翌日、目を覚ました俺を待っていたのは暴れる悠人だった。
全身に包帯を巻き、ボロボロのくせに必死になっている姿を俺はぼぅっと眺めていた。
 
「どけっ!俺は佳織を・・・佳織を助けに行く!!」
「お、落ちつてくださいユート様!!」
「そうです・・・まだお体が・・・・」
「まだ危険です〜。落ち着いてください〜」
 
その体を必死に押さえつけながら、ヒミカ・へリオン・ハリオンが悠人をなだめていた。
珍しくヒミカとハリオンが焦っていて、へリオンはいつものごとく慌てていた。
なだめるも効果は無く、このままでは恐らく悠人は力ずくで押し通るだろう。
俺は小さくため息を吐くと、暴れる悠人を止めようと近づいていった。
 
ガチャリ。
 
突然ドアが開き、意外な人物が医務室に現れた。
 
「何事ですか」
「れ、レスティーナ様!?」
 
悠人を羽交い締めにしながらもヒミカが頓狂な声を上げ、突然の来訪に驚いたようだった。
現最高指導者、レスティーナ王女その人。
レスティーナは暴れる悠人を見て、すぐに状況が解ったらしく、毅然とした面持ちで悠人にツカツカと近づいていった。
 
「ユート・・・・・貴方は死ぬ気ですか」
「・・・・っ!」
 
悠人の体がビクリと硬直し、レスティーナを睨み付ける。
真っ向から悠人の瞳を見返し、なおも毅然とした態度を崩さないレスティーナ。
 
「必ず・・・・必ずカオリは助けます。ですから、今は治療に専念してください」
 
悠人の手に自らの手を重ね、安心させるように優しく囁く。
やり場のない怒りをもてあまし、悠人は耐えるように震えていた。
俺は拳を握り、少し駆け足で悠人に近づいた。
 
「ふぅ・・・・、仕方ない。悪く思うなよ悠人」
 
そのまま拳を振り上げ、悠人の横っ面に拳を突き刺した。
鈍い音が響き、悠人がぐったりとして動かなくなってしまった。
 
「しまった・・・・強すぎたか」
「いえ、ヤマト、ご苦労様です。私では恐らくユートをなだめることはは出来ても、止めることは出来ませんし・・・・」
 
プラプラと手首を振りながらレスティーナに歩み寄る。
下唇を噛み本当に悔しげに俯くその姿は、今の彼女の気持ちが態度に出ているかのようだった。
 
「・・・・こういう役回りは私のすることです。このようなことで貴女様のお手を煩わせるわけにも参りません」
 
レスティーナの顔が驚きに染まり、そして俺に向けられる視線が哀れみのそれに変わる。
俺はレスティーナの耳元に口を寄せ、小声で呟いた。
 
「悠人の気持ちも汲んでやってください。・・・俺のせいでもありますから。俺が・・・あそこで確実にウルカを倒していればこんな事には・・・・」
 
言いながらも自嘲が漏れ、レスティーナの表情を更に曇らせるだけだった。
 
「じゃあ、俺は館に戻る。ヒミカ、後は頼んだよ」
 
突然声を掛けられ、しかも悠人を殴ったあとにしれっとしている俺を見て驚いたか、肩がピクリと反応した。
 
「はい。お任せください」
 
俺はその場をヒミカに任せると、上着を着込み、館へと戻った。
 
 
 
 
 
 

       創世の刃
             永遠のアセリア another if story
             act 10 ふれあうこころ

 
 
 
 
 
 
          アソクの月 赤ふたつの日 昼 謁見の間
 
 
 
 
レスティーナにより、マロリガン共和国の宣戦布告が明らかとなった。
先週、悠人率いる護衛隊と首都マロリガンに赴き、大統領クェド・ギンと会談の結果、同盟関係は結べないとのことらしい。
生憎俺の隊はスクランブル要員としてラキオスにカンヅメだったので、悠人から聞いただけなのだが。
ちなみにあれから様々なことが変化し、今やレスティーナは[女王陛下]として、王位継承者としてラキオスを率いることとなっている。
悠人、俺はレスティーナに協力することを誓い、また悠人は佳織を救出するために帝国とも戦うことを決めた。
そのため、俺たちはまたしばらく戦いを続ける。
 
「レスティーナ、頼みがあります」
「何でしょう?私に出来る範囲であれば、何なりと」
 
女王陛下に何なりとなどと言われると、少しだけくすぐったい気持ちになってくる。
 
「俺にマロリガンに関する資料を回してくれませんか?スピリット、マナ研究、商工業、地理。とにかくマロリガンに関係する資料を・・・そうですね、出来るだけ新しいものを」
「・・・・わかりました。後で館まで兵に届けさせましょう」
「助かります」
 
やはりここは戦術指南役としては、様々な点から敵国を分析しておきたいのだ。
俺たちは謁見の間で状況を確認していたが、レスティーナ曰く「しばらくはにらみ合いになるでしょう」ということで、その場はお開きになった。
俺は一礼をし、謁見の間を立ち去った。
 
 
 
「・・・・すまなかった、大和」
 
廊下を歩いていると悠人が突然謝ってきた。
何度か学校でもこういうことがあったような気がする。
 
「俺もすまなかった。いきなり殴ったりして」
 
すでに腫れはなく、ハリオンに治療して貰ったのだろうと予想はつくが、やはりいきなり殴ったことは悪いと思っている。
 
「いや、殴ってくれてありがとう、だよ。あのままだったら俺はレスティーナを排除してでも帝国に行ってたかもしれない・・・・だから、ありがとう。それで、迷惑を掛けてすまなかった」
 
俺の前に立ち止まり、頭を下げる悠人。
何度も悠人には頭を下げられているが、なんだか今日はいつもと感じが違った。
俺は肩を軽く叩き、そのまま第二館へと帰ることにした。
 
 
 
 
 
 
           同日 夜 大和の部屋
 
 
 
 
城から送られてきた資料は多大な量だった。
 
「コレを全部読むには・・・・骨が折れるな・・・・」
 
自分で資料をくれと言っておいて何だが、正直こんなにあるとは思っても見なかった。
ざっと部屋の中を見渡す。
・・・・・見渡すとそこは、段ボールの国でした。
某作家の名作「○國」の一節が思い起こされてきて、そしてその映像と少しだけダブって見えたため、軽いデジャヴを覚えてしまった。
一つ開け、中を確認する。
律儀に整理されてるのはいいが、正直無駄なことを書いてある報告書なども多い。
とりあえず必要な書類を探し、残りは全部返そうと、そういう方向で脳内完結しておいた。
コンコン。
 
「は、はーい・・・・・うわっ!」
 
ガラガラガラ・・・・ドカーン。
・・・・・・・・・俺は生まれて初めて、雪崩(?)に遭いました。
 
「ど、どうされました!?・・・・!!ヤマト様!」
「どうしたの?・・・・あぁ、これは・・・・・」
 
部屋に入ってきたのはヒミカとセリア。
入るなり、紙に埋もれている俺をみて掘り出してくれるヒミカと、それをみて絶句しているセリア。
 
 
・・・・・・十分後。
 
 
「いやー助かったよ。ありがとう二人とも」
 
部屋の中は綺麗に片づいていた。
 
「いえ。・・・・それより、資料は・・・・こんなにあったんですか?」
 
ヒミカがざっと部屋の中を見渡し、改めて段ボール(の様な物)の多さに驚いて言う。
ぶっちゃけて言えば、ベッドすら消え、残っているものは執務机だけ。
周りは全て段ボールで構成されていて、部屋と言うよりある意味監獄?
 
「コレ全部ね、マロリガン関係の資料だよ。・・・・戦術指南役の役目を果たさないとい
けないからね」
 
執務机に戻りながら、先ほど引っ張り出した資料を見る。
 
(砂漠の国・・・・ねぇ。大方地球で言うところのエジプトって所かと思えば・・・、なかなかどうして経済力、技術力共に高いね・・・。)
 
執務机に座り、二人を見る。
 
「で、何かご用かな?」
「あっ、はい」
「何かお手伝い出来ることはありませんか?」
 
セリアの提案だった。
手伝い・・・・確かに俺が一人でやるよりは早い。
さらに言えば、その方が圧倒的に効率が良い気がする。
・・・ならば頼むとしようか。
 
「う〜ん・・・・なら、セリアにはそこの地理とマナ研究の箱の中からスレギトからのルート算出、あと各街々の距離の計算、そこに存在するマナ量のおおよその検出を頼もうかな」
「了解しました」
 
セリアの前に箱を二つ持ってきて置き、セリアに紙とペンを預けた。
すぐさま箱を開き、セリアはごそごそと資料を探して、発見すると眺めながら紙に何やら書き込んでいく。
恐ろしく早い速度で作業がなされ、かなり衝撃的だった。
 
「あ、あの、わたしは何をすれば・・・」
「ああ、ヒミカには研究のデオドガンを含めて商工業の精錬度、それに関するマナの消費量、あとはどこが消費量が一番多いか・・・あぁ、首都は抜いて計算してくれ」
「わかりました。それでは・・・・」
 
ヒミカにも二つの箱を目の前に置き、紙とペンを置いた。
ヒミカも作業に取りかかり、セリアほどでは無いにしろ速い速度で作業をこなしていく。
心強い二人の援軍に感謝しながら、俺も作業を開始した。
 
「あ、君たちのは暇を見てやってくれればいいから。期限はつけないし、ゆっくりやってくれ」
「はっ」
「了解しました」
 
 
 
 
 
 
       アソクの月 緑いつつの日 昼 謁見の間
 
 
 
 
あれから一週間以上が経ち心身共に憔悴しきった頃、俺はレスティーナに呼ばれ謁見の間へと向かっている。
とても久しぶりに長い惰眠を貪っていたころをネリー・シアー・ニムの年少三人にたたき起こされ、客が来たらしく、俺たちエトランジェにも同席して欲しいと伝言があったそうだ。
途中鏡を見たが、頭が爆発していた。
髪の毛を手で押さえつけながら、謁見の間の扉をくぐった。
 
「・・・・何か・・・・ご用でしょうか・・・・」
 
力なく笑う憔悴しきった俺を見て、レスティーナの表情が曇る。
 
「ヤマト、貴方はちゃんと睡眠や食事は取っていますか?」
「ええ、毎日一時間、食事は一回。それ以外は机に向かって、日夜勉強にいそしんでおりまする・・・・」
 
瞼が重すぎて半分くらいしか開いていないようで、俺の視野も通常の半分になっている。
そして言葉も変だった。
 
「・・・・ヨーティア様の様な方もいるものですね」
聞き慣れない声が俺の横から響き、首を死ぬ気でそちらに向けると、白い衣服を身に纏った一人の女性が立っていた。
全体的に色素が薄く、瞳の紅い色を覗けばほとんど無色と言っても過言はない人物だった。
おまけにとびきりの美人。
 
(少し憂いを帯びた表情がまたこれを・・・・・はっ!いかんいかん!!)
「・・・・あの」
「ユート。遅いでしょう。館からどれくらいの距離があると言うのですか?・・・客人を待たせるなどと」
 
俺の声を遮り、少しだけ大きな声で悠人を叱るレスティーナ。
今の俺にはビリビリと鼓膜に突き刺さり、よろよろとよろけてしまう。
よろけた先でポスッとその女性に支えられ、やっとの思いで立っていた俺だった。
 
「お気になさらず。突然の訪問をしたのは私のほうなのです」
 
白い女性は俺を立たせながらレスティーナに向き直る。
 
「ヤマト、いい加減起きなさい」
(俺までレスティーナに怒られてしまった)
 
悠人によろよろと近づき、頬を一発張ってもらう。
ビシッと鈍い音とともに痛みが全身を駆けめぐり、意識がはっきりしたものに変わった。
 
「失礼・・・睡眠時間がいかんせんたりず、お見苦しいところを」
「こちらの方は、ある方の使者として、このラキオスに参られたのです」
 
紹介された女性・・・あ、いや、スピリット。
寝ぼけていて解らなかったが、確かに神剣らしき物を持っている。
 
「ラキオスのエトランジェ。【求め】のユート様、【精進】のヤマト様ですね。」
 
スッと体を俺たちに向け、真っ直ぐな瞳で俺たちを見る。
 
「私はイオ。スピリットです。・・・・出会えた事を、マナの導きに感謝します」
 
そのまま深々と頭を下げる。
 
「頭を上げてください。え〜と、ラキオスのエトランジェ、悠人です。よろしく」
「同じく、大和です。以後お見知りおきを」
 
俺と悠人も最大限の礼節を払い、丁寧に礼をかえした。
 
「私がラキオスへやってきたのは他でもありません。」
頭を上げ、俺たちとレスティーナを見えるように体を横に向ける。
「主からの伝言を持って参りました。・・・・ラキオスの聡明な女王レスティーナ様と、エトランジェのお二方に、と」
 
イオは厳重に封がなされた書簡をレスティーナへと手渡した。
封印に施された三首蛇の紋章、帝国の紋章が気になったが、口を挟む気力が無いため無視しておいた。
 
「預からせて頂きます」
 
懐からナイフを取り出し、封を切り破り、中に目を通し始めた。
しばらく一語一語を目で追い、時折険しい表情を浮かべるレスティーナ。
その表情を見れば、重要な事が書かれていると推測出来た。
誰も何もしゃべらず、無言の時間が過ぎていった。
 
「・・・・・」
 
黙読を続ける目がとまり、顔を上げると一つため息を漏らすレスティーナ。
やがてその書簡は火に掛けられ、燃え尽きてしまった。
 
「わかりました。イオ殿。すぐに使者を出しましょう。マロリガンとの開戦も近く、猶予はありません」
「ありがとうございます。主人も喜ぶでしょう。私は案内役を務めさせて頂きます」
 
何だかよくわからないが、誰かの許に使者をよこすと行った話から推測するに、どうやら
俺と悠人はそのために呼ばれたようだった。
 
「ユート」
「あ、はっ!」
 
横の悠人がビクリと肩を揺らし、変な反応を返す。
 
「エトランジェ、【求め】のユートに命令を下す。イオ殿とともに、ラキオスの使者として、この書簡を届けるように。エスペリアを伴うが良い。ユート達が帰還するまでは、ヤマト達が持ちこたえてくれよう」
「ハッ!急ぎエスペリアとともに任務につきます」
「向かうべき場所は、マロリガン共和国領奥部の自治区周辺。隠密行動となる。覚悟するように」
 
更に顔を引き締め、声のトーンも落とす
 
「これからの戦いにおいて、とても重要なことになる。失敗は許されない。良いな?」
 
悠人は頭を下げると急ぎ館へと向かっていった。
 
「ヤマトには別命を」
「はっ!何なりと」
 
姿勢を正し、レスティーナの言葉を待つ。
しかし、彼女の口から発せられた言葉は意外なものだった。
 
「ヤマトはこれより一週間、一切の執務を行うことを禁ずる。後の事は館のスピリットの引き継ぎをし、自らの体を休めるように」
「はっ?」
「ですから、体を休めなさい。貴方は無理をしすぎです。戦闘が出来なくなっては困りますし・・・・、それに貴方には仲間がいることを忘れないように」
「で、ですが」
「命令です。拒否権は認めません!」
「はっ・・・・。これより、私は休息に入ります」
(まっ、いいか。建前上はこう言っておけば・・・・)
「ちなみにすでに館には命令書は行っていますし、誰かが貴方の監視につくようになりますから、くれぐれも研究を続けようとは思わないこと。・・・・・いいですね」
 
レスティーナは本当に拒否は許さないという態度で、俺の心の中を見透かしたように凄みのある笑顔で言われた。
 
「・・・・・・はい」
 
シュンと項垂れたまま、俺は来たときより更にトボトボと、いや、スゴスゴと謁見の間を立ち去った。
俺の背中は凄まじく小さく、哀愁が漂っている事だろう・・・・・・。
グスン。
 
 
 
 
 
 
           同日 昼 食堂
 
 
 
 
帰った俺を待っていたのは、館にすむスピリットの面々の冷た〜い目だった。
色とりどりの食卓を見ればお腹が鳴くのだが、周りを見ればお腹のムシも泣き方を瞬時に忘れる。
はっきりと言おう。
俺は今、戦場以上の恐怖をこの身に覚えている(泣)。
 
突き刺さってくる視線その一。
爆発している頭や、げっそりしている俺を見て、若干俺に怯えているネリー・シアー・へリオンの何となく恐怖の視線。
ええ、それはもう何の惜しげもなく、俺はこの世の生き物かという視線ですよ。
 
視線その二。
俺が自分でゆっくりやればいいなんて言ったにも関わらず、それを無視してこんなになるまで籠もっていた事に対するヒミカ・セリア、そしてそれには関係なく俺に呆れているニムントール。
中でもセリアは絶対零度、ヒミカは灼熱地獄と、室内で感じることが出来ない温度を俺に与えてくれていた。
さ、寒いよ・・・・熱いよ・・・・母さん。(泣)
 
その三。
にこやかな表情を浮かべながらも、どこか・・・否、トゲどころかそれぞれの得意な獲物級の破壊力を含んだ視線をくれてくるハリオン・ファーレーン。
刺さってるねぇ・・・・コレが戦場なら俺は死んでるだろう。
 
その四。
無関心そのままなナナルゥ。
・・・・・あなたはみんな同様に、少しは興味を持ってください。
 
絶対零度を纏っていた蒼き美獣がゆっくりと口を開いた。
 
「ヤマト様、失礼ながら言わせて頂きます」
ほぼ一同「貴方はバカですか(〜)!!」
 
ビリビリビリビリビリ!
俺の鼓膜を貫いたアポカリプスクラスの破壊力を持った、包み隠すことない罵詈雑言。
年少組は片隅で耳をふさいでちっちゃく丸まっていた。
その脇ではナナルゥが黙々と食事を続けている。
あ、パン二つめ・・・・・・。
その瞬間、背筋が凍り付くほどの殺気を覚え、咄嗟に顔を上げる。
今の動きはハムスタークラスに機敏だった自信があるっ。
 
 
 
 
「あなたはわたしたちに何て仰いましたか・・・・・・」
「ゆっくりで良いと仰いましたね!!」
 
絶対零度、そして烈火のごとし二人の怒り。
 
「ダメですよ〜。私たちだっているんですからね〜・・・ヤマト様、めっ!!です〜」
「あなたはどれほど私たちに心配を掛ければ気が済むんですか」
 
笑顔のまま怒りをぶつけてくる、ある意味修羅二人。
ファーレーンさん、仮面の奥の目が殺気を持っています。落ち着いてください。
 
「バッカみたい・・・・・」
あぁ、無情。
ニムには切り捨てられていました。
 
「ご、ごめんみんな・・・。すこしでも多くマロリガンの情報を集めようと思ったんだけど・・・・心配かけたなら本当にごめん」
 
素直に頭を下げると思っていなかったのか、今度はみんながキョトンとしている。
視線が物語っていた会話をお送りします。
 
 
ヒミカ「こんなに簡単に謝るなんて・・・・頭でも打ったのかなヤマト様?」
セリア「起きる前と比べて態度が全然違う気が・・・・何か悪いものでも食べたのかしら」
ハリオン「すぐに謝るなんて、ヤマト様も良い子になりましたね〜」
ファーレーン「ヤマト様が頭を下げるなんて・・・・ちょっと、申し訳ない気がします」
ニム「何か変・・・・はぁ、バカみたい」
ネリー「ウズウズウズウズ」
シアー「ワクワクワクワク」
へリオン「あんなに怖かった方が頭を下げました・・・・」
ナナルゥ「・・・・・・・・・」
終了。
 
 
 
 
しばらくしてお許しを頂きまして、私は正直言ってそれまで生きた心地が致しませんでした。はい。
食後、お茶を嗜みながら年長組と俺はこれからのことを話し合った。
少しだけボーッとする頭を振り、みんなの顔を見渡す。
 
「とりあえず・・・・そうだな、ヒミカ・ハリオンと、年少組二人くらい連れて第一館に一時移ってくれるかな?オルファとアセリアだけじゃ不安だから」
 
ヒミカは一瞬戸惑い、しかし映像が予想できたのか、青ざめた顔で立ち上がった。
 
「・・・・はい。それではすぐにでも移ります」
 
食堂を出て、自室に準備に戻ったヒミカ。
 
「待ってくださいヒミカ〜。じゃあ、わたしもいきますね〜」
 
ヒミカを追って出ていくハリオン。
それに着いていったのは青二人姉妹だった。
意外に早く決まった事に驚きながらも、俺も部屋に帰ろうと立ち上がった。
立ち上がろうとしたときにクラッと眩暈がして、倒れそうになる。
 
「っと・・・っ!」
 
眩暈どころか足に力がはいらず、ストンと椅子にまた座り込んでしまった。
 
「じゃあ、私はお片づけをしてしまいますね」
「あっ、手伝うわファーレーン」
 
セリアとファーレーンが台所に消えていった。
目の前ではニムとへリオンが、以前の授業で出した宿題を片づけようと教科書もどき(俺の手製)と睨めっこしている。
 
(はぁ・・・・・疲れてんのかな。って、当たり前か)
 
心なしか視界がぼやけているような・・・・。
更にしばらくして、移動組が降りてきて「行って参ります」といって四人が第一館に向かっていった。
軽く手を振りながらも頭が重く、思考が纏まらない。
 
(うぅ〜体が怠くて・・・・何だか眠い〜)
 
頬杖をつきながらぬるくなったお茶を一口啜る。
嚥下される間での時間が非常に長く感じ、何とも言えない詰まりを感じる。
喉の詰まる感じがしたのでネクタイを緩め、Yシャツのボタンを一つ外す。
俺は耐え難い体の怠さに負けてその場に伏せ、眠ることにした。
 
 
 
 
 
 
        同日 食堂 side byファーレーン
 
 
 
 
お台所を片づけ終えて食堂に戻ると、机に伏してヤマト様が眠っていらした。
そこの机で勉強をしていたはずのニムとへリオンもいなくなっていて、食堂には私とセリア、ヤマト様しかいないようなので仮面を外すことにした。
エプロンを外し、仮面を外すと、少しだけひんやりとした空気を吸い込む。
やがてセリアもお台所から戻ってきて、珍しそうにわたしを見ている。
 
「珍しいこともあるのね・・・・。自分から仮面を外すなんて」
「そうかしら?・・・最近は外すようにしてたけど」
 
でもよく考えればそうかも知れない。
訓練では仮面を着けていたし、食事時は夜警などで出ていたときも多かった。
外すと行っても部屋に居るときや湯浴みの時だけだったような気もする。
それでも仮面を外すことを馴れようと努力をしてきた。
 
「お茶淹れたわ。少し話をしましょうか」
「ええ。ありがとうセリア」
 
椅子に座り、セリアの淹れてくれたお茶に口をつける。
エスペリアさんが淹れてくれたお茶とまではいかなくても、やっぱりセリアの淹れてくれたお茶は美味しい。
やっと一息つき、前に座っているセリアを見ると難しい顔をしていた。
 
「どうしたのセリア?」
「いえ、少し聞きたいことがあるの」
 
聞きたいこと・・・・・何も考えつかず少しだけ考えてしまう。
 
「聞きたい事って・・・・」
「ええ、あなたと・・・・ヤマト様のことなんだけど」
「えっ!?」
 
大声を上げてしまい、慌ててヤマト様のほうを向いた。
ぐっすりと眠っているようなので少しだけ安心した。
 
「な、何?」
「あの日・・・・ファーレーンが喜んでいた日があったじゃない」
 
喜んでいた日・・・・少しだけ思い出してきた。
しばらく前にヤマト様の過去の話を聞いた次の日、セリアたちにからかわれた日の事かと考えられた。
 
「あ、あの日は・・・・」
「何があったの?」
 
話すべきかどうか迷い、ヤマト様をチラリと横目で確認すると眠っている。
セリアに目を向ければ真剣な表情で、ただの興味本位じゃないと解った。
 
 
 
 
     side by  セリア
 
 
 
どうやらファーレーンは話してくれるようで、深呼吸をしている。
 
「・・・・前日にヤマト様の過去の話を聞いたの」
「過去の話?」
 
そう聞き返すとファーレーンは目を細め、思い出すように語り始めた。
 
「ええ。過去と言っても、ダーツィに居たときの仲間の話や生活の話よ」
 
細めた目が少しだけ暗い色を帯び始めた。
 
「いろいろな話を聞いたわ。・・・・それで知ったの。ヤマト様がなぜスピリットのために戦うと言っていたのか」
 
そう言えば以前もそんなことを言っていたような気がする。
ヤマト様はダーツィ首都キロノキロに駆け込んできたときもそんなことを言っていたし、ダラムで合流したときも今と同じように彼女とこんな話をしていた。
 
「自分の目の前で殺された仲間・・・確かレイアさんとエルさんって言ってたかしら?その二人を含むスピリットにある程度自由を与えさせると、大公に約束させたらしいの。・・・・上辺だけかも知れないけどね、なんて言っていたけど」
 
記憶に残っている。忘れるわけもなかった。
(アセリアとエスペリアが斬った二人ね)
その場にいて、この目で見ていたのだから忘れる訳もない。
彼女たちは死ぬ間際までも苦悶の表情はなく、穏やかな笑顔を浮かべていた。
・・・・・それもヤマトに対して。
 
「ヤマト様は自分がとても弱い存在だって言っていたの。力はあっても・・・守る事ができる訳でもなく、心の何処かで保身を考えている自分が居る。それが嫌いなんだって」
 
泣きそうな表情を浮かべたままファーレーンは訥々と語り続ける。
しかしそこで話は止まり、突然真っ赤に染めた顔を両手で覆っていた。
 
「どうしたの?」
「い、いえ!」
「??それから何があったの」
「えっ!?あ、その・・・・あの」
 
声を裏返らせわたわたと暴れ始める。
聞いてはまずいことかと思ったが、恐らくここからが確信なんだと直感的に判断した。
 
「何があったの」
「あ、あぅぅぅ。・・・・・今度は私からヤマト様を抱きしめていました」
 
消え入りそうな声で呟き、真っ赤な顔をさらに赤くして俯いてしまった。
 
「あ、あの、やっと弱みを見せてくれてくれたことが嬉しかったのと、あんなに弱々しいヤマト様を見ているのが辛くて・・・・」
 
上目遣いで私を見ながら語るファーレーン。
あと一つ、確認するべき事があった。
 
「・・・・そのあと、何かあった?」
「!!・・・そのあとしばらく、ヤマト様に抱きしめられていたの」
 
消え入りそうな声がさらに小さくなり、俯いていた顔がさらに恥ずかしそうにしていた。
その表情を見ながら、私は確信を持った。
ヤマト様が突然強くなった理由、それを悟った。
 
(そう・・・・。やはりエトランジェって不思議な存在ね。たったそれだけであれ程までに変わるものかしら)
 
人間とは非常にわかりにくいものだと、つくづく思い知らせれる。
時にふとヤマトを見てみた。
机に伏しているせいか、呼吸が苦しそうに見えるのは気のせいだろうか?
心なしか眠っている時の呼吸と言うより、動悸が激しくなりゼェゼェと呼吸しているようにも見える。
とりあえず立ち上がり、ヤマトに近づいて確認してみた。
 
「!!ファーレーン!」
 
 
 
 
side by ファーレーン
 
 
 
「??どうしたの大声で」
「すぐにヤマト様のお部屋を片づけて、ベッドに眠れるようにして!」
 
セリアの必死な声にわたしは慌ててヤマト様のお部屋を片づけた。
ベッドを使えるようにして、食堂へと駆け戻る。
丁度セリアがヤマト様に肩を貸し、食堂から出てきた。
 
「どうしたの!?」
「額、触ってみなさい」
 
言われるがままにヤマト様の額に手を伸ばし、前髪を上げて触れてみた。
同時にセリアがバランスを崩し、私がヤマト様を受け止める形になり、その身体から感じる熱は異常なほど熱かった。
 
「!!・・・凄い熱」
 
苦しげに呼吸をするヤマト様にわたしも肩を貸し、急いで部屋へと運び込む。
ベッドに寝かせて服を緩めた。
着替えさせようにも着替えさせられず、ためらった結果服を緩めるだけにとどまった。
こういうときに男性のいないスピリットの館は不便に思えた。
 
「とりあえず氷持ってくるわ。あとは、薬なんてあったかしら?」
「お医者様をお城から呼んできます!セリア、後はお願いします」
 
私はすぐに城に行き、レスティーナ様に頼み、お医者様を呼んでもらった。
 
 
 
 
 
       同日 夜 大和の部屋
 
 
 
 
「・・・・・・う?」
 
体全体が気だるく、目を開けるのがとても辛い。
それでも無理矢理目をこじ開け、上体を起こそうとするが、体の気だるさが抜けきらずに起きることを拒否しているかのようだった。
部屋の中は暗くなっていて、時間がずいぶんと経過しているようだ。
腕時計を見ると、ハイペリア時間で午前二時を差していた。
良く状況を確認するとベッドに寝かされているようだった。
 
「何があったんだっけ・・・・?」
 
こうなる前の状況を必死に思い出す。
(謁見の間に行って、レスティーナに休養を命じられた。そのあと帰ってきた俺は昼食時にみんなに怒られて、さらにその食後にヒミカとハリオンに向こうに行ってもらうようにして、移動組が行った後体が怠くて眠った・・・ような)
若干曖昧な記憶をたぐり寄せるも、なんともあてにならない。
 
「ん?」
 
暗くてよく見えなかったが、ベッドの横に置いてある椅子に誰かが座って、恐らく眠っている。
体を無理矢理起こすと、額から濡れタオルがポトリと落ちてきた。
サイドテーブルを見れば洗面器が乗っていて、中には水が張ってある。
 
「俺・・・・熱でも出したのか?」
 
ベッドサイドのカーテンに手を伸ばし、ゆっくりとカーテンを開く。
窓から月光が降り注ぎ、眠っている誰かを薄く照らし出す。
 
「っ!!」
 
緑色の髪を二つに結いわけられ、起きていれば強気そうな顔があどけない顔で眠っている。成長過程の小振りなふくらみを上下させて、ぐっすりと眠っているニム。
薄手の毛布をベッドからはがし、椅子で眠っているニムに掛ける。
動いて気づいたが、服というか肌着が汗でべたべたになっていて気持ち悪く、とりあえず着替えることにした。
下着を替え、適当にあった寝間着のズボンに足を通す。
ナルシストではないが、この世界に来てから変わった自分の体を眺める。
右脇腹を始めとしていたるところに切り傷やらがあり、諸々の傷が今までの戦いを現実だと物語っている。
それだけ確認すると俺は急いで着替えを済ませた。
心なしか右脇腹の傷が小さくなっているような気がした。
 
 
 
すぐにニムをベッドに寝かせ直し、執務机に座りながら安らかな寝顔を眺めていた。
幼さがかなり色濃くある顔だが端正な顔立ちで、将来が楽しみだとファーレーンが言っていたことを思い出して納得した。
 
「失礼します・・・・」
 
部屋の扉が開かれ、お盆に皿と何やら黒い液体の入ったコップを乗せてファーレーンが入ってきた。
口に指を一本当てて片目を瞑って見せた。
可愛らしく小首を傾げているファーレーンに、ベッドを指さしてみせる。
 
「あっ・・・・ニム。寝てしまっていたんですか」
「こんな時間だし・・・当然さ」
「お食事、持って参りました。・・・そろそろ起きられるかと思いましたので」
 
お盆を執務机に乗せ、ニムに近づいていくファーレーン。
以前そうしていたように柔らかそうなニムの頬を撫で、優しげな微笑みを浮かべている。
その光景を横目に執務机に置かれた食事を口にした。
ポトフのようなスープが器に盛られていて、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐる。
体はこんな時は素直で、一口含むとそのまま休まず食べ続けた。
・・・・資料と睨めっこしていた時は、みんなが寝静まった頃に適当に作って部屋に引きこもって食べていた。
誰かに作ってもらったものがとても美味しいものだと、昼もそうだが感じる。
 
「あの・・・わたしが作ったのですけど・・・・どうですか?」
 
心配げに俺の顔を見ているファーレーンをみて、なぜだか猫を思い浮かべた。
 
「大丈夫。すごく美味いよ。それに、ファーレーンが作ってくれるんなら文句なんてないよ。君が作るものなら何でも美味しいし」
 
紛れもなく本心を言ったのに、何故か顔を赤らめて俯いてしまった。
疑問に思いつつ食事を終え、横に置かれていた黒い液体を一気にあおる。
 
「あっ!ヤマト様、そんなに一気に飲まれたら」
「・・・・!?`@+^*¥!!」
 
とんでもなく辛い代物で、声にならない叫びが脳内を駆けめぐる。
口から火が・・・いや、怪光線が出そうな勢いだ。
今の俺ならば地球上で三分間しか戦えない某巨人にも勝てる気がする。
 
「だ、大丈夫ですか!?」
 
慌てて俺の許まで駆け寄り、顔をのぞき込んでくるファーレーン。
その顔にドキリとして、顔に血液が集まり出すのが解る。
 
「い、いや・・・・大丈夫」
 
自分がファーレーンを大切だと認識した日から、あまり顔を直視できなくなっていた。
向けられる目が嬉しいやら何やらで、なぜか顔を逸らしてしまった。
 
「あっ・・・・・」
 
悲しげなファーレーンの吐息が漏れ、それが気になり俺は顔を戻してみた。
やはり悲しげに俺を見ているファーレーン。
 
「・・・・・私は、あなたのお役に立てていますか?」
「??・・・どういう事?」
 
悲しげな表情のまま俺に顔を寄せてくるファーレーンにただならぬものを感じ、何となく押し退けがたい気がしてくる。
ファーレーンの顔が息が掛かるぐらいの距離で止まった。
 
「私は・・・・どうすればいいの?あなたの傍に居たいのに・・・・ニムの傍に居たいのに・・・・。私には力がない」
 
力・・・?力とは戦う力のことだろうか?
囁くように、独白するように、まるで俺がそこに居ても見えていないかのようだった。
 
「あなたはとても強い方で、ニムを守りたいのに、今は私が逆に守られている」
そう言うことのようだった。最近訓練でも精彩を欠いていたのもこんな理由からだろうか。
瞳は虚ろで、呼吸も少しだけ苦しそうだった。
これほどまでに精神的にストレスを抱え込むのは、彼女が真面目すぎるから?
否、恐らくある意味で俺がここまで追いつめた。
突然俺の首に両手がまわされ、どこにも行かないようにといった感じで押さえつけられる。
 
「あの・・・ファー」
「どうしてでしょう・・・・?あなたやニムを見ているのがとても辛い・・。辛いのに・・・・・愛おしいと思ってしまうなんて」
 
時間が止まっているかのようだった。
ファーレーンの整った顔が目の前にあり、そして抱きすくめられている。
後頭部に甘い痺れが疼きはじめ、その感覚に酔いしれている自分が居る事が腹立たしかった。
 
「私は・・・・あなたの傍にいても良いですか?」
 
首に回された腕に一層の力が込められ、ファーレーンの顔がさらに近くなっていく。
赤く紅潮した顔が美しく、何も考えられなくなって行く。
 
「んっ・・・・・・」
「・・・・・!?」
 
しかしあまりに突然のことで、何が何だか解らずに目を見開いてしまっている。
唇に感じる柔らかくて暖かい何か。
認識できた頃にはファーレーンは離れ、とろけそうな艶のある笑みを浮かべていた。
 
「・・・・・えっ?」
 
やっと口をついて出た言葉は、ただの間の抜けた返事のようものだった。
 
「私は・・・・」
「んうぅ〜・・・・・・お姉ちゃん?なにしてんの・・・・?」
 
いきなりな声にファーレーンの顔がベッドのほうに向けられ、そして俺のほうに戻ってくる。突然正気が戻ったのか、顔が徐々に赤く染まっていく。
至近距離で見つめ合ってしまう俺とファーレーン。
 
「・・・・やあ」
「えっ、あ、その・・・あの・・・ええええ?」
 
ワタワタと暴れながら俺から距離を取り、顔を手で覆い隠している。
ニムはニムで目覚めたばかりで、伸びをしたりあくびをしたりと、ゆったりと意識が覚醒に向かっているようだった。
 
「に、ニム起きたの?それじゃあお部屋にも取りましょうか?!もうダメじゃないヤマト様のベッドをお借りしたりしては!!では私とニムはコレで失礼します!!!」
 
顔を真っ赤にしたまま寝起きのニムを抱え上げ、ファーレーンは素早い動きで俺の部屋から出て行った。
 
(・・・・・しかしまぁ・・・随分な慌てぶりで)
 
 
 
 
唇に指を当て、突然のファーレーンからのキスを思い返す。
なにがそんなに彼女を追いつめた?俺の煮え切らない態度?それとも自分の弱さ?
真面目な人間ほど思い詰めたらなにをしでかすか解らない、とよくいうがまさしくその通りだった。
普段の彼女からは考えられないほど追いつめられた表情、そして雰囲気。
さらには考えられない行動に・・・・。
 
「あの言葉・・・・・。かなり切実なものを感じた・・・・」
 
何が彼女をあそこまで駆り立てたのか、生憎見当もつかず、俺の頭は混乱するばかりだっ
た。
 
「眠ろう・・・・・」
 
つい先ほどまでニムが眠っていたベッドに潜り込み、目を瞑る。
目を瞑るとファーレーンの表情や何やらが思い出されて、顔が再び紅潮していく。
これからは疲労からくる熱よりも、別の熱で寝付くことが出来なくなりそうだ。
 
 
 
 
 
 
少女の唐突な行動に少年は疑問を浮かべる。
少年に何かを求めている事は解った。・・・・・しかしそれだけなのだ。
少年のように熱に浮かされていた訳でも無いはずだが、少女は少年を求めた。
心の中をさらけ出すように・・・・秘めていた想いが溢れるように。
妖精だから自分は人間を愛してはいけない。
そう自分を律していたはずが、無意識のうちの自分の行動に驚きを隠せない少女。
互いに互いを求め合っている・・・・なぜそう割り切れないのだろうか?
やがて気づくだろう。
 
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