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失ったモノ



キーッ…バタン
静かに部屋にドアの閉まる音だけが響く。
立っていたのはユーフィであった。
視線だけを動かして、視ると俺は再び床に目をやる。
「お父さん、元気出して。お母さんきっと無事だよ」
お母さんと聞いてピクッと身体が無意識に反応する。
黙っていると、もう一度扉の音がして、今日子と光陰が顔を見せた。
最後尾には、時深がいる。その顔は暗い。
「………」
静寂だけが場を支配する。
それを遮ったのは光陰だった。
「…教えてくれ。あんたらは何者なんだ?どうしてあいつは佳織ちゃんを攫った?」
静かに、それでいて怒りを内に含みながら問う。
ほぅとため息をつく。
「時深、いいか?」
静かに頷く。
ベットに腰掛けた。
その膝にユーフィが乗ってくる。
俺は、頭をなでながら説明する。
「全部話すことはできないが、必要なことだけ。……俺とアセリア、ここにいるユーフィと時深はもう人の寿命の100倍以上を生きている。そして、俺たちはこの世界の人間じゃない。…いや、「人」ですらないんだ」
「人…じゃない?」
「そうです」
後を引き継いで時深が言う。
「私たちはエターナルと呼ばれる存在。佳織ちゃんを攫った者もそうです。ねらいは佳織ちゃんが持っているあのペンダント。本人は悠人さんを引き出すおまけみたいなものです」
「おまけだと……」
言葉に刺を持たせて光陰が俺の胸ぐらを掴んで殴った。
口が切れたらしく、微かに血の味がした。
光陰を睨みつけることもせずに、黙って為すがままにされていた。
俺には、逆らう権利はない。
俺のせいで佳織を連れ去られたのは事実だから。
「お前のせいで佳織ちゃんはあんな目にあったのか!?」
怒りを隠そうともしないで叫ぶ。
「ちょっと、光陰」
今日子が肩を掴んで抑えようとするが、そこは男と女、敵うはずがない。
「お父さんをいじめないで!」
と、いきなり光陰が吹き飛ばされた。
「ユーフィ……」
吹き飛ばしたのはユーフィだった。
『悠久』を持たずに素手でやったのだ。
「お父さんは悪くないよ!悪いのはあの女の子だよ!」
一生懸命に俺をかばうユーフィの姿を見て、光陰も少し血が下がったようだ。
落ち着きを取り戻して、今日子に並んだ。
「すまん……」
俺は首を振って答えた。
「いや、事実だから。それに俺に力があったらあんな事にならなかった……」
「悠人君……」
今日子が口を閉ざすと再び静寂が襲ってきた。
佳織を攫われた苦悩、突拍子もないことを聞かされた驚き。
それぞれ理由は違っても話すことができない。
…………………
「…あのさ、佳織ちゃんを助けに行くんでしょ?」
おずおずと今日子がきりだした。
「ああ、もちろんだ」
俺たちの――エターナル同士の戦いに佳織を巻き込んでしまった。
その償いを受けるためにも。
「俺たちも連れて行ってくれ」
「だめだ」
光陰の提案に間髪入れず、否定した。
これが、どこぞの不良集団やヤクザとの喧嘩なら、二つ返事で連れて行くだろう。
「…なぜ?」
「何も力のない人間はエターナルにとって塵と似たようなものだ……」
以前のマナの薄いこの世界なら、頭を使うことでいくらでもやりようがあるが今では無理だ。
それがよく分かっているから俺も連れて行けない。
だが、今日子は声を大きくして主張した。
「力はないけど、足の速さなら大丈夫だよ。光陰は力だってあるし……」
一緒に助け出したいという気持ちはヒシヒシと伝わってくる。
だが ――
「これでもか?」
口よりも実際に見せた方が早いだろう。エターナルの力を。
窓を開けて、庭に誰もいないことを確認する。
『聖賢』に集中して、周囲のマナに呼びかける。
ドォォッン!
庭に小規模の雷が落ちた。
空には、雲一つない。
「………」
突然の出来事に沈黙する二人に冷たく告げる。
「今のは、一割もない。俺たちはそんな奴らと戦っている。…普通の人じゃ邪魔になるだけだ」
「…それでも……」
なおも今日子は引き下がらない。
そこへ、光陰が口を挟んだ。
「わかった。お前達に任せる」
「光陰!」
光陰をとがめた。
無理もないだろう。
他人に自分の親友を任せると言っているのだから。
「今日子。俺たちはこいつらと会って、まだ二日しかないが、信じられる奴らだって思うぜ。それに悠人は佳織ちゃんと関係があるみたいだからな」
「関係……?」
ふっとこっちを見る。
すべてを説明することは簡単だが、信じてもらえないだろう。
(でも……こいつらなら)
「信じられないなら別にいい。気にしないでくれ……俺と佳織は義兄妹だ」
俺はユーフィを隣に座らせて、部屋のドアへと向かった。
「…少し歩いてくる」
「お父さん、私も……」
ユーフィが声を上げたが、時深が遮る。
「お前はどうする、アセ ……」
見回すが、見慣れた姿がなかった。
そうだ、アセリアは……
ドアを勢いよく閉めて、俺はがむしゃらに走り出した。
どこでもいい、一人になりたかった。
息が切れて足が棒になるほど走ると緑が生い茂る森があった。
どこだ、と問うのもどうでも良かった。
「アセリア……」
アセリアのことを思うと自然と涙がつたってきた。
思えば、泣くなんて何千年ぶりだろうか。
気の遠くなるような時の流れの間、アセリアはずっと俺の隣にいた。
それが、俺から孤独と共に涙も奪った。
たった一人でファンタズマゴリアを守るつもりだった。
その先にある、永劫の孤独を覚悟して。
寂しいとは思わなかった。
佳織やもう一つの故郷を守るためだったから。
すべてに別れを告げて、出ようとしたときそこにいたのはアセリア。
どうして置いていく?ユートにとって私は邪魔?
約束したはず。私はずっと一緒にいるって。
私はユートと一緒にいたい、ユートのために剣を振るう。
ユートといることが私の生きる意味なんだ。
孤独を決めた馬鹿な俺と一緒にいると言ってくれた。
それが自分の生きる意味だと言ってくれた。
聞いたとき、俺は泣き崩れた。
ずっと孤独でいるはずだった。馬鹿で何も取り柄がない俺の隣笑ってくれた。
かけがえのない大切な人。
隣にいて当たり前。
それが目の前で連れ去られた。
何もできなかった。
怖くて動けなかった訳じゃない、足がすくんだ訳じゃない。
自分の力の至らなさのせい。
「……また、何もできなかった……」
いつもこうだ。
自分の身近な人を危険にさらす。
その中で、自分だけはノウノウ平気でいた。
樹を殴りつける。 
激音と共に拳から血が流れる。
だが、痛みは感じない。
それ以上の痛みが心を満たし、支配していた。
「まだ俺は……何もできない…不幸の疫病神かよ……」
隣を見るが何もない。
ただ無明の闇が広がってるだけ。
輪をかけて痛みが襲ってくる。
「なぁ……『聖賢』」
『………』
「あれを……あの力を貸してくれ、瞬を倒したときの力を」
あの力があれば、テムオリンを倒せるだろう。
この世から永遠に、そうすれば……
『愚か者!』
「―!!」
静かでそれでいて迫力のある声に驚く。
『お主は欲しているのは、滅ぼすだけの力だ。それですべてを救えると思っているのか、力が強さだと思っているのか!』
「………」
『今のお主は瞬と変わらない。ただ、力のみを追求して破壊を望んでいる』
更に『聖賢』は言葉を続けた。
『強さは力だけではない。時に己の弱さ、未熟さを認めるのも必要なことだ。…あの娘を助けに行くのであろう?』
すでに答えの知っている疑問をぶつけてきた。
「…当然だ」
『ならば、それこそシュンを倒した時の事を思い出すのだ。お主は守る気持ちの強さを知っているはずだ』
守る強さ……
ファンタズマゴリアを…… 佳織のいる世界を……アセリアを守ろうと思った。
俺はその場でしばらく黙っていた。
そして、立ち上がる。
決意を新たにして。
「行こうぜ、『聖賢』。俺の…いや、俺たちのパートナーを助けに!」
『承知した』
森を抜けると、どこぞの神社だった。
境内にはいると、時深とユーフィが立っていた。
笑いかけると、時深も笑いユーフィは抱きついてくる。
「覚悟を決めたようですね」
「お父さん、行こう!」
二人とも待っていたのだろう。
俺が自ら進んでアセリアを助けに行くことを。
俺はユーフィを掴むと担ぎ上げた。
ユーフィははしゃいでいる。
「時深。場所は分かるか?」
「私よりもあなたが分かるでしょ?ここら辺で一番見渡せる場所」
「ここは何?」
赤く高い塔。
ここ日本で一番高いといっても過言ではないだろう。
見えない天辺を首を懸命に伸ばして、ユーフィが問う。
「この国で一番高い建物さ」
「へぇ〜」
すべてを見下ろせるような塔。
人類を見下しているテムオリンにはらしい場所だ。
扉は閉まっていたが、そこはエターナルの超常的な力で入り込む。
階段を上って幾らか広い場所に出ると …
「やっと来ましたの。待ちくたびれましたわ」
あくびをしながら暗闇の淵からテムオリンの姿が浮かび上がる。
「パーティーに遅刻はいけませんわよ」
「…客が来たんだ。ゲストを返せ」怒りをぶつけたい。
だが、ここで見境を失くしてしまうと二人が小鳥の二の舞になってしまう。
腹の内に怒りを抑えて静かに言い放った。
「別に構いませんわ」
パチンと指を鳴らすと俺たちの上にアセリアが現れて、落ちてきた。
アセリアの身体を両腕で受け止める。
(…怪我はないな)
汚れもないようで、何もされなかったことに安堵の息をつく。
そっと優しく地面に横たわせる。
「佳織はどうした?」
「あの娘はこのゲームの要。おいそれと返せる訳ないでしょう?それにこれから退出していただく者には意味がないでしょう」
「なにっ!」
一体どういう…
グイッ
答える間もなく俺の身体は後ろに下がった。
ビュンッ!
白い一閃が先程までいた場所に奔った。
そこにいたら、間違いなくマナの霧となっていた。
「すまない!時深」
時深に礼を言い、テムオリンを見やる。
『秩序』での攻撃かと思ったが、出現していない。
(ってことは誰の……)
『ユウトよ!離れろ、その娘……』
『聖賢』が言い終わるより早くもう一閃奔る。
反射で剣を横に立てて、防ぐ。
カキンと金属音がして、相手の武器が止まった。
青い白の淵の長剣。
(『永遠』!まさか……)
床に寝ていた人物がいなくなっていた。
その人物は今、俺に剣を向けているのだから。
「アセリア……」

あとがき
皆さん、今どこにおりますでしょうか?パソコンの前?携帯の前?それとも…………
…………………………………………カチカチカチ
……今日は一段と回路の接続が狂っていたようですいません。
なんか、いつにもましてシリアスになっているような気がしますが
ていうか、戦闘が少ないですよねぇ〜
え〜、次回からは戦闘がメインになりますので次回こそは、防弾チョッキにヘルメット、キンチョー○を用意しておまちください。
ではっ!

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