呼び出された部屋を少女は眺める。
どこにでもある部屋……とはいいがたい。
まず状況がおかしい。少女とその仲間たちは、呼び出されること自体が稀だ。
何か呼び出してまで伝える用があるとしても、滅多に彼女が呼び出されることはない。彼女はそれほどの地位にはない。
そして用が伝えられるときは、大抵が訓練場か戦場の幕舎だ。そこに伝令の兵が来て、端的に、ろくに説明もないまま命令を伝える。彼女たちはそれに従う。
そして場所がおかしい。何か呼び出されるとしても、この部屋……サーギオス城の地下室など、彼女が立ち入れる場所ではない。そもそも彼女は命あって城に近づいたとしても、うっとうしげな目を向けられるのが常なのだ。人間はそれだけ彼女を……彼女たちを嫌っている。こんな城の内奥にまで、地位のない彼女が立ち入れるはずはないのだ。
さらにいえば、その部屋もどこかおかしかった。まず家具がない。あるのはポツンと置かれたソファーだけである。
しかしそれは当然とも言える。場所は地下室なのだ。まさか貴人の部屋でもあるまい。豪勢な家具など必要ない。
ならば何か、作戦立案でもする部屋なのだろうか? でなければ兵士の仮眠室か?
しかしどちらも当てはまらない気がする。前者に関して言えば部屋は会議をするほど広くはなく、そして後者に関して言えば置かれているのはソファー一つだけなのだ。仮眠室とは言え、まさか兵にソファーで寝ろとも言うまい。
では……ここは何をする部屋なのか?
ふと、少女の脳裏に一つの言葉がよぎる。
逢引。
そしてそれこそありえないと、少女は頭を振る。
確かに場所は適しているかもしれない。だがこと自分に関して言えば、それこそがありえない。
自分と想い会うような相手などいない。どころか、自分に触れようとする者さえいない。
そんな自分と逢引? ありえない。この国の……いや、この世界のどの人間がそんなことを望むだろう……
そこまで考えて、少女はある嫌悪感を催す顔を思い出す。
放逐された前隊長に代わって、新しく自分たちを指揮することになった男。
逆らえない……逆らうことができないとは言え、決して自分から従おうとも思えない。
嫌な目をする男だ。
他の人間と同じ様な、侮蔑と嫌悪のこもった視線なら耐えられる。生まれてこれまでずっと受けてきた。
だが、あの男は違う。
あの男は部下を、自分やその仲間を、まるで狙うような目で見る。
その視線にこめられた感情は何だと言うのか……
考えるだけで吐き気さえ催す、そんな視線の持ち主。
あの男が配属されてから、自分たちの部隊は変わった。
有能な男ではあるのだろう。確かに自分たちは強くなった。
しかしその一方……様子がおかしい者たちも増えている。
考えられる理由はある。私たちは常にその危険と隣り合わせの場所にいると言っても過言ではない。
だが前隊長の時、そんなことは起こらなかった。そうはならないように、いつでも心を強く持てと隊長は教えてくれた。
怒りに身を任せないように。悲しみに沈まないように。恐怖から逃げようとはせずに。
そして自分たちもその教えに従ってきたはずだ。
その仲間が……次々と、短期間に、心が壊れていく。
負けないようにと鍛えられた自分たち。それをこうも屈服させるなど、もはや尋常のこととは言いがたい。
だとするのならば、その方法は……
そんなことを考えているうち、ドアの向こうから何かが近づいて来る。
少女はその気配に思考を止めた。
否、続けることなど出来なかった。
ドアをすり抜けてくる雰囲気は、そんなことなどできないほどに強く、禍々しい。
少女は反射的にまだ開かれていないドアの方へ向き、気をつけの姿勢を取る。
間違いない、あのお方だ……!
姿勢は正しく保ちながらも、その顔だけは下に向ける。近づきつつある者の噂は聞いている。どんな小さな失敗も、文字通り命取りとなりかねない。
――それにこの世界の人間は、自分たちの顔を見ることさえ嫌がるのが普通だ。
緊張と恐怖で体が震える。カチカチと鳴りそうになる歯を、食いしばることで押さえ込む。
習いで剣は近くの壁に立てかけてあるが、間違ってもそれに手を伸ばそうなどとは思えない。
こんな自分でも命は惜しい。
ドアが、開いた。
膨大な気配が自分の前を通り過ぎて行き、そしてソファに座った。
動きはない。少女は顔を上げない。
だが、入ってきた人物が座ったことによって、目の前に下がった前髪越しに、相手の姿が確認できる。
少女は床に落としていた視線を、恐る恐る上目がちに移す。
ソファに座るのは男だ。大きい、というわけではない。どちらかと言えば線は細い印象を受ける。
そしてその細身を見知らぬ世界の服が包み、その上から黒を基調としたローブが覆っている。
髪の色は、白に近い銀。そして……
目が合った。緋の眼。
狂眼だ、そう思った。
ある目的のために純粋で、そのための力があるために濁っている。
何かが瞳の奥底で揺らめいている……
そして、その眼が歪んだ。歪んだまま、前髪に隠れたこちらの顔を捕らえている。
少女は後悔し、恐怖する。
盗み見るような真似をして相手を怒らせたかもしれない。視線は切れない。
少女は目を再び視線を床に戻し、それだけでは足りず、恐怖に任せてきつく閉じる。
死を感じた。仕方のないことだ。自分と相手の立場。何よりこれほどまでの圧倒的な力量の差。
例えそれがどんな些細な理由だったとしても、今この瞬間、まるで指を鳴らすように自分の命が奪われても、そこには何らの不思議もありえないだろう。
ただただ恐怖の中に身を置き、少女は覚悟した迫り来るものを待つ。
だが。
「顔を上げろ」
かけられたのは、刃ではなく声だった。
――何?
少女は狼狽する。あまりの恐怖に、簡単な思考すら働かない。
言われたことは理解できる。顔を上げろ……自分に顔を見せろ、そう男は言った。
だが、体が思うように動かない。首を上げることさえできない。
少女は石像のように固まったまま、それでも外からも見えるほどに小刻みに震えて立ち尽くす。
「聞こえないのか? 顔を上げろ」
再び声がかかる。ほんの少し苛立ったような色。
少女は息を飲む。ただそれだけで心臓を握りつぶされるようなプレッシャーがあった。
だがこのままでは男の苛立ちは増すばかりだ。それでは本当に……殺されるかもしれない。
「ご、ご無礼をお許し下さい。ですが、あまりに恐れ多、く……」
ようやくそれだけ言った。
軽く空気が揺れる。男が鼻を鳴らした。
苛立ちの気配は消えない。
「いい心がけだ……でも無用な辞儀はいらない。僕が誰だかわかって言ってるのか? この僕が命令してると言うのに、お前はそれを聞けないというのか?」
「と、とんでもありません!」
少女は思わず大きな声を出す。必死だった。
その少女の様子に、男は小さく笑う。
「幸いにして僕は寛大だ……だからもう一度だけ言おう。その顔を上げて、僕に見せろ」
最後通告。逆らえば……最期通告。
少女は馬鹿げるほどの労力で、ゆっくりと顔を上げた。
男と真正面から向き合う。
ただそれだけで射すくめられた。
瞬時にまた下を向きたくなった。耐えかねる重圧。
だが、それはできない。これまで二度も失態を演じている。恐らく次はない。
目を合わせることだけは避けた。視線は男の頭を通り越し、その後ろの壁だけに固定する。
蒼白となった少女の顔を、何が面白いのか……男は口元を笑みの形に歪めて観察する。
顔が終われば、視線は下に下がっていく。
首、肩、腕、胸、腹、腰、太腿、すね、足……
逃げ出したかった。視線のまとわり突く先が、触れられてもいないのに明らかな感触を覚える。
少女は男の顔を見ていない。だから気付かない。その眼が、少女をねぶる眼が、ただ重圧だけではなく、現隊長のそれと同じ色を灯し始めていることを。
どれだけ時間がたったのだろう。
眺め回すのに満足したのか、それとも飽きたのか……
男は視線を少女の顔に戻す。
「力をくれてやる」
前置きもなしに、男は言った。
「どういう……ことでしょう……?」
少女は壁を見つめたまま問い返す。
「あの疫病神が生きてたんだ。ずうずうしくもくたばりそこなってね。あいつのことだ、また性懲りもなくつっかかってくるだろう……無駄だということが学習できずに」
男の言葉は、少女の問いに答えてはいない。
ただ苛立たそうにあらぬ方向を見つめ、途中からブツブツと独り言のようになる。
「この前は不覚とは言え手傷を負った。今度こそあいつをブチ殺せるように僕は力をつけないといけない。そしてお前たちには今の様な役立たずではなく、もっと優秀な手駒となってもらわなくてはならない」
「…………」
少女は断片的な情報から、男が何を言わんとしているのかを理解する。伊達に戦場は回っていない。
男が言っているのは敵国……ラキオスのエトランジェ、求めのユートのことだろう。
つい先日、二人のエトランジェがトーン・ジレタの森で戦ったということは聞いた。そしてその決着がどうなったかも。
ラキオスのエトランジェは致命傷を負うが、仲間の救助活動により一命を取り留める。そして自国――サーギオスのエトランジェも、軽くではあるが負傷した、と。
だが、彼女の関心はそこにはない。
役立たず、と言われた。
かつて大陸最強の部隊と言われ、今もそこに所属する自分が役立たずと。
絶対的な恐怖の中に一欠けら、自負と怒りが芽生える。
「お前たちの隊長……あの男もそれなりに使えることは使えるが、今ひとつ効率が悪い。やはり僕が直接手を下した方が早いし、何より今は僕にもその必要がある」
「……はい。それで、何をすればいいんでしょう」
「何もする必要はない」
そこまで言うならやって見せようではないか……
恐怖を押さえ込んで出した問いに、意味の取れない答えが返ってくる。
強くならなければいけない。ならば鍛えなければならないではないか。
それなのに、何もしなくていいとはどういうことだ?
「どういう……ことでしょう」
「何がだ?」
「今、エトランジェ様は私を強くしてくださると……それなのに、何もしなくていいとは……何か訓練をしてくださるのではないのですか?」
言った瞬間、哄笑が爆発した。
男は身を捩り、ソファから転げ落ちんばかりに笑う。
狂気さえ感じられた。
少女は笑われたことに怒りを覚えることすら忘れ、その狂態に呆然とする。
だが次の瞬間、男はピタリと笑いを収め、一転殺気さえ漂う眼で少女を睨みつける。
「訓練? 僕が? お前に? 思い上がるのも大概にしろよ。まどろっこしいのは嫌いなんだ。例え訓練だとしても、僕とお前が剣を交えるだと? 笑わせるな。どんなに手を抜いたって、お前なんかすぐに死んじゃうよ」
「も、申し訳ありません……!」
射すくめられ、少女は息も絶え絶えに答える。本気だ。確認するまでもない力の差。ただ向かい合っているだけで呼吸さえおぼつかないのに、それが剣を交えるなど……!
「大体僕が欲しいのは訓練なんかで身に付く小手先の技じゃない。もっと根本的な力だ。それがお前たちには足りない。そんなことすらわからないというのなら、鍛えるまでもない。……殺すぞ」
呼吸が、止まった。
小刻みだった震えが爆発する。
膝が落ち、へたり込む。それでも足りない。尻を床につけたまま後ずさる。
ただ睨み続ける男から少しでも遠ざかろうと、ジリジリと、無様に、滑稽に、ただ後ろへと弛緩した体でにじり去る。
だが、そう広い部屋ではない。
すぐに背中に硬い感触。振り返る。壁。
衝撃で傍にあった剣が倒れた。ガランと言う音。
自分の立てた音だと言うのに、彼女はそれにすら驚き、そしてまた後ずさる。
すぐに背中が着く。また壁だ。部屋の隅。自分で自分を追い込んだ。その事実がさらに彼女の混乱に拍車をかける。
股座に温かい感触。だが少女は自分の生理機構にさえ気を向けることはできない。
「も……もうし……あ、もうしわけ、う、ぅぅ……」
謝罪は切れ切れで、それもすでに嗚咽が混じって言葉の体をなさなくなってしまった。
男はそんな少女の痴態を、つまらなそうにただ見る。
「もういいよ。わかったんならとっとと終わらせよう。服を脱げ」
少女は泣きじゃくりながら、男の言葉を理解しようと努力する。
服を脱げ? 何故? ああ、そうか。私漏らしちゃったんだ。でもどうして? 着替えさせてくれるんだろうか? でも着替えなんてここにはないし……
恐怖と混乱の渦をたどり、少女の思考は退行を始める。当然男の指示などには従えない。
ただ一言、正気に返るためにも言葉を発しようとした。
何故。
だが、それが叶う前に、何かが顔の前をよぎった。
布を引き裂く音がする。
音のした方を見る。自分の胸。肌が見えている。
服が破かれた。何に?
少女は胸を隠すことも忘れ、欠けたパーツを探す。
……あった。
もはや切れ端となった服の一部だった布切れは、男の傍らにあった。
男は変わらずソファに座っている。
ただ、いつの間に現れたのか、その背後から異様なものが伸びていた。
腕、のように見える。が、腕ではない。
関節はなく、軟体動物のように、ウネウネとおぞましく蠕動している。
オーラフォトンの触手。
それがそうであるとはっきりわかったわけではない。ただ少女は、部屋に漂っていただけだったはずのマナが、今はそれから感じられることからそれを理解する。
信じられない物を見た……何故?
その答えを探すように、男の顔に焦点を戻す。
ニヤニヤと、笑っていた。
注がれている視線の行き先は……自分の胸元。
すぐに気付いた。理解するまでにはやはり時間がかかった。
慌てて胸元を腕で被う。
「服の上からではわからなかったが……なかなかいい体じゃないか」
「な……何をなさるのです!?」
「言っただろう、強くしてやると。それも根本的に。お前は何をする必要もない。ただそこでガタガタ震えてればいい。終われば既に変わってるさ」
「そんな……それとこれに、どんな関係が……」
「大ありだよ。聖ヨト王国とやらの伝承……知らないわけじゃないだろう」
聖ヨト王国の伝承。
かつてエトランジェがこの大地に降り立ち、戦った。
御伽噺では勇者となる。
だが、御伽噺では語られない一面もある。
戦いの糧として、エトランジェが求めたもの。
破壊と殺戮、そして……スピリットを蹂躙して得る、マナ。
少女の顔色が、さらに変わった。
ただ犯されるだけでも耐えがたい。女であるというだけでの屈辱。スピリットであるというだけでの理不尽。
そして表情を永遠に失った仲間たち。ただの人間の、ソーマ・ル・ソーマの手にかかったスピリットでさえそうなのだ。
ましてやそれが、永遠神剣を操るエトランジェ、『誓い』のシュンによるものならば……!
「そんな、どうか、やめ……おゆ、お、ゆるして……」
「駄目だな。お前の……いや、この大陸の全ては僕のものだ。逆らうことなど許さない」
言い様、少女の顔に飛び掛ってくる一本の触手。悲鳴をあげて避ける。
すぐ横を通り過ぎた先端が、ヌチャリ、と音を立てて壁にへばりついた。
「いや、イヤァァッ!」
「いい声だ……今の内にせいぜい喚いておけ。もうすぐそれもできなくなる……ホラッ!」
シュンはまた一本触手を伸ばす。少女はただただ必死にそれを避ける。
次々と、触手が少女を襲う。かろうじて避け続ける。いや……
それは刹那の狩りでも楽しんでいるつもりか。シュンはわざと当たらないように触手を躍らせている風すらあった。
「どうした? ボディがガラ空きだぞ? 狙って欲しいのか? ソラッ!」
「…………!」
もはや悲鳴をあげる気力すらない。
転げ、反り、身をよじり、少女は己を守り続ける。
何度目かの転身。肩に硬い感触。
……剣。自分の神剣。
握った。無我夢中だった。敵えるとは思ってもいない。シュンを激昂させて殺されるかもしれない。
だが、このまま辱めを受けるよりは……!
戦士の……否、人としての最後の意地で、自分を蹂躙しようとする敵を睨み据える。
だが、少女の目に入ったのは……変わらずに、歪んだ笑みを浮かべているエトランジェだった。
「やってみろよ」
「…………!?」
「言っただろう? 僕は寛大だ。それに一方的というのもつまらないしね。もし僕にその剣を当てることができたら褒美をくれてやるよ」
身の周りに漂っていたオーラフォトンが、持ち主の傍に帰って行く。
地べたに這いずった少女……それをソファの上から見下しながら、シュンは悠然と言い放った。
確かにその通りだ。第五位を従えるエトランジェ。自分の持つ低位の剣では、到底敵うことなど望めはしない。
だがそれでも。
このまま全てを馬鹿にされて終わるなど、『隊長』の部下であった誇りが許しはしない!
少女はゆっくりと立ち上がる。
どうあってもこれで最後。全てを出し切り……
斬撃、狙うはその首唯一つ!
「悪くない……これなら多少は戦力として望めそうだ」
眼前に迫った少女の顔を見ながら満足そうに言う。
少女の剣は、これまでのどの一閃も凌駕する鋭さでシュンの首を狙った。
そして……首に届くことはない。
シュンの手が、無造作に彼女の剣を握りしめている。
『誓い』でも、背後に控えるオーラフォトンでもない、ただの剥き出しの手が。
オーラフォトンが再び蠕動を始める。
「クッ……!?」
少女は飛び退ろうとして……できない。
剣を握ったシュンの手が、逃がさないように押さえつけている。
それどころか、彼女は神剣からの力が弱まっていくのを感じた。
剣が、眠りにつこうとしている!?
「遊びは終わりだ」
「そんな……どうして……」
「理由が知りたいか? なら教えてやるよ。僕が、『誓い』のシュンだからだ」
問う間にも、神剣の力は確実に小さくなっていく。
ダメ! 起きて! 眠らないで!
狂気の使者は我に来る!
「無駄だ。高位の剣は低位の剣を支配する。お前の剣はもう僕のものだ」
少女は剣を手放して逃げようとする。無駄だった。
機先を制して、オーラフォトンの触手が少女を絡め取る。
遊びを止めた触手の動き。剣が眠り、そしてそれを手放した彼女に、それから逃げ出せる道理など……
「そう言えば、僕に剣を当てたら褒美をやるんだったな? 約束通りくれてやるよ。全てを壊す……快楽をね!」
オーラフォトンが締め付ける。息が肺から搾り出され、全身の力が抜ける。
なす術もなく、少女の股座はシュンの前に開かれた。
勢いでズボンが二つに破れ、排泄で汚れた下着が隠すこともできずに晒される。
触手の最後の一本が、眼前で踊る。眼を背ける。天井に眼を見開く。
だが見なくてもわかる。それは顔の前を通り過ぎ、胸を這い、そして下へ、さらに下へ……
「あ……そんな、いや、イヤイヤ! 助けて! 助けてください! 隊長! ウルカ隊長!」
「この期に及んで、呼ぶのがあの裏切り者の名前か……気に入らないよ。その甘さ、すぐに消し去ってやる」
幼子のように、かつての隊長に助けを求める少女。
だが当然ながらその翼がこの場に舞い降りることもなく、そしてソレはゆっくりとそこに近づいて行く。
ゆっくりと……ゆっくりと……そして……接触。
「悦べよ。僕の忠実な手駒になることを」
「イヤァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――ッ!!!!!」