こんにちは、神凪 真夜です
こう見えてもチョッと前までは「金目の悪魔」とか言われてそこらの不良とかにも一目置かれていたのですが……
「うーん、やっぱシン君の玉子焼きは最高〜♪」
「私も……おいしい」
「そうでしょ?ん?どうしたの、シン君?」
「いや、別に……」
俺は神とかは信じない主義だが、今だけは聞きたい
何でこんな状況に?
PAST〜outside stories〜
2.忘れ物狂想曲
「はあ……」
「大丈夫?溜息つくと幸せが逃げちゃうんだよ?」
「少なくとも平和な生活は疾風の如く逃げて行ったな」
こいつ等と出会ってから早一週間、俺の平穏は紙くずの如く消えてなくなった
「プリンセスガーディアンズ(通称・姫様ファンクラブ)」からの奇襲に加え、どうやら静音にもファンクラブが存在するらしく、そいつ等がまた多い多い……
静音の話だと、この学園には合計三つのファンクラブが存在するらしく、ほとんどの男子生徒はこのどれかに所属するらしい(暇な奴等だ)
つまりそれは男子生徒約200人の三分の二を敵に回している事になる
「……これあげる」
「ああ、ありがとな静音。だができればキュウリに蜂蜜のコンボじゃなくて、普通のものをくれ」
「……ウニ」
「そう言って醤油をかけたプリンを差し出すな」
なんでこいつがもてるんだ?
確かに顔は並みのモデルよりも上だし、スタイルもいい
しかし、この性格を分かって好きになってるんだとしたら、相当な物好きだな
「シン君、何シオリンの事じろじろ見てるの?」
「お前は何でそんなジト目なんだ?いや、可愛い顔してんのに勿体ないなあと」
「ふーん……私は?」
そう言われて姫花の方を見る
顔は静音に負けないぐらい、いい
ファンクラブがいるのも頷けるだろう
そして視線を胸へと移し――
「………はっ」
「ああ〜!!笑った、鼻で笑った〜!!シオリ〜ン」
「よしよし。大丈夫、奇跡が起きたら大きくなるから」
「奇跡レベル!!?」
酷いな……
まあ、女どもの漫才は無視して、次の教科の準備を……
「…あれ?」
「どうしたの、シン君?」
「取りあえず胸をもみ合うな。いや、数学の教科書が見つからなねえんだよ……」
もしかして忘れたか?
ま、いいか。数学苦手だし、寝とけば
「言っとくけど、今日の数学久遠先生だよ?」
「ぐ……そうだった」
久遠 美雪、俺たちのクラスの副担任である
別に廊下に立たされたり、嫌味を言われるわけでもないのだが
……泣くのだ
この前教科書を忘れた男は、泣きながら十数分にわたり説教をする美雪さんに、罪悪感という名の精神的打撃を受け、一日学校に来なかった
「どうする?シン君他のクラスに友達いないよね」
「否定できないだけに殴れないのが悔しいが。誰かに見せてもらうしかねえな……」
そう言うと姫花が満面の笑みで言ってくれた
「じゃあじゃあ、私の教科書見る!?」
周りの殺気が強くなる
野っ郎、自覚してないだけ性質が悪い
そんなことした日には、俺の家が燃やされかねん
「い、いや。遠慮しとくわ」
「ええ〜。何で〜?」
「お前は俺を殺す気か?」
かといって静音に見せてもらおうとしても、結果は同じだ
どうすりゃ……
「手ぇ貸してやろうか?」
「恩に着てやろう、ありがたく思え真吾」
「健吾だ。何だその微妙な間違いは。ていうか何でそんなに上から目線!?」
「気のせいだ。きっとお前の俺に対する劣等感がそうさせるんだ」
「マジで!?」
そうか、そうなのかぁ、と身悶えする健吾を無視して前を見る
橘 健吾、俺のクラスメートで実は隣の席だったらしい
知らなかったというか気付かなかった
「それでよ、聞きたい事があるんだが」
「30字以内で簡潔に答えよ」
「何故に国語の問題風!?」
まっいいか、と言って続ける
「質問は簡単。どうやって姫花ちゃん達と仲良くなったんだ?」
「は?」
んなこと言われてもなあ……
「あいつから喋りかけて来たんだよ。つーかあいつって男友達とかいないのか?」
「いないいない。姫花ちゃんも静音ちゃんも、滅多に男と話さないんだよ。だから何でお前とは仲いいのかなあと思ってさ」
「知るか」
そもそも話しかけてきた理由も聞いてなかったしな
……後で聞いてみるか
「それでさ――」
「橘君」
話を続けようとした健吾の前に、一人の影が立つ
言うまでもない、美雪さんだ
「あ…く、久遠先生」
「私の授業、そんなに面白くないですか?」
そう言うとジワッと目じりから涙が流れた
「い、いや!そんな訳ないっすよ!!先生の授業がつまらないなんてそんな事――」
「や、やっぱり…面白く……ないんですねえ………?」
「そ、それは……真夜、助け――」
「諦めろ」
「てくれ。って即刻見捨てた!?」
「グスッ、私もね?一生懸命面白い授業しようと思ってるのよ?でもね…グスッ……そんなに上手くいかなくて………」
「いや、あの、その……助けてくれーーー!!」
次の日健吾が休んだのは言うまでもなかった
「何でシン君に話しかけたか?」
「ああ」
その日の帰り道、静音は掃除当番、健吾は真っ白に燃え尽きていたので今日は姫花と二人で通学路を歩いていた
「うーんとね。実は一年の時シン君って私と同じクラスだったの」
「へぇ……」
やっぱり気付いてなかったね、と言ってクスクスと笑う
あの頃は誰とも話そうとも、接触しようともしてなかったもんな
唯一美雪さんは一生懸命俺と会話しようと頑張ってくれてたが
「それでその時ね、話しかけよっかなって思ったの。でも、私臆病だったから……それで、三年になってまたシン君と同じクラスになって」
「それで喋りかけたのか?」
「うん」
なるほどな……だが
「そもそも、何で俺に話しかけようとしたんだ?」
今ではない、一年の時だ
滅多に男と話しかけないらしい姫花が、何でワザワザ
「それはね……私に似てたからかな」
「え?」
風に乗って掻き消えた言葉を、もう一度聞き返そうとすると、突然姫花が腕にくっついてきた
「お、おい!!?」
「へへへ。パフェ食べに行こ?お腹すいちゃった!」
「……いいけど、奢らねえぞ?」
「うん、大丈夫!」
聞かれたくない事だったのか
まあいい、いつか笑って言える時がくればいいのにな
「待ってる」
「……うん」
ギュッと、少しだけ腕にこもる力が強くなった
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<後書き>
番外編第二話、いかがでしたか?
え?最後のはなんだ?
はははは、勢いですよ勢い(死
いやあ、書くときは余り抵抗ないですけど、確認で読むと恥ずかしいなあ
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