月の光は、等しく我等に降り注ぐ














黒白の翼 - Wings Black and White
1−1:月明かりの下で君と













「いたっ」

腹部からの痛みに一瞬からだが弛緩する
油断ではなかった
完全に自分の実力不足

「なんとか通信は取れましたけど、来るのは遅くなるでしょうね……」

テムリオンさんにまた怒られるかなぁ、とぼやく少女
金色の髪が夜風に揺れる
ふと頭上を見上げると、先程まで雲にかかっていた月が今は晴れていた

「きれい……」
「全くだ」

急に聞こえた声に咄嗟に反応する
アスファルトの地面が甲高く鳴り響き、夜の闇から一人の青年が現れた
肩を庇いながら、おぼつかない足取りで少女に近づいてくる
カタリ、と手元の剣に手を伸ばす少女に、青年は笑って言った

「安心しろ、戦うつもりはない。というより、こちらはもう戦える状態じゃないからな」

そう言う青年をもう一度注視する
左手からは血が滴り、真っ黒なコートには所々に斬撃痕が残る
月明かりに照らされた顔からは、頭部から血が出ており、片目を塞いでいた

「<混沌>…ですか?」
「いや」

しかし自分はこの男を知らない
では一体……
少女の疑問を察したのか、青年は少女の対面に座り込みながら応えた

「<真理>だ」

聞いた事はある
<混沌>でも<法>でも、まして<出雲>でもない第四の組織
真理を求め、ある物を探し続けると聞く永遠機関
人数は少ないながら、その実力は相当高いと聞く

「君は?」
「……<法>です」
「そうか、まあドッチでも戦うつもりはないが」

笑いながら青年は話しているが、怪我の状態は相当酷いようだ
神剣の力で回復はしているようだが、やはり表情は芳しくない

「君の名は?」
「へ?」
「いや、折角知り合ったんだ。名前ぐらい聞いてもバチは当たらないと思うんだが」

駄目か?と青年は聞く

「……アカツキです。【 暁光 】のアカツキ」
「ほう、音に聞く戦乙女か……俺はトウヤ。【 宵闇 】の契約者だ」
「【 宵闇 】……」

少女の声に【 暁光 】が反応する

【あら、契約していたのですね】
「知ってるの?」
【知ってますよ。何ていっても姉妹ですから】
「そうだったんですか」

「すまないが、それだと電波な娘だと思われるぞ。外部通話にしてもらいたいんだが……」
「あ、そうですね」

慌てて少女、アカツキは神剣の声を外に広げる

【始めまして、宵闇は元気にしてますか?】
【当たり前よ】

今度はトウヤの持つ刀から声がした

【久しぶりですね、宵闇】
【ええ、5,6周期ぶりかしら】
【フフ、あなたが契約するなんて…余程優しい殿方なのですね】
【う、うるさいわね!】

焦ったような声で【 宵闇 】が反論する
トウヤは苦笑を漏らすと、【 宵闇 】に話しかけた

「別に恥ずかしがる事ないだろ?」
【は、恥ずかしがってなんかない!!】

不思議な人だな、とアカツキは思った
そもそも組織が違うなら、まず戦おうとするだろう
しかしこのと言う青年はそうしない
むしろ、今のこの空気が暖かくさえ思える

「さて、時間切れか」
「え?」

トウヤがそう言うと後ろから気配がする
アカツキが振り返ると、そこには鉈の様に大きな剣を持った男が立っていた

「タ、タキオスさん……」
「作戦は一時中断。一旦撤退だそうだ」

そう言うとタキオスはトウヤの方を向いた

「久しいな」
「ああ。だが済まないな。今は戦えそうにない」
「いや、構わん。勝負は次の機会に」

そう言うとトウヤは悪態をついた

「後、テムリオンに言っておけ。会うなり神剣魔法の乱発は止めろ、と。今回は敵じゃないはずだろう?」
「それは……仕方なかろう。貴様はあの方に嫌われているからな」
「全く…俺が何をしたと言うんだ」
「自分の胸に聞いてみろ」

そう言うとタキオスは「門」を開く
【 暁光 】の力で大方の傷は癒えていたアカツキは、立ち上がって剣を収めた

「それでは、お先に」
「ああ、敵として戦わない事を祈る」
「……私もです」

そう言って笑うとアカツキは光の中へと消えて行った







「……さて、出てきたらどうだ?」
「バレてた?」
「少なくとも俺には」

いやはや全く、と言って草むらから一人の女性が出てくる

「早く出てくればいいだろう?」
「だってさあ、【 無我 】の旦那がいたでしょ?私あの人苦手なのよねー。会うたび戦え戦え言ってくるし」
「戦ってやればいい。まだタキオスとはっていないだろう?」
「できれば一生戦いたくないわ」

溜息をつきながら女性は「門」を開く

「結果は?」
「ハズレ。全く、とんだ時間の無駄遣いよ」
「お前は誰とも戦っていなかっただろ?俺なんか【 秩序 】に見つかって大変だったんだからな」
「勝ったの?」
「いや、あいつは苦手だ」

そう言うとトウヤは女性の肩を借りて立ち上がった

「【 宵闇 】って神剣魔法とか苦手だもんねえ。そんなんじゃ愛しの契約者から逃げられちゃうわよ?」
【い、愛しくなんかない!それに…ト、トウヤは私のこと見捨てたりしないもん!!】
「はいはい」

ウ゛〜〜、と【 宵闇 】が唸るのを無視して女性は門をくぐった













これが、全ての始まり











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