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イレギュラーズ・ストーリー

 

 

第十章 失われた真実

 

ヨーティアと分かれて五日が過ぎた。

ようやくソーン・リームのソスラスまで来たところだ。ゆっくりと歩いてきたので、此処までくるのに結構時間がかかっている。

この町は素通りしても良かったのだが、取り敢えず情報を集めるために街に寄る事にした。

 

「さてと・・・、どこかに人はいないかな・・・・。」

辺りを見渡しながら、シンが呟く。

しかし、人のいる気配はたくさん感じるのに、あまり人の姿を見かけない。閉鎖的な街なのだろうか・・・。

たまに人がいて、シンが話しかけても、素っ気無く受け答えするだけで、ほとんど無視に近い。

「・・・なんなんだ此処は?人を珍獣扱いしやがって・・。」

思わず愚痴をもらす。

『この国は長年、自治区として独自の思想や文化を生み出してきましたからね、閉鎖的な国になっているのかも知れません。』

【真実】が説明する。

言われてみれば、なるほど。その通りだろう。

日本も昔は鎖国をしていて、江戸末期にペリーが来た時は大騒ぎをしたものだ。それに近いのかも知れない。

シンがエトランジェだからと言う理由も考えられるのだが・・・・。

「どうしようか?」

『素通りして、先に進むのが一番なのでしょうが、比較的外の国に近いソスラスでこの有様ですからね・・・、中心地のキハノレはもっと酷いかも知れません。』

「街には寄らず、いっきに遺跡まで行くのが妥当かな?」

シンが自信なさげに提案する。

「それもどうでしょうか。これから北上するわけですから、だんだん寒くなります。体力、気力等を回復させるためにも街には寄った方がいいでしょう。幸い、ヨーティアさんからお金を借りる事ができましたし・・・。」

ヨーティアの家を出る前に、僅かだがヨーティアにお金を借りる事ができた。少ないがニ、三日分の宿代にはなるだろう。

「ふむ・・・、確かにそうだな。体調を壊したら元も子もないしな・・・・・・。」

シンも納得する。

『そうでしょう、そうでしょう!』

【真実】が大げさに言ってくる。やけに嬉しそうだ。

「お前・・・・・まさか・・・・。」

ハッとしてシンは【真実】を見る。

『・・・えっ!な、何ですか?』

あからさまに、ヤバイといった口調になる【真実】。そんな【真実】を見てシンは確信する。

「ヤッパリてめぇ、風呂に入りたいだけだな?」

『アハハハ、イヤですねぇ。そ、そんな訳無いでしょう。私は正論を言ったまでです。(バレてしまいました。何とかごまかさないと・・・。)』

心の中で、アタフタする【真実】。しかし、

「聞こえてるぞぉ・・・・。オレとお前は繋がってる事を忘れるな。」

『あう・・・・。私とした事が失念していましたか・・・・。』

普通、今のやり取りは逆だろう。まったくもって、おかしな二人である。

「まぁいい。オレも風呂には入りたいしな。」

シンは特に気にした様子も無くサラッと【真実】の意見に肯定の意を示す。

『それでこそ貴方です。』

【真実】も満足気に頷く。

「よし、そうと決まったら取り敢えずこの街は素通りするか。とにかくキハノレまで行かないとな。」

改めて次の目的地を宣言する。

『分かりました。それでは早速キハノレに向かいましょう。暫くしたら、おそらく道が荒れてきますから、足元に注意してください。普段より時間がかかってしまうハズです。』

注意を促す【真実】。

確かに、キハノレへと続く道は、万年氷雪地帯となっており、足場が悪い。歩くスピードも必然的に遅くなってしまうだろう。

「オーケー。分かった。」

そうしてシンと【真実】は歩き始めた。

 

 

《ラキオス》

マロリガンに宣戦布告をされて、二十日以上が過ぎていた。

両国とも未だ、準備段階で、実際に戦闘は起っていない。

そんな中、エトランジェであるユートは、今レスティーナに呼ばれて城へ向かっていた。

何でもスピリットの客が来ているらしい。

この世界にスピリットの知り合いはエスペリア達くらいしかいないのだが、一体誰だろう。

 

「遅いでしょうユート!」

謁見の間に入るやいなや、レスティーナに怒られた。

近くには見知らぬ女性が立っている。

(やっぱり知らない顔だよなぁ・・・・。)

女性を見て改めてそう思うユート。

マジマジと女性を見るユート

神剣を持っているのだからスピリットである事は間違いないだろう。

しかし、今まで見たスピリットとはちょっと違う。

(眼は赤いが、レッドスピリットじゃないよな・・・。)

「この方はある方の使者として、ラキオスに参られたのです。」

レスティーナが切り出す。

「ラキオスのエトランジェ。【求め】のユート様ですね。私はイオです。」

女性が静かに口を開く。落ち着いた声だ。

「え〜と。ラキオスのエトランジェ、ユートです。よろしく。」

ユートも自己紹介をする。

「私がラキオスに来たのは他でもありません。私の主から伝言を持ってまいりました・・・・・。ラキオスの若き聡明な女王レスティーナ様と、エトランジェ、【求め】のユート様に、と。」

そう言って厳重に封印された書簡をレスティーナに渡す。

レスティーナは封印を解き、中の書状を読む。

「どうして俺たちの事知ってるんだ?」

レスティーナが書状を見ている間ユートはイオに聞いてみた。

「お二人は有名ですから・・・・。今この世界で、お二人を知らない者はいないでしょう。」

イオが微笑みながら答える。

「そ、そうなのか・・・。」

自分が有名だとはまるで実感が無かった。だが、よく考えればエトランジェと言うだけで確かにそうだろう。

「はい。それにある方から、貴方がたの事を詳しく聞いておりましたので・・・・。」

「ある方?」

ユートがそう聞き返したところでレスティーナが顔をあげ、口を開く。

「火を・・・・。」

その顔は険しい。

金属性のお盆の上で、手紙が燃えていく。

燃えたのを確認すると、レスティーナは再びイオの方へ向いた。

「判りましたイオ殿。すぐに使者を送りましょう。マロリガン戦も近い、猶予はありません。」

「ありがとうございます。私が案内役を勤めさせて頂きます。」

(何か俺一人取り残されてるな・・・・・。)

一方的に話を進められ少し寂しいユート。

「ユート。・・・ラキオスの使者としてこの書簡を届けてください。エスペリアも連れて行くと良いでしょう。すぐの出発となります。急ぎ城門まで。」

レスティーナが命令を下す。

「了解しました。エスペリアと共に任務につきます。」

そう言ってユートはイオと共に謁見の間から出て行った。

 

「イオです。今回は案内役を務めさせて頂きます。よろしくお願いします。」

イオがエスペリアに挨拶を送る。

「わたくしはエスペリアです。こちらこそよろしくお願いします。」

エスペリアも同様に挨拶をする。

挨拶もそこそこに、ユート達は直ぐに出発した。

 

ユートたち三人がラキオスを出て既に一週間が経過した。

幸いスピリットに襲われることも無く、旅は順調だった。

「そろそろ、今日はここで野営をしましょう。」

イオの言葉に頷き荷物を降ろすユートとエスペリア。

エスペリアが手際よく食事の準備をする。

イオがそれを手伝う。ユートは川で水を汲んでくる。濁っているが、イオの‘浄化’を使えば綺麗な水になる。

イオの神剣魔法は生活に密着したものが多い。

エスペリアも、これには驚きを隠せなかった。

 

言葉少なげに食事をする中、ユートはイオに話しかけた。

「なぁ、イオ。」

「なんでしょうかユート様。」

イオが顔をあげて答える。

「ラキオスの謁見の間で、ある方から俺たちの事を詳しく聞いたって言ってたけど、誰に聞いたんだ?」

「わたくし達の事をですか?」

エスペリアも聞いてくる。

「ああ。誰かに俺たちの事を聞いたらしいんだ。」

エスペリアはイオを見ながら言った。

「わたくし達も知っている方なのでしょうか?」

「はい。今までラキオスに居られたそうですから、ご存知でしょうが、【真実】のシン様です。」

イオは二人の質問に静かに答えた。

「何?シンに会ったのか?」

イオの答えに目を開くユートとエスペリア。

「はい。主人の館の近くで・・・・・・・・偶然といいましょうか、【真実】のシン様にお会いしました。最初はそうだと気付かなかったのですが・・・。」

イオの頬が少し赤くなる。

シンとの出会いを思い出しているのだろう。

「シン様は、お元気でしたか?」

エスペリアが聞く。

「はい。お元気そうでした。シン様にレスティーナ様やユート様のことを詳しく聞くことが出来ました。他にもスピリット隊の事も仰っておられました。エスペリア様の事も、よく出来た方だと仰っておられました・・・。」

「そ、そうなのですか・・・。」

エスペリアが赤くなる。褒められる事になれてないのだ。

「まだイオの主の所にいるのか?」

「いえ。暫くは主人のもとに留まっていたようですが、今はもう旅を続けられているでしょう。目的が変わっていないのでしたら、今はソーン・リームに居るハズです。」

「そうか、元気にやってるんだな、アイツ・・・。帰ったらヘリオンに知らせてやらないとな。」

ユートが笑みを浮かべて言う。

「そうですね。」

エスペリアも同じだ。

シンとヘリオンの関係はみんなが知っている。ヘリオンは照れ隠しするが、態度を見れば一目瞭然だ。

そんな事を話しながらユート達は時を過ごす。

そして夜は更けていった。

 

 

《キハノレ》

ザック。ザック。ザック。ザック。

雪を踏みしめる音が響く。

「ふぅ〜。ようやく着いたな。・・・・長かった・・・。」

シンは大きなため息と共に進める足を停止させる。

ソスラスを出て、十日以上がたっていた。

思った通り途中の雪道に足をとられ、歩くスピードは極端に遅くなった。

それでも普通の人間が歩くよりは、かなり早い。

長い道のりもあって、シンは確実に疲労していた。

『予想以上に時間がかかってしまいましたね。』

【真実】もシンと同じ事を言う。違う点と言えば、疲れてないところだろうか・・・。

「ああ、今日はもう宿に行こう。流石に、疲れたわ・・・。寒いし・・・・。」

日はまだ高いが、宿に行くことを提案する。

幸いヨーティアから貰ったお金ある。少ないので今まで大事にとっておいたが、今日使わずしていつ使うと言うのだ。

心身ともに疲れきった体を休めるためには、快適な環境が必要だ。

『そうですね。早く行きましょう。』

【真実】から嬉しそうな声が伝わってくる。

【真実】にとっては疲れをとるよりも、風呂に入りたいのだろう。

何はともあれ、シンと【真実】は宿に向かう事にした。

 

「『はぁ〜〜〜〜・・・・・・・極楽。』」

シンと【真実】声が浴場に響き渡る。

宿は比較的簡単にとる事ができた。念のために【真実】を布で隠していたのが良かったのかも知れない。

ソスラスでは街の人間に白い目で見られた。と言うよりほとんど無視だった。

シンがエトランジェだったからかどうかの因果関係はハッキリしないが注意するにこした事はない。

ここに来て宿に止まれないなどイヤ過ぎる。

「今日はこのまま宿に泊まるとして・・・、明日はどうするかな・・・。」

『遺跡に行くのでは?』

シンの質問に【真実】が確認する。

キハノレはソーン・リームの最奥地にある街だ。遺跡まではそう遠くないだろう。おそらく歩いても一日もかかるまい。

「う〜ん。まぁ、そうなんだけどさ・・・。・・・・・お前も気付いてるだろ?この感覚。」

顔をバシャバシャ洗う。

『気付かない訳ないでしょう。・・・・・・・・やはり、いますね・・・・。』

「っぷぅあ〜。・・・・・上位永遠神剣を持つ者か・・・・。・・・かなりヤバイな、この感じは・・・・・・。」

顔をあげて答える。

キハノレに着くニ、三日程前から、キハノレ方面より神剣の発するマナを感じる事が出来た。

決して大きな力ではない。勿論、今はまだ、と言う点に置いてはだが・・・・。

だが、かなり嫌な感じのするオーラフォトンの気配だ。

まるでこちらに来るなと言っているようだ。

この神剣の主と接触するのは危険かもしれない。

『行かない訳ではないでしょう?』

「そりゃそうさ。これで帰るくらいなら、最初から苦労してこんな所まで来ないさ。」

今更帰れないと言うのが本音なのかも知れない。

十日以上もかけて来たのだ、何かしら観て帰らなくては収まりがつかない。

遺跡の場所は大体分かっている。この不気味な気配が出てる所がそうだろう。

「せめて、遺跡の様子が判ればいいんだけどなぁ・・・。」

相変わらず遠見は使えない。

神剣の干渉を受けているのだろう。ノイズが混じったようになってしまう。まるで映りの悪い古いテレビのようだ。

『無いものねだりしても始まりません。何があるにしても、行けば判りますし行かなければ判りません。どちらにしても帰るつもりは無いんですから、考えたって仕方ありません。今と言う時を楽しく過ごしましょう。・・・・・・・・・・・・・・はぁ〜サイコ〜ですぅ〜。』

そう言って【真実】はダラケ始める。

シンは苦笑する。

【真実】と一緒で本当によかった・・・・。

まったく。【真実】は何処まで行っても、【真実】らしい。

確かに考えたところで、どうにかなる物でもない。

【真実】の言った通り、帰るつもりは無いんだし、今という時を愉しむのが利口というモノだろう。

「それもそうだな・・・・・・。明日に備えて体を休めるとするか・・・・・・。」

そう言ってシンもダラケ始める。

明日は、キハノレまでの行程よりも疲れるかもしれないのだ。

 

 

翌朝・・・・。

朝食を終えたシン達は、遺跡に向かって移動し始めた。

相変わらず歩きにくい。

遺跡は遠くの方に、山の中にそれらしいのが小さく見えているが、このままでは時間がかかってしまいそうだ。

不気味な気配もますます強く感じられるようになってきた。

「さてと・・・、何があるのやら・・・。」

ポツリと呟いたシンだった。

 

暫く歩き続けたシンの進行方向に、なにやら気配を感じる。

遺跡から発せられる気配とは別のものだ。

『なんでしょうか?』

「判らん。警戒を怠るな・・・。」

気を引き締める二人。

そしてほどなくして、気配の正体が姿を表した。

その姿は・・・・・、

「・・スピリット・・?」

シンの前に立っているのは一人のレッドスピリット。しかし何かが違う気がする。神剣に飲まれているかどうかも、よく判らない。

『何かスピリットにしては違和感がありますね・・・。』

そのスピリットは確かに、姿かたちはシン達の知っているスピリットと変わらない。

しかし体全体が淡く光っていると言うか、ぼやけている様な感じだ。

シンが観察を続ける中、スピリットは無表情な顔で神剣を構えた。

「ま、待て!こっちは戦うつもりは無いぞ!」

シンは慌ててそう言った。

しかしスピリットはその言葉を無視し、力を込め始めた。かなりの大きなオーラだ。

「コイツ・・・・、かなり強い。」

『気をつけてください。来ます!』

【真実】が言い終わらない内に、スピリットは攻撃を仕掛けてきた。

ギィーーーン

「うっ、っく。」

早い。そして重い一撃だった。

ウルカほど早さはないが、それでも早い。攻撃自体も重く鋭い。

シンは何とか相手の攻撃を捌きながら、体勢を整えていた。しかし、足場が悪く思うようにいかない。

距離をとるスピリット。

「・・・・・・・・・・。」

何か喋っているのか、スピリットの口許が動く。

そして、なにやらオーラの性質が変わっていく。

「神剣魔法か!?くそっ、白陣!!

詠唱がほとんど聞こえなかったため、反応が遅れてしまった。それでも何とか抵抗のオーラを展開させる。

そして敵の神剣魔法が発動する。

ズドォーーーン!!!!!

「ぐっ!」

極太の炎が降り注ぐ。

抵抗力を上げても、それなりのダメージは受けてしまう。

しかし何とか耐え抜いたシン。

『大丈夫ですか?・・・・・かなりの強さですね・・・。』

「ああ。剣の腕はアセリア並み。神剣魔法はオルファ並み。しかも動きも早い。」

相手が何者かはわからないが、今まで戦った敵の中でもトップクラスの実力だ。

「確かに強い・・・。だが、こっちもやられっぱなしじゃない。」

シンはニヤリと笑う。

今までは足場が悪い事が原因で後手に回っていたが、足場の環境にはもう慣れてきた。

「さっさと先に進みたいんでな、手早く終わらせてもらう!オーラフォトンフォース!!

言い終わるやいなや、シンは攻撃を仕掛ける。

二発のフォースを、一発目はスピリットの足元に、二発目は直接狙った。

スドォーン!

スピリットの足元が弾け飛ぶ。一緒に土やら雪やらが空中に舞う。

空中に舞った土や雪を押しのけて、二発目がスピリットを直接狙う。相手は最初のフォースでバランスを崩している。

ズドォーン!

まともにくらうスピリット。しかしダメージは無いようだ。だが、ダメージは無くとも体勢をさらに崩せた。

その隙をついて間合いに入る。今度はスピリットの方が後手に回る。

ギィーーン!ギィン!

ガキィーン

あまり間合いをつめすぎては、槍は不利になるので、剣の届かない距離から突いて突いて突きまくる。

上手く捌いていたスピリットだが、ついにシンの攻撃を受けてしまった。

「・・・・・・・・・・・・。」

手傷を負ったのに気にした様子もない。神剣に飲まれているのだろうか・・・・・。

「もう終わりだ。諦めて俺たちを通すんだ。」

致命傷で無いとはいえ、これ以上は無理だろう。満足に動けない相手に負けるほどシンは弱くない。

「・・・・・・・・・・・。」

しかしスピリットはシンの言葉を気にした様子も無く、傷を負った体で攻撃してきた。

だが、先ほどより明らかに遅い。

『もうだめですね。やはり神剣に飲まれているのでしょうか・・・。』

「・・・・ああ、・・・仕方ない・・・。」

シンは静かに構える。

「すまない・・・・・画竜点睛の突!!

シンはスピリットの動きに合わせて最後の一撃を繰り出す。

その攻撃は正確にスピリットの体を貫いた。

「・・・・・・・・・・。」

しかし、スピリットはその攻撃を受けた事を気にした様子も無く、静かにマナの霧となって散っていった。

その光景を見てシンは嫌な気持ちになった。

「クソッ・・・・・。」

非常に後味が悪い。

神剣に飲まれたかどうかも判らない相手を殺してしまったからだろうか・・・・。

それとも相手自身の不気味さによるものなのか。

結局最後まで相手が何者か判らなかった。 これから行く場所に居るであろう、上位永遠神剣の持ち主達と何か関係があるのだろうか・・。

『何だか、スッキリしませんね・・・。』

【真実】も同じ事を感じ取ったのだろう。珍しくぼやく。

「ああ・・・・。しかし、終わった事をどうこう言っても仕方ない。先を急ごう。」

『そうですね・・・・。』

そう言ってシンは再び遺跡に向かって歩き出した。

 

暫く歩き続けると、シンの前に再び先ほどと同じようなスピリットが立ちはだかった。今度はブルースピリットのようだ。

「・・・・コイツも同じか・・・。」

シンは苦々しく呟く。

そして、スピリットが動く。

「いくぞ【真実】!」

『分かりました!』

シンも再び【真実】を構え、スピリットに向かって斬り込んで行った。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・・。」

額から流れる汗を乱暴に拭う。寒い場所だと言うのに、体は非常に熱い。

結局あの後、同じようなスピリットを四、五人ほど相手にした。その誰もが強かった。

幸い、相手は一人ずつしか襲ってこなかったので、撃退する事は出来ていた。

しかし、シンの体力、精神力はかなり消耗していた。

体も無傷と言うわけにはいかない。ところどころに擦り傷や切り傷が出来ていた。浅い傷もあれば、それなりに深い傷もある。

【真実】からの加護で傷自体は問題にはならないが、体力、精神力等は簡単にはいかない。

「はぁ、はぁ。・・・こりゃ、流石に疲れるな・・・。」

本当は辛いのだが軽口を叩く。こうして誤魔化してないと、疲れに押しつぶされてしまいそうなのだ。

『・・・・・何度が戦って思ったのですが・・・、・・・・やはり彼女達はスピリットではないような気がします。』

【真実】が呟く。

「・・・・否定はしないが、根拠はあるのか?」

【真実】の言った事はシンも感じていた。だがあくまで感覚としてそう感じただけであって、何らかの根拠に基づいた事ではないのだ。

『彼女達には自我がほとんど無い事は、貴方も解かっていますね?』

「当たり前だろ。あれだけ話しかけても何も話さないし、傷を負っても無表情のままだし・・・。・・・・死ぬ時でさえそうなんだ・・・。」

シンの顔が歪む。あの後味の悪さにはウンザリだった。もっとも命を奪って後味の良い、悪いなど無いのだが・・・・。

『しかし彼女達は神剣に飲まれている訳でもない。それも解かっていますか?』

【真実】は確認するような口調で話す。

「・・・・やはりそうなのか・・。ハイロゥの雰囲気から薄々は感じていたが・・・・。」

確かに彼女達のハイロゥは黒く染まっていない。

しかし、神剣に飲まれていないスピリットの様に白いと言うわけでもない。

勿論、少しだけ黒に染まっているなどの、いわゆる飲まれかけと言う事も無い。

例えるならば、透明や無色に近い。体全体もなにやらボンヤリしている。

「だが神剣に飲まれていないなら、あの態度はおかしいだろう?・・・・明らかに神剣に飲まれたスピリットのそれだ。」

『そう。そこがポイントなんですが・・・・、神剣に飲まれてないのに自我が失われている・・・。いや、もともと無いと言った方が正しいでしょうか・・・。』

「最初から自我が無い?」

『そうです。つまり彼女達は操り人形なんですよ。あらかじめ命令された事を実行するだけに造られた存在・・・。・・・人形なのですから自我が無いのは当たり前の事。・・・・・・・実際に動かしているのは神剣の方かも知れませんね。』

「誰かが造ったって言うのか?」

【真実】の言葉に流石に驚くシン。

『驚く事はありません。そもそも、スピリットもどうやって生まれてくるかは不明なんです。・・・・伝承では【再生】の剣から生まれ出るとありますが・・・。』

「【再生】の剣?・・・・聞かない名前だな・・。」

『この世界を支えていると言われる神剣です。・・・・マナの霧になったスピリットは【再生】の剣に還り、再び生まれてくるとされています・・・。伝承ですが、私はこれを真実だと思っています。この世界のどこかに【再生】と言う永遠神剣が存在し、スピリットを生み出しているのでしょう。』

淡々と話す【真実】

「なるほどな・・・。つまり、それだけの力を持つ神剣があれば、スピリットのような存在を生み出す事が出来ると言うことか・・・・・。要するにさっきの奴等は、それだけの力を持つ何者かに造られた存在ではないか・・・、お前はそう言いたいんだな?」

『ズバリその通りです。』

シンは【真実】の言いたかった事を見事に指摘した。

「・・・確かに可能性は結構高いかもな・・・・。・・・・となると、さっきの奴等を造った可能性があるのは・・・・・上位永遠神剣を持つ者、つまり、この不気味な気配の持ち主かな・・・・。」

そう言って空を見上げるシン。相変わらず遺跡の方から不気味な気配が感じられる。

『お見事。その通りです。』

「少し考えれば解るさ。・・・今の俺達を邪魔しようとする奴等は限定されるからな・・・。」

『邪魔をするというよりは、明らかに殺そうとしていますけどね・・・。』

「ああ・・・・。確証がある訳じゃ無いが、そのつもりで警戒して進もう。・・・・・遺跡は近い!」

そう言って、【真実】を使っての索敵範囲を広げる。疲れたと言っている場合ではなかった。

遺跡はもうすぐだ・・・・。

 

 

「着いたな・・・・。」

シンがため息と共に言葉にする。

あれから一時間程して山岳地帯にある遺跡にたどり着いた。

その間、敵が襲ってくる事はもう無かった。何事も無く静かな行程だった。

だがシンは逆に、その静けさを不気味に感じていた。

まさに嵐の前の静けさ、といった感覚だ。つまり、あまりいい感じはしない。

『・・・気配が消えましたね・・・。』

ずっと前から感じていた不気味な気配は、少し前からその姿を消していた。

「・・・・・・・・。」

黙って遺跡を見上げるシン。

遺跡と言うが、それ程古いという感じはしない。むしろ真新しさを感じる。

「・・・・ジッとしてても始まらないな。とりあえず中に入ってみるか・・・・。」

そう言って遺跡に近づいていくシン。

ズザザッ。

ふと物音がして横を見ると、木に降り積もった雪がその重さで地面に落ちていった。

「雪か・・・。」

改めて遺跡の方を向く。

「『なっ!!』」

シンと【真実】が驚愕の声を上げる。

目の前に二人の男女が立っていた。

巨大な剣を持った筋肉質で大柄な男と、オルファやカオリよりも小さな、杖を持った白い髪の女の子だった。

(バカな!!誰もいなかったハズだ!)

慌てて距離をとるシン。

シンが雪の落ちる音に気をとられた一瞬の間にシンの前に現れたのだ。しかもシンや【真実】に気付かれる事なく。

二人からは、前から感じていた不気味な気配を感じる。

(こいつ等が、あの不気味な気配の持ち主か・・・。)

「うふふふふふ。まさか此処までこれるとは思っていませんでしたわ。」

少女の方が話し出す。見た目の割りに妖艶な声だ。外見の幼さをまったく感じさせない。

その違和感にシンは一瞬体がゾクッとする。

「エターナルミニオン達で充分かと思いましたが、私の計算違いでしたわね。」

何が可笑しいのか、その顔にはいやらしい笑みがうかんでいる。

「なんだ、お前達は!」

シンは声を荒げて言う。

シンには珍しく、相手の素性を知らぬまま敵愾心を抱いている。

シンの体、感覚の全てがこう言っている。

こいつ等は危険だ。こいつ等は敵だ。と。

「これから消え逝く相手に教えても意味がありませんわ。」

少女が笑みを浮かべたままそう言った瞬間、巨大なオーラが二人から立ち昇った。

「あっ・・・・・・。」

『そ、そんな・・・・』

シン、【真実】共に愕然とする。もはや言葉も出ない。

二人のオーラの強大さは圧倒的だった。

二人の持っている剣と杖が、おそらく上位永遠神剣だろう。

その強さは、比べるのも馬鹿らしくなるくらい圧倒的な差だ。

この世界でトップクラスの強さを持つシンが全力を出したところで、この二人の強さの一割にも満たないのではないか、そう思えるほど程の圧倒的な差を感じる。

例えるならアリ対人間、人間対エトランジェ、と言ったところだろうか。

「坊やには可哀想ですけど、イレギュラーは排除させて頂きますわ。」

その言葉を聞いたシンは、たとえ叶わないと理解していても、構えを取る。簡単に死ぬつもりは無い。

「簡単に殺されてたまるか。」

ヘリオンの顔がチラッと浮かぶ。

生きて帰らなければ・・・・。

(「・・・隙を見て逃げるぞ【真実】。・・・・今の俺たちじゃ、戦っても百パーセント殺される。・・・・オレはまだ死ぬわけにはいかない・・・・。・・・・二度も約束を破るわけにはいかない・・・・。」)

(『・・・解りました。』)

素直に頷く【真実】。シンの想いを受け取ってくれたのだろう。

しかし、逃げるとは言っても、それさえも許してくれるかどうかは判らない。

何せ相手の強さは圧倒的なのだ。

「うふふふ。」

「テムオリン様。あの者の始末は、私にやらせてください。」

それまで黙っていた男が少女に話しかける。口調からして、どうやら少女の方が立場は上のようだ。

テムオリンというのが少女の名前なのだろう。

「・・・いいですわタキオス。ですがまだ殺してはいけませんわ。」

そう言って改めてシンを見る。

「此処まで来た御褒美に、たっぷり可愛がってあげますわ。」

そう言って、小さな下で唇を舐める。

見た目とは裏腹の妖艶な仕草に、シンは再び悪寒を感じた。

(じょ、冗談じゃない。オレの貞操はヘリオンに捧げたんだ。)

心の中で冗談を飛ばす。精一杯の強がりだろう。

「承知しました。テムオリン様。」

シンと対峙する男。

タキオスというのがその名前だろう。

「ふっふっふ。シンだったな・・・・。・・この世界で、指折りの実力者である貴様とこうして剣を交えたかったぞ。」

「生憎だが、こっちはお前なんかと剣を交える余裕は無い。」

本音だ。戦っても勝てる相手ではないのだ。

「・・・・逃げる、などという選択は許さん・・・。貴様はオレと剣を交え、オレの渇きを潤すのだ。」

そう言って男は自身の神剣であろう巨大な剣を天にかざす。

すると男を中心に空間が歪む。

「なっ!」

それはドーム状に広がっていき、やがてシンやテムオリンをも包み込んでしまう。

ある程度広がったところで空間の歪みは止まる。

「これで、貴様は戦うしか無い・・・・。」

タキオスの顔には笑みが浮かんでいる。

「っく。」

シンの顔が歪む。

男が何をしたのかは解らない。おそらくは結界のようなものを張ったのだろう。

どちらにしてもこれで、タキオスの言うとおり逃げるという選択肢はなくなってしまった。

(『・・・・どうしますか?』)

【真実】が静かに聞いてくる。

(「どうするもこうするも・・・、逃げる事はできない。なら戦うしか無いだろう・・・。」)

(『勝てないと解っていても?』)

【真実】が問いただす。

(「それでもだよ。・・・・それに勝つ必要はない。要はこの結界を消す事が出来ればいいんだろ・・・。勝てなくても、このタキオスとやらにダメージを負わせれば集中力を欠いて結界を解くかもしれない。幸い、テムオリンってヤツは見てるだけみたいだし・・。」)

(『ダメージを負わせるのも、かなり難しいんですよ?』)

(「それでもさ。・・・・どうせこのままじゃ死ぬ。やる事はやっとかないと気分悪いしな。」)

サラッと軽口を言うシン。

(『ふふふふ。貴方らしいです。それでこそ私の認めた主・・・。最後まで付き合いますよ。』)

(「ああ。よろしく頼むよ【真実】」)

笑いながら答えるシン。決意は固まった。

顔を上げ、タキオスを見定める。

「ほう・・・。いい眼だ。・・・・・・来い!

「いくぞっ!!」

オーラフォトンを全開にする。

間髪いれずにフォースを連続で放つ。

ズドドドドォーン!!

派手な音を立てて男に直撃する。

煙がモウモウと立ち上る。その隙をついてシンは一気に間合いを詰める。

そして間合いに入ったところで連続して突きを放つ。

「ハァァッ!!」

その全てが男に命中する。いや、命中したとシンは思っていた。その感触はあった。

しかし煙が晴れてみると男は無傷のまま立っている。

「どうした。貴様の力はそんなものか?」

「くそっ!」

そう言って再び突っ込んでいく。

「うぉぉぉーーー!!!」

間合いに入りシンは次々に攻撃を繰り出していく。

タキオスは巨大な剣を軽々と振り回し、シンの攻撃を全て捌いていく。

いや、何回かはタキオスの体に当たっている。しかしダメージを与えられない。

このままじゃジリ貧だ。

「フォース!!」

シンがフォースを唱える。しかし男ではなく地面に向かって放った。

「なに?」

フォースの反動を利用し上へ飛び上がる。

そしてタキオスの後ろに着地する。

「ダメージを与えられなくても、これならどうだ。白蹄!!

白蹄ならダメージを与えられなくても、相手に触れさえすれば効果を発揮する。

ズドォン。

間違いなく当たった・・・・・・・・と思った。しかし、

「そ、そんな・・・。」

シンが思わず声を漏らす。

よく見ると白蹄は、タキオスに当たる直前にオーラフォトンによって阻まれていた。

いや、白蹄だけでは無い。おそらく今までの、当たったと思っていた攻撃も全てオーラフォトンに阻まれていたのだろう。

「その程度の攻撃では、俺に傷は付けられんぞ。」

タキオスの言葉に慌てて距離を取るシン。

(ここまで・・・、ここまで差があるのかよ・・・・。)

今までの攻撃は全て無駄だった。

たとえオーラを全開にして攻撃しても、ダメージ負わせるどころか、届きすらしてない。

「まだだ!まだいける!!」

シンは自分を鼓舞するように叫ぶ。

(「【真実】。画竜点睛を出す。オーラを限界まで引き出してくれ。」)

(『そんな事すれば、例え上手くいっても動けなくなりますよ!』)

(「根性で動いてみせるさ。だから頼む。」)

(『・・・・・・・・・・解りました。』)

「いくぞ!・・・はぁぁぁーーーー!!!!」

再びオーラフォトンを全開にする。いや、先ほどよりも大きなオーラだ。

限界以上に力を引き出しているようだ。

練ったオーラフォトンの全てが【真実】に収束していく。

そしてその中でも、刃の先端のみに極限まで収束していく。

今までの画竜点睛とは違う。今までは【真実】全体にオーラを収束していた。

今回は極限まで収束している。

「どうやらそれが、貴様の全力を込めた一撃のようだな・・・。来い!

タキオスが初めてその巨大な剣をまともに構える。

「うぉぉぉーーーーー!!画竜点睛の突!!!」

シンの全身全霊を込めた一撃がタキオスを襲う。

タキオスは静かにその攻撃を見定める。

「はっーーー!!!」

タキオスが力を込める。そして、

「ぬあぁぁぁーーー!!」

ガキーン!!

その巨大な神剣で、シンの渾身の一撃をあっさりと弾いてしまった。

そして、技を弾かれ無防備になっているシンに体当たりをかます。

ドン!

「ぐっぁ!」

ハデに吹っ飛ぶシン。ゴロゴロ転がり、木の下でようやく止まる。

そんなシンを見てタキオスは、

「・・今のは、なかなかの一撃だったぞ。・・・・・・・・・・・・だが・・・・、」

そこで一度きる。そして改めて口を開く。

「・・・・・・あまりにも、・・・・・・・・あまりにも弱すぎるぞ!シンよ!貴様の力はこんなものか?」

吐き捨てるように言うタキオス。

「ぐっ、クソッ!」

『ここまででしょうか・・・。』

オーラフォトンを使いきり、フラフラしながら立ち上がるシン。

もう闘う力など残っていない。

「・・・・今度はこちらからいくぞ・・・・。」

そう言って神剣を構えるタキオス。

「シンよ、二つも三つも攻撃手段を持つ必要は無い。ただ一つを、鍛え上げてこそ必殺となる!」

その言葉に言い返したくなるシンだが、そんな元気はもう無い。

そんなシンをよそに、巨大な剣を肩に担ぎ左手を前にかざすタキオス。

そして・・・・・・・、

フッ。

消えた。

「なっ!」

そして目の前が暗くなる。

急に視界を遮られたと思ったら、目の前に剣を振り上げたタキオス立っている。

「なっ!」

もう一度驚愕する。

速いなんてもんじゃない。動きが見えない。

まるで瞬間移動だ。

「ハァッ!!」

猛然と振り下ろされる巨大な剣。

あれを食らえば、痛いと思う暇も無く死ぬだろう。

だが、簡単には死ねない。

ガイーン!!

「くっ!」

何とか受け止めたが、オーラを使いきったので支えきれない。

(ダ、ダメだ・・・、このままじゃ【真実】が・・・。)

タキオスの攻撃で【真実】が軋んでいる。今にも折れそうだ。

(『余計な事は考えないでください!生きて帰るのでしょう?』)

【真実】が叱責する。

だがシンは力を抜いた。

そしてタキオスの刃が襲い掛かった。

ズバッ!

「ぐあっ!!」

タキオスは体ではなく足を切り裂いた。

激痛でシンは呻き声を上げる。

そんなシンを見てタキオスは、

「ここまでのようだな・・・・・・・。・・・・・・・テムオリン様。終わりました。」

タキオスは翻って、テムオリンに報告する。

「ご苦労様タキオス。うふふふふ。」

(癪に障る声だ・・・。)

足からは血が流れ出ている。その血は直ぐにマナの霧となって消えていく。

傷は出血多量になるほど深くないが、動かす事は出来そうにない。

(『何故、力を抜いたのですか!』)

【真実】が怒鳴りかかってくる。

(「・・・・・喧嘩するつもりはない。何度同じ状況に陥っても、オレはまた同じ事をする。文句は言わせん。」)

(『何故ですか?私を庇ってる場合じゃないでしょう。命がかかってるんですよ。』)

【真実】の言葉に、シンはうつむき、小さな声で口にした。

(「・・・・・・・お前を失うのは・・・・イヤだ・・・・・。」)

飾らない言葉だが、確かな意志が込められていた。

(『・・・・・はぁ。貴方は本当に・・・・。もうどうなっても知りません。』)

テムオリンが近づいてくる。

「・・・・煮るなり、焼くなり好きにしろ・・・。」

テムオリンを睨みながら吐き捨てる。

「うふふふふふ。御褒美に可愛がってあげますと言ったでしょう・・・・。ふふふ。貴方に最高の快楽を与えて差し上げますわ。」

そう言って、シンの服を脱がしていく。

「ま、待て!お前マジか!じょ、冗談じゃないぞ!」

慌てて抗議する。まさか本気とは思わなかった。

「うふふふふ。可愛い坊やです事。」

そう言って裸になったシンの体を蹂躙していく。

「や、やめっ・・・クッ/////

テムオリンの言う通り今まで感じた事の無いような物凄い快感がシンを襲う。

あまりの快感に、体力を失った事もあって、意識が飛びそうになる。

そんなシンを見た【真実】が、テムオリンに反抗するかのように激しく明滅する。

『やめなさい!それ以上は許しません!!』

「貴方も下位の神剣の癖に生意気ですわね。一緒にマナを吸い取ってあげましょう。」

「クッ/////・・や、やめろ!!【真実】には手を出すな!!」

「ふふふふ。私の攻めに耐えるとは頑張りますわね。」

そう言ってテムオリンはシンの体の上で妖艶に体を動かす。

シンは握っている【真実】だけは死んでも放さないつもりだ。

そんなシンを見てテムオリンは、

「うふふふふ。無駄ですわ。貴方を通して吸い取ってあげますわ。

(『・・・あ・・あ・・・・・・・』)

【真実】の明滅が小さくなっていく。

「や、やめろー!!」

(『・・あ・・・シン・・・・・・私が・・・・・・消えて・・・・・・・』)

「いくな!!【真実】!!くそー!!やめろー!!」

「うふふふふ。そろそろ最後ですわ。いきなさい!!

シンを襲う快感がますます大きくなる。

「やめろーーー!!!!」

その瞬間、快感が全身を襲った。

(『・・あ・・・シン・・・・すいま・・・せん・・。・・・・・・・わか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。』)

別れの言葉を言いながら、次第に小さくなっていく【真実】の声は、やがて完全に消えてしまった。

「あっ・・・・・・【真実】・・・?」

そのあっけなさにシンは一瞬理解できなかった。

『・・・・・・・・・・・・・・。』

【真実】からは何も返事が返ってこない。

「うそ・・・・・だろ?・・・・【真実】?」

『・・・・・・・・・・・・・・。』

やはり何も返事が返ってこない。

「【真実】!!!返事をしろっ!!!」

「無駄ですわ。この神剣のマナは私がほとんど吸い取ってしまいましたから。うふふふ。気持ちよかったでしょう?」

テムオリンが笑いながらシンに話しかける。

・・・・・・・・殺してやる・・・・。殺してやる・・・・。殺してやるっ!!!!

満足に動かない体で、シンがテムオリンを睨みながら叫ぶ。

普通の人間がその場にいたら、その殺気だけで殺せそうな声だ。

いや、スピリットやエトランジェでも、今のシンには恐怖を感じるだろう。

「まぁ、怖い。それは、御遠慮させて頂きますわ。」

しかしテムオリンはシンの言葉を気にした様子もなく軽口を叩く。

「さて、そろそろ飽きてきましたし、終わりにして差し上げますわ。」

テムオリンがシンの体から降り、神剣を構える。

「イレギュラーな存在は排除させて頂きますわ。」

そう言ってオーラフォトンを展開させる。

相変わらず巨大なオーラだ。その力はタキオスのそれよりも上だ。

神剣をシンに向けてかざす。

(ごめん【真実】。オレ、お前守れなかったな・・・・・・・。仇もとれなかった・・・・・・・。)

静かに目を閉じるシン。

(ごめんヘリオン。また、約束破っちゃったな・・・・。)

「さよなら。坊や。」

そう言ってテムオリンが神剣魔法を放とうとした。

しかし、

「ちょ〜っと、まってぇ〜!!」

女の声が何処からとも無く聞こえてきた。

その声に目を開けるシン。

「一体何ですの?」

テムオリンも一時手を止める。

辺りを見渡すと一人の女性が歩いてくる。そしてシンの近くで止まる。

そしてテムオリンを見て言った。

「はい。そこまでね、テムオリン。」

「あなたはっ!・・・・・・・・・何故こんなところに居ますの!!」

テムオリンには珍しく驚愕の表情を浮かべ、声を荒げて言う。

「相変わらず悪どい事やってるわね、テムリ〜ン♪」

女性はテムオリンを見て笑いながら言った。

「貴方もいい加減、その呼び方はやめて下さらない?イライラしますわ。」

知り合いなのだろうか。仲間という感じはしないが、敵対しているようにも見えない。

「まぁ、そんな事はどうでもいいの。」

女性はサラッと流してシンを見る。

(なんなんだコイツは?)

肩付近まで黒髪を伸ばした小柄な女性だ。しかも何故だか巫女服を着ている。

(筋肉質の大男に、妖艶な幼女、それに巫女服のコスプレをした謎の女性か・・・・。馬鹿にされているのか俺は?)

状況を考えればそんな訳が無いのだが、正常な思考をする体力も気力も精神力もない。

「とにかくテムリン。悪いけどこの子は私のモノなの。ここは退いてくれない?」

ズケズケと言う巫女服の女性。

「そうですの・・・、この坊やは貴方が・・・・・・。」

苦々しく巫女服の女性を見るテムオリン。

「・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・。」

「タキオス、行きますわよ。」

暫くにらみ合っていた二人だが、やがてテムオリンの方が動いた。

「宜しいのですか?」

「今、彼女を敵に回すのは得策ではありませんわ。・・・・・・・・・・坊やは排除できませんでしたが、神剣のマナを奪いましたから、当初の目的は取りあえず果たせてますわ。」

淡々と放すテムオリン。

「時深さんが入れ込んでいる【求め】の坊やに関してはどうとでもなりますし、ここで無駄なマナを消費しても意味はありませんわ。」

「承知しました。」

そう言ってその場を離れていくテムオリンとタキオス。

「サンキュー。テムリン♪助かるわ♪」

礼を送る巫女服の女性。

「ふん。そう思うなら、その呼び方を変えて頂けませんか・・・。」

最後は神剣の力を使ったのだろう。オーラに包まれた二人はその場から消えていった。

 

「さて、と。」

クルッとシンの方に向き直る巫女服の女性。

「・・・・・・・。」

シンは何も言わない。

「【真実】のマナが失われた今、キミに力はほとんど無いわ。」

「だからなんだ・・・・。」

【真実】がいない今、力があったからと言ってそれが何になる。

「ふむ。【真実】をもう一度手にする方法を考えてみる気は無いの?」

「なに?」

女性の言葉に反応するシン。

【真実】をもう一度この手に?

「後は自分で考えて。・・・・じゃぁ、私はもう行くわ。」

「待て、お前誰なんだ?」

慌てて問い詰める。

「ん?まぁ、その内判るわ。それまではしっかり精進なさい。」

そう言って女性はさっさと去っていった。

「なんなんだ一体・・・。」

そう言って、手にある【真実】を見る。

『・・・・・・・・・・・・・・。』

やはり【真実】の声は何も聞こえてこない。

「もう一度【真実】を手にする方法・・・・。・・・だがどうやって・・・。・・・・・仮に方法が判ってもどうすればいいんだ。」

今までの事も、これからも事も全て【真実】がいてこそだったのだ。

その【真実】がいない。

「・・・ううう・・・・・・。」

何の力も、支えも無いシンがどうすれば良いというのだ。

【真実】の支えがなければ【真実】は助けられない。

矛盾しているがシンの気持ちは大体こんなものだ。

改めて【真実】を失った悲しみが全身を襲ってくる。

ここに行くと決めた時点で死ぬ覚悟もしていた。だが【真実】を失う覚悟なんてしていなかった。考えもしなかった。ずっと側にいてくれると思っていた。自分が死ぬその瞬間も・・・・・ずっと側に・・・・。

・・・・置いていかれた。・・・・・たった一人置いていかれた。

この世界で、自分が自分でいられる全てを失った。

涙が溢れてくる。

「・・あ・・・【真実】・・なんで・・・あ・あう・・あ・ああああ・・・ああああああああああああああ!!!!!!!!!」

声の限り泣き叫んだ。・・・・・・いつまでも泣いた。

いつまでも、いつまでも、涙は止まらなかった。

 

続く

 

後書き

ハイ、十章アーップ。

今までで、一番長かったねぇ〜。

「失われた真実」どうでしたか?今回は、今まで大きな敗北を経験した事のないシンに、完全な敗北を与えるのがテーマでした。

ちなみに最後に出てきた女性は、二章の冒頭に出てきた人ですから・・・・。そんな人いたっけ?って人はもう一度二章を見てください。

さて次回は【真実】を失ったシン、どうするのでしょうか。ちゃ〜んと考えてますよ。

では次回またお会いしましょう。

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