メイドといえばライフル二丁
“ジェノバ”の落ちる四つの光。
<真理>のメンバーであるトウヤ、エリアス、アイリス、ヨシツネだ。
「数は……五か」
「こっち四人よ?誰が二人行くの?」
「【悠久】はまだ発展途上のようです。私が同時に相手をします」
「では私は【時詠】の相手を。トウヤ様は【聖賢】のお相手をお願いしますわ」
分かった、と頷くとトウヤは三人を見渡しながら言った。
「さあ始めよう。全ては我等が求める真理のために」
黒白の翼 - Wings Black and White
2−2:メイドといえばライフル二丁
「来ました……」
トキミの声に全員は緊張の色を濃くし、各々の神剣に手をかける。
感じる気配は四。
しかしそのどれにも大きな力を感じられる。
「ねえまだトキミ!まだ戦っちゃ駄目なの!!?」
「落ち着いてパウリコスカ。もう直ぐですから」
ただ一人、嬉々として飛び跳ねる少女パウリコスカ。
普段大人しい彼女は、しかし戦闘になると【破壊】の力が強くなり、さながら戦闘狂のようになる。
それをトキミは何とかいさめようとして―――
「お待たせしました、あなたの相手はこのアイリスが」
消えた。
否、吹き飛ばされたのだ。
突如現れた銀髪のメイド服を着た女性、アイリスに。
「この場の戦闘は戦況不利と判断します。こちらへどうぞ」
「きゃうッ!!」
悲鳴と共に掴み上げられたユーフォリアは、アイリスと共にその場から消える。
「ユーフィ!!」
「くっ!アセリアは二人を!私はパウリコスカを追いま―――」
慌ててアセリアとトキミが追おうとするが、その前に二人の影が現れる。
「あんたの相手は」
「私ですわ!!」
影はエリアスとヨシツネ。
エリアスは両手にブーメラン型の【旋渦】を持ち、アセリアの前に躍り出る。
そしてヨシツネは日本刀型の【蒼珠】を抜くと、トキミに斬りかかった。
「二人とも!!」
【構うなユート、それよりお前の相手が来るぞ!!】
そう言われて振り返ると、そこには黒い姿に身を纏った一人の青年。
その手には刀身すら漆黒の日本刀が握られている。
「【聖賢者】だな?」
「……誰だ、あんた?」
「<真理>が一、【宵闇】のトウヤ。お前をこれから殺す男だ」
† † †
「到着です」
「え?あ、ありがとうございます?」
フワリとスカートをはためかせ、アイリスはゆっくりとユーフォリアを下ろす。
そして目の前に倒れるのは先程吹き飛ばされたパウリコスカだ。
それを見て慌てたようにユーフォリアはパウリコスカの元へ駆ける。
しかし、それを遮るかのようにアイリスから何かが打ち出された。
「きゃうッ!?」
それはユーフォリアの体を包み込み、廃墟の壁にその体を叩きつける。
粘着性のそれは、絡み付いてユーフォリアの動きを阻んでいた。
「な、何これぇ!?」
「私の開発した『えたーなるホイホイ』です。昨晩勢いに任せてトウヤ様を襲いそうになったヨシツネ様に使用して確認しましたので、その効力は折り紙つきです。ご安心を」
「何に安心したらいいの!?」
その質問をアイリスは完璧に無視し、起き上がっているパウリコスカに向き直る。
その手に持つのはライフルだ。
己が主から手渡された永遠神剣、第三位【忠誠】と呼ばれるそれは、長い銃身をパウリコスカに向けている。
「戦闘回避をオススメします。返答は?」
「冗談じゃ……ないわよ!!!!」
ピンクのポニーテールを振り乱しながら少女、パウリコスカはオーラを展開し殺到する。
それに対しアイリスは二丁のうちの右手に持った側で牽制する。
それに臆することなくパウリコスカは前進。
右拳を振り上げた。
ドゴンッ!!
重低音が響き渡る。
だがアイリスはそこにいない。
回避したアイリスはバランスを多少崩したものの、そのまま更に二発、三発を【忠誠】から撃ち出す。
ガウンッ!ガウンッ!ガウンッ!!!
連続して放たれるオーラの弾丸。
パウリコスカはそれを右手を広げ障壁を展開、受け止める。
だがその一瞬の隙をアイリスは見逃さない。
左肘に格納されているワイヤーを取り出し先端を廃墟の瓦礫に引っ掛ける。
そしてそのまま駆け出した。
「うっとおしいのよ!!あんたぁぁぁ!!!!」
「お褒めの言葉と受け取らせていただきます」
両手に構えた【忠誠】でパウリコスカに向けて連射。
しかしそれを回避しアイリスに向けて疾駆する。
距離を空けようとバックステップするも、それより速くパウリコスカが迫った。
“骨”そのものが神剣である彼女からの一撃は、まさしく一撃そのものが剣の力。
「“ディストラクション”!!!!!」
それはその神剣の名の通り【破壊】をもたらす唯一無二の能力。
右肩にヒットした打撃は、文字通りアイリスの右肩を“消滅”させた。
その結果右手はライフルを握ったまま吹き飛び、アイリスの体を大きく後退させる。
「あはっ!何その体!?あなた機械なんだ!!!」
「機械ではありません、メイドロボです」
消えた右肩から見えるのは筋肉でも骨でもなく配線と金属。
痛覚を感じないその体は、それ故に怯むことなく前を向く。
その視線の先には吹き飛んだ自分の右腕と【忠誠】の片割。
―――戦闘中の回収は困難と判断、戦闘の継続を最優先に設定
はじき出すそれは脳ではなくあくまでも思考回路。
しかし……
『生きる意味がないのなら、俺のために生きてくれないか?』
今の主の言葉が、データバンクの中から取り出される。
そう、それこそが自分が生きる価値。
主を失い、機能を停止しようとしていた自分に理由をくれた、今の主の優しい旋律。
その主が自分を見限るその日まで―――
「いきます」
我が主トウヤ様のために、戦い守るが自分の定め。
「はははは!まだやるんだ!?」
「現状での勝率は52%と判断します。5割を切らない限り、戦闘継続は当然の選択です」
直接的な物理攻撃はこちらが不利、神剣同士の衝突で先ほどの能力がどう作用するかも分からない。
そう判断したアイリスは、左に持ったライフルで牽制しつつ廃墟から廃墟へと身を隠すように移動する。
パウリコスカは弾丸を回避しつつ術式を形成。
“破壊”を、撃ち出す!!
「《ディストラクション》!!!!!」
消滅の能力が付加されたオーラの光球。
足のくるぶしに装備されたスラスターでアイリスはそれを高速回避する。
撃ち出された光球はその軌跡に何も残さず全てを滅ぼした。
「どーしたの!?どーしたの!!?逃げてばっかじゃ私のこと、倒せないよ!!!?」
「ご心配には及びません。準備とはそれ相応の時間が伴い、しかし必ず終わるものです。そして、終わりました」
タンッ!と地面を叩く音。
アイリスは空へと飛び上がる。
それはパウリコスカから見れば好機。
空にいる間、そして着地した瞬間アイリスは無防備だからだ。
しかしアイリスは空中で、“止まった”
「な!!?」
「光学迷彩ワイヤーです。そしてどうぞ、お喰らいください。“チャージ・バスター”」
十発分のオーラを込めた咆哮が、【忠誠】の砲身から放たれる。
一瞬不意をつかれ動きが止まるが、しかしすぐさま立て直しオーラを展開、“消滅”の効果が付随された防御壁を展開する。
「効かない効かないぃぃ!!!この程度?機械人ぎょ―――!?」
「ですからメイドロボです」
パウリコスカの動きが止まる。
見えない何かが、彼女の体を縛っているのだ。
それは、先程彼女が空中で停止したトリックと同じ、光学迷彩のワイヤー。
“チャージ・バスター”はあくまで囮、本命は防御の瞬間動きの止まった彼女の一瞬をつき、ワイヤーで拘束する事だ。
「この!!こんなもの!!!」
「そう、あなたの能力なら拘束を解く事は可能な筈。ですがその前に、こちらをどうぞ。捻りがありませんが高圧電流です」
閃光が迸る!!!
電撃を帯びたワイヤーがパウリコスカの体を蝕み、体の力を奪っていく。
それは一瞬の体の弛緩、しかしその一瞬でアイリスは勝負を決めるべくアクションを起こした。
【忠誠】のライフルのグリップが切り離され、さながらトンファーのようにボディーの側面に接続される。
銃身を重しに高回転し、遠心力を一撃に乗せるべくアイリスは更に回転スピードを上げていく。
「当たると痛いです。避けるか受けるか選択する事をオススメします」
ドゴァ!!!!!
己が主と同じ忠告と共に、トンファーに変形した【忠誠】がパウリコスカの腹に向かって叩き込まれる。
まともに打ち込まれた打撃は、大きくパウリコスカを吹き飛ばした。
変形させた【忠誠】を元に戻しながら、アイリスは己の吹き飛んだ右腕を拾い上げる。
―――この場での修繕は不可能、トウヤ様にご心配をお掛けしてしまいます。
その右腕をマナに還し己の中へと取り込む。
そして主の元へ戻ろうとした時……
「まだまだぁぁぁぁ!!!!」
瓦礫を吹き飛ばし、パウリコスカは殺到する。
そう、彼女の骨は永遠神剣。
多少の打撃にはモノともしないのだ。
それを見たアイリスは一瞬眉をヒクつくかせるが、それでも冷静にスラスターで回避行動にでる。
「もう少し、頑張る必要性があるようですね」
「はああぁぁぁ!!!!」
轟音が響き渡り、二人の戦いが再開される。
「………あのお、私このまま!?出番、出番は!!?」
未だ『えたーなるホイホイ』によって身動きできないユーフォリアを一人残して。
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