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日常から現実へ




一日の授業が終わり、今日子達に誘われて『いい場所』へ連れてこられた。
「ここは…神社か」
赤い鳥居に段数の少ない階段。
今日子達が行っていた場所とは、見慣れた神社のことだった。
「なんか落ち着くんだよな。ここ」
光陰がしみじみ頷く。
「…そうだな」
うなずき返して俺も境内を見る。
何故かこの神社は人の往来が少ない割に落ち着く雰囲気を持っている。俺は昔から何か事があったとき、よくここに来ていた。そんなときの寂しさや悔しさ、怒りはこの場所にいると薄れていくような気がした。ここは、刺々しさとは無縁のなんて言うか別の雰囲気があると感じた。
「ねぇ、今日ちゃーん、こっちこっち」
階段の手前にいる佳織が片手を挙げる。
今日子がそっちに走ると、佳織も急いで階段を上るが…
「きゃっ!」
「佳織ちゃん!」
「佳織!」
階段から足を踏み外して落ちようとしていた。
今日子も走るがどう見ても間に合わない。
(くっ、『聖賢』!)
神剣の力を人前で見せてはいけないが、そんなことはどうでも良かった。
驚異的なスピードをだして、駆け寄る。
「…よっと」
両腕でキャッチして地面におろす。
目を丸くして驚いていたが、
「あ、ありがとうございます」
ペコリとお辞儀をする。
その拍子に胸元からペンダントがこぼれ落ちる。
「なっ……!」
淡く青に光っている!?
キーン!
『聖賢』が最大音量で警告をならす。
『ユウトよ気を付けろ。奴だ』
「奴?誰のことだ!?」
「え?」
いきなり叫んだ俺に佳織達が驚いているが、構っていられない。
それよりも更に危険な事態が迫っているのだ。
『テムオリン。『秩序』を持つ者だ』
「くっ!」
布から剣を取り出し、鞘を腰に差して剣を構える。
「佳織、アセリアのところへ行け!」
「えっ、で、でも……」
「早くっ!」
叫んでアセリアのところへ促す。
俺の口調からただごとではないと思ったのか、こちらを向きながらも走っていった。
「アセリア、三人を頼む!」
「わかった」
アセリアはすでに『永遠』を構えていた。
三人は黙って俺たちを凝視していた。
自分たちと変わらない人が真剣を持っている。
しかも得たいの知れない力を肌で感じているのだ。
まともに動ける方がすごい。
剣で他の神剣の気配を探っていると、目の前の空間が歪んでいく。
ザワ―――
嫌な予感が背中を走り、急いで抵抗のオーラを張り巡らせた。
ドゴオォォッ!
歪みから放たれた閃光が、抵抗のオーラに阻まれシールドに当たって弾ける。
と、同時に後ろへ一歩飛びのく。
「やはり来ましたね。…全く飽きないですわね。私に刃向かおうなどと」
ギリと、奥歯をかみしめる。
「何をしに来たテムオリン!」
「何を?……決まってるじゃありませんか。こんなに早くゲームを終わらせてはつまりませんので延長の申請ですわ」
スッと『秩序』の先端を佳織へと向ける。
「その小娘―佳織と言いましたか?あなたを倒すために使うのも良いですわね。なんせその小娘はあなたの――」
「やめろっ!」
この世を否定するような音量の声を上げる。
「あなたの義妹なのですから」
ドクンッ!
時が一瞬止まったような気がした。
「……私が悠人さんの…妹?」
「貴様ーっ!」
テムオリンに『聖賢』を振るうが、オーラフォトンのシールドに阻まれる。
だが――
今の俺を甘く見ている。
「こんなものっ!」
斬りつけるのではなく無理矢理、剣をたたきつける。
パキンッ!
シールドを破ってテムオリンに剣が届くと思った瞬間、身をひねりかわされた。
「ふふふ、腕を上げましたわね。ですが、本来の私にはほど遠いですわ」
俺の攻撃を『秩序』でさばきながら、テムオリンが笑う。
それがやけに勘に触った。
「黙れッ!…マナよ、彼の者に究極の破壊を与えよ……」
剣で斬りつけながら呼びかける。
「オ−ラフォトンノヴァッ!」
神剣魔法を解き放った。
「一緒に喰らうつもりですの!」
「そんなわけないだろ!」
言いながらも、まだテムオリンに斬りつけていた。そこへ――
「ポゼッション!」
アセリアの声が聞こえて全身に力が漲る。
一時的にアセリアの能力を他の者へ分け与えるのだ。
その力を使って後ろへと急いで下がる。
瞬間、天から光が襲ってくる。
だが、テムオリンは慌てず杖を構えて頭上で薙ぎ払った。
空間が割れて、多次元空間が拡がる。
「来なさい…『幻想』のスラウク」
テムオリンが告げると空間からゲル状のモノが出てくる。
「…悠人さん気を付けてください。それもエターナルの一人です!」
いつの間にか来ていた時深が叫びながら、隣に並んだ。
ゲル状のそれはテムオリンを囲むようにドーム型になった。
俺の放った魔法がそれにあたり、
あっさりと消えてしまった。
魔法が消滅したことを確認すると人の形を取り、並ぶ。
「これで、2対3ですわね」
「いや、…2対4だ」
ユーフィが小さな体で『悠久』を握りしめて立っていた。
どうやら、やる気のようである。
「さぁ、決着つけようか」
『聖賢』に力を高める。
「…ここでそんな気分になれませんわ。そういうことで、坊やと時深さんにはご招待にあずかってもらいましょう」
「俺と時深には…だと?」
こいつ、アセリアとユーフィが目に入っていないのか?
(…いや、そんなはずはない)
「ええ、招待にはゲストが必要でしょう。ですから……スラウクおやりなさい」
「キシェッ!」
人には発音できない声を発して、スラウクとか言うエターナルは地面に溶けた。
「どこに来る?」
オーラフォトンを展開して待ち構える。
時深は「時見の目」を使って探している。
すると、突然後ろを振り向く。
まさか――!
「佳織!」
「いやああぁっ!」
佳織の足下に出現したゲルが佳織を包んでいた。
頭に一気に血が上り、怒りが心を支配していく。
そこへ――
「ユートッ!」
「どうした、アセリ――!!」
迂闊だった。
俺たちが佳織に気をとられていた隙にテムオリンが仕掛けたらしく、アセリアの身体が光に消えていってた。
「では、ゲストはもらっていきますわ。場所は……そうですわね。このあたりでの最上階で待っていますわ。来なければどうなるかは…ふふふ、あなたがわかっているでしょう」
「!!」
あいつら…
小鳥のことを思い出して、怒りがまた浮かび上がる。
「さようなら」
「待てッ!!」
アセリアの姿が徐々に薄らいでいく。
逃がすまいと必死に手を伸ばすが、
「ユートッ!」
「アセリアッ!」
ヒュンッ!
一瞬で消えてしまった。

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