〜永遠という名の存在〜
序章第一話 日常の終焉
その日、武神硫はいつもどおり学校に向う通学路を歩いていた。
朝日は暖かく、いつものようにスズメがチュンチュンと鳴いている。
「…ふぁ〜」
少し眠い…
頭が若干ボーとする。
腕時計を見てみると時は西暦2007年、十一月四日、午前七時三十分。
…前半部分は関係ありませんね。
ここから硫の通っている学園までは十分で着いてしまう。
つまり早すぎたのだ。
「…なんでこんな早く?」
自分でも解らなかった、ただいつもどおりに出たはずなのに。
そんなことを考えながら通学路を歩いていく。
教室に入るといつも道理のメンバーがいた。
「おはようございます。高嶺君、碧君、岬君」
「ああ、おはよう」
「おっす」
「おはよ」
それぞれ返事をしたのは硫のクラスメイト高嶺悠人、碧光陰、岬今日子だった。
「ねえ武神君。その『岬君』ってのはどうにかならないのかな?私一応女の子なんだけど」
今日子が少し苦笑しながら硫に言ってきた。
「すみません。何時もの癖で」
それに対して、硫も素直に謝まる。
どうも硫は同年代の人を君付けで呼んでしまう癖があるようだ。
「別に気にするなよ。今日子なんて、本人はああ言ってるけど性別は不明だからな」
光陰がニヤケ顔で横から言ってきた。
「こ、光陰君。う、後ろ…」
「ん?」
硫が指差した方向には鬼神のごとくオーラを出している今日子がハリセンを構えていた。
「きょ、今日子!マジになるな、今のはほんのジョーク・・・」
「この、アホンダラ―――――!!!!」
スパ―――――――ン!!
光陰の弁解も空しく、響きのイイ炸裂音と悲鳴が教室にこだました。
昼休み、硫と悠人は食堂でお昼ご飯を確保し、教室に戻る廊下の途中だった。
「あ、お兄ちゃ〜〜ん!」
ちょうど反対側から一人の女の子――
悠人の義妹である高嶺佳織が早足になり近づいてきた。
「おう、佳織」
「こんにちは、佳織ちゃん」
悠人に続き、硫も挨拶をする。
「あ!た、武神先輩。こんにちは!」
硫の事に気づいて佳織は慌てて挨拶した。
「それにしてもどうしたんだ?佳織」
「うん、今日お兄ちゃんにお弁当渡すの忘れちゃったから、届けようと思ったんだけど碧先輩に聞いたら購買部に行ったよって」
「お、ありがとな…、だが、そうなるとさすがにこっちは食べれないな」
悠人は購買部で買ったパンなどが入っている袋を見た。
「なんなら、僕が食べてあげようか?もちろんその分のお金は払うよ」
「え、いいのか?」
「はい。さすがにこれだけじゃあ放課後まで持ちませんよ」
硫は手に持っていたパンを見せた。
購買部での競争が激しかったため、結局硫はパン一つしか確保できていなかったのだ。
「そうか、じゃあほれ」
「うん、ありがとう」
硫は袋を受け取ると財布からお金を出して悠人に渡す。
「ああ、…ん?おい武神、多過ぎだって!」
悠人の手には五千円札が乗っていた。
「すみません。今細かいお金が無くて…」
「え、マジか?オレも今つりを返せるほどの金は…」
「じゃあ、今度おつりの分を返してください。それまで待ってますから」
「いいのか?」
「はい、構いませんよ」
今月は特に私意的にほしいものが無かった為、硫のお財布の中には結構余裕があった。
それに悠人の家は両親が他界していて、現在佳織と二人暮しだと聞く。そして、生活援助も受けず悠人はアルバイトで生計を立てているので生活面では余裕が無いはずだ。
「悪いな。今度絶対返すよ」
「そうして下さい」
たぶん今度悠人が硫におつりを返してくれる時には、硫は覚えていない事になっている。
悠人は快く思わないかもしれないが、二人の生活が少しでも楽になるなら多少は我慢である。
「じゃあ行くか。じゃあ後でな佳織」
「それじゃあ佳織ちゃん、また今度ね」
「は、はい」
そう言って佳織と硫達は分かれた。
佳織は急ぎ足で廊下を歩いて行く。
硫達が反対側に歩こうと振り返った時――
「おい」
秋月瞬が目の前に歩いてきた。
「佳織と何を話していた」
「お前には関係ないだろ、瞬」
彼、秋月瞬は硫も知っている人物だった。
ある資産家の御曹司で、彼の家はこの学園に莫大な投資をしている。
そして、佳織と幼馴染で恋心を持っていること。
他にも、佳織の義兄である悠人とよく衝突していることは学園内でも有名な話だった。
「ふん、佳織に不幸を植え付けないでもらいたいな」
「なんだと!」
悠人の顔が怒りで覆われていく。
「いいか、佳織は貴様なんかと一緒じゃない方が幸せなんだ」
さすがの硫もこの言葉にはカチンときた。
「それは君が言うことじゃないと思うけど、秋月君」
「なんだ武神?部外者が口を挟んでくるな」
「僕は悠人君の友達です。そして、その義妹さんである佳織ちゃんとも僕は友達のつもりです。その時点で他人事じゃないと思うんだけど?」
硫はいつもよりも少し声のトーンを下げる。
それに驚いたのか悠人が硫の方を向いた。
「ふん、そうか。貴様も僕と佳織の邪魔をするのか」
「少なくとも僕の考えとしては、いつも佳織ちゃんと悠人君にちょっかいを出している君の方が邪魔だよ」
いつもの硫からは絶対に想像できない言葉が本人の口からさらりと出てきた。
「き、貴様――!!」
今の言葉でさすがの瞬もキレたらしく、硫目掛けて拳を振るって来る。
「…フッ」
硫はその拳を当たる瞬間に避けると秋月の背後に回り、もう片方の腕を後ろに捻った。
「ぐぁ!!」
「残念ですけど、今の君じゃ僕には勝てないよ」
さらに腕に力を入れる。
「ぐぉぉ!!」
「・・・・」
さすがにこれ以上はまずいと思い、硫は捻っていた腕を放する。
「くッ…おのれ、僕にこんな事をしてただで済むと思うなよ」
そう言うと秋月は捻られた腕を押さえながら硫を睨みつけ、早足に廊下を歩いていった。
「…ハァ」
秋月が消えたのを確認すると硫は脱力した。
「た、武神…お前…」
相変わらず驚いた表情のまま、悠人は硫のほうを向いていた。
「あ!す、すみません。ついカッとなっちゃって…」
「いや、それより…お前そんな強かったっか?」
「え?」
硫はキョンとした表情になった。
「強いって?誰がですか?」
「だからお前」
悠人が硫を指差す。
「別に強くはないですよ」
「じゃあ、今の技は?」
「…ああ、今のは合気道みたいな物の一種ですよ。一応習ってるんで使ってみたんです」
またも悠人は驚いた。
「あ、合気道って…、お前そんなのするような奴だったか?」
「う〜ん。…まあ、このご時世一人身は自分の身は自分で守らないと生きていけませんしね」
そこで悠人は思い出した。
硫の両親は自分と同じように事故ですでにいないことを――。
「わ、悪い。変なこと聞いたな」
「別に気にしてませんよ」
硫はいつものニッコリとした表情に戻っていた。
「じゃあ、教室に戻りましょうか。昼休みが無くなります」
「お、おう」
その後、二人が教室に入った瞬間昼休みのお終わりを告げるチャイムが鳴り、結局二人は放課後まで昼食を食べれなかったのは言うまででもない。
「…ハア」
放課後の帰宅路を硫は一人で歩いていた。
光陰と今日子は委員会の仕事で学校に残り、悠人はバイトがあると言いバイト先に向った。
そんなわけで現在、硫は一人で帰宅しているのだ。
「何か今日は疲れたな〜」
秋月とのいざこざや、昼食を食べれなかったことなどで硫は心身共に疲れきっていた。
「…ん?」
気づくと帰宅路の途中に神木神社の社が見えた。
「ちょうどいいかな」
神木神社で少し時間をつぶす事にした。
手短なベンチに座ってしばらく空を眺める。
「はぁ…」
両親が事故死して数年。親戚などがいなかった硫は二人が残してくれた財産で生活していた。
特に不便なことも無く、こうして毎日普通に生活している。
少し眠気がきたので目をつぶった。
風に揺れる木々の音が心地よかった。
チャリン
ふとそこに別の音が入ってきた。
チャリン
鈴の音だ。
硫は目を開けて鈴の音がする方を向いた。
「こんばんは、硫さん」
そこには巫女服を着た一人の少女がいた。
少し茶色のかかった色の髪を赤いリボンで結んでいる。
「え〜と…はじめまして?」
その少女に見覚えは無かったはずだった。
でもなぜか他人と言う概念を硫は持てない。
「(それに今僕の名前を…ん?僕は何時彼女に名前を教えた?)」
「あれ、僕君に会った事あるっけ?初対面のような気がするんですけど」
「ああ、すみません。あなたは初対面だけど私はあなたのことを知っていますよ」
「?」
彼女の言っている意味が解らなかった。
硫が知らなくて彼女は知っている…、つまりストーカー?
「え、それってつまり…」
「硫さん、率直に言います」
硫の言葉を遮る様に少女は言ってきた。
そして、その顔が真面目なものだった。
「あなたには、エターナルになる素質があります」
「…はい?」
この時から、硫の永遠という時間が動き出した。
はじめまして、今回初投稿のROYと申します。 ストーリーとしては殆どアセリアの本編後の話しで、世界観を崩さず、何とか自分の考えているオリジナルも加えていきたいと思っています。 文章力も設定力もまだまだ未熟な僕ですが、読んで頂けたら幸いです。 以後よろしくお願いします。 |