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前編 スピリットの少年


「「スピ...リット?」」

「......」

「ああ」

 ラキオスのエトランジェ「求め」の悠人は戸惑っていた。

 今まで出会った全てのスピリットは皆少女、女性だった。

 しかし、目の前にいる自称スピリットは少年に見える。

 そして何より、神剣の気配が全くしない。

 そのことが悠人を戸惑わせていた。

「あなたからは神剣の気配がしません...あなたは本当にスピリットなのですか?」

 スピリット「献身」のエスペリアは警戒していた。

 目の前にいる少年はスピリットだという。

 しかし、神剣の気配はなく、伏兵の気配もない。

 それでも油断するわけにはいかなかった。

 一度サーギオスの奇襲を受けたその傷は大きく、

 そう簡単に信用するわけにはいかないのだ。

 エスペリアはいつでも斬りかかれるように構えていた。

「......」

 スピリット「存在」のアセリアはボーっとしていた。

 その顔から何を考えているかを考察することは出来ない。

 目の前の少年をただ見ていた。

「む...ならば手っ取り早く証拠を見せるとするかね...」

 そう言って少年、リスフィリアは数歩下がって腰に差していた刀を握る。

「今から少し剣の力を解放する。疑わしいと思うならエトランジェ殿を守っているといいさ」

「少しでも怪しい動きをしたら...斬ります」

「お、おい...エスペリア、落ち着け」

「しかし、ユートさま...」

「多分平気だって。アセリアだって警戒してないしさ。な、アセリア?」

「ん」

「し...しかし...」

 ラキオス勢がなにやら揉めている間、リスフィリアはほったらかしだった...

―......まだか?というかオレはもう信頼されはじめてるのか...早いな―

 暇そうに周囲を眺めながら彼はそんなことを思っていた。

「...わかりました。ユートさまがそこまで言うのでしたら...」

 どうやら結論が出たようだ。

 そして三人を代表して悠人が前に出て話を戻した。

「悪い悪い。そんじゃ、続けてくれ」

「了解した。では開放するとしようか」

 ......

「永遠神剣第九位「絶望」が主、リスフィリアが命ず...「絶望」よ、その力を示せ」

 ...ヒュゥゥゥゥ...

「さて、これでどうか」

 そういってリスフィリアが剣を抜くと、かすかに黒い粒子がこぼれた。

「ああ...確かに感じる。二人とも、どうだ?」

「はい。確かに神剣の気配を感じます...どうやら本当にスピリットのようですね」

「...黒スピリット」

 それを確認したリスフィリアは剣を鞘に戻して三人を見回し、

「さて...改めて自己紹介をしよう...オレは永遠神剣第九位「絶望」の主で

 リスフィリア・ブラックスピリット。ラキオスのスピリットとして戦いに参加したい」

「俺は悠人。「求め」の悠人だ。エトランジェで、スピリット隊の隊長をやってる。

 今は妹をサーギオスから救うために戦ってる」

「私はエスペリア。「献身」のエスペリアです。ユートさまの盾となり、助けになるべく

 戦っています」

「ん...アセリアだ...「存在」のアセリア...」

 四人の自己紹介が終わり、いよいよ本題へと入る。

「んで、リスフィリア、なんでラキオスのスピリット隊に入りたいんだ?」

「ああ...戦争は嫌いだから早く終わらせたいし...終わったあとは平和になってもらいたい。
 それならラキオスが一番いいと思うからな...」

 そう言ってリスフィリアは目を伏せる。

「...以前はどこにいたのですか?」

「ああ...ソーンリームに何年か篭ってたな...あそこは戦争にならないから」

「ふーん...まぁいいか。戦力が欲しいのも事実だし。ん〜...女王にも相談してみるか...」

「では、私が謁見の願いを」

「ん、頼むよ」

「はい」

 そう言ってエスペリアは城へと歩いていった。

「なぁ...オレが言うのもなんだけどさ、こんなに簡単にオレを信じていいのか?」

 リスフィリアが不思議そうに問う。

「ん〜...アセリアはあんたからは敵意を感じてないみたいだし、

 それなら大丈夫かな、と思ってる。そうだろ?」

 悠人はアセリアに視線を合わせる。

「ん...」

 アセリアが自信ありげに首を縦に振る。

「...こっちとしてはありがたいんだけど、なんだかなぁ...

 あのエスペリアって人のが普通の反応だろうに」

 リスフィリアは苦笑する。

―まさかこんなに明るい雰囲気でエトランジェに会えるとはな...―

「でもさ、あのエスペリアって人、ちょっと頭固そうだな...」

「あー...最初の印象はそうかもしれないなー。でもエスペリアはいいやつだよ。
 頭はいいし、いつも落ち着いてるし。まぁ...頭が固いってのは否定しないけどさ」

 リスフィリアと悠人は笑顔で会話している。

 リスフィリアの外見とは違った話しやすい雰囲気もいいのだろう。

「......」

 アセリアはそんな悠人を少し意外そうな目で見ていた。

 やはり表情に変化はないが。

 そして...

「ユートさま、謁見の準備ができました。なにぶん急なもので

 女王さましかおられませんでしたが...ユートさま?」

「いや、あんたなかなか面白いな...」

「オレも意外だ...エトランジェ殿がこんなにも普通の人間だったとは...」

 すっかり二人は意気投合したようだ。

 エスペリアが来たのにも気付かず話をしている...

「あの...ユートさま?」

「ユート...エスペリア、きた」

 その声にようやく悠人は気がつき、

「あ、ごめんエスペリア...準備できたんだ?」

「あ、はい。急なことなので女王さましかおられませんでしたが」

「いや、逆にそのほうがいいだろ。貴族達はうるさいだけだ」

「ユートさま...それは」

「よし、リスフィリア。これから女王に会うぞ」

「ああ、わかった。失礼のないようにしなければな...」

「...ふぅ...。アセリア、私達も行きましょうか」

「ん」

 そして彼らはラキオス城、謁見の間へと歩いていった。



「ユート、その少年が?」

「はっ。黒スピリットとのことです。ラキオスの兵として戦いたいと志願してきました」

 ラキオス城、謁見の間。そこでリスフィリアは悠人達に連れられ女王に会っている。

 レスティーナ・ダィ・ラキオス女王。亡き王の後を継ぎ若くして女王となったが、

 その手腕は亡き王を上回るだろうと言われていた通り、王暗殺の混乱を最小限に

 押さえ込むことができたのは彼女の手腕、カリスマ性あってのことだろう。

 民からの信頼も厚く、聡明な女王として知られている。

「少年、面を上げなさい」

「はっ」

 リスフィリアはわずかに緊張していた。この女王に認めてもらえなければ

 スピリット隊への入隊は不可能なのだ。

 元々分の悪い賭けではあったが、出来れば成功させたい。

 その思いが彼を緊張させていた。

「名を」

「はっ。リスフィリア・ブラックスピリットと申します」

「そなたはスピリットだと言うが、本当か?」

「はい。私は黒きスピリット。お許しをいただけるのならば、

 この身はラキオスの為に戦いましょう」

「...」

 レスティーナは考えていた。確かに戦力は欲しい。

 元々スピリットは誕生と共に国へ送られる存在。そして女性のみのはず。

 しかしこの少年はスピリットを名乗り、さらにどこか国に所属していたわけでもないという。

 少し警戒したがユートの話では信頼出来るらしい。だが、その実力はどうなのか。

 もしも他のスピリットに軽くあしらわれるような力ならば必要はない。

 目の前の少年の実力を確かめる方法...レスティーナはしばらく躊躇った後に

 悠人の時と同じ方法をとることにした。

「...エスペリア」

「はっ!」

「この者の力を確かめたい。少々剣を交えよ」

「はっ」

「な...それは」

「リスフィリアよ。そなたの力を示してみせよ」

 悠人の言葉を遮り、レスティーナは言い放つ。

「......はっ」

―気は進まないが...仕方ないか...―

 リスフィリアは少しの間を置いて返事をした。

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後編 彼の実力


「エスペリア、あんまり無茶するなよ?」

「おまかせくださいユートさま。すぐに済むでしょう」

「ふぅ...仕方ない、な。こうなったからにはやるしかないか」

「......」

 謁見の間は戦いの緊張感が漂う空間へと姿を変えていた。

 その手に槍型の神剣「献身」を携え油断なく構えるエスペリア。

 それに対し短めの刀型の神剣「絶望」を腰に差し、右手を添えて

 レスティーナの声を待つリスフィリア。

「よい。はじめなさい」

 レスティーナが戦いの開始を告げる。

「はっ!」

「......はっ」

 二人はそれに応え、

シュゥゥゥゥ...

 エスペリアがシールドハイロゥを展開し、戦闘態勢を整える。

「......」

 チャキッ!

 リスフィリアが「絶望」を握り、構えをとる。

 そして...

「私からいきます...避けられなければ、これで終わりです!」

 エスペリアが一気に距離を詰め高速の突きを放つ!

「遅い!」

 ヒュォォッ!

 リスフィリアはそれを紙一重で避け距離をとり、

「今度はこちらから仕掛けさせてもらう...」

 腰の「絶望」に手をかけ

「抜刀...一閃!居合の太刀!」

 タンッ!

 一瞬でエスペリアへと飛び込み斬りつける!

 しかし、

 キィィィィンッ!

「この程度ですか?」

 その太刀はシールドハイロゥにより軽く弾かれた。

 そして二人はまた距離をとり、構える。

「次は、本気でいきます...」

「...ふぅ...次は本気でいくか...」

 そう言って二人はお互いに睨み合う。

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「エスペリア...さっきのは手を抜いたか」

「...いつもより遅かった」

「でもリスフィリアのほうも手を抜いてるっぽいな」

「ん...」

 頷くアセリア。

「どうやら次はお互いに本気のようですね」

 傍観者達は一瞬の攻防を見て、二人とも本気でないことを見抜いていた。

「いつでも止める用意は出来ています。今は二人の戦いを見守りましょう」

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「...!いきます!やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 さっきとは段違いの速度で飛び込み、エスペリアは薙ぎ、突き、と連撃を放つ。

「ッ!そこだッ!」

 ヒュッ!ザッ!

 薙ぎを避け、突きを脇腹を掠らせるようにして、リスフィリアはカウンターを仕掛ける。

「くッ!」

 ビュォッ!

 その一撃をとっさに飛びのいて避ける。

 そして、そのまま距離をとり、

「...なかなかですね...でも、あなたの剣はもう私には届きません...」

「......風よ、私の守りとなって!ウインド...!」

 風の守りを得てさらに防御を堅くしようとするエスペリア。

 しかし、

「「絶望」の主たるリスフィリアが命じる...マナよ、黒き力となりて敵を討て!

 ダークインパクト!」

 リスフィリアの神剣魔法がそれを妨害する。

 ドォォン!

「きゃっ!っく!ウインドウィスパー!」

 ヒュォォォォォォォォ...

 妨害を受け、それでも神剣魔法を完成させたエスペリア。

「まだだ!暗黒の衝撃を受けるがいい!ダークインパクトッ!」

 そこにリスフィリアの二回目の神剣魔法が襲い掛かる!

 ドォォォォン!

「きゃぁっ!詠唱が速い...?でも、この程度...っ!?」

 衝撃から体勢を立て直したエスペリアの目に

 スキを逃すまいと飛び込んでくるリスフィリアが映った。

「遅いっ!居合の太刀!」

 リスフィリアの太刀が一閃する!

 カキィィィィン!

「このくらいの力なら!」

 しかし、やはりエスペリアの防御を突破するには至らない。

「あなたはあまり力がないようですね...それでは私の守りを突破することはできません」

 完全に体勢を立て直し、攻撃に備えるエスペリア。

「......居合の太刀ッ!」

 そこにまたも飛び込むリスフィリア。

「何度やっても同じです!」

 キィィィィン!

 シールドハイロゥ+ウインドウィスパーによる堅牢な守りはやはり攻撃を受け止める。

 だが、

 キィィィィィン!キィィィィィィン!ガキィィィン!

 先程とは比べ物にならない速度で絶え間なく攻撃を浴びせかけられ

「くっ!?は...速い!?」

 だんだんと押されてゆくエスペリア。

 そして

 カキィィィィン!

「貰った...雲散霧消の太刀...この剣を、見切れるか!?」

 ガキン!ガッ!ガガガガガッ!

「くっ!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ザザザザザザッ!ザシュゥッ!ドサッ!

「ぐあぁぁぁッ!」「くぅ...っ!」

 リスフィリアの連撃はついに守りを打ち破り、エスペリアを浅く、しかし何度も切り裂いた。

 だが、エスペリアが最後に突き出した槍はリスフィリアを捕らえ、

 大きく吹き飛ばしていた。

「...ッ!ハァッ!ハァッ!」

「はぁ...はぁ...」

そして、二人が立ち上がり体勢を整えた時、

「そ...そこまで!!」

やっと、終了の声がかかった。

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「...ちょっと遅いんじゃないか...?」

 そう言って悠人がレスティーナを半眼で睨む。

「し、しかたないでしょう!あまりにもすさまじい戦いだったのですから!

 少し雰囲気にあてられて...」

「ん...凄かった」

 どうやらもう少し早く止めるつもりだったらしいが

 あまりにも壮絶な戦いになってしまった為止め損ねたようだ。

「...まぁいいか...おーい...二人とも大丈夫かー?」

 諦めたのか悠人は座り込んでいる二人へと駆け寄っていった。

「あ、はい、ユートさま、私は平気です」

 自らの傷を癒し、リスフィリアの傷も癒し終えて、

 息を整えていたエスペリアが答える。

「ふぅ...もっと早く止めてもらいたかったぞ...んで...オレは合格なのか...?」

 リスフィリアは地面に倒れこんだまま少し不安そうに言った。
 
「ええ。戦力として申し分ないということもわかりました。

 それでは、リスフィリア・ブラックスピリットよ」

「は、はっ!」

 急いで起き上がるリスフィリア。

「そなたをラキオスのスピリットとして認める。

 これからラキオスの為に尽力せよ」

「はっ!」

「期待しています。ですが、決して無理はしないように」

「ご期待に沿えるよう、全力を尽くします...」

 そう言ってリスフィリアは頭を下げる。

 そして彼らは謁見の間から出て、

「んじゃ、戻るか。見回りの皆も戻ってきてるだろうし、他のスピリット達に

 リスフィリアを紹介しないとな」

「わかった」

「はい、ユートさま」

「ん」

 四人は館へと歩いていった。



続く...



<あとがき>

はい、志刻です。第一話です。バトルです。

主人公には頑張ってエスペリアと張り合ってもらいました。

エスペリアファンの方には不満があるかと思いますがどうかご容赦を...

悠人の性格ちょっと違うなぁ、と思ったりしてます。

アセリア...目立たないなぁ...オルファは出てすらいないし...

一応次の話でオルファとか他のスピリット達が登場です。

主人公にはまだまだ謎が...(バレバレかもしれませんが)

それでは、また次の話で。


おまけ

オリジナルキャラ&神剣紹介


永遠神剣第九位「絶望」

小太刀ほどの長さのカタナ型。

ランクは低いが、持ち主は速度にのみ特化した力を得る為、

戦い方によってはエース級のスピリットともとも互角に戦える可能性を秘めている。

特に素早さに劣る緑スピリットと相性がいい。


リスフィリア・ブラックスピリット(更新)

永遠神剣第九位「絶望」の主。

基本的に速さを生かした戦い方をする。

彼の移動、攻撃速度はかなり速い。

その超高速で敵を切り裂くだけでなく、神剣魔法の詠唱もずば抜けて速い。

同じ神剣魔法でも、彼は他のスピリットよりも速く発動させることができ、

さらにもう一度高速で詠唱して二度発動させることができる。

しかし、彼には致命的な欠点がある。

彼の一撃は、とても「軽い」のだ。

超高速の一閃を放っても、相手がその速度に反応できた場合ほぼ無効化されてしまう。

それでも、彼は連撃を仕掛けることによって相手の防御を打ち破っている。

 

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