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再び故郷へ




「なんだこれは…」
それが自分の世界を見た最初の感想だった。
前よりは、発展しているのだろう。
家も外装も見たことのないモノだった。
問題はそこではなく――
(どうしてこんなにマナがあるんだ)
アセリアも異常に気づいているらしく戸惑っていた。
以前―まだエトランジェだった頃、ここに来たとき『求め』は確かにここのマナは希薄だと言っていた。
それが今は、ファンタズマゴリア以上にマナが満ちているのだ。
「『聖賢』この異常わかるか?」
『いや、我もこんな事態は初めてだ。それに…』
「それに?」
『我の認識ではこの世界にエターナルの意識はあるのだが空間が違っている』
空間が違う?
「この世界ではないってことか?」
『まだ分からぬ。ユウトよ、気をつけて事へあたれ』
いって、静かになった。
「! ユート、ユーフィがいない!」
なんだって!
「くそっ、またか」
『聖賢』に集中して『悠久』の意識を探す。
(………いたっ!)
ここからかなり離れて移動していた。
「アセリア行くぞっ!」
「うん!」

「確かここら辺だよね、ゆーくん?」
『そうなんだけど………消えたようだね』
「なーんだ」
お父さんとお母さんが話している間に他の神剣の気配がして来たみたけど消えてしまった。
ここで待っていればきっと来るだろう。
「こんにちは」
後ろから女の人の声がした。
振り向くと女の人ではなく、女の子だった。
白をメインとした服に銀髪。
(この世界の子かな?)
『たぶんね』
挨拶を返そうとしたが、その前に相手が言葉を続ける。
「……この気配、あなたもエターナルですか。でも見たことないですわね……あなた、名前は?」
「私?私はユーフォリア」
「ユーフォリア……聞いたことないですね。それにその髪の色どこかで……」
(? 何か言ってるけど寂しいのかな?)
「……! そう、そういうことですか…」
「ねぇ、お父さん達が来るまで遊ぼうよ」
声をかけると女の子はなにやら考えていたが、やがて――
「いいですわよ。鬼ごっこにしましょう。一撃で終わる……」
そう言うと突然宙に杖が現れた。
その杖にゆーくんが震えた。
『ユーフォリア、逃げるんだ。そいつは…』
「うるさいですよ」
杖の先端で地面を叩く。
私は大きくはじき飛ばされ、大木の幹に背中からぶつかった。
「……きゃ…っ……」
『ユーフォリア!』
ゆーくんの声が聞こえるが答えられなかった。
「あの坊やの子供なら惜しい気もしますが、我が陣営にとっては邪魔でしょうから……その剣の力『秩序』の力とさせて頂きましょう」
『ユーフォリア、立て!』
ゆーくんが叫ぶが私は立てなかった。
痛みのせいではない。目の前の女の子と神剣から発せられる力が凄まじかった。
「…消えなさい」
杖の先に光―いや、マナの集中体が灯り、私に向けられた。
(お父さんッ、お母さんッ!)

「ユート、あそこッ!」
「くっ、やばい!」
アセリアの指す方向にユーフィがいた。
それと悪い意味で見慣れた一人の姿もいるが考えてる場合じゃない。
(『聖賢』頼むッ!)
答えを待たずに剣を一直線に放り投げた。
ユーフィと向けられている杖―『秩序』の間に向かって。
だが、杖からマナの塊が打ち出される方がわずかにはやい。
間に合わないッ!
「…やらせない!アイスバニッシャー!」
アセリアがバニッシュ魔法を解き放った。
エターナルの神剣魔法をかき消すことはできないが、その冷気によって動きを少しだが鈍らせるくらいはできる。
今はその少しで足りた。
ユーフィに光球が届く前に剣が地面に突き刺さり、オーラフォトンが立ち昇って光球とぶつかる。
『聖賢』が攻撃を防いでいる間にアセリアはユーフィのところへ、俺は剣のところへそれぞれ向かった。
(サンキュッ!『聖賢』)
『我をこのように使うなどと……』
軽口を聞きながら柄を握る。
「うおおおおぉぉぉっっっ!!」
剣から力を引き出して光球うを叩っ斬る。
刹那、爆発して空気を震わせた。
「お母さん……お母さーん!」
ユーフィは怖かったのだろう。泣いてアセリアの胸に顔を埋めた。
爆発の勢いを利用してそのままテムオリンに斬りつける。
やったか!?
(今回はあなた方ですか。…楽しいゲームになりそうですね…)
そう言い残して、テムオリンは気配もろとも消えた。
剣をおさめ、ユーフィの元にしゃがんで、頭をなでた。
自分の配慮の無さや余裕を持っていたことを後悔する。
ここは敵地なんだから甘く見ていてはならないと改めて自分に言い聞かせる。
(…怖かったろうに……)
今まで端から俺たちの戦いを見ることはあっても参加することはなかった。
いや、やらせなかったのだ。ユーフィもエターナルというのは嫌という程よくわかっている。
しかし、その戦いに巻き込むにはあまりにも幼すぎて可哀想だと思ったから。
だが、こうなってしまった以上伝えなくてはならない。
エターナルとしての剣の運命を。
俺は奥歯をかみしめる。
「…ユーフィ、よく聞いてくれ」
ユーフィは顔だけ回して俺を見つめる。
「いつかユーフィにもこの戦いに…永遠神剣の戦いにでなくちゃいけない。…………ごめん」
眼の奥が熱い。
それをぐっとこらえて正面から見る。
「ユーフィ」
頭をなでていたアセリアが体を離して向かい合う。
「あなたもいつか私たちのように剣の運命に流される。だから……うん。その時のためにも今から自分が何のために生きているのか…その答えを探して。そうすればたとえ終わりのない戦いでも目的を持つことができるから」
そっと言い聞かすように話す。
いつか俺がアセリアに言った言葉だな。
その時はまだ俺は自分の答えを見つけてはいなかった。
佳織を幸せにすることが自分の義務だと思っていた。
だが、ファンタズマゴリアにエトランジェとして召喚されたことで見えなかったことが見えた。
そして、シュンを止めようと思ったときに自分の意味を俺は見つけた。
アセリアも俺と一緒にいることこそが自分の使命だと言ってくれた。
(…ユーフィはどうなんだろうな)
考えるがわかるはずもないか。
答えは本人にしかないんだからな。
「…生きる意味?」
「そう、自分は何のために生きているのか」
「お母さんはあるの?」
「私はユートと一緒にいること」
「私も?」
アセリアは首を横に振る。
「ユーフィにはユーフィの意味がある。今はわからなくてもいいから、いつも心の角ででもいい。考えて」
ユーフィはぐずる鼻を押さえて、うなずくと俺の肩に乗ってきた。
「悠人さん、大丈夫ですか!?」
突然目の前の空間が割れて時深が現れた。
「ああ、……とりあえずはな。どこにいってたんだ?」
「……こちらへ来てください」
時深は答えずに神社の社へと招いた。
輪を作るようにして自由に座る。
「それでどうだった。どうしてこの世界のマナがこんなにあるんだ?」
「………」
時深は口を開かずに床を見つている。
「時深!」
「……原因は『求め』のペンダントです」
「な……!」
「求め……カオリのペンダント……」
確かに佳織は『求め』のペンダントを持っているが……
「どうして!?」
「テムオリンは佳織ちゃんのペンダントを媒介にして、この世界にマナを送り込んでいるのです。薄い世界では本来の力が出ないばかりか、逆に弱体化してしまいます。なら、濃くすれば簡単に消すことができますから……」
「…解決策は…?」
わかってはいる。
しかし、聞かずにはいられない。
自分の口から言うにはあまりにも重すぎる。
「『求め』のペンダントを砕くしかありません」
…それしか…ないのか……
時深の真っ直ぐな言葉が刃のように突き刺さる。
俺と佳織をつなぐ唯一の存在それが、『求め』の欠片。
そして、それはアセリアとの繋がりでもある。
つっくたのはアセリアなのだから。
「ユートやろう?」
「…アセリア…」
「…私は…約束したから、ユートを見守るって…ここで立ち止まるわけにはいかない…」
「………」
「ユートがやらないなら私がやる」
瞳に強い意志を宿らせてアセリアは立ち上がった。
(…強いな、アセリアは)
アセリアにとっても大切な物のはずだ。
なのに繋がりよりも、世界を選んだ。
それに比べて俺は……
……………………
俺は顔を引き締めると立ち上がった。
「過去に行こう」
「……いいんですか?」
確認するように時深が訊いてくる。
「俺は自分の幸せよりは他人のことを思いやるさ。それに……どうせあいつらも時を越えるだろうしな、ちょうどいいさ」
肩をすくめる。
そうさ、繋がりは物にあるんじゃないんだ。
心さえ覚えていれば、何にも負けない。
ぐっと拳を握る。
そこへ、手が三つ重ねられた。
「行こう、お父さん」
「佳織のために…ね、ユート?」
「がんばりましょう」
「みんな……。ああ、行こうぜ!」
時深が『時詠』を構えた。
「我が神剣『時詠』よ、我ら四人を遙か過去へと誘いたまえ」

「二人とも、自己紹介をしてくれ」
若い男が俺たちを促す。
「え〜と、高嶺悠人です。よろしくお願いします」
「…ん、アセリアだ。アセリア・ブルースピリット」
ウオオオオオオオォォォーッ!
パチパチパチパチパチ!
アセリアが挨拶した途端、クラス中の奴ら(男子限定)が口笛を吹いたり、踊ったり、鼻息を荒くさせている奴の歓声がわき上がる。
最後に泣き声が聞こえたのは気のせいだろう…多分。
「え〜、高嶺は外国のほうで関係上いろいろあり、アセリアと共に来ることになった。仲良くしてやってくれ」
『はい!』とクラス中の奴(男子限定)がそろって答えた。
アセリアはきょろきょろとクラスを見回している。
目があった男子が手を振る。
まぁ、がんばれよアセリア。
先のことを考えながら俺は静かにエールを送った。
「高嶺の席はそこ、アセリアはその隣だ。……ホームルームを始めるぞ!」
俺たちが席に着くと早速ホームルームが始まった。
「…ユート、あれは何?」
学校のこと(というか、学校生活)が全くわからないアセリアはこそっと訊いてくる。
これは訊くほどのもんでもないと思うけど……
「生徒への連絡だから聞き流してもいいよ」
「…ん。わかった……」
少し不思議そうに頷いて前を向いた。
何故、俺たちが学校に通っているのか。
かなり複雑……ではないがそれなりの理由があるのだ。
最初は佳織を見つけて即、ペンダントを破壊というのだったが、、肌身離さず身に着けているため外すのは眠るとき以外にないのだ。無理にやると、テムオリン達に察知されて佳織に身の危険が及ぶので護衛の意味も含めてこうしているわけだ。本来、学校に来るのは俺だけだったのだが、アセリアが通ってみたいと強情にでたため一緒に来ている。
ホームルームが終わり、担任が教室を出て行くと一斉に男子の視線がアセリアに注がれる。
……ほら、やっぱりきた。
俺が言うのも何だが、アセリアはかなり美人だ。もちろん、本人に自覚はない。
端正な顔に加えて、髪の色がそれを一層引き上げている。そんな女子を真冬の男子達が放っておく訳がない。
人混みの間から質問攻めされている困ったアセリアの顔が見えた。
かなり困っているな〜。
視線をちょこちょこ、こっちに送っているが、見る度にほかの男子に質問されているので俺を確かめられないだろう。
手で覆い隠して大あくびをしていると、前の女子がこっちを向いた。
「あなたの隣の人も大変ねぇ〜」
「まあな」
苦笑しながら話のリズムに合わせる。
といっても勝手に口が動いているような感じに近かった。
なにせ、10年近くも付き合っていたのだがら。
「あっ、あたしは岬今日子、よろしくね」
「ああ、よろしく」
握手をして、軽く話をした。
その間にも続々と教室に男子が集まってくる。
このクラスだけでなくほかのクラスからも集まっているらしい。
別にいいのだが、なんか腹が立ってくる。
注意しようと席を立って――
キーンコーンカーンコーン…
始業のチャイムが鳴って集まったときと同じように男子が散らばっていく。
男子の輪から解放されたアセリアはこっちに視線を向けた。
(うっ………)
思わず身を引いてしまった。
冷たい。
冷蔵庫で冷やしたドライアイスより、北極に素のままで置かれているアイスより、50過ぎで頭がカッパはげのサラリーマンが町中を歩く見知らぬ20の女性に何もかも一瞬で凍り付きそうな親父ギャグを言って見られる目よりも冷たかった。
「ど、どうした?」
無駄だと知りつつも訊いてみると
「……別に」
顔を背けて目を合わそうとしなかった。
やっぱり、怒ってるんだろうなぁ。
さっきの質問攻めを知りながら何で助けてくれないのかといったところだろう。
アセリアの心境は。
『ユウトよ』
机の脇に置いてある『聖賢』が語りかけてくる。
すでに、一時限目の授業は始まっていた。
(何だ?)
『永遠からの伝言なのだが……聞くか?』
(『永遠』の?)
『というか、その娘からのだな』
アセリアの?嫌な予感…
神剣同士だとそんなこともできるのか……
(どんなことだ?)
『そのまま伝えるぞ………「ユートの大馬鹿…」だそうだ』
俺に伝えると『聖賢』は失笑を漏らす。反対に俺の心は焦り、身体は冷や汗を掻いていった。
(……やばいな)
普段、他人を罵らないアセリアがこれ程の言葉を言うことは、かなりの危険信号だ。
ほとんど覚えていないが実際、3周期くらい前に一回だけ、状況は違うが同じことがあった。機嫌が直るまでアセリアが料理を作って俺の味見…もとい、毒味をさせて苦しめた。
3回くらい天国と地獄を行き来して、俺は素直に謝ることでその場は機嫌を直してくれたのだった。
今の機嫌の度合いからしてこのまま、このアセリアを連れ帰ると俺だけでなくユーフィにまで被害がいきそうだ。
時深にはちょうどいいかもしれないが、ユーフィにあの精神攻撃はかなり効くだろう。(事実、食べさせられたときは『悠久』も焦ったようだ)とりあえず矛先が俺に向けられるのは間違いない。
先生の話を聞きながらノートの端をちょっと切り取り、ペンで書くと紙を丸めて隣の席に放り投げた。
ジャストミートで机の上に着地する。
アセリアはそれを見るとまた授業へと戻っていった。
大丈夫かな……?
アセリアがちゃんと読んでくれることを祈りつつ俺も授業に耳を向けるのだった。


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