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イレギュラーズ・ストーリー

 

第八章 新たなる旅路へ

 

カオリが解放されて幾日かが過ぎた。その間は実に平穏な毎日だった。

ユートもカオリが解放されて、精神的に余裕が出来たのだろう。以前のように悩む事も少なくなっていた。

全てが順調にいっていた。

 

「・・・・・そろそろ、みんなに話さないとな・・。」

自分の部屋でポツリと言葉を漏らすシン。

間もなくラキオスを出る。その事を皆に伝えなくてはいけない。

おそらく、ユートやエスペリア、レスティーナ達は理解してくれるだろう。

第二詰め所のみんなも、自分がいなくてもやっていけることは解っている。しかし、ヘリオンはどうだろう?

勿論自分がいなくても大丈夫だろうが、問題は精神的なものだ。

ヘリオンが自分に対して特別な感情を抱いているのは薄々気付いている。

自分自身も、ヘリオンに好意以上の感情がある事はわかっている。

それを無視して行くことが出来るだろうか?

前に、サルドバルトに一人で行った時でさえ、精神的にあれだけ揺らぎがあったのだ。

今回の旅路はその時の比ではない程、長いものだろう。

かと言って、連れて行くわけにもいかない。彼女達にはレスティーナを手伝ってやって欲しいと言う思いもあるのだ。

いずれはラキオスに戻ってくるだろう事は自分でも解っている。もはや切り離して考えられるほど、安い国ではなくなってしまった。

 

「・・・・う〜ん。どうするかなぁ。」

どうするか、と悩んでいるが答えは最初から決まっている。

一人でこの国を出る。そしてこの世界を観る。

『考える前に、彼女と話してきたらどうですか?』

相棒である【真実】が話しかけてくる。

「そうだな。考えたってしょうがないしな。とりあえず・・ヘリオンと話さないと先へは進めんな。」

そう言って立ち上がり、そのまま部屋を出る。

現在夜中の八時。ヘリオンは部屋にいるはずだ。

 

ヘリオンの部屋に着き、扉をノックする。

コンコン。

「は〜い。」

中から、ヘリオンらしいのんびりした返事が返ってくる。

「えっと、シンだけど。今、時間いいか?」

「えっ!?シン様ですか!!ちょ、ちょっと待ってくださ〜い。」

なにやら慌てた声が返ってくる。そして、なんだかどたばたした音が中から聞こえてくる。

暫くしてガチャリと扉が開く。中からヘリオンが顔をのぞかせた。

「お、お待たせしました。どうぞ。」

緊張してるようだが、やたらとご機嫌な口調だ。

「じゃあ、お邪魔するよ。」

そう言って中に入り、用意してあったイスに座る。

「お、お茶淹れますね。」

「おお、すまんな。」

(まずい。やたらご機嫌だぞ。・・・・いいづらい・・・かも。)

(『何を今更、ウジウジしてるんですか。男なら当たって砕けなさい。』)

(「うむっ、そう・・・・・だな。」)

「シン様が私の部屋を訪ねてくるなんて初めてのことですよね?」

お茶を淹れ終えたヘリオンがシンに聞いてくる。

「迷惑だったか?」

「そんな事ありません!すごく嬉しいです!」

勢い込んで否定してくるヘリオン。

(うっ、かわいい。って言うか、ますます言いづらい。)

(『貴方は・・・・、ここまできて、ヘタレないで下さい。』)

(「むっ!俺はユートじゃないぞ・・・・。」)

「それで、シン様。何か御用でしたか?」

ヘリオンの言葉に我に返るシン。

「ああ・・・・。」

シンの沈んだ口調の返事に、眉をひそめるヘリオン。

「・・・・・・・・・・・・・、俺は・・近い内にラキオスを出て行く。」

悩んだ末、単刀直入に言う事にした。

「・・・・・・・・・・えっ?」

シンの言ったことが解らない、といった顔になるヘリオン。

「そ、それは・・・ま、前みたいな潜入調査をする・・・・・って事ですか?」

俯きながら口にするヘリオン。

シンの言った事の意味が解らないと言うわけではないだろう。それでも聞かずにはおけなかった。

ひょっとしたら、自分が考えてる事と違うのかもしれない、という事に期待して・・・・・・・。

「そうとも言えるかもしれないな。ただ言えることは、今度は暫くは帰ってこない。」

キッパリ言うシン。

「ど、どれくらい何ですか?」

俯いたまま低い口調で聞いてくるヘリオン。

「・・・・・・半年・・・、場合によっては一年は帰ってこないかもしれないな・・・・・。」

「嫌ですっ!!」

急に大声を出して、シンに詰め寄ってくる。

「そ、そんなの・・・・・なんで!・・シン様が・・・・・・半年もなんて・・・・そんなのいやですぅ〜!」

よく見たら既に大粒の涙を溜めている。

「そんなの、国の調査機関がやればいいじゃないですかっ!!」

大声を上げてシンに抗議するヘリオン。

「これは、俺自身がやりたい事なんだ。」

ヘリオンとは逆に冷静に答えるシン。

「何でですか?何も、今じゃなくてもいいじゃないですか!」

「・・・そうかもしれない。だが、今じゃないと見えないものもある、と思ってる。」

「みんなを放っておいてまで、優先する事なんですか?・・・・・・・・約束したじゃないですか。私に戦う理由が出来るまで、それまでは守るからって。私はまだ、大丈夫じゃないです!あれは嘘だったんですか!

ぼろぼろ涙を零しながら、必死にシンを止めようとするヘリオン。

「それは・・・・・・・・・・、悪いと思ってる。約束を破るような事になってすまない。」

痛いところを指摘されたが、言い訳もせずキッパリ謝る。

「いいえ、許しません!ですから、ここにいてください。・・・・・・・私の側に・・・・。」

最後は呟くように、小さな声で口にするヘリオン。

「・・・・・・ヘリオン・・・・・、俺は今のところ予定を変えるつもりは無い。」

「っ!?」

どうして?と言う顔で、頭を振るヘリオン。

「・・・・許してくれ、とは言わない。だが受け入れて欲しい。・・・・・極力早く戻ってくるから・・。」

「・・・・・どうしても、なんですか?」

俯いて、小さな声で聞いてくる。

「・・・・・・・・・・・。」

沈黙を保つシン。だが沈黙は肯定と取るものだ。

「シ、シン様のうそつき!!」

ヘリオンはそう言って立ち上がり、部屋を出て行く。

ヘリオンの出て行く様を、何もせずに見るシン。

『いいのですか、このままで?』

【真実】が尋ねてくる。

「追いかけて・・・・、追いついて・・・・、何が言える。・・・・・何を言っても言い訳にしかならん・・・・・。」

『ふぅー。仕方ありま・・・!』

カンカンカンカンカンカンカンカンカン。

【真実】が答えようとしたとき半鐘の音が夜のラキオスに響き渡った。

「な、なんだ!?」

『こ、これは・・・・、いけません!スピリットが入り込んだようです。』

「今、何処だ?」

『既に、城に入り込まれています。街にも幾人かのスピリットがいるようです。』

「城の方はユート達に任せよう。俺たちは街のほうに行くぞ!」

『かなり訓練された者達ですよ。単独で行動するのは危険です!』

「っ!・・・ヘリオンが危ない!」

ヘリオンは飛び出していったため、彼女の神剣である【失望】を持って行ってないのだ。

【失望】をもって、慌てて部屋を出る。

ヘリオンは既に詰め所にはいないようだ。

急いで詰め所を出る。

外に出ると城に向かうエスペリア、アセリア、オルファの姿が見受けられた。

「エスペリア!」

「シン様!」

「スピリットが城に入り込んでいる。エスペリア達は城の方に向かってくれ。俺は街の方のスピリットの撃退にあたる。」

用件だけを手短に話す。

「分かりました。シン様気をつけてください。入り込んでるスピリットはかなり腕の立つ者達のようです。」

「分かってる。そっちも気をつけろ。」

「はい。」

短く言葉をかわして別れる。

「まずいな。早くヘリオンを見つけないと。しかし半鐘の音を聞いて此処に戻ってくる可能性もあるしな・・・。」

『いえ。居ました。街にいるようです。・・・まずいですよ。近くに侵入したスピリットがいます。』

「案内しろ!」

 

 

部屋を飛び出し、詰め所も飛び出したヘリオン。

逃げ出てきたような格好だったので、【失望】を持ってくるのを忘れてしまった。

先ほど、半鐘が鳴り響き、それと時を同じくして、どこかの国のスピリット達が侵入している事が分かった。

そして現在、徐々に敵に追い込まれつつある。

彼女等の目的は解らないが、忍び込んだ国のスピリットを消すのに、ためらいは無いだろう。

「・・・・・どうしよう・・・・・・・。・・・・・・ここまでかな。」

自嘲気味に口にする。

敵に囲まれつつある現在、神剣を持たないヘリオンにはどうしようもない。

【失望】を持ってないことが、文字通り彼女に失望の気持ちを生じさせていた。

一つ望みがあるとするならば、入り込んだスピリット達は、どうやら神剣に飲まれていないらしいという事だ。

神剣に飲まれてないのなら、話が通じるかもしれない。時間を稼いで仲間が助けに来るのを待つことが出来る。

(シン様なら、私が神剣を持ってない事に気付いて、直ぐにきてくれるよね・・・。)

「・・・・・・・シン様・・・・。」

ヘリオンは、先ほど仲違いしたシンが助けに来てくれることを信じる。

いや。この状況が、仲違いしたことなど、既に忘れさせていた。

 

入り込んだスピリットがヘリオンの前に立つ。

その数三人。

その内一人が口を開く。

「侵入した事が知られた今、我々の任務は霍乱と・・・・戦力の削減。・・・・どうやら神剣を持っていないようだが、貴方には消えていただく。」

そう言って剣を構える。

神剣を持ってないヘリオンなど人間を殺すのと対して変わらない。

「ま、待ってください。」

慌てて話しかける。

「なんでしょう?」

相手が聞き返したのを聞いて、一度深呼吸する。

「貴方達の目的は何ですか?何故忍び込んだのですか?」

その言葉を聞きスピリットは、ヘリオンを睨む。

「私達がそれを話すと思ってるのですか?貴方が知る必要は無い事ですし、こちらも話す気はありません。」

当然の事だが答えてくれるわけが無い。といっても時間稼ぎなのだから、それは大した問題ではない。

「それでは消えていただこう。」

改めてスピリットが口にする。

「ま、まってください!」

慌てて呼び止めるヘリオン。

その言葉を聞いて、またか、といった顔になるスピリット。

「せめて最後に、ゆ、遺言を残したいのですが・・・・。中間達に・・・。」

それを聞き、剣を若干下げるスピリット。

「ふむ、いいでしょう。死に逝く物の遺言は聞いておくのが戦場の礼儀・・・。」

それを聞いたヘリオン、相手が話しに乗ってくれたのはありがたいが、正直なところ遺言など考え付かない。

(ど、どうしよう・・・。)

「どうしたのですか?早く言いなさい。無いならもう終わりにしましょう・・・。」

「あ、あう・・・・。」

「では、逝きなさい!はぁぁぁぁ!!」

そう言って剣を振り上げ突進してくるスピリット。

「シン様―――――!!!!」

 

 

「まだか【真実】?」

『もう、直ぐそこです!・・・・・・・見えてきましたよ!』

【真実】が指し示す方には、一体のスピリットがヘリオンに向かって剣を振り上げ、突進しているところだった。

「まずい!間に合うか!」

全力で走るが、このままでは僅かに間に合わない。

「くそっ!間に合わない!!!」

その時ヘリオンの叫ぶ声が聞こえてきた。

「シン様―――――!!!!」

このままでは、ヘリオンを永遠に失う。

はにかむ様な笑顔も

抱きしめた時のぬくもりも

甘えてくる時の声も

全て失う。

させない。そんな事認めたくない。

・・・・・・嫌だ!

ドクン

「うぉおおおおおおおおお!!!!!!」

シンのスピードが一気に加速する。

物凄い勢いだ。

グングンとヘリオンまでの距離をつめる。

そして、

ズザンッ!

敵とヘリオンとの間に割ってはいる。

「・・はぁぁぁぁ・・・・・・。」

静かに息を吐く。

「むっ、何奴!?」

「シ、シン様・・・・・・。」

突然、自分とスピリットの間に割ってきたシンに驚くヘリオン。

何よりも望んだものだった。

次第に涙が出てくる。

そんなヘリオンをよそに、シンと三人のスピリットが睨みあう。

「・・・・・失せろ。」

一言シンは、そう三人に言う。

この三人のスピリット達も、それなりの使い手たちなのだが、今のシンから発せられるオーラの強さは、この三人を大きく超えている。

普段のシンなら、それ程大きな違いは無かっただろう。

ヘリオンを助けるために発露した、火事場の馬鹿力と言うものだろうか・・・。

「・・・どうやら、こちらの分が悪いようですね・・・・。此処は退きましょうか。」

「いいの?」

別のスピリットが聞く。

「間もなく隊長も任務を終えるでしょう。我々の一番の目的は霍乱。その責は充分に果たしました。イタズラに被害を増やしても仕方ありません。隊長も解ってる筈です。」

「・・・・・・・・。」

シンは何も言わない。退いてくれるなら、それに越した事は無いのだ。

だが何も言わない一番の理由は、何も考えられないからだろう。

大切なものを失わずに済んだ事の反動とでも言うのか・・・。

「では、いつかまた戦場で・・・・・。」

そう言って、三人のスピリットは二人から離れていった。

 

「あ、あのシン様・・・・。」

スピリットが去っても何も反応しないシンに恐る恐る声をかけてみる。

「・・・・・・。」

それでも何も言わないシン。

(『いい加減に帰ってきなさい!!』)

「お・・・・・おう。」

【真実】の呼びかけで、ヤット我に返るシン。

「シン様?」

「ヘリオン!!」

「は、はい。」

ペタペタとヘリオンの顔を触るシン。

そしてそのまま抱きしめる。

ぎゅぅぅ。

「あっ//////////

顔を触られたと思ったらいきなり抱きしめられて、真っ赤になる。

「・・・・あまり・・・・心配かけるな・・・・・。」

シンはそう言って、また強く抱きしめる。

シンの言葉を聞いて、ようやく自分が助かった事を実感できたヘリオン。

涙がとめどなく流れてくる。

「・・・・ハイ・・・。」

そう言って、ヘリオンもシンを抱きしめ返す。

自分の大好きな人の胸の中で、先ほどの仲違いの事など忘れて、また会えた事の幸せを噛みしめる。

辺りはまだ騒がしかったが、そこだけが静かに時間が流れていた。

 

 

街にはまだ幾人かのスピリットの気配を感じるが徐々に少なくなりつつある。

倒されたのか、シン達の時のように退いていったのか。おそらくは、後者であろう。

しかしまだ一つ大きなオーラが残っているようだ。

「このオーラは、以前感じた事があるな・・・・。」

ヘリオンとの再会を終え、その大きなオーラの場所に向かう。

近くにはユート達もいるようだ。

「どうしたんですかシン様?」

後ろからついてくるヘリオンが聞いてくる。

「いや、なんでもない。急ごう!」

(これは・・・・、この感じは・・・・漆黒の翼・・・ウルカ!)

かつて剣を交えた事のある強敵。

今一度剣を交える事になるのか・・。

 

もう直ぐでつくと思ったら、大きなオーラは詰め所の方へ離れていく。

近くにあったユート達の神剣の気配も、それを追うように詰め所のほうへと移動していく。

「ヘリオン!詰め所だ!」

「はい!」

短く受け答えをして、方向変換する。

走る。

走る。

走る。

そろそろ館に着くといったところで、詰め所の上空に人影が見える。

ウルカだ。

そしてその腕の中には・・・・カオリがいる。

「捕まったのか!?まずい!」

シンがそう言ったのと同時にウルカとは別の巨大なオーラが発露する。

嫌な感じのするオーラだ。このオーラも以前感じた事がある。

(『いけません。【求め】の主が【求め】に飲まれようとしています。』)

「またかっ!」

しかし当然と言えば当然なのかもしれない。

何よりも大事なカオリが捕まった事で、心の抑制が外れてしまったのだろう。

だがこのまま、その巨大なオーラでウルカを攻撃してしまえば、カオリも無事ではすまないだろう。

どうやら我を忘れて、そんな単純な事も忘れているようだ。

 

ようやくユート達の下へ到着する。

「シン様!」

エスペリアがこちらを見る。

そして、

「早くユート様を止めてください。【求め】が・・・・・、このままではカオリ様まで!」

悲痛な叫びでシンに声をかけてくる。

「分かってる!」

そのままユートもとへ走り寄る。

ユートの足元には、直径二十メートルにも及ぼうかという、巨大な魔方陣が展開されている。

その魔方陣からは青白いオーラが立ち上っている。

今にもウルカに向かって飛んでいきそうな勢いである。

「殺す・・・・・【誓い】を・・・・・瞬を・・・・・!!!」

青白いオーラがユートを包み込んでいく。

「やめろっ!!ユート!!」

後僅かでユートに届く。走りながらシンも【真実】から力を引き出す。

「瞬の・・・・・・【誓い】の手先・・・・・消滅しろぉぉぉぉおお!!!!!」

ユートはそう言って右手を天高く上げる。

上げた手にすべてのオーラが収束していく。

だが手を上げてる分、銅はがら空きだ。

シンがそのユートの懐に入り込む。

「はぁぁぁ!!白蹄!!!」

ズドンッ!!

ユートが攻撃するよりも僅かに、シンの攻撃が早く決まった。

「うっ!・・・・・・・」

シン攻撃をまともにくらって、地面に倒れこむ。どうやら気絶したようだ。

それと同時に魔方陣も消滅する。

「お兄ちゃーん!」

上からカオリの声が聞こえる。

その声に上を見上げるシン。

ウルカと目があう。

「貴殿は・・・シン殿でしたな。お心遣い感謝する。」

「お前のためにこうしたんじゃない。カオリちゃんを傷つけないためだ・・・・。」

「安心されよ。この娘は無事だ。」

「カオリちゃんをどうするつもりだ?」

「この娘は頂いていく。我が主の命によりな。」

「・・・シュンだな。」

この世界でカオリに執着するヤツといったら、ユートとシュンしかいない。

「貴殿との剣舞に興じたいところではありますが、任務ゆえこれで失礼する。」

ウルカはその答えずに、少しずつ離れていく。

残念だが飛んで逃げられたらどうしようもない。

暫くこちらを見ていたウルカは、身を翻し南へと飛び去っていった。

「こんのー。カオリを返せー。」

オルファが叫んで詠唱を始める。

「【理念】の主たるオルファが命ずる。オーラを・・」

「いけませんオルファ!神剣魔法ではカオリ様まで傷ついてしまいます。」

エスペリアが慌てて止める。

どうする事も出来ない歯がゆさに皆、悔しそうに顔をしかめた。

 

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街はしばらくして落ち着きを取り戻し始めた。

あの後ユートは暫くしてから目を覚ました。

気付くなり、自分を止めたシンに食って掛かった。

何故邪魔をしたのだと。

そんなユートをシンはとりあえず一発殴った。

地面に倒れたユートを見て一言、

「それで?あのまま攻撃して、カオリちゃんも一緒に殺すつもりだったのか?」

そう言われたユートは、ようやく自分のやろうとしていた事を理解した。

シンが止めてくれてなかったら、自分の手でカオリを消し炭にするところだった、という事を。

「言っただろうが。【求め】には二度と飲まれるな、と。」

その後ユートは皆に謝った後、直ぐに帝国に乗り込もうとした。

だがそれをレスティーナが止めた。

死にに行くつもりですか?と。

そしてユートに必ずカオリは助けると約束した。

ユートはレスティーナの言葉を信じ冷静になる。

今は残った戦力が王座に集められていた。

そして、ラキオス王が殺された事を語った。

 

「ですが今は、哀しむときでも、絶望する時でもありません。考えましょう。自分達のするべき事を。」

自分達のするべき事。それを考えるための時間が皆に与えられた。

ユートのするべきことはカオリちゃんを助ける事だろう。

レスティーナも何か考えがあるようだった。その眼には強い意志が込められていた。

あの日から、どれだけ成長できただろうか。楽しみである。

(そして俺のするべき事は・・・・・。)

北方五国を統一し、暫くは落ち着くだろうと思っていたが、状況がかなり変わってしまった。

旅に出るつもりだったが・・・・・。

(俺のするべき事は決まってるな・・・・。)

シンは特に悩む事も無く決意したのだった。

そして幾日かが過ぎた。

 

王座の間には前回のメンバーに加えて多くの文官たちもいる。

儀式特有のピリッとした空気がその場を包んでいる。

シンはユート達から少し離れたところに、柱を背にして立っている。

全員そろったところでレスティーナが口を開く。

「皆聞くように。・・・・父様は、ラキオス王は、卑劣なるサーギオスの間者達によって倒れました。」

皆知っている事だが、ざわめきは小さくない。

「母様をまた、父様の後を追いました。」

今度は先ほどよりかなり大きい。知らないものが多かったようだ。

(と言うか在たのか王妃は・・・・。)

見た事が無かったので、てっきりいないものだと思っていた。

「けして許される事ではありません。」

レスティーナがさらに続ける。

「この戦乱の無秩序を終わらせない限り、父様の理想は達成されないでしょう。・・・・・父様が望んだ平和な世界。それを愚かな野望のために無にするわけにはいきません!」

(「レスティーナもよく言うよな。」)

(『まったくですね。その王こそが、くだらない野望を抱き、自滅したんですからね。』)

レスティーナが、ラキオス国旗の前まで歩き、振り返る。

「ラキオス王族・・・・第一王位継承者として、此処に宣言します。本日より、ラキオス女王レスティーナとして、ラキオスを指揮していきます!!」

レスティーナのその声に歓声が上がる。レスティーナの人望は高いのだ。

「・・・・・・【求め】のユートよ。」

「はっ。」

ユートが答える。

「これからはさらに辛い戦いになるでしょう。・・・・・我々が今まで貴方にした仕打ち・・恨まれて当然です。今から言う事も勝手である事も解かっています。・・・・それでもこの世界のために、貴方の大切な人を助けるために、私に力を貸してくれませんか?」

「王女殿下。いえ、女王陛下。」

ユートがそう言ってレスティーナの眼を見る。

「俺が今までされた事を忘れる事は出来ません。・・・・・戦いたくない相手と戦わされ、望んでもいない殺し合いを強制させられた事は、決して許す事は出来ないでしょう。」

本来は許されない言葉なのだろう。辺りがざわめく。

「黙りなさい!」

レスティーナが一喝する。

「・・ですが今度は俺にも戦う理由があります。・・・・・帝国に囚われたカオリを助けるための戦いならば・・・・、その為に帝国と戦わなくてはいけないのならば、俺は自分自身のためにも戦います。奪われたモノを取り返すために・・・・・お互い力を合わせましょう。」

(うん。いいこと言うようになったなユート。これで大丈夫だな・・・。)

「感謝しますユート。」

ユートの言葉を聞いたシンは、静かに王座の間から出て行った。

 

『このまま出るのですか?』

「ああ。そのつもりだ。」

『アイサツしなくていいのですか?』

「皆に挨拶なら、ちゃんと昨日したじゃないか。第二詰め所のみんなは多少渋ってたが、ちゃんと戻ってくることを話したら、理解してくれたし。レスティーナやユート達も同じだったじゃないか。」

『そうではなくて・・・・・、解ってるのでしょう!』

色々と話をそらそうとしたがどうやら無理のようだ。

「うっ。・・・・・・解かってるよヘリオンの事だろう?」

あの後ちゃんと仲直りしたのだが、それはそれ、これはこれだ。結局旅立つ事については納得してもらえなかった。

『彼女は現在、湖にいますねぇ。』

「解かってますよ。行きますよとも。」

そしてシンは、湖に向かって歩き出した。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「・・・・ヘリオン・・・・・。」

ヘリオンの後姿を見つけ静かに声をかける。

振り返らないヘリオン。

「行くんですね?」

そのままの体勢で聞いてくるヘリオン。

「ああ。」

どう声をかけていいかわからない。

そう思っていたら、ヘリオンは急に振り返りシンに抱きついてきた。

シンに抱きついたまま口を開く。

「・・・・・私も・・・付いていこうかな・・・・。」

ボソッともらす。

「ま、待て。それは・・・。」

「・・・・・ふふ。嘘です。」

そう言って暫くシンの胸に顔をうずめる。

肩が震えている。どうやら泣いているようだ。

シンも強く抱きしめる。

「・・・・・私・・・待ってますから・・・・・。必ず、・・必ず帰ってきてください・・・・・。」

「・・・・ああ。出来るだけ早く帰ってくる。」

静かに顔をあげるヘリオン。

シンと眼が合う。その眼は涙で濡れている。

暫く見つめ合う二人。

ヘリオンが静かに眼を閉じる。

二人の顔が近づいていく。

そして、ゆっくりと二人の影が重なった。

 

 

「・・・うふふふ・・・・・・。もう直ぐですわ。・・・・・・・やっと駒がそろってきたようですね。・・・・・・それにしても、あの【真実】とは何なのでしょう?私の情報には入っていませんが・・・・・。時深が【求め】の坊やに干渉している事はわかってますが・・・・・・・。あの坊やは一体・・・・・・・。」

                                                                                      続く

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あとがき

へぇー。やっと半分くらいか?

長かったねぇ、ここまで。話数にして九。ようやく物語が一区切り付いたかなって感じだよ。

この後、番外編として、ラキオスにいた頃の日常を書くつもりでしたが、どうしようかな。早く続きを書いてしまいたいってのもあるんですよね。と言う事で、番外編は余裕が出来たらその時って事でよろしくお願いします。

さて、次回からはラキオスとは別行動とるわけですが。どうなるんでしょうね。最初に書くことは決まってるんですが・・・、マロリガン戦とどういう風に絡めていこうかなぁ・・・。

と言う事で次回からもよろしくお願いします。

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