〜第二章 楽しき時間〜
ガチャン・・・・・部屋のドアが閉まる音がする。
青年が自分の部屋に戻ってきて、そのままベッドに倒れこむ。
「もう・・・だめだ・・・」
青年は弱気な言葉を口にする。セリウスの説教により、心が立ち直れなくなるまで精神的ダメージを受けたリースだった。
時間は少し前に遡る。
五人は屋敷の中に入り、椅子に座りながらオシュエルの淹れてくれたハーブティーを飲みながら色々な話をしていた。
「こんなに人数が揃うのは、本当に久しぶりですね」
セリウスが微笑みながら言った。
「そうだな〜。会合からかれこれ一周期ぶりぐらいにはなるかな」
アーサーが少し考えたように言う。
会合とは、全てのカオスエターナルが不定期に一度集まり。新人のエターナルの紹介や情報などを交換する場のようなものである。
しかし、本当のところは「普段の疲れを癒そう!」という名目のローガスの提案で始まったパーティーみたいなものだ。
「キリは会合の時、オシュねぇに会って〜。それから、オシュねぇと一緒に仕事をしてたんだよ!」
「まぁ、私達は一周期のほとんどを一つの世界で過ごしていましたけど。それよりも気になるのが、会合にも顔を出さなかった。リースさんは何をしていたのですか?」
オシュエルの言ったことをきっかけに四人の視線がリースに集まる。
「俺は..ええ〜とそのなんというか」
(ヤバイ、会合も忘れて適当に入った世界で普通に暮らしてました。なんて言ったら、セリウスに何を言われるか)
少し怯えながら一生懸命に理由を考えるリース。
「リ〜ス♪」
「はい!」
名前を呼ばれただけでもビクっ!となってしまう。
「私は、何も怒りませんから正直に言っていただけますか?いえ、言っていただけますよね〜?」
笑顔で語りかけるセリウス。だが彼女の目には既に殺気がこもっていた。それを見たリースは固まった笑顔になる。
今の言葉を直訳すると「今なら怒らないから正直に言いなさい。でないと・・・・・後からどうなっても知りませんよ♪」と言っているように、リースには聞こえているのである。
この言葉を聞き少し距離を置く三人。
リースが「この裏切り者!」と目線で三人の方を見た。
「リース。どこを見ているのですか?私の顔を見て・・・・・話していただけますか?」
「はい!すい・・・・・」
と言いかけてリースは固まった。そこには既に[威信]を片手に持ち、黒いオーラを纏って仁王立ちするセリウスがいた。
「すい・・・・?何を言いたいのですか?ああ〜謝ろうとしたんですね。そんなことはどうでもいいの、一体今まで何をしていたのかを言って下さいね♪」
笑顔だが、黒いオーラがさらに黒くなっていく。
「今日は、疲れたので部屋に戻ります。お先に失礼します」
さっきまでは、笑っていたアーサーもこれには恐怖を感じこの場から撤退して行く。
「私はお風呂に行ってきます」
リースに話しをふった張本人もこの環境には耐えられなかった。
「オシュねぇ待ってよ〜!キリも一緒に行く」
「どうぞ、ゆっくりしてきて下さいね。私もその方がやりやすいので」
(許せリース)
(頑張って下さい!リースさん)
(生き残ってね〜。リース)
三人の心の中では、リースに対する哀れみの言葉しか残らなかった。
(お前らの〜人でなし!)
「蛇に睨まれた蛙」状態のリースが心の中で叫んだ。
「もう一度聞きますよ。あなたは会合にも姿を見せずに、何をしていたんですか?」
既にオーラは、黒からドス黒い色に変わっていた。
「ほ・・・・・本当のこと言いますんで・・・・怒りませんか?」
「ええ〜、今は怒りませんよ♪」
(だったら後から怒るってことじゃないか!!・・・・でも、ここで言わなきゃ俺の命が狩られる!)
「会合の時は、適当に・・・・入った世界で暮らしていました」
「へぇ〜そうなんですか。会合を開くという連絡はきたのでしょう?まさか、連絡は来たけれど・・・・・サボろうと思ったわけではありませんよね?」
少し笑顔が崩れている。
「行きたかったんですよ。でも・・・・」
実際はセリウスが言った通りなのだ。
「でも?」
「〔放浪〕が俺に《会合など行かなくてよい》って言ってきたんです!」
反論するように剣が光る。
《何を申す!!・・・・あの時は、お前が「ダルイから行かなくていいや!」って言ったのではないか》
「そんなこと言うなよ。主のピンチなんだぞ、少しは助けてくれてもいいだろう?」
《お前が蒔いた種だろうが。自分で責任をとれ》
「二人で何を話しているんですか?私達も話しに入れてくださいよ」
〔威信〕が頷くように黒光りする。
「〔放浪〕、本当のことを話していただけますか?」
《コイツが「ダルイから行かなくていいや!」、と連絡が来た時に言っていた..》
〔放浪〕の話しを聞いた瞬間に[威信]がリースの前に突き立てられていた。
「リ〜ス♪あなたには昔から言ってるでしょう!会合には必ず来なさい、連絡は常に怠るな、カオスエターナルとしての自覚を持てと」
《・・・・・・貴方は私達に会った時からずっとそうでしたよね。セリウスの気苦労も知らずに、いつもフラフラと。貴方の放浪ぐせはいつになったら治るのですか?》
「ええ、全くですよ。始めは力の使い方も知らずに、一人で何も出来ないひよっこだったのに。力の使い方を教えると、何も言わずにどこかに行ってしまうし」
《まさに、恩を仇で返すとはこのことですね・・・・》
「ちょ・・・・ちょっと待って」
小声でリースは反論しようとするが、二人の会話は止まらない。
「そういえば、覚えてますか[威信]。リースが始めて竜と対峙したときに言った言葉を」
《覚えていますよ。確か「無理だ〜でかすぎる〜」でしたっけ?》
「そうです。私はあの時に思ったことがあるんですよ!」
《実は、言うと私も思ったことがあるんです》
「この小心者!!」
《この小心者!!》
二人の声が重なっていた。
「あのビビリっぷりを見たら、誰だって思いますよね?」
《ええ。見事なビビリっぷりでした》
「話しは変わりますがリース。カオスエターナルの心得を覚えていますか?」
「世界をあるべき姿に戻すことだろう?」
半泣きぎみのリースが言った。
「そうです。あなたは、カオスとしての仕事をしましたか?やってないでしょう!やる気があるのですか?」
「少しぐらいかな・・・・・・・あっ!」
あれだけ言われたのにリースは本音を口走ってしまった。
「少しぐらい〜?まさに、あなたはダメエターナルのお手本ですね」
《そんなことは、言わなくてもわかってるじゃないですか。彼の小心っぷりとダメっぷりを見たら》
「ああ〜そうでしたね♪」
そう、セリウスのお説教の実態は愚痴のオンパレードなのだ。それも愚痴を言われた者の精神を的確に削っていくのである。
〜一時間後〜
「・・も・・・・もう、勘弁して下さい!」
リースは顔から生気が無くなり、今にも倒れそうな状態で言った。
「まぁ〜許してあげましょう」
セリウスの顔はスッキリしていた。
「・・・・一つだけ聞きたいことがあります」
真剣な顔つきになりセリウスが言った。
「なんだ?」
少しダレた顔で聞きなおす。
「多重の門を開いたそうですね。どうしてですか?・・・・ロウエターナル一人をマナに返すのに、それだけの門を開く必要はないでしょう?」
セリウスは、今までの説教=ストレス発散よりもこっちの事の方が一番気になっていたのだ。
「・・・・あの時は俺がまだ未熟だった。そのせいで・・・・守れた人達を守れず、世界も破壊してしまった・・・・・」
リースは真剣な顔になる。そして、目からは一筋の涙が流れていた。
「人達?(ローガスに聞いた話では、人為的被害は無いはず)・・・・・何があったか話してくれませんか?」
リースの涙を見て、気まずそうに聞きなおす。
「すまん、話すことは出来ない。・・・・でも、これだけは言える。俺はもう二度と同じ過ちは繰り返さない!」
その言葉に反応するかのように、[放浪]が光輝く。
「・・・・・わかりました。今日のところは、これで許してあげましょう。疲れたでしょう?話しはこれで終わりです。部屋に戻りゆっくり休みなさい」
セリウスはリースの言葉を聞き、納得したように言った。
「ああ〜。そうさしてもらうよ」
ダレた顔に戻り、部屋を出て行こうとするリース。
「・・・最後に一言!」
「なんだ?」
「次の会合に来なかったら狩りますよ♪」
セリウスがニッコリと微笑みながらリースに告げた。
「うっ・・・・。次はちゃんと行くから勘弁してくれ」
リースは苦笑いをし、自分の部屋に戻って行った。
<〜リースの部屋〜>
《・・・・久しぶりに・・・お前を見直したぞ》
〔放浪〕が優しく語りかけ。
「俺が何かやったか?」
ベッドに倒れこみながら聞き直す。
《セリウスに、言った事を忘れたのか?》
「もう二度と同じ過ちを繰り返さない。って言ったことか?」
《そうだ。あの時のお前には、今までに感じなかった強い意志の力が感じられた》
「当たり前だ!俺は誓ったんだ。あんなことは二度と起こさない」
ベッドから起き上がり、強い決意を含んだ声で言った。
《・・・・その気持ちを忘れるな。心こそが力であり、全てを決めるのだ。だが怒りではなく、常に冷静な心を保て》
「わかってる。そのために、今は出来ることからやっていくつもりだ!」
《その心意気で頑張っていけばいい・・・・・そして、今はゆっくりと休め。お前の精神力はセリウスから受けたダメージでまだ回復していない》
「そうさしてもらうよ。セリウスは手加減をしてくれたみたいだけど、無茶苦茶効いた・・・・・・・」
そう言うと、リースはベッドに倒れ深い眠りに落ちていった。
コンコン、っと扉をノックされる。
「リース、入りますよ」
そう言って、部屋に入ってきたのはセリウスだった。
《セリウスか。・・・・コヤツは今、眠ったところだ》
「寝ているのですか。・・・・起きたら、私の部屋に来るように言っていただけますか?」
《わかった。伝えておこう》
「〔放浪〕、私に教えてくれませんか。・・・・・リースが破壊した世界で何があったのか?」
セリウスは、先ほどのリースのことが気になっている様子で聞きなおした。
《・・・・・・・・・・》
少しの沈黙の後に[放浪]はセリウスに言った。
《・・・・・わかった。・・・・.一人ぐらいはコヤツの誓いを知る者が居てもよいだろう》
「ありがとうございます!話してくれるのですね?」
《うむ。・・・・だが、話すよりも見るほう早いだろう》
「見る?どうやって見るのですか?」
不思議そうにセリウスは尋ねた。
《〔威信〕と我がシンクロすることにより、見ることができる》
「そんなことができるんですか?・・・・私は、今まで聞いたこともありません」
《全ての記憶を見ることは不可能ですが。・・・・一時的な最近の記憶なら見ることができるのです》
〔威信〕が詳しく話すように語りかけてきた。
「この方法を知っていたのですか?」
《・・・・ええ。ですが・・・・・他者の記憶に関与するということは、容易にできることではありません。あなたにも負担が掛かってしまいます》
「それでもやります」
《どうしてですか?》
「・・・・リースがエターナルになった時、私はリースに尋ねられました」
セリウスが懐かしそうに話し始めた。
「なぁ〜、セリウス」
「なんですか?」
「セリウスは、自分の心がまだ未熟だって思ったことはあるか?」
「はい、ありますよ。・・・・・そんな時、私は自分の心に刻んだ決意を思い出し、自分を奮い立たせます」
「決意?エターナルになった理由のことか?・・・・・だったら、俺はまだダメだな」
寂しそうな表情のリースが言った。
「そんなことを言っていたのに、久しぶりに会ったら、リースは強い決意を秘めていました。私はその理由が知りたいのです!」
《わかりました。では、私も協力するしかないですね》
〔威信〕が納得した口ぶりで話す。
「ありがとうございます。〔威信〕」
《話しは終わったか。・・・・・それでは、我に[威信]を近づけよ》
「こうですか?」
セリウスは〔放浪〕に〔威信〕を近づけた。
近づけた瞬間に、二本の剣が共鳴し、白と黒のマナが部屋全体に飛び散った。
《セリウス、強く心を保って下さい。今からリースの記憶に干渉します》
「わかりました」
《それでは行きますよ》
白と黒のマナがセリウスとリースを包み。セリウスの意識もリースの記憶へと導かれていった。