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EPISODE1〜運命の交差する瞬間〜
<神木神社前 夕刻>

 「ふぅ〜」、とため息を吐きながら先端に砂時計が装飾されている長い錫杖を片手に持ち、背中には布に包まれた物体を背負いながら・・・・・・。
 緑色の長髪で瞳は青色をしている女性が門を潜って世界に降り立った。
 その女性の名はクリフィト。永遠神剣第三位〔超常〕の持ち主にして、〔命樹〕の頼みにより、〔凶樹〕を探し続ける混沌のエターナルの一人である。
クリフィトが降り立った世界は日本。永遠神剣第三位〔時詠〕、〔時果〕の契約者、倉橋時深が管理する場所。
 しかし、クリフィトが門を開いた神木神社前には時深の姿がなかった。

「あれ?・・・おかしいなー、この世界には時深が居るはずなのに。・・・ねぇ、〔超常〕。時深の場所を探してくれる?」

《はい、構いませんが。・・・・・主様、この世界にはあまり干渉してはなりませんよ。》

「それぐらいはわかってる。ここには、偉大なる十三本と契約する者がいるんでしょう?」

《・・・・・その通りです。今は可能性の段階ですし、彼はまだ幼い。しかし、いずれはこちらに大きな影響を及ぼす存在になります。》

「私だって、あまり干渉したくないけどさっ。ロウがここに干渉する気配を感じたし、それにここには〔凶樹〕の気配もするんでしょう?〔命樹〕。」 
 
 クリフィトが背中に背負っている〔命樹〕に語りかける。
 おっとりした女性の声が彼女の声に反応するかのように呼びかけに応じた。

《はい〜、クリフィトさんのぉ〜言うとおりぃ〜。ここにはなぜかぁ〜〔凶樹〕の気配もするんですぅ〜。》

「相変わらず、間延びしそうな声ね・・・・。」

《これは性格ですからぁ〜♪》
 
 場の雰囲気を和ませるようなおっとりした〔命樹〕は、攻撃的な性格というよりも癒し系の性格しかピッタリだろう。
 実際に今の〔命樹〕には、強い干渉力も無いだろうし、力さえだそうとしない。
 だけど、クリフィトには少し不意に落ちない部分があった。
 どうして、ロウが干渉する世界に〔凶樹〕の気配がするんだろう。偶然なのか?それとも必然なのか?
 〔凶樹〕がロウ側にいることはありえない。〔命樹〕と〔凶樹〕は二つが揃って真の力を発揮する姉妹型の珍しい永遠神剣だ。
 二本の神剣の前の契約者達も姉妹だった。混沌の中でも肉親が一緒にエターナルになるのは珍しいことだ。
 しかも、二人とも姉妹だからだろう。息がピッタリで強さもそこそこだった。
 私とも面識があり、私が鍛えた二人だった。しかし、彼女らが三周期ぐらいしてだろうか・・・・・・・突然として滅びた。
 いや正確に言うなら、〔命樹〕と〔凶樹〕は砕かれずにその世界に落ちていた。私がその報告を聞いてすぐに二本の回収に向かったが〔凶樹〕の姿はそこになかった。
 〔命樹〕は朽ち果てたように、草や蔦に覆われ大樹となっていた。なぜ二人の契約者が滅んで、〔凶樹〕の姿がない?私は〔命樹〕にマナを分けて事情を聞こうとしたが・・・ダメだった。
 何も覚えていなかった。でも、〔凶樹〕が砕かれていないのは判るらしい。少しだが一種の繋がりが存在あるそうだ。
 それからが私の旅の始まりだった。二本の契約者が滅んだ理由、〔凶樹〕がなくなったこと。二つのことが後の運命に響かないようにしなければ───。
 クリフィトがそんなことを考えながら、〔超常〕は時深の気配を探り出した。
 
《・・・・・・〔時詠〕が居ましたよ。》

「その場所に思念を送ってもらえる?」

《わかりました。・・・・少し待って下さい。》

 そう言いながら〔超常〕が静かに意識を閉ざしていく。
 しばらくして、時深の声が聞こえてきた。

「一体なんのようですか?クリフィト。私は今、凄く楽しいんですから邪魔しないで下さい!」

 ──時深は不機嫌そうな声で対応しているが。私にしてみれば、「ロウが干渉しているのに楽しんでいる場合?」って言いたくなってくるんだけどな。
 大抵は時深が楽しむといえば、まぁ・・あのことだろうな。

「そんなに愛しの悠人君が気になる?」

「なっ・・・何を言っているんですか?私は悠人さんがロウに狙われないように、警護をしているんですっ!」

「そうなの?だったら、この世界にロウが介入してきたことぐらい知ってますよね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まさか、〔時詠〕のトキミさんが、気づいていないのですか?」

 まぁ〜、この様子だと気づいてないでしょうね。全く、私の苦労も考えて欲しいのですが、今回はしょうがないでしょう。
 もしかしたら、〔秩序〕が干渉するかもしれない。そういう場合は時深が必要になってきますし、なによりも私は〔凶樹〕を探すことが第一の優先ですから。
 どうして、こういうことのなるんでしょうね。・・・・ハッキリ言って少しダルイ、っていうか眠い。この約束が終われば、半周期ぐらいはどこかでのんびりしてよう。

「・・・・・そんなことはありませんよ。バッチシ気づいていました!」

 時深の声は焦ったような、自信がなさそうな声だった。

「気づいてなかったっと。悠人君ばっかり気にかけてるから、仕事が怠慢的になるんですよ。」

「・・・・・・だって、悠人さんが妹の誕生日に何か買おうとしてるんですよ。これを見ないなんて、私にはできません。」

「それはまぁー、今度にして。・・・・・・実際にロウがこの世界に干渉しています。私は私的な用事でこちらに赴きましたが、このままでは後の運命が捻じ曲げられる可能性があります。」

 クリフィトは少し笑ってはいるものの、声は事の重大さを物語っていた。
 そもそも、普通なら考えられないことだろう。
 自分の運命が明日になれば変わってしますのが。
 もし、生き続けられる命が急に死んでしまう。全ての生命は生まれた瞬間に運命が決められてしまう。
 誰に手によってでもなく、あるがままに生きること。それこそが命を持つ者が背負う宿命のはずなのに、それを歪めるのは不自然なこと。
 しかし、無限の時間は例外を創り、人の運命を捻じ曲げる。エターナルが干渉することによって。

「悠人さんの運命を、今変えるの早すぎます。私が必ず守り抜きます!」

 時深もクリフィトの考えていることがわかっているのだろう。
 決意と思いの両方を兼ね備えた声だった。

「よろしく頼むよ。ところで時深、私も悠人君がどんな子なのか見たいからそっちに行くね」
 
「いいですけど、悠人さんは渡しませんよ!」

「横取りはしないわ。ただ見るだけ。」

「信じますからね」
 
 時深は警戒するようにクリフィトに言った。

「ほんじゃあ、今から行くから、そっちで待ってるように」
  
 クリフィトは以前から、時深の思い人が気になってしょうがなかったのだ。
 エターナルなのに人に恋をする。
 例外中の例外、ありえないことなのに時深は自分のことのようにいつも悠人君の話をする。
 話すときの時深の顔は嬉しそうで、悠人君のどんなささいなことでも一生懸命に語ってくれた。
 私は一度問いかけたことがある。
 「悠人君と将来は結ばれる?」って、だけどその時の時深は悲しそうだった。続けて時深はこう言った。
 「可能性はありますが。・・・・・・・・・限りなく不可能に近い。・・・・ですが、いいんです。私はいつか悠人さんを奪ってでも手に入れてみせます。」
 少しの苦笑いと涙が私の記憶には鮮明に残っていた。
 
「〔超常〕、時深の大切な人でも見に行こうか」

《楽しんでおりませんか?・・・・それに〔時詠〕に対して怠慢といいましたが、主様が言えた義理ですか?》

「・・・・細かいことは気にせずに♪」

《細かくないですよ。主様、後でゆっくりと話をしましょう》

「・・・チッ、・・・・〔命樹〕との約束が終わったら、聞かせてもらうよ」

 そう言いながら、笑顔でクリフィトは神木神社の階段を下りて行った。
 階段を下り終わったら、新しい出会いが彼女を待っている。
 〔命樹〕だけが知っていた。自分の契約者ともうすぐ会える。

(《彼女には酷かもしれないけど、今の私には必要なんですぅ〜、一緒に歩んでくれる人が。・・・・すいません〜〜、クリフィトさん》)

 クリフィトの背中に担がれて、布に包まれた〔命樹〕はマナを少しずつ蓄え、緑色の光がうっすらと布の外に漏れていた。


<学校の帰り道 夕刻>

 若葉と双葉が太陽の暖かな日差しに照らされながら、ゆっくりと小言を話しながら歩いていた。

「本当にこっちであってるの?双葉」

「あってるの!!もうすぐそこの神社前を通って右に曲がったら、すぐにおいしいケーキ屋さんがあるんだから。」

 若葉は双葉に手を引かれながら、少し困った顔だった。

「あのさー、双葉。ケーキを食べるのもいいけど、もう少しゆっくり歩かない?」

「やだ。だって、あそこのケーキは限定五百食なんだよ。女の子なら誰もが一度は食してみたい限・定・物!!勉強も大切だけど、食べたいの」

「急ぐのもいいけど。ちゃんと前を見ないと人にぶつかっちゃうよ。」

「大丈夫。人なんてこの通りは少ないんだから早く、早くー!」
 
(私って姉なのに、双葉の言うことは聞いちゃうんだよね。もしかして、・・・・・私ってシスコン!?) 

 うぅ〜、と唸りながらも若葉は、双葉に引きずられていく。
 
「・・・・・・・きゃあ!・・・・・・い〜た〜い〜」

 双葉は人にぶつかって地面に座り込んでしまった。

「ごめんなさい。大丈夫?」
 
 緑色の長髪の女性が手を双葉に差し出してニッコリ笑っていた。
 この人を見てるとなんだか、とても懐かしかった。
 でも、姿は少し変だな〜。だって、長い錫杖を右手に持って、背中には大きな布に包まれた物があった。
 服装はどこかの王国の貴族を思わせるような綺麗な服だった。それを隠すように上から魔法使いのようにローブを羽織っていた。
 
「はい、大丈夫です。・・・・・えっと・・・・その・・・・・・・ごめんなさい!」

 双葉は照れくさそうにしながら、若葉の背中に隠れていく。

「すいません。妹がぶつかっちゃって・・・・・怪我はないですか?」

「うん、私は大丈夫だよ。・・・・ところで何か悪いことしちゃった?」

「えっ、どうしてですか?」

「後ろに隠れちゃったから、貴方の妹さん」
 
 目の前の女性は人差し指で後ろに隠れた双葉を指していた。

「違うんです。この子は人見知りが激しくて、照れてるんですよ。」 

 後ろの双葉は背中でもじもじ恥ずかしそうに女性を見ていた。

「そうなんだ。怖がらなくても大丈夫、私の名前はクリフィトって言うのよろしく。呼びつけでもいいよ。そのかわり・・・・・・二人の名前も教えてもらえる?」

 女性は綺麗な青色の瞳をしながら、笑顔でクリフィトは話しかけてきた。

「私の名前は花笠 若葉っていいます。自分も若葉って呼んで下さい。そして、この子が───」

「双葉っていいます。」

  顔はまだ赤いままで下を見ながら、双葉はひょこっと出てきた。

「フフフフ、よろしく二人とも。会ったばっかりで悪いんだけど、聞きたいことがあるのいいかな?」

 クリフィトは眉間にシワを寄せて、困った顔をしていた。

「いいけど・・・・・どんなこと?」

「・・・ここら辺に巫女服を着た女性を見なかった?・・・・けき〜しょっぷの近くの・・・・ぼうしやに居るって聞いたんだけど、場所がわからなくて。」

 少し発音が変だったが、多分ケーキ屋の近くにある帽子屋さんに、待ち合わせでもしているん人が居るんだろうな。
 でも、巫女服の人?今頃、巫女服を外に出かける人なんているのだろうか・・・・・・・。

「すぐ近くだよ。よければ案内しようか?」

「本当に?ありがとう。若葉は良い子だね〜♪」     

「別に一緒に行ってもいいよね?双葉」

「うん、いいよ」

 まだ恥ずかしいのだろう。双葉の顔は照れくさそうにクリフィトを見ていた。
 クリフィトは笑顔のまま双葉に積極的に話しかけて、双葉もコクコク首を縦に振っていた。
 今まで双葉が会ったばかりの人と、すぐに話をするのは珍しかった。いつもは逃げる手しまうのに、この時だけは違ったのかもしれない。
 姉としては双葉の照れくさそうな顔が結構面白かった。

《・・・・・・・は・・・・じめ・・・・・まして・・・・・・・わ・・か・・・・・・ば・・・・・・わた・・・しの・・・・・・けい・・・・やく・・・・しゃ・・・・あい・・・たか・・・・った》

「えっ?今のは誰?」
(双葉でもクリフィトでもない。・・・・・・・・心に響いてくるような声。霞んでいるけど、懐かしい声)

《・・・・・わたし・・・・・・は・・・・・ここです・・・・よ〜》

 声が聞こえる方を見たときに私は不思議と魅入られてしまった。
 クリフィトの背中の布から緑の光が漏れ出していた。

「ん?・・・どうした若葉?」

「クリフィト・・・・・・・その背中からなんで・・・・・・・・光が漏れてるの?」
 
 若葉の質問に、今まで笑顔だったクリフィトが苦いような、悲しいような顔になっていた。

「若葉には見えるんだ。」

「えっ?何か見えるの?」

 双葉は二人を見ながら意味がわからない様子だった。

「ううん、なんでもないよ。それより二人ともけき〜を食べに行くんだろう。私も待っている人がいるから、早くいこうか」
(なんで会ったばかりの少女に酷な運命を強いるの?)

(〔それは誰にも答えることができません。〕)

「そうだね。・・・・・・若葉。」

 小声で若葉を呼び止めて、クリフィトはこっそり告げようとしていた。
 運命が変わる転機が彼女に迫っている。
 しかし、クリフィトが願うのは人として寿命を向かえて欲しい。会ったばかりなのに、この姉妹には幸せであって欲しい。
 私の戦場に来てはダメ。もう永久に引き返せないから。
 だから、若葉には真実のことを話そう。それが彼女のためになることを祈って───。

「呼んだ?クリフィト。」

「今日の夜に会いましょう。若葉には知って欲しいから」

私の耳元でクリフィトは、そう言って双葉と一緒に先に歩いて行った。



「ウフフフ、いいですわ。これはこれで面白くなりそうですわね。それに〔凶樹〕も私のコレクションに加わりましたし、トキミさんにも会いに行きましょうか」

 白い法衣を纏った少女が薄気味悪く笑いながら、空中に浮いていた。
 もう一人眼帯をした女性も快楽の笑みに浸っていた。

「気の強い子は好きだよ。いい声で鳴いてくれるからね・・・・・・媚びた目をしたら、いいだろうねぇ・・・・・・・アハハハ」

 [法王]テムオリンと[不浄]のミトセマールが世界に干渉した瞬間だった。

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