スリハの月 緑ふたつの日 昼 マロリガン ミエーユ (*主として悠人視点)
 
 
 
 
「こいつで・・・・・・最後だ!!」
 
手にした【求め】を横薙ぎに大きく振るう。
それと同時に、目の前にいたスピリットが苦悶の表情と共にマナ霧に変わっていく。
この都市を防衛していたスピリットも今ので最後だった。
俺は辺りを見回し、みんなの無事を確認する。
 
「よし!ここも制圧完了だ。これより一気に首都を目指す!行こう、これで最後だ!!」
 
思いを振り払うように俺は叫び、正面をむき直す。
走り出す俺の背中は、なぜだか誰かに押されている気がしていた。
安心感を与えてくれる誰かが、俺の背を押してくれていた。
アセリア・ブルースピリット。
俺は彼女に守られ、彼女に包まれていた。
この先待ち受ける事に、恐怖がないと言ったら嘘になる。
でも、彼女が一緒なら何とかなる感じさえしていた。
 
「光陰・・・・・・今日子。待っててくれ」
 
そしてもう一つ。
 
「大和。置いていくぞ?早くついてこい!」
 
未だ戻らない大和が、俺の背中を強く強く押してくれている。
頼りになる仲間たち中でも、ある意味一番俺に近い位置にいた友人。
 
(また、みんなでバカ騒ぎしよう・・・・・・!!)
 
首都までは、あとどれくらいなのだろう?
 
 
 
 
 
 
「やっとここまで着たか。・・・・・・ったく、みんな張り切りすぎだよ。追っていく人間の身にもなってくれよ」
 
悠人がミエーユを去ってから数時間後、その街に一つの影が現れた。
ゆったりと歩み出る少年の顔に、すでに迷いは無かった。
そこにあるのは自信、そしてやっと仲間の元に戻ってこれたという安堵感。
やっと戻って来ることが出来た、そう小さく呟き一歩を踏み出す。
恐怖と敗北に閉じかけていた瞳を、再び開いた少年が・・・・・・。
 
 
 
 
 
 

        創世の刃
               永遠のアセリア another if story
               act 15 誰かの願いが叶う頃

 
 
 
 
 
 
夕刻 マロリガン 首都近郊
 
 
 
 
走り続けている俺たちは、首都まであと一息と言うところに迫っていた。
先ほどヨーティアからの神剣を通じた通信が入り、大統領クェド・ギンがエーテル変換施設を暴走させ、この大陸を消滅させようとしているらしいと言うことが判明したのだ。
そんなことはあってはいけない、俺たちの思いは一つだった。
そんな太陽が沈み行く中、その地平線に一人の人間の姿を確認した。
数珠を首からぶら下げ、俺と同じ制服を身に纏い、マロリガンの戦闘服を纏い、巨大な神剣を担ぐ男の姿を。
立ち止まり、俺は最後の説得を試みた。
これで通じなければ、待っているのは命を懸けた喧嘩だ。
 
「光陰!俺たちが戦う理由なんて何処にもないだろう?それに今はそれどころじゃ無いはずだ!!」
「いいや、お前達が死ねば、大将があんな物を暴走させなくても済むかも知れない」
「もし暴走しちまえば今日子もここから消えちまうんだぞ!?」
「お前を殺せば、何とかなるかも知れないだろう?」
「光陰!!」
「せめてもの情けだ・・・・・・。苦しまないように全力で殺してやる」
 
光陰の身体から、オーラフォトンが迸る。
長大な【因果】を振り回し、身に纏うオーラの密度を徐々に増す。
 
「俺には今日子を守る使命がある。お前が佳織ちゃんを助ける使命があるようにな」
「光陰・・・・・・」
「おしゃべりはここまでだ。本当に何とかしたいんなら、俺を超えていけ」
「光陰!!」
 
俺も覚悟を決め、【求め】の柄を強く握り直す。
同様に展開されたオーラフォトンが、光陰のオーラとは別の輝きを放ち、砂漠地帯に蒼と碧の儚いコントラストを描く。
俺たちは同時に大地を蹴った。
 
「死ね!悠人!!」
 
回転の勢いそのままに、光陰は【因果】を俺に叩き付ける。
【求め】でそれを受け流しつつ、俺は刀身にオーラを集中させていく。
重たい一撃を何とかはね除けながら、俺は大地に【求め】を叩き付ける。
収束していたオーラが爆発を起こし、大地を抉り、前方に飛礫ををとばした。
光陰は障壁を展開し、それを全て塞ぎきった。
 
(ここでのんびりしている時間はない!・・・・・・次で決める!!)
もう一度俺はオーラを刀身に集め、この一撃に全てを懸ける。
 
「光陰!!いい加減、目を覚ませよ!!」
 
言葉と同時に砂漠の悪い足場を全力で駆けた。
眼前に迫った光陰は薄く笑い、因果を構える。
大きく一歩を踏み込み、両手に握りしめた柄を全身の膂力を持って送り出す。
フルスイングで思い切り光陰の障壁に【求め】を叩き付ける。
がつっ、と食い込む音とともに、ぶつかり合った二つの相反するオーラが火花を上げる。
 
「お前が今日子を守りたいのは判った。確かにそれは俺と同じかも知れない」
「ぐっ!!だったら、俺に殺されろ!!」
「いいや、俺は殺されてなんかやらない!!そして、殺させない!!」
「チッ!」
 
拮抗する二つの力がスパークし、辺りを白い光が包む。
光陰の障壁は凄まじい物があり、こと防御にかけては【求め】を遙かに凌ぐ。
まるで直進してくる自動車を鉄パイプで叩いたかのような、そんな強い衝撃が俺の両手に帰ってくる。
今の俺では敵わないかも知れないが、俺の後ろには仲間がいる。
 
「お前に、殺されてやる訳にはいかない・・・・・・。お前を殺すわけにも行かないんだよ!!」
 
そんな中、障壁にかかる力が徐々に光陰の限界を超えつつあった。
光陰は心の中で毒づいていた。
 
(ったく、変なところでこいつと大和は似てるよな・・・・・・。普段正反対のクセに)
 
障壁に小さな罅が走り、光陰は破られまいとこれまで以上にオーラを一層強く輝かせる。
 
(妹のために頑張る悠人、何もかも達観したかのように世界を見ている大和。なんでこうも違う二人がここまで似るのかね)
 
「うぉぉぉぉぉぁあああ!!」
 
悠人の裂帛の気合いが大地を揺るがす。
 
「・・・・・・だが、俺だって負けてられねぇんだよぉぉぉぉお!!」
 
光陰の想いが、大気を震わせる。
スパークする力のなか、二人は自分の持てる最高の力を振り絞っていた。
 
(光陰っ!!俺は、みんなと・・・・・・!)
「うおおおぁぁぁ!!!」
(・・・・・・今日子、俺に力、貸してくれよ)
「つぅぉぉぉぉぉおお!!」
 
ビシッ!!ビキビキビキ!!
大きな音を立て、障壁が壊れていく。
光陰は自然と溢れる笑みを押さえるでもなく、静かに一つため息を吐き出した。
 
「結局、俺はお前に敵わないのか・・・・・・・悠人」
 
(チッ・・・・・・悠人、大和。すまん)
 
目前に迫った刃をかわそうともせず、光陰はその場に立ち尽くした。
 
 
 
 
「ぐぁぁ!!」
 
 
 
強く【求め】を押し込み、光陰を切り裂く手応えを感じる。
両手に伝わる感覚に、すこしだけ怖気が奔る。
これで光陰が死んでしまっては元も子もない。
 
「っ!!光陰!!」
慌てて振り向く俺の目には、弱々しく肩で息をする光陰の背中が映っていた。
俺の前に片膝を付き、傷を押さえながら肩で息をしている光陰。
こんな姿をさらしている光陰は、今まで見たことがなかった。
いつも、何事においても俺の一歩先を行き、どんな時でも余裕を見せていた光陰の姿は何処にも無かった。
こいつはただ今日子を守るために、今日子を取り戻すために必死だっただけ。
・・・・・・そう、俺と光陰はある意味では何処までも似ていた。
 
「光陰・・・・・・」
「早く行けよ・・・・・・。大将を止められるとしたら、もうお前だけだ」
「・・・・・・何言ってるんだよ!お前も一緒に行くぞ!」
「いいから行けよ。俺も・・・・・・すぐに追いつく」
「本当だな!?お前が死んだら、俺も、佳織も大和も・・・今日子だって悲しむんだからな?約束しろよ!?みんなで、俺たち五人で帰るって!」
「ああ。判ったから、急げよ。ホントに時間が無くなる」
「・・・・・・ッ!みんな急ぐぞ!!」
「悠人!!」
 
走り去ろうとする悠人を呼び止め、光陰は一つだけ願った。
光陰の心からの【求め】だった。
 
「今日子を・・・・・・今日子を頼む」
「任せろ!!」
 
それだけ言うと、悠人は首都への道を全力で駆けた。
 
 
 
 
 
 
悠人の背中を見送りながら、光陰はそばにいたクウォーリンに治療を受けていた。
大地の加護が少ない砂漠地帯では、あまり治癒効果が薄い。
マナの流出は止まったので、一安心と言うことか。
ぐったりと身体を砂丘に横たえ、夕暮れに澄んでいる空を眺める。
雄大な空を眺め、茜色に照らし出される全てのものが懐かしく、また新鮮に感じる。
今まで気づかなかったが、この世界の空はこんなにも美しかった。
 
「はは・・・・・・。なんか、負けてスッキリしちまったな」
「助けが必要かい?光陰」
「ん?」
「やあ。その有様だと、悠人にやられた様だね」
 
光陰は絶句していた。
つい先ほどまでいなかった奴が、光陰の横に立っているのだ。
両眼を包帯で隠し、視界が全くない状態でも光陰の位置を正確に把握していた。
腰に提がった刀が鈍く輝きを上げ、以前の何処か折れそうな雰囲気は今は微塵も感じられない。
 
「・・・・・・大和。お前、眼でも怪我したのか?」
「いいや。これはまだ教えられない。それより、助けが必要だろう?」
 
大和がオーラを展開し、光陰の傷口に右手を触れた。
心地よい力の流れが体中に溢れ、活力が漲っていく。
 
「これは・・・・・・?」
「新しい、俺の力だ。・・・・・・さぁ、悠人を追わないとね」
 
片手を差し出し、光陰を引き上げる大和。
少しだけ覗いた右腕には痛々しく包帯が幾重にも巻かれ、その所々が紅で染め上げられていた。
 
「ああ。悠人がじゃじゃ馬を何とかしてくれている事を信じて、俺たちは追うか」
「そういうこと・・・・・・かな?さあ、行こう」
 
 
 
 
 
 
 
同日 夕刻 マロリガン首都 エーテル変換施設 中枢部
 
 
 
 
飛び込んだ俺たちを待っていたのは、大統領クェド・ギンの姿。
片手にマナ結晶体を、そして片手には永遠神剣らしきものを持って。
 
「やはり来たようだな・・・・・・。否、来るように運命づけられていた、か。ようこそ、エトランジェ・ユートよ」
「クェド・ギン大統領!この世界を滅ぼすことに何の意味があると言うんだ!!もう止めてくれ!!」
 
絞り出すように悠人は絶叫していた。
親友達との死闘が心に与えたダメージは大きく、悠人の心は大きく揺れていた。
それすらも予測していたかのように、クェド・ギンは薄く嘲笑を浮かべた。
 
「意味など無い。ならば逆に問おう。貴様が【求め】を握り戦い続け、その先に待つ物を予測できるのか?」
「何が言いたい!?」
 
さらに嘲笑の色を濃くし、クェド・ギンは大きく肩を竦めた。
 
「所詮貴様らは、神剣に操られているに過ぎない。神剣が求めた世界を築き上げるための駒でしかないのだ」
 
片手に持つ神剣を掲げ、もう一方に持つ結晶体を胸に抱く。
 
「この【禍根】は意志を持たず、人間が持てる唯一の神剣だ。理由は判らないがな。さぁ、お前達に問おう。これからの未来を切り開くのは、人間の個としての意志か、または神剣の合としての意志なのか・・・・・・」
 
キィィィィィン。
甲高い音、強制力の行使時に響き渡る音に近い音が周囲に響き、鼓膜を震わせる。
クェド・ギンが握る結晶体がドクン、と大きく脈を打った。
周囲に存在するマナを食っているようだ。
 
「そう遠くない未来、・・・・・・否、ごく近い将来と言うべきか。この世界は滅びを迎えるだろう。だが、それは人間の意志ではない。永遠神剣、神の名を冠した魔剣の望む結末としてなのだ」
 
徐々に大きくなっていく結晶体の脈動。
まるで施設全体が脈動しているかのようだった。
 
「それがこの世界の運命だというなら、俺はこの運命に抗わねばならない。この世界を、我々人間の手で滅ぼすことでな」
 
やがて共鳴を始めた【禍根】。
背後にある動力結晶も、その蒼き輝きを増していく。
 
「神剣の意志で生かされているなどと、そのようなことあってはならない。なぜなら・・・・・・」
 
間を置き、左手に持った結晶体を宙に向かい放り投げる。
 
「我々は此処に生かされているのではない!今を生きているのだ!」
 
落下を始めた結晶体に、右手に持つ【禍根】を叩き付ける。
粉砕された衝撃で、施設全体が大きく揺れた。
白光が辺りを染め上げ、うねりを上げ始める空間。
 
「お前達がこの試練を超えたのなら、俺の意志を継いでくれ。この美しき世界を・・・・・・」
 
最後のほうはとても大きな音に掻き消され、悠人達の耳に届くことは無かった。
が、その一言を最後に、クェド・ギンの姿は消滅した。
 
 
 
 
 
 
やがて発光が収まり始め、静寂だけが空間に取り残されていく。
顔を覆っていた腕を下げ、悠人はクェド・ギンが立っていた位置を見る。
そこに立っていたのはクェド・ギンでは無かった。
 
「白・・・スピリット?」
「ユート様、しっかりしてくださいませ!あのスピリットからは大きな敵意を感じます!」
「ん・・・・・・!!」
 
珍しく焦っているエスペリアの声に、俺は慌てて【求め】を構える。
心なしか、アセリアの表情にも焦燥感がにじみ出ていた。
対峙してみれば、確かに異様なほどの殺意、敵意をビリビリと肌に感じる。
不意にホワイトスピリットの持つ【禍根】が大きく悲鳴を上げた。
 
キィイイン、キィィィイイン、キィィィイイン。
 
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
 
それに対応するかのように叫び声を上げるホワイトスピリット。
その叫びは何処か慟哭の様にも感じると、その時悠人は直感的に感じていた。
やがて【禍根】に収束されていくマナ。
 
「!!みんな、俺の後ろに!早く!」
 
咄嗟に感じ取ったマナの量は、並みのスピリットの物では無かった。
エトランジェクラスか、その上を行くものだ。
神剣が悠人達に向けられる。
ハイロゥを展開し、その暗黒色の翼をはためかせると同時に魔法が打ち出された。
 
「バカ剣!!全力だ!!」
 
全力で抵抗のオーラを展開すると、程なくして光り輝く竜巻がオーラに噛み付いた。
荒れ狂う嵐は、少しでもオーラを弱めようものなら一気に俺たちを蹂躙するだろう。
桁違いの威力を持った嵐だった。
 
「くうぅぅ!バカ剣、もっとだ!もっと力を引き出せ!!」
『時間が来ればあの者は消滅する。それまで耐えれば良い』
「そんな悠長なこと言ってる時間は無いんだよ!!」
 
そう。ホワイトスピリットの背後にある動力結晶は、限界に近いところまで膨れあがっている。
いつ爆発してもおかしくないだろう。
 
「一撃!!少しだけでもこの嵐が弱まれば!!」
 
そう思っていた矢先だった。
ビシリと大きな音が響き、悠人のオーラに罅が奔る。
 
「ッ!!」
 
みんなの息を呑む声が聞こえる。
(俺の後ろにはみんなが・・・・・・仲間がいるんだ!!)
白い竜巻は勢いをとどめることなく、悠人のオーラを蝕んでいく。
悠人の心に過ぎるのは最悪の結末だが、今はまだあきらめては居ない。
 
「バカ剣!!」
『あの妖精、我の予想を超えている・・・・・・』
 
【求め】の声が珍しく焦りを帯びていた。
罅は徐々に大きな物となり、やがて破られるだろう。
 
(もう、持ちそうにない・・・・・・。駄目、なのか)
 
 
 
 
悠人の心に終わりが過ぎったその時だった。
足下に黄緑色の輝きを放つオーラフォトンが展開されていく。
加護のオーラ。
このオーラを使える人物は、この世界に置いてただ一人。
 
「助けは必要か?悠人」
「光陰!!」
 
悠人は振り返らずとも、親友の声に答えた。
加護のオーラの中、悠人の障壁は少なからず復活するも、それもわずかな物だった。
 
「くっ!!くそ!!」
「そんなに簡単に諦めるなよ。そのままゆっくりと障壁を緩めるんだ、悠人」
「大和・・・・・・大和か!?」
「あぁ。だから、本当にゆっくりだからな?」
「判った。任せる、大和」
 
大和は瞳を覆っていた包帯を乱暴に外し、閉じていた瞳をゆっくりと開く。
そこにあった瞳は、以前の物ではない。
開かれた瞳は、左右で色が違う〈オッド・アイ〉だった。
血のよう濡れたに紅い右目。海よりも深い闇を湛えた蒼の左目。
その双眸で、無色の妖精を捉えた
 
 
 
 
 
 
「精霊の根源たるマナよ、我が太刀において終焉を迎えよ」
 
集中し、両目が薄く光を帯びる。
 
「我が太刀に、切り裂けぬ物無し」
 
柄に添えられた右手に、ゆるりと力がかけられる。
 
「我、ヤマトの名において命ずる」
 
刀を引き抜き、刀身にオーラフォトンを漲らせる。
 
「【開眼】よ、魔の力切り裂き、我が前に道を拓け」
 
正眼に構えた太刀を、大上段に振り上げる。
徐々に弱められていく悠人のオーラ。
 
「訪れる【再生】の時まで静かに眠れ。森羅万象の太刀!!」
 
 
 
ドンッ!!!!!
 
 
 
放たれた時以上の音を上げ、嵐とヤマトのオーラが衝突を繰り広げる。
押し切ろうとする大和のオーラと、押しつつもうとするホワイトスピリットの魔法。
そのどちらも強力な力を持ち、その力は拮抗していた。
 
「やっぱり、祝詞だけじゃ弱いか・・・・・・」
 
大和はぶつかり合う衝撃波のなか、左手を胸に当てた。
そして・・・・・・。
 
「ッ!!・・・はああぁぁぁぁぁ!!!」
 
裂帛の気合いと共に、【開眼】を両手で掴んで振り抜いた。
同時に鈍い光を瞳に宿すヤマト。
やがて太刀は嵐を通り抜け、縦一文字に両断する。
瞬間、雲散霧消する荒れ狂うマナ嵐。
切り裂かれた衝撃の中で光が爆発を起こし、白が辺りを覆い尽くす。
再び悠人は腕を顔の前にかざし、指の隙間から大和の姿を覗った。
 
「・・・・・・!!」
 
悠人がみた大和の姿は、大和であって大和では無かった。
炎を灯す蒼と紅の瞳。
全身を覆うほど雄大で荘厳な、黒翼。
まるで堕天使がそこに居るかのようだ。
それ以上は光に目が眩み、見ている事ができずに顔を完全に腕で覆ってしまった。
 
「大・・・・・・和?」
 
やがて光は収まり、悠人はやっと大和を直視することが出来た。
しかしその姿はいつもの大和そのものだ。
 
「見間違い・・・・・・か?」
 
一瞬の事であったので、悠人は自分が見たものは光の中の幻影だと考えることにした。
そう、あれが自分の友人であるはずがない。
そう信じて・・・・・・。
 
「くっ・・・・・・はぁ、はぁ、はぁ」
 
制限付きでも、己が内に潜むモノの力を行使することで莫大な力を得たが、その代償もやはり大きかった。
再び全身の傷口が開き始め、薄く包帯に血が滲む。
この傷だけは、消えにくいものだった。
特に右腕などはすでのボロボロで、あと一撃が限度だろう。
 
後ろに目を向けると、こんな戦闘中にでも談笑している悠人と光陰。
そんな二人を見ながら、大和は自らに問いかける。
 
(俺の中の力・・・・・・。制限なしで解放したらどうなるんだろう?)
『それは主殿次第。あの者もそう言っていた』
(解ってる。外さなくても良いことを祈るよ・・・・・・)
『それがよろしいでしょう』
 
大和は刀を鞘に収め、ゆっくりと光陰と共に悠人に近づく。
落ち着きをはらっている大和に疑問を浮かべながらも、悠人は二人が来たことを素直に喜んでいた。
しかし、光陰と大和は別の所に論点を置いている。
 
「あれが大将のなれの果てか・・・・・・」
「仕方ない。彼が自ら選び取った運命だ」
「判ってる。・・・・・・さぁて、一丁行くか!なぁ、悠人、大和」
 
悠然と【因果】を構え、一歩前に出る光陰。
大和もそれに続き、悠人の前に歩み出る。
訳も判らず、悠人はぽかんと口を開けて二人を見た。
思わず光陰が吹き出し、大和が呆れたように小さくため息を吐いた。
 
「俺たちの後からついてこい悠人。俺たちが、一撃入れさせてやる」
「ただし、だ。一発で決めてくれよ?俺も光陰も、結構身体はボロボロだから、一度きりの賭けといってもおかしくない事だ」
 
そう言った二人の身体から、大きなオーラフォトンが周囲に展開される。
黄緑色のオーラと、白銀のオーラが辺りを染め上げていく。
二人のオーラフォトンが俺やみんなをスッポリと包み込んだ。
親友達の大きく暖かい力に、俺はハッキリとした安堵感を覚える。
俺も【求め】を握り直し、刀身にオーラを収束させていく。
 
「任せろ!!」
「よっし。それじゃ・・・行くぜ!!」
「遅れるなよ、悠人?」
「へへ、遅刻組には言われたくないね!!」
 
俺たち三人は、ホワイトスピリットを・・・・・・クェド・ギンを解き放つため、駆けだした。
 
 
 
再び、マナ嵐が俺たちを襲う。
迫り来る嵐に、光陰が全力で障壁を張る。
拮抗した力の中、俺たちは強引に押し進む。
ガリガリとシールドに噛み付き、穿ち、粉砕せんとする嵐に対し、光陰のシールドがやがて悲鳴を上げ始める。
それでもなお全力で突っ走り、光陰の限界位置まで突入を終えた。
あと5メートル。
 
「大和!!任せた」
「任された!征け、森羅万象の太刀!!」
 
光陰のシールドが解除されると同時に、絶妙なタイミングで大和の白刃が閃き、瞬く間に嵐を斬り進んでいく。
切り裂かれた嵐の中に道ができる。
まるで海を裂いたかのように、奔流が二つに割れ、真ん中に道をつくる。
十戒の様な光景だ。
 
(持ってくれよ俺!)
 
やがてそれも収まり、嵐が元に戻ろうと収束を始める。
瞬間、全身の傷口が開き、身体から力が抜け落ちていく。
こみ上げてきた血を口から吐き出し、再び肺に酸素を送り込む。
血が噴き出し始めた右手を前に突き出し、痛みに顔を歪めながらも大和は再び詠う。
 
「マナの脈動、その身に感じろ!!アクセラレイター」
 
大和の加速のオーラが俺を包み込む。
軽くなった身体に、さらに活力が漲った俺は凄まじい速度でその嵐の中を駆ける。
 
「行け悠人!!みんなは俺と光陰で守る!!」
「任せろ!!やってやるさ!」
 
握る【求め】に俺の全力を注ぎ込み、俺は空中へと飛び上がった。
狙うは・・・・・・。
 
「限られているかも知れない可能性の中を行くっ、それが自由ってモノだろう!!クェド・ギン!!アンタは、何もかもに絶望していただけだぁぁぁ!!」
 
ザン!!
 
スピリットの頭から障壁ごと、求めが一刀両断する。
悲鳴を上げることもなく、ホワイトスピリットはマナへと帰って行く。
その表情を伺うことは出来なかったが、切り裂いた瞬間、優しい気持ちが流れ込んではすぐに消え去っていった。
儚く揺れる金色の光景を眺めながら、悠人はゆるりと立ち上がった。
それを横目に大和は【開眼】を鞘に収め、再び瞳を包帯で覆う。
視界を覆う包帯が一筋の流れ出る紅を吸い取り、瞳の下に一筋の線を描く。
赤く染まる包帯は、まるで血の涙のようだった。
 
金色の光を眺めながら、光陰は自分を仲間と認めてくれていた者に最後の別れを告げた。
最後に見せた表情は、哀れみでも侮蔑でもなく、柔らかく悲しげな笑みだった。
 
「じゃあな、大将。俺もその内会いに行くぜ・・・・・・。そん時は、一緒に酒でも飲もうや・・・・・・」
 
・・・・・・その声は寂しくも優しげなものだった。
 
 
 
 
 
 
          夜 マロリガン首都 市街地
 
 
side by YAMATO
 
 
あの後、ヨーティアの通信により判明したコードを入力し、マロリガン、もといこの世界は安寧を取り戻した。
コード名は[ラスフォルト]。
“気高き者”という意味だそうだ。
俺はその意味を噛みしめ、クェド・ギンに少しだけ感謝をしていた。
包帯を外し、変わった瞳で世界を映す。
彼がもし光陰を戦場に出さなければ、俺は未だにうじうじしていただろうから。
 
「俺のやるべき事・・・・・・か」
 
今悠人達は今日子に会いに行っている。
悠人がやってのけた、神剣の精神だけを切り裂くということ。
それのお陰で今日子は大した外傷もなく、元気を取り戻している事だろう。
俺は会いに行かなかった。
・・・・・・というか、行けなかった。
いや、行こうとは思ったんですがね・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
「また無茶しましたね〜。もぅ〜本当に、めっ、です〜」
「全く、今回はハリオンの意見に賛成です。ユート様もヤマト様無茶ばかりして・・・・・・。心配をする私達の身にもなってくださいませ」
 
ラキオスの誇るグリーンスピリット二人がかりで俺の治療をしている。
何故か俺の身体についた傷は回復せず、そのままだった。
特に右腕などは震えて力が入らず、ろくに物を握ることが出来なくなっているほどだ。
マジで痛いんだからこれ。いや、笑い事じゃなくて。
 
「いや、これはさ、無茶じゃなくてね」
「言い訳は治療の後にお聞きします。お静かにしていてください」
「はい・・・・・・」
 
一瞬すごい眼でエスペリアに睨まれた。
こ、怖いよエスペリアさん・・・・・・。
 
 
「ちょ、待て!!痛い!痛いってハリオン!!」
「ふふふふ〜。治療というのは〜、そういうものですよ〜」
「ちょっと待ってエスペリア!!マジでそれはやばい!!その薬草は・・・・・・ぐぁぁぁ!!!」
「これが一番裂傷には効くんです。打ち身や打撲にも効きますしね。今回は魔法を使わずにちゃんとした治療をしようと、私とハリオンと調合してみました」
「誰か・・・・・・はっ!そこなヒミカ、セリア!二人を止めてくれ!このままじゃ・・・・・・」
「どうなさいました?あっ、エスペリア。頼まれてた薬草。軍の衛生兵に貰ってきたわ」
「貴重なものだから少ししか貰えなかったけど。・・・・・・ヤマト様、助けることは・・・・・・わたしたちには不可能です」
「はっ、薄情者!」
「二人とも、ヤマト様を押さえておいてください」
「そうですね〜。このお薬はと〜っても痛いですからね〜」
「ちょ、ま、待てってば!マジか・・・・・・って」
 
哀れみの瞳で俺に一瞥をくれると、セリア・ヒミカの両名は全力を持って俺を押さえ込みにかかり、若干関節を極められるなどという苦痛と女性らしい柔らかさを感じる(ある意味)苦痛を味わう。
エスペリアはと言うと、この世界で最も上等で傷に効く薬草(注:効く代わりにもの凄く痛い事で有名)を片手に鋭い眼光を放っていた。
 
「征きます」
「字が違う!!まて!早まるなエスペリア!!」
「お気になさらず〜」
「さぁ、征きます!」
 
 
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!!」
 
 
・・・・・・治療終了(?)
 
 
 
 
 
 
勝利を記念して、スピリット隊ではささやかな祝宴が行われた。
マロリガン首都の中心街。
宿をラキオス軍が接収し、その一軒が俺たちスピリット隊に与えられた。
当然その場には、光陰と今日子が居て、悠人が居て、俺が居て、みんなが居る。
そのお祝いでもあった。
マロリガンのスピリットと光陰達は、武装解除を名目に俺たちラキオススピリット隊が神剣を預かり、監視の名目で俺たちと同じ宿舎に居る。
そんな珍妙な状態だった。
 
 
マロリガンという国が仮にでも滅びたのは悲しいことだ。
だが、それを乗り越えた先に何かが待っている、俺にはそんな気がする。
大将が思い描いていたモノを見てみたい。
これは光陰が祝宴の席で、俺にだけこぼした言葉だった。
悠人ではまた背負い込む。今日子には思い出させたくない。
そう言った理由から、俺にこぼしたのだそうだ。
テーブルの上に並べられた色とりどりの料理を前に、みんなは沸き立っていた。
当然、マロリガンのスピリット隊の面々も参加している。
始めは違和感のあった両隊ではあったが、俺たちの会話している姿などを見ているうちに自然と会話しているメンバーが現れ始めた。
ラキオスとマロリガンのスピリット隊はすぐに打ち解け、その早さに俺たちが驚いた位だ。
戦いがなければ、彼女たちもこうして笑いあっていられる。
俺にはそれが嬉しかった。これからの未来には、こんな風景が至るところで見られる様になればいいな、なんて思うものだ。
かく言う俺たちも・・・・・・。
 
「飲んでるか大和!!」
「飲んでる!飲んでるから絡むな光陰!!」
「あはははは!光陰!大和に飲ませろー!どんどん飲ませろー!」
「お前達は馴染みすぎだろう今日子!!悠人、二人を止めろ!」
「嬉しい・・・・・・嬉しいぞ大和!!俺は絶対にみんなと帰るんだ!!」
「こいつもか・・・・・・。って、誰だこの三人に酒飲ませた!?」
 
思いきり騒いではしゃぎ回って、今このときだけでも戦いを忘れよう。
それで良いんだと思う。
俺は俺で楽しくなってきていた。
こんな気持ちになったのはいつ以来だろうか?
 
「ユート様もヤマト様も、私たちにいつも心配ばかりかけます・・・・・・」
「そうですね〜。はい、エスペリア、どんどん飲んでください〜」
「そこぉ!エスペリアに飲ませるな!」
 
まじめな奴ほど、酒が入るとどうなるか判ったもんじゃない。
 
「あはははは!らにこれ〜たのひくなってひた〜!ネリーってク〜ル!!」
「うに〜」
「オルファ、もっとろむよ〜」
「らめれすよ〜みなしゃん!」
「めんどくさい〜」
「年少組!酒はまだ飲んではいけないだろう!」
 
レスティーナに頼んで、未成年禁酒法でも作ってもらおうか・・・・・・。
と言うか、ネリー?何がどうク〜ルなのかが俺にはよく分からないんだが?
それに呂律が回ってないため何を言っているのかもあまりに理解しがたい。
 
「セリア、何で黙ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・キュゥ」
「ちょ、セリア!」
「心拍数、脈拍、顔色。・・・・・・極度の酩酊状態にあると思われます」
「冷静に観察しなくて良いから!セリア!大丈夫!」
 
酒を呑飲ませる相手を考えろよ。弱い奴に酒を飲ませるなって。
 
「・・・・・・ん。疲れたのか?ヤマト」
「アセリアか・・・・・・。帰ってきて早々これじゃあ、ね」
「ん。そうか。コレでも飲め」
「あぁ・・・・・・、ありがとう」
 
差し出されたコップを受け取り、一気に中を煽る。
独特に苦みと香り、オマケにのどが焼けるような熱を持った強いアルコール。
熱い塊が胃の中で燃焼され、落ち着くまではしばらくかかりそうだ。
まさにこれぞ酒!!
 
「っておい!お前もかよ!」
「ん」
「ん・・・じゃなくてさぁ。はぁ・・・・・・」
「ヤマト」
「何?」
「ん・・・・・・ファーレーン、バルコニーに居る」
 
なんて無垢な瞳で俺を見るのだろう・・・・・・。
俺はしばしサファイアのような輝きを放つアセリアの瞳に見入ってしまっていた。
そんな俺を現実に引き戻したのは・・・・・・・。
 
ドカーン!!バリバリバリバリ!!
 
「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
 
壮絶な音と、悲痛なまでの悲鳴。
ネリー達年少組に手を出そうとした、ある男の断末魔だった。
そちらに目を向けてみると映る、黒く焼けこげた何か。
そして、年少組の怯えた表情。
 
「はぁ〜。サンキュ。行ってみるよ」
「ん」
 
目を離したら何をするか判ったもんじゃ無くなってきた。
俺は辺りに首を巡らせ、見回した。
・・・・・・一人としてまともな状態の人がいないのは、どうなんだろう?
何だか、ドッと疲れた・・・・・・(泣)
俺はソッと宴会場を抜け出し、バルコニーに向かうことにした。
本当に、ドッと疲れた(泣)
 
 
 
 
砂漠の夜は肌寒く感じられ、月光の下、街は静まりかえっている。
砂漠地方特有の赤土を固めた煉瓦のようなモノを積み重ねた建物が多く見られるが、今俺たちが居るのは中心部にはラキオス的な洋風建築の建物が立ち並んでいる。
何でも、政府高官御用達の宿舎らしい。
そんな月夜のバルコニーに一人佇むファーレーン。
それはとても絵になっていて、このまま時間を止めておきたいほど美しい。
彼女が持つ【月光】という名の神剣のお陰でもあるのだろうか?
夜の闇でも良く映える白い肌。青黒い髪。
どれもが今の俺を惹き付けて離さなかった。
 
「ファーレーン」
「ヤマト様・・・・・・。中のほうはよろしいんですか?」
「あそこにいたら・・・・・・身が持つわけないだろう・・・・・・」
「大変ですね、剣術指南役というのは」
「いや、コレは職務外だろう」
 
コロコロと鈴を鳴らすように笑うファーレーン。
その笑顔を見て、俺はやはり安堵感を強めていた。
(帰って・・・・・・来れたんだな)
手すりに寄りかかるファーレーンの横に立ち、俺も手すりにもたれかかる。
砂漠の乾燥した風が俺たちを撫でていく。
 
「そう言えば、仮面外しているね?」
「あっ・・・・・・今まで一人だったので・・・・・・」
「その方が良いんだよ。前も言ったけど、常につけているからそれが当たり前になってしまう。いつか、さ・・・・・・それ無しで俺の横に立っていて貰いたいな・・・・・・」
「えっ!?」
 
ファーレーンは顔を赤らめ、驚いたように俺の顔を見上げていた。
今更ながら自分の言った言葉の意味を噛みしめ、慌て始める俺の思考と心拍数。
 
「あ〜、えっと・・・・・・。まぁ、俺の本心でもあるわけだけど、みんなの総意でもあるというか」
「ふふふ・・・・・・わかっています。ヤマト様は誰にでもお優しいから」
 
少しだけ悲しげな笑みが俺の目に飛び込んできた。
時間が止まった。
ファーレーンの細い肩を抱き寄せ、そのまま抱きしめる。
俺の腕の中にスッポリと入ってしまうこの少女が、俺を変えてくれた。
彼女の直向きさ、彼女の純真さ。そして彼女の思いやり。
理屈じゃないんだ、と思う。
 
「今まで、辛いときに支えてくれてありがとう。俺は、君から本当に色々なことを教わった。君が俺を此処まで変わらせてくれた」
「いいえ。ヤマト様の優しさも、私たちを変えてくださいました。セリアもヒミカもハリオンも、ネリーも、シアーも。そして、ニムも」
 
俺に身を預け、顔を真っ赤に染めながらもファーレーンを言う。
しばしそのままファーレーンの温もりに身体を任せ、俺は彼女を抱きしめたままで居た。
髪に顔を近づけると仄かに石けんの香りが香りと彼女の身体から伝わる温もり。
その二つが今の俺の五感を占めている。
 
「あ、あの、ヤマト様。その・・・・・・中に戻られなくてもよろしいのですか?」
「あっ、忘れてた!ゴメン、つい」
 
抱きしめていた腕を解き、二人は離れて無言で立っている。
生暖かい時間が流れ、それに心地よさを感じながらも俺とファーレーンは何も話せずにその雰囲気に身を預けていた。
 
「じゃ、じゃあ、先に中に戻ってるよ。まともな連中があんまり居ないから、ファーレーンも来てくれると助かる」
「あっ、ハイ。それでは、もうしばらくしたら私も中に行きます」
「ん、サンキュ」
 
俺はむず痒い感情を持て余しながら、彼女から離れ、静かにバルコニーから宴会場に戻っていった。
 
背中を見送るファーレーンは、どこか諦めを感じさせる視線をヤマトに向けていた。
何処か影を感じさせる彼女の表情を顕すかのように、そのハイロゥは薄く黒い光を湛え鈍く月夜に輝いていた・・・・・・。
 
 
 
 
 
 
「お前らー!!いい加減にしろ!!三日後に一応凱旋パレード(らしきモノ)があるんだぞ!!・・・・・・というか、光陰に今日子!お前らは少しは捕虜らしくしろ!!」
「ヤマト!!呑め!!」
「いい加減に寝ろ。この坊主もどき!!お前らは陛下のご沙汰を神妙に待ってろ!!」
 
ドゴン!!
 
「ぅぐはぁ!大和・・・・・・殴るとは何事だ!」
「うるさい!さっさと寝ろ生臭坊主!」
「この野郎・・・・・・お前とは一度決着をつける必要がありそうだな」
「・・・・・・以前は引き分けだったしな」
「やったるぞコラ!!」
「望むところだ!!表出ろ!!」
 
 
 
 
 
 
そんなこんなで、俺たちは友情を取り戻したのだった。
と同時に、俺の心と、想い、信念を取り戻した激動の日々だった。
俺はそんな日々に感謝を告げ、やがて来る帝国との一戦を思う。
その先に待つのは、何なのだろうか?
 
 
 
 
 
 
 
閉じた瞳に見えたものは、暗闇・絶望・悲しみ。
そのどれもが世界には溢れていて、そのどれもが命の中に存在する。
開いたときに見えたものは、光・希望・喜び。
そのどれもが世界を彩り、そのどれもが生きる糧を与えてくれる。
相反する二つのものが、実はそのバランスを支えている。
それを忘れてはならないのだ。
誰かの願いが叶う頃、誰かの願いが叶わぬ頃。
そのどちらも、運命という偶然が存在すると言うこと・・・・・・。
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