作者のページに戻る

 イレギュラーズ・ストーリー

 

 

十二章  罪〜SIN〜

 

《ラキオス》

ヨーティアの部屋にヨーティア、ユート、レスティーナが集まっている。マロリガン攻略のための作戦会議みたいなものだ。

ヨーティアが机の上にドンと何かの図面を広げる。

「これがかねてより設計に着手していた、『抗マナ変換装置』さ。まだ試作型で、機能は限定されるけどね。」

笑いながら自慢げに話すヨーティア。

「それがマロリガン攻略にどう関係してくるんだ?」

ユートが、いまいち解らないといった顔でヨーティアに問う。

「マナ障壁は、マナ障壁発生装置にエーテル変換機能を持たせ、周囲のマナをエーテル化して使っているわけだ。・・・・それならば周囲のマナを使用不可能にしてしまえば、エーテルは得られずマナ障壁は発生しない。・・・・・・そこでコイツを使うのさ。」

抗マナ変換装置の設計図をポンポンと叩く。

「なるほどね・・・。」

本来抗マナ変換装置は、世界からエーテル技術を消滅させ、争いの火種を消すためのモノだという。

「コイツはもう完成しているから、あとはスレギトでコイツを発動させればいい。・・・・・ユート、親友を助けるんだろ?頑張ってきな。」

ヨーティアがニヤリと笑う。

「ああ。サンキュ!ヨーティア。」

(必ず方法はある筈だ。キョウコ、コウイン。待っててくれ。)

そう言って部屋を出ようとするユート。

「ああ、ユート。お前は残れ。ちょっと・・・・話がある。」

ヨーティアに呼び止められる。

「なんだよ?」

「いいから、重大な事だ。・・・・・・構わないかいレスティーナ殿?」

「判りました。ヨーティア殿あとをお願いします。」

そう言ってレスティーナは部屋を出ていった。

 

「なんだよ、重大な話って?」

レスティーナを見送ったユートがヨーティアに問いかける。

「・・・・ああ。この前、話したこと覚えてるかい?・・・・スピリットが襲われてるってヤツだが・・・。」

眉をひそめながらヨーティアが切り出す。

「ん?・・・ああ。覚えてるよ。・・・・確かマロリガン北部の町でスピリットが襲われてるってヤツだろ?」

一週間ほど前にヨーティアに聞いた情報だ。

「ああ、それなんだが・・・・・新しく情報が入ってきてな・・・・。その・・・・・。」

ヨーティアには珍しく歯切れが悪い。

「なんだよ?ハッキリ言えよ。」

ユートも訝しげにヨーティアを見る。

「・・・ああ。その犯人についてなんだが・・・、神剣を持った男だったらしい。」

「・・・・神剣を持った男?・・・・ちょ、ちょっと待てよ。スピリットはみんな女なんだから・・・・・エトランジェ?・・・コウイン!?・・なのか?」

「ボンクラ!マロリガンのエトランジェが、自国のスピリットを襲いはしないだろう。それに犯人はたいした使い手じゃないって言っただろ。アンタの親友はかなりの使い手だったんだろ?」

ヨーティアがヤレヤレといった感じで答える。

「・・・ああ。確かに。」

確かに自国のスピリットを襲っても意味は無い。むしろ戦力ダウンだろう。

それにコウインは確かに強い。もとの世界にいた時から自分よりも断然強かったが、この世界でもそれは変わらない。

「・・・・シュン・・・か?」

帝国に組するシュンなら、マロリガンのスピリットを斬る事に何の躊躇いも無いだろう。そんな感傷を持つヤツじゃない。

「このボンクラ!帝国のエトランジェがこの時期に単独でマロリガンに来るわけ無いだろ〜が。」

コイツは此処までボンクラなのか?って顔でユートを見るヨーティア。

「うっ・・・。確かに。」

確かにそんなの、いくらエトランジェが強いとは言え自殺行為だろう。

「う〜ん。」

考えるユート。

「・・・・・まさかシン?」

ボソッと呟くユート。

「・・・・・判らん。だが現時点では一番可能性が高い。私と会って、ソーン・リームに行って調査をし、帰ってくると時間的にもだいたい合うしな。」

ヨーティアの答えにユートは反論する。

「ちょ、ちょっと待て。それこそありえないぞ。アイツはコウインと同じくらい強いんだぞ?・・・・それにアイツは無意味にスピリットを斬る事を、嫌っていたヤツだぞ?だいたい理由が無いじゃないか。」

一気にまくし立てるユート。

「だから判らんと言ってるだろう。・・・・前にも言ったが、他にもエトランジェが居る可能性もあるしな。・・・・・とにかく犯人が誰であれ、一応覚悟はしとけ。さっきも言ったが、シンである可能性が一番高いってのは事実なんだからな!」

ヨーティアも一気にまくし立てる。ヨーティア自身あまり信じたくない気持ちもあるのだろう。

「・・・・そんな事ある訳が・・・・・。・・・・シンも俺から離れていくのか?」

「いちいちクサルな!信じてやるのもユートのやるべき事の一つだろ?」

ヨーティアがウジウジするユートに気合を入れさせる。

「・・・・そうだな。サンキュー。ヨーティア。」

「気にすんな。」

ニヤリと笑って答える。

「・・・・それからこの事はまだ皆には言わないでくれ・・・。・・・第二詰め所の皆、特にヘリオンには・・・・。」

「・・・・分かってるさ。」

「サンキュ。」

ユートはそう言ってヨーティアの部屋から出ていった。

 

 

《マロリガン》

「・・・・・・・・・。」

一人の男が執務室の机に黙って座っている。。

男は不機嫌さを露わにしながら溜息を吐いた。

マロリガン大統領、クェドギンである。

その部屋にはもう一人、男が本棚に寄りかかって立っていた。

永遠神剣 第五位 【因果】の主、コウインである。

ラキオスのエトランジェであるユートとは旧知の間柄であり、この国のもう一人のエトランジェである【空虚】のキョウコといつも一緒にいた。

もっとも今は敵対関係にある。

【空虚】に囚われた恋人、キョウコを守るためにその道を選んだのだ。

「マナ障壁が突破されたみたいだな?」

不適な笑みを浮かべてコウインが問いかける。

「・・・・・・・ああ。近い内に最後の戦いが始まるだろうな。」

クェドギンは忌々しげに言葉を吐く。

マナ障壁を突破された事から不機嫌になってるわけではない。今後の議会の老人どもの考えが手に取るように解るから不機嫌になってしまうのだ。・・・・おそらくは、ラキオスか帝国どちらでもいいから手を結べと言ってくるのだろう。

クェドギンは不機嫌さを押し込め、用件を伝えるためコウインに話しかける。

「今日お前を呼んだのは、調査を頼みたいからだ。」

クェドギンの言葉に一瞬考えるコウイン。しかし直ぐに口を開いた。

「・・・・ここ最近のスピリットを襲ってるってヤツか?確か北部のニーハス辺りだったよな?」

クェドギンの言葉を先読みして答える。

「そうだ。僅かだが訓練初期のスピリットに被害が出ている。・・・・ほとんど被害が無いとはいえ無視はできん。」

「いいのか?今オレが調査に行っても?」

「マナ障壁を突破したとはいえ、直ぐには攻めてこんさ。四、五日ほどは猶予があるだろう。」

コウインはクェドギンの考えを読もうとするが解らない。

コウインに言わせれば調査をするのに四、五日は少ない。ラキオスに攻め込まれようとしている現在、わざわざ危険を冒してまで調査する必要があるとは思えないのだ。

「・・・・なぁ大将。どうして危険を冒してまで調査する必要があるんだ?自分で言うのもなんだが、今俺が動いたらラキオスに隙を与えると思うぞ・・。」

クェドギンはタバコに火をつけながら答えた。

「・・・・・犯人はエトランジェだ・・・・。」

他人事の様に言い放つ。

「!!・・・・・・確かなのか?」

一瞬驚くコウインだったが、すぐに確認を取る。

「槍型の神剣を持つ男だったという情報が入ってきている。・・・・詳しくは判らんが、ラキオスのもう一人のエトランジェかも知れん。」

「如月が?・・・・潜入工作をやっていたって事なのか・・・。」

コウインはユートが言っていた事を思い出す。

待機していると言っていたが、担がされた言う事なのだろうか。

「それは判らんよ。被害はほとんど出ていないし、何よりあの辺りは侵略価値が低いからな。別の目的があるのかも知れん。」

「それを調査してこいって事か・・・。」

「頼んだぞ。お前が帰ってくる頃にはラキオスとの戦いが始まるだろう。」

「なるべく早く戻ってくるさ。ユートとも決着つけないといけないしな・・・。じゃあな大将。」

そう言うとコウインはクェドギンの執務室を出て行った。

 

 

《マロリガン北部》

街道から離れたところに転がっている大きな岩に、一人の男が腰掛けていた。

一本の槍を抱きしめるようにして持っている。

「・・・・マロリガン・・・、最後の戦いが近い・・・・。」

男はそう呟いて、槍を握り締める。

「・・・・もうすぐだ【真実】。チャンスは近い・・・・。」

シンである。

【真実】を見るシン。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・。』

今更だが、やはり【真実】は何も答えてはくれない。

「・・・・これで最後にしたい。こんな事も・・・・。」

目を伏せ今までの事を思い返す。

【真実】を失ってからは、復活させるためにどんな事でもやった。

どんなに納得出来ない事でも、【真実】を復活させるために無理やり納得してやってきた。

そして最後にいき付いた方法は、結局単純なものしかなかった。

・・・・マナを失った神剣を回復させる方法・・・・・それは・・・・。

「・・・・ユート、碧、岬。・・・・・あいつ等がぶつかった時が、その時だ。」

そう言ってシンは立ち上がる。

「・・・・・すまない、みんな。・・・・・・すまない、ヘリオン・・。」

弱味を見せるのはこれで最後。

【真実】を回復させるために、今まで罪を重ねてきたのだ。今更迷うわけにはいかない。

これからラキオスの皆と対峙する事もあるだろう。

冷徹に接しきれるだろうか?・・・・いや、そうしなければならない。

【真実】の為に・・・いや、自分の都合の為に、罪を重ね、皆を裏切るのだ。

たとえ自分が死ぬような事があったとしても、誰も悲しいと思う事が無いよう、冷徹に接しなければならない。

覚悟は出来ている。覚悟は・・・・・・。

所詮、自分はSINなのだから。

 

ピィーン。

「!!」

顔を伏せていたシンは、神剣の気配を感じ慌てて顔を上げる。

【真実】が消え、シンの力もその殆どが失われていた。今は全盛期の三割にも満たないだろう。

その為、気配に気付くのが大幅に遅れた。

急いで遠見の能力を使う。

遠見の能力もかつて程の能力は無く、せいぜい二、三キロ圏内だけしか見る事が出来なくなってしまった。

「・・・・碧・・・。」

遠見の能力で捉えたのは、マロリガンのエトランジェ、【因果】のコウインである。

今シンが居るところから、一キロも離れていない。

既にシンの気配を察知されているのだろう。その歩みは迷うことなくこちらに向かってきている。

神剣自体の気配も小さくなっているから大丈夫だと思ったが、どうやら気付かれたらしい。

【因果】の特性なのかもしれない。

「まずいな・・・。」

今のシンでは逆立ちしても勝てない相手だ。全盛期でも五分五分だろう。

「この辺りでハデに動いたからな・・・・・流石にバレるか。」

この辺りでは二、三回しか成功していないが、何度もスピリットを襲った。

「被害がほとんど出てないから、エトランジェは来ないと思っていたが・・・・甘かったな。」

被害が出てないどころか、ほとんど返り討ちだった。

実戦経験が少ないであろう訓練初期のスピリットが相手でさえ、苦戦しながら何とか勝つことが出来る程度のレベルなのだ。

エトランジェに叶うわけがない。・・・かと言って今からじゃ到底逃げ切れない。

「どうするかな・・・・。」

戦っても百パーセント負ける。

逃げる事も出来ない。

ならば・・・・、

「・・・上手く騙して、やり過ごすしかないな。」

幸い、コウインはシンが力を失った事を知らない。

ラキオスとの決戦が近い事や、キョウコやユートの事を上手く使えばやり過ごせるハズだ。

「よし!」

そう決めるとシンは再びドッカリと岩に腰を下ろした。

慌ててしまっては騙せない。特にコウインは頭が切れる。余裕を見せ付ける必要がある。

テムオリンやタキオスと対峙した時の事を思えば、コウインなど恐れるに足らん。そう自分に言い聞かせる。

そして静かにその時を待った。

 

「さてと、もう直ぐだな。・・・・どうやら引くつもりは無いみたいだな。」

コウインはシンと接触するまであと四、五分のところまで来ていた。

気配を上手く隠していたのだろう。小さすぎる気配で見つけるまで時間がかかったが、見つけてしまえば早いものだ。

「さて、本当に如月だったらどうするかな・・・。戦う理由は無い事はないが、俺とはほぼ互角の力だった筈だからなぁ。」

歩きながら、どうするかを考える。

もし相手がシンだったら、力はほぼ互角。戦えば両者ともただではすまないだろう。

シンはラキオスに組している訳だから、戦う理由はあるにはある。

しかし近い内にラキオス・・・ユートとの決戦が近い。此処で力を使いきってしまう訳にはいかない。

それに今回は、あくまで調査でやって来たのだ。戦う必要が無いのなら戦うつもりは無い。それがマロリガンにとってマイナスになったとしてもだ。

大将の事は認めているし、稲妻部隊の皆にも仲間意識はある。だが、マロリガンという国自体にはそれ程関心は無い。

コウインにとってはキョウコこそが一番に優先されるべきものなのだ。ユートと戦うのも、【空虚】から守るためだが、もう一つ大きな理由は、ユートがいるとキョウコの想いが揺れるからだ。

キョウコがユートに惹かれているのは気付いている。そして、それが自分との関係を悩ませている事も解っている。だからこそユートとは決着をつけなければならない。

本当ならいつでもキョウコの側に付いててやりたい。それをおしてまで今回の調査に乗り出したのは、大将の頼みである事と、調査対象であるシンにに興味があったからだ。

此処で力を使い果たしてしまう訳にはいかないが、シンがキョウコにとって危険な存在となるようならば、コウインは戦う事も止む負えないと考えていた。

そしてついにコウインはシンの姿を肉眼で捉えた。

 

 

「お前とは顔見知り程度の間柄でしか無いが・・・・、感動の再会を喜び合うべきかな、如月?」

コウインは不適な笑みを浮かべて、岩に腰掛けているシンに話しかけた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シンだ・・・。」

若干の沈黙の後、シンは口を開いた。

「ん?」

「・・・オレは【真実】のシンだ。・・・・シンとよんでくれ。」

【真実】のところだけ念を押したように語調を強める。

「そうか。じゃあオレもコウインでいいぜ。」

(随分と落ちついてるじゃないか。一応オレはラキオスとは敵対関係にあるんだがな。・・・・かなり抑えてるようだが、神剣の力にも変動は見られないな。戦うつもりは無いって事か・・・。・・・取りあえずストレートに聞いてみるか・・。)

「シンお前の目的は何だ?・・・・最近この辺りのスピリットを襲っているのはお前だろ?・・・ラキオスの作戦か何かか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・ラキオスの作戦?何を言ってるんだ?俺はサルドバルト戦後にラキオスを出たんだぞ。」

予想外の答えがシンから返ってくる。

「何?そうなのか?」

「なんなら次にユートに会った時に聞いてみるといい。ラキオスとの最後の戦いが近いんだろ?俺は別にお前達の戦いを邪魔するつもりは無い。」

シンの返答を聞いて考え込むコウイン。

(さてと、どういう事かな。・・・ユートが待機していると嘘をついたのは、潜入工作を隠すためだと思っていたが、コイツの話が本当なら・・・・・。)

「なるほど・・・・戦力低下を隠すためか・・。」

コウインは独り言のようにポツリともらす。

そのコウインの独り言の意味を正確に汲み取り、口を開くシン。

「俺はまだラキオスに所属している事になっていたのか・・・・・・。なるほど戦力低下を隠すか・・・・。」

再び考え込むコウイン。

「シン。お前がラキオスと手を切ったという証拠はあるのか?」

「信じる、信じないはお前の勝手だ。・・・・まぁ、手を切ったというよりも、長い休暇を貰ったと考えてくれた方がいい。いつかはラキオスに戻るつもりだしな。・・・・・・・・さっきも言ったが、だからと言ってマロリガンとラキオスとの戦いに手を出すつもりは無い。」

余裕たっぷりに話すシン。

(なるほどな。いつかはラキオスに戻ると言ってるあたり、返って信憑性があるな。神剣の力にも変動は無いようだしな。)

「じゃあ何故マロリガンのスピリットを襲う?何を考えている?」

シンの話を信じるにしても、これだけは聞いておかなくてはならない。

「・・・・・・・・襲う?先に襲ってきたのはそっちなんだがな。」

「何?」

(情報と違うな。情報が間違っていたのか?それともコイツが嘘をついているのか・・・。)

「その話、もう少し詳しく聞かせてくれないか。」

コウインは足を組みなおして尋ねる。

「・・・・・・・今言ったように、先に襲ってきたのはスピリットの方だ。・・・・たいした使い手じゃなかった事を考えると大方、訓練初期のスピリットに実践訓練でもさせてたんだろ・・。こっちには戦う理由が無いんで、適当にあしらったが・・・・。まぁ、勢い余って死なせてしまったスピリット達も二、三人いたかな・・・。悪い事をしたと思ってるよ・・・。」

シンの話を聞き、疑わしそうに考え込むコウイン。

 

(さて、今のはちょっと苦しかったか?・・・・被害がほとんど無かった事を不審に思われないためには、この程度の嘘しか考え付かなかったが・・・・。)

勿論スピリット達を先に襲ったのは、シンである。

ドキドキしながらコウインの言葉を待つシン。

今までは何とかやり過ごす事が出来た。

神剣の力が小さい事も、それは戦う意志が無い事としてコウインには伝わっているだろう。

ラキオスとの関係が切れてない事をあえて話した事も、頭の切れるコウインなら、むしろシンの話を信用する根拠の一つになると思ったからだ。

だがスピリットを襲った事に関しては、良い理由が思いつかなかった。

(コウインなら例え騙せなくても、今此処で戦う様な事にはならない筈だ。)

何処からそんな自信が来るのか解らないが、シンは堂々とコウインの言葉を待っている。

根拠を挙げれば、戦って力を使い果たす訳にはいかないだろう事とか、ユートとの戦いが近い事とかあるのだが・・・・。

コウインが顔を上げる。

「へっ、まぁそういう事にして置くか。今日の所はこれで退くが、俺たちの邪魔はするなよ。・・・・それと、しばらくは大人しくしていてくれよ。次は見逃す事はできないからな。」

コウインは不適に笑いながら答えた。

(やっぱ騙せなかったか。だがまぁ、戦闘にならなかったし良しとするか。)

コウインが騙されてくれた事を悟りながらも、シンは態度を変えない。

「言っただろ。今回のラキオスとの戦争に手を出すつもりはない。」

(戦争には、だがな・・・・。)

「ユートと決着をつけたら今度はお前とも戦いたい。その時は逃げるなよ。」

コウインは笑いながら一歩下がった。

「・・・・・いいだろう。今回の戦いの後にでも手合わせしてやる。」

(・・・・・その時には力が戻ってる筈だ。)

【真実】を力強く握り締める。

「じゃあ、またなシン。次に会うときは、手合わせをする時だ。」

そう言ってコウインはマロリガンへと戻って行った。

コウインが見えなくなってシンが口を開いた。

「ああ、じゃあなコウイン・・・・・・。もっとも次に会う時は、手合わせじゃなく殺し合いになるだろうがな・・・・・・。」

シンの鋭い目つきでコウインの去った方を睨んだ・・・。

 

 

《スレギトより西 ニーハスへと至る街道》

スレギトのマナ障壁を突破して五日が過ぎ、ついにマロリガンへと攻め込む時が来た。

今回は急いで進軍しなくてはいけない。

マロリガン大統領が何を考えたのかは解らないが、エーテルコアを暴走させたのだ。

このままでは近い内にイースペリアのマナ消失を上回る規模のマナ消失が起る事になる。

その被害は大陸全土を襲うだろう。

イースペリアの時よりも規模が大きいため、その分暴発までに時間がかかる。

それでも残された時間は三日と無かった。

 

ユート達、ラキオスのスピリット部隊はスレギトを出て行軍を続けていた。

今回から、帝国のスピリットだったウルカが仲間として共に行動している。

ウルカも【冥加】を取り戻し、その恩に報いるべく、ラキオス共に歩む事を決めてくれた。頼もしい限りだ。

そんな中ユートはコウインとキョウコについて考えていた。

「・・・・戦うしかないのか?」

ぼそりと呟くユート。

戦う理由。

ユートはカオリを守るため。コウインはキョウコを守るため。

どちらも想いは同じだ。どちらも譲れない。だけど、どちらかしか選べないとしたら・・・。

「・・・・できるかよ。」

しかし決断しなければならない。

迷いを持ったまま勝てる程、コウインとキョウコは甘い相手ではない。

本気で挑んでも勝てる可能性は、良くて五分以下だろう。

それでも、

「絶対、俺はキョウコ達を犠牲にはしない!」

犠牲になどできる筈がない。・・・・・たとえカオリの為だとしても。

「まだ、間に合うはずだ。キョウコを神剣から解き放つ事だって絶対できる!・・・・解放してみせる。そうすればコウインだって・・・。」

戦うのは避けられないかもしれない。しかしそれがイコール二人を殺す意味に繋がるわけじゃない。

「よく聞け、バカ剣!俺はコウインもキョウコもカオリも、誰も死なせたりなんかしない!」

決意を新たにする。

一つ気になる事があるとするなら、それは・・・・、

「・・・・シン。一体何を考えてるんだ・・・・」

ヨーティアから貰った情報・・・・。マロリガン北部でスピリット達を襲っているのが、シンである事がつい先ほどほぼ確定してしまった。

スレギトを出発した時の事を思い出す・・・・・。

 

・・・・数時間前・・・・

夜が明けたスレギトの駐屯地にラキオスのスピリット隊が集められている。

今回の進軍で事実上マロリガン戦は終わる。マロリガン戦最後の作戦会議となるだろう。

「ユート様。マロリガンへと至る道は三つあります。一つはマロリガン北部の町ニーハスを経由してマロリガンへと至るルートです。遠回りになりますし、途中の補給もままなりません。しかし待ち受ける稲妻部隊の数も一番少ないでしょう。」

エスペリアが皆の前で説明する。その表情は幾分険しい。

「次に、ミエーユを通る道です。マロリガンまでは最短ルートとなりますが、ミエーユはマロリガンでも有数の大都市で、防衛のため強力なスピリットが配置されています。また、このルートはもっともマナが希薄で、不浄の荒野と呼ばれています。厳しいルートになるでしょう。」

ユートは頷きながら、多分二番目のルートになるだろうと考えている。確かに厳しいルートだが、マナ消失が迫っている今、最短のルートを選ぶべきだろう。

「最後のルートは、旧デオドガン領を通過し、ガルガリンを経由しマロリガンへと至るルートです。このルートも遠回りとなりますが、デオドガン、ガルガリンという二つの街を経由しますから補給の心配がありません。」

此処で一息つくエスペリア。そして再び口を開く。

「どの道も一長一短がありますので、よく考えて決めましょう。」

そこでユートが皆を見渡す。

「皆はどう思う?」

ユートの中では決まっているのだが、みなの意見も尊重したい。

「私はミエーユを通るルートがいいと思います。確かに危険は一番大きいでしょうが、マナ爆発まで猶予がない今、最短のルートを選ぶべきです。」

ヒミカが素早く自分の意見を述べる。ユートと同じ考えだ。

「私もヒミカと同意見です。」

セリアがヒミカに賛同する。

「手前もその方がよろしいかと・・・・。」

続いてウルカも同意する。

三人の言葉にファーレーンやハリオン、ナナルゥも同意する。

オルファ、アセリア、ネリー、シアー、ニムは皆の意見に従うつもりのようだ。

「ヘリオンはどう思う?」

ユートが最後に残ったヘリオンに尋ねる。

「ハイ、私もそれでいいと思います。」

キッパリと答えるヘリオン。以前のようなモジモジした雰囲気は無い。

スピリット隊の中でも弱い方に位置していたヘリオンだが、シンがいなくなってからの激しい訓練で、ヒミカやセリアといった年長組みと同等の力を身につけるまでになっていた。

精神的にも強くなり、それがヘリオンの雰囲気を変えた。

「みんな同意見だな。・・・・よし、進軍はミエーユを通るルートに決定しよう。」

皆を見渡しながら決定を下すユート。

「もう直ぐで出発になる。みんな準備を始めてくれ。今日中にはミエーユまで進軍したい。」

「「「「「「「解りました!!」」」」」」」

皆はそう言うと各々の準備に取り掛かった。

「・・・・・ユート様。」

一人残ったエスペリアがユートに話しかけてくる。その顔は相変わらず険しい。

(そう言えばエスペリアは意見を言わなかったな。)

意見を求められた時は、真っ先に自分の意見を述べるエスペリアにしては珍しかった。

「どうしたんだ、エスペリア?」

「はい・・・・少しお話しておきたい事があります。」

そう言うとエスペリアは、ユートを外に促すように歩き始めた。皆には聞かせられない話なのだろう。

人気のない場所まで来るとエスペリアはユートの方へ体を向けた。

「話って何だ、エスペリア?・・・・どうやら、あまりいい話じゃないみたいだけど・・・。」

エスペリアの雰囲気を察し、ユートが話しかける。

エスペリアも否定する事無く、口を開いた。

「はい・・・・・。実は・・・・・・シン様の事なのです。」

「!?」

エスペリアの言葉にユートがピクリと反応する。

まさか・・・・・、という思いがユートを駆け巡る。

エスペリアが話しづらそうにしているのを見て、ユートは確信する。

そしてエスペリアよりも先に口を開いた。

「ひょっとして、マロリガン北部でスピリットが襲われてるってヤツか・・・?」

ユートの一言にエスペリアが大きく目を開く。

「知っていたのですか?」

「・・・・ああ。ヨーティアからな、聞いてたんだ。・・・正体がハッキリしてなかったんで皆には言わないように頼んでた・・・・。」

ユートが険しい表情で淡々と話す。

「・・・・・・・・・・・。」

沈黙を守るエスペリア。

「・・・・なぁ、エスペリア。・・・・本当にシンなのか?」

そのユートの問いかけにエスペリアは言いづらそうに口を開いた。

「・・・・スピリットを襲ったのは、槍型の永遠神剣を持った男性だったそうです。・・被害も僅かですが、出ています。」

男であるという事はスピリットでは無い。つまりエトランジェだ。

そして槍型の神剣を持つエトランジェはシンしかいない。勿論他にエトランジェがいないという事が前提になるが・・・。

「ヨーティアに聞いた時は、被害は出てなかったんだけどな。・・・・目的が何なのか判るか?」

「いえ、それはまだ判りません。」

二人ともシンの名前は出さない。

「・・・・・・・・。」

ユートは考える。

どうすればいい?

「エスペリア・・。この事はまだ皆には話さないでくれ。特にヘリオンには・・・。」

「解かっていますユート様。」

解っていなかったら、皆の前で報告していただろう。

「・・・・それから、一度決めた事を変えるのは、皆には悪いが、進軍はニーハスを通る北ルートに変更する。」

ユートがエスペリアに命令を下す。

基本的にユートは命令する事は少ない。エスペリアの方が指揮官としては優秀だからという事もあるし、ユート自身が命令するような性格では無い。

「・・・・よろしいのですかユート様?シン様が・・・・・・・もしそうなら、みんなと遭遇する可能性が出てきますが・・・?」

「今日はニーハスで夜を明かす事になると思う。・・・・・その時俺が、調べてみるよ。・・・・・俺たちは、皆より少し先行して進軍すれば上手くいくと思う。」

ユートが自信なさげに提案する。

「・・・・解りましたユート様。・・・・・・わたくしは皆に進軍ルートの変更を知らせてきます。」

結局最後までエスペリアは反対する事無く、ユートの判断に従ってくれた。

「ユート様。お一人で背負わないでくださいませ。・・・・心が・・・・潰れてしまいます。」

眉をひそめユートの手を取るエスペリア。

「ありがとうエスペリア。」

エスペリアの手は暖かかった。

 

・・・・・そして現在・・・・・・

進軍ルートの変更は、反対意見は出たものの、ユートとエスペリアの深刻な表情に皆は納得せざるを得なかった。

変更した理由についても、今は言えない、という事で皆は何か自分達には言えない理由があるのだろうと納得した。

 

北のルートはエスペリアが言った通り、稲妻部隊の攻撃は少なかった。

先行組は、ユート、エスペリア、アセリア、セリア、ナナルゥ、ファーレーン、ニム、ウルカの八人。

人選の基準は、どんな事になっても冷静に行動できると言うことを念頭に置いて決めた。

残りの皆は、感情で動いてしまうタイプか、シンに近すぎるかのどちらかである。

先行組のユート達はニーハスまで残り十キロというところまで来ていた。

あたりは随分暗くなってきている。

襲ってくる敵は少なく体力的には問題なかったが、やはり時間がかかっている。

明日中にはマロリガンに到着しなければならない。間に合うだろうか。

もっとも今日はシンの事があったため、いつもより慎重に進んだという事もある。

(このまま何事も起らないでくれよ・・・。)

ユートは心の中でそう呟いた・・・・・。

 

 

後行組はユート達より遅れて進軍していた。ニーハスまで残り、十五キロといった所だろうか。

神剣を持つものにとって、五キロの差は大したものでは無い。何かあれば直ぐに駆けつける事の出来る距離だ。

「ユート様は、どうして今になって進軍ルートを変更されたのかしら?」

ヒミカが誰にとも無く問いかける。

「そうですねぇ〜。見る限り何か事情があるんでしょうねぇ〜。」

ハリオンがその問いに独特の口調で答える。

「そうですね。それに、先行組と後行組の人選もなんだかバランスが悪いような気がします。」

ヘリオンが会話に参加してくる。

オルファやネリー、シアーの三人は後ろからわいわい言いながら付いてくる。

「・・・・もう直ぐでニーハスに着くわね・・。・・・着いたらユート様に聞きましょう。・・・このままじゃ、皆の士気に関るわ」

ヒミカ、ハリオン、ヘリオンは顔を見合わせ頷いた。

 

《ニーハス》

ニーハスには、防衛のためのスピリットが殆ど配置されていなかった。

もともと侵略価値が殆ど無いため、配置されていたスピリットにも大した使い手はいなかった。

もう日も暮れており、周りは暗い。

ニーハスを破ったユートは休憩もそこそこに、スピリット襲撃の事に着いて調べ始めた。

まずは、ニーハス防衛の為に配置されていたスピリットからだ。

神剣にも飲まれておらず、大した使い手ではなかったので捕虜にしたのだ。勿論神剣は接収済みだ。

事情を知るエスペリアも聞き込みを行っている。

他の五人は宿場で休んでいる。

 

「最近この辺りで頻発していた、スピリット襲撃について話を聞かせてください。」

エスペリアが目の前に座っている捕虜のスピリットに問いかけた。

「・・・ああ、あれですか・・。」

スピリットは思い出すように話し始めた。

曰く、自分も戦った。身長、体型、髪型、持っていた神剣に性別。

話を聞けば聞くほど、その人間がシンである事を肯定していく。

そして一番気になった言葉が、「・・・お腹が空いたんだ・・・」である。

なんでも、襲ってきた人間が吐いた言葉らしい。・・・すなわちシンがである。

それともう一つ気になった事が、

「弱かったですから、直ぐに撃退しましたけど・・・・。」

というスピリットの言葉である。

(どういう事でしょう。少なくともシン様は、この国のエトランジェと同等の力はある筈ですが・・・。・・・それにお腹が空いたというのも変な気がしますが・・・・。)

エスペリアの中で疑問点が並ぶ。

いくら旅しているからとは言え、神剣を持っている限り狩猟に困る事は無いだろう。つまり飢えに苦しむ事も無い。

「被害にあったスピリットはどうなりましたか?」

被害にあったという事は、マナの霧となったという事なのだろうが、一応尋ねる。

「それは・・・よく判りません。」

しかし予想外の答えがスピリットから返ってきた。

「判らないとはどういう事ですか?」

「見たものの話では、戦いながら森の中に入って行き、そのまま戻ってこなかったと聞いてます。」

「・・・・・そうですか、お話ありがとう御座いました。」

なるほど、よく判らない。

しかし一つだけ判った事がある。

やはりスピリットを襲っていたのはシンである。

それは、他のスピリットから話を聞いてきたユート言葉からも肯定できる事実だった。

 

宿場に戻ったユートとエスペリア。

そこに待っていたのは、厳しい顔で二人を迎え入れたスピリット達。

「ど、どうしたんだ、皆?怖い顔をして。」

異様な雰囲気に一歩下がるユート。

エスペリアは何かを悟ったらしく、険しい表情をしている。

「どうもこうもありません、ユート様。何故急に進軍ルートを変更したりしたんですか!何を隠しているんですか?」

ヒミカが代表して勢い込んで聞いてくる。

「そうですよぉ〜。隠し事は、メッですよぉ〜。」

口調からは想像できないが、どうやら怒っているらしいハリオン。

「そうですね。そろそろ教えて下さいユート様。エスペリアは知っているようですし。このままじゃ納得いきません。そもそも今まで二人で何をしていたんですか?」

セリアが刺すような視線で二人を見る。

他のみんなも厳しい顔でユートとエスペリアを睨んでいる。

「・・・・ん・・ユート・・・。」

ユート、としか言ってないアセリアだが、意志は充分伝わってくる。

「そ、それは・・・・。」

そう言って、チラッとヘリオンを見るユートとエスペリア。

ヘリオンも皆と同様に二人を見ている。

「ユート様・・・。・・・・・みんなにも話しましょう。迷いを持って勝てる程、今回は甘くありません。・・・・・それにみんなはそれ程弱くはありません。」

エスペリアが判断を促す。

「でもなぁ・・・・・。」

そう言って再びヘリオンをチラッと見るユート。

先ほどは気にしなかったようだが、今回はヘリオンがユートの行為に反応した。

「な、なんですか?わ、私に何か関係があるんですか?」

ヘリオンが久しぶりにオドオドした態度で聞いてくる。

ユートはその問いには答えず、決意した顔で皆に向かって口を開いた。

「みんなよく聞いてくれ。今から話す事は、あくまでも情報をもとに推測した事でしかない。まだ、そうだとはハッキリ決まってないから、そのつもりで聞いてくれ。」

ユートが一息つき、エスペリアを見る。

エスペリアが頷く。

「ここ最近、マロリガン北部の町ニーハスを中心として、頻繁にスピリットが襲われていると情報が入りました。先ほど現地のスピリットからも話を聞きましたので、この事実に間違いはありません。」

エスペリアの言葉に皆がざわめく。

「それって、此処の事でしょう?」

セリアが確認を取る。

「はい。そうです。・・・・・襲われたのは殆どマロリガンのスピリットだったようですが、中にはソーン・リームに籍を置くスピリットも襲われていたようです。最近は、スレギト近くまで被害が及んできていました。・・・被害とは言っても実害は二、三件しか確認されていません。」

一息つくエスペリア。

「マロリガンに敵対する国の仕業なのですか?」

ファーレーンが確認するように聞いてくる。

「いや。犯人は一人だ。背後関係までは判らないが、どこかの国についているという事は無いと思う。」

ファーレーンの質問にそれまで黙っていたユートが答えた。

「何故そんな事をするかは、判っているんですか?」

ヒミカも聞いてくる。

「それはまだハッキリとは判りません。・・・・・・・・先ほど聞いた話では、「お腹が空いたから」と犯人は言っていたそうですが。」

エスペリアも解らないといった口調で答える。

「お腹が空いた・・・ですか。そのような事で、スピリットを襲うものでしょうか?」

ウルカが疑問をぶつけてくる。

「わたくしにも解りません。何か別の意味があるのかもしれませんが・・・・。」

エスペリアは考え込むように手を顎に持ってくる。

「とにかく、進軍中に襲われるかも知れない。被害も出ているからみんな気をつけてくれ。」

ユートはそう言いつつも、犯人がシンであるなら皆を襲ったりはしないだろうと考えていた。

とにかく、ユートはうやむやにして話を終わらせようとした。

「ユート様・・・。」

エスペリアがジト眼で睨んでくる。

「まだ話は終わっていません。」

「ははは・・・・。」

怒られるユート。

「そうだよぉ〜。だいたい、どうしてわざわざ私達に隠さないといけないのぉ?」

ネリーがブーブー言う。

「いけないのぉ?」

シアーがそれを真似る。

「そうです。それに進軍ルートを変えた理由は何ですか?」

ヘリオンも一緒になって聞いてくる。

皆に追い詰められるユート。

「そ、それは・・・・・・調査をしたかったんだ。この事件について。」

何とか答えらしきものを口にする。しかし、

「それじゃ、答えになってないし・・・。」

ニムに突っ込まれた。

「そうですユート様。急がなくてはいけない今回の進軍途中にやる理由がありません!」

ヒミカも怒った顔で聞いてくる。

ざわめくみんな。

「みんな静かにしなさい!」

エスペリアが一喝して、皆を静める。

静まる皆。

「ユート様・・・・。」

エスペリアがユート見る。

「解ってる・・・・。」

これ以上は誤魔化せないと判断したユートは皆を見渡す。

「皆聞いてくれ。さっきも言ったが、これはまだ確定したわけじゃない。」

ユートの言葉に、皆は何故同じ事を繰り返して言うのだろうと疑問に思った。

「事実は自分の目で確認してくれ。」

さらに言葉を続けるユート。

そしてついにユートは本題に入った。

「・・・・・スピリットを襲っているのは・・・・・。」

ユートの言葉に、皆がさらに静まる。

皆、一種の不安に包まれる。

何故ユート様とエスペリアは私達に隠していたのだろう、と。

何故ユート様は犯人を言うのにこれほど躊躇うのだろう、と。

ユートはそんな皆の顔を見て、口を開いた。

「・・・・・・シンなんだ・・・・・・・。」

ユートの声が、部屋の中でやけに大きく響いた・・・・・。

                                                                         続く

 

後書き

十二章、罪〜SIN〜でした。どうでしたか?勿論気付いているでしょうが、タイトルはシンとSIN(罪)をかけたものです。

前回は後二話でマロリガン戦は終わると書いてましたが、このままでは三回になるかも。

いや待てよ・・・・マロリガン戦は後一話で終わらせて、後日談に一話回せば・・・いけるか?

むぅ〜。何とか頑張ってみましょう。

無理しなくても三回にすればいいじゃないかと御思いでしょうが、あんまりだらだらやるのは好きじゃないんで。集中力も続かないしね。

早く帝国戦とエターナル戦を書きたいしね。

それから、シンが【真実】を失ってから何をしていたかは、その内番外編でも書きます。

という事で次回もよろしくお願いします。

それでは、さよなら、さよなら、さよなら!

作者のページに戻る