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イレギュラーズ・ストーリー

第五章 戦場の思い


《バーンライト領》

バーンライトと開戦して、既に二週間が過ぎた。
ラキオスのスピリット隊は既にリーザリオとリモドアを落としている。
だがリモドアを落としたとき、バーンライトは首都サモドアとラセリオを繋ぐ道を開通し、そこを通って侵攻を始めたらしい。
そこで今は急いで、ラキオスを迂回し、ラセリオへと向かっている最中である。


「みんな大丈夫か?」
ラキオスのスピリット隊隊長であるユートがみんなの安否を気遣う。
みんなは無言だが、大丈夫だと言う顔をする。無傷で此処までこれたわけではないが、エトランジェやスピリット達の自然治癒力の高さに相まって、エスペリアとハリオンの回復魔法のおかげで身体的にはほとんど問題なかった。

しかしユート自身、体は大丈夫でも精神的にはかなり疲労していた。
ユートだけではない。スピリット隊も、初めての本格的な戦場の空気に触れ、精神的に疲労していた。

「ユート様。サモドア、ラセリオ間が開通された今、ラセリオがサモドア攻略の重要な拠点となります。しかしバーンライトにそこを制圧されますと、逆にラキオス攻略の拠点とされてしまいます。急ぎましょう。」
エスペリアが戦う事自体、経験不足なユートを激励する。

「ああ。みんなももう少しだけ踏ん張ってくれ。」
ユートもそれに応え、皆を激励する。

「・・ん・・。」
「任せてパパー!」
アセリアとオルファがそれに応えるように、声を出す。
他のスピリット達もそれに倣う。
そして再び足を進めじめた。


かなり時間がかかったが、暫くすると向こうの方にラセリオの町が見えてくる。
まだそれ程攻め込まれてはいないようだが、既に攻撃が始まっている。
迎撃しているのは、どうやら新しくラキオススピリット隊に配属されたスピリットらしい。
しかし二人しかいない。明らかに苦しい戦いである。
みな戦闘を前に緊張していく。

「よし。みんないくぞっ!」
ユート・エスペリア・ネリー、ヒミカ・ハリオン・シアー、アセリア・ヘリオン・オルファ。スリーマンセルで陣形を組みむ。
「・・・ん・・いく!・・・」
敵側のスピリット達を発見し、アセリアの一撃を皮切りに戦闘が始まった。

その頃シンは、新しく配属されたスピリットの所へ救援に向かっていた。
「大丈夫か!」
迎撃していた二人のスピリットに声をかける。
「・・・大丈夫です・・・。」
抑揚の無い声でレッドスピリットの女性が答える。
「・・・私も問題ないわ。」
もう一人のブルースピリットの女性が毅然として言う。
「よし。じゃあ、迎え撃つぞ。」
再び攻撃を仕掛けて来た敵を迎え撃つ。
シンは防御役に徹する。ブルースピリットとレッドスピリットではどちらも守りには不向きだ。

向こうの方でも、戦いの音が聞こえるが、どうやらそれ程多くの敵が攻めてきてるわけでは無いらしい。
次第に、争う音は小さくなっていった。
一時間ほど経過すると、戦う音は完全に消えていた。
敵は引き返したようだ。どうやら今回は守りきれたらしい。

「ふぅー。何とか守れたな。」
一人事のように呟く。それから一緒に戦った二人のスピリットの方を向く。
「俺はラキオス遊撃隊の、【真実】のシンだ。見ての通りエトランジェだ。」
二人に自己紹介する。
「・・・・【消沈】のナナルゥです・・・。」
やはり抑揚の無い声で声で答える。
(アセリアに似てるな。しかし、アセリアとは雰囲気が違うな。)
確かにアセリアに似ているが、雰囲気はだいぶ違う。
アセリアは、余計な事を喋らないだけで感情が希薄なわけではない。
だがナナルゥは感情自体が希薄な感じだ。
(こういう性格なのか。神剣に飲まれかけてるのかだな・・。)

「【熱病】セリアよ。」
こちらの方は、ツンとした物言いだ。どうやら馴れ合う気はないらしい。
後で判ったが、隊長であるユートに対しても、ツンとした態度は変わらず、敬語は使うが義理程度のものである。

「まっ、よろしくな。」
癖のある二人だが、何はともあれヨロシクしておく。
「・・・はい・・・。」
「・・ヨロシク。」
(うーん。実に冷めてるね。まぁ俺の言えた義理ではないけど。)
「向こうにスピリット隊がいるから、挨拶してくるといい。」
取り敢えず、ユート達と面会わせさせるため言う。
「・・・分かりました・・・。」
「・・・ふぅー。分かったわ。」
そう言ってユート達のいる方へと歩いていった。

二人の新しいスピリットとの挨拶も終わり、既に日が沈んでいた事もあり、その日はそのままラセリオで一泊する。
翌日、ラキオスのスピリット隊は再びサモドアに向けて侵攻を開始した。

ラセリオ、サモドア間は山に囲まれた街道となっている。
シンはスピリット隊からは僅かに距離を置き、少し高くなった崖の上を歩いている。

途中敵スピリットが襲ってきたが、一・ニ部隊程度で、大した被害も無く撃退していた。
しかし、どうやらアセリアが無茶し過ぎるらしく、その度にユートが注意をしていた。
だが当のアセリアは、聞いてるのか聞いてないのかよく分からない顔をしており、あまり気にしてないようだ。次の瞬間には再び敵に向かって飛び込んでいっている。
ユートも気が気でないだろう。

(まっ、アセリアの腕なら問題ないだろうけどな。敵さんも少ないし。)
スピリット隊の中では一番の剣の腕を持つアセリアである。
余程の事がない限り大丈夫だとシンは思っている。
そして実際サモドアに着くまで、アセリアは危なげなく進んで行ったのである。

サモドアの城壁が見えてくる。
さすがに首都。スピリットも多数いるようだ。肉眼でもそれが確認できる。
城壁の前には数部隊のスピリットが神剣を持って立っており、城壁の中からも、多くの神剣の気配が感じられる。

「よーし。みんな行くぞ!此処を落とせば俺達の勝ちだ。気合をいれろっ!」
ユートの声を聞き気を引き締めるスピリット達。
「・・ん・・行く!・・」
再びアセリアの一撃を皮切りに、バーライト戦、最後の戦いが始まった。


「うぉぉぉー。」
「・・抵抗しても・・・無駄・・。」
「このくらいの力なら!」
「パパの敵、だよね・・・。オルファみんなやっつけちゃうよ。これ、あっついんだからぁっ!ふぁいあぼーる!!」
「えーい。」
「いきますっ!」
「癒しを・・・アースプライヤー!」

戦いが始まり、既に四半日近くが経っている。
そこかしこで戦闘の音が聞こえる。
敵の数は多いようだが、力はそれ程でもないようだ。
ラキオス側へと形勢が傾いている。
リーザリオでもリモドアでも敵の数は多かったが、力自体は大した事無かった。
帝国が後ろ盾として存在しているらしいが、積極的な介入はないようだ。



その頃シンは、皆から少し離れたところで様子を見ていた。
何かあれば直ぐにとんで行ける距離だ。

シンも何度かスピリットと剣を交えている。
どのスピリットも神剣には飲まれておらず、どの子もヘリオンより少し若いくらいの子で、実戦経験は少ないのだろう、緊張した動きで僅かに震えながら戦っていた。
勿論シンは積極的に戦う事はせず、'白蹄’で動きを封じ、神剣を奪って戦闘を終わらせていた。
神剣がなければ戦う事は出来ないだろう。
神剣を奪われたスピリットの少女達は、止めを刺さないシンに戸惑いを覚えつつも、戦場を離れていった。
神剣を失くしたスピリットがどう生きるか心配ではあるが、そこまで世話は焼けない。
どこかでヒッソリと暮らしていくのだろうか。
レスティーナの理想さえ叶えば、コソコソ隠れて暮らす必要もないのだが・・・。



「うーん。今回も大丈夫かな。」
『そうですね。総合的にみても、ラキオスのスピリット隊の方が幾分上ですね。』
シンと【真実】は客観的にみて、判断する。

サモドアを攻め始め、既に半日近くが過ぎている。
今のところラキオススピリット隊に致命的な被害は無く、このままなら後僅かでサモドアを落とせるだろう。

「・・・・ヘリオンは今回も大丈夫そうだな。」
バーンライトとの開戦前夜、殺し殺される事に悩んでいた彼女も、どうやら防御役に徹してるらしく、あまり刀を抜く事は無いようだ。


『シン。神剣の気配が近づいてきます。・・・・この感じは・・恐らく既に神剣に飲まれているでしょう。』
【真実】が警告する。
シンがそれに応える前に、一体のレッドスピリットが姿を現した。
その眼には光が無い。ハイロウも黒く染まっており、神剣に飲まれているのは間違いないようだ。

「むっ・・・。こいつ・・・・。」
少女から発せられる、神剣の波動の強さはなかなかのものである。
一人で行動してる事自体、力に自身がある証拠とも言える。

「おい!俺は無駄な戦いをするつもりはない。大人しく引いてはくれないか?」
無駄だと分かりつつ、それでも聞く。
しかし、
「・・・・殺す・・・。」
少女はいきなり切りかかってくる。
ギンッ!
それを受け止める。
なかなかの速さだ。しかも重い。
「生憎だが殺されてやる訳にはいかん。」
(やっぱり、駄目か・・・・。)
受け止めたまま、律儀にも返事を返し、そのまま前蹴りを繰り出す。

スピリットはその蹴りを難なく後ろに飛んでかわす。
「・・・マナよ。火球となりて、敵を討て・・・・ファイアボール・・・。」
シンから距離を置き、神剣魔法を何の抑揚もないまま唱える。
「オーラよ。その形を変え、弾丸となれ。・・フォース!」
シンも神剣魔法で対抗する。
突き出された左手から、圧縮されたオーラフォトンが打ち出される。

ドォーーーン!!!
ファイアボールとフォースはお互い相殺し合って、爆発を引き起こす。
辺り一面粉塵が舞い上がる。
どうやら余熱で火傷をしてしまった様だが気にしない。
煙にまぎれて、【真実】の気配を消し、素早くスピリットの側面に回りこむ。
相手は神剣に飲まれてるせいか、完全に気配を隠す事は出来ないようだ。

煙のせいで目標を見失ったスピリットは、表向き何の変化も無い様だが、その気配は明らかに狼狽している。
煙が徐々に晴れていく・・。

「・・・終わりだ・・。・・・画竜点睛の突!」
煙が晴れきる前にスピリットの側面から、シンにとって唯一とも言える、必殺の一撃を繰り出す。
ギンッ!ドスッ!
高速回転させながら突くその技は、スピリットが受け止めようとした剣さえも弾き返し、そのままスピリットの体を貫いた。

もはやスピリットは息をしていない。
そしてその体は金色のマナとなって空へと霧散していった。
「・・すまない・・。」
懺悔の念からその言葉を口にする。
神剣に飲まれ人形として生きていくよりは、と思い、今までも命を絶ってきた訳だが、やはり気分のいいものではない。
その場を離れ、ユート達と合流するべくサモドアへと向かう。


先に合流したのは、第二詰め所のみんなだった。
向こうの方では、地面に膝をついているアセリアに、手を差し伸べているユートの姿が見受けられる。
何事か話しているようだが、此処からでは聞こえない。二人の顔を見る限り、大事な事のようだ。
その後ろではエスペリアに挨拶しているナナルゥとセリアの姿が見受けられる。

「みんな大丈夫か?」
皆に声をかける。
「はい。みんな無事ですシン。皆多少の怪我はありましたが、ハリオンに癒してもらいました。」
ヒミカが代表で報告する。
「そう言うシンこそ大丈夫なの〜?」
ネリーが逆に聞いてくる。
大丈夫だと言おうとした時、
「あらあらあら。シン君こそ火傷してるじゃないですかぁ〜。」
ハリオンがめざとく火傷を発見する。
どうやらシンの事はシン君と呼ぶ事にしたらしい。

「えっ!大丈夫ですかシン様〜?」
ヘリオンが心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫。大した事無いさ。」
実際のところ大した事無い。しかし、
「あらあらあら。いけませんよぉ、ちゃんと治さないと・・・・・・えいっ!」
「「「「あっ!!」」」」
いきなりシンの顔を自分の胸にうずめるハリオン。
他の四人が叫ぶ。
当のシンは、
「モガッ・・。」
(ば、ばかな!?こんなあっさり顔をとられるとは・・・何者だハリオン。)
どうでもいい事を考えつつジタバタするシン。
(む、胸が・・・・ふよふよしてる・・・・むぅ・・・。)
ヘリオン、ネリー、シアーの年齢的に無理な三人は勿論、スレンダー系のヒミカにも出来ない芸当だ。
「あばれないでください〜。・・・アースプライヤー。」
何事かと思ったがどうやら治癒してくれるらしい。
(・・・あったかい・・・・いろいろと・・・。)
暫くしてシンを解放するハリオン。
「はい。終わりですよぉ〜。」
色んな意味で癒されたシンはご満悦だ。
(『・・・サイテーです。・・・説教ですね。』)
(「ば、ばかな!俺のせいなのか?・・お願い、説教は勘弁して・・。」)
【真実】からの一言に、冗談ではないとばかりに言うシン。
(『いいですか?・・・つまり・・・・、ですから・・・・、・・・・なんですよ。聞いてますか?』)
始まってしまった。
(勘弁してくれ・・・・。)


ユート達と合流した時、既にバーンライト首都サモドアには、ラキオスの兵士達が集結しつつあった。

「どうやら大丈夫なようだなユート。」
「ああ・・。でもやっぱり、いい気はしないな・・・。」
崩れた瓦礫を見ながら、ユートはポツリと呟いた。
カオリを守るためとは言え、何人ものスピリットを切ったのだ、いい気がするわけが無い。

「そう・・・・だな・・。」
シンも先ほどの戦闘を思い出し、眉をひそめる。

「エスペリア達も無事か?」
ユートの後ろに控えていたエスペリア、アセリア、オルファに声をかける。
「・・・ん・・平気だ・・。」
「オルファは大丈夫だよ。シンお兄ちゃん!」
アセリアらしく、オルファらしく答える二人。
「わたくしも大丈夫です。シン様こそ一人で戦われていたのでしょう?お怪我はありませんか?」

どうやらエスペリア達三人は気づいていたらしい。
まぁ、あれだけオーラを放出すれば当たり前なのだが。
しかしユートは気づいていなかったようだ。
【求め】自体にまだ不慣れな事もあるのだろう。

「ああ、問題ない。大丈夫だ。・・・・・・ハリオンに治してもらった。」
大丈夫だとエスペリアに返事を返す。

「バーンライトは落ちた。これで少しはゆっくり出来るのか?」
シンはポツリともらす。
「ハイ。ですがおそらく、近いうちにダーツィ大公国と戦が始まるでしょう。」
エスペリアが幾分辛そうな顔で答える。
「エスペリア。お前も少しは休め。バーンライトとの開戦前から無理し過ぎだ。」
シンが諭すように言う。
実際ユートに代わり実務のほとんどをこなしていたエスペリアである。
それに加えて今回のバーンライトとの戦争・・。どう考えても働きすぎだ。
「有難うございます、シン様。ですがわたくしは大丈夫です。」
にっこり微笑みながら答えるエスペリア。
「大丈夫なわけないだろう。あれだけ働いといて。ユートも何か言ってやれ。」
ユートに振り向くシン。
しかし当のユートは、
「・・・・・・・・。」
ボーっとしてるというか、虚ろな瞳でエスペリア達を見ている。
いや、僅かに笑っているようだ。口の端が上がっている。
「何、ニヤニヤしてるんだお前は。気持ち悪いヤツだな。」
シンがジト眼で見る。
「・・・っん、えっ・・・ああ、そうだな。少し休んだ方が良いんじゃないかエスペリア。」
あわてて答えるユート。
「・・・・・ハイ。ユート様がそうおっしゃるなら。」
言葉とは裏腹に険しい顔をするエスペリア。
「どうしたんだエスペリア?」
ユートが心配そうに聞く。
「いえっ。何でもありませんユート様。」
エスペリアは再び笑顔に戻った。

「ユート様、日も暮れてきました。今日はこのままサモドアに泊まり、明日ラキオスへと帰還しましょう。わたくしは宿の手配をしてきます。」
そう言ってエスペリアは町へと歩いていった。
「それじゃ、みんな!今日は疲れただろうからゆっくり休んでくれ。ラキオスに戻れば、少しはゆっくり出来ると思う。」
ユートが隊長として言葉をかける。
みんなそれに頷き、エスペリアの後を追い、ゾロゾロ歩いていった。
シンも皆に続き、宿の方へと足を進めて行った。



《ラキオス》

バーンライトを落とし既に五日が過ぎている。
シンたちは既にラキオスに戻っている。戦後の事後処理もある程度片付き、今は骨休めといったところである。
近いうちに今度はダーツィ大公国との戦争が始まる。それまでに少しでも英気を養わなければならない。

「次はダーツィか・・・。バーンライトよりも手強そうだな・・。」
『そうですね。ほぼ帝国の傀儡といって良いですからね。バーンライトほど簡単にはいかないでしょう。』
自分達の部屋でベットに横になりながら会話をするシンと【真実】。

『今回はどうするつもりなんですか?』
【真実】が聞いてくる。
「うん。今回はみんなとは別行動をしようと思ってる。」
『別行動ですか・・。何処に行くんですか?』
「サルドバルトに行こうと思ってる。同盟国である、ラキオスが戦争をしてるというのに、まったく音沙汰無しというのはおかしい。その点はイースペリアも同じ事だが、あの国はマロリガンとダーツィに囲まれてるからな、最初から援護は当てにできない。エスペリアも同じ事言ってたしな。となるとやっぱりサルドバルドはあやしい。実際不穏な動きがあるって、レスティーナも言ってた。」
『ちゃんと考えてるんですね。今まで行き当たりバッタリだったですのに。』
【真実】が意外そうに言う。
「失礼な。ちゃんと考えてますとも。」


「さて、と。そろそろ風呂に行こうか。」
既に夜の九時といったところだ。風呂が恋しくなる時間だ。
『さぁ、早く行きましょう。』
気持ちが急いている【真実】。急ぐようなイメージが伝わってくる。
「落ち着けっ。風呂は逃げん。」
苦笑しながら答える。

『いーえ。気持ちが逃げるん・・っ!?』
「っ!?」
【真実】が答えようとしたその時、強い神剣の気配が発露したのを感じた。

「これはなんだっ!近いぞ!」
『この感覚は・・・【求め】!?』
「ユートか?・・・場所は・・風呂かっ!」
今向かっている浴場から気配は漂ってくる。浴場に向かって走りだす。幸いにもすぐそこだ。
確かに【求め】の気配だがこの感覚は、
『気をつけてください。この感覚は【求め】です。』
シンは【真実】の言わんとする事を悟る。
「くそっ。まさか・・・・。」
とにかく走る。

浴場に向かっていたのが幸いし、すぐについた。
浴場の扉を乱暴に開け、脱衣所に入る。
上半分がくもりガラスの扉の向こうに、二つの人影が見える。
一人はユートだろうが、もう一人は判らない。
なにやら言い争う声が聞こえる。声からしてもう一人はヘリオンのようだ。
扉も乱暴に開け、浴場に入る。

そこには裸で、片手に【求め】を持って立っているユートが、同じく裸のヘリオンを今にも犯そうとする姿が見受けられた。
「や、止めてくださいユート様ぁ!!」
涙を一杯に溜めて、ユートから逃れようとするヘリオン。
「クックック。」
ニヤニヤと笑みを浮べるユート。
「い、嫌ですぅ!」
危険な状態だったが、どうやら間に合ったようだ。

「そこまでだっ!下がれ【求め】!」
【真実】を構え、声を荒げる。
「シン様!!」
ヘリオンがシンの姿に気づき、心底安堵の顔をする。
ユート・・・・いや【求め】もシンの方に顔を向ける。
「・・・【真実】の契約者か。」
普段のユートの口調とは全然違う。
間違いなく【求め】である。

「もう一度言う。下がれ・・・。」
今度は感情を押し殺して言う。
シンは既に臨戦態勢に入っている。動きがあれば即座に対応できる。
「汝は、この体を傷つける事が出来るのか?」
【求め】が口にする。
「・・・・・お前の人形として生きるくらいなら、この場で殺してやる。」
今まで神剣に飲まれたスピリットに対しても同様に処置してきたのだ。ユートといえども例外ではない。
「ふむ・・・・。」
何かを考え込む【求め】。
「俺の方が力は上だ。抵抗しても無駄だぞ。嫌なら今は下がれっ!」
殺気を込める。
浴場の外の方から足音が聞こえてくる。
おそらく、【求め】に気づいたエスペリア達だろう。

’・・・このエトランジェは強い。・・・妖精たちもきているな。今の我の手に余るか。’
「よかろう。今は引こう。だが我はマナを欲する。契約者を守りたいなら、我にマナを捧げよ。」
そういうと、【求め】はユートを解放した。
ちょうどその時エスペリアが浴場に飛び込んできた。

「ユート様!」
エスペリアが叫ぶ。
解放されたユートは目をパチクリさせている。
「えっ!?あれっ?なっ・・、何で俺はこんなところにいるんだ?
あれ?シン!?それにエスペリア、どうしたんだ。おっ、おい。ヘ、ヘリオン。何で裸なんだ?」
ユートも裸なのだが、とにかく訳が解らないと言った感じでアタフタしている。

「ボケこくんじゃないぞっ!ユート!!!」
そう声を荒げてユートを殴りつける。
ユートはシンの一撃をくらって浴槽まで吹っ飛び、浴槽のお湯が勢いよく弾ける。。

「なっ、なにするんだっ!」
殴られた頬を押さえながら、ユートは相変わらず訳が解らないといった感じで、浴槽の中からシンを見る。
「何をするかだと?お前は、自分がやった事を、ヘリオンにやった事を、解ってんのかっ!!」
一言一言区切りながら強く言う。そしてユートを引きずり上げ、もう一度殴る。
「シン様。落ち着いてください。」
エスペリアが諭す。

「【求め】に飲まれたんだよ、お前はっ!・・・・そしてヘリオンを襲おうとした。・・・どういう事だか解るな?」
少し落ち着き、何が起こったかを一通り説明する。


「・・・・・・・・・・・・・・。」
ユートは暫くボーゼンとする。
自分の知らない間にそんな事が起こっていたなんて。
いや知らなかったでは済まされない。
危うく、ヘリオンを襲うところだったのだ。

「ヘ、ヘリオン。」
ヘリオンの呼びかけるユート。
少しだけビクッとするヘリオン。まだ怖いのだろう。
そのヘリオンの様子にうな垂れるユート。

「・・・ごめん。謝っても許される事じゃないけど、本当に悪かった・・・。」
ユートは心底すまなそうに謝る。
「・・・いえ、大丈夫でしたから。もう・・・気にしないでください。」
涙声で言うヘリオン。
ヘリオンも【求め】のせいだという事は解っている。ユートを責めても意味はないのだと、自分に言い聞かせる。
しかしシンがそれを許さない。

「気にしなくていい訳がない!」
そう言ってユートを睨む。
「いいかユート。今度【求め】に飲まれて、同じような事になったら、その時は俺がお前を殺してやる。」
シンはユートの目を見ながら殺気を込めて言う。
「それが嫌なら、死ぬ気で【求め】に抗え!もっと心を鍛えろっ!」
「・・・・分かってる。二度と【求め】には負けない。」
ユートも強く決意する。

「さぁユート様、その格好では風邪を引いてしまいます。ヘリオンも同じですよ。」
エスペリアが促す。
ユートはそう言われて浴場を出て行く。
「ごめん。ヘリオン」
ユートは最後にもう一度謝る。

「大丈夫かヘリオン?エスペリアの言う通りその格好じゃ風邪引くぞ。」
そう言ってシンは、自分が羽織っていた服をヘリオンに着せる。
「・・・・・ありがとう・・・ございます・・シン様・・。」
ヘリオンは何とか口に出したが、もう限界だったのだろう。
両の目には、大粒の涙が今にも零れ落ちそう程溜まっている。
そしてとうとう、両手で顔を覆い、大きな声を上げて泣きはじめた。
「・・・う・・・ぅ、う・・う・・わぁ・・・ぁうああんあああんあぁあぁあんぁあぁああッッ!!」
大丈夫でした、とは言っても心までそうはいかない。

(『・・・・・・ジロっ。』)
【真実】がこれでもかというくらい、睨んでくる。勿論、神剣に目がついてる訳じゃない。それでもシンはそういう感覚に襲われた。無言のプレッシャーと言うヤツだろう。
(「わ、解ってるよ。」)
勿論シンとて、この状況でどうすればいいのかくらい、意識しなくても解る。

優しくヘリオンを抱きしめる。それだけで人は安心できるものだ。
ヘリオンも素直にそれを受け入れる。
「・・うあ・・あぁ・・あっ・・あ・・うぁ・・・あ・・・あっ・・・。」
シンの胸の中でなき続けるヘリオン。ぐいぐい顔を押し付けてくる。暫く止みそうにない。
シンはヘリオンが泣き止むまで抱きしめていた。


「もう大丈夫か?」
泣き止んだヘリオンに声をかける。
「あっ、はい//////・・・もう大丈夫です。」
慌ててシンから離れるヘリオン。
「あの・・、・・・ありがとうございました。」
照れているのだろう。モジモジしている。
「お、おう。泣きたくなったら、いつでも胸を貸してやる。」
シンも照れてるせいだろう、とんでもない事を口走っている。
「/////////」
ヘリオンもその言葉に顔を真っ赤にする。

「ほら、その格好じゃ風邪引くぞ。」
もう一度言う。
「あっ!す、すいません。む、向こうむいててくださいー。」
自分の今の姿に気づくヘリオン。慌てて脱衣所へと戻り、服を着る。
・・・・ようやく何時もの雰囲気に戻りつつあった・・・・・・・・。


《エスペリアの部屋》

コンコン。
「エスペリアいるか?」
シンはドア越しにたずねる。
「あ、ハイ。シン様ですか?」
中からエスペリアの答えが返ってくる。
「ああ。少し話があるんだが・・・、入っていいか?」
「どうぞ」
エスペリアの了承をもらい中へと入る。
部屋の作りは何処も変わらないらしい。シンの部屋とほとんど同じだ。

「悪いな遅くに。」
「いえ、気になさらないで下さい。・・・・・ユート様の事ですね?」
多分シンがくる事が解っていたのだろう。
「解ってるなら話は早いな。・・・・・ユートは前にもこんな事があったのか?」
ズバリ切り出す。
「ハイ。シン様がラキオスに来る前の事ですが、三、四度程ありました。その時も今回同様にマナが目的で、アセリア、オルファ、それにわたくしが狙われました。」
「その時は大丈夫だったのか?」
「ハイ。その時はユート様が御自分で【求め】からの干渉を退けました。・・・・・シン様がラキオスにこられた時期くらいから、ここ最近はこのような事はなかったのですが・・・。」
落ち込むエスペリア。
「・・・なるほどな。・・・今回急に現れた事の検討はつくか?」
原因さえ突き止めれば何とかなるかもしれない。
「おそらく・・・バーンライトとの戦争で【求め】のマナが多く消費されたからだと思います。陥落したバーンライト王城でユート様の様子がおかしかったので、気をつけてはいたのですが・・・・迂闊でした。」
悔しそうにするエスペリア。
「・・・そうか、あの時か・・。」
その時の事を思い出す。
「ユート様もバーンライト戦が終わって、気が抜けたのでしょう。そこをつかれました。」
「・・・なるほどな。・・よし!解った。今度からは俺も気をつけて見とく。まぁ、今回の事でユートも気を引き締めるだろうから大丈夫だとは思うが・・・・。」
「お願いしますシン様。」
頭を下げるエスペリア。
「ああ、でも今度のダーツィ戦は俺は皆とは別行動とるつもりだから、その時はエスペリア頼む。」
ラキオス副隊長であるエスペリアに今後の予定を伝える。
「そうなんですか?どうされるんですか?」
エスペリアは純粋に疑問を聞く。
「ああ、サルドバルトの動きが気になってな。調べてみるつもりだ。」
納得したように頷くエスペリア。
「解りました。こちらの事はお任せください。」
「ああ、ヨロシク頼む。」
そう言って立ち上がり、部屋を出るシン。
「じゃあ、遅くに悪かったな。おやすみ。」
「はい。おやすみなさい。シン様。」



バーンライトとの戦争が終結し、バーンライトを統治下に置き、様々な実務的な問題も処理し終えている。
ここ最近はのんびりとした空気が流れていたが、どうやらダーツィ大公国との開戦が近いようである。
ニ、三日中には始まるだろう。

シンは今回、スピリット部隊とは別行動する事になっており、その旨はエスペリアと隊長であるユートには話してある。
第二詰め所のみんなには今夜話すつもりでいる。


そんなこんなで、現在第二詰め所の居間にはみんなが集められている。
新しく入った、ナナルゥとセリアも来ている。

「と、言う事で今回俺はお前達と一緒には行かん。」
開口一番サルドバルドに行くと事を伝える。
「「「えっーー!」」」」
シアーとネリー、そしてヘリオンが同時に声を上げる。
この三人は精神的にも身体的にもまだまだ未熟だ。

事実シンに、頻繁に助けられている。
シンが一緒に行かない事が不安なのだ。
特にヘリオンは、この前の事件以来、何かとシンになついている。
一番不安を感じているのは間違いない。

「そんな顔をするな。ダーツィ戦が終わる頃には合流できるはずだ。」
頼られるのは悪くないと思いつつ、口にする。
「そ、それじゃ遅いですよぉ。」
「そうです・・・。」
ヘリオンとシアーが再び不安顔になる。
「そうだよぉ。」
ネリーも同意する。

「三人とも、俺を頼ってくれるのは非常に嬉しいんだが、頼るばかりじゃぁ駄目だ。それにヒミカやハリオン、ナナルゥやセリアもいる。一人になる訳じゃないんだ。」
三人を諭す。
「う〜、わかったよ。」
「・・・はい。」
ネリーとシアーがしぶしぶ納得する。
しかしヘリオンは、
「でも、でも・・。あう。」
一人モジモジする。
それを見てシンは、
「・・・我慢しろヘリオン。二度と会えなくなる訳じゃないんだから。・・・お互い無事に再会する。そうだろ?」
ヘリオンの肩に手を乗せて言う。
「・・・・・・・・そう・・・・ですよね。」
静かにそう口にするヘリオン。
「でもっ!・・・・・早く・・、戻ってきてください・・・。」
吹っ切るように言い放つ。
「分かってるよ。安心しろ。」
ヘリオンの頭にポンと手を置いて答える。

「みんなもこいつ等の事頼む。」
残りの四人を見ながら頼むシン。
「分かりました。任せてください、シン。」
「あらあらあら。そんなに、かしこまらなくてもいいですよぉー。」
「・・・・・・分かりました・・・。」
「はぁー。分かったわ。」
みな頼もしい返事を返してくれて、気持ちよく話を終わらせる事ができた。




二日後・・・・

ついにダーツィ大公国に対して宣戦布告がなされた。
ラキオス軍は、前回落としたバーンライト首都サモドアから侵攻を開始する事になる。
先にケムセラウトに向かい、亡命した技術者を保護する事になっている。
その後ヒエムナを落とし、ダーツィ首都キロノキロを攻める。というのが大まかな流れとなっている。

開戦から二日後ユート達、ラキオススピリット隊はサモドアからの進軍を開始した。
それと同時にシンもラキオスのラースを出ている。
表街道を通っては行けないので、街道から離れたところを移動している。

サルドバルドが何らかの企てを行っているのは、やはり間違いないらしい。
レスティーナが出発する前に言っていた。
急がなくてはいけない。


「ラースを出て三日か・・・。」
シンがポツリと口にする。
今はアキライスの南に広がる平原を、真西に向かって突っ切っている。
足場は悪いがそれが一番近い。

『・・・気になりますか?』
「・・・・ああ。」
何がとは聞かない。分かりきってる事だから。
『今はヒエムナとケムセラウトを攻めてる頃でしょうか。』
「・・・・・・。」
『シン?』
「・・・・・・いかん。どうも気になってしまう。」
珍しく動揺する。
『珍しいですね。貴方がそんなに落ち着かないのは。』
【真実】は意外だとばかりに言う。
「・・・自分でも不思議なくらい落ち着いてないな。」
自分の目の見える範囲に彼女達が居ないって事が、こんなにも苦しい事だとは思わなかった。
彼女達が一緒に居なくて一番不安なのは自分ではないか。
そういう考えが頭の中を駆け巡っていた。

『ほらっ。それでしたら、急ぎましょう。さぁ、歩いて、歩いて。』
「そうだな。うじうじ考えてたって仕方ない。さっさと用を済ませて帰るか。」
用を済ませなくとも、別に今すぐ帰っても構わない。何せ自由行動であって強制ではないのだ。
帰ったからと言って、怒るやつは居ない。
だがシン自身の願望として、もっと色んな事を見たい、知りたいと言うモノが在る。
それは何事においても優先させるものであって、今回サルドバルドの来たのも、七割方その意味合としてのモノが強いのだ。
しかしシンはそう解っていても、自分自身の焦る気持ちを、暫くの間抑える事ができなかった。
シンはこの世界に来た時とは少しずつ変わってきていた。


《サルドバルト首都》

ラースを出て一週間でシンは、サルドバルトの城下町に来ていた。
城下町とは言っても、町外れを歩いていおり、人影はほとんどない。
サルドバルト城に忍び込む必要はない。
ここからなら遠見の力が使える。

「さてと。それじゃあ始めるか。」
そう言ってさらに人ごみから離れ、路地に行く。
地面に座り込み、布にまいていた【真実】を取り出す。

目を瞑る・・・。
次第に【真実】が淡く光り始める。
遠見の能力が発露したのだろう。瞼の下では目が何かを探すようにキョロキョロ動いている。
やがて目的のものを見つけたのか、目が動かなくなる。


《サルドバルト王城》

「・・・・それで、サルドバルト王よ、決意は固まりましたかな?」
一人の男がサルドバルト王に向かって問いかける。
年は三十後半といったところだろうか。ニヤニヤしたその表情は、相手を品定めするかのようだ。
周りには三人のスピリットが控えている。
神剣に飲まれてるのだろう。その瞳には生気が感じられない。

「我がサーギオスが、貴国に力を与えるのですよ。龍の魂同盟も今は名ばかりのもの。このままラキオスが力をつけ続ければ、必ずや龍の魂同盟もラキオスによって支配されるでしょう。」
男がニヤニヤしながら言う。
「むぅー・・・・・・。」
サルドバルト王がう唸る。
「今まで、貴国は龍の魂同盟によって守られてきています。それを自分達の力で守りたちとは思いませんか?我がサーギオスが力を持ってすれば、それも可能なのですよ。」
されに続ける男。
「このままでは、サルドバルトはラキオスにとってかわられる事でしょう。あのラキオス王の性格を考えれば解る事です。」
「むっ!」
その言葉にハッとするサルドバルト王。
確かにラキオス王は自分の欲のみを追求するような浅ましい王だ。
このまま力をつければそうなる可能性は高い。
「確かに、あのラキオス王ならやりかねんな・・・・。」
サルドバルト王は決心する。
確かにサーギオス帝国が力をくれるなら、ラキオスを出し抜く事も可能だ。
そうすればサルドバルト王国、引いては自分が支配者となれる。

「よかろう。・・・わがサルドバルトは龍の魂同盟を破棄する。そして神聖サーギオス帝国と軍事同盟を結ぶ。」
きっぱりと宣言する。
「ソーマ・ル・ソーマよ。この意向はすぐさま帝国に伝わるのだろうな?」
「もちろんですよ。サルドバルト王国との外交権限は全て私が握っております。今の誓約を持って、我がサーギオスはサルドバルト王国に力を与えましょう。」
ソーマがニヤニヤしたまま言う。
「うむ。」
サルドバルト王が頷く。
「しかし、このままではラキオスと一戦交わすには少しばかり、マナが足りませんね。・・・先にイースペリアを攻めては如何ですか?」
ひょうひょうと意見するソーマ。
「しかしあの国は守りが堅い。わが国にはそれを破るだけのスピリットはおらぬ。」
「ご安心を。被害が出てもサーギオスがスピリットを補充しましょう。」
「それは助かる。」
満足そうに頷くサルドバルト王。
「そうと決まりましたら、早速準備を始めて下さい。わたしもスピリットの補充の準備をしてまいりますので。準備が終わり次第、イースペリアに向かうといいでしょう。では失礼しますよ。」
ソーマはそう言ってスピリット達と部屋を出て行く。

「ふっふっふ。この北方を統べるのは、我がサルドバルトだ・・・。」
残されたサルドバルト王は一人満足げに笑っていた。



「サルドバルトと帝国が同盟を結ぶか・・・。怪しいとは思っていたが帝国がついていたのか・・・。」
シンは目を開けて呟く。
『どうしますか?』
「取り敢えずラキオスに戻ろう。どうするかは、俺の決める事じゃないしな。」
予想以上に早く情報を掴めてラッキーだった。
「ユート達は今頃ヒエムナに進攻してるぐらいだろう。ラキオスに帰る頃には落としてるはずだ。」
『その頃にはサルドバルトもイースペリアを攻め始めると思いますよ。』
【真実】が言う。
「だな。ラキオスに戻って、情報を伝えたら俺もイースペリアに向かう。上手く行けばユート達と合流できるかもしれん。」
『そうですね。』
【真実】も相槌を打つ。
「よっしゃ。んじゃ急いで戻るぞ!」
『わかりました。』



《ヒエムナ》

ユート達は二日前にヒエムナを落としていた。
これで残りはダーツィ首都キロノキロだけである。
今は行軍の疲れを取っているところだ。明日にはキロノキロへの進攻が始まるだろう。

「明日はいよいよキロノキロを攻める事になるのかぁ。」
一人呟く黒髪の少女。
「キロノキロを落とせば、ラキオスに帰れる。そうすればシン様に会える。」
嬉しそうに呟く。
「・・・・・・シン様大丈夫かなぁ。」
今度は不安そうに呟く。
「・・・シン様なら大丈夫だよね・・・。・・・お互い無事に再会するって約束したし・・・・。」
それでも不安な気持ちは拭えない。
そんな思いを抱えながら眠りにつく少女。
明日はまた戦場である・・・。


カンカンカン
けたたましい音が宿営地を駆け巡る。
「なんだっ!」
ユートは急いで確認する。
向こうからエスペリアが走ってくる。
「何があったエスペリア?」
「ユート様。先ほどラキオスから情報が入りました。サルドバルト王国が龍の魂同盟を破棄し、サーギオス帝国と同盟を結びました。」
厳しい顔で報告するエスペリア。
「なんだって!?」
驚愕の表情を浮べるユート。
サルドバルトが帝国と手を結んだとなると、直ぐにでもラキオスを攻めてくるかもしれない。今ラキオスにスピリット隊は居ないのだ。
戦場に巻き込まれるカオリの姿がよぎる。
「サルドバルトの動きは?」
ユートが厳しい顔で問いかける。
「サルドバルトは現在イースペリアに向かって進攻を開始したとの事です。我々は急ぎキロノキロを落とし、そのままイースペリアへ向かえとの命令が届いています。特別指令になるそうです。」
「そうなのか。わかった。いそいで皆に準備をさせてくれ。準備ができ次第、キロノキロへ向かおう。」
「わかりました。」
エスペリアは短く返答し、足早に飛び出ていく。
最悪の事態は無かったが、それとて時間の問題だ。それにイースペリアを見捨てる事はできない。
エスペリアに素早く指示を出し、自分も準備をし始めた。



《ラキオス》

「エトランジェ、シンよ。よく情報を掴んできてくれました。先ほどヒエムナに滞在中のスピリット隊に早馬を走らせました。」
レスティーナがシンの持ち帰った情報を聞いて礼を述べる。
表情は硬いが、口調は柔らかい。

以前レスティーナと話してから、彼女は変わりつつある。
自分の力の無さを実感したのか、どうやら色々と画策しているようである。
最近はエーテルの事を調べてると言っていた。
そしてシンに対しても、口調や態度が柔らかくなったような気がする。


「エトランジェよ。お主もイースペリアの救援に向かってくれぬか。イースペリアは同盟国。見捨てるわけにはいかん。」
今まで黙っていたラキオス王が話し出す。
「・・・・・そのつもりだが・・。」
王の言葉に、腑に落ちないシン。
言ってる事は至極まともな事だが、ラキオス王がそんな器だとは到底思えない。
性格から考えて、イースペリアを助けてあげてくれ、などという言葉が出てくるのが信じられない。
「・・・・・・・。」
レスティーナも同じように考えてるようだ。王を見て考えるような顔をしている。
もっとも王の態度が変だろうがイースペリアに向かう事にかわりはない。

「・・・では、俺は早速行ってくる。」
考えながらもそう行って出て行くシン。
「待ちなさい。」
レスティーナが呼び止める。
「新しく配属されたスピリットが二名います。一緒に連れて行くと良いでしょう。」
「わかった。」
短く返事をして部屋を出る。

部屋を出るとそこには二人のスピリットが待っていた。
「ん?君達が新しく配属されるスピリットか?」
二人に問いかける。
「はいそうです。私は【月光】のファーレーン。ファーレーン・ブラックスピリットです。よろしくお願いします。」
「【曙光】のニムントールだよ。ニムントール・グリーンスピリット。お姉ちゃん共々よろしくね。」
自己紹介をする二人。
「おれは【真実】のシンだ。スピリット隊ではないが君達と行動する事は多いと思う。ヨロシクな。」
簡単に自己紹介をする。
「時間が惜しい。早速だがイースペリアに向かおうと思うがいいか?」
二人に問いかける。もっとも駄目だと言われても行くわけだが・・・。
「はい。私は構いません。」
「私も別にいいし。」
二人の言葉を聞き早速イースペリアへと向かう三人。
ユート達とも合流できるだろう。


「父様。」
厳しい顔でレスティーナがラキオス王を見る。
「ダーツィから撤退させるのならともかく、敵の集結しつつあるイースペリアに兵を向かわせるのは、いくら龍の同盟とは言え無謀です。サルドバルトの背後には帝国がいるのですよ。今は守りを固める時、明らかに戦力不足です。・・・貴重なスピリット達を・・。」

「イースペリアに各国のスピリット達が集結する。それに意味があるのだ。」
ニヤニヤ笑いながら言うラキオス王。
「どういう意味ですか?・・・・イースペリアに何が・・・・・・、ま、まさか!」
しばし考えた後、ハッとした表情になり父王を睨む。
それは実の父に対するものではない。憎しみに近い感情が込められている。
「我がラキオスが北方を治めるのだ。多少の犠牲など大した問題ではない。」
さも当然の様に言い放つ。
「その場にはエトランジェ達もいるのですよ。」
「【真実】のエトランジェさえ消えればよい。あの者がいなくなれば動きやすくなる。例え【求め】エトランジェが消えても【求め】さえ回収できればよい。エトランジェはもう一人いるではないか。」
「人のやる事ではありません。」
レスティーナは感情を殺して呟く。
だがそれを気にする事も無く、王は上機嫌に答えた。
「これで生き残れるものならば、それなりの対偶を用意しようではないか。ハッハッハッハッハッハッハ。」
謁見の間には王の高笑いが響いていた・・・・。

                                                         

「・・・・さて、何が起こるのかな・・。どうやら何かたくらんでいる様だが・・・・。」
シンが小さく呟く。
遠見の能力を使い、謁見の間の様子を伺っていたのだ。
(『狙われてるのは判ってましたが、今回はあからさまに言葉にしましたね・・・。』)
シンの独り言に【真実】が答える。
(「ああ・・・。どう考えても、あの態度はクサイと思ってたが、俺を始末する事を考えてやがったのか。それにスピリットのみんなも巻き添えにして・・・・。その為にイースペリアを利用しようとしてるのか・・。・・・・・いい根性してるぜ・・。」)
苦々しく笑う。
そうされても、おかしくないような態度をとってきたのだから、今更怒りを感じる事はない。
しかしそれが、他のみんなを巻き添えにして、というのが気に入らない。

やはりこの王に任せていては駄目だ。
このままじゃ近いうちに必ずラキオスは滅びる。
別にラキオスが滅びようが知った事ではないが、ラキオスには仲間がいる。みんな大切だ。
それにレスティーナの理想はシンにとっても、是非実現して欲しい事なのだ。
その為には、やはり現ラキオス王では駄目だ。
その事を強く認識する。


「どうかしましたかシン様?」
ファーレーンが押し黙っているシンに声をかけてくる。
「ん?あ、ああ何でもない。考え事してただけだ。・・・・急ごう。」
慌てて取り繕う。

これから向かうイースペリアには自分にとって危険な事が待ち受けているだろう。
それは皆にも同じ事だ。
それでも、お互い無事に再会すると、約束したのだ。
無事に再会しないと、またあの黒髪の少女が泣くかもしれないではないか。
そんなのはお断りだ。

そう思いながらシン達三人は急いでイースペリアに向かうのだった。




                                                            続く

あとがき
第五章アップです。
本格的にヘリオンルートになってきたなぁ。当初はまったく考えてなかったんだが。しかもユートが少し鬼畜ルートはいりかましたね。このあとユートはどうなる事やら・・・。
次回は、カオリと会話させるつもりです。
それで一応ラキオスキャラは一通り出す事になるのかな。
取り敢えず北方戦はあと二回くらいで終わるつもりです。間にサイドストーリーとか入れてみたいなぁ。
次でイースペリアをやって、次はサルドバルトとその後をやって。それが終わったらサイドストーリーとか。
という事でこれからもヨロシク。

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