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対峙、そして…

「アセリア……」
呼びかけても、反応はない。
信じたくない。
あのアセリアが、俺の隣で笑って泣いて怒っていたアセリアが俺に剣を向けている。
頭ではこれは夢だと思っても心が否定している。
「アセリ――」
ビュンッ!
呼びかけようとしたが、聞く耳持たず。『永遠』で威嚇してくる。
心が締め付けられるようで悲鳴をあげ続けている。
心なしか『永遠』も曇って悲しんでいるように見えた。
『聖賢』を抜く――
(……だめだっ!)
手が途中で止まった。
ここで剣を抜いてしまったら消すことを意味する、そう思った。
「………」
無表情で剣の軌道が読めない。
勘でよけて、後ろへと下がった。
「…多分、アセリアは操られています。あのスラウクというエターナルに」
そっと時深が耳打ちしてきた。
「な!……でもあの目は正気だ」
「それが能力なのでしょう」
忌々しげに眉をひそめる。
「さすが時深ですわね。そう、それこそがスラウクの能力。解放するには術者である者を倒すか、かけられた者に死を与えるか。まぁ、簡単に言えばどちらかを殺すしかないですね……どうしますか?」
クスクスと笑う。
楽しんでいるのだ。
俺が何を選択するかを。
今の段階はテムオリンにとって、単なる遊びだ。
手が青くなるほど握りしめる。
スラウクを探している間にマナが集まっていき、佳織やアセリアも危なくなる。
第一、どこにいるかも分からないし、目の前の操り人形と化してしまったアセリアが待ってくれるはずもない。
「……倒す」
小さく呟いて、一気に距離を詰めてきた。
展開させたハイロゥは漆黒となっていた。
剣は抜けない。
いや例え、抜ける時間があったとしても抜いてはいけないのだ。
神剣を使うと言うことは、相手の消滅を意味してしまう。
「くっ……マナよ、精霊光となりて…」
「サイレントフィールド」
アセリアから黒い光が出たかと思うと、周囲の空間から音が一切なくなる。
声だけが響く。
剣を下段からすくい上げるようにして振るう。
辛くも避けたが、剣から出たオーラで傷を負う。
「アセリア、目を覚ましてくれっ!」
一度だけ、こんなアセリアを見たことがあった。
ハイペリアに来て俺の力の至らなさのために『存在』に心を奪われ、兵器となってしまった。
呼びかけもむなしく、攻撃の過度は変わらない。
「がっ……!」
鋭い蹴りを腹に喰らって、俺は後ずさることになった。
「悠人さん!」
「お父さんッ!」
時深とユーフィが駆けつけてくるが、叫んで止める。
「二人とも、手出すな!」
「しかし……」
なおも時深が食い下がろうとするがこれだけは譲れない。
「…大丈夫だ。アセリアはこんな事を望んでいない。これは俺たちの問題だから来るな」
それでも、ユーフィはこっちに走ってきた。
「…ごめん、ユーフィ」
『聖賢』と『悠久』が激しく発光するとユーフィの動きが止まった。
「くっ……ぇ……お父さん!」
ユーフィの叫び声を背中に受けて『聖賢』を引き抜く。
「そう、やりなさい。それしかないのですから!」
テムオリンが馬鹿にするように叫ぶ。
俺がアセリアと戦う光景を思い浮かべているのだろう。
『聖賢』の柄を握る。
(……すまん)
『お主の選択だ。我がとやかく言えはしない』
(……ユーフィを止めといてくれ。…俺がどうなっても)
『いいのか?』
(いいわけじゃない。でも、アセリアがいるさ)
『承知した』
やるせない気持ちをくみ取ったのかすんなりと受け入れてくれた。
剣を上に振り上げると、そのまま地面に刺した。
「なっ ……!」
意外な行動にその場にいた全員が驚く。
神剣をその場に残して同じエターナルに向かうのだ。
殺してくれ、と言っているようなもの。
だが――
「何をする気ですか?」
テムオリンが眉をひそめる。
アセリアは戸惑いを見せながらも剣を繰り出してくるが、どれも胴や腕をかすめるくらいで致命傷には程遠い。
アセリアも必死で自分と戦っているんだ。
俺が手伝わなくてどうする!
「……っ!!」
何かを呟いて手を横に振るう。
冷気が足下に集まって、次の瞬間厚い氷に閉ざされた。
足が動かないっ!
真っ直ぐアセリアを見つめるとそんなに動いたわけではないのに肩で大きく息をしていた。
それを見ただけで心が安まり、目を閉じる。
いつだか、『聖賢』にエターナルの強さは神剣の位ではなく、精神―心の思いの強さだと教えられたことがある。
今までも、自分を叱咤することで切り抜けたことがたくさんあった。
人でもエターナルでも変わりはしないのだ。
つまり、気持ち次第では何でもできるのではないのだろうか?
(…俺は… アセリアを助けるんだっ!邪魔するなっ!)
強く、アセリアを助けることだけに意識を集中する。
徐々に氷にひびが入っていく。
そして、氷が砕けて再び歩き出す、アセリアに向かって。
「……ヒ…ッ!」
瞳の揺れが恐怖へと変わった。
剣を振ってくる。
肩を深く切り裂かれて痛みの為にその場で蹲ってしまった。
チャンスとばかりに駆け出してくる。
(…ここまでなのか……)
諦めるわけにはいかない。けど、力が入らないのも事実だ。
アセリアの手に力が入る ――
そこで視界が遮られた。
「ユーフィッ!」
『悠久』を握り締めて俺とアセリアの間に仁王立ちする。
「お母さん、やめてっ!」
「バカッ!」
ユーフィを傷つけないように腕を伸ばして抱える。
アセリアの剣が迫り、
ザシュッ!
妙に軽い音を立てて地面に落ちたのは …腕だった。
マナが急速に抜けていく。
「お父さん……」
腕の中でユーフィが抑揚のない声で呟く。
「大丈夫だ……」
多少ぎこちないながらも笑いかける。
立ち上がると、再びアセリアに向かって歩いた。
今度は何もしてこなかった。
恐怖で縛られているのか固まっている。
マナのせいで力が抜ける。
だが、それを止めることもせず、残った左手で頬に手を伸ばした。
「ッッ!!」
まだ恐怖に縛られている顔をゆっくりと撫でて抱きしめた。
アセリアはこんなことを望んでいない。
助けて、ユート
その言葉が『聖賢』を通じて語りかけてきた。
言葉で解放が無理ならほかの手段でしかできない。これが答えだった。
「…ユ………ト」
小さく、本当に小さく呼んだ。
手を顔に回すと笑いかける。
「よかったな……アセリ…ァ」
そして、地面が目の前に迫った。
(…あれ?……赤い水……俺の血か)
視界の端で金色の霧が見えた。
命の灯火が消えゆく証拠。
(……アセリ……アを助けられ…たから大丈夫…か)
自分は消えても、アセリアを助けることはできた。
胸に突っ掛かっていた事がなくなる。唯一それだけは嬉しかった。
血の海に身体を横たえて悠人は倒れていた。
アセリアの目からは涙が流れていた。
「坊やの負けですか。意外でしたね。私たちをあんなに苦しめた者がまさか、心を操られるようなエターナルにやられるなどと」
指を頬へと指す。
「…まぁ、いいですわ。坊やに止めを刺してあげなさい」
チャキッ!
涙を流しながら剣を振り被り悠人を見据える。
と、不意にその姿が隠れた。
ユーフィと時深である。
悠人を抱き起こして、時深はアセリアへを睨みつける。
「こんなにも……」
周囲のマナが騒ぐ。
まるで、時深の感情に流されて共鳴していた。
「…こんなにも傷ついてまであなたを救おうとした悠人さんが見えないのですか!?」
ピクッ!
微かに身体が揺れた。
「アセリア!必死に戦いなさい。悠人さんといたいのなら、それがあなたの存在理由なら必死に抵抗しなさい!悠人さんの……為にも……」
最後は嗚咽のせいで聞こえなかった。
「お母さん、お父さんを助けてよ。ねぇ、仲良しでしょ?私たち家族だよ」
ユーフィも悠人の前に立って自分よりも大きいアセリアを見上げる。
そうしている間にも悠人からはマナが流れている。
時深が神剣の力を使っているが、抑えるにとどまっていた。
アセリアの目が時深、ユーフィへと向かって ――
「うぁ…ぁ……ユ……ート?…!!い…や、ユート……ユートォォ!」
アセリアの声が聞こえる。
意識としては完全に覚醒してないが、微かにはあった。
「ユート!ユート!
「…アセリアか…」
「うん、うん」
きれいな顔を涙でぐしゃぐしゃにして頷いた。
その目にはさっきまでの兵器としての意識は欠片も感じられない。
無事に抜け出してくれたようだ。
「……よかった…戻ったん……だな…」
「そう、だからユート、死なないで!ユートが死んだら何のために生きればいいの?目的を失うのは怖い!」
……こんなにも思ってくれてたのか
ずっとアセリアの気持ちは知っているつもりだった。
だが長い間共にいても、表面上しか分かっていなかったようだ。
(……そうだ……死ぬわけにはいかない)
気のせいか身体から抜けるマナが薄くなった。
「……大丈…夫だ…少しつかれ…ただけ…眠らせてくれ」
そっと目を閉じた。
不思議と腕の痛みは感じられない。
いや、すでに感覚もなくなっているのか。
足から徐々に無くなっていく感覚。
それが腕・胸といき、とうとう首にまで来たとき死を覚悟する。
アセリアが遠くで何かを叫んでいたが突然静かになった。
『ユウトよ』
『聖賢』の澄んだ声だけが頭に響き渡った。
すでに応える気力はない。
『お主はここで尽き果てるのか?あの娘を捨てて、生きることを放棄するのか』
あの娘というのはアセリアのことだろう。
視界は相変わらず闇だが『聖賢』がいると感じる場所だけ何故か、小さい光が灯っている。
(そんなわけないだろ、俺だって生きたいさ。アセリアのそばにいて見守ってやりたいさ。…でも、動かないんだよ)
情けなかった。
ろくに抵抗もしないで弱音をぶつける自分を悔やむ。
生きたいという意志は誰にも負けないほどある。その意志を力へと変える気力がないのだ。
『…お主は生きる意志があるのか?』
(当然だろ…バカ剣)
バカ剣…この呼び方は懐かしかった。
『ふむ、お主の心は生きておるか。…ならば、我を使ってみせよ』
? どういうことだろうか
『お主の心には生きる意志がある。その力を我に使い、心を我を経て現実へと帰してみせよ』
心……現実?
『お主の心が育っていなければこのままマナの魂となるだろう。お主もあの娘も後悔することになる。さぁ、ユウトよ!』
願い ……望み
ありすぎるほど心の中に詰まっていく。
何もない空間に感覚のない手を伸ばす。
見えないし、感じるはずがない。だが、『聖賢』の放つ光に確かに手は向かう。
光を掴む。すると、世界が白に統一される。そっと立ち上がる。
独りでに『聖賢』が目の前に浮かんだ。溢れるオーラフォトンが白い衝撃波となって俺の周囲を駆けめぐる。
衝撃となって身体に降り注いでくるが、痛みはない。
むしろ、心地よい風と感じる。
(これは……)
身体を見回すと傷が無くなっていた。左腕もちゃんとある。
浮かんでいる『聖賢』の柄を握ると、イメージが流れ込んできた。
(これは……『聖賢』の知識…)
精霊光…『門』…エターナル……永遠神剣……
やがて、ふっと目の前がブラックアウトする。
『求め』を使っていたときはふとしたきっかけで自力で神剣の力を引き出せるようになった。
しかし、『聖賢』を手にしてまた俺はその術を失った。別の永遠神剣を再び手にしてことで感覚が違ったのだ。
そのせいで、また神剣に力に委ねることになってしまった。
今なら……こいつの力を全部使えるかも知れない。
(俺は帰るんだ。アセリアのところへ!)
望みを心の中にくべると共に『聖賢』に力――マナが集まっていく。マナが極限にまでなったとき『聖賢』の姿が変わった。
そして、視界がはけた。
目をうっすらと開ける。涙顔のアセリアとユーフィが目の前にいた。
懸命に俺の名前を呼んで胸にすがりついている。二人の頭をゆっくりと撫でる。
「……無事か?アセリア」
『え?』
アセリアとユーフィは一瞬きょとんとしていた。ユーフィは更に顔をぐしゃぐしゃにして抱きついてきて、アセリアが険しい顔になった。
「それは、私の言葉!どうして?どうして、剣を持たずに来た、ユートが死んでいたかも知れないのに……」
涙が溢れて、最後は言葉にならない。
泣きじゃくって、再びしがみついて泣く。
「あのさ、アセリア」
ピクッと動いたのが分かる。「アセリアは俺に世界のためにがんばってって言うけど、違うんだ。俺はアセリアやユーフィ、いろんな世界の未来を守りたい。でも、目の前で助けられる人がいたら世界よりはそっちを選ぶよ。それが大切な人なら尚更だ」
「ユートォ…………」
また泣いてユーフィと同じように抱きついてきた。
そんな二人に為すがままにされている俺に時深が語りかけてきた。
その目は少し潤んでいる
「良かったです、悠人さん。でも……」
「ん?」
「どうやって生き返ったんですか?確かにあなたの身体はマナに還ろうとしたはずですが……」
「いや、俺もよく覚えていないんだが――」
『目覚めたか、ユウト』
『聖賢』の声が頭に響いた。
腰の鞘に目をやっても剣がない。
すると、俺と時深の間の空間が歪んで一本の見たことのない剣が現れる。
「『聖賢』……なのか?」
雰囲気や声は『聖賢』そのものだが、剣の形が違う。
前のを一回り大きくして刃の根本に黒が入っていた。
『我は知を司りし永遠神剣。契約者の『力』によって自ずと我の力も限定される。ユウトよ、お主が生死の狭間で得た力が我をも覚醒させることになったのだ』
「そうか……」
アセリアを抱えたまますくっと立ち上がる。
「ユート…」
まだ泣いている眼をぬぐって笑いかけた。
「笑顔でいようぜ、俺にそんな顔を見せないでさ」
返事を待たずに歩き出した。
当然と言えば当然なのだがユーフィは俺の肩に乗っている。「…うん!」
笑うと、アセリアは手を取って俺の隣に並んだ。

あとがき
え〜みなさん自分は今、某場所にいるのですが大変です!空飛ぶ乗り物があります!月に行ったとも言っています!これは………………
……カチ
今日は比較的に早く直ったようで良かったと思っています。
アセリアちゃ〜ん♪のっとられちゃった(しくしく
とまぁ。でもちゃんと元に戻ったので良かったですね。
ゲームの設定上、永遠神剣が進化するなんて事はありませんのであしからず。(オリジナル設定です)
次が最後だと思っていますんで4649!(…古い)

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