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〜第三章 思い出〔安らぎ〕〜

「.......ここは?」
セリウスは困惑していた。自分の意識がなくなり、気がつけば迷路のような場所に居て、目の前には大小の扉が幾つも並んでいた。

《ここは、リースと〔放浪〕の記憶の中です。正確には、見たい記憶に辿り着くまでの道.......いえ、迷宮と言ったほうがいいでしょう》

「....迷宮ですか。もしかして、全ての扉を開けていくのですか?」

《いいえ。これらの扉の大半は、見せ掛けの扉です。この中のどれか一つが、本当の記憶を見ることが出来る扉です》

「はぁ〜.....こんなに扉があるのに、正解を見つけるのは不可能に近くないですか?....」
ため息が出るほど、扉は多く。見た数だけでも、扉の数は約千以上あるのだ。

《心配は、ありません。私と〔放浪〕がマナの道を造っています。その通りに行けば、目的の扉に着くことができます》
迷宮には白と黒のマナで構成された一筋の光の道ができていた。

「それを早く言ってくださいよ。私は、全ての扉を開けるつもりだったんですからっ!」

《ウフフフ......許して下さいね。久しぶりに、貴女が悩んでいる姿を、見たかったので......》
〔威信〕は、楽しそうな声で笑っていた。

「本当に酷いですよ。私を困らせて楽しいのですか?」
セリウスも笑顔で聞きなおす。
このような、会話は日常的であり。二人がそれだけ互いのことを信頼し、共に今まで歩んできた何よりの証拠なのだ。
たまに〔威信〕がセリウスの困る姿を見るのが楽しくて、意地悪をするのだが。セリウスも既に、長年の付き合いから〔威信〕のパターンを把握していた。

《はい。貴女の困っている姿は可愛らしくて、普段の姿からは想像できないほどです》
普段のセリウスは美しいのだが、〔威信〕は困っている姿のほうが好みなのである。

「なっ..なっ....何を言っているのですかっ!...そっ..そんなことより、早くいきますよ!!」
セリウスも可愛いと言われると思ってなかったので、顔を少し赤らめていた。

《クスッ。....はい、いきましょうか》
〔威信〕は微笑んでいる様子だった。



【〜30分後〜】



「まだ、着かないのですか?」

《はい、近づいてはいると思うのですが。.....何か、おかしいですね...》
〔威信〕は考えるように黙り込む。

「...〔威信〕どうしたのですか?」
心配そうにセリウスが尋ねる。

《..........》
《......そうでしたか。..なるほど、わかりましたよ。セリウス、聞いて下さい。私達は、さっきから同じ道を歩いているのです!》

「どういうことですか?...このマナの道が間違っているのですか?」

《いいえ、この道は確かに記憶の扉に行く道です........》

「だったら、何がどうなっているのです?」

《....私達はリースの記憶の中に居るということは、わかりますよね?》

「はい、それはわかりますが。何か関係が?.......」

《私達は、ここでは外から進入した外敵と見なされています。......だから、マナの道が屈折されていて、同じ所を歩いているのです》

「........どうすれば、それを解決できるのですか?」

《扉の守りをする者を倒すしかありません。....私達がこの仕掛けに気づいたので、私達を排除しようと来るはずです》

「来たところを、倒せばいいのですね?」

《はい、ですが...扉を守る者。使者は少し手強いので注意して下さい》
〔威信〕が警戒するように黒いマナを展開していく。

セリウスは気配を探るように〔威信〕に集中力を傾ける。
「......来ましたね」
呟いた瞬間に青色の閃光がセリウスに向かって来ていた。

「我が剣よ!絶対なる楯となりて全てを遮断せよっ」
「シイディングウォーグ!」
唱え終わると〔威信〕の楯の部分が巨大化し、セリウスを包み込む。

シュイーーーーーーーン

青色の閃光がスピードを増し、シールドに突撃してくる。

ガシュッ!

シールドに閃光が当たった瞬間に、閃光は楯に吸収されていった。

「この程度の魔法で、私に傷をつけるのは不可能ですよ」
余裕そうな態度でセリウスは、閃光が来た方を見た。

《セリウスっ!!後ろです》
〔威信〕が警戒を促した時には、セリウスの後ろから一人の少女が斬りかかって来た。

「死ね〜〜〜〜!!」

ブシュッ

セリウスの肩からは少し血が流れ、マナに変わっていった。
少女は、攻撃が失敗したと分かると青色の閃光が来た方に消えいく。

《セリウス......大丈夫ですか?》

「ええ。大丈夫ですが....まさか、後ろからとは予想しませんでしたよ」
苦笑、交じりで話すセリウス。

「敵は一体だけでは無く、二人ですか?」

《はい....二人というよりは、一人と一匹の方が正しいでしょう》
〔威信〕は、冷静に分析した結果を語る。

「一人は、今の少女。一匹は龍ですか...」


<グォォオオオォォォォ!!>
セリウスが話し終えると同時に、龍が雄叫びを上げ飛び掛って来る。

キィン・キィン・キィン


龍の爪と牙が〔威信〕と衝突し、辺りには金属音が鳴り響き、火花が散っていた。
龍は自我がないように暴れ、ただ目の前の敵を倒すことに執着していた。

(おかしいですね。こんな単調的な攻撃ばかり繰り返して、何の意味があるんでしょう。....
....二体で攻撃してくれば、優勢に立てるかもしれないのに。・・さっきの少女はどこに消えたのだろう?・・)
セリウスは疑問に思いながらも龍の攻撃を薙ぎ払っていく。

《......罠を張ってみてはどうですか?》
セリウスの疑問に答えるように〔威信〕が答える。

(そうですね、それは名案です。早速使わしてもらいます!)

セリウスは、ニヤッとなりながら喋りだした。
「このような単調的な攻撃では、私を殺すのは無理ですよっ。もういいでしょう、マナの塵になりなさい!!」
セリウスが防御から攻撃に移ろうとした瞬間。
龍の後ろから少女が現れ神剣魔法を詠唱する。

「.........終わりだ」
少女の手からの巨大な火の玉が放たれる。

「なるほど、そこにいたのですか、上手く罠にかかってくれましたね♪」
セリウスは笑顔になりながら、〔威信〕を火の玉に向け吸収させる。

「ちっ!」
少女はセリウスを睨みつけ、龍と一緒に攻撃してくる。

「二体で、その程度ですか」
セリウスは二体の攻撃を的確に防ぎ、かわしていく。

「ハァァアア〜〜〜〜」
<オオオオオオオオオオ〜〜〜〜〜〜>
少女は龍の背中に一つの弾丸となって突進してくる。


キィーーーーーーン


セリウスは、〔威信〕で攻撃を受け止めるが総重量の差から後ろに押されていく。

「グッ、前言は撤回しますよ。......ですが、甘い!」
弾丸を受け流し、セリウスは神剣魔法を唱える。
「燃え尽きなさい!リバース」
セリウスは、〔威信〕を地面に突き立てる。
同時に弾丸となった龍の足元に巨大な魔方陣が出現し、〔威信〕が吸収した閃光と火の玉が二体に直撃する。

<グォォォオオオオオオ!!>
龍が黒コゲになり、倒れていく。


「....少女がいない、マナになったのでしょうか?」
セリウスが〔威信〕に問いかける。

《そうかもしれません。気配も感じませんから.....》
〔威信〕が決めたように話そうとした瞬間。

<ウ〜〜〜〜オオオオオオオオオ〜〜〜〜〜>
叫びをあげ、黒コゲの龍の体がボコボコと再生されていく。


「これは.....もしかして、あのスピリットは寄生型のスピリットですか?」

《どうやら、そのようです。....寄生型神剣よりは、マシですが。....再生される前に、龍の体内の寄生型スピリットも消滅させますか?》
寄生型とは物体内に侵入し、コントロールを全て支配してしまう生命体の俗称である。
また、寄生された生物を倒しても、宿主を殺さなければ何度でも復活して襲いに来るのである。

「できれば、そうしたいのですが....あの技を使ったら、リースの記憶に障害が起こりませんか?」

《大丈夫です。記憶は、扉を守る者が空間を歪めていますので。守る者が消滅するまで歪みは継続されます》

「それを聞いて安心しました。だったら、一気に消滅させましょう!」
セリウスは龍から少し離れ、〔威信〕を構えなおす。その間にも龍は再生されていく。

「いきますよっ〔威信〕!」

《わかっています、セリウス!》
二人を中心に黒いマナが円を描き、セリウスと《威信》に集約されていく。

「この一撃こそが至上であり」
《我ら騎士の王への忠誠と尊敬であり》
「全てを消滅させる」
《絶対なる無比の一撃なり》
「我が身・技・体。全てと一つになりて」
《今こそ、全ての力をここに》
「ランシングーーカリバァァァーーー!!」
《ランシングーーカリバァァァーーー!!》
〔威信〕が黒く光輝き、集約された黒いマナが無数のビームのように龍に目掛けて放たれる。
同時にセリウスも黒き光となって、龍に向かって行く。

「うわあぁあぁぁぁ〜〜〜!!」
<ウオオオォォォォ〜〜〜〜!!>
寄生スピリットが龍の体内から叫びを上げ、再生が終わった龍がそれに呼応するように叫び、防御陣を展開する。


ヒュン!


一条の黒き光が、防御陣と龍の腹部を貫き。龍の体内に居た寄生スピリットをマナの塵にし、ビームが龍の全てを消し去っていく。
龍と寄生型スピリットは、叫び声を上げることもできずに消滅していった。

「あなた達のような、人龍一体よりも....あの娘達の人龍一体のほうが強いですよ」
セリウスは、笑顔で語りながら龍が消滅した方を見ていた。

《久しぶりに、使う技なので忘れかけましたよ》
〔威信〕が穏やかな声で話しかけてくる。

「確かに、掛け言葉は少し長い気がしますよねっ。でも、気に入ってるから短くはしませんよ」

《わかっています。...それよりも、扉を守る者が消えたのでマナの道が続いているはずです》
マナの道は龍の消滅した方向を指し示す。

「わかりました。...だったら早くいきましょう」
セリウスはマナの道に沿って歩いていく。


【〜数分後〜】


「..この扉が.....記憶の扉....」
セリウスの目の前には白い扉が建っていた。

《扉を開けて下さい。....中で〔放浪〕が待っています》
セリウスは、〔威信〕が促すままに扉を開ける。

《.....よく、来たな。ようこそ、記憶の間へ》
扉の中では〔放浪〕が、空中に浮くようにして待っていた。

「よく、そんなことが言えますね。....ここまで来るのに苦労したんですから」
セリウスは〔放浪〕にブツブツと文句を言っている。

《悪かったな、〔威信〕が説明してくれていると思ったのだ》

「〔威信〕が説明したのは、守る者が来る直前ですよっ」

《....だって、セリウスが困るの可愛いですから》
〔威信〕が嬉しそうに囁く。

《...だっ、そうだ。我が悪いのではない、〔威信〕が言わなかっただけだ》
〔放浪〕もやれやれといった様子で話す。

「〔い〜し〜ん〜〕....どうして、私がそんなに照れるようなセリフを言うのですかーーー!!」
記憶の間にセリウスの叫び声が響く。セリウスの顔は既に赤くなっていた。

《ほら、よく言うじゃないですか。....好きな子には、い・じ・わ・る・したくなるって、まさにそれです》
明るい口調で〔威信〕は答える。

「.....もういいです...あきらめます...」
セリウスはガッカリした様子で沈んでいった。

《そろそろ..よいか?》
この二人のやりとりを見ていた〔放浪〕が呟く。

「ええ〜いいですよ。早く記憶を見ましょう」

《....では、行くぞ》
〔放浪〕の刀身から白い光が放たれる。
セリウスは、その白い光に包まれていった。
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  <〜リースの記憶〜>

「.....今日...今日こそは、バイトを発見して、まともな飯を食うぞ!」
リースが必死にアルバイト求人覧を見ていた。リースは三日間、水しか口にしていないのだ。
常に世界から世界を放浪するせいか。身内からの支給もなく、世界を放浪するたびにバイトを探しているのだ。

《....別によいではないか。水だけというのも修行になるだろう?》

「もう、水は嫌だ。...固形物が食べたい」

《だったら、なぜ、この前の傭兵の仕事を断ったのだ。..お前ならば、我がいるから負けることはないだろう?》
この世界は、まだ戦争が絶えなく。どこの国も強い兵士や傭兵が欲しかったのだ。

「ああ〜、あれか。だって、世界に干渉せず、あるがままの姿に。それがカオスエターナルの信条だろ。だから,、断ったんだ。それに少しはゆっくりしたいしな.....」

《本当はそっちが本音だろう。...全く、しょうがない奴だ。それで、バイトはあったのか?》

「...ちょっと待て、...これに決めた!」
そう言って、リースが選んだのは孤児院のアルバイトだった。

《お前、子供の世話をできるのか?》
〔放浪〕が心配そうに尋ねる。

「なんとか、なるだろう。それに三食オヤツ付、さらに住み込み可だぞ。こんないいバイトがあるか?....ないだろう?」

《それが良いのか、我にはわからん》

「とにかく、善は急げっていうだろ。行くぞっ!」

「帰って...下さい。傭兵は...雇っていない」
リースが孤児院に着くと、出てきた女性がいきなり言ってきた。

「ちょっ....ちょっと待ってくれ!俺は傭兵じゃない!アルバイト募集を見て、雇ってもらいに来たんだ。
 この背中の剣も切れない、見かけだけの剣なんだ。....頼む雇ってくれ!」

「.....わかった、...中に入れ。とりあえず、面接だけはしてみる.....それから働けるかどうか...」
そう言って中に通され、一室の部屋に案内された。

「....ここ、園長先生の部屋....中に入って面接をしてもらえ...」
女性はそう言うと、部屋の扉をノックした。

「....レイント、アルバイト募集を見て来た奴を連れてきた.....」

「そうですか。どうぞ、入って下さい」

「..失礼する....コイツだ..」
部屋の中には初老な女性が椅子に座っていた。

「初めまして、私がここの園長を務める、バリュー・レイントハーチェです。レイント園長と呼んで下さい」
レイントは、穏やかな顔で挨拶をしてきた。

「初めまして、俺は、いや、僕の名前は、リース・ワンダーロム。リースと呼んで下さい」
リースは、固まった様子で返事をした。

「そんなに、かしこまらなくても大丈夫ですよ」

「じゃ....わたしはこれで...」

「ありがとうございます、ミリアル。お仕事、頑張って下さいね」
労いの言葉を聞くと、ミリアルは扉を閉め、部屋から出て行った。

「許してあげて下さいね。彼女は単調的な喋り方しかできないので。....それでは、面接をしますのでこちらの椅子に座って下さい」

「はい、よろしくお願いします」

「普段の喋り方でいいですよ。私もその方がいいですから」
レイントは笑顔で語りかけた。

「本当か、すまん。どうも敬語は苦手なんだ...」

「では、貴方がここを選んだ理由を聞かせてもらえますか?」

「俺は、国から国を旅している。.....だが、所持金がなくなってしまったので、ここの募集を見て来たんだ」
国から国というのは嘘で、本当は世界から世界なのだ。

「ほぉ〜国から国をですか。それでは貴方の後ろの剣も護身用の剣ですか?」

「ああ、そうだ。この剣は見かけだけで、何も切れない。....ナマクラさっ」

「そうですか。....それを聞いて安心しました。リース、貴方をここの先生として雇いましょう」
レイントは、微笑みながら握手をしてきた。

「雇ってくれるのかっ!....ありがとう、恩にきる」
リースもそれを聞いて、手を握りなおす。

「ただし、二つだけ条件があります。一つ目は貴方が、今まで旅した国のことを子供たちに話してあげて下さい。二つ目は、貴方の剣術を子供たちに教えること。それが条件です」

「別に、構わないが一つ目は確かに分かる。....しかし、二つ目はいいのか、子供に剣術なんか教えて?...」

「......今の時代では、少しでも自分の身は、自分で守らなければなりません。そのために教えて頂きたいのです」
レイントは、悲しそうな顔になっていた。

「...そういうことなら。喜んで二つの条件は、守らせてもらうよ!」
リースはニッコリと微笑みながら答える。

「ありがとうございます。..それではこの孤児院を案内しますので、ついて来て下さい」
そう言って、レイントとリースは部屋を出て行く。

「この孤児院は、私を含め四人の先生が居てます。最近は、身寄りのない子供たちが増えてしまい....先生の数が足りないのです」
レイントは深刻そうな顔をして話しをする。

「ここの子供たちって、何人居るんだ?」

「....確か、30人くらいのような気がします」

「30人も居るのか、....レイント園長も居るんだったら、まだ大丈夫だと思うが」

「それが、私はあまりここに居られなくて。......実質上は、三人の先生でやってもらっているのです」

「三人で子供の世話と家事を全てこなすのかっ!...確かに、それはキツイな.......」
驚いた顔つきでリースはレイントに言った。

「だから、貴方を雇ったんですよ。期待してますよ。リース先生」

「....お...おう、任してくれ!」
少し顔をしかめるリース。


「てゃゃや〜〜〜〜〜」
リースとレイントが話しをしている所に、一人の少年がリースの方に突っ込んでくる。

「...甘いな、ボウズ」
リースは突っ込んできた少年をさらりと交わす。

「......へっへっへ、甘いのは兄ちゃんのほうだよ〜。今だ、みんな〜かかれ〜!」
少年がそう言った瞬間に、リースを目掛け子供たちが突進してくる。

「お前ら、多対一は汚いぞっ!.......痛い.....髪の毛、引っ張るな.....足をチクチク蹴るのはやめてくれ〜〜」
子供たちに体中をボコボコにされるリース。

「コラ〜〜〜〜〜〜!!あなた達、お客様になんてことするの〜〜〜」
遠くから一人の女性が怒鳴り声をあげ走ってくる。

「うわぁああ〜〜〜。シェラが来たぞ!」
子供たちはレイントの後ろに隠れる。

「はっ...はっ...すいません。大丈夫...ですか?」
息を切らしながら、女性がリースに話しかける。

「ええ〜だいじょうぶですよ。いきなりで驚きましたが」

「...ほ......本当にすいません。この子達には、後でよく言い聞かせますので」
シェラは、レイントの後ろに居る子供たちを睨みつける。

「いいのですよ、彼も今日からここの先生ですから。...慣れていてもらいたいのです。紹介します、リース・ワンダーロムさんです」

「....えっ..えっ......え〜〜〜新しい先生ですか〜〜。え〜と、その..よろしくお願いします。私の名前は、シェラ・リッテと言います。シェラって呼んで下さい」
シェラは、そう言ってリースにお辞儀をする。

「改めまして、リース・ワンダーロムです。リースって呼んで下さい。」
リースもお辞儀をする。

「へぇ〜兄ちゃん、新しく来た先生なんだ。...オイラは、ライっていうんだ。よろしくなっ!」
一番初めに飛び込んできた少年が自己紹介をする。

「俺は、リースって言うんだ。よろしく、ライ」
リースも笑顔でライに返事をする。

「自己紹介もいいですが、先にリース先生をみんなに紹介しましょう」
レイントがゆっくりとした口調で子供たちに話す。

「は〜い!」
子供たちは、元気な声で返事をする。

「ところでシェラ先生、ミリアル先生とハミュウ先生はどうしました?」

「えっと、確か、ミリアル先生は外で洗濯物を干していましたよ。ハミュウ先生は.......何か料理を作っていたような気が...します..」
シェラは、気まずそうに話す。

「料理があるのか!三日間、何も口にしてないんだ....食べさせてくれないか?」

「...別に構いませんが、できれば犠牲を出さずに済ませたいので。...確かに、ハミュウ先生が料理を作っていたのですか?」
レイントは、焦った感じで聞きなおす。

「はい、いつもと同じで。....お鍋から緑色の煙が、モクモクとあがっていました....」

「シェラ先生、どうして止めないのですかっ!」

「すいません!....だって、止めたら....私が餌食になるんですよ〜...だから、私にできるのは子供たちの非難ぐらいです」
シェラの目には涙が浮かんでいた。。

「......すいませんが、リース先生。私について来て下さい!」
そう言って、レイントは走り出す。

「ちょっと待ってくれ!.....何がどうなっているんだ?」
リースはシェラに聞く。

「.....リース先生、生き残ってください。....誰よりも強く。.....私には...それしか言えません」

「とにかく、生き残ればいいんだな。わかった、ありがとう」
(ここって、孤児院だよな。生き残る?どういう意味だ...)
リースは考えながら、レイントの後を追って行った。

「あっ、レイント。.....もう、無理だ......ハミュウは止まらない」
先に台所に来ていたミリアルがレイントに告げる。

「....遅かったですか..」
そう言って、レイントが見た方には化学の実験服を着た女性が何かをしていた。

「〜〜〜♪きょうの〜〜実験は何でしょう〜何だろう〜〜〜♪〜〜犠牲者は〜だ〜れ〜だ〜ろ〜う〜だ〜れ〜でしょう〜♪」
実験服を着た女性は鼻歌を歌いながら、鍋の中に色々な物体を投げ込んでいく。

「..................」

「..................」
それを見ていた、レイントとミリアルは何も言えなかった。

「どうしたんだ、二人とも固まって?」
遅れて来たリースが二人に話しかける。

「.....紹介するのが遅れてしまいましたね。...ここで働くことになった、リース先生です」

「...受かったんだ....おめでとう.....私はミリアル・アルベルト。...呼ぶ時は、ミリアルでいい」
軽く礼をするミリアル。

「ありがとう。...俺はリース・ワンダーロム。リースって呼んでくれ」
笑顔で挨拶をするリース。しかし、二人の顔は困惑していた。

「....何があるんだ?」

「見ればわかる。」
ミリアルがハミュウを指差す。

「.....えっ、あれは何してるんだ?」
リースは不思議そうな顔で聞きなおす。

「あれは、ハミュウ先生の料理という名の.....実験です」
レイントが頭を抑えながら答える。

「...過去にあれで、犠牲者が多数でた。.....最近はもっぱら、シェラが人体実験に使われてる....」
ミリアルも沈んだ顔になっていた。

「二人とも、体験したことがあるのか?」

「.....あれは地獄としか、言いようがない」

「....私は何も言えません」
レイントは既に、床に座りこんでいた。

「わたしは〜天国が...見えました〜〜」
シェラが涙を流しながら、こちらに来た。

「シェラ先生、子供たちの非難は終わりましたか?」

「はい、レイント園長。子供たちは大部屋に非難させました」

「.....よかった。....ところで、あれはどうする?」
ミリアルが三人に尋ねる。

「.......」

「.......」

「.......」
三人は揃って無口になっていた。
その間にもハミュウの実験は終了に近づいていく。

「もうすぐ〜で・き・あ・が・り〜〜〜♪〜〜どんな効果があ・る・の・かな〜〜♪」
ハミュウの鼻歌は、既に二番目に突入していた。

「....もうすぐ...三番目だ」
小声でミリアルが呟く。

「もう、だめですね」
レイントも観念した様子だった。

「わたしは〜もう餌食になりたくないですぅ〜」
シェラは涙を流して叫んでいた。

「....よくわからんが、逃げればいいんじゃないか...」
リースがボソリと呟いた。

「...逃げれない」

「逃げられません」

「逃げれないんですぅ〜」
三人の声が重なる。
その時、ハミュウの歌は三番目の終盤に突入していた。

「さ・い・ごの隠し味に〜〜〜〜♪ポンっと秘密の薬品を入れてぇ〜〜〜〜♪出来上がり!!」
歌が終わると、ハミュウは出来た物体をコップに移し、四人がいる方を振り返る。
「.....あっ、みなさん来てくれたのですねっ!」
ハミュウがニッコリと微笑むと同時に、三人の人影が遠くに逃げていく。

「えっ....」
一人取り残された青年が情けない声をあげ、逃げようとする。

「....逃がさんよ♪」
目にも留まらぬスピードで女性は青年の肩をつかむ。

「ハミュウ先生〜〜。彼は、リース・ワンダーロムさんです。新しく来た先生です」
レイントは、大声でハミュウにリースを紹介する(売り飛ばす)

「まえから〜〜ハミュウ先生の料理を楽しみにしてた。そうですよ〜〜〜」
シェラも生き残れた嬉しさから大声で叫ぶ。

「.....よかったな....新入り」
ミリアルもニコッリと笑っていた。

「そうだったんのか。よろしく、リース先生。私はハミュウ・プレト。ハミュウと呼んでくれたまえ」

「...よっ....よろしく。...リースって呼んでくれ」
ぎこちない笑顔で後ろを振り返るリース。

「さっそくだが、私の料理を食べたいそうだな。さぁ〜食べたまえ」
ハミュウがリースの目の前に差し出したコップの中には、ドロリとした七色の液体が入っていた。

「あの、今はお腹が一杯なので遠慮します」
リースはハミュウから目線を逸らし、冷汗をダラダラとかいていた。

「そうか、残念だな〜。今なら、私が口移しで飲ませてやるのに〜」

「お気持ちだけで、十分です」
(こんな美人に口移しで飲ませてもらうのは、嬉しいが飲んだら死ぬ。俺は、まだ死にたくない!)

「ちっ、折角いいモルモットが来たと思ったのに。しょうがない、自分で飲むか」
そう言うと、ハミュウはコップの中身を全て飲んでしまった。

(ふ〜〜〜助かった)
ため息を吐くリース。

「そこで、ため息を吐いてはだめですよ!」
レイントが大声で叫ぶ。しかし、時既に遅し。

「むぐっ......んぐ...がは....ん〜〜〜〜〜」
リースが助かったと、ため息を吐いた瞬間にハミュウはリースの口に液体を流し込んできた。

「....遅かった.....」
ミリアルが呟く。
その間にも液体は流し込まれ、リースは目を白黒させていた。

「プハッ!こんな美人とキスが出来たんだ。幸せと思えよ!」
ハミュウが笑顔でリースに話しかける。
しかし、そこには骸とかしたリースが倒れていた。

「うわ〜〜〜リース先生が死んでしまいました〜〜〜」
シェラが大声で叫ぶ。

「早く、お医者様を。ミリアル呼んで来て下さい!」
慌てるレイント。

「....わかった...」

「なんだ、キスぐらいで倒れるのか?ウブだな.....」  
ピクピクと反論を促すように瀕死の体を動かすが、すぐに動かなくなるリース。


〜〜続く〜〜〜

                          

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