戟!撃!激!









蹴って殴って大忙し

















Intruder
43.Crash!Crash!Crash!















「いたたたた…ちょっと光陰。もう少しゆっくり歩きなさいよ」
「すまんすまん。大丈夫か?」
「全身筋肉痛みたい……」

肩を借りた今日子が、自分の体をそう評す。
《ブーストサーキット》の後遺症。
無理な体の行使は、自身の予想以上に体を痛める結果となった。
その後ろから、敗退したエルフィリアとメルビスが続く。

「お、二人とも終わったのか?」

そこに、別の通路から悠人とレインが現れた。
レインは敗退し、落ち込んでいる二人を見て苦笑。
そして言葉を告げる。

「我等も、まだまだ未熟だったな」
「……はい」
「悔しいけど、負けは負けだもんね………はぁ」

心底悔しそうにエルフィリアは溜息をつく。
そして並んで歩き、大広間に戻ると、そこには腕を組んで目を瞑るアズマリアがいた。

「ん?貴様等は終わったか」

片目を開きそう言うアズマリアに、エトランジェ3人は苦笑で返す。
まるで、自分たちが負けることなどないと言わんばかりの態度。
だが、それに対して怒る気が全く沸かないのは、この少女の力だろうか。

「で、アズマリア。真夜は?」

今日子の問いに対し、アズマリアは再び両目を閉じる。
何?と思っていた今日子だが、その理由がすぐに分かった。
近づいてきている。
打撃音と、疾駆の反響音が。
この娘は、ここでずっとその音を聞いていたのだ。
――――くる!


ドッ!ガッ!ドガァ―――!!


吹き飛ぶのはカムイ。
吹き飛ばしたのは真夜。
着地と同時に、カムイは口に溜まった血を吐き出しながら駆け出し、真夜は右の拳を振りかぶる。
放った。

「―――鉄貫!」

爆砕音と共に壁が崩落する。
撃たれた鉄貫をカムイは跳躍で回避、真夜の背後に回りこむ。

「っと、危ない危ない!」
「当たっときゃ一発で楽になれたのによ!」
「冗談!」

カムイたちのいる場所は一階。
そしてアズマリアたちは今二階にいる。
丁度、観客が見下ろす形だ。

「真夜!遊んでないでサッサと片しなさいよ!」
「うっさいぞ岬!今いいとこなんだからよ、邪魔すんな!!」

な!?と思わずハリセンに手がかかるが、それを光陰が阻止。
そして宥めるように言う。

「駄目だ今日子。あいつもう完全にスイッチ入っちまってる」
「スイッチ?」

そうだ、と光陰は言い、そして続ける。

「久しぶりの全力全開だ、多分歯止めも効かん。強い奴との喧嘩を、トコトン楽しんでやがる」

見つめる先、真夜は楽しそうにその場でステップを踏んでいる。
それに対して、アズマリアは笑っていた。
真夜が楽しいのなら、自分も楽しい。
だから、一息ついて彼に言う。

「負けるな!シンヤ!!」
「おうよ!!」

これで十分、他に言うことはない。
戦って、そして勝てば、後は彼が助けてくれる。
何時の時も、そうだったのだから。

「カムイは、我等が【死聖獣】の中でも最速最強。将とならなかったのは、彼女自身にやる気がなかったから。そう簡単に敗北はせん」
「そうか、ならいい。簡単に倒されては、シンヤもつまらんだろうからな」

だからレインの言葉にも、そう言ってやれる。
最強?
そんなもの、自分は知っている。
自分が思う最強は―――

「お前一人だ。シンヤ」

笑みを浮かべ構える真夜に、アズマリアは小さな声で、そう告げた。




Χ    Χ    Χ




「あーあ、みんなやられちゃったか。しょうがないわね」
「安心しろよ。直ぐにお前も敗者側の仲間入りだ」

首を鳴らしながらそう言う真夜に、カムイは笑みで返事をする。
相手はまだろくにオーラも展開していない。
そして自分はまだハイロゥを展開してもいない。
1ラウンド目は引き分け、といった所だろうか。

「第2ラウンドと、いきましょうか?」

世界に黒の翼が生み出される。
最速の顕在、全力の証明。
全てを蹂躙した証となる、黒のハイロゥ。

「そんじゃ、こっちもいこうか」
【ボッコボコにしてやるぜい】
「俺の真似か?」
【……そっくり?】
「ノーコメントで」

月光色のオーラが、吹き出す。
そして真夜は左手を使い、【月詠】を逆手で抜刀。
右の拳は握り締め、左の【月詠】は切っ先をカムイに向けるよう構える。
カムイも【白誇】を抜いた。
一瞬の静寂…そして両者が動き出す!

「―――ッフ!」

真夜は突きの体制から薙ぐようにして【月詠】を振る。
それをカムイは【白誇】で防御。
だが止まらない。真夜は体の開いた状態から、振り抜いた反動を使って右拳を叩き込む。

「いいぃぃぃ―――!」
「こんの!」
「―――らあ!!」

カムイはハイロゥを地面に叩きつけ回転。
その反動を利用して弾かれた【白誇】を前に持ってき、打撃を防御する。
天地が逆転した状態でカムイは打撃の反動で後ろに下がるが、それに逆らわず上に飛ぶ。
敵には翼はなく、故に空中は自分のテリトリー。
マナを溜め、腕に纏わせ、そして己の技を放つ!

「“牙天掌破”!!」

黒のマナが五指を模り、真夜に放たれる。
真夜は舌打ちを一つし、“疾空アクセル”で回避。
そして勢いを殺さぬままに、カムイに向けて魔法を撃ち込む!

「<詠唱破棄>、《夜天閃月》!!」

月光色の斬戟が、カムイを切り殺さんと殺到する。
それに対してカムイは、両腕にマナを溜め、同時に撃った。

「“牙天掌破・黒噛”!!」

二つの黒の五指があぎととなって、真夜の《夜天》を食い破る。
そして対消滅したのを見て、真夜は思考を巡らせた。

(純粋なマナによる攻撃。打撃よりも魔法攻撃に近いのか。“鉄貫”じゃ破れないな…っち、グーとパーって、ジャンケンかよ!)

「どうしたの!?もっと私を、楽しませてよ!!」
「言われなくても…一生分楽しませてやらぁ!!」

“春風桜花”を地面に叩きつけ、真夜は駆け出す。
今自分の姿は、桜花の花弁で見えないはずだ。
生まれた隙を突いて、一撃を叩き込む!

―――“死季”だと気取られる。“鉄貫”で!

打ち抜く!
体を落とし、最高速で一気にカムイの背後に回りこむ。
そして、振り被ろうとしたとき、真夜は気づいた。
カムイが、笑っていることに。

(こいつ―――!)
「同じ手は…食わないっての!!」

既に“鉄貫”の発動体制に入ってしまった真夜に、回避は取れない。
心の中で舌打ち一つ、真夜はそのまま叩き込んだ。

「“鉄貫”!!」
「“牙天掌破”!!」

轟音!
土煙が舞い上がり、二人の姿を覆い隠す。
時間にして数秒。
晴れてきた視界に映るのは、脇腹を押さえたカムイと、所々から血を流す真夜だ。
額から流れる血を拭い、真夜は頭を振りながら立ち上がる。
当たりは、した。
だが、インパクト自体は浅かったことから、大したダメージを与えられなかったのが分かる。

(マジで、あの手みたいな攻撃を何とかしねえと、勝ち目ないな)
【るなてぃっく?】
(ありゃ防げるには防げるが、同時こちらが攻撃できなくなる)

イオとの訓練から知っていたことだったが、自分は魔法攻撃に対する対策が少なすぎる。
今まで戦ってきた相手が近距離戦専門ばかりだったのが災いした。
カムイも同じタイプかと思ったが、少しばかり違いが見える。

―――近接特化に違いないが、同時魔法系統も得意って訳か。

取り敢えず、“牙天”を何とか攻略しよう。
真夜は深く息を吐き、そして吸う。
頭の中はクリア、体の傷も戦闘に支障ない。
光陰戦以来の全開戦闘だ、体が疼いて仕方ない。

「―――はは、楽しくなってきたぞ」

押されているのに、とてつもなく楽しい。
真夜は地面に口に溜まった血を吐き、そして一歩駆け出した。
策はある。
岬に教えたことと、同じだ。

「俺と共にあるものを、在るべき形で……!」

動いた。
“疾空”を使い、一気に体を全速力もっていき、カムイに向けて一直線。
それを見てカムイは真夜の真意を測りかねる。
まともに突っ込めば二の舞になることは分かり切っているはずだ。
それにも関わらず突っ込んでくるのは、何か考えがあるのか、それとも唯の直線バカか。

―――後者…ないわね。

何度かの攻防で彼がそんなへまを犯さないのは分かっている。
何か考えての攻撃、と見るのが妥当。
なら自分はどうするか?
決まっている…全力で、迎撃するのみ!

「まともに受けたら、【再生】行きよ?」
「―――!!」

広げた手を体の前で合わせる動作。
そこから生まれるのは、口を開いた黒の牙が、真夜を食い殺す動きだ。
“黒噛”が、真夜の両サイドから殺到、命中。
砂塵が、舞い上がる!
それが晴れるころカムイが見るのは、両側に月光色の盾を張り、攻撃を受け止めた真夜の姿。

「よしよし、防いだわね。それが出来なきゃ勝てないもの。今のままでも、勝てないけど」
「うっせ。いいから、来いよ!」

返事とばかりに“牙天”を放つ。
それを<詠唱破棄>で言霊を削った《ルナティックアイギス》で受け止め、しかし勢いを殺せず真夜は後方に吹き飛ばされた。
壁にぶつかり、真夜は意識が飛びそうになるが、何とか堪える。
そして、肩で息をしながら立ち上がった。

「いつつつ…あー、頭ガンガンする……」
「油断してる…場合!?」

瓦礫から出たところを再びカムイの“牙天”が襲う。
しかし、真夜は避けることなく盾で防いで受け止めた。
動きが止まる。
それを好機とし、カムイは連続で“牙天”を撃った。
黒の掌底が、次々と真夜に殺到する!




Χ    Χ    Χ




「終わりだな。ああなれば最早防御で手一杯。反撃の余地すらないだろう」
「………」

レインの言葉に、アズマリアは何も答えることなく、唯真夜のことだけを見ている。
もう勝負は見えた。
これ以上の戦いは、無駄な血を流すだけとなる。
レインはそう思案し、腕を組んだ。
自分等は最早戦いに負けている。
例えここでカムイが勝っても、自分“たち”は負けたのだ。
それは揺るがないし、変えようがない。
だから、カムイに攻撃を止めるよう言おうとしたとき、隣にいた悠人がぽつりと言った。

「なんか、おかしくないか?真夜の奴」
「おかしい?」

光陰の問いに悠人は首を縦に振る。

「何時もなら“疾空”で回避するなり、《夜天閃月》で相殺するなりするのに、今回はそれをしないで防御ばかりだ。あいつらしくない…ていうか―――」
「本気でやってないってこと?」
「うーん…そうだな、そんな感じだ」

今日子の問いに肯定で返して、悠人は再び真夜を見た。
その時、彼の変化に気づく。
盾の効果範囲が、狭まってきているのだ。
前回や、先程発動したとき、真夜の《ルナティックアイギス》は彼の体一つ覆う大きさ。
それか体をすっぽり覆うものだった。
しかし今では、それが先より小さなものになっている。
これは……

「レイン、貴様最早反撃すら出来ぬといったな」
「……ああ」

口を開いたアズマリアの威圧感に、レインは少し驚きながら答える。
押されているのに、何だというのか、この自信は。
それとも、シンヤがこの状態から勝てると思っているのだろうか。

「見ておけ。貴様の憶測、当たりはしないとな」
「その根拠は?」

にやりと笑い、アズマリアははっきりと答えた。

「私は闘いのことを知らないが、これだけは分かる。シンヤは強く、誰にも負けない。だから、貴様の推理が外れるのは必然だ」

フフン、と胸を反らすアズマリアを見つめ、そして周りの仲間たちが笑い出す。
そんな情景を、レインはポカンとしながら見ていた。
そして、膠着していた戦いが動き出す。




Χ    Χ    Χ




「あんた、どういうつもり?」

肩で息をし、撃つのを止めたカムイは、瓦礫の中にいるであろう真夜に向けて言う。
全ての攻撃を、彼は避けることも弾き返すこともなく受け止めた。
何のつもりだというのだろうか。
そしてその答えが…でる。
砂塵の中から出てきた真夜の体は、ほぼ無傷。
そして、彼の両腕には、腕全部を覆うほどの盾が張られていた。

「何よ…それ?」
「俺の対魔法防御は、《ルナティックアイギス》一つだけ。それも一度展開すると攻撃できないものだった」

だから、と真夜は続ける。

「これが俺の、一つの答え。障壁の有効範囲を狭めて、防御と同時に攻撃を行えるようにした、新しい《アイギス》」
「―――まさかあんた…私の攻撃を、練習台に……!?」
「さんきゅ。おかげで大分、慣れてきたぜ」

腕を回して深呼吸。
そして真夜は前に出る。
振り抜かれた斬戟を受け止めながら、カムイは己の失態に舌打ちをついた。
報告で知っていたはずだ。
彼は、カンナギ・シンヤは実戦の中で急激に成長すると。

「行くぜ?これが俺の、全力全開!!」
「―――っく!」


ガギャ!ゴ!ガガッガガガガガ!斬!ギャギャ!ガギィ!ガッ!ギャオ―――!!


逆手に構えた【月詠】と、握った右拳で休むことなく真夜は連撃を叩き込む。
カムイはそれを、【白誇】と左手で受け止めていた。
しかし、次第に押され始める。
スピード自体はカムイが上、しかしパワーに関しては真夜が上だ。
このままでは押されて終わる。
そう感じたカムイはハイロゥを全開にして飛び下がる。
そして着地と共に、後方に下がったベクトルを押し戻すように、踏み込み放つ!

「“黒噛”!!」

両腕からの“牙天”が、真夜に向けて放たれる。
それは真っ直ぐに飛び、命中。
視界が砂塵で塞がれる。
倒したとは思えない。
防御したことを前提に、カムイは砂塵から現れるであろう真夜に対し身構えた。
しかし、晴れた先には…いない!

「―――甘えよ」
「……!」

後ろ!?
カムイは声がした背後を振り返る。
そこには、月光色の両翼を生やした真夜。

「“裂空フル・アクセル”。結構速いだろ?」

先程までの《アイギス》は囮!
練習台にし、完成させたことによって相手にそれを印象付ける。
それによって、自分は相手が徹底して“防御”すると、錯覚させられてしまった。

「―――んの!」
「だから、甘いって」

パンッ!と音がして、放った直後の“牙天”が、《ルナティックアイギス》によって止められる。
“牙天”の弱点は、打ち出した直後から、次第に攻撃範囲があがっていくこと。
故に打ち出した瞬間は拳大の効果範囲しかない。
ならば、その出だしで止めてしまえば―――

「少ない障壁で止められる。だろ?」
「くっ―――!」
「悪りーな。終わりだ!!」

腹部を襲う衝撃。
“鉄貫”の打撃よってカムイは体を浮かし、吹き飛ばされる。
瓦礫を巻き上げ、壁を崩落させ、数メートル飛ばされてカムイの体はやっと止まった。
五指に力を込めようとするが、叶わない。
天井を見ながら、カムイは溜息を一つ。
戦闘不能、自分の負けだ。

「よう、気分はどうだ」
「……決まってんでしょ、最悪よ」

でも、と視界を塞ぐ真夜を見て、カムイは笑った。

「最高に、楽しかった」
「……そうか。俺もだ」

負けたのに、悔しいのに、何故だか頬が緩んでしまう。
すっきりした気分で、カムイは差し出された真夜の右手を握り締めた。




Χ    Χ    Χ




アズマリアはレインが運び、【来訪者】と【死聖獣】は下に降りる。
駆け寄る皆を置き、アズマリアは立ち止まり安堵の笑みを浮かべた。
よかった、誰も死なずに済んで。
無傷とはいかないが、誰一人欠けることなく戦いが終わった。
皆の、おかげだ。
殺さず倒す、と言うのは恐らく想像以上の労苦だろう。
しかし、それでもそれを実現してくれた皆には、感謝してもし切れない。
今日子にハリセンで殴られる真夜を見て、周りの皆が笑っている。
良かった、本当―――

「全く、何をしているのですかねえ」

背筋の凍るような声が、アズマリアの直ぐ背後からした。
それに対し振り返るよりも早く、アズマリアは己の体が拘束されたことを知る。
だが、知っていた。
一度聞いたことがある、かつてラキオスを裏切った訓練士。
名は―――

「お初にお目にかかります、幼い女王様。私、ソーマ・ル・ソーマと申します」

一息。

「あなたに、絶望を与える者です」













<あとがき>

すごい執筆スピードで書き上げましーた、第43話「戟!撃!激!」

遂に対カムイ戦終了、しかし終わらない「死聖獣激突篇」。
ここでソーマか!と思っていただければおしょうも考えた甲斐がありますw

魔法戦、剣での攻防、ときて最後は拳と拳のガチンコバトル。
いや、正確には拳じゃないんですが…まあそこは気にしない方向で(汗
真夜が珍しく頭を使った戦い方をしています。
まあ、割と書いてるうちに浮かんだ戦いだったのですが、上手く終わらせられたかなあと……
久しぶりに「殺さない」戦いを書いたので、色々考えなきゃいけないのが面倒だ(ぇー

それでは、次回もお楽しみにノシ

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