エクの月 青ひとつの月 昼 大和の部屋
 
 
 
 
悠人が相当キていると言う話がエスペリアから聞かされた。
その事について相談を持ちかけられたわけだが、ちなみにそれは俺も同じだということを忘れないで欲しかった。
彼らは俺の友人でもあるんだ。
その彼らが敵となって現れて、しかも自分たちに殺されてくれと言ってきた。
 
「・・・・・・私はどうしたらよいのでしょうか?」
「とりあえず傍にいてやれないかな?こう言うときは一人になると・・・いやな考えしか浮かばないものだから・・・ね」
「ですが・・・・・・剣術指南役としてではなく、ご友人としてアドバイスをいただければ」
 
それでも質問に答えてしまうのは、真面目と言われる人間の性なのかもしれない。
深刻な顔で俺の前に座り、右手を頬に当てたまま「はぅ・・・」と悩ましげな吐息を吐いている緑色の少女。
その表情をみるととても悩みたいのは俺のほうだとは、口が裂けても言えない。
 
「精神的に参ってるだけさ・・・・。とにかく、あまり一人にしないでくれ。こういうときは何をしでかすかわからない」
「・・・・そういうものでしょうか?」
「そういうものさ。こういうとき、俺たちは少し脆いのかも知れない・・・・・・ね」
 
微笑みを浮かべたつもりだったが、ぎこちないものでは無かっただろうかと心配になってしまった。
エスペリアはとても気がつく娘だから気づかれるのでは、と考えていると・・・・。
 
「・・・・やはり、ヤマト様もお辛そうですね」
 
悔しいことにばれてしまっていた。極力顔に出さないようにしていたのだが、先ほどのぎこちない笑みが仇となってしまったようだ。
 
「・・・・・・やっぱり判るかな?」
「はい・・・・・・」
 
哀れむような、悲しむような表情で俺を心配そうに見つめるエスペリアを見ると、なぜか怒りがこみ上げてきた。
 
(やめろ・・・・・・そんな瞳で俺を見るな・・・・・・!)
 
今更ながらに俺は腹に据えかねたことを、言ってはいけないこ口走ってしまった。
 
「・・・・だったらなんで俺のところに来た・・・・・・?」
「えっ?」
「だったらなんでそっとしておいてくれない!?やはりなんて判っていたのなら、なんで俺のところに来た?なんで俺と悠人が違うと思ったんだ!」
 
怒鳴りつける気はなかったのに、膨れあがった感情の奔流が俺の口から言葉となってつらつらと並べられ始める。
怯えたような表情で俺を見上げ、小さい涙の雫を瞳に浮かべている。
これ以上は俺が彼女に何かをしてしまう気がしてならず、エスペリアに背中を向けながら理性の欠片を拾い集め、危害を加えまいと最善の策をひねり出す。
 
「・・・・出て行け」
「はっ?」
「今すぐ出て行け!君は悠人の心配をしていればいい!!・・・俺に余計な気をかける必要はこれっぽっちもないし、君に哀れまれる覚えはまったくない!!!」
 
ダンっ!!と拳を机に叩き付けると、エスペリアが肩を震わせる気配を感じた。
罪悪感に押しつぶされそうになるが、今はなりふり構っていられない。
 
「・・・失礼します」
 
悲しげな声で俺に一礼すると、彼女はそそくさと部屋から立ち去っていった。
(こんなはずじゃない。俺は・・・・・・俺はっ・・・・・・!!)
やはり自分を責めることしか考えられなかった。
この憤りは一体、何処に向けられるべきなのだろうか?
 
 
 
 
 
 

       創世の刃
             永遠のアセリア another if story
              act 12 開眼

 
 
 
 
 
 
          エクの月 赤いつつの日 夜 大和の部屋 
 
 
 
 
今日は食事も摂らず、俺はマロリガンの研究を続けていた。
何かをしていれば気が紛れるかと思ったが、マロリガンを調べれば調べるほど光陰達に対する怒りと疑念が俺の心に浮かぶばかりだった。
イライラする頭を机に叩き付け、気分転換に窓の外をボーッと眺める。
夜は穏やかな光を湛え、薄暗い闇が辺りを包んでいる。
心が悶々としていてなにか怒りや哀しみ、憎悪など負の感情が俺の体を蹂躙していく。
俺は【精進】を手に取ると、ひりひりと痛む額をさすりながら玄関に向かって歩き出した。
 
 
 
「あれ〜ヤマト様どこに行くの?」
「・・・・・・お散歩?」
 
湯上がりなのか、青の双子は頬を上気させてほんのりと石けんの香りを漂わせていた。
無邪気に笑いかけてくる顔が眩しく、今の俺にはその笑顔すら眩しく思える。
 
「う〜ん、ちょっと出てくるだけだから。湯冷めしちゃうから暖かい格好してなさいね」
 
この発言は父親っぽいぞ・・・・・・俺も悠人に毒されたか?
 
「「は〜い」」
 
とたとたと食堂まで走っていく後ろ姿を見送りながら、俺は少しの間そこに立ち尽くしていた。
わいわいと聞こえてくるみんなの楽しげな声と暖かい雰囲気。
少しだけすさんだ心がホッとしていくのが判った。
よく考えたら俺は浴場の前に立っている。
誰かが出てきたらまずいと思って移動しようとした矢先に扉が開き、中から出てきた少女と目がばっちり合ってしまった。
 
「ヤマト様?」
 
真っ赤な髪を短く切りそろえられ、勝ち気そうな意志の通った瞳が俺を見据えていた。
 
「や、やあ、ヒミカ」
「お風呂、入られますか?それならすぐに準備し直しますが?」
「いや、良いよ。これから少し動いてくるから」
 
【精進】を掲げて見せると、ヒミカは納得したように頷いた。
そして何かを思いついたようにポンッと手を叩き、俺にとびきりの笑顔を向けてくれた。
 
「・・・・・・でしたら、私もお付き合いします」
「えっ!でも湯上がりだから風邪引かないか?」
「大丈夫ですよ。さぁ、行きましょうか」
 
そう言うヒミカの手にはすでに赤光と手拭い、手甲を持っていた。
なんか・・・大いに人為的差異を感じる・・・・・・。
 
「なんか準備良くないか?」
「細かいことは気にしないでください・・・・。さあ、行きましょう」
「はい・・・・・・」
 
一瞬凄い表情で睨まれた俺は、黙ってヒミカに連行されていくのだった。
 
 
 
 
        同日 夜 訓練所
 
 
 
 
「はぁぁぁぁっ!!」
「せいやっ!!」
 
キン!カキーン!!ガッ!
殺傷能力十分の模擬刀を手に、訓練所の中央で激しい戦闘が行われていた。
神剣を持ってきたのは良いが、怪我したらまずいだろうと話あって模擬刀で行うことになった。体に神剣の加護が無い以上、単純な技術が勝負を決めるだろう。
右から横薙ぎ繰り出される斬撃に対応し、咄嗟に刀を立て、防ぐ。
激しく擦れ合う金属の不快な音を聞きながら、払いきれない雑念が手元を狂わせる。
 
「ぐあっ!!」
 
握りにあまり力が籠もっていなかったからか、俺の模擬刀を手から弾かれ、横薙ぎの一撃をもろに脇腹に食らってしまう。そのまま吹き飛ばされ無様に地面を転がる。
呼吸が一瞬止まり、喉がヒュゥっと高い音を立てて詰まる。
吹き飛ばされた先で、俺は動くことを止めてそのまま地面に身を預けた。
訓練場の冷たい石畳から伝わる冷たさが心の中まで浸透し、俺という存在そのものが冷え切っていくような気がしていく
いっそそうなってしまえば楽なのかも知れない・・・・・・。
 
「大丈夫ですかヤマト様!?」
 
慌てて駆け寄ってくるヒミカの声を聞きながら、俺は一人呟いていた。
 
「なんで・・・・・・アイツらなんだろう?アイツらと俺たちが殺し合う理由はなんだ?」
「えっ?」
 
四つん這い状態のヒミカが俺の顔をのぞき込んでくる。
とても真っ直ぐな瞳をしていて、俺の悩みも全て見透かすような瞳だった。
 
「俺はアイツらに殺されてやったほうが良いのか?・・・・・・それともまた生きるために業を重ねるのか?俺はなんのために殺すんだ?」
 
深刻そうに顔をのぞき込むヒミカを見つめながら、俺はヒミカに疑問を投げかけてみた。
 
「なぁヒミカ・・・。殺すことの意味って何だろうな。殺される事の意味ってなんだろう」
 
のぞき込むのを止め、俺の横に座り直すヒミカ。
そして静かに上から掛けられる声色は、とても優しげで、暖かいものだった。
 
「それは、わたしにはわかりません。そもそも、ヤマト様の答えはすでに出ているのでは無いですか?」
「どういうこと?」
 
顔を上げると、柔らかな微笑みを湛えたヒミカの顔が俺を見ていた。
普段の勝ち気で生真面目で融通の利かなそうなヒミカではなく、とても母性的な柔らかな微笑みと瞳が俺の目に映っている。
 
「あなたは・・・何のために戦うのですか?これは質問の答えにはならないかも知れないけど、それが貴方にとっての意味にはなりませんか?」
 
一旦間を置き、なおもヒミカは続ける。
 
「私はみんなを・・・わたしの家族を守るため、自分の罪を重ねます。そして、ネリーやシアーたちが戦わなくても良い日が来ると信じて・・・・私は剣を振るいます」
 
とびきりの笑顔を向けてくれるヒミカをみて、俺は素直に綺麗だと思った。
戦場ではみせないナイーブな女性的な側面を垣間見た気がした。
 
「そう、か。・・・そうだよな。うん・・・・・・。そのために俺は戦うんだった」
 
うんっと一人頷き、俺もヒミカに笑顔を向けることが出来た。
体を起こしヒミカと正面から向き合い、真っ直ぐヒミカの瞳を見つめる。
握りしめた拳を天井に向け、俺は一つ心に決心する。
 
「俺はアイツらを殺さないし、絶対死なせない。俺は悠人と共にアイツらを救い出してみせるよ」
 
スッキリとした頭で、スッキリと笑えた気がする。
 
「ありがとうヒミカ。何か掴めた気がする」
「そうですか?お役に立てたなら幸いです」
 
ヒミカもニッコリと微笑んでくれた。
 
 
「・・・・くしゅん!!」
 
突然ヒミカが可愛らしいくしゃみとともに、少しだけ体を震わせた。
 
「ほら・・・・・・湯上がりでこんなことするから。・・・・・・寒くなったんだろう?これ以上ここにいたら風邪引いちゃうから、戻ろうか」
「はい」
 
少し残念そうな顔をするヒミカを見ながら、俺は着ていた戦闘服のコートをそっと彼女に掛けた。
少しだけ肌寒い夜風が俺の体を吹き抜けていく。
俺は気づいていなかった。
【精進】から溢れ出る暖かな力、変革をもたらす何かが俺の体に活力を与えていたと言うことに。
 
 
 
 
 
 
          エクの月 緑みっつの日 城下町
 
 
 
 
突然ですがここ最近、【精進】から伝わってくる力が、日に日に弱くなっている気がする。
戦闘が停止してからかなりの日数が経っているので、あまり問題は無さそうだとは思うんだが・・・。
それによって暇な時間が出来てしまい、というより、強制的に暇な時間が出来てきた。
しかし前線から守りを外すわけにもいかず、交代制で休みをもらっている。
今日は我がヤマト隊が首都での待機の日となり、ラキオスまで戻ってきていた。
諸事情によりファーレーンはエスペリアと、ニムはシアーと交代してしまったために今ここにいないが。
そんなこんなで俺はネリー・シアーとエスペリアと共に城下町に買い出しに来ていた。
こんな戦時中でも街は活気に溢れていて、俺たちがしていることはこういうものを守っているのだと改めて思い知らされた。
 
「今日は?」
「そうですね・・・・前線から戻ってきているのは私たちだけですから。とりあえず私たちの食事を作れればよいかと」
 
市場をぶらつきながら辺りを見渡す。
ラキオスの人たちが俺たちに向ける目がずいぶんと柔らかくなった気がする。
両手に青姉妹が組み付き、少し後ろに控えるようにエスペリアが歩いていた。
 
「あっ、ここですね。ちょっと買い物をしてきますので、少しお待ちください」
「うん。ゆっくりでいいよ」
 
買い物を始める三人から離れ、俺は少し日陰になっている壁を見つけて近づく。
壁にもたれながら買い物をする三人を眺めていると、小さい子供が何人か近づいてきた。
 
「あっ!!黒騎士さまだ〜」
 
駆け寄ってきて俺を包囲する少年少女。
突然の事にどうして良いか判らず、俺はただ目をぱちくりしていた。
子供達は俺の周囲をくるくると回りながらいろいろと眺めている。
【精進】を突いたり、コートを引っ張ったり、俺の体にタックル(?)してみたりととにかく忙しく俺を試してる・・・・・のか?
 
「おっ、おい!なんだ!?どうしたんだ?それに黒騎士って何?」
 
三人の子をとりあえず諫め、俺は屈んで目線を合わせる事にした。
 
「勇者さまは二人いるでしょう?白い服着た勇者さまと・・・」
「黒い服着た勇者さま!」
「だから、レスティーナさまが二人を勇者さまと黒騎士さまって呼ぶようにって」
 
何だか少し恥ずかしくなってきた。
城下町ではそんな風に俺と悠人が呼ばれていたなんて・・・・・・。
屈んだ状態でそっぽを向いて、照れ隠しに俺は鼻頭をかく。
すると一人の少年が突然俺の首に飛びついてきた。
 
「うわっ!な、何?」
「勇者さま、いつも俺たちを守ってくれてありがとう!」
「勇者さまたちがいるからわたしたちがいるんだって、レスティーナさまが言ってたよ」
「だからぼくたち、お礼が言いたかったんだ」
 
少年達の目を純粋で、一点の曇りもない光を灯していた。
これがレスティーナの教育方針の影響なんだろうか、と俺はしみじみ実感していた。
小さく笑いが漏れ、俺は少年達の頭をクシャクシャと撫でる。
 
「そうかい?・・・・なら、俺だけじゃなくてあそこのスピリットのお姉ちゃんたちにもお礼いってあげてくれないか?」
 
買い物を終え俺のほうに向かって歩いてくる三人のスピリットを指さし、俺はニッコリと笑って見せた。
 
「あのお姉ちゃんたちがいるから、俺やもう一人の勇者だって戦えるんだよ」
「そうなの?」
 
首を傾げて俺を見上げる子供達。
自分で自分の事を勇者なんて言ったため、少し気恥ずかしくなり顔を子供達から逸らす。
 
「そう・・・・彼女のために頑張ろう、彼女たちを守ろうと思うから、俺たちは強いんだ。君たちもあるだろう?誰かのために頑張ろう・・・って思えるとき」
「誰かのため・・・?だから勇者さまは負けないの?」
「そうだよ。俺は君たちのためにも、負けないからね」
 
グッと力こぶを作るまねをして、少年達にニカッと笑って見せた。
再び頭を撫でてやると、少年達は嬉しそうに目を細め、三人で顔を見合わせるとエスペリアたちに向かって走っていく。
突然目の前に来た子供達に驚き、ネリー・シアー・エスペリアの三人はキョトンとしていて普段からは考えられない様子から、俺はつい吹き出してしまった。
 
「お姉ちゃんたち!いつもありがとう」
「お姉ちゃんたちが戦ってくれてるから、へいわなんだよね?」
「これからも勇者さまの力になってあげてね」
 
三人が俺の表情を窺ってきたので、軽く頷いて片眼を瞑ってみせた。
ニコニコと笑う子供を見て得意げなネリー、少しだけ恥ずかしそうに俯いているシアー。
エスペリアは優しげに微笑み、子供達に目線を合わせながら頭を撫でる。
 
「うん・・・。私たちがラキオスを守りますから、安心して頂戴ね?」
「うん!ばいばいお姉ちゃん!勇者さま!」
「ああ。またね」
 
手を振りながら去っていく子供達を見送ると、俺たちは館に向かって帰路に着いた。
今日見た笑顔を守るため、俺は是が非でも戦場に立ち、生きて帰ってくる事を改めて心に強く決めた。
もちろん・・・・彼女たちも一緒にだ。
俺の手を引きながら歩いていく二人の姉妹と、後ろから歩いてくるエスペリア。
夕暮れの中、俺たちは笑い合っていた。
 
 
 
 
 
 
      エクの月 黒いつつの日 夜 ヘリヤの道
 
 
 
 
このごろ【精進】の声が何故か聞こえてこなくなっていた。
訓練で力は引き出せるのだが声が聞こえない。
眠っているとか無視されていると言うより、何故かは判らないが話せなくなっているといった感じにとれる。
悠人達のスレギト潜入を援護するためこっちに戻ってきたのだが、このままで戦えるのかどうかが微妙なところだった。
そんなことを知らない敵が待ってくれるはずもなく、到着早々戦闘が開始されていた。
 
 
敵の数は6。
各色スピリットがバランス良く配置されていて、雰囲気的にも強者揃いと言うことが感じ取れる。
(流石、マロリガンの誇る稲妻部隊ってところか、っと)
そのなかに、俺の見知った顔が一つあった。
 
「・・・・・・光陰」
「よぉ。今日はお前に話があってきた」
 
重たげに【因果】を肩に担ぎ、スピリット達に一歩前に出る光陰。
それに習い、俺もみんなの一歩前にでる。
 
「コレで、か?」
 
【精進】に手をかけ、軽く睨み付けるように光陰に目を向ける。
光陰は光陰で、剣呑な雰囲気を周囲に振りまき、戦闘態勢になっている事がわかる。
 
「よくわかってるな・・・・・・そう言うことだ。まず大和、お前が殺されてくれや。神剣の力、落ちているだろ?」
(ばれてるのか・・・・・・。まずいな)
「俺のは四神剣じゃないけど?」
「それでもだっ!!」
 
光陰が動き出した。
大振りな【因果】を軽く右手に構え、体から高密度のオーラフォトンが展開されていく。
それとほぼ同時に俺も動く。
前傾姿勢から必殺の居合いをいつでも放てるように握る柄、下肢に力を込める。
俺の周囲にもオーラフォトンが展開され、体中に力が漲る。
・・・・・・以前ほどでは無くなっているが。
俺たちの後方にいいるスピリットたちは、自分たちの参加できるものでは無いと判っているのか、神剣を納めたまま殺し合いを眺めている。
 
「いくぜ・・・・大和ぉ!!」
 
砂漠を蹴り、躍りかかってくる光陰と【因果】。
大上段から振り下ろされる刃をかわし、瞬時に距離を詰めて【精進】を横薙ぎに振る。
光陰のオーラフォトンに妨げられ、刀は体に届くことなく中空にとどまっていた。
(ちっ・・・・足場の悪い砂漠じゃ居合いの力は半減だな。しかもスピードが生かしきれない)
ギリギリと障壁と咬み合う刀。
瞬間、俺に隙が生まれ、光陰が横薙ぎに【因果】を振るってくる。
体を低く沈み込ませると、はじけ飛んだ何本かの髪がはらはらと宙を舞う。
身を捻り、下から光陰の首を目がけて突きを放つ。
首を傾けることで突きをかわす光陰。俺の一撃は皮一枚を切り裂き、薄く血を滲ませるだけに終わった。
 
「あぶねえな・・・・。やっぱりお前は悠人と違うね」
 
ケラケラと笑っているが、目は笑っていない。
 
「・・・・しかし妙だな。お前ならいくら俺の障壁が強かろうが、簡単に俺なんかを殺せそうだがな」
 
ゆっくりと立ち上がり、光陰と正面からにらみ合う。
 
「・・・・俺は殺さないよ。殺さないし殺させない。殺させないし殺されない」
「お前の口から出るとは思えないほど、随分と子供っぽい我が儘だな」
「何とでも言えよ・・・・・・。子供っぽかろうが何だろうが、俺は絶対にお前達二人を殺させないし、大切な仲間達を傷つけさせない」
 
背中から汗が噴き出し、シャツがべったり張り付いている。
いつもと違う体にイライラするが、コレばかりはどうしようも無い物だ。
何故今頃になって【精進】が黙り込んだのか、それがいまいち理解できない。
 
(恨むよ【精進】)
「どうした?来ないのか大和」
 
安い挑発に乗れるほど今の俺には余裕などない。
俺は刀を鞘に戻し前傾姿勢に、光陰も自分がもてる最高の技で対抗しようと構えをとる。
お互い一撃で勝負を決めようと言うのだ。
砂漠の乾いた風が俺と光陰の間を吹き抜けていった。
 
(やるっきゃない・・・・・か)
「征くぞ・・・・・・光陰!!」
「こい!大和!!」
 
同時に動き出し、駆け抜け様に互いに刃を振り抜く。
甲高い金属音が周囲に響きわたり、互いが互いに背を向けて立っている。
刃を振り抜いた格好のまま、しばらく時間が過ぎた。
 
異変は突然。
俺の体に激痛が走り、体を見てみると左脇腹から右脇腹にかけて一文字に傷が走っていた。
 
「ヤマト様!!」
 
誰かの声が聞こえたが、何だか頭がぼぅっとする。
 
「ぐふっ・・・・・・が・・・・・・は!」
 
体の中からこみ上げる熱い塊が口から吐き出され、おびただしい量の紅がマナ霧に変わる。
全身から力が抜け、砂漠に膝から崩れる。傷口からドロリとぬめる血が流れ始め、砂漠の砂を赤く染めると金色の霧に変わっていった。
呼吸が荒くなっていく。砂漠にいるはずがとても寒く、心なしか目がかすんでいる。
これが「死」なんだという実感がわき上がってくるが、実際に体験してみると恐怖などは無く、逆にとても穏やかなものに感じられた。
 
「いや・・・・・・ヤマト様ぁ!」
 
再び女性の声が聞こえてきたが、すでに俺の耳にはただの雑音の一つくらいにしか聞こえない。しかし悲痛な叫びが耳に残って、意識をつなぎ止めていた。
 
「おいおい・・・・・・でかいこと言ったくせにコレか?呆気ないんじゃないか大和」
 
ゆっくりと俺に近づき、俺の握る【精進】に【因果】を向ける。
何とか立ち上がろうと体に力を込めるが、言うことを聞かなくなっている体が動くはずもなく、ただ虚しく体をよじっただけだった。
 
「悪いな、コレも仕事だ。・・・・・・今日子のために死んでくれ【精進】」
 
ゆっくりと上段に構えられる。
(止めろ・・・・・・俺はまだ力を失うわけにはいかないんだ)
前日出会った少年達のことを思い出した。無垢な笑顔、純真で真っ直ぐな瞳。
俺は約束した。あの子たちのためにも負けない・・・・・・と。
エスペリアも言っていた。ラキオスは私たちが守るから、安心していいと。
(俺に・・・・・・あの子達の夢を、明日を守る力を・・・・)
世界から色が失われていく中、時間がスローになり、俺の周囲から音が消えた。
 
 
『何のために・・・・・・力を望む?』
 
ふと聞こえた声は【精進】によく似ていたが、それとは異なった声色だった。
武人と言うより僧侶に近い気がした。
 
(決まっている・・・・・・。みんなを守るため・・・・・・全ての幸せを願うため。それが俺がこの世界に呼ばれた理由なのかも知れないから。それを確かめたいから)
『何故それを望む?』
(それは判らない。・・・・・・だけど、コレが俺の本当の思いだ)
 
薄れていく意識と現実の狭間にあって、俺は誰かの事を考えていた。
 
(誰もが悲しまない世界を作りたい・・・・・。コレじゃ駄目かな?)
『ふふふ・・・ははは!面白い来訪者だ。あの永遠者も随分面白い者を我に与えたものだ』
 
笑っている誰かの声を感じながら、俺は必死に意識を保った。
 
『面白い・・・・面白いな』
 
体に力が流れ込み始め、活力が体に漲ってくる。
 
(アンタはなんなんだ?)
『我が声をお忘れかな?我は【精進】の本来の姿・・・・永遠神剣第四位【開眼】なり。そなたに合わせるために体を本来のものに戻そうと休眠に入っていたが、迷惑をかけてしまったようであるな』
(なに・・・・?)
『体は作り替え終えた。これからは私の事は【開眼】とおよびください』
 
体に漲るマナが傷口から出血を止め、ぼやける頭がはっきりと覚醒していく。
手に握られている柄から変革がはじまっていた。
握り拳一個分長く伸びた柄、幅が若干広がり肉厚になっている刃。
鍔にデザインされた開かれた瞳が鈍色の輝き、真っ直ぐと空を見上げている。
頼もしく生まれ変わった相棒を握り、オーラを刀身に流し込む。
ゆったりと立ち上がり、刀を正眼に構える。
 
「【開眼】のヤマト・・・・いざ、参る」
 
スローモーションになっている周囲の空間を切り裂き、現実世界へと俺の体は帰還していった。色を取り戻し、音を取り戻す。やがて時間を取り戻し、俺は完全に顕現した。
 
 
 
 
ガキィィィン!!
振り下ろされる【因果】を生まれ変わった相棒で、寸でのところで防ぐ。
ガッチリと咬み合う【因果】の刃と【開眼】の刃。
 
「うおおおぉぉぉぁ!!」
 
裂帛の気合いとともに力を込め光陰を押し返す。再び甲高い音が響き渡り、光陰はマロリガンのスピリット隊の前に、俺はラキオスのスピリット隊の前に降り立った。
 
「な・・・・力が戻っている?何故だ!?さっきまでは力が感じられなかったのに。・・・・何?怯えているのか【因果】!?」
 
もう一度居合いの構え、前傾姿勢を取る。
今の意識は俺なのか、はたまた【開眼】なのか、判らなかった。
口の端から流れる一筋の紅すら、壮絶なまでに彩られている。
 
「・・・・・・【開眼】参る」
 
光陰も同時に先ほどと同じ構えを取る。
 
「ちっ!目覚めなければ楽に殺れたっていうのに!!」
 
再び乾いた風が砂塵を巻き上げ、俺と光陰の間を吹き抜けていった。
 
「!!」
「っ!!」
 
駆け抜ける二条の旋風。鋭い剣閃が辺りに木霊し、二人はそれぞれ立っていた場所まで飛び退く。【開眼】はすでに納刀されていて、無骨な刃を隠している。
・・・・・・今度は同時に膝が折れた。
俺は激しく動いた代償に傷口が開き血が溢れ始め、光陰は切り結んでいた余波で体に幾筋もの切り傷が浮かんでいた。
それぞれスピリットに体を支えられ立ち上がる。
 
「・・・・へっ。卑怯なヤツだな。戦闘中に神剣が目覚めるなんて。こりゃ・・・引き分けか」
 
痛みに顔をしかめつつも光陰は笑っていた。
何かが切り離され、意識が透明化されていく。支えられた体に溢れるしっかりとした力。
 
「どうだか?コイツが目覚めてくれなきゃ、俺が死んでいたからな・・・・・・。それでも、まぁ・・・・痛み分けだ」
 
俺も精一杯の笑顔を浮かべ、光陰を睨み付けた。
 
「ちっ・・・・クォーリン、撤退だ。殺れないのなら引くしかない」
 
瞬時に光陰の周りに控えていたスピリット達が動き、光陰はグリーンスピリットに担がれ去っていった。
 
「今度こそ・・・・・決着を付けてやる。悠人共々・・・・な」
 
最後にそれだけ言うと、光陰は今度こそ飛び去っていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
目覚めた力。
それは勇者のために、そして勇者が求めた心ために。
【精進】の末に至った【開眼】の境地。
守るため、救うため、勇者は新たな力を振るうだろう。
少年の瞳が見据える明日を切り開き、闇を取り払う剣が勇者の手に渡された。
我は祈る。
この地に安寧が訪れるようにと。
我は願う。
我が喚び醒まされ、我の力を必要とする事が無きようにと・・・・。
我はこの世界を司る剣なり。
【精進】の末に【開眼】に至り、やがて我が目覚めに至るのだろうか?
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