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それは仕事の筈だった―


それは義務の筈だった―


それは戯れの筈だった―


それは気紛れの筈だった―


それはほんの小さな変化―


しかし世界にとっては大きな変化―


運命は彼を変えて世界を救う―


それは小さな大きい愛と理不尽の物語―


これは記録にも記憶にも残らない誰にも語られる事の無かった物語―


彼等と彼女達の小さな愛と涙の抒情的な叙事詩―






永遠のアセリア〜if〜

永遠から始まる叙事詩

序章 黄昏と暁の邂逅点

第零話 仕事と云う名の前奏曲






年数不明 12月後半 午前10時
―都内某所―

コッ・・コッ・・コッ・・彼は呼び出しを受け出勤して来た、だが其処は会社とは思えぬ程暗闇が支配していた
(さて…第1級緊急警報とは…な、厄介事は保守三課の仕事だが…「こちら」に回って来たと言う事は…)
コッ!っと無機質なドアの前に立つ、しかし彼は壁に埋め込まれたコンソールに目を向け呟く

「認識番号D−668290…掃除屋だ…確認頼む」
Pi!と電子音が鳴り一瞬、目も眩む程の光が彼を包み込みまた暗闇へと周囲が戻る
デジタル音声が彼の入室を促しドアが開く、中に入り彼は目の前の男の下へと進む

「一体何事だ安藤室長?コードレッドまで敷いて我々に緊急招集を掛けるとは…
保安三課が黙っては無いだろうに…」
「…保安三課は本件から完全に手を引いたよ…死者6名重軽傷者15名を出してね…
だからこれは正式な召集なんだよ」

彼は刹那、驚きを隠せずにいたが直ぐに顔を戻し軽く溜息を吐き続きを促す
「三ヶ月前東京のICET本社の直轄している全サーバーが一時停止した件、覚えてるかい?
検査結果は白で、一時的なウイルスの影響だろうと考えられていたんだ…
だがおよそ48時間前、第5番サーバーの一部が完全に停止、それに伴い他領域を侵食、汚染を開始…
我々開発4課は緊急調査を開始。結論は第5番サーバーの第五世界の崩壊が始まっている事だった…」

安藤は項垂れたまま、彼は呆れた口調で安藤に問い質す
「アレは遊びだろう?何故其処まで大袈裟に出来るのか理解出来ないのだが?」

安藤は煙草に火を点け軽く手を振る
「分かってないねぇ君も、アレは我社のドル箱商品だ。それに…」
「それに?」
「個人的だが…幾つかの貴重な実験データも入ってるし、現在進行形なんだよ。
ついでに言うと本社の業務にも使用しているんだ。
アレが停止、暴走を続けると本社も危ない。だから三課の出動だったんだよ」
失敗したけどね…と安藤は呟き彼の目の前のソファに座る

それを聞いて彼は思考を巡らせる
(クラッカー…?いや、リスクが大き過ぎる…純粋な事故か?)
「…原因は?そもそも攻撃か事故か、停止そのものはウイルスの影響だろうが…此方での仕事なのか?」

彼は頭の中で疑問点と問題点を整理し始める
「…いや、原因は純粋な事故だ。監視システムがウイルスを発見出来なかったのが引っ掛かるるけど…
停止の原因は確かにウイルスだったけどね…もうこれはバグによる侵食なんだよ」

それを聞き彼は顔を顰める
(事故なら何故、保安三課が出動した?三課は荒事専門だ…と言う事は…だ)
「『あちら』での仕事…か…、だが通常のバグ程度なら保安三課でも片付く筈だが…
出来なかった…と、…一体何が起こっている」

眼鏡を外し眉間を揉む安藤…疲労の色は隠せないらしいがそれでも毅然と彼を見据える
「第5番サーバーの中…あそこの特徴…永遠神剣システムとエターナルシステムは覚えてる?
前に仕事を頼んだよね?
エターナルが複数の組織化してて、確かロウって言ったかな、
その組織の幹部クラスにウイルスが付着したらしくてね…
その幹部がバグ化した…上位エターナルでバグ化されたら保安三課の装備じゃちょっと…ね」

その話を聞いて厄介事だな…と呟いた後、煙草に火を点ける
「状況は理解したが…一応聞いておこうか…ロウのエターナルはNPCだろう、其方での排除は?」

安藤は首を横に振り溜息をついて答える
「バグ化の影響でね…データスクリプトに異常な数値の改変が確認されたよ。あれの排除は此方では無理だ」

紫煙を吐きやれやれ…と首を振る
「つまりは、直接奴本体を叩くしか無い…か、だが聞いた感じだと我々でも厳しいと思うがどうするんだ?」

安藤はそこで初めて笑う、待ってましたと嬉しそうに実に楽しそうに
「本社の予定は破棄だったが猶予を貰った。あれは実に貴重な実験データが満載だからね。
だから5番サーバーは一時凍結、横浜、名古屋、大阪の新型7,8,9番サーバーからのアタックと
此処の光ニューロコンピューターで迂回経路を作ってバックアップデータで上書きをする。」
「では我々の仕事は?そんな単純なら我々を呼んだ意味が無い…な、続きを」

彼等は身を乗り出し作戦内容の確認に入る
「うん、残念だが感染前のデータはバグに消されてしまったんだ。
だが運のいい事に感染直後のデータは存在する、僕が凍結保管していたからね。
君達の仕事は書き換えた感染直後の「永遠世界」に行って貰う。
そこで感染直後の敵エターナルを発見、捕捉しコレを殲滅、完全消滅させる事」

彼は口笛を一度吹き確認事項を聞く
「拘束解除、装備、人員」
「コードレッド発令に伴い拘束制御を限定開放、開放時間敵殲滅完了時迄。装備は自由、人員は君と少佐」
「作戦指揮、及び作戦行動」
「君に全て一任する、大佐。君が最善と思う行動を許可する。但し実験データの保守を忘れずに」
「情報と補給」
「此方が随時、状況報告と各国の情報を提供、補給もだ。全て此方が完璧に用意する」
彼等は煙草を消しお互いに笑い彼は安藤に目で契約成立の意を伝える
「報酬」
「成功報酬は上からの限度額提示は50億が上限だね…米ドルで良いかい?」
「ポンドで20、ユーロで15、米ドルで15…口座はいつもの場所で、契約書は簡易で構わん事務所へ送れ」
「了解した、では立川で少佐と合流後厚木へ向かってくれ…作戦行動開始時刻は本日1500。厚木到着後永遠世界へ飛んで貰う」
「立川に向かう前に情報と俺と少佐の煙草をこっちに回すのを忘れるな…任務了解」

彼はコートを翻し部屋を出て行く…未だ見ぬ戦場へ向かう為に…その背中に安藤は声を掛ける
「新年までには片付けてくれよ?今年はお前と飲みに行くんだからな、頼んだぞ…鹿島」
彼、鹿島は軽く手を振って答える、歩みは止めずにただ、戦場へ………


同日午後15時過ぎ
―府中上空輸送機内―


轟音と友に彼等は輸送機内で情報を検討しつつの作戦概要を確認したり装備の確認、チェックをしていた。

「…少佐、君は派手な登場が好きだな…相変らずか?」
「大佐殿、自分は作戦行動が終わり帰還中でした。乗っていたのが偶々この機体だっただけですが?」

彼等が搭乗しているのは米空軍機C−17「グローブマスター」名実共に世界最大級の軍用輸送機である
お互いに軽口を叩き煙草を吸いながらブリーフィングを開始する
「さて少佐、作戦は理解したな?我々は死ぬ事を忘れた馬鹿を排除、殲滅する事が目的である。質問は?」
「ツーマンセルで行動致しますか?」
「いや、お互い単独行動を取る。私は君より早い時間軸に降りて作戦行動を開始する。
少佐、君には敵性エターナル組織ロウと交戦中のカオスとの交渉を頼む」
「了解ですが…交渉内容は?」

鹿島は煙草を吸いながら安藤の寄越した資料に目を走らせこう告げる
「龍の使用許可、倉橋の作戦への便乗…後は世界への介入の了承と、中立の出雲への折衝要請だな
ただでさえ厄介事なのに、出雲まで出て来たら厄介事が増えて適わんさ」

鹿島はゆっくりと紫煙を吐きながら眼下に広がる街を見下ろす
(そろそろ横浜の補給基地か…厚木まで後少しだな…)
「今回の作戦はバグ化前の感染初期段階の敵殲滅にある、
実はその時間帯はちょうど良い具合でロウとカオスが争っている。
そこに食い込み楔を打ち込み敵を包囲殲滅する」
「つまり…カオスには作戦概要は極秘で…と?」

鹿島は詰まらなそうに鼻で笑った
「その通りだ少佐、ロウとカオスの干渉を利用しての我々の任務だ。カオスには話せまい?」
ローガスは見破るかもしれんがな…と呟く鹿島
「了解です、で?我々の装備は?」
鹿島はレポートを少佐に向け放り投げ渡す。
「私には真理と摂理。少佐、君は具現と投影だ。…能力の開放も許可する」
「其処までとは……流石に一筋縄では行きそうもありませんな」
少佐と呼ばれた男は驚愕し額に冷や汗が滲む

「言っただろう?我々の任務は見敵必殺だよ。塵芥すら残さずに灰燼に帰す、それだけだ」
「世界の方は如何致しますか?」
そう少佐に告げられ鹿島は思案する
(本来なら世界事奴等を檻に入れての徹底した包囲殲滅が望ましいが…
カオスは敵対してでも止めに来る…か、ならば…)
「…世界事潰す方が早いがカオスにまで敵対されると万一にもロウを逃す可能性がある。
今回は敵性エターナルのみ標的とする」

その時機体が速度と高度を落とし始めた、ガクンッ!と機体が揺れる
「了解です…っと…そろそろ厚木ですね…これから如何致しますか?」
「君はそのまま迎えのヘリで横浜のICET支社へ向かえ…準備は出来ている筈だ、私も準備が整い次第向かう。
私と安藤への直接回線を持った通信機と対エターナル用ECMを忘れるな」
「了解であります大佐殿」

彼等は立ち上がり煙草を捨て踏み消す
「では君に任務を告げる、復唱後受領確認を」
「はっ!」
「本日1600より作戦開始、ウォルター少佐はカオス陣営と接触交渉し彼等の協力を得ろ、
その後彼等の作戦に便乗し高嶺悠人に接触、彼を援護、別命有るまで任務を継続せよ」
「本日1600作戦開始、カオス陣営と接触交渉し彼等の協力を得る事
その後彼等と共に高嶺悠人を援護、別命有るまで任務を継続!
任務受領を確認、謹んで拝命致します!大佐殿!」
かっ!っと足を揃え最敬礼する少佐、それを見て静かにただ一度だけ首を振る大佐

ブリーフィングを終え彼等は荷物を纏め移動の準備を終えながらお互い何時もの軽口に戻る
「作戦開始後、私の呼称は自由だ名前でも階級でも構わん。いいな?ウォルター」
「了解しました大佐」
「私は厚木で受領する物がある。その後1330に時計合わせ、作戦開始だ」
「大佐殿、本作戦の概要と任務は理解致しましたが・・・作戦名を聞いておりませんが?」

機体は厚木基地に着陸、後部ハッチが開放されて光が差し込む中、彼は振り向いてこう告げた・・・
「本作戦名を聞く必要無いだろう…ただの修正作業にに過ぎないのだからな…しかし」
外へ出て空を仰ぎ歩を進める…だが彼は振り向きこう告げる…
「ふっ…下らない陳腐な作戦名だが聞くか?」
ウォルターは直立不動だが顔は笑いながら答える
「是非にお願い致します、大佐殿」
「物好きな奴だ…後悔するなよ?…【永遠開放】作戦、状況を開始する!」
「サー!イェッサー!」
彼等の戦いは今、漸く歯車が動き出す……




年月日時刻不明
―時と空間の狭間―




ただ其処には円卓と椅子があるだけだった…
黒い男と対峙するは数人の影
数人の影も中央にいる誰かの回りで待機している

黒衣の外套を着て黒い軍用帽を目深に被った男と見た目にはまだ幼い印象を残した青年が会話をしていた
「……以上が此方の要求内容です…了承願います、
作戦内容については私には権限が御座いませんのでお話出来ません。
が、今回の事はそちらにとってもイレギュラーの筈…我々に助力頂けませんか…
カオスリーダー、永遠神剣第一位『運命』の契約者、運命のローガス殿」
ローガスと呼ばれた青年は目を瞑ったまま黙想している…
とその時周りの影から慌てた声で少女が捲し立てる

「ちょ…ちょっとちょっとちょっとぉぉぉぉぉ!」

バルガ・ロアーからの叫びかジャ●アンかっ!と突っ込みたくなる程の大音量で叫ぶ少女
ウォルターは何時の間にかipodを装着し最大音量で栗林み●美を聴いて遣り過ごす(ォィ
周りの数人の幹部達は我関せずとお茶を飲む始末でローガスは微動だにせず黙想を続ける

それでも時深は止まらない。時を駆ける暴走年増ストーカーの面目躍如である(笑)
「何ですか!何なんですか!貴方は!そんな話をローガス様が行き成り信じる筈がありません!
それに!わ…私の悠人さんに何する気ですか!私は何度も時を観てますけどそんな未来一度も「時深」あり…!」
騒ぐ時深を静かなただの一言で止めたローガスはゆっくりと目を開いていく
時深が驚いた様子でローガスの方を向く
いつも柔和なローガスが時深ですら数度しか見た事も無い程真剣な眼差しをウォルターに向けていたからだ
「幾つか聞いてもいいかな?答えられる範囲でいいから、ね?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・!

喋り方は柔和なのにローガスが発する圧倒的なマナが周囲を覆い尽し時深達も巻き込んで圧力を増して行く
大気が振るえる程のオーラフォトンでウォルターを押し包み第一位『運命』の主としての力を解放し始める
(ちょっ…!洒落になりませんよ!ローガス様の圧力の前じゃ私なんて…!)
時深は焦りを隠せない、それは周りの幹部達も同様だった。幹部達と力を合わせ障壁を展開する5人のエターナル
永遠神剣第一位『運命』とローガスの力はそれ程だった…原初の永遠者と言われる所以である…
(この圧力の中なら彼も無事ではいませんね…)
障壁を張りつつ時深は顔を上げてウォルターを見た瞬間、何か恐ろしい者を見る目でウォルターを凝視する

全てを圧倒し圧殺しようとするマナとオーラの圧力の中でウォルターは平然と紅茶を楽しんでいたのだった
「…ふむ…フォートナム&メイソンのプリンスオブウェールズですか…まだ淹れ方にムラがありますね…
個人的な趣向を言えばロイヤルコペンハーゲンのヴィンテージダージリンの S.F.T.G.F.O.P.1が好みですが…
これは故ダイアナ元妃殿下がお好きだったお茶ですから…ふむ…悪くないですね」
のんびりと紅茶の知識を披露するウォルターを見てローガスも圧力を解く
「申し訳ないですね、まだゴールデンルールを学んだばかりのE・ミニオンが淹れた物ですから」
と何事も無かった様に返すローガスに幹部達と時深は置いてきぼりになっていた
「いや、気遣いは無用です。久し振りに美味しいお茶をご馳走になりました。次は私がご馳走致しましょう
日本産ですが良い茶葉を入手しましてね、あの国は土壌が悪い事を苦にせず3000M級の山の茶葉園で栽培した
極上の茶葉が手に入りまして。あの国は水は極上ですから紅茶には最適ですよ」
はっはっはっと笑いあう二人を前にただ呆然と立ち尽くす時深
幹部達も何時の間にか立ち直り2人と同じく笑いながらお茶を楽しんでいる

漸く時深が正気に戻り問い詰める
「ちょっ!ローガス様!宜しいのですか?この様な怪しい人間を信用して!
そ…それに私の悠人さんを巻き込むなんて!…」
時深の目とバックに憤怒の炎が吹き荒れていた…

「絶・対・許・せ・ま・せ・ん・!」

どかーん!と火山の噴火音が鳴ったような気がした面々だった
そんな中、ウォルターが心無い一言で時深を刺す
「貴方にそんな偉そうな事を吐かれる理由は無いなこの…

恥じ無し乳無し娘!この扁平胸がっ!

大体私とローガス殿との会談中に割り込むとは…常識も無いのか?この洗濯板は」
と鋭利なナイフ以上の切れ味で時深の心とコンプレックスを刺す
色々な意味でフリーズした時深を他所にローガスがウォルターを制する
「あまり時深を苛めないでくれるかい?後が大変だからね。協力の方は出来るだけさせて貰うよ」
今さっき龍達にも連絡したよとにこやかに言うローガス

「ご協力感謝する運命のローガス殿、是が契約の証と報酬の高純度大粒のマナ結晶です」
とウォルターは自分の荷物からマナ結晶を取り出しながら立ち上がり行き成り腰が低くなった…?
「今回ぃ〜、御紹介させて頂くのはぁ〜、高純度のぉ〜、…天然マナ結晶っなんですけどぉ〜」
まるでどこぞのトー●堂TVショッピングの北社長の様な喋り方でローガス達に披露していく
「今ぁ〜、これだけのぉ〜、天然でぇ〜、超大粒のぉ〜、マナ結晶でぇ〜、高純度の物はぁ〜全っ然取れないんですけどぉ〜
今回はぁ〜、私がぁ〜、世界を巡ってぇ〜、ご用意致しましたっ」
申し訳なさそうに物の説明を進めるウォルター、ローガス達は拍手喝采で時深だけは茫然自失としていた
「でぇ〜、今回はぁ〜、カオスさんとのぉ〜大事なお取引ですからぁ〜、かなりぃ〜、頑張らせてぇ〜、頂きましたっ
そこでぇ〜、このぉ〜、マナ結晶をぉ〜、今回限りでぇ〜、もう2つ!同じサイズ同じ種類ぉ〜、ご用意致しましたっ」
ローガス達は何故か凄ぉ〜いだの高そ〜う等、茶々を入れていたが時深は突っ込まない、否、突っ込めなかった
「でぇ〜、今回ぃ〜、初めての事なんですけどぉ〜、当然〜消費税込みぃ〜、送料無料でぇ〜…
本当にぃ〜、勉強させて頂きましてぇ〜、ギリッギリっのぉ〜、お値段なんですけどぉ〜…」
皆に緊張が走った、誰かが唾を飲む音がした…
ウォルターが申し訳なさそうに後ろに身を下げつつ価格を発表した(笑)

「198,000え〜〜〜〜〜〜〜〜ん」

皆が拍手と歓声でウォルターを包んでいた頃時深は…
(フフフ…私を怒らせましたね…後で色々痛い目を見て貰いますからね…)
と悲しみとトラウマからの復活を果たし憤怒と怨念の炎のオーラを展開していた

その後、余談ではあるがウォルターがエターナル化した悠人と合流した時の談話記録が残っている。そこから抜粋すると…
「バルガ・ロアー?そんな物…遊園地のホラーハウス以下だったさ…俺も大概世界の闇と地獄を見て来たが…
あれはその中でも別格だった…どんな物かって?生きたまま脳髄に電極打ち込まれて愉快痛快脳シェイクだった…
それが一番正しい表現だ。これ以上は勘弁してくれ、もう忘れたいんだ…」
と震えながらに悠人に時深の恐ろしさを語ったとされているが定かでは無い




聖ヨト暦328年エハの月 青三つ 昼頃
―ソーンリーム遺跡を見下ろす崖―




其処は一年を通して万年雪に閉ざされた自然の要塞
何故か生物の存在を感じない、誰も通さない極寒の氷雪監獄
其処には悪しきオーラが満ち満ちて結界が張ってあった
そんな場所で鹿島は目下の遺跡周辺の偵察をしていた途中ウォルターからの連絡が来た

通信機からウォルターからの報告が聞こえる
「予定通りこちらはカオスとの接触、交渉に成功致しました。引き続き任務を続行致します」

鹿島は吸っていた煙草を携帯灰皿に捨てながら遺跡を見下ろす
(予定通り…か、全て世は事も無し…だな)
「了解した、此方も準備は順調だ。残り2年…そちらも作戦の第2段階へ移行しろ」
「はっ!了解致しました、大佐殿」

通信機が沈黙しても鹿島は眼下の遺跡からは目を放さない、広域深々度探索をかけていた。
ステルス迷彩と完全な隠業、それと対エターナル用ECMのお陰で敵に発見されずにいたのである
ロウの完全支配地域でもあり、そこ等中にE・ミニオンの哨戒部隊が巡回していても発見されなかった…

「さて…龍の協力は得られて封鎖結界も問題無く使用出来る…カオスも問題無い…と」
鹿島はアンブッシュを解き偵察行動を切り上げ現在の拠点へと引き上げる
「確か…テムオリンだったか…貴様に逃れる術も無く逃す意味も無い…今暫くの間、天下を誇っているがいいさ…」
鹿島は獰猛な笑みを浮かべ未だ見ぬ敵へと告げる
「貴様は必ず殲滅する…我々「ケルベロス」がな…!」
そう呟き鹿島は敵地を離れる


同日 夕方
―エスリム山脈付近―


鹿島は洞窟の中にある隠れ家に向かった、世に誉れ高いヨーティア・リカリオンの隠れ家である
此処に来て偵察任務の後、補給の為、移動、下山した小村に出向いた帰り道
夜盗と山賊の大集団に囲まれ人を殺せない為、包囲されかけたイオを偶然救って以来世話になっていた
そこで鹿島は作戦行動の一環としてヨーティアとイオに技術指導と現代基礎科学の講義を行っていた
彼女達は今後の作戦の要に育ちつつあった

「イオ、ヨーティア、今戻った」
ドアを開けて本の大海の何処かにいる2人に声をかけた
「お帰りなさいませ、カシマ様」
「遅いぞカシマ!何時までほっつき歩いてたんだぁ〜?イオが心配してたぞぉ〜?」

落ち着いて良く通る綺麗な声と騒がしいからかう様な口調が中から返って来た
ほっと安堵した表情で出迎えるイオ、待ち兼ねたと勢い良く顔をあげるヨーティア

「済まない、これも任務でな。定期的に監視せねば状況把握が出来ないのだ」
と白い外套をフックに掛けイオに土産を渡す
「これで許せ、小さいが高純度のマナ結晶だ。金に換えるか自分で使うかは任せる」
イオの白く細く華奢な手に結晶を乗せる
「…有難う御座います、大切に致します…」
ぎゅっと胸元に抱える様に結晶を引き寄せ顔を赤らめるイオを見てヨーティアが茶化す
「お〜お〜熱いねぇ〜、心配なら私もしたんだがねぇ?私には何も無いのかい?」
ふぅと溜息をつき鹿島はポケットの小瓶を投げて渡した。
「俺の貴重な酒だ…それでいいか?」
「貴重〜?たかが酒如きでうだうだ言うんじゃないよ。ま、こいつは貰っとくけどねぇ〜」
とニヤリと笑い酒の口を開けて一口含んだ

「…んんっ!何だいこいつは…これが酒?とんでもなく美味いじゃないか!」
とヨーティアは驚愕の表情で鹿島を見上げる
「当然だ、バランタインのラフロイグ30年だぞ…ピートの香りは極上…アイラモルトの王者の味だ」
と告げながら準備を始める鹿島
「それで不味いなんてぬかしてみろ…お前には二度と飲ませんよ…」
と笑いながら風呂に向かう…その後ろをヨーティアとイオが何故かついてくる

「アカスクに似てはいるが全くの別物だな…この香りに喉越し…私は惚れてしまったぞ…」
ウットリとしながらチビチビ飲みながらヨーティアもイオも付いてくる
「イオ…ヨーティア…私は風呂に入るのだが…?」
と足を止め彼女達の行動を疑問に思った鹿島が訊ねる
「ん〜?決まってるだろ?一緒に入るんだよ。イオも一緒だぞ〜?良かったなカシマ、美女に囲まれて」
「…私はお留め致したのですがヨーティア様が…申し訳ありません…」
笑いながら気にも留めないヨーティアと羞恥に顔を赤らめながらも引き返さないイオの二人
やれやれ…と首を振る鹿島は溜息をついた
「まぁ、いいさ…丁度二人に話があった所だ、風呂場での密談と洒落込もうか?」
と二人に向かい笑いながら告げる鹿島だった


洞窟の奥は開けた天然の浴場で温泉が湧いていた
火山帯でもないこの山脈が温泉を出すのは異常な光景でもあるが
エスリム山脈近郊は門番である龍が近くに存在し、更に「再生」の影響でマナ密度が濃く
地熱を大量に発しているのがその理由でイースペリアやサルドバルドには湯治場がある程、良質の温泉が湧いていた

「…でだ、2年後この大地に大戦火が起きる。神剣の意思に操られた愚者達の手によってな」
のんびりと風呂に浸かりながら今後の展開について語る鹿島
「俺はこの大地に4神剣のエトランジェが現れる前にイースペリアに向かう事にした、
あそこの女王は聡明だ…亡くすには惜しい人材だからな」
イオは衝撃を隠せずにいたがヨーティアは面白そうに鹿島を見る

「…で?あんたは私達に何をさせたいんだい?何か理由があって私達に知識と技術を与えたんだろう?」
「単純だ、二人には二年後にラキオスへ向かって欲しい。レスティーナ姫を手助けして貰いたい」
実際は厄介事かもしれんがな…と呟く鹿島
「まだ子供だろう?変に暴走されても止められないぞ?私は」
と渋るヨーティアに鹿島は笑いながら告げる

「問題ない、あれは子供だが頭は回る。あの姫はとんでも無い野望をアズマリア女王と交わしているらしいしな
もしアレならお前自身がレスティーナを見極めればいいだろう」
何の気も無しに突拍子も無い事を告げる鹿島に2人は驚いた

「なるほどなるほど…で?それであんたにメリットはあるのかい?」
「ある、エターナル共の裏をかいてこの世界の真の解放を促し、俺は奴等を殲滅する」
鹿島の明確な意思と強い決意が垣間見えた二人は息を飲む
「無論、ただとは言わない。技術と知識の他にもう一つ…ヨーティア、お前にくれてやる…」
それを聞きヨーティアの目に俄然好奇心の火が灯った
「興味深いねぇ…何をくれるんだい?」
「今は言えん…が、お前が求めていたものだ」
と含み笑いでヨーティアを見る

ヨーティアは少し考え頭を掻いた後ニヤっと笑い申し出を受けるのだった…
そして鹿島は二人に今後の作戦概要を説明し、2年後に備えて動き出す
全ては2年後…龍の大地に新しい未来が開けた瞬間でもあった

風呂から上がった後、ヨーティアは研究室に篭ってしまった
鹿島は外に出て涼みながらの秘蔵の久保田で月見酒を楽しんでいた
「……ふぅ…良い酒と良い月夜…それに良い女が居るってのは素晴らしいな……な?イオ」
「…気付いていらしたのでしか?」
背後からイオガ姿を現す
「なに、そろそろ来ると思ってな…」
「……そうですか…」
そう呟いてからそっと鹿島の隣に座る
そして悲しげに、寂しげに鹿島を見つめる
「…何時、御発ちになるのですか?」
鹿島は盃を空けてイオを見詰める
「お前と離れるのは寂しいが早い内に発つ…後手に回りたくないのでな…」
イオは俯き寂しげに言葉を紡ぐ
「また…御逢い出来ますでしょうか…」
鹿島はイオを抱き寄せそっと囁く
「同じ道を行くんだ…また逢える」
「……はい…その日を御待ちしております…」
目尻に涙を浮べながらもそっと瞳を閉じるイオ、一筋の涙が零れ月明かりに照らされて光る
そっとキスをして影が重なる…
「忘れないで下さい…私の心は常にカシマ様の御傍にある事を…」
イオは柔らかい笑顔を浮べる…
鹿島は逆に苦しげに顔を歪ませる
「本来、私は存在しない筈の者だ…なのに君と深い関係を持ってしまった事…済まないと思っている…」
「何故…その様な事を仰るのですか?…」
「君を愛した事を後悔はしていない…だが帰る時、君を悲しませる事が…辛い……」
そんな鹿島の頬にそっと手を添えるイオ
「良いのです…貴方と別れる事は悲しい…けれど貴方と出会えなかった事の方がもっと悲しいのですから……
貴方が消えても…カシマ様が私を一人の女として愛してくれた事…忘れません……」
ゆっくりとイオが近づく……
「愛しております…カシマ様…それが全てです……」
「…イオ……」
お互いを離すまいとしっかりと抱き合う二人
もう一度影が重なる……
別離を前にお互いを感じ愛し合う二人だった……

星空と月だけが彼等を優しく見詰めていた……




同年 エハの月 赤2つ 夜半
―イースペリア領王都イースペリア城最上階―




コト…とナイトテーブルにグラスが置かれる
ふぅ…と溜息をつく一人の女性が寝る前の寝酒を煽る

(ダーツィとの軍事緊張も然る事だけど…ダスカトロン砂漠の拡大…帝国の軍備増強に龍の魂同盟での折衝…)
「……頭が痛くなる事ばかりですね…今は何とか緊張状態が続いて拮抗しているけど…何時まで持つ事か…」
と疲れきった表情で弱音を吐く少女にも見える女性が項垂れていた
彼女こそが今代のイースペリア王国女王アズマリア・セイラス・イースペリアその人だった

疲れが見えるその瞳に折れない心を映し決意を新たにする
「いえ…今こそ国内を引き締め戦乱に備えるべき…!此処で負ける訳にもいかない…」
そう呟きグラスに残る赤銅色に輝く液体を飲み干す

その時テラスに一人の男が降り立った、彼こそがイースペリアとアズマリアの運命を大きく変える事になる…
「おやおや…そんな飲み方では体を壊すぞ…?アズマリア・セイラス・イースペリア女王陛下?」
彼は優しげに彼女に語り掛ける…だがそれは王城最上階のテラスいう場所柄、非常に違和感があった…
アズマリアは驚愕と混乱で立ち上がる
「…あ…貴方は誰ですか!此処を女王の寝所と知っての狼藉ですか!」
アズマリアは警護のスピリットを呼ぼうと大声をあげる

そんな彼女の行動に鹿島は小さく笑みを浮かべる
「誰も来ないさ…先に眠って貰ったよ衛兵にもスピリットにも…な。私は君と敵対する気は無い
君が現実主義の聡明な女王だからこそ力を貸そう…と思ってな」
鹿島は悠然とした態度で女王に語りかける

アズマリアは急速に眠気と酒気が抜けて行くのを感じ思考が加速するのを感じる
(一体これは…いえそれよりも…力を貸すとは…?)
「貴方が誰かは後で教えて頂けるんでしょう?それよりも力を貸すとは?」
アズマリアは姿勢を但し男を中に入る様に促す

鹿島はアズマリアの前に傅き頭を垂れる
「この様な時間に御前を騒がせて申し訳ありません女王陛下。しかしこの世界に残された時間を鑑みて
急ぎ陛下の御前に参った次第で御座います」
アズマリアは一瞬驚いたが彼に手を差し伸べ優しげに微笑み言葉を紡ぐ
「…許します、頭をあげなさい…そして貴方の話を聞きましょう」

鹿島は姿勢を正し女王の前に立つ
「有難く…私は鹿島、鹿島神一郎……エトランジェです。近い未来この大地に戦乱の火が覆います
戦争を回避する術も無いまま…ですが私はこの大地の破滅を救いたいのです」
(やれやれ…まさに喜劇だな…ウォルターが居なくて助かった…)
鹿島はそんな思考を感じさせないまま真剣な瞳でアズマリアを見つめる
アズマリアは驚いた表情を直ぐに戻し鹿島を見つめる
「…カシマと言いましたね?夜は始まったばかり…もう少し詳しく聞かせて頂けますか?」
イースペリアの夜は更ける、イースペリアはこの日を境に「要塞国家」とまで言われる程、防衛に徹した国家に変革する

この日世界は大きく変革する…永遠者の予定を大きく超え世界は開放への道程を進みだす―




2008年11月29日午後21時過ぎ
―東京都 神木町某マンション―




ウォルターは作戦第二次段階の為神木町のとあるマンションに拠点を構える事にした
此処に来て既に2ヶ月が過ぎお隣さんとの仲も親密になり彼は満足していた
「ん〜♪ふふ〜♪…ん〜ん〜〜ん〜♪…」
鼻歌を歌いながら彼は料理を続ける
彼の部屋には芳醇なスパイスの香気が満ち溢れていた
彼の目の前には大きな寸胴鍋があり中身を大きな木ベラでかき回し続け、軽く味見をする
「…ふむ…中々悪くないな…」
彼が料理の出来に満足していると隣の住人が帰宅したのだろう、大きな音を立てていた。

「ふぅ…相変らず騒がしいな…今日はあの2人も来てるのか?」
ウォルターはコンロの火を止めて隣の部屋に向かう

ピンポーン♪と玄関のチャイムを鳴らし勝手にドアを開ける
「おい悠人君、もう少し静かに帰宅したまえ…佳織君が心配なのも分かるが少々乱暴だぞ?」
と告げて勝手に上り込むとそこには…
「あ、ウォルターさん。ご…ご免なさい、お兄ちゃんがご迷惑をおかけして」
「あ、すんませんウォルターさん…今日子と光陰を部屋に待たせてたもんですから…」
と高嶺兄妹が軽く頭を下げて出迎え、更には
「いや〜ごめんなさいね?このバカ悠がまぁ〜〜った迷惑かけちゃって」
「お?誰かと思ったらウォルターさんか。ま、勝手に上がるのはアンタだけか」
と悠人の背中を叩きながら今日子が奥から現れ、皮肉気に笑いながら光陰が続く

「おいおい今日子君に淫行も一緒か?道理で騒がしい訳だ…試験勉強か?ご苦労なこったな」
と何気に光陰に対してだけ真実を含めた皮肉を送るウォルター

「ちょ…誰が淫行だ!誰が、俺は品行方正な寺の息子だぜ?そんな御仏の逆鱗に触れる事は…」
「黙れ、この真性ぺド坊主。今日子君が居ながらまだ足りないか?それとも今日子君だけでは
君の溢れ出す煩悩の涅槃には程遠いのかね?それとも今日子君のサイズが小さければ満足したかね?」
「いやいやいや!それとこれとは話が違うだろ?今日子のサイズに不満は無いさ、
だが美少女は人類の宝だ!俺は彼女等に下心を持って接してなど断じてない!
あの美しい宝を俺は愛でる事だけで……」
光陰が熱く語りだすがウォルターはその場を離れ悠人達の元へ移動する、何故なら…

「こぉ〜おぉ〜いぃ〜〜んくぅ〜〜ん?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!

と今日子が光陰の後ろで仁王立ちをしていた
背中からは赤い炎と憤怒の表情で睨む不動明王が顕現していた
「もう遺言は決まったかなぁ?」
と天使の声色で優しく告げる
光陰は顔を真っ青を超えて白くなり冷や汗とも脂汗ともつかない汗を流していた
「ちょ…待て!今日子!これには色々と…!そもそもウォルターさんが…!」
しどろもどろになりながら弁明を続ける光陰に今日子は全然笑ってない笑顔で死刑宣告をする
「光陰?」
「な…なんでしょう?」

「一・辺・死・ん・で・こぉ〜〜〜い!」

「スパァ〜〜〜〜〜ン!」

「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………!」
と奇妙な叫びをあげながら吹っ飛んで逝く光陰を見つめてウォルターは
「哀れな…御仏の慈悲は君には存在しないな光陰君…一度八万油旬の彼方へ堕ちてやり直せ」
と手を合わせ合掌

そういえばと呟き悠人達に向き直る
「試験勉強も良いが飯は食ったか?どうだ俺の部屋で仕込み終わったカレーでも食わないか?」
と誘うと皆目が輝いて喜んだ
「ウォルターさんのカレーかぁ…アレは絶品だよなぁ…っと涎が」
「アタシもいいの?やったぁ〜♪佳織ちゃん付け合せ作ろっか?」
「あ…有難うございますウォルターさん」
と三者三様に喜びを表すのだが…

「お…俺の分は特…盛で頼むぜ…がくっ!」
光陰を思い出したのはカレーを食べる寸前になってからだった…

カチャ…カチャとスプーンの音と楽しい談笑が響く
「そういえば悠人君、訓練メニューどうだ?そろそろ変更しようと思ってるんだが」
とカレーを頬張りながらウォルターは聞く
「……んっ!そーだなぁ…バイトもあるからそんなにしんどく無いならいいっすよ」
とカレーを嚥下しながら答える悠人
「基礎訓練とCQCと…剣術の基礎は教えたから…次はナイフコンバットと精神鍛錬だな」
と意外と物騒な物を悠人に教えてるウォルターに光陰が突っ込む
「CQCは分かるがナイフコンバットや剣術はどうかと思うけどな?俺は」
「阿呆が、最近の物騒なご時世に一対多数戦闘の基礎を教えるのは基本だよ?
ナイフと剣術教えればこっちの獲物が長くても短くてもこれで問題無いのさ」
と皿を片付けながら語るウォルター。因みに後片付けはお礼と称して佳織と今日子がやっている

「なんなら光陰君も鍛えてやろうか?その煩悩も消え去るかもしれんぞ?」
とニヤリと笑うウォルター
「いらねぇよ、俺は器用だからな。大抵の事は出来るさ、喧嘩も…な?」
と顎に手をやり不敵に笑う光陰
「ふっ…そうか、おーい!悠人君!そろそろ組み手でもしようか!準備はいいか?」
と食後の軽い運動の為と悠人を鍛える為に悠人を連れ出すのだった…

これが彼等の平穏な日常だった…あの日が来るまでは―


同年12月18日午後17時過ぎ
―東京都 神木町 神木神社境内裏手―


キィィィィィィィン!
何かの共鳴音が一体に響き、辺り一面をマナの光が包む
「始まったか…」
呟くのは軍装に着替え装備を整えたウォルター少佐だった
ウォルターは懐から通信機を取り出し上官と連絡を取り始める

「大佐…聞こえますか?大佐…」
ザッ!と音声が切り替わり多少ノイズはあるが鹿島と繋がった
「聞こえる…ノイズが多いな…いよいよか?」
「はっ!其方に4神剣の使い手が召喚されます、この門を使って自分もそちらへ飛びます」
「了解した…此方は問題無い…少佐」
「はっ!」
「いよいよ始まるぞ…高嶺悠人の護衛…頼むぞ」
「はっ!了解致しました、では其方でお逢いしましょう」
ブツッ!と通信を終えて彼もまた光に飲み込まれる

4人の混乱と悲痛な叫びが響く中、彼は精神を集中しジャマーを起動させて作戦に備える
「悠人君…佳織君…今日子君…光陰君…頑張りたまえ…君達の戦いは無駄じゃないんだ…
悠人君のサポートに回る分、光陰君と今日子君が心配だが…仕方が無いな…」
ウォルターは悲しそうに顔を歪めた後、兵士の顔に変わる
「作戦は第二段階…敵は強大…面倒だがこれも仕事だ…奴等を排除しに行くか…」
そう呟いた瞬間、世界は金色の輝きに包まれて彼等5人は消えていた…

冷たい風が時深の足元を吹き抜ける…
「彼等の介入でどうなる事か…悠人さん…どうか負けないで…」
時深の悲しげな声だけが其処に残った…




彼等は渡った…龍の大地…火種燻る戦火の大地へと…彼等の運命は………









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