昼休み、俺はイヤな現場に立たされていた。
いきなりこんな事を言うというのもどうかと思うが、本当の事だからしょうがない。
「・・・・なあ、秋月?その子、離してやれよ」
「フン、僕に指図するな。お前もあの疫病神の仲間か?」
目の前には秋月瞬と、友人の妹の(確か)佳織ちゃんが居て、何やら口論している様子だったので助け船を出そうと話しかけたところ、逆に秋月に絡まれる結果となった。
「指図も何も俺は佳織ちゃんが嫌がってると思ってだな・・・」
「うるさい。お前には関係ないだろう。・・・これは僕と佳織の問題だ」
さっきからこの一点張りで、どうも人の話を聞く気は無いらしい。
そんな会話をしている中、一人怯えた様子の佳織ちゃん。
「さあ、判ったらさっさとどこかへ行け。このウジ虫が」
俺は争う気はないのだが、秋月の方が臨戦態勢になり俺を睨み付けている。
(ここまで来たらハラ括るか)
目を細め、長年の賜である戦闘態勢をとる。
「ふーん。秋月・・・・俺とやるか?別に俺は構わないが?」
俺の剣呑な雰囲気を感じ取ったのか秋月は突然佳織から手を離し、興ざめとばかりに俺を睨み付け、吐き捨てるように何かを言い残し自らの教室へと帰っていった。
 
「何なんだアイツ?ま、いいか。大丈夫佳織ちゃん?」
秋月の去っていった方向にいた女の子に声を掛ける。
しかし佳織は何も言わず頭だけ下げると、足早に去っていってしまった。
「本当に・・・・何なんだよ、ったく」
一人取り残された俺はとりあえず当初の目的を果たすべく、購買へと歩きだした。
 

              創世の刃
         永遠のアセリア another if story
            act 1 異世界召還

 
俺こと、一條大和(いちじょうやまと)は古い家系に生まれた。
そのためか、幼少期から武術や芸事、果ては戦術なども学んできた。
そして、そんなものが役立つはずが無く普通の高校生活を送ってきたというわけ。
普通の高校に通い、普通に友達との生活を満喫・・・・するはずだった。
するはずだったが、友人である高嶺悠人や碧光陰、岬今日子達に囲まれてあまり普通ではない生活を送ってきた。
先ほどの秋月と悠人は犬猿の仲で、よく喧嘩に巻き込まれるため先程のように秋月や悠人をなだめたり、仲裁したりとなかなか忙しい高校生活を送っている。
そして・・・今日も成り行きで佳織ちゃんを助けた(?)わけだが・・・。
 
 
下校時刻。
俺は友人達に囲まれ下校することになった。
「すまなかった大和。佳織が世話になってしまったようで」
事の次第は佳織を助けた(と言うことになっている)と、当事者である佳織が兄の悠人に報告し、その流でこういう事となった。
「さっきから五回目。もう判ったからいいって」
「いや、だけど」
「しかしもかかしもあるか。大したことしてないし、いいって」
歩きながら何度も何度も礼を言ってくる悠人に苦笑するしかなく、どう切り返したらいいかも判らないのでとりあえず頭の中に思い浮かんだ事を素直に述べる。
 
「・・・・しかし、朝から顔色悪いね?なんかあったの悠人」
さしずめ、バイトのしすぎなのだろうけど、と予想してみる。
「そうだぜ悠人。何かあったらいつでも俺たちに頼って良いんだからな」
悠人の横にいる長身無精ひげの男、碧光陰はそんなことを言いながら首に掛けた数珠を指で弄んでいた。軽薄そうな印象だが、何処か食えないヤツという印象を俺は持っている。
「それにしても悠、顔色悪すぎじゃない?ちょっと休んで行こうか。うんそうしよう。決定!」
一人で決定し何事も無いかのように先頭を歩いていくトンガリショートカットの岬今日子が神社目指して突き進んでいく。
「寝不足だと思うんだけどな・・・」
「あんまり佳織ちゃんに心配掛けちゃダメだぞ?しっかりしなよお兄ちゃん」
とりあえず今日子に習い、悠人の背中を叩き歩き出す俺。そして悠人と光陰。
その前に地獄の階段が待ちかまえていて、気分をげんなりさせてくれる。
「なにしてんのよー。早く上がってきなさいよ!」
上では今日子が元気に俺たちを(ハリセンを持って)手招きしていた。
さらば俺の体力。その後、全力疾走で階段を駆け上る事になってしまった。
 
「あれ?佳織」
「あ、お兄ちゃん!それに碧先輩と今日ちゃん!」
最後に俺を見て佳織ちゃんがペコリと頭を下げてくる。
「一條先輩も・・・その、ありがとうございました」
「もういいって佳織ちゃん。・・・それに、悠人から散々お礼は言われたし」
一つ苦笑いを浮かべて悠人を指さす。
指さされた先で悠人は階段を駆け上がったせいか、ゼーゼーと肩で息をしてた。
「そ、そうですか?それでも、ありがとうございました一條先輩」
再びペコリと頭を下げる佳織。その様子を見ながら光陰、今日子両名は何故か笑っていた。
ちなみに悠人はと言うと青ざめた顔でボーッと立っていた。
 
「ふふふ。楽しそうですね皆さん」
突然背後から声が聞こえ、慌てて振り返る。
そこには巫女装束を身に纏った美少女が立っていて、俺たちを見ながら淑やかに笑っていた。いつの間に接近されていたのか気づかず、俺は正直焦っていた。
「あ、申し遅れました。私はこの神社で巫女をしています、倉橋時深っていいます」
「俺は一條大和です」
とりあえず名乗り、そして悠人に眼を向けると、悠人は知っている風な感じだった。
「あのときはありがとう、時深」
「いえいえ。時に、悠人さんお疲れのようですね?」
可愛らしく小首を傾げ、悠人に心配そうな目を向ける時深。
「あ、いや。最近なんだか頭痛が酷くて・・・・」
「そうですか・・・・頭痛が。・・・・それに、一條大和さん・・・・ですか」
何か思い当たる節でもあるのか、時深は黙って考え込み始めた。
「・・・・・時間が無いようですね」
「「えっ?」」
俺と悠人は同時に聞き返し、時深は深刻そうな顔で俺たちを見回した。
「皆さんに大事な話があります・・・・・」
その時、時深の背後で金色の光が爆発した。
 
夕暮れの境内で、突然空気がひやりとしたものに変わる。
それは何かが起こる前兆の様に感じられ、薄気味悪い感じがした。
それとともに少しの眩暈と頭痛を感じ、視界に光が溢れ出している。
光の奔流が俺たちの周りを包み込んでいた。
眩しくて目が開けていられず、俺は咄嗟に手をかざし、光を遮る。
「自分の力を信じてください。それが悠人さんの力になります・・・」
悠人は何を言われているか判らずに眩しそうに目を細めている。
「大和さん、貴方はどこまで本当の自分に気づけるのでしょうね?・・・・さあ、これを」
手に触れた何かにすがりつき体を止めようとするが、それは棒状の何かのようでそれは時深が手渡された。
(な!!この嵐の中で・・・自由に動いてるだと!?)
俺たちの身体の周りには力が暴れ回っていて、身体がバラバラになりそうな感じがする。
「門が来ます。良いですね?自分を信じ抜いてください」
「光陰・・・今日子・・・大和・・・佳織ィィ!」
「な、んだこれは!?」
そのまま俺たちは金色の光の渦に飲み込まれていった・・・・・。
 
 
 
    何処かの部屋 ベッドの上
 
「う・・・・ん。痛っ!」
痛みを感じ、目を開けるとそこは神社の境内ではなく何処かの部屋・・・と言っても家や宿では無く、豪奢な城の中と思える大きな建物の一室の中だと感じられた。
「ここは・・・・・?」
問いに答えてくれる者は居るわけもないが、状況を整理するために声に出してみた。
寝かされていたベッドから降り、とりあえず近くにあった窓からあたりの景色を眺めてみることにした。
窓を開けた途端、暖かい空気が部屋に流れ込む。
流れ込む風は柔らかな薫りがして、その薫りに眼を細める。
心地良い風を感じ、今は十二月では無かったか?という疑問が生まれたが、細めていた瞳を明けるとそこには見知らぬ景色が広がっていた。
「・・・・・なんだここ?どこだ?」
広大な中庭を有する、城壁に囲まれた城の中。
その中でもなかなか高い場所にあるらしく、下を見ると深そうな堀が掘ってあった。
(俺が居たのは神社の境内だったはずなのに・・・・?)
・・・・・ガチャ
不意に背後の扉が開く音が聞こえ、振り返る。
「“目が覚めた様ですね”」
振り返るとそこには一人の少女が立っていた。
少女は青い髪を肩口で切りそろえ、青い眼をした不思議な少女だった。
どことなく人形のような精巧さで創り上げられたかのような美しい顔立ち。
優しげな目元が印象的な少女だった。
「“お体の加減はいかがでしょうか?”」
少女の口から聞き慣れない言葉が紡ぎ出されていく。
英語のような、フランス語のような、それでいてラテン系言語のような何とも言い難い言葉が俺の耳に入ってきた。
(俺はいつ海外に出たんだ?日本に居たはずだろ?)
頭の中で苦笑いを浮かべ、注意深く少女を見つめる。
敵意はないようだが、信用に値する人物かを見極めなければならない。
しかし話し続ける少女に、さすがにしびれを切らし声を掛ける。
「あのさ、悪いんだけど、言葉が解らない」
こちらの言葉が通じない事を見越し、ボディーランゲージを交え区切りながら声を掛ける事にしてみた。
「“???そうでした。言葉が通じないのですね”」
少女が何かを納得した様子でポンっと手を叩く。
それからしばらく少女とボディーランゲージで会話をするという事をやってのけた。
が、通じていたかどうかは微妙なところだった。
「“とりあえず、閣下にご報告しなければ”」
少女は考える素振りをした後、手を招いてから部屋から出て行った。
「着いてこい・・・て事か?まぁ、仕方ないか」
決心し、俺も少女の後を追って部屋を後にした。
 
 
しばらく歩いて解ったことだが、どうやら中世ヨーロッパの城的なところに居るらしく、
そして今向かっているのはおそらく、謁見の間とでも言うべきところでは無いか。
「“ここです。少々、お待ちくださいね”」
立ち止まって、待っていろと大和に手を向け、扉の前に立つ兵士と何か話を始める少女。
話はすぐに終わり、俺と少女は中に通された。
「“スピリットよ、それが例のエトランジェか?”」
「“はっ。意識が戻りましたのでご報告に”」
少女の前には四十代半ばといった男が王座に着いていた。
王座とも言える椅子にしかめっ面でふんぞり返る王(?)の前に跪き、何かを語っている少女。
そして俺をつまらなそうに眺める王。
王は威厳に満ち、何処か大和や少女を見下している感じがした。
その周りには幾人もの人間が居て、興味深げに俺を見ていた。
「“どうだ?力は感じるか?”」
「“はっ。神剣を執らせれば解るかと”」
少女は王に対し何かを報告している様だった。
しきりに大和の方を見ては王に何かを進言している。
「“そうか・・・・。衛兵!神剣をここに!!”」
パンパンと強く手を叩き、何かを叫び出す。
その声に反応して王の周囲の人間がざわめき出した。
それは歓喜や歓声などではなく、純然たる恐怖に近いざわめき。
「“神剣をエトランジェに執らせ!・・・スピリットよ。貴様も神剣を執れ”」
俺の前に兵士が一人歩いてくる。
その手には無骨な刀が握られていて、その刀の柄を俺に差し向けてきた。
黒い鉄製の鞘から引き抜かれていた刀は、何の変哲もないただの刀に見える。
しかし、鍔の部分が見たことのない鉱物で出来ている。
(取れってことか?なにが始まるんだ・・・・)
とりあえず刀と鞘を受け取り、抜き身の刀を数回振るう。
しっくりと手になじむ感覚のする刀。
『繋がった・・・・・』
突然、頭の中に声が流れ込んで来た。
「なんだ!」
あたりを見回すが、言葉を発しているのは王だけだった。
つまりどこから声がしたのか全く解らない。
『某は永遠神剣が第五位【精進】。貴殿が握る刃です』
「刀がしゃべった!?」
『話しているのではなく、語りかけているのです。さあ、来るぞ。前を向き某を構えよ。さもなくば青の妖精に殺されますぞ』
 
殺気を感じ視線を刀から目の前にいた少女に向けた。
少女はすでに立ち上がり、スラリと長い西洋剣を構えていた。
「さあ、行きますよエトランジェ様?」
解らなかったはずの言葉が聞き慣れた言葉に置き換えられていく。
少女の言葉は殺気と哀しみに満ちあふれていた。
「な、待て!戦う意味がわからない!!」
「!?エトランジェ様、言葉が・・・・まあいいです。今は、試させて頂きます」
「試すって何をっ!」
「私は【展望】のレイア。それでは・・・・参ります!!」
少女は抜き身の刃を振りかぶり、俺に向かい躍りかかってくる。
咄嗟に俺は横に飛び退き、上段から振り下ろされる刃をかわし、さらにバックステップで距離をとった。
異様に躯が軽く、空を飛ぶかのように距離を取る。
「速いですね・・・。これなら!」
少女の背中に白き翼が現れ、弾丸さながらの速度で迫り来る。
『ハラを括り、戦うのだ。それでは、貴殿が殺される』
(殺される・・・?死ぬのか?・・・イヤだ、死にたくない。死ねない!!)
負の感情の奔流が渦巻き、大和を押しつぶさんばかりに流れ込む。
震える脚を叩き、刀を正眼の位置に構える。
「やるしかないか!」
ハラを決めた瞬間、刀から力が流れ込む。
全身の細胞という細胞が活性化され、全てが遅く感じられた。
「遅いっ!!」
少女の容赦ない斬撃が俺に迫る。
大和は落ち着いて幼少期から習い続けた剣術を思い出し、瞬時に捌きの体勢に入る。
力とスピードが上手く合わさった少女の攻撃は重たい一撃だった。
しかし受けるのではなく、捌きを選択した。
よって・・・・・
「甘い」
刃を巧みに操り、力を捌いていく。
捌ききった瞬間に攻撃に転じるも、少女は予測していたか、再び速度を増しそれをかわす。
いったん距離を置き、二人は向かい合う。
じりじりとうなじの辺りか焼けるように痛む。
しかし、何処かでこの戦いを楽しんでいる自分が居た。
 
『死なれては困るので、某が力、お貸し致そう』
瞬時に刀から流れ込んでくるイメージ。
居合い斬りの方法と、それとは違う体の捌き方。
認識した瞬間には体が勝手に動いていた。
まず大和は近くに落ちていた鞘を拾い、腰のベルトに挟むと刀をその中に納めた。
そのまま低い体勢をとり、少女を睨み付ける。
「一撃で決める」
膝に溜を作り、柄に手を掛ける。
「征くぞ!〈居合いの太刀〉!」
少女の目前から大和が消える。
神速の踏み込みによって5〜6メートルが一瞬で0に変わる。
「え!?何処に」
少女の体の周りには薄い障壁の様な物が展開されていた。
柄に掛けた手に力を込め、斬ってまずいと思い、全力で柄を鳩尾に叩き込む。
障壁は軽く砕け散り、少女の体に柄が吸い込まれていく。
「・・あぐっ!」
少女は鈍い痛みを感じ、全身から力が抜け落ちる。
「安心していいよ」
神速の抜刀術(抜柄術?)で少女の身体を打ち抜き、少女の小柄な躰受け止める大和。
少女は気絶してしまい、ぐったりとしていた。
すでに刃を納刀し終え、少女を抱えたまま王に向き直る。
「これで満足でしょうか?閣下」
「フフフ・・・ハハハハ。いやはや、目覚めたばかりの者に遅れを取るとは・・・」
睨む大和とそれを笑いながら見る王。
「いや、こちらの話だ。さて、私はアーサミ・ダーツィ大公という」
「大公?」
訝しむ大和に対し、立ち上がり王は両手を広げる。
「ようこそエトランジェよ・・・・ダーツィ大公国へ」
 
 
ラキオス王国・ダーツィ大公国に現れたエトランジェの話は瞬き間に全土に広がり、これから広がる戦乱に小石を投げ込み、波紋を広げた。
少年達に訪れる運命。
開戦の兆しを見せる大陸に投げ出された少年達に待ち受けるものは何か?
それは知る由もなく、全ては神剣の望むままに進行してゆく。
少年達の戦いの先に待つものは何なのか、希望か、それとも絶望か。
it is god only knows
 
to be continued