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この手翳して、空に望みを 

第二章 平穏な日々と、ある兆候


前編 彼の一日


謁見の日より数日後...

「むー、早くここに馴染めるようにするには...やはり手伝いが基本だろうか...」

 スピリットの館、悠人達のいる第一詰所の廊下でリスフィリアは悩んでいた。

 自己紹介の時に気安く「リア」と呼んでくれと言い、愛称は覚えて貰えたと思う。

 他のスピリットの自己紹介に対しても特に問題はなかったはず。

 しかし、一部のメンバーを除いて皆とはまだ壁がある。

「そう簡単に馴染めはしないか...うーむ...とりあえず外に出て考えてみるか...」

 独り言を言って外に出ると、エスペリアが洗濯物を干しているのが見えた。

「エスペリア、何か手伝えることはあるか?」

 早速問いかけてみる。が、

「いえ、お気になさらず。これは私の仕事ですので」

「そうか...頑張ってな...」

(......うぅ)

 彼の策は最初から躓いた。

(第二に行くかね...)

 彼が歩いていると赤色が目立つ子供、オルファがやってきた。

「あれ?リア出かけるの?」

「ああ。第二詰所に行ってくる」

「は〜い。いってらっしゃ〜い」

 ビシ!と手を挙げて挨拶らしきものをしてオルファは館の中へと入っていった

 それを見届けた後外へと向けて歩きだす。

(ふぅ...今のここはちょっとな...)

 気安く話せる悠人は訓練に行って不在。

 エスペリアとはまだ信頼関係が築けていないのでちょっと話しにくい。

(たまに睨んでるしなぁ...)

 オルファは壁と感じるものはないがなんというかペースについていけない。

(あのテンションにはついていけん...)

 アセリアは...何を考えてるかわからない。

(あの子は...苦手だ...会話が成立せん...)

 というわけで、彼は暇な時に悠人がいない場合外をぶらつくことにしている。

(第二の人の中にはもうオレを受け入れてくれた人もいるんだけどなぁ...)

 その受け入れてくれた人とは...

 ネリー・シアー・ヘリオン・ハリオン・ヒミカ・ナナルゥの六人。

 ネリー・シアー・ヘリオンの三人は純粋なのだろう。紹介された時に

 一番早く接触を試みてきたのである。

(鉄砲玉と恥ずかしがりや、そして礼儀正しい子、だな)

 ハリオンはおそらく誰にでも分け隔てなく接するのだろう。

 緊張気味のリスフィリアに笑顔で話しかけた。

(彼女の配慮はありがたかった...)

 ヒミカは少し警戒心はあったみたいだが、悠人の援護やエスペリアとの模擬戦(結構本気だったが)

 の話をきっかけに少し心を許してくれたようだった。

(あのさっぱりとした物言いには共感できるな)

 ナナルゥは...悠人の言葉に従ったのだろう。リスフィリアには彼女の自我が希薄に思えた。

(神剣に...飲まれているのか...?)

 それ以外の人達とはまだ会話らしい会話はない。

(他の人達ともどうにかして信頼関係を築きたいな...

 ま、なんとかなるだろう.........なるといいなぁ...)

 結局、そこで思考を打ち切り、詰所のドアをノックして

「こんにちわー。ハリオンさん、遊びに来ました」 

「はい〜。お待ちしておりました〜どうぞ〜」

 戦争の間の一時。彼はまだラキオスでの実戦経験は無いが

 この平和が儚くも美しいものだと感じていた。

(こんな時間が続けば...あんな...いや、よそう

 さて、今日も元気に過ごしますかね!)

 穏やかな日々は、確実に過ぎ去ってゆく...その先に見える戦いへと。

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中編 訓練の日、誰も気付かぬ異変


「いくぞ!リア!」

 ラキオス城内、修練場。

「いつでも!」

 そこで悠人とリスフィリアの二人が訓練をしていた。

「うぉぉぉぉっ!」

「フ...遅いな」

 ヒュッ!ブンッ!

 リスフィリアは飛び退き、悠人の一撃は空を斬る。

「ちっ!」

「今度はこちらからだ!抜刀...一閃!」

 ヒュ...ヒュン...ヒュッ!

 リスフィリアは一歩ごとに方向を変え、悠人の集中を乱す。

「集中して...こっちだ!」

「居合の太刀!」

 ビュォッ!ガキィン!

 その一閃は悠人の「求め」によって受け止められる。

「む...ならばっ!」

 ヒュ...ダンッ!

「今度は...こっちだ!」

 ヒュォ...キィィィン!

「...ふむ...なるほどな...」

 リスフィリアは間合いを外し、納刀して構えを解く。

「...もうオレの剣に慣れてるな...直撃がほぼ無くなってきた」

 リスフィリアがやれやれ、と言いたげな仕草で溜息をつく。

「ああ。目に頼らずに感じろ、って前言っただろ?それを参考にちょっと対策を練ってみたんだ。

 感覚も大分つかめたしこれで黒スピリットの相手も大分楽になるか...

 協力サンキュー。リアの一撃は軽いから練習に最適だ」

 それに対し、悠人はニヤリと笑ってさりげなくひどいことを言う

「...それは遠回しなオレへの侮辱か...?仕方ないだろ...オレ非力なんだから...

 くだらないことばかり言っていると帰るぞ」

 リスフィリアは投げやりに返事をした。

「悪い悪い...そう怒るなって」

 苦笑いをしつつ謝罪する悠人。

「ふぅ...まあいい。んで、此処に呼んだのは何でだ?ただの訓練か?」

「ああ。違う違う。ちょっと試したい技があってさ...試させてくれないか?」

「......オイ...オレは実験台か?」

「いや、ぶっつけ本番ってのもなんだしさ」

「......仕方ない...で、オレは全力で防御してればいいんだな?」

「ああ、頼む。結構威力でると思うから」

「......」

 それを聞き少し不安になるリスフィリア。

「じゃ、いくぞ!」

 悠人は剣を抜き正眼に構える。その「求め」はかすかにオーラを纏っていた。

「!!!」

 それを見たリスフィリアは全力で守りに入る。

 だが...

(ドクンッ!)

「っがぁ!?」

 彼の体に突然異変が起きる。

(くそっ!こんな時に...く...体がいうことを...きかない...!)

 もしも第三者が居たら気付いたかもしれない。彼から感じられるマナが異常だったことに。

(ドクン!ドクンッ!)

「剣に力を...これならいける!だぁぁぁぁぁっ!」

 集中していた悠人はそれに気付かず、リスフィリアに剣を振るう...

(眠って...いろっ!)

(ドクン...ドクン......)

(よし...体が...戻った...っ!!くそっ!間に合わないか!?

 だが、直撃するわけには!くぅぅぅぅっ!)

 ドガァァァァァン!

「グァァァァッ!」

 辛うじてリスフィリアが剣を受けた瞬間に「求め」から爆発が起こり

 彼は思い切り壁へと吹っ飛ばされる。

 ドガッ!

「ぐは...」

「え...?わ...悪い!加減に失敗しちまったのか!?」

 急いで駆け寄る悠人。

「っぐ...が...」

 ドサ...

 リスフィリアは何も言えずそのまま地面に崩れ落ちた。

「うわやばっ!エスペリア!ハリオン!ニムントール!ああ...誰でもいいから来てくれー!」

 タッタッタッタッタ...

「あらあら〜、どうなされたんですか〜?」

「ハリオン!治癒を頼む...ちょっと派手にやりすぎた...」

「まぁ...リアさん...ちょっとこげちゃってますねぇ...」

「うわぁ...」

(体が...言うことを...くそ...強い力に反応したか...)

 もはやリスフィリアは声も出せない状況にある。

「とりあえず癒しましょうか〜。アースプライヤー、です」

 ハリオンが放つ緑色の光がリスフィリアの傷を癒してゆく。

(もう...限界なのか...?いや...まだだ...まだ終われない...まだ始まってさえいないんだ...)

 その思考を最後に彼は眠りに落ちた。

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後編 彼の翼

(.........)

 時刻は既に深夜。リスフィリアはラキオスそばの森の中にいた。

 彼の顔は悲しみに満ちており、悠人達の側にいる時とは全く違う表情だった。

(ここの皆は、瞳が輝いている...きっと皆それぞれの想いがあるのだろう。

 オレは...彼女の想いを引き継ぐべくここに居る...けど、それなら

 オレの想いは、何処にあるんだろう...?)

 森の奥にある大木に登り、右腕に着けた青い腕輪を左手で押さえながら、

 星の見える夜空を眺め彼は考えていた。

(...何を迷っている...オレは、彼女の望みを叶えるべく存在しているんだ...

 オレの想い...?そんなものはないに決まっている...)

 首を振り、リスフィリアが空へと右手を掲げると、彼の背中からウィングハイロゥが現れる。

(オレは...この翼に誓った...彼女の残したこの力で願いを叶えると...

 今のオレには、無理かもしれない...だけど、そんなことは関係無いんだ...

 オレは、彼女の願いを叶えることだけの為にここに存在しているのだから...)

 そして彼は刀を抜き、一振り。

 彼がこの永遠神剣の主になってから、この神剣は自分の名を告げて以降一度も話しかけてこない。

 それでも、彼はこの神剣「絶望」を信頼していた。

(彼女がオレに存在意義をくれた...彼女の為に、オレは戦う...)

 それで迷いを断ち切ったかのごとく、納刀すると彼はラキオス城に向けて歩き出す。

(だから...もう少し、持ってくれ...オレの体...)

 翼を消し、立ち止まって空を見上げるリスフィリア。

 彼は、一度もその翼を人前で見せてはいない...その翼は、

 清らかな空気に包まれた高山に降る雪のような、純白の翼だった。

(戦いが始まる...オレは...生き延びなければならない...たとえ...

 この身が闇に染まろうとも...)

 決意と願いを込めた彼の背にある翼が、右の翼しか無いことを、

 彼以外誰も知らない......


 戦いは、始まろうとしている。運命に逆らうものと、運命に飲み込まれたもの...

 そして、片翼の妖精は戦場を舞う。心に闇を抱えたまま...


続く...




あとがき

はい、どうも志刻です。PCクラッシュより無事復帰しました...

続きを待っていてくれた方、(いるのかな?)大変お待たせいたしました。

悠人との模擬戦での異変、夜の誓い、と今回は彼の秘密がメインです。

これから、対マロリガン戦が始まり、あの二人ももちろん登場します。

そこに彼がどう関わるのか、どうぞお楽しみに...


おまけ

オリジナルキャラ&神剣紹介



永遠神剣第九位「絶望」(更新)


この神剣については未だ謎が多い。

今の主が手に取った時以来、自らの名を告げる以外、一切言葉を発しない。

強制もせず、ただ黙ったままである。

戦闘において、速度増加以外の力を発揮しないため、

エトランジェや青・黒スピリットの一部(特にスピードに優れたもの)とは

相性が最悪である。

逆に、緑・赤のスピリットに対しては圧倒的なスピードで翻弄できるため

相性がいい。



リスフィリア・ブラックスピリット(更新)


永遠神剣第九位「絶望」の主。

彼の心には暗い闇が存在している。その理由は現在の所不明である。

そして、新たなスピリットとの違いが明らかに。

彼のハイロゥは右の翼の部分しかなく、空を飛ぶことが出来ない。

そして人前では絶対にハイロゥを展開しないのだ。

つまり、その足だけで驚異的な速度を発揮していることになる。

何故片方の翼しかないのかは現段階では不明。

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