はじめまして、サヨウナラ
「……ふう」
折れてしまった杖を捨て、ミュラー・セフィスは溜息をつく。
先程までいた、金の瞳の少年の姿は、今はない。
「いってしまったね」
「……申し訳…ありません」
「別に構わないよ」
律儀に謝るメルビスに、そう笑って返す。
自分の体には、相変わらず傷一つついていない。
結局最後の最後まで、彼は自分に勝つことはなかった。
「さてと、じゃあ行こうか」
「……?」
「私は『【黄金漆黒】が勝ったらついていく』なんて約束、した覚えはないよ?」
面白いね、とミュラーは笑う。
「奇策も、一撃必殺も効かないと分かって、“より強い一撃”を選択するとは」
「……あの人は……バカ、ですから」
真夜のことを、メルビスはそう評する。
技量も何もない、本当に一撃に全てを込めていた彼は、今最終決戦へ向けて先行している。
自分は命令待ち。
いや、命令はないのかもしれない。
アズマリア・セイラス・イースペリアは、自分たちのことを気遣って戦線に出さないつもりなのだろう。
「【夜騎士】……」
「……はい……?」
「いや、彼の二つ名。そんなのでどうだろう?」
そうですね、とメルビスは顎に手を当て頷く。
「……バカには……勿体無い名です」
「君……意外と毒舌だね」
Intruder
48.Hallo Goodbye
瓦礫の崩れる音。
金属が軋る音。
風が唸る音。
音と音がぶつかり合い、唸りを上げて、空間を埋め尽くしていた。
鉄と焦げた臭いが、戦場を蹂躙する。
その中で、真っ直ぐに駆ける姿があった。
白の羽織に、硬い黒髪。
無骨な大剣を肩に担ぎ、悠人は真っ直ぐに城門を目指していた。
しかし、それを阻むように二人の妖精が前へ。
舌打ち一つ。手に力を込めようとしたところで、両脇から悠人を追い抜く姿があった。
エスペリアと光陰だ。
二人は各々の神剣を振り上げると、阻むスピリットと激突する。
「ユート様、ここは私たちが!」
「早く行け! 悠人!」
「―――ああ!!」
加速する。
悠人は体にマナを巡らせ、人外の速度で動き出す。
それに後続するようにアセリア。
二人を送った後、光陰は対峙する緑の妖精を見た。
黒く侵されたハイロゥ。理性を失った瞳。
それは、【死聖獣】とは違うものだ。
だが、獣は一体どちらだろうな、と心の隅でそう思う。
「まあ、念仏ぐらいは唱えてやるよ」
【因果】から、萌黄のオーラが吹き出す。
風鳴り一つ。光陰は【因果】を薙ぎ払った。
・
・
・
・
「らぁ!!」
気合一閃。今日子は【空虚】を敵に突き立てる。
肉を穿つ嫌な感覚。
苦悶の表情を一瞬浮かべ、消えていくスピリットを見て湧き上がる罪悪感。
だがそれを押し込めて、今日子は前を見た。
敵は数多。黒い羽の軍勢が、天を、地を埋め尽くしている。
堕天使の軍勢だ。
数の上では敵が圧倒的。
此処まで壁が薄かったのはこのためか。
多くのスピリットをこの城に集め、じりじりと消耗させ、最後の最後でこの数。
「全く、嫌になるわね」
《ブーストサーキット》で体の中を加速させる。
先頭に立ち、今日子は汗を拭った。
敵は一体何人だろうか。
ざっと見ただけでもその数は2桁。
もしかしたら3桁までいくかもしれない。
「気合入れていくわよ」
「了解」
「はい」
両脇にいるセリアとナナルゥが、今日子の声に応える。
所々服が破けているが、大きな傷はないようだ。
負ける気は……ない。
不思議と、この状況でも恐怖はなかった。
自力はあちらが上。しかし―――
「現状勝機はありません」
「そうね」
「ですが、こちらが勝つでしょう」
「……その根拠は?」
ありません、と即答するナナルゥにセリアは呆れ、そして笑う。
論理的な彼女が、こんなことを言うのも珍しい。
これも、あの能天気の影響だろうか。
「ええ、そうね。私もそう思うわ」
全く困ったものだ。
これで未だ、自分たちは負けないと確信しているのだから。
セリアは【熱病】に力を込め、ハイロゥを大きく広げた。
そして、一歩大きく踏み出す。
そのときだ。一陣の風が頬を掠めたのは。
「……ったく。遅いのよいつもいつも」
「まあ、そう言うなって」
肩越しに発せられた声。
それは風のように速くセリアを追い抜き、黒の翼へ殺到する。
速く疾く迅く―――
夜の騎士が死を撒き散らす。
金の瞳、黒の髪。
長いロングコートをマントのように翻しながら、真夜は一瞬で数人の妖精を斬り殺した。
そして、また一瞬でセリアの隣へ移動する。
「―――っか! また多いなこりゃ。悠人は?」
「先に城内へ」
「ん。それでいい。俺達は雑魚を、潰す!」
片手で【月詠】を回転させ、止める。
そして真夜は体を大きく捻った。
動きは“冬牙”のそれ。
だが、違う―――
「いくぞ?」
“弐式・小夜時雨”。
穿って穿って穿って穿つ。
這い出た数多の氷柱が、周囲のスピリットを同時に突き殺した。
広範囲攻撃用の冬牙弐式。
周囲一体の温度は急激に冷え込み、吐息は白く変わる。
一振り、【月詠】を正眼に構え直すと、真夜は告げた。
「岬とルゥは上空の敵を。セリアは俺とこい。さあ始めようぜ! 喧嘩だ! 喧嘩!!」
笑いながら一歩前に出る真夜。
それを見て、セリアは深い溜息をつく。
「で、【剣聖】は?」
「ああ、勝てなかった」
「………はあ!?」
しゃーねーだろ、と目を細め、真夜は視線を前へ。
「やっぱ無理があったな。一撃は加えられたけど、その後レスティーナの演説が始まったって聞いてさ。慌ててこっち来た」
「じゃ、じゃあ。ミュラー様は?」
「分からん。メルビスが残って一応説得してくれるみたいだが。悪りー悪りー」
「そう思うならもっと反省しなさい」
へーい、と真夜は軽く返事。
だが、セリアは彼の様子が前までと違うことを悟っていた。
マナの流れが、静かなものになっている。
荒れ狂う嵐のようだった彼のイメージは今はなく。しかし張り詰めるような静かな沈黙。
これが強さかと、そう思った。
思わず唾を飲み、そして額から汗が流れるのをセリアは感じた。
彼は今までの彼ではない。
「久々の2トップだ。遅れんなよセリア!」
「分かってるわよ。ハイロゥ!!」
夜と蒼が、同時に黒死の翼の群れへと飛び込んだ。
Ж Ж Ж
「……近い」
それは剣が感知しているのか。
それとも人の中にある本能が告げるのか。
悠人は感じていた。
赤い衝動。最後の敵。
第五位【誓い】と、その契約者・秋月瞬。
「ユート、この先」
「ああ」
並走するアセリアに返事をし、悠人は正面にある扉に触れた。
深呼吸を一つ、そして静かに扉を―――あける。
「……来たか、悠人」
「来たぞ、瞬」
王座の前に立つ、かつて見慣れた男の姿。
傍には佳織もいる。
瞬の瞳は暗く冷たい。人格をほぼ飲まれているのだろう。
助からないな、と思う反面、自分は助けるつもりなのかと心の中で苦笑した。
倒すと決めた相手を、今未だ気遣っているのか。
「此処の王は…どこにいる?」
今か今かと待ち構える【求め】を押さえ込み、悠人は静かにそう問う。
王座に王がいない。
これはおかしなことだ。
どんな国も、どんな王も、国が滅ぶその瞬間まで王座を離れることはない。
誇りか、それとも他の何かか。
悠人には分からない。分からないが、それはいつでもそうだった。
まさか、逃げ―――
「可笑しなことを聞くな悠人。王なら、ここに“ある”だろう?」
クイっと右手を上げて、手にした赤黒い剣を悠人に見せる。
いるではなく、あると瞬は言った。
それは即ち
「この国はな? この【誓い】によって動いていたんだよ。ずっと、ずっとな」
滑稽だな、と瞬はせせら笑う。
「人が剣によって統べられていたんだよ、この国は。だから、僕が支配してやったんだ。この僕が、操ってやったんだよ!」
違う。
操られているのはこの国だけではない。
おまえ自身も操られているんだと、それに瞬は気づいていない。
「僕にはそれが出来る力があった! お前と違って、僕には! 弱く、脆弱なお前と違って!!」
「―――ああ、俺は弱いよ」
自分でも驚くぐらい、はっきりとそう答えられた。
赤い目を輝かせ、訝しげな瞳で瞬は悠人を見る。
だが、構うことなく悠人は口を開いた。
「俺はどうしようもないぐらい弱くて、何かを守るために、たくさんの人を傷つけて。苦しくて、悲しくて、辛くて。何でこんなに頑張ってるんだって思うときもあった」
でも、と悠人は続ける。
「皆がいてくれたんだ。こんな俺を、信じてくれる皆が。オルファは元気で、エスペリアはチョッと怖いけど優しくて、ウルカは生真面目で。光陰は相変わらずで、今日子は俺を張り倒して、真夜はいつも無茶して。そしてアセリアが、俺に笑ってくれて」
静かに、力が解き放たれる。
頭の中はクリアだ。
だが、乗っ取られているわけではない。
心は波打たず、今までなかったぐらいに冷静になれている。
「俺は弱いけど、だから強くなれるんだ。皆と一緒に、強くなっていけるんだ。自分一人しか信じられないお前とは……違う!!」
瞬の顔が怒りで歪んでいく。
狂気にも似たオーラが、そして世界を包み込んだ。
赤と白、二つのオーラがせめぎ合う。
「アセリア、ゴメン。一対一だ」
「……ん」
一歩下がってくれたアセリアに感謝し、そして悠人は前に出る。
まずは一歩。
その歩みは、進むたびに速度を上げていく。
両者の距離が3メートルになったとき、二人は同時に動いた。
「「おおおお゛お゛お゛!!」」
速度は瞬が上。
その速度は一度対峙したときのそれを上回り、悠人は一瞬敵の姿を見失う。
だが体が、本能が瞬の殺気に反応した。薙ぐように【求め】を振ると、そこに鈍い衝撃。
瞬の【誓い】だ。
「押し合いなら、こっちが上だぞ!」
「―――!!」
金属音が鳴り響く。
片手ながらに瞬の体を浮かせた悠人は、それを見逃さず加速。
空中で止まったままの瞬を切り裂くべく【求め】を掲げる。
しかし、瞬とてそのまま終わるつもりもない。
高速詠唱。そして深紅の光線を撃ち放つ!
「《オーラフォトンレイ》!!」
発射した方向は悠人ではない。
瞬は発動の反動を利用し、直角に移動し地面を踏みしめた。
突然の動きに悠人は一瞬動きを止める。
だが、瞬はその隙を見逃さなかった。
移動の停止は、それすなわち加速の停止。
どれだけ剣が大きかろうと、速度を上乗せできなければ、剣速を見切って回避は可能だ。
瞬にはそれが出来るだけの機動力があった。
そして、いく!
「サッサと死ねよ! お前はぁ!!」
自分が持つ最も信頼できる技、“オース”。
それでもって瞬は悠人を突き殺す為に殺到する。
だが、瞬は見ていた。
悠人の表情が、笑みであることを。
「――― 一条の光となりて、彼の者どもを貫け!」
放たれる。
突如浮かび上がる魔方陣と共に、悠人は《オーラフォトンビーム》を展開した。
発射方向は瞬とは正反対。
機動力から命中は無理と判断し、その反動を推進力として利用したのだ。
「な!」
「お前に出来て、俺に出来ないと思ったか!?」
地面に足がつくと共に、悠人は勢いを殺すことなく加速する。
マナを巡らせ、剣を握るに力を込めた。
突く主体の敵の動きに対し、こちらは斬るのを主体とした技が多い。
その中でも、最も連戟性に優れた“オーラフォトンブレード”。
隙は与えない。
この加速からのぶつかり合いなら、自分が上だ!
「うぉぉぉぉぉっっ!!」
「この! 調子に乗るなあ!!」
爆音!
白の斬戟と、深紅の刺突が唸りを上げて衝突する。
振り上げられる【求め】、振りぬかれる【誓い】。
互いの憎悪の声が顕現するかのごとく、オーラが衝突し不協和音を上げていた。
剣と剣がぶち当たり、一瞬止まり、そして離れる。
「はぁ、はぁ、はぁ―――」
「この……お前なんかに僕が。僕が負けるはずがぁぁぁぁ!!」
絶叫に誓い瞬の声とともに、抑え切れないオーラが噴き出す。
この王室一体を覆いかねない量だ。
これは……
「アンミリテッド・アビリティ……」
決めにきたか、と悠人は【求め】を構え直す。
あれは一撃必殺にして諸刃の刃。
撃った直後は、オーラを展開することも出来ない。
体を巡るマナを使い果たして、繰り出す必殺の剣。
「ふー……」
神経を集中させ、体を巡るマナの流れを感じ取る。
そして悠人は、それを無理矢理【求め】に流し込んだ。
出し惜しみをする場面ではない。
こちらもこちらの全力で以って、瞬を斃す。
「誓いを果たせ」
「我が求めに答えよ」
姿が変わる。
瞬の【誓い】は、オーラによって包まれ、その形状を槍のものとする。
それに対し、悠人の【求め】は白のオーラを刀身に纏っていた。
「Unlimited Ability【hazard skill】」
「Unlimited Ability【over skill】」
声が重なり、オーラは更に躍動し、力が解き放たれるのを待っている。
解き放った。
「“ガジャルグ”ゥゥゥァァァ!!」
「“クラウ・ソラス”―――」
世界から、色彩が消え去る。
それほどの光が、王室内を包み込んだ。
そしてそれに追いつかんと、強烈な爆音が響き渡る。
視覚を奪われ、目を閉じていた佳織は、恐る恐る目を開いた。
見えるのは、瞬が【誓い】を取りこぼす姿と、悠人が血のついた【求め】を担ぐ姿。
鮮血の音と、瞬が倒れる音がして、そして静寂が訪れた。
終わったのだ。これで。
これで、すべて終わ―――
ドクンッ
何かが響く、音がする。
何かが目覚める、音がする。
開いてはいけない扉が、静かに開く、音がした。
Ж Ж Ж
「何…だ……?」
悪寒がして、真夜は城の方角を見る。
この嫌な感覚。
圧倒的なプレッシャー。
知っている気配だ。知らないとは言えない気配だ。
これは―――
『2つも3つも攻撃手段を持つ必要はない。ただ1つを鍛え上げてこそ必殺となる』
『……そもそも貴方の中の力は、私たちの間で“鬼”と呼ばれています。そして、私はその“鬼”の真血』
あいつ等と同じもの……!
真夜は“裂空”を発動。
そして、最高速で駆ける。
「ちょ! どこに!?」
「悠人が危ない! 岬、一緒に!」
傍にいた今日子の手を取り、真夜は更に加速。
状況の把握しきれない今日子だったが、真夜の表情と言動から尋常でない事態になっているようだ。
生体電流を加速させ、今日子も真夜に続く。
城内入り口には、既に光陰も来ていた。
「真夜、こりゃあ」
「話してる暇はない! 行くぞ!!」
急がなければならない。階段など使っている時間もない。
真夜は気配の真下で急停止。そして【月詠】を掲げた。
「こっから真上までぶち抜く!!」
【きあい一発!】
“死季・冬牙穿戟”。
冷気の放流を推進力と変え、真夜は跳躍。
天上を穿ち、飛ぶ。
一直線に床を突き崩しながら、最後の床ごと気配を貫かんと吼えた。
「突き破れぇぇぇぇぇっっ!!」
爆砕音と共に、切っ先に固い感触。
手だ。
鎧に包まれた左手が、真夜の【月詠】を止めていた。
そして見る。
異形となった、瞬の姿を。
「お前……それは」
鱗の様な篭手に、切っ先が鎌のようになった剣。
そして空を舞う6本の刃。
その瞳に最早理性はなく、あるのは破壊への狂喜だけだった。
「……ほう、月の巫女か。そのような餓鬼と契りを結ぶとはな」
刀身を掴まれ、そのままに瞬に投げ飛ばされる。
壁に叩きつけられる直前、真夜は【月詠】を床に突き立て減速。ギリギリのところで止まった。
穴から飛び上がってきた光陰と今日子も、瞬の姿を見て息を呑む。
周りの空気が、嫌に重い。
真夜は汗を拭って、倒れている悠人を見た。
【求め】は、柄から上がなくなっている。
そして、あの間合いは不味い。
“あれ”に、何時殺されても仕方ない距離だ。
時間を……稼ぐ!
「今日子! 光陰!」
「分かってるわよ!」
「まかされた!!」
今日子は詠唱を開始。光陰もそれに続く。
真夜は自分の中の力を総解放。
ありったけのマナを【月詠】に込めた。
刀身は光り輝き、込められたマナの量によって小さく震えている。
いや、違うのかもしれない。
「我慢な、【月詠】」
【がんばるの……!】
詠唱が完了。
今日子の周りからは紫電が迸り、光陰のかけた《プロテクション》が3人を包む。
「《サンダーストーム》!!」
「Unlimited Ability【chain skill】……“春夏秋冬の太刀”!!」
まず紫電が先行。
そしてそれに続くように、複数の真夜が瞬“だったもの”に殺到する。
舞い散る桜花。輝く陽光。吹き荒れる紅葉。
そして、最後に冷気を纏う一撃が、放たれる。
「ブチ抜け!!」
【月詠】の切っ先が瞬を捉え―――
「………え?」
それは誰の声だったのか。
静寂の中に、疑問を含む言葉が落ちる。
当たったはずだ。確かに、捉えたはずだ。
なら何故、【月詠】の刀身は突き刺さっていない。
何故、瞬の片手で止められている?
「―――惰弱だな」
血が舞い上がる。
四肢から力が抜けて、そこで初めて真夜は自分が切り裂かれたことを知った。
理解と同時に“鬼”の力を解放。
吐血しながら、真夜は後方に下がる。
「……や…ば……」
一撃が深い。
肩から肺にかけて、一太刀が真夜の体を断っていた。
ふらつきながら、意識を集中させ修復に専念。
だが、今の一撃でマナは尽きた。
仮に回復したとして、この先どうやって、“あれ”と戦うと言うのだ。
「真夜、大丈夫か!?」
「へ、平気平気。それより、どうするよあれ」
顎で敵を指し、真夜は肩を抑えながら光陰に返す。
一撃必殺のアンミリテッドが通用しない。
光陰と今日子は未だ発動していないが、仮に同時に使ったとして有効打となり得るかは正直絶望的だ。
チラッとデットエンドが思考を掠めるが、それを必死で真夜は追い出す。
そのときだ。
光とともに、扉が開く音がしたのは。
マナが流れ込み、扉からこの世界に新たに存在が確定される。
この感覚を真夜は知っていた。
以前、自分がハイペリアから戻ったときの、『門』
「遅くなりました、悠人さん」
「すまんの。少しばかり、手間取った」
光の中から姿を現したのは、巫女姿の女性と、エリシア・ハーツ。
エリシアは既に“紅鬼”に転換しており、【沈黙】を肩に担いでいる。
巫女の方、時深は【時詠】を構えると、瞬に向き直った。
「剣に心を奪われたのですね……愚かな」
「月の次は、時の巫女か。今回は、客の多いことだ」
瞬は……いや、【世界】は、現れた二人と、その背後にいるエトランジェを一瞥し、そして笑みを浮かべる。
「今回は引くか。まだ起きぬけということもあるしな。流石にこの数はまだ相手に出来ん」
「ふん。暴食家が、随分と引き際がいいのう」
「いずれ纏めて食うのだ。今焦らずともいいだろう?」
エリシアの言葉にそう答えると、瞬は空へ飛んだ。
上空から見下ろし、そして笑いながら言う。
「おはよう、我は第二位【世界】。そしてさらばだ、弱いもの達よ。いずれ訪れる終焉を、待っているがいい」
暴風が吹き荒れ、そして【世界】の姿が消える。
時深とアセリアは悠人の下へ。
そしてエリシアは、“紅鬼”から“蒼鬼”へと力を代えた。
「大丈夫ですか、真夜くん」
「悪りい、エリシア……俺」
「いいんですよ。今は、休んでください」
静かに目を閉じた真夜を見て、エリシアは拳に力を込める。
始まった。
ここからファンタズマゴリアは大きく動き出す。
破壊か、開放か。
ここからが、本当の戦い。
「選択のときです、真夜くん」
聞こえないことを知っていながら、エリシアはそう告げた。
この日、サーギオス帝国は滅亡。
ラキオスは大陸を統一し、戦争は終結を迎えたかのように見えた。
そう、ここからが、本当の始まりだと知らずに……
Code:4 「To defend only one」 End
to be continued next stage ....
ずっとずっと一緒―――
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