作者のページに戻る

PROLOGUE〜幻想の中〜

一人の少女が闇を切り裂いていた。
しかし、斬れば斬るほど・・・・闇は増殖し、彼女の後ろの宝石を取ろうと手を伸ばしていた。


「やらせない!」


少女が薙刀で手を払いのけ、勢いを利用し闇を両断する。
そして、少女は宝石を取り逃げ出していた。
その間にも闇は、彼女と宝石に追いつこうと影の手を伸ばしてくる。 
少しずつ、少しずつ、闇は範囲を広め、彼女といっしょに宝石を包み込んでいく。


「私の大切な人に触れるな!」


声を張り上げ、少女は闇を打ち破った。
そして、闇から逃げるために走り出していく。




(・・・・・・・また、この夢)

(私は、目の前の暗闇を薙刀を持ちながら切り払っていた)

(一体、なんのために?) 
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・
      ・ 
      ・   
      ・
      ・
      ・
      ・
(誰も答えない・・・・・・答える筈がないか。・・・・・だって、私の夢の中だから)

(でも、これだけはハッキリしていた。・・・・・・私の後ろに居る人を守るために、私は薙刀を振る!)

(双葉を悲しませたくない・・・闇が私の妹を奪うなら、私は全ての闇を振り払ってみせる。・・・・・・この薙刀で必ず!!)

(どんなことになってもいい・・・・・私は双葉を守るためなら・・・・・・・・私は、私は、どんな存在になってもいい!!)
  
(だから───力を、双葉を、妹を、守る力を私に貸して!〔───────〕!)
 薙刀が理解したように光り輝き、私の意識は夢から現実に帰っていく。





 ガン、と頭を打った音が部屋の中から聞こえる。
 それと同時に悲痛な叫びをあげる少女が居た。

「いっ───た────いっ!・・・・なんで?いきなり?どうして、この私が起きると同時に頭を打たなきゃならないの?」

「だって、二段ベッドの下がお姉ちゃんだもん。しょうがないでしょ?」

 茶色髪の少女の問いかけに応えるように、黒髪の少女がひょっこり顔を出す。

「うぅ〜、そうだけど。・・・・・双葉、朝から手厳しくない?」

「お姉ちゃんが悪いんだよ。・・・・・私が何度揺すっても、起きないんだもん」

「ゴメン!・・・・いい夢見てたから、起きたくなかったんだ」
(本当は、あんまり良くない夢なんだけどな。・・・・・双葉を心配させたくない)

 ふくれっ面の双葉をなだめるように、若菜は手を合わせ苦笑いだった。

「また?・・・・・最近、そればっかりだよ。・・・・どんな夢か教えてくれたら、許してあげる」

「私が王子様で、双葉が悪い魔王に囚われているお姫様。・・・・それから私が双葉を助けに行く。っていう夢を見てるの」

「・・・・・グスッ・・・若葉おね〜ちゃん。・・・・私を助けに来てね。必ず双葉は待ってるからね!」

 ───また、私は双葉を泣かせてしまった。双葉はなんというか泣きやすい。
 しかも、双葉は私に抱きついて泣いている。少し嬉しいのだが、傍から見たらきっと、危ない関係に見えるだろうな。
 こういう時は、決まってあれをやらなきゃ。

「泣かないで双葉。・・・私がきっと助けるから」

「・・・本当に、本当に待ってるよ・・・・・・・・・・・・・・」

 ヨシヨシ、っと若葉は双葉の頭を撫でながら双葉を泣き止ます。

「そういえば、おねえちゃん」

「ん?・・・どうしたの?」

「・・・・学校・・・・遅刻しちゃう」

 既に時計の針は8時30分をさしていた。
 しかし、一向に双葉は若葉に抱きついたまま離そうとしない。

「・・・・・・・・双葉ちゃん、学校に遅刻しちゃうから離してくれない?」

「やだっ!・・・・・・もうちょっとこうしてる」

 若葉は嬉しいような悲しい表情で、双葉の駄々っ子ぶりに振り回されて・・・・遅刻してしまった。
 そして、若葉と双葉がお世話になっている。女子寮の管理人さんに怒られたのは言うまでもない。
 その時にも、双葉は若葉の後ろに隠れて・・・若葉は怒られていた。
(どうして、私が怒られているの・・・・)
 まだ、この時は二人の少女は知ることはないだろう。
 今の、現実がやがて・・・・・幻想の現実になっていき、新しい現実を目にすることを───。

作者のページに戻る