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 ※危険物

 この小話は確信的に原作のイメージをぶち壊しにしています。拒絶反応を起こす恐れがあるのでセリアファン、並びにシリアス悠人ファンの方は閲覧しないことをお薦めします。
 またこの小話を読んで激昂し、そこら中のものに当り散らして怪我をしたり生活用品が破壊されるようなことがあってもsffffzは一切責任を負いません。
 以上のことに同意なさる方のみ、マイムマイムを鼻ずさみながらお読みください。
 なおマイムマイムは強制ではありません。












 ……最近、セリアに見られている気がする。
 確証はないが、気がつくと視線を感じる。
 時には背後から。時には物陰から。
 目を視線が合うと、おもむろに逸らされてしまう。
 その上話し掛けようとすると逃げられる。
 ……何か嫌われるようなことでもしたっけか?
 しかし彼女が戦列に加わったのはごく最近だ。以前から面識があるわけでもない。嫌われるような要素は考えられない。
 いや、先天的に男が嫌いという線もなくはないが……
 しかしこのままでは隊の雰囲気に関わる。
 命を預け合う部隊の仲間、それでなくても館が隣近所だ。
 どうせなら楽しく、仲良くやりたい。
 そのためには、何か不満があるのなら聞いておくべきだ。

 というわけで、今日は直接呼び出して話をすることにしてみた。
 自室だとオルファが飛び込んで来たりする恐れがあるので、場所は館の空き部屋だ。
 考えてみれば女の子を呼び出して話をするなんて始めてだ。
 ちょっとドキドキする。
 いや、待て俺。そんな変なことを考えるな。
 これは不順な動機じゃない。今後の戦局にも関わる重大事項なんだ。
 だから何も問題はない。うん。佳織にだって胸を張ってそう言えるぞ。
 そんなことを考えている間に、扉がノックされた。

「ああ、開いてる。入ってくれ」
「失礼します」

 返事を待って、扉が開く。
 入ってきたのはもちろんセリアだ。
 そりゃそうだ。呼び出したのはこっちなんだから。
 これで入って来たのが「ユートさまがセリアをいやらしい目つきで誘ったと聞きましたが本当ですかっ?」などと言いながら目を吊り上げているエスペリアだったら、とりあえず日頃自分が隊員からどう思われているかを独自に調査しなければならない。

「それで、話とはなんですか?」
「あー……大したことじゃないんだけど。とりあえず座ってくれ」
「結構です」

 とりあえずリラックスさせようと着席を求めたが、無下に拒否された。
 そして気をつけの姿勢のまま押し黙るセリア。
 話したことがないだけと思っていたが、よくよく考えるとセリアは結構無口なのかもしれない。
 訓練の合間に皆でおしゃべりしてるときもただ聞いてるだけのことが多いし。
 そう言えば、育成機関はアセリアと同じくらいだってエスペリアが言ってたな。それに種族も同じ青スピリットだし。名前も似てるし。
 ……伝染、するんだろうか。
 今度エスペリアに相談してみよう。

「あの、セリアさ。立たれたままだとなんか俺が緊張するから。座ってくれないか?」
「このままではいけませんか?」
「いや、いけないってことはないけど……」

 頭を掻きながら、言葉を濁して目で訴える。
 セリアはしばらく俺を見たあと、ポツリと言った。

「では、失礼して」
「おお、そうか。じゃあとりあえず座って……って、何してるんだ?」
「休んでいます」

 こともなげに言い放つセリア。
 足を開き、腕を後で組むその立ち姿。
 うん。確かにこれは「休め」の姿勢だ。俺も無駄に小学校でやらされた覚えがある。
 ……なんの意味があるかは結局卒業しても理解できてないが。

「……座らないのか?」
「この状態は充分に休んでいます。座る必要はありません」

 そう言って俺を見下ろすセリア。見下ろされる俺。
 ……この上なく居づらいのは何故だろう?
 やはりそこはかとなく睨まれているからだろうか?
 とりあえず対抗して立ってみる。
 セリアがピクリと緊張したように見えた。

「……何ですか?」
「いや、対抗して立ってみた」
「もしかして私、これから修正されるんですか?」
「……何の話だ?」
「いえ、いいです。ただのネタですから」

 ダメだ、会話が成立しない。
 ナナルゥみたいに神剣に意識を飲まれかけているわけでもないのに。
 それにこうやって二人だけで向かい合って、無言で立ってる様っていうのは端から見ればかなりバカぽいんじゃないだろうか?
 とりあえず座りなおして見た。
 また見下ろされる。
 ……やっぱり、どの道バカっぽいことには変わりはない。
 どうしたものかと思案していると、焦れたようにセリアが口を開いた。

「それで、話とはなんでしょうか」
「ん、ああ、だから大した話じゃないんだって。何かを話すために来てもらったんじゃなくて、話をするために来てもらったっていうか。ほら。俺ってセリアのことほとんど知らないからさ」
「……それだけですか?」
「まあ、それだけかな」
「では、これで御用は終りですね。私達に話をする必要はありません」

 言って踵を返そうとするセリア。
 取り付くしまもない。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。なんだよ、それ」
「なんだも何も、そういうことです。ユート様は隊長で、私は部下。それ以上でもそれ以下でもありません。では失礼します」

 そしてまた踵を返そうとするセリア。
 取り付くしまもないVer.2。
 仕方がない。計画は変更だ。

「あーあーわかった。じゃあ俺も率直に行こう。どうしても聞いておかなきゃならないことがあるから」
「手短にお願いします」
「あのな。セリアって俺の何が不満?」
「不満? なんのことでしょう」
「え? セリアって俺のこと嫌いじゃないの?」

 その答えに、ふと心が浮いたような気がした。
 これは何か。アレなのか。
 俺のことは嫌いじゃないと。でもいつも物陰からこっそり見てると。つまりはなんだ、そういうことなのか。
 いやいやこれは急な展開だ。もしかして俺は悩める少女の背中を押すどころか抱きこんでしまったのだろうか。
 正直に言うとちょっと困る。なにしろ今は戦争中だし。それ以前に俺もちょっといいなあなんて思う人がいるし。
 でもまあ可愛い女の子に「嫌いじゃない」なんて言われれば、それは悪い気はしない。
 急な展開で助かった。もしじっくり時間をかけてたら、鼻の下なんかが伸びてたかもしれない。

 ――しかし、それは、錯覚する予兆。

「嫌いですよ、もちろん。人間がスピリットを毛嫌いしても、スピリットには人間を毛嫌いするささやかな反骨精神さえ許されないんですか?」

 あ、やっぱり。
 一刀両断でした。
 佳織、このスピリットは手強いぞ。
 お前のいう皆いい人で仲良し哲学も、適用は難しいかもしれん。

「いや、それじゃあまりにも不毛だろ。何が不満か言ってくれれば、俺も直すようにするからさ。それにあれだぜ? 人間の手がなんで2本あるか知ってるか? 一方で剣を握っても、もう一方で仲直りの握手をするためなんだぞ?」
「それを言うなら、一方で握手をしておいてもう一方でナイフを隠し持つためじゃないですか? ちなみに私が教わったのは片手を失ってももう片方でまた剣を握るためだそうです。そもそも私はスピリットなのでその理屈はあてはまりません」

 佳織、やっぱりダメだったぞ。
 これが歪んだ教育の成果ってやつか。
 タヌキ親爺め、なんてことをしやがる。

「じゃあ、俺が嫌われてるのは人間だからってことだけか?」
「そうです」
「いや、俺エトランジェなんだけど」
「同じ事です、私からすれば」
「……嘘だろ」
「本当です」
「嘘だって。だってそれが本当なら、あんなにいつも俺のこと睨んでるわけないだろ? 訓練士の人間にだってあんな目は向けてないじゃないか」

 ピクリ、とセリアの表情が固まる。
 そして険しくなっていく。
 あれ? 俺なんかまずいことでも言ったっけか?

「……ユート様。失礼ながら、私はユート様を見ていたことなどありません」
「え、いつも見てるだろ。物陰とかから」
「自惚れるのもいい加減にしてください!」
「おわっ!?」

 セリアが近寄って来て、机を叩いた。
 なんだか顔が赤い。

「誰が好き好んでユート様なんか見ますか! 私が見ていたのはエスペリアお姉さまです!」
「……え?」
「そもそもユート様はエスペリアお姉さまには似合いません! エスペリアお姉さまは強くて優しくてその優しさが過ぎるあまりに貴方のようなハイペリアから来ただかなんだか知りませんけどどこの馬の骨とも知れないただの力馬鹿にも優しく接してあげているんです! それもわからずにユート様はいつもエスペリアお姉さまにベッタリで報告書書かせたりの雑務から身の回りの世話まで何から何までやらせっぱなしでそれでも文句一つ言わないエスペリアお姉さまが可愛そう! そうそう何か不満があるのかとか仰ってましたがあるとすればユート様の存在自体が不満ですいつもお姉さまの傍にはりついてなんですか職権乱用のストーカーですかもしかしてエスペリアお姉さまのことが好きだったりするんですかハンッお笑いです貴方みたいなの私から見ればその辺の害虫となんら変わりは……」
「ちょ、ちょっとストップ!」

 身を乗り出して噛み付きそうな勢いでマシンガントークを炸裂させるセリア。
 ていうか顔が近い。ほんとに噛まれそうだ。
 しかしセリアってこんなに喋るんだなあ。小鳥よりもすごいんじゃないか?
 今度エスペリアに報告しておこう。

「とりあえず状況を整理しよう」
「……はい」
「えーと。セリアは俺がエスペリアの傍にいるのが不満、と」
「その通りです」
「ぅ……と、とりあえず次。で、その理由はセリアがエスペリアが大好きだから、と」
「もちろん、心の底から」
「あー……それって、オルファが『エスペリアお姉ちゃん大好きー』とか言ってるのと同じだよな?」
「違います!」
「………………ナイハームート?」
「キス!」
「え? え? えええええ!?」

 つまりあれだ。セリアの言っていることを要約すると。
 セリアは激マジエスペリアラブで、それで傍にいる俺が気に入らない、と。
 ……マジか?
 いや、しかしありうるのか。何しろスピリットには女性しかいないわけだし。
 むぅ、奥が深いぜスピリット道。
 しかし俺も男だ。ここは退けない一線だな。

「えーと……それって色々とまずいんじゃないか? その、ほら。女の子どうしでそういう関係っていうのは」
「誰がそんなこと言いましたか! 勝手に下劣な想像をしないで下さい! 私の愛はもっと高潔なものです! これだから男って言うのは、ていうよりユート様は! きっといつもそんな目でエスペリアお姉さまを見てるんでしょう! ああもう汚らわしい!」
「はぁ……で、俺にどうしろと」
「もうエスペリアお姉さまに近づかないで下さい」
「いや無理」
「無理じゃありません。ただの上官と部下に戻ればいいだけです」
「だってあれだぜ? 俺小鳥の心理テストでもエスペリア一直線だぜ? もう初期状態でマインドがっぽり稼いでるし」
「訳のわからないこと言わないで下さい! そもそもマインドとラブ値は無関係です! そんなにエスペリアお姉さまのマインドを上げたければユート様が犬のように走り回って雑魚敵を掃討して、拠点占拠ボーナスだけお姉さまにあげてればいいんです! というよりユート様がお姉さまのマインドを食い荒らしてるんです!」
「訳がわかんないとか言いながらしっかりくいついて来てる上にひどい言われようだな……」
「何か事実と違う点が一つでもありますか?」
「いや、ありすぎてどっから突っ込んだものかと」
「突っ込む!? 突っ込むですって!? なんて卑猥な!」
「その思考回路のほうがよっぽどどうかしてると思うんだが」
「おぞましい……私の身体をいやらしい手が這いまわったり舐めたりなぶったり……」
「いや、しないってそんなこと」
「あまつさえ男女の筋力差があるのにそれだけでは飽きたらず神剣の力で拘束されて服を破かれたり触手でがんじがらめにされたり……!」
「俺がいうのもなんだがそこまでネタバレはさすがにヤバイと思うぞ」
「でも! 私が犠牲になってこの鬼畜の欲望がお姉さまから背けられるのなら! いいです、わかりましたやりましょう!」
「だから人の話を聞けって!」

 …………
 ………
 ……
 …


「という夢を見たんだが、実際のところどうなんだ? セリア」
「…………ユート様。前々から思ってたんですが、実は馬鹿でしょう?」

 一蹴されました。

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