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 イレギュラーズ・ストーリー

 

 

第十一章 影

 

ラキオスとマロリガンが宣戦布告を交わして既に三ヶ月が経過しようとしている。

ラキオスは新しい仲間として、歴史上最高の天才と名高い賢者ヨーティアと、そのパートナーであるイオを迎えていた。

この二人がラキオスに入った事により、ラキオスは技術的にはマロリガンと帝国、双方を上回る事になった。

その代表的な例がエーテルジャンプの実用化であろう。

エーテルジャンプとは、マナで構成されるエトランジェやスピリット達を遠くまで運べると言うものであった。

技術的にはもっと複雑なのだが、簡単に説明するなら、そういうことなのだ。

 

現在ユート達は、スレギト制圧のためにダスカトロン大砂漠を横断している。

照らす日差しは猛烈な熱気を含んでいる。いや、猛烈と言う言葉すら生ぬるい。

想像を絶するとはこういう事を言うのだろう。

ユートは、空からの日差しと地面からの照り返しで頭がボーっとしていた。その暑さは徐々に体力を奪っていく。

砂漠に入ってすぐに戦闘になったのも痛かった。しかも相手はサーギオス最強の遊撃隊員ウルカ。

部下も一緒に連れてきていたのだが、実際にはユートとウルカが一対一で戦った。

帝国からカオリを助け出すために新たな決意をしたユートは、以前よりも【求め】の力を引き出す事が出来るようになり、苦戦しながらもウルカを撤退させる事に成功した。

その時ウルカから、お守りと共にカオリの伝言として言葉をもらった。

『私も負けないから、お兄ちゃんも負けないで』、だ。

その言葉はユートの決意を一層強める事になった。

しかし、それとは別にやはり砂漠はきつい。

ウルカとの戦闘は思いのほかユートの体力を削っていた。

しかも、吹きすさぶ風で砂が舞い上がり、呼吸も困難だ。

(流石に辛いな。・・・これが砂漠か・・。)

「ねぇ、パパ。大丈夫?・・なんだか辛そうだよ。」

息を荒くし、俯きながら歩くユート。オルファでなくとも心配するだろう。

「平気、平気、大丈夫さ・・・・。って言いたいんだけどさ、オレって実は熱さに弱いんだよね。」

心配かけまいと陽気に答えるユート。

「パパったら、ナンジャク、ナンジャク〜!」

腰に手を当ててケラケラ笑うオルファ。

(うう。何でこんなに元気なんだ・・。)

スピリットの特性なのだろうか。

しかしエスペリアやアセリアを見ると、かなり辛そうな顔をしている。

グリーンスピリットは樹木や大地の力が源なのだ。砂漠のような環境では相性が悪いのだろう。

ブルースピリットに至っては最悪とも言えるだろう。

「ユート様。」

ふとエスペリアがユートを呼ぶ。

「どうしたエスペリア。」

エスペリアは汗で張り付いた髪を掻き分けながら答える。

「この砂漠を横断し、マロリガンへと向かうこの道は相手にとって絶好の迎撃場所と言えます。それなのに兵がまったく配置されていません。いくらなんでもおかしいです。」

「う〜ん。」

考えるユート。

「神剣の気配ってのは隠せないんだから、この近くに敵がいない事は確かなんだよなぁ・・・。まぁ、こっちとしては距離が稼げるからありがたいんだけどさ・・・・。」

「・・・そうですね、少しずつ進軍しましょう。」

どこかに待ち伏せしている事は間違いないだろう。

いくら神剣の加護が受けられるとは言え、足場は悪いし、この辺一体は殆どマナがない。

出来れば戦闘避けたいユート達にとって、敵がいない事はありがたい事だった。

 

その頃、第二詰め所のスピリット達はユート達より遅れて、砂漠を横断していた。

「アツいよ〜。」

ネリーの疲れた声が響き渡る。

「ネリー、さっきから五月蝿いよぉー。」

ネリーの小言にシアーもバテ気味な声で答える。

しかしそれ以上続けようとはしない。

普段なら、さらに十分近くやり取りが続く二人なのだが。

ブルースピリットが故に砂漠との相性は最悪に悪い。口論する力も残っていないのだろう。

「二人とも我慢して。ここを通らなければスレギトに行けないんだから。」

年長者であるヒミカが二人を諭す。

今回の進軍チームは、

ヒミカ、ハリオン、ネリー、シアー、ナナルゥ、セリアの六人である。

ファーレーン、ニム、ヘリオンの三人はランサで待機中である。

ヒミカとナナルゥ以外の四人は明らかに元気が無い。

みんながそれぞれ荒い息を吐き、トボトボと歩いている。

「はぁ〜、それにしてもアツいですねぇ〜。」

ハリオンには珍しく本当に疲れた声だ。

「・・・・大体間違ってるわ。」

セリアもぼそりと呟く。

「普通こういう場所では夜動くものでしょう?どうして昼間から・・・・・。」

ぶつぶつ文句を言うセリア。

砂漠は夜になれば、それはそれで昼間とは違い気温が下がり寒いものだが、確かに昼動くよりかはマシだろう。

「何を考えてるのかしら、ユート様は・・・。」

不機嫌な声で、不満の矛先を隊長であるユートに向けるセリア。

「ユート様に失礼でしょうセリア。」

再びヒミカが諭す。

「分かってるわよ・・・・。」

そう言って再び黙って歩き出すセリア。

セリアは、シンがいなくなって以来ストレスをぶつける相手がいなくなり、ストレスが溜まっている。

暑さでイライラしていた事もあって愚痴ってしまった。

「あ〜あ。シンがいればよかったのになぁ〜。」

ネリーが残念そうに呟く。

精神的な支えとしてのシンもそうだが、実用的な意味合いでもシンは重宝されていた。

妙に実用的なスキルがあったりするのだ。その点ではイオに似ている。

本人曰く、「便利だから。」という理由で、自分で開発した神剣魔法らしいのだが・・・・。

その中に、外部との環境を完全ではないが遮断するもの(白陣の簡易版)がある。

それを使えば暑さや寒さを、ある程度防ぐ事ができるのだ。

「そうですねぇ〜。早く帰ってきて欲しいですねぇ〜シン君。」

ハリオンも残念そうに呟く。

「そうね・・・。ヘリオンのためにも早く帰ってきてもらいたいものね・・・・・。」

セリアもそれに同意する。

ヘリオンはシンがいなくなって最初の一ヶ月は、鬱状態に陥り、ひどく落ち込んでいた。

しかしそれを過ぎると今度は逆に、徹底的に訓練にのめり込んでいった。

ヘリオン曰く、「シン様が帰ってくる場所を守るためですぅ」、らしい。

今もランサで頑張っているのだろう。

「あらあらあら。素直じゃありませんねぇ〜セリア。貴方も早く帰ってきてほしいんでしょぉ〜〜?」

ムフムフ笑いながら突っ込むハリオン。

「べ、別にあんなヤツいなくたって、どうって事無いわよっ!!」

「顔が上気しているようですが・・・・・・・」

ナナルゥがボソッと呟く。

「こ、これはアツいからよ!!」

即、否定する。やはり素直ではない。

「ほらほら皆。おしゃべりはそこまでにして。敵が何処に潜んでいるか判らないんだから警戒して進んで。」

最後はヒミカが締める。

シンがいなくなってからは、ヒミカが第二詰め所の皆をまとめている。というかヒミカしかいなかった。

セリアは他人の面倒を見るような性格ではないし、ハリオンはマイペース過ぎる。ナナルゥは皆を統率するには意志が弱い。

そう考えるとファーレーンもよさそうだが、ファーレーンは押しが弱い。基本的に皆に甘いのだ。

他の四人はまだ幼い。となるとヒミカしかいなかった。

シンがいなくなって三ヶ月経ち、ようやく皆を統率する事に慣れてきた。

そんなヒミカの言葉に皆は頷くと、先ほどよりもリラックスした顔で進軍を続けた。

 

暑い中進軍を続けるユート達。

暑さで頭がボーっとする。そのつどエスペリアやオルファが心配そうな顔する。

(うう、なさけない・・・。)

心の中で涙する。

ピィィーーン

その時【求め】が気配の察知を訴えてきた。

(なんだ?随分小さいが・・・。小さな生き物でもいるのか・・・。)

気配は小さいが間違いなくマナの気配である。

辺りをキョロキョロ見渡す。すると砂漠に点在する岩場の上に小さなトカゲを見つけた。

(あれかな・・。)

その内トカゲはトットコ歩いていってしまった。

「ふぅ〜。」

思わず声に出してため息をついた。

「どうしましたかユート様?」

エスペリアが心配して聞いてくる。

「ああ、なんでもない。大丈夫だ。」

手を振りながら笑って答えるユート。

「そうですか。」

エスペリアは安心したような顔をし、再び歩き出した。

ピィーーーン!!

しかしその時、再び神剣の気配を感じた。

いつもの神剣とは違う反応だ。なんだか懐かしい感じがする。

ハッキリとした敵意は感じないが、寒気がする。

「どうかしましたかユート様?」

突然黙り込み、岩場の方を険しい表情で見ているユートに気付いて、エスペリアが再び聞いてくる。

「ああ、ちょっと待ってくれ・・・なんか気配を感じる・・・。トカゲじゃないよな・・・・これは・・。」

(なんだろう・・・。)

訝しがって岩場の方を指向索敵する。

ゾクリ・・・。

その時猛烈な悪寒が体中を駆け抜けた。

ピィィィーーーーン!!

直ぐ近くで、今まで感じたことの無いような膨大なマナが集中していく。

「こ、これはオーラフォトン!!」

マナが目視できるほどハッキリと集まっている。その色も紫色に変色していく。

明らかに神剣魔法を唱える時のオーラと酷似していた。

「ユート様!!」

「エスペリア気をつけろ!!みんな距離を取るんだ。狙い撃ちにされるぞ!!」

ユートが急いで命令を下す。自身は抵抗のオーラを高める。

「・・・ん・・。」

「わかったよ、パパ。」

アセリアもオルファも急いで距離を取る。

「くっ」

集まるマナの量が桁違いだ。

(これはスピリットのものじゃない。【求め】と同じ感覚だ・・・・。まだか!!エトランジェかっ!?)

『契約者よ。あの岩場の影だ。巧妙に気配を消している。』

【求め】相手の位置を特定する。

「あそこかっ。・・・間に合えよ。レジスト!!」

ユートの神剣魔法が完成すると同時に相手も攻撃を仕掛けてくる。

「・・・・・・・・・・・・・敵は殺す・・・・・・。」

抑揚の無い声である。しかしユートはその声を何処かで聞いた事があるような気がした。

「・・・・・オーラよ、雷となり敵を撃て。・・・・ライトニングブラスト・・・。」

ゴウゥーーーン

「ぐあっ・・・・。」

体が痺れる。あまりの威力にうめき声を上げるユート。

(レジストで抵抗力を上げてもこのダメージか・・。まともに食らえば消し炭だな。)

「ユート様!御無事ですか!?」

「パパー!大丈夫?怪我してない?」

エスペリアとオルファが慌てて近寄ってくる。そして癒しをかける。

おかげで随分楽になった。

「ありがとうエスペリア。大丈夫だよオルファ。」

二人にそう言ってユートは敵が潜んでいるであろう岩場に目を向けた。

「・・・・次は殺す・・・・。」

先ほどと同じ声が聞こえてくる。

「・・・女の子?」

半信半疑で岩場を見つめるユート。

声の感じからして同年代くらいだろか。しかしそれ以上に気になるのは、相手の声に感情らしいものが含まれてない事だ。

冷たい殺気だけが漂ってくる。

そして、その声とは別の声が聞こえてくる。

「ふふん・・・・・やっぱり、この程度じゃダメだよな。せっかく【因果】で気配を殺してたってのにな。・・・・さすがはラキオスのエトランジェ・・ってとこか。」

聞き覚えのある声。いつでも余裕を感じさせるこの声は・・・・。

「・・・・【空虚】よ、永遠神剣の主として命ずる。我等を包む雷の法衣となれ・・・・・。」

淡々とつむがれるその声は・・・・。

声の主達が姿を現す。

「キョウコ!コウイン!!」

そこから現れたのは間違いなくキョウコとコウインだった。

「よっ。久しぶりだなユート。」

笑うコウイン。

もう何ヶ月も見ていない笑顔だった。【求め】からは自然と力が抜ける。

懐かしい友人達との再会にユートの心は躍った。

「キョウコ!コウイン!!」

自然と日本語で話しかける。喜びのあまり痺れも忘れ、二人に駆け寄る。

「・・・・殺す・・・・。」

しかし抑揚の無い声でキョウコが呟き、再び攻撃される。

ドォーーーン

危うく直撃は免れたがユートの足元は黒く焦げている。明らかに殺意のこもった一撃だった。

「な、何するんだキョウコ!!」

ユートの知ってるキョウコではない。

「やめろ、キョウコ。今日の所は挨拶だって言われたじゃないか。大将にまだ仕掛けるなと言われてるだろ。」

コウインがキョウコを止めるが、ユートは混乱していた。

「どう言う事だよコウイン。何でお前達が・・・・。」

「悪いなユート。・・・・・こっちにも色々と都合があってな。・・・・だから・・俺たちに殺されてくれ。」

打ちひしがれるユートに、コウインは冗談めいた口調で言った。

ピシィー!!

「なっ!」

コウインの持つ神剣から猛烈な勢いでマナが発せられる。

半端な量じゃない。そのちからはキョウコよりも上。そしてユートの【求め】を遥かにこえる・・・・・・。

(くっ!これは・・・シンと同じくらいか・・・。)

今は旅立った、かつての仲間を思い出す。

「コウインやめてくれ!本気かよ!!」

「永遠神剣 第五位 【因果】の主、コウインの名において命ずる・・・・。」

そんなユートを無視してコウインは続ける。

「みんな下がれっ!!」

これはスピリットの耐えられるものじゃない。そう確信したユートは皆を下がらせる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「くっ!」

コウインのオーラ量は半端じゃない。耐えられるか。

力を込めるユート。

「ふっ。」

そんなユートの姿を見てコウインは息をつく。

それと同時に練ったオーラも霧散して行った。緊張感も一片に吹き飛んだ。

「今日の所は挨拶だって言っただろ。ユートが俺たちの力を知らないってのはハンデになっちまうからな。俺達はユート達の戦いをずっと見てきたわけだしな。・・・・フェアじゃない。」

不適に笑うコウイン。

「って事で宣戦布告だ。俺たちの防衛線を敗れるか楽しみにしてるぜユート。じゃあな。」

そう言って去って行こうとする。

キョウコはユートを睨みつけた後同じように去って行こうとする。

「待ってくれコイン。キョウコは・・・、キョウコはどうしちまったんだ。」

振り返るコウイン

「お前ならわかるだろうユート。【求め】を握って戦ってきたお前なら。」

ユートは愕然とした。・・・コウインの言葉の意味する事は一つ・・・・。

「キョウコはもう・・・・。」

それ以上言葉が続かなかった。

「お前がカオリちゃんのために戦うように、俺たちも自分達のために戦うしか無いんだよ。・・・悪く思わないでくれ。」

【因果】を持ち上げる。

「じゃあなユート。これからは敵同士だ。」

「・・・・・・・・。」

ショックのあまり何もいえないユート。

「・・・そう言えば、如月の姿が見えないな。待機中か?」

コウインが最後に問うてくる。

「・・・・・・ああ。そうだ・・・。」

ユートは何とか声を絞り出した。

シンがラキオスを出た事は極秘になっている。

ただでさえ三国の中で戦力的に一番劣るラキオス。

そのラキオスで一番の近い手であったシンが居なくなった事を知られるのはマズイという事で、極秘扱いになったのだ。

どうやら情報は上手く隠されているらしい。もっとも、何故かヨーティアだけは知っていたが・・・・。

「そうか。・・・・如月とは一度戦ってみたいと思ってるからな、よろしく伝えといてくれ・・・・・じゃあなユート。」

【因果】を頭上にあげる。そして【因果】から感じたことのない異質なオーラが展開されていく。

それはドーム状にコウインとキョウコを包んで行く。

「恨みっこ無しだぜ。」

「・・・・・次は・・・・・す・・・。」

そして二人は消えて行った。

 

 

ゴウゥーーーン

「な、なんなの!?」

セリアが思わず声を上げる。

ユート達より遅れて進軍していたヒミカ達は、進軍方向から巨大なマナが発せられるのを探知した。

その大きさは明らかに自分達よりも上。

その気配を察知したヒミカ達はユート達のもとへ急ごうと走り出した。

距離を考えたら今ユート達がこの巨大なマナの主と戦っていると判断したからだ。

そしてその矢先に今の轟音が轟いた。

「判らないわ・・・。でも敵がいる事は間違いないみたいね。ユート様たちの加勢に急ぐわよ、みんな!!」

ヒミカが急いで指示を出す。

「今から行って間に合うの?」

ネリーが疑問の声を上げる。

ユート達とヒミカたちの距離はそれなりに離れている。

足場が悪い事もあって、最大限急いだとしても三十分近くはかかるだろう。

「だからと言って、ユート様達を放っておく訳には行かないでしょ。」

「そうですねぇ〜。みなさん考える前に足を動かしましょう〜。」

ヒミカの言葉にハリオンも同意する。

ピィィィーーーーン!!

その時再び巨大なマナが発露したのを感じた。

「ま、またなの!?」

先ほどの大きなマナとはまた別物である。

そして今度のは先ほどのモノより明らかに大きい。いや、自分達の隊長であるユートの【求め】よりも大きいものだった。

「今度のは、もっと大きいですー。」

シアーが不安そうな声を上げる。

「・・・・シン様と同等くらいと推測します・・・・・。」

ナナルゥが呟く。

「くっ、皆いそぐわよっ!」

ヒミカははそう答えて走り出す。

それにつられて皆も走り出した。

 

《ランサ》

ヘリオンは先ほど巨大なマナの気配を、スレギト方面から二つ感じ取っていた。この距離から感じられるほどだ。その二つの気配は自分がどう足掻いても、勝てそうに無いほど巨大なものだ。

空いてる時間を使って訓練していた時の事だ。

待機任務なので時間をもてあまし気味だったのだ。ここの留守はファーレーンに任されている事もそれに拍車をかけていた。

「みんな大丈夫かなぁ・・・・。」

刀を振るのをやめスレギト方面を不安そうに見る。

自分の想い人がいなくなって三ヶ月。

最近は鬱状態に陥る事も無くなり、皆に心配かける事はなくなってはいた。しかし今のように巨大な力を感じてしまうとやはり不安になる。

そんな時は、やはり誰かに側にいて欲しかった。出来れば想い人が側にいて欲しかった・・・・。

「ヘリオン。」

訓練場にファーレーンとニムが緊迫した表情で入ってくる。

ヘリオンは不安な顔を消して、ファーレーン達の方へ振り返る。

「ファーレーンさん・・・・。今の大きな気配の事ですかぁ?」

ファーレーンより先に言葉を紡ぐ。

「そういう事。敵が攻めてくるかも知れないから警戒態勢に入れってさ。」

ニムがファーレーンの代わりに答える。

「訓練中悪いけど、お願いできるかしら?」

「解りましたぁ。」

ヘリオン独特の間延びしたような口調。しかし以前のようなモジモジした態度は、シンがいなくなって薄れていた。

「私達も街の周りを見てくるからよろしくね。」

ファーレーンとニムはそう言って去って行った。

二人が去った後へリオンは刀を鞘に納め準備をする。

「よし。シン様が帰ってくるまで頑張らないと。」

気合を入れて訓練場を後にした。

 

 

あれから数時間が経過した。もう辺りは暗い。

結局、ランサまで敵が襲ってくる事は無かった。

数時間前に感じた巨大なマナの持ち主は程なくして消えてしまったし、皆がどうなったかは判らなかった。

「ねぇ、お姉ちゃん。」

ニムが隣にいるファーレーンに話しかける。

「どうしたのニム?」

マスクでよく判らないが、穏やかな目でニムに聞き返す。

「みんな大丈夫かな?・・・・・結局あれからどうなったのかな?」

僅かに不安そうな顔をするニム。それもそうだろう。

あれほど巨大なマナを感じた事など、殆ど無い。

「・・・・・みんな大丈夫よ。・・・・・・ユート様の神剣の気配も感じるし・・・・・。」

「えっ!そうなの!?もう、お姉ちゃん、それならそうと早く言ってよねぇ。」

ファーレーンの言葉を聞いてプンプンしながら喋りだすニム。

緊張が解けたのだろう。

「・・・・・・ごめんさいね。」

マスクでニムは気付かなかったが、ファーレーンの表情は決して明るいものではなかった。

なぜなら今言った事は嘘だからだ。

実際この距離からユート達のいるところの気配を簡単に感じ取れるわけは無い。先ほどくらいの巨大な気配ならまだしもである。

「・・・・・みんな大丈夫よねきっと・・・。」

ファーレーンはニムに聞こえないくらい小さな声で呟いた。

 

 

「結局なんだったわけ?」

セリアが疑問の声を上げる。

あの後急いでユート達のもとへ行った訳だが。

十分程経つと巨大なマナを持つ二つの気配は消えてしまった。

ユート達の気配も変わらず健在だったし、その動きからユート達は再び進軍を始めたのだと理解できた。

そこでヒミカたちも急いで行く必要は無くなり、熱い砂漠の中で無駄な体力を使わないように、今までどおりユート達と一定の距離を保ち進軍を続ける事にした。

ユート達の事が気にならないわけではなかったが、危機が去った以上無闇に隊列を崩すべきではないと判断したのだ。

あれから数時間、もうすっかり夜だ。

「・・・・・・・・・・・。」

進軍を続ける中、ナナルゥが立ち止まり鋭い目つきで暗くなった周りを見渡している。

「どうしたのナナルゥ?」

ヒミカが声をかける。

「・・・・・何か・・・先ほどより変な感じがします・・・・・・。」

「あっ、ナナルゥさんも感じますかー?」

シアーがナナルゥの言葉に同意する。

「えー。何も感じないよー。」

キョロキョロ辺りを見渡して答えるネリー。

「皆さん。上を見てくださぁーい!」

ハリオンが上を見ながら皆に話しかける。

皆が空を見るとそこには、虹色のオーロラが発生していた。

「なによ・・あれ・・。」

セリアが呟く。

「何かしらこれ。こんな現象初めてみたわ。」

ヒミカも呆然として答える。

暫くの間、みんなして空を見上げていると、

「みんなー!!!」

進行方向より、ユート達が血相を変えて戻ってきた。

「ユート様!」

ヒミカが気を取り直してユートに近づこうとする。

「みんな、急いでランサに戻るぞ!!!」

ユートは、走りながら大声で皆に指示を出した。

ユートの緊迫した表情を見たヒミカは、疑問を感じるよりも先に皆に振り返ってユートと同じ指示を出した。

「みんな早く、ランサに戻って!!質問はあとよっ!!」

皆は疑問を感じながらも、急いでランサ方面へと走り出した。走る事だけに神剣の力を使えばかなり早く戻れるハズだ。

「オレがしんがりを勤める。いくぞバカ剣!!」

ユートは精神を集中し、抵抗のオーラを展開する。なるべく広範囲にオーラを壁のように操作した。

これからくるであろう圧倒的破壊の前には焼け石に水かも知れないが、それでもやるしかなかった。

バカ剣曰く、マナの調和の崩れた嵐がくるそうだ。

オーロラが一瞬強く光る。そして・・・・・全ての音が消えた。

(くるっ!!)

ゴォォォォーーーーーーー!!!!

すさまじい轟音と共に、マナの衝撃波が襲いかかる。

(くっ、体が引き裂かれそうだ・・・・。)

「くそっ、バカ剣!!限界までシールドを大きくするぞっ!!」

皆が脱出するまで持てばいい。自分ひとりならある程度耐えられるだろう。

「気合入れろっ、バカ剣!!」

大きくしたシールドは、ユートの精神を削りながら少しずつ小さくなっていく。

この大きさのシールドもあと少ししか持たないだろう。

(ぐっ、くそー。あと少し・・・。)

少しずつオーラが削られていく。

その時皆の気配が嵐の中から消えた。もう誰も残っていないだろう。

「よし、シールドを小さくする。バカ剣っ!!」

範囲を狭めたおかげでもう暫くは持つだろう。

ユートはその間に急いでランサに向かって走り出した。

 

 

足止めをされて、三日。

あの嵐の正体は、マロリガンが仕掛けたマナ障壁と呼ばれるものだった。

コウインが言っていたマロリガンの防衛線というのはこれの事だろう。

ユートはマナ障壁についてヨーティアに色々と聞いた。

ボンクラ、ボンクラと言われながらも理解し、自分ではどうする事もできない事がわかった。

ヨーティアの技術に頼るしかないだろう。

・・・時間がかかりそうだった。

これまでの戦いが無駄になりそうな感じだったが、ユートは落胆しながらもキョウコやコウインと戦うのが先に持ち越された事に、大きな安堵感を抱いていた。

 

ユートは部屋でベッドの上にボンヤリ座っていた。

「・・・・どうすればいい・・・・。」

(キョウコやコウインと殺し合いをする・・・・・。全然リアルじゃない。)

その瞬間を想像し、薄ら寒くなる。

何も考え付かないまま時間だけが過ぎていった。

 

《ダスカトロン砂漠》

一人のスピリットがダスカトロン砂漠をふらふらと歩いていた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・。」

流れ出る汗を拭う事もせずに、ただひたすら歩いている。目的地など無い。それでもただ歩くしかなかった。

サーギオスの遊撃隊員、漆黒の翼ウルカである。

ユートに敗れた後、帝国の駐屯地まで戻ったウルカだが、そこの責任者であるソーマに戦力外通告を言い渡され、帝国から追い出されたのだ。

ウルカは愕然としながら、部下の事が気になりつつも帝国の駐屯地を後にした。向かうはダスカトロン砂漠。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・。」

荒い息を何度も吐く。

いつの頃からだろう神剣の声が聞こえなくなってしまったのは。

それでもこれまでは問題なく戦えていたし、神剣の声が聞こえないからと言って困った事は無かった。

ところが先の戦闘では思うように体が動かなかった。

ユートから受けた傷の治りも明らかに遅い。いや遅いというよりは一向に治る気配が無い。

「手前はどうすれば・・・・・・。」

傷ついた体を引きずりながら、それでも歩くしかなかった。行き場所など無い。いっそこのまま此処で尽き果てるのも運命か・・・。

自虐めいた思考が何度も頭を過ぎる。

そしていつしかウルカの体は動く事をやめ、その場にゆっくり倒れていった・・・・・。

 

ウルカが倒れてしばらく経った。

ウルカは目を覚ます気配は無い。このまま尽き果てるのだろうか・・・・・。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

その時、足音が砂漠に響いた。

少し高くなった砂漠の丘から、一つの影がウルカに近づいていた。

影はゆっくりと辺りを見渡す。それからウルカを静かに見定める。

影は、それが帝国最強の遊撃隊員、漆黒の翼ウルカである事に気付いた。

影はウルカを見定めつつ、ゆっくりと近づいて行く。

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ。

うつ伏せに倒れているウルカを覗き込める位置まで来て、影はウルカを見る。

ウルカが起きる気配は無い。

影は身をかがめて、ウルカにゆっくりと手を伸ばしていく。

影の伸ばす手が僅かに震えている。

そしてウルカの体にその手が触れたとき、

「・・・・・あっちだよ。パパ!!」

遠くから声が聞こえてくる。

「!!」

影は伸ばしていた手を引っ込め立ち上がり、急いでその場から離れて行く。

そして最後にもう一度ウルカと、声のした方を見て急いで去っていった。

 

 

マナ障壁のおかげで足止めされて一週間がたった。

ヨーティアが糸口を見つけるまでランサで待機任務に就くしかない。

ランサで防衛しているおかげか、マロリガンの稲妻部隊が攻め来る事は殆ど無い。

という訳で待機任務といってもそれなりに暇だった。

といってもユートは今巡回中だった。

ランサの街の周りを巡回する。

「・・・・ふぅ。・・・・どうすればいいんだよ・・・・。」

相変わらずキョウコとコウインの事で答えが出ないユート。巡回中であるにも関らずボンヤリ考えていた。

その時、

「パパー!パパー!」

オルファが慌てた様子でやってきた。

「どうしたんだオルファ、そんなに慌てて?」

目の前にやってきたオルファに落ち着かせるように言う。

「あのね、神剣が・・・・・【理念】があっち行けって、さっきから言ってるの。ずーっと言ってるの。急げ、急げって!だからパパも早くー!!」

「はぁ?」

あまりにも抽象的で何を言ってるのかよく解らない。興奮状態のオルファはいつも説明が不足している。

「落ち着けってば。もう少し解りやすく説明してくれよ。・・・何があったんだ?」

「んとね、んとね・・・・・。」

勢い込んで話そうとするオルファだが、頭が空回りしてしまうようで結局何も解らない。

「スゥ〜〜〜〜、ハァ〜〜〜〜〜〜。」

オルファは大きな深呼吸をし、息を整える。

「落ち着いたようだな。よし、説明してくれ。」

「あのね、【理念】が話しかけてきたの。あの、ウルカお姉ちゃんが危ないって。」

「ウルカが危ない?・・・・どういう事だ?」

あの一騎打ちを思い出す。

どうにか勝つことが出来たが、一歩間違えればやられていた。

(確かに、傷は浅くなかったと思うが、あの程度ならもう治ってるよな?・・・それにいくらなんでもこんなに直ぐに出てくるとは思えない。)

戦士としてもウルカには感じるモノがある。カオリも信頼しているようだし、できれば戦いたく無い相手だった。

だが、それでも強大な敵である事にはかわらないし、助ける理由にはならないだろう。

「なんだか、もうマナが消えちゃいそうなくらい弱くて・・・。それに、剣の気配は無いのにウルカお姉ちゃんは感じるんだよ。変だよ。」

(神剣の気配は無いのに、ウルカを感じるか・・・・。)

普通に考えれば、関らない方がいい。しかし、気になるのも事実だ。

「オルファはどうしたい?」

「オルファは・・・・・行ってみたい。そうした方がいいと思う。」

少し迷っているようだが、ハッキリとそう言った。ユートを見る眼は真剣さがありありと浮かんでいた。

「・・・・・そうだな、行ってみるか。」

「ありがとうパパ!」

オルファの満面の笑みを見るとユートは、自分は確かに良い事をしたと思った。

(罠じゃなければいいが・・・・・。)

 

「もう直ぐだよパパー。最後に気配を感じたのはこの変だもん。」

ウルカの気配はユートでは感じる事が出来なかった。

場所もハッキリしないし、何よりマナが微弱すぎるのだ。

結果としてオルファの引っ張られる形でウルカを探す事になった。

「・・・・何処だ?剣の気配も、スピリットの気配もオレには判らないなぁ・・・・・・、んっ、あれ?」

剣の気配は感じないと思っていたのだが、小さなマナの気配を感じる。

またトカゲか何かかと思った。オルファは感じていないようだから、やっぱり気のせいかも知れない。

「あ、ちょっと待って・・・・何か聞こえる・・・・・。」

オルファはキョロキョロ辺りを見回す。そして、

「・・・・・あっちだよ。パパ!!」

そう言って駆け出すオルファ。

(何でオルファには判るんだ?)

疑問を感じつつもユートはオルファを追って行った。

(そー言えばさっき感じた小さな気配。今は感じないな・・・。やっぱり気のせいだったのか?)

 

「パパーあそこだよ。」

オルファの指差す方向には確かに人影がある。此処まで近づいても、依然として弱々しいマナしか感じない。神剣の気配に至ってはゼロだ。

オルファが急いで駆けつける。そして介抱する。

間違いなくウルカだった。

しばらくしてウルカは弱々しく目を開けた。

「・・・ん・・・・ここは?・・・・貴殿は・・?」

光に慣れていないらしくユートが誰かわからないようだ。

「オレだ。ラキオスのユートだ。」

「・・・・ラキオスの・・・エトランジェ殿か・・?」

ウルカの弱々しい姿をみて、ユートは危険はないと判断した。

「よし、ウルカは連れて行こう。それでいいかオルファ?」

「うん。ありがとうパパ!」

「・・・・・どうして手前を・・・?」

疑問の言葉をぶつけてくる。

「見捨てたらオルファが悲しむしな。それに俺は、お前の持ってる情報が欲しい。・・・・だから助ける。」

カオリの事を何でもいいから知りたかった。お守りを託されるくらいだ、きっと知ってるに違いない。

「・・・手前が喋るとでも・・・?」

「・・・・口を割らせる方法なんていくらでもあるさ・・・・・・。」

「・・・・パパー・・・。」

泣きそうな声を上げるオルファ。そんな顔を見るのは心苦しいが、目をそらしてもう一度ウルカに話しかける。

「別にオレは、アンタをどうこうしたいと思ってるわけじゃない。でも、カオリの居場所だけは話してもらうぞ。・・・・絶対にだ。」

強く言う。

「カオリはオレの助けを待ってる。だからその・・・・解って欲しい。」

強く言ったつもりが最後は要請になっている。そこがユートらしいのだが。

「よしっ、じゃあ行こうか。一度ラキオスに戻らないとな。」

そう言ってユートはウルカを担ぎ、オルファはユートと自分の荷物を持ってランサへと戻っていった。

 

結局ウルカは、帝国の情報及び、ユートによる監視という二つの条件だけで自由に出来るようになった。

と言っても失った体力もまだ完全には回復してないし、神剣の力も殆ど使う事ができない状態である。むしろ神剣からの侵食によって、ウルカの体と精神は徐々に蝕まれていっている。

神剣の力が使えなくなったとはいえ、それでもウルカの剣の腕は一流だった。

ユートはそんなウルカに剣の手ほどきを受けながら、マナ障壁を突破するため、ヨーティアのアイディアを待つ日が続いた。

 

そんな中、神剣に蝕まれつつあるウルカの前に、一人のスピリットが現れた。

今のウルカは勿論、ユートさえも越える力を持ったスピリットは二人を少しずつ死に至らしめて行く。

もはやユートもウルカもボロボロだ。

「ユート殿・・・・。」

「ダメだ、ウルカ!逃げろ!」

傷ついた体を抑えながらユートが叫ぶ。

「そのような事・・・・・手前のせいで・・・。」

よろよろと立ち上がり、【拘束】を構えるウルカ。

「や、やめろウルカ!逃げるんだ・・・。」

「ユート殿を・・・・・死なせるわけにはいきません・・・・・・。」

ギィィィィーーーーン!!

突然強烈な耳鳴りがユートを襲う。

(な、なんだこれは!?・・・・【拘束】なのか?)

「屈しない・・・・。手前はこんなところで・・・・ぐあぁぁぁぁ!」

激痛に耐えながらウルカは立ち上がる。

やがて【拘束】が光始める。

いや、剣の内側から光が漏れ出しているようだ。

「手前は・・・・負けない!!」

カッ!!!

一瞬強烈に光ったかと思うと、【拘束】の表面が少しずつ剥がれ落ちて行く。

表面が剥がれ落ちた【拘束】を構え、今までの傷ついた体が嘘のように軽やかに立ち上がり、スピリットをにらむ。

「斬る事。斬られる事。それが手前の全て・・・・・・雲散霧消の太刀・・・・参る!」

俊足のスピードでスピリットの懐に入り込み、連続で抜刀する。

その全てがスピリットの体へと吸い込まれていった。

・・・・スピリットは文字通り、マナの霧となって霧散していった。

刀を納めユートの前に立つウルカ。

「ウルカ?」

「大丈夫ですかユート殿?」

「ああ、まだ立てないけど大丈夫だ。・・・・それより何があったんだ?・・・・【拘束】が剥がれ落ちたように見えたけど・・・・。」

怪訝そうにウルカの神剣を見る。

「・・・【冥加】。それがこの剣の名前です。・・・・剣がそう申しておりますゆえ・・。」

「剣が?・・・えっ、じゃあ声が聞こえるようになったのか?」

驚いてウルカを見るユート。

「ハイ・・・聞こえます。・・・手前にも。」

いつも通りの口調だったがどこか嬉しそうだ。

「これまでは何者かに姿を隠されていたようです。・・・・・・・・ユート殿?」

ユートの反応が無いのを感じ、ユートを見る。

ユートは限界だったのだろう。気を失ってしまっていた。しかしその顔はウルカが助かった事に対する喜びが満面に表れていた。

「ありがとうございます、ユート殿。」

ウルカは気を失っているユートを担ぎ上げ館へと戻っていった。

 

再び前線とラキオスを往復する日々が続く。

ユートは現在ラキオスに戻ってきている。しかし、あと一時間ほどで再び前線へ戻らないといけない。

そんな中でヨーティアがユートの部屋へご飯をたかりにやってきた。

「まったくメシくらい自分で作れよなぁ・・・・。」

ぶつぶつ言いながらも、ハクゥテ(パスタ)を作ってやるユート。

「ふ〜む。なかなかいけるじゃないかユート。おいしかったよ。」

エスペリアたちにも食べてもらおうと思って四人分作っておいたのに、それすらも全部食べられてしまった。

(こんなに・・・・大食いだったのか・・。)

「おっ、そーだ。ユートには報告しておこう。」

「ん?なんだ?」

皿を片付けながら返事をするユート。

「ちょいと小耳に挟んだんだけどねぇ、帝国のスピリットが一組の男女にやられたらしい。」

「えっ!?それってキョウコ達の事か?」

判らんといった風に方をすくめるヨーティア。

「・・・・・スピリットに対抗できるのはエトランジェかスピリットだけだ。・・・だけどエトランジェだって、訓練されてる上に強化されてる帝国のスピリットと戦うのは楽な事じゃない。・・・・しかし男の攻撃一発でその部隊が壊滅したって話さ。・・・嘘か本当かは判らんけどな。」

いまいち要領を得ない。

「もうちょっと詳しく判らないのか?・・・・えっと、コウイン・・・男の方はオルファの【理念】をさらに巨大にした感じの神剣で、女の方の神剣は細身で、雷の神剣魔法を使ってたとか・・・とにかくそう言うの!」

他に特徴が無かったか思い出すユート。しかしそれより先にヨーティア口を開いた。

「女の方は杖を持っていたらしい。」

「杖?じゃあ・・・キョウコじゃないのか・・・。まさか!別のエトランジェ!?」

「本当のところは判らない。・・・・・私の知る限りこの大陸に伝わるエトランジェ用の神剣は、【求め】【誓い】【空虚】【因果】の四本しかない。しかし知っての通り、すでに全ての神剣に契約者がいるだろう?」

「確かにそれはそうだなぁ・・・・ってことはエトランジェって訳じゃないのか・・・・。」

帝国と戦ったのなら目的が一緒なのかも知れない。そう思うユート。

「それは判らないねぇ。確かにエトランジェ用の神剣は今言った四本だけだと思っていたが、実際のところシンと【真実】がいた訳だしねぇ。」

「あっ!?確かにそうだ・・・・。ヨーティアも【真実】に関しては知らなかったって言ってたよなぁ。」

今は居ない仲間を思い出す。

「そうさ。だから単純に確認されて無いだけで、エトランジェ用の神剣は他にもあるかもしれないしねぇ。・・・まっ、とにかく警戒だけはしておいてくれ。」

「分かった。サンキュー。」

「ああっ、それからもう一つ。・・・・ちょっと前からマロリガン北部のニーハス付近でスピリット達が襲われているらしい。」

「スピリットが?」

「ああ。今のところ被害は出てないと聞いているが、マロリガン領内の事なんで詳しい事は判らん。犯人が誰なのかもまったく判らん。まぁ聞いた話では、襲ったヤツはたいした奴じゃないらしいから大丈夫だとは思うが、一応注意しておいてくれ。」

「分かった。」

そう言ってヨーティアは笑って部屋を出て行った。

 

それから数日がたった。

未だにユートの悩みは解決されていない。

「キョウコ・・・コウイン・・・・。」

一人部屋で沈むユート。

「戦うしかないのか・・・・・・・。・・・・シンならこんな時どうするんだろうな・・・・。」

何も答えが見つからないユート。

それでも決戦の日は少しずつ迫っていた。

 

                                                                           続く

あとがき

今回は大きな話の展開はありません。物語そのものの時間を進めただけですね。

今回は予告どおりシンは出ませんでした。ユートがメインでしたね。 次回ですが、シンとキョウコandコウイン、それにとサブスピ達がメインになるでしょう。多分後二回くらいでマロリガン戦は終わりです。場合によっては次回で終わるかもしれません。そしてマロリガンの後日談で時間を取るかもしれません。

ということで、次回もよろしくお願いします。

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