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!!WARNING!!

!注!このSSには残酷な描写が成されています!注!

!その類の描写が苦手な方はお止め下さい!







悠人達が龍の大地に召喚される少し前―

イースペリアと言う国で起こった厳しくも楽しい時間―

彼女達は夢の中に居た―

例え戦火の前の凪だったとしても―

それは戦争前の時間が見せた泡沫の夢幻―

戦場に咲く戦乙女達が見せた物語―

これは彼と彼女達が奏でる協奏曲―







永遠のアセリア〜if〜

永遠から始まる叙事詩

第一章 其れは指し示す未来への道程

第一話 戦争と云う名の独奏曲






聖ヨト暦329年 ルカモの月青一つ
王都イースペリア スピリット隊隊舎


王都は今、新年に沸いている。ダーツィとの軍事的緊張も千日手での睨み合いが続き安定しているのも要因だった
女王は宮廷行事と国民への新年の祝辞を述べたりと忙しく
その護衛や警備に多少なりともスピリットは駆り出されていて、隊長の鹿島も同様だった。

「やれやれ…新年がこうも忙しいとは……日本が懐かしいな…」
鹿島は一服しながら書類を片付けていく
イースペリアの女王直属国防将軍、スピリット隊統括責任者、技術士、訓練士も兼ねる鹿島は
新年明けて早々に仕事に忙殺されていた

(ランサ方面の防衛拠点は完成し問題は無くなったが…)
「問題はロンド方面…同盟なんぞ戦乱中は物の役にも立たないんだが……」
既にランサ、ダラム方面の防衛要塞化は済み残すはロンドと王都の拠点整備を残す所となったが
イースペリアは8割弱を完成し現在も進行中だったのだが
ロンド方面は『龍の魂同盟』の条約と相互信頼関係の為過大な防衛設備は避けるべきと貴族達が反対を表明した

(情報部の報告からは確証、証拠共に無しだが帝国との接触の可能性あり…と来た…)
鹿島は冷静に戦力比較と戦況分析をし苛立たしく舌を打つ
「チッ!…ロンドが抜かれれば王都は目前…極秘裏にでも何でもロンド要塞化は進めねば…な…
だが予算とエーテルが……女王に進言して臨時補正予算を組ませるか…」
と書類のチェックと指示の書き込みを終えて書類を纏めて提出しに立ち上がる
「いざとなったら国防予算のブラックバジェットから出させればいいか…」
等と黒い事を呟きながら王城へ向かったのだった

王都は新年の賑わいの真っ只中で屋台や出し物、鳴り物で溢れていた
女王アズマリアの意向でかなりの自由度を誇りスピリットにも寛容な政策、税金の一元定率化等
庶民派政策が功を奏しラキオス、サルドバルド、デオドガン、マロリガンや
意外にも親帝国の諸国から商人や観光客が街中に溢れていたがそれに反して警備の数が少なかった
実はそれに反対した衛兵隊や警備隊に鹿島は悪戯を企んだ時の子供の顔で告げた
「人が溢れる場所で完全完璧な警備や警戒は逆に混乱や騒動の元だぞ?それこそ犬共の望む所だ
それよりも全人員を王城や軍施設、研究所、スピリット関連施設に限って振り分けろ。
そうすれば五月蝿い蝿は潰せるさ…そこに近づくのは犬に限定される、一網打尽の好機だな」
と告げると彼等は一瞬、呆然としたが直に同じ悪戯を企む子供の顔になり警備計画の相談をしていたのだった

(これで国内でちょろちょろしてる犬の大半は処分出来るか…)
街中の喧騒にあっても常に戦略を練り最大と最小の手を打ち来年の戦争に備えるべく動いていた…が

「あ〜〜〜〜!たいちょ〜だぁ〜〜〜〜!」

その喧騒すらも吹き飛ばす程の声が後ろから響く
「………レナ…街中で大声を出す馬鹿がどこにいる…もう少し落ち着け…」
鹿島の後ろからサファイアの如き深い蒼のポニーテールが跳ねながら此方へ向かって来る
見た目は見目麗しき美少女だが両手に持つ複数の串焼きがそれをコミカルに見せる
彼女はレナ・ブルースピリット、まだ慣熟訓練が終わっていない幼いスピリットだった
「えぇ〜〜〜?ひゃっれひゃっれひゃっれぇ〜〜〜〜!」
「串焼きを頬張りながら喋るな…この阿呆」
ゴックンと口内の串焼きを飲み込み案の定喉に詰まらせ悶えるレナ
「〜!〜〜!!〜〜〜!!!」
鹿島は近くの屋台で水を買いレナに渡し呆れた声で語りかける
「…お前はいい加減落ち着きと云う物を身に付けろ…私は逃げたりはしないのだからな…」
そんな鹿島の忠告を聞いているのかいないのか、レナは水を飲む事に夢中だった…
「んっんっんっんっんっんっんっ!」
必死に水を飲むレナを呆れながらも優しい瞳で見つめる鹿島だったが…
「おい…落ち着いて飲まな「んっ!〜〜〜!!ゲッホッゲホゲホッ!」……馬鹿が…」
街中で衆目の中で終わらない漫才は続くのだった

落ち着いたレナを伴い鹿島は王城へ向かい歩を進める
「で?レナ、お前は一体何の用だったんだ?」
「え?用なんてなんもないよ?」
きょとんとした顔で鹿島を見上げるレナ
「たいちょ〜見っけたから追っかけたんだよぉ〜?」
不思議そうな顔をした後、ニパッと嬉しそうに笑うレナ
鹿島は眉間を揉み疲れを感じさせる溜息を吐きながらレナの頭を撫でる
「…そうか……お前に理路整然とした説明と思考を求めた俺が悪かった……」
「えぇ〜〜?たいちょ〜悪い事したの?駄目だよぉ〜〜?」
レナはそんな間抜けな事を言って鹿島を脱力させる
「………私は王城へ向かうがお前はどうする…」
「え〜?一緒に行くよ?終わったらお祭り行こうね〜♪」
そう答えてレナは実に幸せそうに笑った
手を繋ぎ他愛も無い話をしながら歩く様は親子の様だった
住民はそれを見ても気にも留めないが諸外国からの旅行者は明らかに困惑、侮蔑した目で見送る
何故イースペリアがスピリットに対して友好的なのかは過去の歴史と歴代女王の政策にある

イースペリア王国―モジノセラ大湿地帯が齎す豊富なマナと豊かな土壌で北方五ヶ国一の豊かさを誇っていた
そこに目を付けたイースペリアを除く北方四ヶ国とマロリガン等、各国が聖ヨト暦263年〜285年に渡って侵攻があったが
歴代女王とスピリット隊の作戦は篭城による敵補給限界までの徹底防戦策で侵攻を撃退して来た歴史がある
更には同285年、帝国の軍備増強に対する反帝国同盟「龍の魂同盟」をラキオス、サルドバルドを含めた三ヶ国で締結し
バーンライト、ダーツィ、マロリガンを牽制、完全膠着状態にしたがダーツィとの軍事的緊張は緩和されずに数年が経過
同306年、ダーツィ大公国はアト山脈の門番シージス征伐、マナを過剰に軍事に注ぎ込み一触即発状態まで進んだが
同年その後の「シージスの呪い大飢饉」、「ダスカトロン大砂漠の侵食拡大」等の未曾有の大災害によって終止符を打った
マロリガンは事実上侵攻ルートの瓦解によって西方から迂闊に動けずに停戦、和睦を議会決定し承認、締結し
バーンライトはその後のラキオスとの軍事的緊張が更に高まり、同盟の件もあり迂闊に軍を動かせなくなった
ダーツィは事実上、国力、経済、軍事力の崩壊寸前まで追いやられて身動きが取れなくなり帝国に半併呑されて沈黙した
イースペリアもランサ、ダラム一帯でかなりの被害を被ったが二国よりも被害は小さく女王は即刻軍備縮小し
浮いたマナと王都備蓄分を被害地域の復興と土壌回復に充てて最小限の被害に留めた
その後もダーツィとの国境線付近での小競り合いは続いたが現在まで大きな戦争も無く安定
周辺諸国との緊張が解けた時、デオドガンとのFTA(自由貿易協定)を締結し経済的にも磐石となって
国力、マナ、経済的に余裕が出て国力が安定し優秀なエーテル技術者を集め技術革新を起こす
一時期、大賢者と呼ばれたヨーティアも客分として滞在した経緯を持つのでイースペリアは帝国に次ぐ技術大国化する
その後、着実に無理の無い軍備増強をしながら今日のアズマリア女王の治世になる
長い間の諸外国からの侵略行為に対しての防衛は国民感情を世界的に珍しくスピリットを友好的に受け入れる土壌を育んだ
更に歴代女王のスピリット親和政策も手伝ってスピリットの待遇は他国よりも厚遇され愛国心や国防意識、士気は常に高く
「鉄壁のイースペリア」と呼ばれる程頑強にして屈強なスピリット隊が此処に存在する


同日 イースペリア城正門前


彼等二人は王城正門前へと着いた、「龍の魂同盟」に従って新年は三ヶ国の何処かで新年の会合をする
今年はイースペリアの順番だったのでイースペリア王城は二ヶ国の近衛兵を含める数倍の兵士で封鎖されていた
「おいっ!そこのスピリットを連れている人間!ここは下賎なスピリットを入れて良い場所じゃないぞ!」
ラキオス王国の近衛が彼等を止めたがイースペリアの衛兵が間に入る
「此処からはこの有様で入れません…申し訳ありませんが西門からお願いできますか?」
「いや……済まない、此方に配慮が足りなかったな…迷惑をかけたな」
「ばいば〜〜い、まったねぇ〜〜♪」
そんなやり取りを見ていたラキオス、サルドバルド両国の近衛兵は蔑んだ目で鹿島達を一瞥し
「ふんっ!所詮女が治める国だな!下賎な妖精を人同然に扱うとは…恥を知らんなこの国の人間は!」
と罵倒し笑い合う両国の近衛兵達と怒り心頭のイースペリア衛兵と門番達
その瞬間、物凄い音がした後、罵倒した兵士の頭が吹っ飛んだ
「やれやれ……イースペリア法と同盟条約法により現場での最高位司令官による即決裁判の認定許可法にて…
イースペリア女王への不敬、侮辱罪にて死刑判決、執行した…申し開きがある者は?」
誰もが動けなかったがラキオス近衛兵連隊長が青い顔をしながらも抗議する
「な…何を言っている!最高位司令官は近衛騎士である私だろう!貴様如き下賎の者が「将軍だ」…は?」
何を言っているのか理解出来ない両国の近衛兵達を他所に鹿島やイースペリア兵は笑ってる
「私はイースペリア王国の国防将軍、カシマだ…何か問題は?」
将軍と聞いたとたん両国の近衛兵士は顔を青くして固まる
「ラキオス側には私が説明しよう…ではな…」
鹿島達は衛兵、近衛兵を残し去って行く
サルドバルド兵は城へ引き上げイースペリア兵は仕事に戻りラキオス兵は死体の後始末を始めた
後に残ったのは薄れた血の匂いと一つの薬莢だけだった…

―イースペリア城 謁見の間―

西門を潜りレナを食堂に待たせて女王に面会する為に謁見の間へ向かう
謁見の間への扉に立つ近衛兵達にカシマは静かに告げた
「鹿島だ、報告する案件があるので女王に御取次ぎ願う」
近衛兵達は頷くと高らかに声をあげる
「「国防軍将軍カシマ様!アズマリア女王陛下への謁見の為御入室致します!開門!」」
と叫ぶと同時に重厚な扉が開き、謁見の間への道が開かれた
赤い繊毛の上を歩き女王の前に着くと彼は片膝をを付き頭を垂れる
「女王陛下、急ぎ御報告致します事が幾つか御座います」
「そう堅苦しい言葉を使わないで?カシマ、何があったのです?」
アズマリアは優しく笑い先を促す
鹿島は立ち上がり苦笑いを溢しながら報告を始める
「……やはりサルドバルドは帝国と繋がってるぞ?4年前即位した皇太子が係ってるらしいが証拠は無い…」
「何故断言出来ますか?」
顔を顰めながら聞き返すアズマリア
「私が直接確認して来た…帝国の訓練士が教育していた…ハイロゥは黒く染まってたぞ…」
「拙いですね…カシマが言った通り帝国を始めとして各国が軍備を増強し始めましたね……」
とアズマリアは思案を始めた
「マロリガンも大統領が元・帝国技術者クェド・ギンが就任した後、エーテル技術の革新と軍備を増強…
ラキオスも先日のバーンライトとの戦で分かる通り戦力は回復し始めている…
あの強欲で聖ヨト王直系という事を鼻にかけてる。愚鈍王はまだ先だが何かあれば攻めて来るぞ…」
アズマリアは黙って鹿島の報告を聞いていた
「スピリットの練成は7割が終了、拠点防衛整備はランサ、ダラムは完成、王都も8割を終了したが…
ロンドは基礎部分と塔は出来たがそれ以外は手を付けていない…出来ればロンドも要塞化を進めたいのだが…」
鹿島は報告を終えてアズマリアの言葉を待つ
アズマリアはゆっくりと目を開き決意を見せる表情で鹿島を見た後に口を開く

「……分かりましたロンドの拠点整備を貴方の思う通りに進めて下さい」
鹿島は最終確認と女王の決意を確かめる
「本当に宜しいので?もし公になればサルドバルドは黙ってはいませんが?」
「構いません、ロンドと王都は死守せねばなりませんから…此方もサルドバルドの弱みを握ってますから」
「では工事を再開致しますが、貴族連中が五月蝿いので何処から予算とマナを持って行きますか?」
「国防費から臨時予算を出します、足りなければ王室予算も回しましょう、マナは王都備蓄分と王室用のを其方に」
「私が思う通りで宜しいですか?」
「構いません…が一応、秘匿して何とかサルドバルドには掴ませないで下さい」
「最大限努力致しましょう、貴族達の発言は血判状にて確約させてますのでサルドバルド動く時は潰せましょう」
と懐から血判状を出し女王に進呈する
「これで去年からの頭痛の種も取れる、済まないなアズマリア陛下」
「いいえ…貴方が居なければ大変な事になっていました…お礼申し上げます」
お互い笑い合い先程までの硬い雰囲気は消え去っていた

「じゃあ私はこれで…レナを待たせているのでね」
「はい、ご苦労様でした。後程、私の執務室へ出頭して下さい」
「了解した、そうそう思い出した…ラキオスの近衛を不敬罪で死刑にした…そっちの処理も頼めるか?」
一瞬、女王は呆気に取られたが顔を引き締め
「分かりました、それも後程執務室で聞きましょう」
「了解した…では失礼する」
鹿島は恭しくアズマリアに礼をした後ゆったりとした足取りで退室した
ドアが閉まった後こめかみを指先で叩きながら思案する
(ラキオス側は抗議して来るでしょうけど同盟憲章を楯に押し切れる…けど)
「サルドバルド…一度黙らせなければならないかもしれないわね……」
アズマリアの頭には一つの策が生まれていた…

―イースペリア城 兵士食堂―

食堂に戻るとうたた寝をしているレナを見つける
(やれやれ…待たせ過ぎたか…)
待ってる間に兵士と遊んだのだろう、カードがテーブルの上にばら撒かれていた
「あの娘、結構待ってご立腹でしたよ?頑張って下さいね」
と兵士が嫌な事を言う
「………善処しよう…」
鹿島が言えたのはそれが精一杯だった
「……んみゅ?…」
そうこうしてる内にお怒りの女神が目和覚ます
「済まない、待たせたな…陛下との協議が長引いてな」
「……ん〜!やっときたぁ〜!レナはもうお腹ペコペコだよっ!」
その言葉を証明する様にレナのお腹から可愛い音が聞こえた
「分かってる、祭りで屋台も沢山出ている…好きなだけ食べろ」
「そんなんじゃ誤魔化されないけどしょ〜がないなぁ」
などと言いながら目は輝き溢れるほど幸せそうな笑顔だった
「さ〜行こう!早く行こう!お祭り終わっちゃうよ〜!」
鹿島の手を引き急かす
「やれやれ…今日は財布が空になるな…」
ぼやきながらも優しい表情で街へ向かう

鹿島はスピリット達と触れ合い心が優しくなったのを自覚する
それでも構わないと思いながら祭りの喧騒の中へ2人で消えて行く
それは灯火と言うにはまだ小さな灯りだが鹿島にとっては太陽の様に眩しかった
心と心が織り成すハーモニーはまだ始まったばかりだった…


同日深夜 イースペリア城 女王の寝所


祭りの喧騒が嘘の様に静まり闇と静寂が街を支配する時間
鹿島はアズマリアの召還に応じて寝所まで足を運ぶ
「アズマリア…今度はどんな厄介事なんだ?」
開口一番に本題に入る
「実は…、サルドバルドがロンドから王都までの間を偵察しているのはご存知ですね?」
「あぁ、だが人間主体だろう?それは警備隊と諜報部の仕事だろうに…」
アズマリアはグラスを傾けつつ悪戯っぽく言った
「実はロンドの守備が甘い事を知ってスピリットによる強襲を企んでいるらしいのです」
「ほぅ…しかし建前上同盟憲章があるだろうに…」
「向こうも馬鹿じゃありません、帝国の撹乱を目的とした破壊活動の名目で逃げる気でしょう」
「目的はエーテル技術か…ついでに自分達が撃退に手を貸して恩を売る事が狙いか…」
鹿島も笑いながらグラスの中身を空ける
「向こうの狙いが何であれ此方の被害が多過ぎます。カシマ、何とか抑えられませんか?」
「構わない、図々しい火事場泥棒退治と洒落込むか……」

所で、と前置きして鹿島は話を変える
「国内の防衛線構築はほぼ終わったが問題は残っている、火力は私が用意するが補給と情報の方はどうなっている?」
「そうですね…補給路事態は問題ありません、国内限定であれば完璧です。ですが…」
アズマリアもグラスの中身を空け鹿島が新しい酒を注ぐ
「情報部は練成度、習熟度共に予定値の7割程…ネットワークは帝国以外なら8割程でしょうか」
「ふむ…帝国国内はやはり厳しいか…分かった帝国に関しては今まで通りで構わん」
アズマリアは首を傾げながら問い質す
「宜しいのですか?戦争とは補給と情報と火力で決まると仰ってたではありませんか?」
「その通りだ、だが帝国は別だ…『誓い』を介して奴等に気取られる訳にもいかんからな……」
「奴等……ロウを名乗る永遠者の組織…でしたね」

渋い顔をするアズマリアを見て優しく笑う鹿島
「心配するな…この国には手を出させんさ…お前さんもあの娘達もキッチリ守ってやるさ…」
鹿島は立ち上がりそっとアズマリアの頭を抱き寄せる
「……カシマ………」
アズマリアは力を抜きそっと鹿島に身を委ねる
「貴方が居てくれて本当に良かった…お蔭で私は孤独と苦悩から解放され新しい道を見つける事が出来た…」
「だが神に近い存在を敵に回す事になった……済まない事をしたと思っている…」
「良いのです…何も知らずに終えるより、戦う道を貴方は示してくれた…」
「……だが…「何も仰らないで…」…」
アズマリアは埋めていた顔を離し鹿島を見上げる
「私は貴方を必要とし、貴方も私を必要としてくれた…女王では無くただの私を…それだけで良いのです」
「アズマリア……」
「貴方と共に私も参ります…真の自由と開放の為……覚悟は出来ております…」
アズマリアはそっと瞳を閉じる…
2つの影は1つに重なる
暫くの間、重なっていた影が離れる
「やれやれ……本当は君とこんな関係になる気は無かったんだが…」
「……残してきた女性…ですか?」
少し拗ねた感じでアズマリアは尋ねる
「それもあるが…私は何時か帰還する身だぞ?残して行く事がどうしても辛いのでな…」
それに君は女王陛下だしな、と最後は軽口で締める
「…良くはありませんが良いのです、別れたからと云ってそれで全てが終わりではありません。
それにもう一人恋人が居ても構いません、貴族では珍しい事ではありませんから」
と、悪戯っぽく笑い鹿島は苦笑する
「やれやれ…真に強いのは女性だけ、か…こんな私で構わないなら傍に居るよ…アズマリア…」
「何を…貴方でなければ駄目なのですから……」
お互いを見詰めて重なり合う二人…イースペリアの夜は更ける……

1つの国家と1人の女性の運命がまた動く―

運命の指針は何処へ向かうのかまだ誰も知らない―


聖ヨト暦329年 ルカモの月赤二つ
イースペリア領 ロンド 夜半過ぎ


鹿島はアズマリアの勅命を受けてロンドへ出向していた
ロンドに建てられた塔の最上階でサルドバルド方面を監視していた
(さて…新年の祭も終わり警戒が解かれるこの時期こそ奴等の狙いのはず…)
鹿島は装備と弾薬を確かめる
(やれやれ…ロンド方面はまだ施設もスピリットも完全じゃ無い…私自らが叩くしかない…か)
鹿島は網膜投影されている映像を処理しつつ考えていた
鹿島が観ている映像は真理のサポートシステムと安藤からの情報を統合して処理されている
右目にはNVG(暗視ゴーグル)で補正され昼間の様な正面映像が映し出され
左目には軍事偵察衛星並の制度で映し出された付近の地理情報と敵の配置図だった
(赤が撹乱と陽動…青と緑は正面から…力押しか?いやこれも陽動…本隊は黒…か)
敵の配置と作戦を見据えてMGL140改に弾を込めていく
「数は15……か…火事場泥棒共に近代戦を教えてやるとするか……」
ガシャッ!とMGLに装填が済み、後は敵が出るのを待つだけとなった
その時、背後から誰かが登ってくる気配を感じる
「…カシマ様、此方でしたか」
やって来たのはエメラルドグリーンの髪と瞳を持つ女性
「…サリアか…報告か?」
彼女はサリア・グリーンスピリット、ロンド方面守備隊の隊長でもある
鹿島が国防軍のスピリットを管理しているのだが、鹿島一人で全軍指揮など出来る筈も無く
しかし凡庸な将兵に任せるのも無理があった為に鹿島が軍を教育、教導し
鹿島を頂点に各方面の守備隊を直結し一個軍としての編成に着手した
その結果、王都以外の街は各守備隊の中から隊長を選抜しその隊長が指揮を執る中隊運用方式に変えていったのであった

「はい、此方は第1〜第3小隊全軍配置に付きました」
鹿島は懐から煙草を取り出し火を付ける
「……宜しい。サリア、お前達も良く観ておけよ?ハイペリアの近代戦って物をこれから見せてやる…」
サリアは分からないといった感じで首を傾げる
「まぁ見てろ」
鹿島は苦笑した後に正面へ向けMGLを構える

「いいか?近代戦の基本は情報と補給、攻撃の基本は奇襲に火力だ……」
鹿島は数秒間隔での三連射をする

キュドッ!……キュドッ!キュドッ!

三発の榴弾が一条の光になって正面と左右に飛んで行く

正面に撃った最初の榴弾が敵のハイロゥを無力化する
詠唱に入ってた敵の赤と黒は途端にハイロゥが消え、制御が効かずに詠唱が止まる
そこに左右に連射された焼夷榴弾が爆音と共に大地ごと敵スピリット達を紅蓮の炎が包む
ほんの一瞬で敵の戦力の7割が灰燼に帰す 漆黒の空を赤々と照らし黒煙とマナが空へ還る
鹿島は振り向きサリアに笑っていない笑みを見せる
「どうだ?これが戦争と云う物だ……理不尽で不条理だろう?」
サリアは何も言えずに目の前の光景にただ、唖然としていた 眼前の平原は焦土と化し、今も炎が燃え盛っている、黒煙と共に空へ昇る金色の粒子を見詰めていた…

鹿島が眼前を見て何かに気付く
「…やれやれ…まだ後始末が残っていたか…」
そう呟くとMGLを腰のストックに戻し懐からUSP改を取り出す
「……まだ警戒は解くなよ?俺はこれから掃除に出かけて来るからな…」
サリアに指示を残すと鹿島は準備してあったラペリングロープで塔を滑り降りる
コートを靡かせて走るは戦場の残滓が残る焦土へ向かって行った…


―同日 イースペリア、サルドバルド国境付近の平原 夜半過ぎ―


ロンド強襲部隊を率いていたサルドバルド軍指揮官、ロベルトは喜色満面だった
本国の命令は帝国の妖精を使いロンドを強襲、エーテル技術の奪取と云う物だった
「帝国の妖精共は強い…イースペリアの雑魚共など一蹴に蹴散らしてくれる」
帝国のハイロゥを黒く染めたスピリットは強く、イースペリアの妖精達との戦力差は歴然だった
初めから結果は見えていた一方的な侵略作戦、の筈だった―
ロンドを視認するとロベルトは指示を出す
「青と緑を前線正面に展開!赤と黒は詠唱開始!、戦端が開いたら黒は所定の目標の制圧だ!」
命令を配下のスピリットに発するとロベルトは残虐な笑みを浮べた
(イースペリアの下等民族め…!貴様等の技術は我が栄光あるサルドバルドの礎になるのだ!)
彼の歓喜と欲望が絶頂に達しスピリット達が詠唱を始める
辺りにマナが溢れて破壊の意思がロンドを焼こうとしていた

「撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇい!」

そう叫んだ瞬間、何かが破裂する音が聞こえ充満していたマナが拡散する
ロベルトは号令を発したにも係らず何もしないスピリット達を睨みつける
「何をしている!早く撃たぬかぁ!」
スピリット達は呆然としているその瞬間、ロベルト達は劫火に包まれた

「なっ!…うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

叫んだのも瞬間、ロベルト達はケロイド状に焼け爛れ炭化して行く。周りのスピリット達もマナへと帰る
この瞬間、生き残ったのは一部の前線のスピリット達と後方の人間達だけだった
そしてそれは、サルドバルドの作戦が崩壊した瞬間でもあった
だが地獄はまだ終わらない


―同日 サルドバルド軍 ロンド強襲部隊前線展開地点 深夜―


神剣に意識を喰われた彼女達は状況を理解出来ずにいた
何故攻撃が始まらないのか、何故号令が係らないのか、何故後方が焼き尽くされマナが満ちているのかさえ―
その瞬間、マナを感じない物体―人間が近づいてきた
彼女達は神剣を構え敵を殲滅するべく駆ける、地獄への行進曲を奏でる為に

鹿島の眼前には青と緑の部隊が展開していた
それぞれが神剣を構え狙いを定める
だが、鹿島は笑いながら銃を敵に向ける
「…哀れだ…実に哀れだが仕方あるまい…次の生に安らぎが在らん事を…」
そう呟きトリガーを引く
バシュッ!バシュッ!バシュッ!
次々襲い掛かるスピリットをミンチとマナの霧に変えて行く
頭を、胴体を次々撃ち抜いていく
鹿島は無表情に煙草を吸いながら連続してトリガーを引いていく
そしてマガジンをエジェクトした時、戦場は一面マナの光に溢れていた
紫煙を吐きマガジンの交換を終えて瞳を閉じる
「さて…次は愚者共の掃除か…戦争を遊びにしている馬鹿共は駆逐せねばな…」
鹿島はサイレンサーとLEMをUSPに装着し後方の敵本陣を目指す…ワンサイド・ゲームは終幕に差し掛かる


―同日 イースペリア領 ロンド 深夜―


サリアは呆然と目の前の光景を見ていた
鹿島が出撃した後、各小隊に指示を出した後は敵の前線監視をしていたのだが
そこで見たのは一方的な戦闘だった
鹿島の両手にあるUSP改がプラズマを発しスピリット達を消し飛ばす
ある者は神剣を構えたまま、ある者は詠唱途中のまま、ある者は逃げようとしたまま
それは刹那の瞬間、瞬きする暇も無い程の時間で終わった
プラズマの欠片とイオン臭が立ち込む中、鹿島は佇み煙草を吸う
「そんな……これ程まで一方的だなんて……」
今迄の訓練の中だって自分達は鹿島に勝てなかった
けれども神剣すら持っていない来訪者にこれ程まで一方的にスピリットを倒せるとは思っていなかった
サリアは今、初めて自分の上官に恐怖を懐いていた
「……私には貴方が見えない…届かない…教えて下さい……カシマ様…」
炎が消えマナも消えて光が無くなった荒野でサリアは呟く
遥か彼方では叫びが木霊していた…


聖ヨト暦329年 ルカモの月赤三つ 夜明け前
―イースペリア、サルドバルド国境 イースペリア側―


鹿島は人間主体のサルドバルド軍侵攻部隊の本隊、HQまで来ていた
(さて…トップと幕僚、技術者を捕縛してサルドバルドにでかい貸しを作るか……)
そう考えて鹿島は腰からRGMを取り出し非致死性の特殊榴弾を装填し始める
(先ずは敵の動きを止めて目標を確保…その後に殲滅戦を始めるか…)
そしてHQの彼方此方に向けてRGMを撃ち始める
鹿島が使ったのは強化スタングレネードに煙幕と臭気ガス、催涙弾を混ぜた完全鎮圧用の特殊スタンスモーク弾だった
視覚、聴覚、嗅覚を奪われて煙幕に催涙弾のコンボで身動き一つ取らせなかった
鹿島はガスマスクを着けて指揮官達が居るテントを探した

(おっと…此処か…)
足元には衛兵が大勢蹲っていて周りのテントより立派なテントが建っていた
中に入ると予想通り指揮官と参謀、技術者が集まって会議をしていたのだろう全員が転がっていた
(取敢えずは拘束して逃走をさせない様にして…)
鹿島は手際良く彼等を拘束して行く、それが終わると「真理」を取り出す
(消し飛ばす訳にも行かないからな…面倒だが首を掻っ切って行くか…)
蹲り目を晴らし涙を流すサルドバルド兵達に近づいて行く
その足音は死神の宣告だった……

ズチャッ!

「うぎぃ!」

ザシュッ!

「ひぐぅ!」

グチュッ!

「や…やめでれぇ!」

グシャッ!

「い…嫌だ!助けでぎゃぁ!」

ブシュッ!

「ひっ!うごぉ!」

ズシャッ!

「あぎぃぃ!」

メゴシャッ!

「う…うぎゃぁぁぁぁぁ!」

ブシャッ!

「お…俺の腹が…腹がぁぁぁぁ!」

グチャッ!

「あぁぁ!か…顔が!俺の顔がぁぁ!」

ザシャッ!

「まっ!待っでぐりゃぁ!」

もがき苦しみながら次々に首を掻き切られるサルドバルド兵達…
這ってでも逃げ様としてた者もいたが彼等は手足の腱を切られて身動きを封じられた
無謀にも立ち上がり戦おうとした者達は首以外を斬られ悶え苦しみながら息絶えた
辺りには血と脂肪の臭いが充満し手足や内臓、頭部のパーツが散乱していた
夜が明けて朝日が辺りを血と日の色に染め上げる
其処にあるのは赤く染まった大地と阿鼻叫喚の地獄絵図に佇む黒衣のエクスキューショナーだった…
断末魔が聞こえる中で指揮官達は敵に回してはいけない者を敵に回した事を知った
そして自分達の運命に恐怖した、もう未来は無いのだと知ったからだった……


―同日 イースペリア領 ロンド 早朝―


馬車が見え御者台に鹿島が乗っていた。それを見つけたサリア達が駆け寄る
「お帰りなさいカシマ様」
「あぁ、今戻った。警戒態勢をレッドからイエロー、報復の可能性を考えてサルドバルド方面の監視強化を継続だ」
「了解致しました、直ちに」
「それと国境付近には近づくなよ?自分のケツは自分で拭かせるからな」
「……どう云う事ですか?」
「敵兵の死体は敵兵に片付けて戴くだけさ…丁度同盟会議も終わって帰還途中の筈だ」
「……了解致しました……」
鹿島は笑っていたが、ふとサリアを見る
(震えている…そうか、俺が怖くなったか…)
と、自嘲の笑みに変わる
「奴等はこれで動けまい、戦力は壊滅し指揮官共々技術者も捕虜にした証拠はバッチリだ」
「……そうですね…」
サリアは鹿島を見ない、否、見れないでいたが
「これで帝国がどう動いても奴等は今回の結果で此方に攻撃は仕掛けて来れない…中々の買い物だったな」
それを聞いて初めてサリアは鹿島の狙いに気付き顔を上げるが鹿島は移動を開始していた
「俺は情報部に捕虜引渡しと、女王陛下に帰還報告せねばならん。後は任せたぞ、サリア…」
「は…はい!カシマ様!」
敬礼をしカシマを見送るサリア
(あの方は自分を犠牲にしてこの国の安全を守ったんだ…有難う御座いました…)
心の中で感謝の言葉を送った…


―同日 イースペリア、ロンド間の街道 昼前―


鹿島は捕縛した敵達を護送していた
辺りは冬の匂いが強く街道脇には除雪された雪が積まれていた
(これで完全にサルドバルドは此方への手を失った…残るはマロリガンだけ…か)
煙草を吸いながら手綱を操る、季節は冬だが豊富なマナの影響で暖かい陽気だった
(ん?あれは…)
鹿島が前方からやって来る隊列を見た
それはサルドバルド王家の紋章と国旗を着けた隊列だった
馬車を端に寄せ停める
サルドバルドの近衛隊隊長と高位の文官が鹿島に気付く
「おや?これはこれは…国防将軍殿ではありませんか。この様な場所で如何なされた?」
白々しい問いを発する文官、馬車から覗くサルドバルド王は嘲りの笑みを見せる
近衛兵達は先日のラキオス王国近衛兵の事件の記憶が新しい為、目を逸らす
「はっはっは…少し国内の掃除をして来ましてね…帝国の妖精とそれを率いてた連中を片付けて来たんですよ」
そう語って壮絶な笑みを見せたら文官達は途端に顔を青ざめる
「サルドバルドの国境警備隊は何をしていたのでしょうね?貴国の方からの進入者でしたが?」
サルドバルド側は一様に絶句する
「帝国の後方指揮所もついでに潰しましたよ…我が国の領内で良かったですよ、貴国の側でしたら叩けませなんだ」
「……そ…それはそれは…」
「指揮官、参謀、技術者以外は殲滅致しましたよ…彼等は捕虜にして拷問にかけます。情報が欲しいですから」
文官達と国王、近衛隊長は最早血の気が引いていた
「そうそう……国境側に近づく時は御用心を…まだ死体が残っていますので……」
文官や国王は完全に震えていた、絶対の自信を持って挑んだ作戦が完敗したのだから当然の反応だった
「帝国の奴等も授業料が高く付いたと愚痴ってるでしょうな、はははははは」
「そうですな…ははは…」
引きつった笑みを出すのが精一杯で汗が止まらない文官達を余所目に紫煙を吐く鹿島
「この次、また懲りずに来たら後悔すら生温い目に合わせますよ…王族纏めて…ね」
と文官達と国王を睨みつけ、瞬間笑みに変わる
「取敢えずはロンドの整備を急がせたく思います、今回其方の不祥事もあった事ですし…異論はありますまい」
「……た、確かに、私共の不手際でご迷惑をお掛けしましたが、しかし!それとこれとは別の…!」
文官が声を荒げるがそれを制して鹿島が畳み掛ける
「では私はこれで…女王陛下に御報告申し上げねばなりませんので…道中お気をつけて…」
会釈し手綱を振るい移動を再開する
文官達は恐怖に縛られて顔を青ざめて立ち尽くしていた


同日 イースペリア王城 執務室 夕刻―


夕闇に支配された執務室に鹿島とアズマリア、それに情報部将校が鹿島の報告を受ける
「サルドバルド側の人員と戦力は殲滅、一部人員は捕虜にして今後の為に使います」
「そうですか…で、帝国の動きは?」
「ありません、既に訓練士はサルドバルドを出国しております」
「妖精共はおそらくラキオスから逃げたソーマの妖精だろうな…試作実験の為の試験運用だろう」
「でしょうな…彼も帝国に付いたと報告がありましたから」
「情勢は此処に来て動き始めた様ですね」
「だがこれでロンドの拠点整備にサルドバルドも文句は言えまい?釘も刺したしな」
「サルドバルド側の混乱は凄い物ですよ?文官から国王まで酷いうろたえっぷりです」
「ふっ……一罰百戒って事だ…奴等もこれで大人しくするさ」
「これで残す問題はダーツィ、ラキオス、マロリガンですね…」
「いや、ダーツィは結局動けまい、ラキオスは来年決着が付く、問題はマロリガンだけだ」
「では情報収集は帝国とマロリガンに絞りますか?」
「いや、帝国はリレルラエル以外で良い。それ以外は現状維持で構わない」
「分かりました、では私は今後の編成やルートの確認がありますのでこれで…」 二人に礼をして退出する将校、部屋の中には二人きりになった
「そういえば…ラキオスの近衛兵の件ですけれど…」
「あれか…君を侮辱したのでつい…ね」
「困った人…冷静、冷徹なのにたまに熱くなるのね…」
「君達に感化されたのさ…」
お互いを見詰めあい微笑みあう
「ですがラキオス、ダーツィ、マロリガンへのどう対処致しますか?」
「ダーツィ、ラキオス共に捨ておけ、問題はマロリガンだけだ…」
「…何故ラキオスとダーツィは放置するのですか?」
「ダーツィは既に無力化され帝国の支配下だ。ラキオスは来年、私の部下が動く予定なのでな」
アズマリアは唖然として聞き入っている
「マロリガンに関しても既に手を打っている、新設した技術開発局でな…」
それだけでも無いがな、と小さく呟く
「そうですか…カシマには無理をかけます…」
「気にするな…好きで買った物だ…」
ゆっくりと紅茶を飲む二人、辺りは夜の気配が濃くなりつつあった
「全ては来年…ですか」
「そうだな…私も打てる手は打っておこう…」
「カシマ…食事はまだでしょう?どうですか?」
「戴こう…夜は始まったばかりだ……」


こうして大戦前の物語は幕を閉じる
イースペリアはイースペリアとロンドとの防衛拠点化を終えて「要塞国家」として動き出し来年に備えていた
サルドバルドは戦力の大半を喪失し勢力を弱め完全に沈黙し、影で帝国の属国化したのだった
ラキオスは野望の為に沈黙し虎視眈々と世界統一に向けてゆっくりと動き出していた
マロリガンはクェド・ギンの野望と目的の為に国内で着々と力を蓄えていた
バーンライトは打倒ラキオスの為に力を温存し国境線は未だに緊張状態が続いていた
ダーツィは帝国に半併呑され形骸化し、既に国家として終わっていたが未だに高い軍事力を持っていた
帝国は各国に介入しながらも沈黙を守り、来年の準備を進めていた……


そして全ては「永遠戦争」へと繋がる

過去の現在と未来の変革の序曲は奏でられた

龍の大地の未来は未だ混沌としていた









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