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亡者に捧げる輪舞曲
第0章:彼女に捧げる鎮魂歌

《有限世界の入り口》

時は満ちた。
約3周期に渡り、頑なに外部の介入を許さなかった世界への扉が目の前に開かれている。
あと一歩、あと一歩踏み出せば、あの世界に入れる。
あいつが死んだ、あの世界に。
ギリ、と強く奥歯をかみ締める。
強く、美しく、太陽のようだったあいつはもういない。
【・・・我が契約者よ、早まるなよ。怒りに任せてしまえば我らの「契約」は果たされぬ。】
不意に、相棒が声をかけてきた。
「ああ・・・、分かってる、相棒。クールに行こう。」
胸のうちにくすぶるドス黒い感情を抑えて答える。
ここで失敗してしまったら、今までの計画が水の泡だ。
【分かっているのならいい。貴公らしく事を進めればいいだけの話だ。】
そう言ったきり、相棒は沈黙する。
そう、俺らしくやればいい話だ。
今までそうやって来て全て成功したんだ。
役者も選りすぐった、舞台も万全、小道具も全て整えた、何も恐れることはない。
何度かそう言い聞かせるうちにドス黒い感情は胸の奥底になりを潜めた。
試したこともない年代差の次元直結だが、この辺は当たって砕けろ、だ。
【時間だ。始めるぞ。】
俺は無言で頷く。
さあ、奏でよう。
あいつのための鎮魂歌を。
俺は迷うことなくその一歩を踏み出した。

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