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 ――道具として、創られた。

 眠りが始まる前のことを考える。
 剣を持ち、戦っていた。
 幾多いくたの世界をめぐり、数多あまたの敵と渡り合った。
 そして、ある世界で強敵とめぐり合い、戦った後、破れた。
 私は死んだ。
 しかし滅びることを許されなかった。
 私は剣を奪われ、体を奪われ、命を奪われた。

 私は創り変えられた。
 そして私と、私の剣を基にして、多くの子らが産み出された。
 剣を握っていた私を通じて、その子らも皆、剣を握っていた。
 ――美しい、少女達。
 同じ様に道具として、産み出された子供達。

 眠りの中で、思考は渦を巻く。
 始まりと終りが紡ぎ合わされ、その幾多のも途中が泡のように浮かんで、消える。
 初め、剣があった。
 そして、剣が分かれた。
 剣は互いに一つに戻ろうとし……しかしそれぞれが己を持ってしまったがため、交わることはできない。
 この世界でも同じだ。
 大地に散らばった四振りの剣が、互いに憎しみ合い、呪い合いながらも、一つに戻る日を待ちわびている。
 ――不器用で、悲しい。
 そう思うことさえ躊躇ためらわれる。
 彼らは他にする方法を知らない。
 ただ一つの存在意義を否定されたら、それはきっと、もっと、哀しい。
 そして、少女達も。

 少女達は制約の基で生まれる。
 常に何者かに縛られ、己の意思を超える力に支配される。
 そして、道具として利用される。
 剣を持つ道具。壊すための道具。戦い合うための道具。
 だけど、心を持った道具。
 ――不完全な、道具。
 心があるということは、彼女達には欠けたところでしかない。
 道具にはいびつな凹凸おうとつ
 彼女達を使う者達は、完全な道具にする為に、彼女達を鍛える。
 凹凸はやすりをかけられ、削られ、削ぎ落とされ、すり減らされて優秀な道具となる。
 そして戦い、散る。

 形を失った命は霧となり、かつての私の剣へと帰る。
 つらかったこと。苦しかったこと。悲しかったこと。
 剣の中で、彼女達が失った心の痛みは、消える。
 そして一時の平穏の後、同じ苦しみを味わうために、またこの大地に生み出される。
 争い合うために。
 争いの時代を招くために。
 全てを消し去るために。
 ……ああ、また、産み出された。

 目覚めの時は近い。
 眠りはまどろみへと変わっている。
 目覚めを前にして感じる気だるさ。
 そして罪の意識。
 私はあった。そしてある。
 私があったことで、産み出された罪。
 そしてこれからあろうとすることで、また私が犯す罪。
 目覚めの時は近い。
 長く、みきった眠りの終りを前にして、私は躊躇いを覚える。
 私は、目覚めてはいけない。
 私は作られた。いがみ合う四振りの剣。そしてその終りの時。
 私を取り巻く者達が定めた運命。
 私の目覚め。それが始まりの合図。
 避けることはできない。それが私の役割。

 かつて罪であった。
 そして目覚めが新たな破壊を告げる。
 ならば、私は目覚めてはいけない。
 いつまでもこのまま、眠っていたい。
 ――しかし、それは、できない。
 すでに造られている運命に、逆らうことはできない。
 それに。
 私は、それでもなお、目覚めたいと願っている。
 私は、目覚めたい魂。
 命を持つ、始まりの道具。
 そして与えられた命に意味があるのなら――
 私もまた、造られた運命の上であったとしても、踊りたいと願う。
 例えどんなに悲しくても。
 いつか産まれたことを悔やむ日がくるとしても。
 生きること、それをまっとうすることがすべての命に与えられた使命なのだから。

 まどろみが、揺れる。
 ああ、時が近いのだ。
 歯車が、もう少しで回りだす。
 長い夢が、終りを告げる。

 子らよ。
 答えのない呼びかけ。
 目覚めを覚えれば、私は消え去るでしょう。
 新たなる、あなた達の一人として生きることになります。
 もうすぐです。私も、すぐにありましょう。
 そして、ともに生きましょう。
 私は、あなた達の友。
 ……敵として出逢ったとしても、私はあなた達の母。
 造られた運命の下、私の目覚めの吐息は、終りの始まりを告げる。
 私を許してください。
 私の目覚めを許してください。

 私は、目覚めたい魂。
 かつて呼ばれていた名は――
 眠る道具としてつけられた名は――
 そしてこれから持つ、新しい名は――

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