〜第四章 悲しみの中の誓い〜
「...........」
「...........」
「...........」
「...........」
「....大丈夫じゃな。軽い食あたりのような症状を起こしているだけじゃ」
少し年老いた医師が四人の方を振り向いて診断結果を報告する。
「本当ですか.....良かった」
レイントが安心した様子で椅子に腰掛ける。
「リース先生が死んでなくて良かったです〜」
シェラは涙を流しならリースを見ている。
「.....良かったな...」
ミリアルはリースの頭をクシャクシャと撫でている。
「なっ、だから言っただろう大丈夫だって!」
リースを寝込ませた張本人がケラケラと笑っていた。
「ウォッホン.....ハミュウの人体実験の犠牲者は彼に代わったかね?」
わざとらしく咳払いした老医師が、レイントに尋ねた。
「ええ〜、彼は新しく雇った先生なのですが....ハミュウ先生の実験体にされてしまいました」
「いや〜.......最近は、シェラの反応も面白くなくなってきたからさ〜。新しい反応が欲しかったんだよ♪」
ハミュウは満面の笑みで言った。
「そうなのか.......ハミュウやー!.....毎度毎度言うとるじゃろうが、ワシの名に恥じぬようにとな!」
老医師の顔からは怒りの表情が読み取れる程だ。
「.....秘奥義〜〜〜〜〜医師チョップ!!」
ハミュウ頭上に、老体とは思わせぬ動きで電光石火のチョップが叩き込まれた。
「グハッ......腕を...上げたな..じ・じ・い..」
捨てセリフと共にパタッと倒れていく。
「毎度毎度、すまんのう〜。弟子が迷惑をかけてしまい」
「そんな..いいですよ。私達もハミュウ先生には、色々な意味で助けてもらっていますから。......ところでリース先生はいつ頃、目を覚ましますか?」
「....すぐに目を覚ますぞ。.....この男、常人ではありえん回復力を持っておるな、薬も何もいらんわい」
老医師は驚いた様子でリースを見ていた。
エターナルであるから一般的な毒物は効かないのは当たり前なのだが、しかしハミュウの作った物はエターナルを一時的に気絶させるほどの威力を持っていた。
(...ここはどこだ。......確か、俺は変なものを飲まされて意識がなくなったのか。..起きなきゃいけないな)
「.......う〜よく寝た〜」
リースが目を覚ますと、近くには四人の人影が立っていた。
「ほれ、起きたじゃろう」
「おはようございます、リース先生」
「おはようございます〜、リ〜ス先生」
「....おはよう....」
三人が一緒に挨拶をする。
「おはよう.....あ..あれ、ハミュウはどこ居るんだ?」
リースは怯えた表情で首をきょろきょろさしながら、辺りを見渡している。
「....,.若造、すまんなんだのう。....不肖の弟子が迷惑をかけてしまい...ほれ、ハミュウならそこに寝ておるわい」
老医師が指差す方向には、「医師チョップ」をくらい。ピクピクと倒れているハミュウがいた。
「..寝てるのか安心したよ。もう、二度と同じものは飲みたくないからなっ!」
やはり、ハミュウの作った物は想像を絶する味(アセリアとウルカの料理に匹敵するぐらいの味とお考え下さい)
「今のうちに、リース先生をみんなに紹介しましょう。...シェラ先生とミリアル先生も各自の仕事に戻ってください」
「わかりました」
「...わかった」
シェラとミリアルの二人が自分の仕事に戻って行く。
「それじゃあ、ワシも帰るとするかのう...」
「いつも助かります....ありがとうございます」
「な〜に、弟子の不始末は師が拭うもんじゃよ。......いつも通り、金も何もいらんわい」
老医師は、後ろ手を振り笑いながら出て行った。
「それでは、リース先生の担当なさる子達に会いに行きましょうか」
「...ああ、早く行こうぜ」
既にベッドから抜け出し、ドアの前にリースは立っていた。
「ちょっと、待っていただけますか..........よし、できました」
レイントが、何か書いた紙をドアを閉め貼り付けた。
その張り紙には、こう書かれていた。〔開けるな、危険生物あり〕....そして、その横には危険物のマークが書かれていた。
後に、この部屋からは生物の呻き声が聞こえたそうな「私が悪かった〜!....出してくれ〜」と。
「では、いきましょうか」
「...ああ」
二人が少し歩いた所に一つの大きな部屋があった。
ハミュウの被害者を出さないように、シェラが一つの部屋に集めていたのだ。
「ここに、子供たちが居ますので入りましょう」
レイントに促され、ドアを開け中に入ると30人の子供が一斉にリースの方を向く。
(うっ.....何か多くないか。.....そんなにジロジロ見ないでくれ〜)
「よう!....俺の名はリース。.....今日から君達の世話役、兼...先生になるんでよろしくなっ」
挨拶をしたはずなのに誰一人として、声を出さずリースを見つめていた。
「リース先生、言い忘れてましたが...この孤児院では、それぞれの先生が得意な物を教えているんです」
ボソリと耳元でレイントが呟く。
「......どういうことだ?...」
少し呆けた顔で聞きなおす。
「..例えば、ハミュウが物体の基礎や発展の理を主に教え、シェラは主に守護の魔法などの理論の理を教え、ミリアルは攻撃の魔法などの真理の理を教えているのです」
「...っていうことは、俺は主に武術ってことか?」
「そういうことになりますね....ここに居る子達の大半は、三人の先生の教えを受けていますが。......数人だけは、武術関係に優れた子達も居るんです」
「そこで、ちょうど俺が募集を見てここに来たわけか.....」
「....まさに、その通りです」
レイントは自分の考えが上手くいった様子で少し笑っていた。
「...でも、普通の孤児院なんだろう?....だったら、こんなに武術や魔法を教える必要があるのか?」
「.........ここの子達は、戦争孤児なのです。.....だから....この子達には、もう.....悲しい思いをしないように強くなって欲しいのです」
(私は、もう二度と同じ過ちで失いたくないのです)
自分に言い聞かせるかのように声を少し張り上げ、悲しそうにレイントは言った。
「............」
部屋に居た子供達もリースにも、レイントがこれほどに執着する理由を聞くことができず、少しの沈黙が続いた。
「....ごめんなさい、声を張り上げてしまい。....リース先生の担当する子達を紹介しますので、少し待っていただけますか?」
「ああ、...わかったよ」
リースの返事を聞くと同時に子供達の名前が呼ばれた。
「ライ、コーフ、イスト、アルミス、ネール。.....私のところに来ていただけますか?...他のみんなは各自の先生のところに戻って下さい」
呼ばれた子達がレイントのところにやって来て、不思議そうな顔をしていた。
「今日からあなた達は、リース先生に剣術を教わって下さいね」
「は〜い!」
元気の良い返事をする子供達。
「これからは、よろしく頼む。......お前ら、ちょっと前に俺を攻撃して来ただろう?」
リースの教える子供達が、リースとレイントが話しをしている時にリースを襲撃した子供達だった。
「あれは、僕たちは悪くありませんよ。リース先生のことを知らなかったから、攻撃してしまったんです」
イストという黒髪の少年が自分達は悪くないと言い、他の子供達も首を縦に振り頷いていた。
「...お前ら、自分の間違いを正当化しようとしてるなっ!....」
「は〜い、私はリース先生が間違っているように思いま〜す」
ロングヘアーで青色の髪をした少女、アルミスが言ってきた。
「.....リース先生は.....あんまり、先生に見えない」
アルミスの言ったことを固定するように銀色の髪の少女がこっそりと囁く。
「俺もネールの言ったことに賛成」
手を上げて、茶色髪の少年コーフが言った。
「...はっはっは、リース兄ちゃんもダメだなー」
ライがその様子を笑いながら見ていた。
(《....子供にバカにされて、どうするんだ。...情けないぞ》)
〔放浪〕がさらに、リースに追い込みをかける。
ブチッ
何かが切れた音と共にリースの体が少し震えていた。
「...お前ら〜、自分の過ちを認めないんだな。.....だったら、その性根から叩き直してやる。.....今から実戦だ....裏に集合」
子供のように怒ってしまっている。大人気ない男リースが子供達と一緒に孤児院の裏の広場に向かった。
「...フフ、コミュニケーションは大切ですよ。.....リース先生も少しは、あの子達に驚くでしょう。......ですが、一番はあの子を助けて貰わなくては.....」
一人残っていた、レイントが悲しそうな顔で、誰も居ない部屋に語りかける。
<〜孤児院の裏の広場〜>
「これから実戦をやる。....率直に、俺VSお前らでどうだ?」
「別にいいけど、俺達が先生に勝ったら何でもいうこと聞いてくれるか?」
コーフが自信あり気にリースに尋ねる。
「..アハハハ..もし、勝てたら何でも聞いてやるぞ」
(こんな子供達に負けるほど、俺は弱くない)
(《..本当に、お前は大人気ないな。....我と契約した者が子供などに負けるはずがなかろう》)
この一人と一本の神剣の驕りが後に、大変なことになるとは誰も予想しないだろう。
「ムカッ、私は「もし」の部分が気にくわない!....みんな、先生に勝つよ!」
バカにされたので、アルミスは怒っていた。
「....ごめん、今回はオイラ気分が悪いから見学しとくよ.....」
(今日は、どうしたんだろう?....リース兄ちゃんの剣を見てから気分が悪くなってきた)
気分が悪そうに木陰に寝そべり、ライは眠ってしまった。
「僕達に任せて、今日はゆっくり休め。.......リース先生、お相手お願いします」
ライを心配そうに見ながら、イストがゆっくりと構える。
「.....先生に言い忘れてた。......背中の剣は使っていいよ.....私達に...手加減いらない」
ネールがボソボソと呟く。
「使っていいのか?...だったら、さらに手加減してやるから来い!」
リースは〔放浪〕が使えるので、余裕の表情で〔放浪〕を構える。
「ク〜〜〜、さらにムカツクー!だったら、行くよ!..ネールはフォローして、我....ここにあらんがための力を!」
「......束縛の鎖よ....あの者を封じよ....封鎖」
ネールの詠唱と同時にアルミスは突っ込んでいく。
ジャラジャラジャラ
幾重にも編まれた鎖がリースの手、足、胴を絡ませていく。
(クソ!....この鎖、斬れない。いつの間に絡まれたんだ....)
「私達を甘くみるからだよっ!...近距離魔法シャインズ!!」
アルミスが光球をリースに向け放たれる。
[光球直撃まで一秒]
(神剣の力は使いたくなかったんだが....しょうがないか。....〔放浪〕、少し力を解放してくれ!) [0.9秒]
(《構わぬが...いいのか?..相手は子供だぞ》)
(.....いいんだよ!...こいつらは魔法を使うんだぞ。......レイントが言ってたのと違わないか?)
(《..確かに武術に優れているというよりは、子供なのに魔法をある程度、極めているように感じられるぞ》)
(だったら、力を解放してくれ!) [0.6秒]
(《しょうがない....解放するぞ》)
「.....サンキュウ....」
リースの口元が緩み、笑顔になっていた。
〔放浪〕が力を解放すると、リースが鎖の束縛を断ち切り、神剣魔法を詠唱する。 [0.3秒]
「間に合え!ブラック・ゲート!!」 [0.2秒]
黒色の門が出現し、光球を吸い込んでいった。 [0.1秒]
(..ふぅ〜、ギリギリセーフってところだな.....)
「えっ....なんで消えるの、当たってないのに?...ありえない!」
光球を放った本人は驚嘆の声を上げていた。
「.....鎖も切れてる....」
ネールも目の前、事象に驚いていた。
「驚くのは少し早いぞ。......ホワイト・ゲート!」
リースの詠唱終了と同時に、アルミスの目の前に白い門が現れる。
ブワッ!
白い門の中からは、吸い込んだ光球が吐き出されるようにして出てきた。
(...どうして、私の前に戻ってく....)
少女の思考が光球の命中と同時に消滅していった。
シューーーーーーーン
光が破裂し、アルミスを包み込んでいく。
(.....あれ、痛くないし当たってない)
「大丈夫ですか?」
イストが当たる直前に防御魔法を展開し、アルミスの前に立っていた。
「...うん。....だけど、私が使える中でも一番強力な魔法が防がれちゃった」
悲しそうな声でアルミスは、イストに言う。
「.......リース先生は、本気を出していないと思いますが。.....今の状態では...勝てないので、僕達四人の合体魔法なら勝てるかもしれません」
イストが希望を見出したように、アルミスに語りかけた。
「そうか、あれなら勝てそうだもんね!」
「....悪いがそれは無理だなー。...もう後ろ二人には、お寝んねしてもらったから」
リースが笑顔で二人の前に立っていた。
「....どういうことなんですか?」
イストが信じられないといった様子で聞きなおす。
「イストがアルミスを守りに来た時に...俺も同時に、後ろに居た二人を気絶さした。...だってよ、剣と魔法だったら近距離になれば、剣しか強いに決まってるだろう?」
「......その通りです。...僕達の負けですね」
少年は沈んだ様子で負けを認める。
「くやしい〜〜絶対に先生より強くなってやる!」
アルミスは涙目になりながら叫んでいた。
「これが実力の違いってやつだ。....負けた罰ゲームとして、アルミスとイストは、後ろで気絶しているコーフとネールを部屋に連れて帰ること!」
リースは、先生の権利を早速使っていた。
「わかりました....」
「はーい...」
二人とも、、まだ悔しそうな声でコーフとネールを部屋に連れて帰っていった。
「....俺もライを医務室に連れて行くか....」
リースが木陰で眠っているライの方に歩いていく。
キィィイイイーーーーーン
〔放浪〕が最大の警戒音を出す。
《離れろ!》
「あああぁぁアアアァァあああああああああ」
ライが叫び声を上げ、共鳴するかのようにライを中心に周辺の物が、鋭利な刃物で斬られたように傷を付けていく。
「なんだ?....一体どうなってる..ライ!」
驚いた顔でリースは、ライを呼ぶが反応はなかった。
《....呼びかけても意味がない。.....あの少年は我が眷属に戻ろうとしている》
「....どういうことだ〔放浪〕?...」
《........あの少年は、元は永遠神剣だ.....》
「何を言ってるんだ!....あの子は人間だぞ!....どうして人が永遠神剣になる?」
リースは〔放浪〕が言った言葉を否定しようと怒鳴るような声で話しかける。
《..落ち着け....お前も知っているだろう?....我が眷属には形がないと.....剣でも、槍でも、どのような型をしているかわからない.....
...それが例え......人型をしていても....》
〔放浪〕が言ったことは、リースの迷いの確信をつくものだった。
「.....確かに、永遠神剣には型がないことぐらい分かってる。......でも....人型なんて今まで、見たことがない」
《...人型は極めて稀少だ。.....だが、存在すると聞いたことがある。....物体を引き裂く人型永遠神剣....名は〔落魄〕....》
「それが、ライだっていうのか?....まだ、幼い子供だぞ!」
《我ら永遠を歩む者には、外見年齢など存在しないも同じだ。....幼いからといって、それが年齢とは限らない》
「....だったら、どうすれば....元のライに戻るんだ?」
《..戻す方法は唯一つ。......真の姿に戻った時にマナを奪い、休止の状態にすればいいだけだ......》
「そうすれば、元に戻るんだなっ!....だったら、やるしかないだろう」
リースはライの方向に、〔放浪〕を構え直す。
《..気をつけろ。...人型は使い手が居なくても戦えるが、マナの消費が激しい。...その分、始めからこの世界で使えるだけの力を使ってくるぞ》
「...本気で来るのか....この場所で戦ったら被害が大きすぎる。...〔放浪〕、ライの周辺に門を創って、門の狭間で戦う!」
《...よいだろう.....》
「開門ではなく、新たな門をこの場に!コンサイドー!!」
門がライの足元に出現し、ギィーと鈍い音と共に門が開き、ライとリースを飲み込んでいく。
<〜門の狭間〜>
青く澄んだ世界。門の狭間は、永遠神剣との契約に使われる空間に似ていた。
その世界に、人型永遠神剣〔落魄〕と〔放浪〕の契約者〔放浪者〕リースの姿があった。
「....あれが、ライなのか?」
リースが〔落魄〕を見る目は悲しかった。
〔落魄〕の姿は、少年の面影を残さないような目つきが悪く、両手には鉤爪が装着されており、常軌を逸した笑いを浮かべている青年だった。
《ライと呼ばれた少年はいない。....今は〔落魄〕だ〕
〔放浪〕も少し〔落魄〕を哀れんだ声で言った。
《ナニ話してんだよ.......ツマンネ〜ことよりも、戦おうで快楽あるタタカイをよ!..ヒャひゃヒャー》
〔落魄〕は獣のように身構える。
「...ライ、待ってろよ。..すぐに元に戻してやる!」
リースも〔放浪〕を構える。
《イクデー!.....ウおおオオオーーーーー》
獣の雄叫びを上げ、〔落魄〕がリースに突っ込んでいく。
キィン、カン、キィン、キィン、キィーーーン
剣と鉤爪がぶつかり合い、火花と金属音が門の狭間に鳴り響く。
「どうして、お前が出てくる?....ライはお前なのか?」
リースが〔落魄〕に問い掛ける。
《アア〜、そうだぜ!.....ライっていうのはな......確かに、この〔落魄〕様の人格だった。...だが、アイツは姿が、力が恐ろしかったから、俺様という人格を創ったんだよ!》
ガキィーーーー
〔放浪〕と〔落魄〕が鍔迫り合いの形になっていく。
「なぜだ!....生まれた時から恐ろしかったのか?...違うはずだ!」
《ソウダナ.....お前のイウトオリに、オレの主人格も始めはソウだった。....しかしナ、主人格を取り囲むカンキョウが悪かったノサ....》
「...どういうことだ?...話せ!...ライの昔に何があった?」
《ハナシは、ここまで。...これ以上、聞きたかったら俺サマを楽しませテミローーー!》
〔落魄〕が〔放浪〕を力任せに押していく。
(クッ、ライを元に戻すまで負けられるか!....〔放浪〕力を貸してくれ!)
(《....いいだろう。...我らはまだ負けることはできないからな!..》)
「ハアーーーー」
〔放浪〕の刀身が光輝き、リースが〔落魄〕を押し返していく。
《クソ、クソ、クソーーーーーー!......負けない〜〜〜〜〜》
〔落魄〕が叫びと共にリースを突き飛ばし、後ろに下がっていく。
《...オレ、オレは負けレナイんだ!.......疾風》
鉤爪を地面に擦り不快な音をさせながら、〔落魄〕は音速を超えたスピードで手当たり次第に引き裂いていく。
ガリ、ガリガリガリガリガリ
地面は削られていき、引っ掻き傷が辺り一面に刻まれていった。
(こんな攻撃ありかよ。....見えないし、少しずつだがダメージを受けちまってる)
リースの腕や足からは、切り傷により出血していた。
《....オレ様の攻撃は止めれないだろう〜〜。ヒャハハハハ!》
〔落魄〕の声は高速で移動しているので周りから聞こえてくる。
(....どうすれば、〔落魄〕の動きを止められる。......考えろ、自分!)
リースは目を閉じ考え始める。
《ひゃは!......トウトウ覚悟したのか?.....オワラス、スピードアップだーーーーー!!!》
〔落魄〕がさらに、スピードを上げると旋風が発生する。
ブシュ、ガリガリガリ、ヒュン
リースの体は少しずつ傷を付けられていく。しかし、リースは動じずに考え込んでいた。
(.........そうか....これならいける!.....〔放浪〕、剣の形状を両刃を折りたたんで、方刃だけの剣にしてくれ!)
(《構わぬが.....そんなことをして、どうするつもりだ?....》)
(詳しいことは、後からわかる!.....だから、早くしろ)
〔放浪〕は疑問に思いながらも、形状を変化させる。
《....ソンナことしても、意味ナインダよ!》
「...意味がないか?...だったら、お前の身で確かめろ!」
リースが〔放浪〕を前方に突きつける。
「伸びろーー!」
ガシュン、グシャ!
〔放浪〕が方刃の剣から長刀に変化し、〔落魄〕の腹部を突き刺す。
《ナゼだ.....ナゼ伸びるんだ?....》
〔落魄〕は信じられないといった様子でリースに問い掛ける。
「....簡単なことだ。両刃を折りたたんで、二枚の刃にして...突き出すと同時に伸ばしただけさっ...」
リースは苦笑いをしながら言った。
《....それだけで、俺サマに.....当たる筈がナイ!》
「そうだな.....だが、お前の攻撃は何を引き裂くのか...お前自身もわからないだろ?...俺はそこに賭けたんだよ!.......
....俺の近くを引き裂いていく瞬間に、剣を突き出せば、かわす。....そこで剣を伸ばせば、反射神経が追いつかずにあたる筈ってな!」
《ひゃひゃひゃ.....賭けは、俺サマの負けってコトか...》
〔落魄〕は狂ったように笑いながら言った。
「教えろ!...ライの昔に何が起こった!」
《....ヒントをやるよ.......あのレイントって女に聞いてみな.....アイツが知ッテいるからさー》
「.......レイントが知っている?....」
《....ソウダ....オオぉぉォおおオオーーーーーーーーー!》
〔落魄〕が腹部に刺さっている〔放浪〕を引き抜き、後ろに下がっていく。
《.....〔落魄〕のマナが安定していない。......次が最後だろう》
〔放浪〕が言うように〔落魄〕の体からは、金色のマナが流失していく。
「....ライ...もう少しだけ、耐えてくれ。.....次で決めるぞ!」
〔放浪〕が元の形状に戻り、刀身が眩い光を放ち輝く。
《もう.....オワリ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜》
獣の咆哮をあげ、〔落魄〕は金色になりながら、リース目掛け飛び掛る。
「シンピィティングーブレイザーーー!!」
リースも〔放浪〕を振りかざし、〔落魄〕に斬りかかっていく。
キィーーーーーーン!
金色のマナと白き光がぶつかり合う音が門の狭間に響き渡る。
それは、美しくも儚い金色の光を放ちながら、〔落魄〕が命を最後まで使っていく様に見えた。
白き光は、〔落魄〕を少年を救うためにその輝きを増していく。
「ハア〜〜〜!」
パリィィィーーーーン!
〔落魄〕の鉤爪が砕け散る音が聞こえる。
白き光が金色の光を取り込んで、門の狭間が光に包まれていった。
・
・
・
・
光が少しずつなくなって、そこには一人の青年の姿と倒れている少年の姿があった。
「......勝った」
リースが〔放浪〕を支えに立っていた
《...よく、戦った......》
〔放浪〕も疲れた様子で話す。
「そう言ってくれると、ありがたいが.....まだ、終わってない。..ライと一緒に元の世界に戻らなくちゃな..」
〔放浪〕を背中に担ぎ、ヨタヨタとライが倒れている方に歩いて行く。
《....大丈夫か....向こうの世界では、回復に時間がかかるぞ》
「それでも、戻らなくちゃならない.......ライがどうして、違う人格になってしまったのか....レイントに聞くんだ」
リースは、ライを抱えながら門を開け元の世界に戻って行った。
<〜孤児院の裏の広場〜>
静かな闇に包まれた時間に門が出現し、中から白髪の青年と青年に抱えられた少年が出てきた。
「お帰りなさいです」
「.....お帰り....」
「.おっ..帰ってきたか」
三人の女性が門の前に立っていた。
「.....あれ...どうして、ここに居るんだ?」
息切れがちにリースが話しかける。
「....レイントが教えてくれた......ここに現れるって...」
ミリアルがリースの疑問に答えるように呟く。
「..そうか、レイントが教えてくれたのか。......レイントはどこに居る?」
「レイントなら、部屋で待ってるぞ....」
ハミュウが今にも倒れそうなリースを支える。
「...大丈夫だ...一人でレイントの部屋に行く。ライを頼む」
リースはハミュウにライを預ける。
「リース先生、待って下さい。.....ヒーリング....」
シェラが呪文を唱えると、リースの傷が少しずつ癒えていった。
「助かった...サンキュウ。.....それじゃあ、行ってくるよ」
礼を述べると、青年はレイントの部屋に向かって行った
「....やっぱり、新入りはエターナル......」
「アイツになら、この子を任しても大丈夫かもな....」
「きっと、きっと、大丈夫ですよ〜」
三人の女性は、それぞれの結論を話していた。
<〜レイントの部屋〜>
コン、コン
扉のノック音と共に声が聞こえてくる
「リースだ。....入ってもいいか?」
「.....どうぞ、お待ちしていましたよ」
部屋の中では、レイントが待っていた。
「...レイント、俺が言いたいことは、分かるよな?」
「ええ〜、〔落魄〕のことですね。....まさか、これ程早く〔落魄〕が貴方に反応するとは、思いませんでしたよ」
「....だったら、教えてくれ!....ライに何があったんだ?」
「...いいでしょう。....〔落魄〕に何があったのか...」
そうして、レイントはリースに〔落魄〕の全てを物語を話すように語る。
「.....この世界は戦争が、まだ続いています。....領土のために征服が征服を繰り返す状態です。
私とミリアル、シェラは、ある大国に勤める神官でした。....その大国は古くから多くの領土占めていました。大国は必ず戦争には、勝ち続けました。〔落魄〕という力を使い。
私は大国にある重要な文献を読んでしまい、〔落魄〕の生い立ちを知り、永遠神剣やエターナルの存在を知りました。
〔落魄〕は大国が出来た時からあるそうです。昔は、少年の姿をしていたと書かれていました。少年は、古くから戦争に借り出され、その力を利用されました。
....そうして、戦争に借り出されていく度に少年は、いつしか心をなくし、感情をなくしたそうです。
少年には、人を殺すという事が酷だったに違いありません。心や感情がなくなっていく内に、青年へと姿を変えていき、戦争に連れて行かれると青年は、一人で全ての軍勢を
滅ぼす程の力を持っていました。....しかし、青年は大国を滅ぼそうとしませんでした。....私が思うに、〔落魄〕には、まだ心が残っていたのでしょう。
ですが、その心も次第になくなっていったに違いありません。.....私達は、運が良かったのでしょう。....私達が神官の用事で国を出た日に.....
.....〔落魄〕は、暴走し、国を滅ぼしました。私達も急いで戻りましたが、あったのは瓦礫と大国に暮らす人々の死体だけでした.....その中で子供の泣き声が聞こえてきました。
私達が泣き声のする方に行ってみると、山のように積まれた死体の上で、一人の子供が血だらけになりながら泣いていました」
辛いことを思い出すように、レイントは顔を伏せながら語った。
「....それが、ライなのか?」
リースも真実を知り、驚いた様子だった。
「そのとおりです。.....その後、私達は死者を埋葬し、大国があった...この場所に孤児院を建てました。...もう、二度と悲劇を起こさないと私の心に誓いを刻み...」
「....だから、子供達に色々教えているのか....」
「..はい..私は始めてリース先生に会った時に、安心しました。...ライが暴走した時に、止めてくれる人が来たと」
レイントが顔を上げリースを見る。
「確かに、俺はエターナルだ。....だが、今はここの先生でもある。....ライが暴走したら、俺が止めるのは教師としての勤めだろ?」
リースが笑顔でレイントに言った。
「....はい...本当に、...本当に、ありがとうございます...」
レイントは涙を流しながら、リースに頭を下げる。
「いいって、頭を上げてくれ。....俺は、ライのことが知れただけで十分だ......泣かないで、しっかりしてくれよ。レイント園長」
「すいません、リース先生の言うとおりですね」
「俺は、もう行くよ....話してくれて、ありがとうな!」
リースはレイントの部屋を出て行った。
「...ライをお願いしますね...」
レイントは涙を拭い、囁いた。
<〜とある多次元世界〜>
〔放浪〕と〔落魄〕の神剣の気配を感じた一人のフードを被った少女が呟く。
「...見つけた......鍵の一つを.....取りに行く..」
少女の手に握られている鎌が赤い光を放ち、ドクドクと何かを飲んでいる。
飲んでいるのは、人間の血液。少女に下には、死体の山があった。
〜続く〜
この度はSearch Demand。第四章を読んでいただき、ありがとうございます。
ハミュウの活躍を期待していた人には、シビアな話しになってしまい。...ごめんなさい!
次は書こうと思いますので、それでは、また。