蒼の騎士

金属が、けたたましくぶつかり合う音がする。
擦れ合い、激突し、また離れる。
それを繰り返すことで、断続的に不協和音が鳴り響いていた。
そしてまた、鳴る。

「“フ・レ・ン・ジ―――”!!」
「“インパルスブロウ”、行くぞ!!」

初太刀はレインから。
振りぬかれる【青劉】を、悠人は避わすことなく【求め】で以って打ち弾く。
そしてそのまま、振り下ろした刃をレインに向け直し、斬り上げの動作。
しかしそれをレインは障壁で一瞬だけ防ぎ、生まれた刹那の隙を突いて飛び下がった。

「……型は荒いが、いい動きだ。流石は龍の同盟を一つに纏めただけはある」
「はは、ありがとよ」

コッコ、とつま先で地面を叩きながら、悠人はそう答える。
流石は……
果たして自分はそう言われるだけの存在だろうか。
そう誇っていいだけの、人間だろうか。

『ん……自信もて、ユート』

聞いたらきっとそう言うだろう、最愛の相手が頭に浮か、思わず吹き出してしまった。
そうだ、俺は俺に出来ることをやってきた。
けど、やはりそれは自分の力だけじゃあない。

「俺は俺の力だけじゃここまで来れなかった。それに、そんなに俺、強くないぞ?光陰より防御下手だし、今日子みたく雷とか出せないし、真夜みたいに速く動けるわけじゃない」

そう言う悠人に対して、レインはにやりと笑った。
そして、手にした【青劉】を上へと掲げる。

「私とて同じだ。カムイのように機敏に動けるわけではない。メルビスのように硬い防御があるわけでもない。エルフィリアのように強力な炎が使えるわけでも、勿論ない」

とレインは言い、そして一息。

「唯一つ、全てを打ち抜く一撃があるのみ」

それに対して、悠人も笑った。
オーラを展開。
【誓い】がすぐ傍にいる今、同調が過ぎると意識を持っていかれる可能性が高い。
自分と、我慢のきかないバカとの、意識の融和がない程度に。
それで勝てるかと聞かれれば疑問だが、乗っ取られながら戦うのは嫌だ。
なぜなら、彼女はどことなく、自分に似ているから

「奇遇だな。俺もだ!!」

二つの力が、悲鳴を上げて衝突する。

















Intruder
42.blue knight^prid is always with me^

















「やってるわね、レイン」

パンパン、と体についた埃を払いながら、カムイは視線を天井へと向けた。
断続的な剣戟音。
そして感じ取れる二つの剣の力。
剣としての力だけなら、敵のほうが確実に上だろう。
剣の支配を看破し、全ての力を引き出せる今でも、やはり高位神剣との性能差は多少ある。
それでも負けはしないだろう。
何しろ彼女は―――

「レインは私たちの将なんだから、負けるわけない」
「そりゃどうかな?」

崩落音。
崩れ落ちた壁から現れたのは、真夜だ。
血のついた口元を拭い、先ほど自分がしたように埃を払うと、上を見ながら話し出す。

「うちの隊長も強いぜ?少なくとも俺と同等、いや、それ以上だ」
「データだとあんたのが強いってなってるけど」
「計り間違いだ。ばーか」

カチンときたが、ここは我慢。
落ち着きなさい、カムイ。
私は大人、そう大人なの。
あんなガキに一々反応してたら駄目よ。

「お前さ。想いと力って繋がってると思う?」
「………?」
「あいつはそういう奴なんだよ。強い想いが、力を呼ぶ。」

羨ましいよな、と苦笑いをこぼしながら、真夜は続ける。

「俺には無理だ。俺に出来るのは、強くなって自分の想いを力で以って示す事だけ。近いようで遠いぜ?想いを力に変えるのと、力を想いに変えるのは。それが出来るあいつは、きっと誰より強い」

その目にあるのは、一抹の嫉妬と羨望。
こいつもこんな顔をするのか、とカムイは不覚にも見入ってしまった。
そんな自分に気づいたのか、真夜がこちらに視線を向ける。

「何だよ。ジッと見やがって気持ち悪りー」
「な、何でもないわよ!唯、あんたもそんな顔するんだと思っただけ」
「俺を何だと思ってやがる……」
「なんにも考えてない、喧嘩バカ」
「テメェにだけは言われたくねえよ、バカ野郎」

カチンときた。
またバカって言った。
さっきから人のことバカ呼ばわりで、いい加減大人な自分でも我慢がきかなくなってくる。
大体バカバカって、彼も大概バカではないか。
むぐぐぐぐ……

「……バカ」
「何だバカ」
「ま、またバカって言ったぁ!」
「ふふふふふ、だから何だってんだ?」
「ほ、他にあるでしょ!他に!!」

うーん、と真夜はカムイを上から下まで見て、一言。

「貧乳」

ブチィ―――

「む、む、む、胸は関係ないでしょうがーーーー!!!」

やり取りが限りなく子どもな感じで、再び戦闘が開始された。




]   ]   ]




「ふううぅぅぅ―――」

キイィィィ、と腹の底から響くのような音を上げ、悠人は己の中に眠る力を引き出していく。
これ以上は、危険だ。
バカ剣の声が近い。
頭の中を殴りつけられるような感覚に、意識が飛びそうになる。
だが堪えた。
ここで負けたら、自分がいる意味などない。

「無茶をするな。傍から見ても辛いのが分かるぞ」
「そういう訳にも、いかないだろ。俺がアンタに勝つには、これぐらいしなきゃいけないみたいだしな」

体を低く落とし、そして一気に加速。
【求め】を担ぐようにして、そして振り下ろす。
レインは黒のハイロゥを大きく広げ、体を上空に。
落とした視線の先には、【求め】のインパクトによって作られた巨大なクレーターだ。
しかし、悠人の姿は、ない。

「―――上か!!」
「そうだよ!」

翼で浮く自分よりも上。
そこにいるのは魔法陣を展開した悠人だ。
巨大な球状のオーラの塊を翳し、そして撃つ。

「《オーラフォトンビィィィム》!!!」

発動する魔法。
一条の光のが力となって、レインに向かって降り注いだ。
速度は速く、回避は不可能。
レインは【青劉】を翳し、それを受け止める!

「うっぐ!」

重い。
光がまるで質量のように、レインの両腕に圧力をかける。
負ける、負ける?
まだだ。
自分は【黄金漆黒】一撃も受け止めた。
なら、これを弾けぬ道理はない!!

「ああああ゛あ゛あ゛あ゛―――!!!」

纏うのは水と氷。
【青劉】から力を引き出し、レインは“水天蒼戟”で悠人の《オーラフォトンビーム》を弾いた。
ケリをつける形で放った一撃が逸らされ、悠人は目を見開く。

「我が“水天蒼戟”。あらゆる物を斬る水氷の刃。そう易々とやられはせんぞ!」
「こなくそ!」

空中では行動不可。
それを理解して、一撃で決めるつもりが、逆に大きな隙を与えてしまった。
翼を広げ、こちらに向かってくるレインに、こちらが抗う術はない。
悠人は意識を集中させ、最大出力で防御壁を展開する。

「通れ!」
「通すか!」

光を飛ばしながら、【青劉】の刀身が障壁に衝突する。
悠人は限界までオーラを高め、そしてその攻撃を受け止めた。
重い。
今までにない圧力に悠人は驚愕し、同時相手の力を素直に認める。
だが、届かせはしない!

「踏ん張れバカ剣!ここでやられたら、【誓い】どころじゃないぞ!!」

グンッと、体に更に力を込め、そして剣で弾く。
両者の体は再び地上へ。
悠人は呼吸を荒げながら、何とか立ち上がっていた。

【契約者よ、早く誓いを滅ぼせ。このような敵、相手にしている暇などない】
「うっさい。お前になくても、俺にはあるんだ。お前、俺に死なれたら困るだろ?だったら、もうチョイ本気出せよ!!」

声はない。
沈黙されると相手の考えていることが分からない悠人は、駄目か、と構え直した。
別に構わない。
出せればその方がいいだろうが、それがなくても戦えなければ、自分はきっとこれから先も自分に言い訳してしまう。
“剣が力を貸してくれなかったから”なんて情けない言い訳は、するつもりはない。
肺に溜まった酸素を吐き出し、そして吸う。
やる、やってやる。
そうでなければ、何のための力だろう。

【……フン、好きにしろ。サッサと斃せ】
「貸してくれるのか?お前にしては珍しいな」
【そうだな…酔狂と、言っておこうか!】

吹き上がるオーラ、巻き上がる力の顕在。
白のそれは、全てを浄化する光にも見える。
レインはその光を見、そして自分の羽根に触れた。

―――自分とは、正反対だな。

分かりきっていることだ。
穢れた体、堕天した心。
そんな自分達を、彼女は、幼い王女は生かせと言った。
感傷か、気まぐれか。
その真意は分からないし、知る必要もない。
なぜなら、ここで戦って死ぬか、勝って他の敵に殺されるかのどちらだから。
全ての終わりが死。
何人も犯せぬ平等。
それが、少し早くなるだけのことだ。

「決着をつけよう。レイン」
「ああ、いいだろう。私に殺されて、死ね」

殺す。
それは帝国の為ではなく、【誓い】の為ではなく、唯自身の誇りのために。
エトランジェを殺した妖精と、己に誇れる何かを残す為に。

「“水天蒼戟・討花”。これで最後だ」
「“オーラフォトンブレード”。行くぞ……!」

動く。
レインは黒翼を最大限にまで広げ、悠人は地面が陥没するほど蹴り上げて。
斬戟から刺突へと攻撃を変化させた“討花”と、オーラを極限まで集約した“オーラフォトンブレード”が戟音を奏でる。

―――ここ!

一度ウルカに教わった、繋げる動き。
衝撃をずらしながら、悠人は体を回転させ更に剣を振る。
レインは水氷を纏わせたままそれを迎撃、更に剣戟によるプレッシャーが大きくなる!

「うぉぉぉぉぉ!!!」
「はぁぁぁぁぁ!!!」


ガ!ガキィ!ゴ!ガガガガガ!ガキ!ゴガッ!ギャギィィィィ―――!!


白と蒼の円舞が、室内に響き渡る。
攻める、攻める、攻める―――
悠人の攻撃は更に加速し、攻撃のスパンは短くなり、徐々にレインを押し始める。
轟、と音がし、遂に【青劉】を弾かれたレインは、体を開く形で悠人の前に立つことになった。
レインは静かに目を閉じ、そして告げる。

「私は、強かったか?」
「―――ああ、滅茶苦茶」

そうか、と微笑み最後の一撃に備える。
しかし、何時まで経っても身を貫く衝撃は来ない。
そして目を開いた先にいるのは、剣を収めた悠人。

「貴様…何故殺さない!!私に、生き恥を晒させるつもりか!!」
「あんたがそう思うのは自由だけど、俺はアンタを殺せないよ」

疲れたように溜息をつき、ぽりぽりと頭をかく。

「俺が言われたのは、叩き潰せまでだ。そこから先は知らないな」
「な……!?」
「それに、あんたは強いけど、もっと強くなれるだろ?」

ニッと笑いながらそう言う悠人に、レインは呆然としてしまった。
殺さないと、言うのか。
あの少女の願いを、本当に叶えようと?

「強くなって、お前を殺すやも知れんぞ?」
「そのときは、また俺が勝てばいいだけだろ?」

何も迷いなくそう答える悠人に、レインは戦意を殺がれる。
周りのマナの衝突は、ほぼ消えていた。
そしてエルの神剣の気配も、メルビスのそれも消えていない。
残っているのは、一番の問題児だけ。

「はは―――。いいだろう、私の負けだ。私の仲間も、お前の友人等に負けたようだからな」

残る戦力はあと一人。
仮に勝ったとして1対3だ、まず勝ち目はないだろう。
しかし、あの娘はそんなことを考えて戦えるタイプではない。

「だが、最後は勝たせてもらうぞ?」
「出来るかな?」

衝突する二つの神剣の気配を感じながら、悠人はそう言って笑う。

「真夜は強いぞ?きっと今ここにいる誰よりも」
「その根拠は?」

そう問うレインに、悠人は当然のように答えた。

「アズマリアを守る為なら、あいつは誰にだって負けるはずない」

何故なら―――

「あいつはあの娘の、たった一人の勇者だから」











<あとがき>

ふぃー。書き上げたぜい42話「蒼の騎士〜誇りは常に我とありて〜」

今日子に続き、今回は悠人君に頑張ってもらいました。
特殊なスキルは登場せず、あくまで正統派な剣と剣のバトル。
あれだよ?ネタがなかったとかじゃないからね?(ぇー

今回話の中で真夜が悠人のことを、悠人が真夜のことを語っています。
ちょっぴり嫉妬したりしている真夜。
どんなに仲のよい相手でも、人のことを羨み妬む感情はあるんじゃないでしょうか。

次回は待ちに待った(?)真夜v.s.カムイ戦。
似たもの同士のガチンコバトル、どうぞお楽しみに。

-Powered by HTML DWARF-