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悠久の絆



「お父さ〜ん、はやくしないと遅れちゃうよ〜!」
「わかったから急ぐな。転ぶぞ!」
今にも駆け出しそうな女の子―ユーフォリアをなだめる。
「ユーフィ、急いでも『門』が開く時間は決まってる」
アセリアも穏やかな口調でなだめる。
「ぷー、いいもん。ユーフィ、ゆーくんと先に行ってるからね!」
叫ぶなり、ユーフィは風のように森へと走っていった。
俺とアセリアは苦笑して、
「全く鉄砲玉だなユーフィは。…昔のアセリアだな」
「そんなことはない」
少しふくれてアセリアがむくれた。
「外見は私だけど、中身はユートにそっくり」
「…ボーとしてるところや後先考えないで走るところ」
腕を組んでアセリアは楽しそうにしゃべる。
「後先考えないのはアセリアだって同じだろ?」
俺は少し意地悪く言ってみた。
アセリアは言い返せなくなり、変わりに腕を強く握ってそっぽを向く。
「じゃ、行こうぜ。遅れると時深おばさんに怒られるからな」
「…ん、ユート本当に知らないからな」

お父さんやお母さんと離れるのは寂しいが、早く森の中を見てみたかったからだ。
「あ〜、ゆーくんこの花知ってる?」
私の永遠神剣『悠久』に話しかける。
『たしかサバジの花だね。この大きさからすると10年は咲いてるかな』
「へぇ〜」
ゆーくんは私よりも詳しいことが多い。
お父さんやお母さんの剣、『聖賢』や『永遠』にはかなわないけど、私よりも頭がいいらしい。
(いつか、ゆーくんよりも良くなるんだから)
いろんな花や動物を見つけてはゆーくんに聞いていくと少し開いた場所に出た。
「あれ?」
女の人がそこにいたのだ。
白い上着に赤いスカートに似てるが何か違うものだ。
(きれいだなぁ)
お母さんと同じくらいの年(外見上)かな?
知らない人には注意しろとお父さんに言われていたので木の幹に隠れようとしたけど、足下にあった枝を踏んで音が響いた。
女の人がこっちに気づいて振り返る。
「……あれ、子供?」
首を傾げてこっちに来た。
不思議と怖さはなかった。
逆に親近感みたいな感じがする。
女の人はしゃがんで私と同じ目の高さにするとゆっくり話しかけてきた。
「こんにちは、こんな所でどうしたの?」
優しい声で聞いてくる。
「お父さんとお母さんをここで待ってるの!」
言われたことを忘れているわけじゃないけど、正直に話す。
すると、女の人は表情を曇らせて、
「…もう少しで、ここは危なくなるから家に帰りましょう。ね?」
わたしに言い聞かすように話す。
「だめなのっ!お父さんとお母さん、もう少しでここに来るんだから!」
突然叫んだ私にビックリしたようだった。
「でも……」
「お〜い、ユーフィどこだー!」
「あっ、お父さん!」
お父さんの声が私の後ろから聞こえた。
振り向くとお父さんがいて、私は飛びついた。
「おっとっと…」
「お父さん遅いっ!」
ゆーくんでぽかぽかと叩く。
「いてっ、ごめんユーフィ」
ユーフィのお仕置きを受けながら前を見ると、時深がいた。
当然だけど変わっていない。年齢だけは!
(まぁ、こいつが変わっても髪型がいいところだろうな)
「よっ、時深久しぶ…り……?」
言葉の最後で疑問になってしまった。
時深が口をポカンと開けたまま固まっていたからだ。
「トキミ… …どうした?」
アセリアも不審に思って声をかけるが反応はない。
いや、わずかだが何か言っていた。
「・・・・悠人さん・・・その子は・・・・?」
耳を澄ませて単語をかろうじて聴き取ると、後ろ頭を掻いて、
「いや、話せば長く……はならないが、ストレートに言うとユーフィは……俺とアセリアの子供だ」
うっ、自分で言っておいてなんだがすごく恥ずかしいぞ、これ!
心なしか顔が赤いような気がする。
アセリアを見てみると、アセリアも顔を赤くしていた。
「えっ…ぇ・…ええええええええええええええぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!!!」
時深の大絶叫が木霊した。
み、耳が……。
これ程の叫び声、戦闘でもなかなかださないぞ。
ユーフィもビックリしたらしくアセリアの背に隠れてしまう。
「こ……子供って悠人さんとアセリアの?」
「そう」
「ということは、その子もエターナル?」
「みたいだなぁ」
「………」
いきなり黙ってしまった。
どうやら驚きを通り越したらしい。
ふと、ある疑問が浮かんできた。
(なぁ聖賢、もしかして今までのエターナルの中に俺とアセリアみたいな関係の奴はいなかったのか?)
他のエターナルといっても時深やアセリア以外に面識はないのでどれくらいいるのかはわからない。
『我が知る範囲ではお主達のような関係の者はいない』
(そうか・・・)
『もっともパートナーという関係はいるがな』
パートナーか、時深にもいるのかな?
そこまで考えていると時深が口を開いた。
「・・あ、えっと・・・とりあえず自己紹介しておきましょうか」
俺はうなずいて、アセリアの背中からユーフィを引っ張り出した。
「ユーフィちゃん?私は時深『時詠のトキミ』よ、あなたのお父さんとお母さんの友達ってところかな」
「さっ、ユーフィも挨拶」
アセリアが背中をぽんと押す。
「うん!」
ユーフィは元気よく頷いて、
「私はユーフォリアだよ。『悠久のユーフォリア』!初めましてトキミおばさん」
ビキッ!!
なにかにひびが入ったような音が聞こえた気がする。
同時に、辺りの空気が一気に下がる。
出現元は額に青スジをたてている時深おばさん!
あぁ、怒ってるなぁ。
「…ユーフィちゃん、誰に教えて…もら…った?」
顔が引きつっている。無理に笑顔を作っているようだ。
「トキミおばさんにあったらそう言えってお父さんが・・・」
うっ、まずい!
トキミの視線がこちらへと向けられる。
その目には怒りの炎。
ものすごく嫌な予感がして急いでオーラフォトンを展開させる。
マナが時深の手に集まってきた。
「ユートおおおぉぉっお!!」
剣を持たずに向かってきた。
オーラフォトンで弾かれると思って、ガードはしなかったが――
ドゴッ!
「ふぐぁっ!」
時深の平手打ちがオーラフォトンをも砕いて俺の顔にクリーンヒットした。
(どうしてオーラフォトンが……)
まだまだ知らない永遠神剣ということか…。
時深は俺にもう一撃いれて、ダウンの確認をするとユーフィへと歩いていき、
「ユーフィちゃん、これから私のことは時深お姉ちゃんって呼んでね」
ユーフィは眼をぱちぱちさせていたが、
「うん!わかった」
と頷いた。
俺が体を起こしかけたところでアセリアが駆け寄ってきた。
「だから言ったのに…ユートが悪い」
…まぁ、そうなんだけど
「って時深『門』は?」
時深は、はっとして意識を『時詠』へと向ける。
「… そろそろですね。いきますよ悠人さん、アセリア、ユーフォリア」
そう言って、『時詠』を真横に振るう。
すると空間に裂け目ができた。時の迷宮が見える。
俺達はそこに飛び込んだ。

「…はぁ…」
幾度目かわからなくなったため息。
「ユート、さっきからどうした?ため息ばかりついて」
「…ん、ちょっとな…」
言葉を濁すとアセリアは顔をプイとそむけた。
怒ったときにやる仕草だ。
ふぅ、と違う意味のため息をつく。
「…こう時間の感覚がない場所にいると色々考えてしまうんだ。いつになったら終わるとか、俺は強くなったのかなとか………考えたくないんだけどな」
「ユート……」
アセリアが声をかけようとしたとき――
ユーフィが俺の背中に飛びついてきた。
「お父さん寂しいの?大丈夫?」
ゆっさゆっさと肩に掴まって左右に揺れる。
俺は薄く笑ってユーフィを肩(ユーフィの特等席)に乗せた。
「ユーフィやアセリアがいるから大丈夫だよ」
「キャハハッ!」
ユーフィとはしゃいでいるうちにさっきの不安がいつの間にか消えていた。
ふとアセリアに目をやると俯いて何かを考えているようだった。
「どうした、アセリア?」
声をかけると、はっと顔を上げて首を横に振った。
「なんでもない」
「? そうか…」
悠人とユーフィは気づかなかった。アセリアの呟いたことに…
「ユート…カオリのことが気になるのか…」
時の迷宮をしばらく歩くと一つの『門』の前に時深の姿があった。
しばらくといっても風景に変わりはなく感覚だけだが。
「次の仕事の『門』か?」
時深が振り向く。
「ええ、ですが……」
「? どうしたんだ?」
時深がうろたえるのは珍しい。
いつもは傍若無人ぶりの態度なのに……
「! ユート、この『門』…」
アセリアは驚いて俺の手を強く握る。
何を驚いているんだ?
肩に乗っているユーフィも首を傾げて『門』を見ている。
俺は『門』に目を移し――
「!!」
この「門」は――
忘れるわけがなかった。
俺はこの「門」の中で「人」としての16年を生きたのだから。
かけがえのないモノがあった場所。
俺の人としての、エターナルとしての始まりの場所――
「俺の世界の……『門』…」
自分の言葉に心の中で苦笑が浮かんだ。
言葉の解釈が間違っている。
(…世界「だった」か……)
どこかでちくりと痛みが刺さる。
「? お父さんの世界?」
また首を傾げるユーフィ。
まあ、当然だろう。
ユーフィには俺とアセリアの出会いの話はしたが、俺の生活をした記憶はない。
そのうちに話してやるか。
「この『門』の中で俺は生まれたんだよ」
ごく簡単に説明する。
「へぇ〜、お父さんが生まれたところかぁ〜」
面白そうに目を輝かせた。
言ったことのない世界に行くときの反応の一つだ。
「まさか、ここにテムオリンたちが!」
今までに何度も対峙してきた秩序のエターナル。
その要、杖型永遠神剣『秩序』を持つ法皇の名を持つロウ・エターナル。
勝ったこともあれば、逃げられたこともある。
だがいずれも決着がつくことはなかった。
あいつらの狙いがこの世界だとすると絶対に阻止しなくてはいけない。
佳織の世界を還らせてたまるか。
「ユート……」
心配そうにアセリアが顔をのぞき込んでくる。
大丈夫だ、と頷くと笑顔になる。
「今回はわかりません」
「わからない?」
「はい。私達がこの世界を去ったすぐ後にここは、『門』を閉ざしたのです。ですが、最近になって開きました。そこで調査となったのですが……」
「ここのことをよく知ってる俺達が選ばれたわけか」
「はい、そうです。詳しいことは中で」
そういうと神剣を使って『門』の中へ入っていった。
「お父さん行かないの?」
(絶対にくい止めてやる)
「お父さん?」
(この世界を守るためにエターナルになったんだから)
(絶対に!)
「ユート!」
はっ!
叫ぶ声に顔を上げるとユーフィとアセリアがそろって心配そうな顔をしている。
「どうした?」
「行こう、ユート。カオリの世界を守るために」
アセリアは笑って、手を差し出す。
(…そうだな)
あれこれ考えても答は簡単に見つかるもんじゃない。
『聖賢』を手にしたときに決めたじゃないか。
「ああ、行こうぜ」
『聖賢』を鞘から引き抜き呼びかける。
「永遠神剣第二位『聖賢』の主、悠人の名において命じる。剣よ、我らに永遠へと続く道を指し示せ」
剣が作りだした空間へと俺達は飛び込んだ。

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