペリアを見て、自分を鼓舞するように声を出す。

「はい。頑張りましょう、ユート様。」

「うん。」

ユートの言葉に、エスペリアとニムはニコッリ笑って答えた。

そしてユート達は再び進軍を始めた。

 

 

進軍を続けるユート達。マロリガンまであと少し・・。

(あれは・・・・・。)

道の先に、人影が見える。

人影はゆっくり立ち上がり、ユートの方を見る。

人影は、ユートのよく知ってる顔だった。

「よぉ、ユート。遅かったな。」

コウインの姿に、ユートの持つ【求め】が激しく明滅する。

周りには稲妻部隊のスピリットが数人いる。

「ユート様!!」

後ろからエスペリアが声をかける。

「エスペリア。此処は俺一人でやらせてほしい。・・・・・皆は稲妻部隊を頼む。」

背中を見せたままエスペリアに声をかけるユート。

「ユート様・・・・。」

ユートの決意を感じ取ったエスペリアは静かに後ろに下がる。

「コウイン・・・。」

みんなと一緒に戦えば、いくら相手がコウインといえども勝てるだろう。

だが、ここはどうしてもユート一人でケリをつけなくてはいけなかった。

「どうして俺たちが戦わなくちゃいけないんだ!・・もうすぐ・・・・・もうすぐマナ消失でみんな吹き飛ぶぞっ!通してくれ!」

問いかけた瞬間、コウインから巨大なオーラフォトンが立ち上る。

「俺たちが戦う意味か・・・・。」

コウインは不適に笑い、答える。

「俺たちには、それぞれ大切なものがあるだろう?こっちの大将にもどうやら譲れないモノがあるらしい。それは、そっちの女王さんも同じだろう。」

ユートがギュッと【求め】を握る。

「俺にとっては、お前やキョウコも譲れないモノなんだ!」

ユートの言葉に同様を見せず、再び口を開く。

「ユート。・・・キョウコは神剣に飲まれている。このままじゃ壊れちまう。・・・少しでも楽にするためには、四神剣を破壊するしかない。・・・・あいにく今は、俺がキョウコに殺されてやるわけにはいかん。まずは秋月・・・・そしてユート、お前倒してからと思ってたんだが、順番が変わっちまったな。」

相変わらず動揺は感じられない。

そして【因果】をユートに突きつける。

「・・・・お前がカオリちゃんを助ける為に戦うように、俺はキョウコを守る為に戦うしかないんだ。」

ユートから目をそらさず話し続けるコウイン。

「俺にとって、キョウコ以上に大切なものは、この世界にも、向こうの世界にも・・・・・・・存在しない。・・・・・悪いな、ユート。」

そう言って語るコウインに目に迷いはなかった。

 

 

「そう。・・・俺にとっても、【真実】以上に大切なものは、この世界にも、向こうの世界にも・・・・・・存在しない。悪いな、ユート、コウイン、そして岬・・・。」

ユートとコウインのやり取りを少し離れたところから遠見で見ていたシンがポツリともらした。

 

 

コウインの言葉には力があった。

理屈じゃない強さが感じられた。

だがここで、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。

諦めるわけにはいかない。コウインもキョウコもカオリもシンも、みんな一緒に帰らないと意味がない。

「それにな、ユート。俺はお前に消えて欲しいんだ。お前がいるとキョウコの心が揺れる・・・・・・。俺にとってお前は邪魔なんだよ、ユート。・・・それに・・・・・一度お前と全力でやり合ってみたかったんだ。」

ユートはコウインの言葉に愕然となった。

コウインがそんな事を本当に考えてるとは思えなかった。なのに、その目は本気だ。

「お前にだって時間は無いだろう?早く俺を殺さないと全部吹き飛ぶ・・。」

不適に笑うコウイン。

「つまりはそう言う事だ。悪いが死んでくれ。苦しまないよう、全力で消してやる。いくぜっ!!」

そしてコウインはユートに向かって行った。

それをかわきりに、稲妻部隊とラキオススピリット隊も交戦を始めた。

 

 

「それは困るなぁ、コウイン。二人に死なれるのは困る・・・・。・・・お前達は俺が殺さないといけないんだからな・・・・。・・・取り敢えずはユートに期待するか。」

コウインと同じく、不敵な笑みを浮かべるシン。

「・・・・それにしても岬は別行動か・・・・・。当てが外れたな・・・・・。コウインは今の内に抑えたかったんだけどなぁ・・・・・・仕方ないか。・・・むしろやりやすいかもな、こっちの方が。」

再び遠見を使い、ユートとコウインの戦いを見る。

最初はコウインが優勢だと思っていたが、見る限り、ユートとコウインは互角に戦っている。普段のユート以上の力が発揮されていた。

「次で決まるな・・・・・。」

長い間戦っていた二人だが、それもこれで終わるだろう。

コウインとユート。どちらが強いかと言われればコウインだろう。

だが、この戦いは神剣の力が大きく左右する。

四神剣・・・・互いを憎みあう神剣。

そして、【求め】の力は【因果】よりも上だ。

コウインとユート。二人の想いの力は同じ。腕も互角。

ならば神剣の力が左右する。

 

「はっ!!」

ユートの一撃がコウインに吸い込まれる。

ユートは確かな手ごたえを感じていた。

膝を着くコウイン。

「グッ。結局お前には適わずじまいか・・・。」

弱々しいながらも笑みは消えない。

致命傷にはならなかったようだ。

「大丈夫かコウイン?」

「俺は大丈夫だ。しばらく休めばどうとでもなる。・・・コイツもまだ死んじゃいないしな。」

【因果】を握り締める。

「キョウコを頼む。アイツを救ってやってくれ。臨界を越えれば全部吹き飛んじまう。だから・・・行け!」

「分かったよコウイン、死ぬなよ・・。キョウコもカオリも死ぬ事になるんだからな・・・?」

コウインのマナはまだ衰えていない。命が消えてしまうほどにマナは失われていないようだ。

コウインならば直ぐに動けるようになるだろう。

周りの稲妻部隊との戦闘も既に終えている。

無傷とはいかないが、全員無事のようだ。

「よし、みんな行こう!」

ユートはコウインの横を通ってマロリガンへと進路を向けた。

 

 

「ここまでは予定通りだな・・・・。やはりコウインは後回しになるか・・・。いけるならここで抑えておきたかったんだがな。」

流石はコウインと言ったところだろうか。強靱な体である。

ユートにやられても、まだ自分で動けるようだ。

「いくら傷を負ったとはいえ、今の俺じゃ厳しいか・・・・・・。やっぱり予定通りにやるしかないな・・・・・。次で決まる!」

そう言うとシンはユートを追うため、その場を後にした。

 

 

ユート達は砂漠を抜け、荒野をひた走っていた。

もうマロリガンが見える頃だ。

急がなくては何もかも吹き飛んでしまう。

(それにキョウコも・・・・。)

コウインから任されたキョウコの事。

頼まれなくても、キョウコは助ける。

ユートにとってもキョウコは大切な人なのだ。

 

ユート達の足が止まる。

道の先には、陽炎に浮かぶ複数の人影。

気配を隠すことなくユート達を待ち構えている。

「キョウコ!!」

叫ぶ。

【空虚】に囚われてしまったキョウコを起こすかのように、腹のそこから名前を呼んだ。

【求め】からは破壊衝動が伝わってくる。

キョウコの持つ【空虚】も同じように、剣呑な気配を発している。

「目を覚ませよ、キョウコ!!」

「無駄だ。」

ユートの大きな声に、キョウコは、いや【空虚】は冷静に返答する。

「【求め】の主よ。既にこの娘の心は淵へと沈んでいる。浮かび上がる事はない。もうキョウコという存在はない。」

キョウコの口から出てくる【空虚】の言葉。

そこにキョウコの意思は無い。

「キョウコの身体を、キョウコの心を返せ!!」

湧き上がる怒りを抑えずにユートは言い放った。

「この者の心を取り戻したければ、私を倒すんだな。もっとも・・・・身体の保障はできないがな。」

【空虚】は冷静に言い放つ。

「バカ剣・・・・・手加減は出来るな。キョウコの身体を傷つけずに【空虚】だけを打つ!!」

『契約者よ。無茶を言うな。』

「無茶でもやるんだっ。」

【求め】の力を解放する。だが、キョウコだけは傷つけるわけにはいかない。

「皆は、稲妻部隊を頼む。」

後ろに控えていたエスペリア達に話しかける。

「解りました。・・・・ユート様負けないでください。」

エスペリア達はそう言うと、稲妻部隊を相手にし始めた。

「クククク・・・・・。我が勝利者となる。次は【因果】と【誓い】も滅ぼしてやろう。・・・・・全てのマナを我のものに・・・・。」

スラリと剣を抜き、ユートとの戦いが始まった。

 

 

「残念だが勝利者になるのは、この俺だ。そして全てのマナは・・・・・・俺のモノだ。」

遠見を使いながら、シンが言葉にする。

ユートとキョウコが剣を交えている。

純粋な戦闘力はユートの方が上だが、スピードではキョウコの方が勝る。その上、キョウコには強力な神剣魔法がある。

どちらも一進一退を繰り返している。

あまり離れすぎると神剣魔法を使われるため、ユートは極力近接戦闘を心がけているようだ。

ギリギリのところでお互い致命傷は与えられていない。

一度距離を取る二人。

今までの攻防で、相手の手の内は全て見えただろう。

「次の攻撃が、お互い全力を尽くすモノになるだろうな。・・・・・・決まるな。」

普通に戦えばユートの勝ちだろう。

だが相手はキョウコ。ユートにとって大事な人だ。ユートに迷いが出るかも知れない。

「おっ!?何か動きがあるな・・・。」

遠見で見ていた映像の中で、ユートとキョウコが何やら話をしている。

どうやら、【空虚】が一時的にキョウコの心を返したらしい。

 

 

「来ないでユウ!・・・・・あたし、いっぱいスピリット殺しちゃったよ・・。いっぱい、いっぱい・・・・。それに人だって・・・・。」

どうやら【空虚】に囚われてはいても、その間の記憶はあるらしい。

スピリットとの戦いや、ユートとの戦い、そして国を滅ぼした時の人を殺した記憶・・・。全てキョウコの中に刻まれている。

「考えるな、キョウコ!お前の意志でやった事じゃないだろう?・・・・神剣なんかに負けるな!」

キョウコの強く呼びかけるユート。

「ダメだよ・・・・。だってアタシ、ユウにまでこんな事・・・。・・・・・・アタシ生きてちゃダメだよ!!!」

叫ぶキョウコ。

「俺の手も血で汚れている。・・・・今までも何度も殺してしまった。」

静かに答えるユート。

カオリを助けるためだからといって、許される事ではない。

それでも、カオリを助けるために罪を重ねてきた。

「アタシは自分の勝手で殺してきたんだよ!ただ帰りたいってだけで!!」

ユートはこんな弱々しいキョウコは見たことなかった。

「人殺しなんてイヤなのに・・・・・もういっぱい殺しちゃったよ・・・。」

「だったら償えばいい!」

キョウコの言葉に、即言い返す。

「死んで償うなんてのは・・・、そんなのはダメだ。死んだらそこで終わりなんだ。償えないだろう?」

優しく諭す。

「ユウ、アタシ・・・・自信ないよ。・・・・・・また取り込まれたらアタシどうなるか解んないよ・・・。」

力なく笑うキョウコ

「バカ!気を強く持て!俺を信じてくれ!」

「ゴメン、ユウ・・・・・アタシを殺して・・・。アイツが出てくる。アタシがアタシじゃなくなる前に・・・・・・、アタシを殺してぇぇぇぇーーー!!」

キョウコはそう叫ぶとガクッとうな垂れる。

そのキョウコから【空虚】の力が膨れ上がる。

そして再び【空虚】がキョウコの身体を支配した。

「時間切れだ。所詮は心の弱い存在。私に適うはずも無い・・・・・・・。それでは行くぞ【求め】の主よ。」

剣を掲げるキョウコ。

「くそっ、こうなったら【空虚】の意思だけ破壊するぞっ!!」

『契約者よ。我々の戦いはそれ程生易しいものではない。』

「俺はやるって言ってるんだ!・・・力を貸せ、バカ剣!!」

 

 

「岬が死ぬのは困る。お前がいなくちゃ、話にならないからな。ユート・・・・間違っても殺すなよ・・・・。」

不適に笑うシン。

間違ってもユートがキョウコを殺すとは思っていない。

殺せるわけがない。

「これで最後だな・・・。ようやくここまできたか・・・。・・・・・後は上手くいく事を祈るとするか・・・・。」

遠見の映像の中で、ユートとキョウコが戦っている。

 

 

「うおぉぉーー!!」

ユートの【求め】による一撃が【空虚】へと吸い込まれていく。

手ごたえがあった。

神剣の意識だけ、【空虚】の意識だけを断ち切る事に成功した。ユートはそう確信した。

「やった!どうだ、バカ剣!!」

『最後の最後で、この娘が【空虚】の意識を切り離した。・・・・・面白いものだ・・。』

【求め】の言葉に頷き、キョウコへと走り寄る。

「・・・・・・あ・・ぅ・・・。」

キョウコが呻き声をもらす。

「キョウコ、無事か?キョウコ!!」

優しくキョウコを抱き起こすユート。既に【空虚】の気配は無い。

「・・・・・う・・あぅ・・・。」

苦しそうに呻き声を上げるキョウコ。

神剣との精神結合が消えたため、傷の治りが遅い。

そうこうしている間にも血が溢れてくる。

「誰か回復を!!お前達の隊長だろう?」

既に戦いを終えていた稲妻部隊のスピリットに声をかける。

ラキオスのスピリット達との戦いで、ボロボロになっていた稲妻部隊のスピリットだが、隊長であるキョウコの危機察して、近寄ってくる。

「キョウコの事を頼む。コイツを助けてやってくれ。もう・・・・・戦うつもりは無いから。」

「解りました。キョウコ様の事はお任せください。」

一人のグリーンスピリットが返事をする。

彼女自身もかなりボロボロだ。

「悪いがキョウコを頼む。・・・・早くしないとこの辺り一体が全部吹き飛ぶ事になるんだ。」

スピリット達は互いに顔を見合わせた後、頷いた。

「ありがとう。コイツを助けてやってくれ。俺の大事なヤツなんだ。」

ユートはそう言って、ラキオスのみんなと一緒にマロリガンへと向かった。

 

 

ユート達が去った後、キョウコは稲妻部隊の一人に癒された。

「大丈夫ですかキョウコ様?」

出血は抑えられたが、傷自体はあまり治っていない。体力も回復していないようだ。

癒したグリーンスピリット自身もボロボロだったため、ほとんど力が残っていなかったのだ。

「・・・ぅ・・ぁ・・・クォーリン?」

キョウコは小さながらも、しっかりした声で返事をした。」

「ハイ、そうです。」

「・・・ユウは・・・?」

「コアの暴走を止めるために、首都に向かいました。」

「・・・・コウインは・・・?」

キョウコの問いに一瞬詰まるクォーリン。

「コウイン様は・・・・・。」

コウインは、先にユートと戦ったという事は知っている。

そして、ユートがこの場に現れたという事は、コウインは負けたのだろうと、クォーリンは判断した。

安否までは解らない。

それでもユートの人柄を信じるなら、大丈夫であろうと考えていた。

クォーリンがどう答えようかと考えていると、道の向こうから多少怪我を負ってはいるが、無事な姿のコウインが戻ってきた。

「キョウコ、無事か!!」

慌ててキョウコの側に寄るコウイン。

そして、傷ついてはいるが、【空虚】から解放されてるキョウコを見て、ホッと息をついた。

「・・・・コウイン・・・。取りあえず・・・無事みたい。」

途切れ途切れながらも、笑いながら答えるキョウコ。

「・・・そうか・・・・・よかった。」

「・・・コウイン・・、ユウをお願い。」

小さな声でコウインに話しかける。

「解ってるって。キョウコはゆっくり休んでてくれ・・・。」

そしてクォーリンの方を見る。

「クォーリン。俺は大将を止めに、ユート達を追う。キョウコを頼めるか?」

「ハイ。キョウコ様の事はお任せください。」

「じゃあ、行ってくる。後は頼む。」

コウインはそう言うと、急いでマロリガンへと向かいだした。

 

 

コウインがユート達を追って、暫く時間が経った。

コウインが去った後、キョウコとクォーリン達はその場で休息を取っていた。

もう少し休みやすい場所の方がよかったのだが、キョウコの傷は深い。下手に動かすのは危険だとクォーリンは判断した。

それに自分を含め、稲妻部隊の皆もかなりやられている。

人に比べて治癒力は圧倒的に高いスピリットだが、それでも皆の傷や体力が、ある程度でも癒えるまでには、まだまだ時間がかかる。

それよりも、もう少し自分が回復すれば、【大地の祈り】が使えるようになる。それを待つべきだろうと判断した。

コウインから任されたのだ。最大限慎重に行動しても、し過ぎるという事は無いはずだ。

回復に努めるため、クォーリンは静かに目を閉じ、木にもたれかかった・・・・・・。

 

 

「・・・・この時を待っていた・・・・。」

生い茂った木々の間から男の声が聞こえ、クォーリンは慌てて立ち上がった。

「うっ、く・・・・。」

急いで身体を起こしたため、身体の傷を刺激する。

鈍い痛みが全身を襲う。

稲妻部隊の皆も、何とか臨戦態勢をとろうとしたが、体力も傷も回復しておらず上手くいかない。

稲妻部隊より傷の深いキョウコに至っては、顔だけを声の聞こえた方に向ける程度だ。

そして、槍を持った一人の男が木々の間から姿を現す。

「この時を待っていた・・・・。岬、お前が倒れ、近くにユートも、コウインも、助けてくれる者もいなくなる・・・この時をな・・・・。」

現れた男を見て、キョウコの目が大きく開かれる。

「・・・・あんた・・・、如月・・・・。」

どうしてこんな所に?という顔をするが、シンもこの世界に来ていた事を記憶の中から引っ張り出す。

「・・・そう言えば、アンタもこっちの世界に来てたんだったわね・・・・。」

「同じ世界の者同士、感動の再会を喜び合うべきかな?」

場違いなほどニッコリ笑って答える。

そんな二人のやり取りを無視し、クォーリンが間に入る。

「何が目的だ!」

身体の痛みを我慢しながら、シンに強く問いかける。

・・・・迂闊だった。

現在敵対しているラキオスとの戦争は、先ほどの戦いで事実上終わったと思い、クォーリンは油断していた。

敵がいなくなった訳では無いと言うのに・・・・。

帝国も残っているし、それとは別の敵もいるかもしれないのだ。

そしてこの男は、その外見や特徴を見る限り、最近スピリットを襲撃していたヤツだろう。

多少危険でも、もっと安全な場所に移動するべきだった。

クォーリンは、油断した自分に怒り感じる。

 

「目的?・・・さっきの俺の言葉から推測できないかな?」

そう言って、キョウコのほうを見る。

「キョウコ様に手出しはさせん!!」

シンの言葉と視線で、目的が判る。

ラキオスのエトランジェとコウイン様に頼まれたのだ。

そして自分は、任せてくださいと答えたのだ。

必ずキョウコは守る。

たとえ、自分が死ぬ事になっても・・・。

「・・・・どういうつもりなの、如月?」

キョウコもシンの目的が自分なのだと理解し、鋭い視線を送る。ただ、傷ついた身体で為か、その目に力は無い。

「・・・・・・俺の事はシンと呼んでくれないか?・・・・・オレは【真実】のシンだ!」

キョウコの問いには答えず、否定を許さないように、シンは力を込めて言い放った。

「まぁ、いい。俺の目的は察しの通りお前だ。大人しく俺に捕まってくれ・・・。」

不適な笑いを浮かべる。

「キョウコ様をどうするつもりだ!!」

クォーリンは身体の傷を抑えながら叫ぶ。

キョウコもシンの目的が何なのか探るような目つきでシンを見る。

「岬、お前ならわかるだろう?神剣に飲まれかけたお前なら・・・。神剣が求めるものが何なのか・・・。」

シンのその言葉にキョウコは辛そうな顔をする。

「まさか・・・アンタも神剣に・・・?」

搾り出すようにして声を出す。

「オレは神剣に飲まれちゃいないさ。あくまでも俺の意志だ。」

「・・・・何でそんなことするのよ?」

「生憎、今は答えるつもりはない。」

あっさり、答える。

「そんな事より・・・・時間稼ぎはもういいだろう?・・・・・・大人しく俺に従ってもらおうか・・・。」

そう言って少しずつキョウコに近づいていく。

「止まれ!!」

クォーリンと、他の稲妻部隊がキョウコまでの道を塞ぐ。

「止めとけ・・。今のお前達じゃ俺には適わない。無駄に命を捨てる事はないだろう?」

いくらシンが弱くなったとはいえ、ボロボロの彼女達には負けない。

「黙れっ!!コウイン様にも、ラキオスのエトランジェ殿にも、キョウコ様の事を任されたのだ。たとえ死んでも此処は通さん!!」

クォーリンは叫ぶ。他の稲妻部隊も命をかけてキョウコを守ろうとしている。

「・・・・そうか・・・・・。・・・・・・なら死んでくれ・・・。」

顔を伏せ、悲しそうな眼をするシン。

しかしそれも一瞬の事で、直ぐに顔をあげ容赦なく言い放った。

そして【真実】を構える。

クォーリン達、稲妻部隊もフラフラしながら神剣を構える。

「・・・・・いくぞ・・・。」

一言、言い放ち【真実】を横に薙ぎ払った。

ガキィーーン!!

「ぐっ、あ・・・」

シンの一撃で、吹き飛ぶ稲妻部隊。

なんて事無い一撃だったが、今の彼女達には受けきる力は残っていなかった。

そして、再び攻撃を仕掛けるシン。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」

そんなシンに慌てて声をかけ、止めるキョウコ。

キョウコの声に攻撃の手を止め、キョウコを見る。

「アンタの狙いはアタシでしょ?彼女達には手を出さないでちょうだい。」

小さいながらも、力強い声で話す。

「なら大人しく俺に従うか?」

キョウコの眼を見ながら威圧するように話しかけるシン。

「・・・・・・・・。」

同じようにシンの眼を見ながら何かを決意したような顔になる。

「い、いけませんキョウコ様!!」

地面に倒れているクォーリンが、キョウコの考えを察して慌てて止める。

「ゴメン、クォーリン。ユウとコウインには上手く言っておいてくれる・・・・・。」

「キョウコ様!!」

「いい判断だ。これ以上の犠牲は無意味だからな・・・。」

そう言って倒れているキョウコに近づくシン。

キョウコの側まで行き、まず【空虚】を接収する。

これで、たとえキョウコが回復したとしても何も出来ないだろう。

「さて、と・・・・・別に今すぐお前をどうこうするつもりは無い。・・・・・お前はユートとコウインを抑えるために必要だからな。」

そう言ってキョウコを抱き起こす。

「・・・・う・・ぁ・・。」

キョウコは傷が痛みで呻き声を上げる。

「くっ、キョウコ様を放せ!!」

「止めとけ、今動けば傷が悪化するぞ?・・・・・今のお前には俺を止める力も、岬を止める力も無い。」

そしてクォーリンを見定める。

「出来る事は、せいぜいユートとコウインに伝言を伝える事ぐらいだな。」

そう言ってマロリガンの方をちらりと見る。

マロリガンの方角はエーテルコアが暴走している為か、やけに空模様が怪しい。

マナのバランスが崩れてきているのだろう。

もう間もなくマナ消失が起る。

ユート達に全てがかかっていた。

(しくじるなよ、ユート。此処で全部吹き飛んだら、終わりなんだからな・・・。)

ガサガサッ!!

シンが物思いに耽っていたその時、木々を間から四、五人の人影が飛び出してきた・・・・。

 

 

その頃、ラキオススピリット隊の後方待機組の五人もマロリガンへと向かっていた。

ミエーユの防衛部隊も、自国のエトランジェ二人が敗れたとの報告を受け、既に撤退を始めている。

いや、撤退というよりも、もはや全力で逃げまどっているだけだ。

過剰なまでの撤退の理由は、コアの暴走が知られたからだ。

もう直ぐ全部吹き飛ぶと判った時、人間は直ぐに逃げ始めた。

命令するものが居なくなった以上、スピリットもどうこうする事はできずに、同じように撤退を始めていた。

 

「ユート様達は大丈夫かしら?」

ヒミカがマロリガンへと続く荒野を走りながら、誰にとも無く話しかけた。

「大丈夫でしょ。エトランジェ二人には勝ったって言うし・・・。」

その問いにセリアがぶっきらぼうに答える。

「結局、戦闘らしい戦闘はありませんでしたねぇ〜。」

「でしたねぇ〜。」

ハリオンとシアーがマイペースに答える。

「そうね・・・。ま、それにこした事は無いけどね。・・・・・ヘリオン、元気ないわね?」

セリアが答え、元気の無いヘリオンを見る。

「・・・・・・・・・はぁ・・・。」

朝、ニーハスを出発した時からずっとこんな感じだ。

「ま、仕方ないわね・・・・。」

自分の好きな人が敵に回るかもしれないのだ。いつもの様にはいかないだろう。

「結局シン君にも遭いませんでしたねぇ〜。」

ハリオンが残念そうに言う。

「それが、いい事なのか、悪い事なのか解らないけど・・・・。」

ヒミカも言いづらいそうに言う。

「・・・・はぁ〜。シン様・・・・。」

相変わらず元気が無い。

「早く真相を確かめたいわね・・・。」

セリアがポツリともらす。

皆、走りながらそれぞれの考えに耽っていた。

 

「!?待って!!」

急に走るのを止めて、ヒミカが険しい顔で皆を止める。

「どうしたんですか?」

シアーが恐る恐る聞いてみる。

「皆、感じない?小さいけど神剣の気配を・・・・。」

ヒミカの言葉に、皆神経を集中させる。

「・・・・・・・・・・・・・ほんとですねぇ〜。小さいですけど、いくつか感じますねぇ〜。」

「・・・・・・・・ホント、何かしら?」

全部小さいが、五、六人分の神剣の気配を感じる。

「・・・・・・気配の感じからすると・・・、臨戦態勢に入ってるみたいね・・・。」

神剣から感じられる気配からは、明らかに敵意というか、闘気のようなものが発せられている。

「・・・・行ってみますか?」

今まで元気の無かったヘリオンが問いかける。

「・・・・・・そうね。私達の任務を考えるなら、行ってみるべきね。」

満場一致で確かめに行く事が決まり、皆は気配のするほうに進路を変えた。

 

赤茶けた荒野をヒミカ達はひた走る。

「皆、もう直ぐよ。」

ヒミカは皆に声をかける。

幸い先ほどの場所からそれ程離れていなかった。

体力的には問題ない。

敵がいても、充分闘える。

「あの向こうね・・・。」

セリアが小さく呟き、皆一気にスピードを上げる。

ガサガサッ!!

そして木々を掻き分けた先には五、六人の人影が待ち構えていた。

スピリットであろう四人は倒れている。

さらにその奥には、槍を持ち、一人の女性を抱きかかえた男の姿があった。

 

「・・・・・・お前達か・・・・・。」

現れた五人に視線を送る。

「・・・・・・・シン・・・・・様・・・・・。」

そんなシンを見て、ヘリオンは呆然と呟いた・・・・・。

 

続く

 

後書き

十三章アップです。

ついに再会を果たしましたシンとヘリオン及びラキオスのみんな。

次回で決着つくといいんですが・・・・どうなるでしょうか。

今回クォーリンを出しましたが、彼女の性格及び、グリーンスピリットであるというのは、設定資料集から推測したものです。

性格に関しては、ショートストーリーを基にしたんですが、グリーンスピリットにしたのは、その中で【大地の祈り】という回復っぽいスキルが出てきたからですね。回復スキルをもつスピリットといえばグリーンスピリットだろうという事で決めました。

はい。という事で次回もよろしくです。

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