輝く剣・弐〜雷鳴〜

響く。
廊下となる狭い空間を、二つの黒が駆け抜ける。
一つは黒髪に黒のコートを羽織った男。
もう一人は白を基調とした戦闘服を着た黒髪の女。
互いに金と銀の瞳を輝かせ、ぶつかり合い、弾き合い、そしてまた激突する。
地を、壁を、天井を蹴りながら、二人は再び広場へ。
空中で拳を交差させ、鈍い音を上げながら間合いを開いた。

「ったいわね!乙女の柔肌を思い切り殴りつけるなんて!!」
「うっせ!お互い様だこの野郎!!」

プッと口に溜まった血を吐きながら真夜はコートを翻し目の前の敵、カムイを見る。
ハイロゥはまだ展開していない。
剣も互いに抜いていない。

「……あんた、本気で私たちを跪かせるつもり?出来ると思ってんの?」
「知るか。出来る出来ないを論ずるつもりはないね」

真夜は腰をかがめ、深く体を沈める。
それは一発を打ち込むための動作。
荒れた呼吸を整え、意識を一点に。
振りかぶった右拳を、硬く握る。

「やるんだ。それがあいつの望みなら、叶えるのが俺の仕事だからな」
「ふーん」

クック、と笑いながらカムイはその場で軽く飛ぶ。
そして構えを取った。

「いいじゃねえか。お前は俺を殺そうとする。俺はお前を叩き潰す。結果は違えどやるこた一緒だ」
「ま、それもそうね」

嫌いじゃない。
カムイはそう思う。
考えなくていいのは楽だ。
今はただ、この男を斃すことだけを考えればいい。
自分の望んだ舞台。
己を奮い立たせる最高の相手。
それがあれば、他に何が必要だろう。

「行くわよ?」
「返事はいるか?」

そして再び、打撃音が響き渡った。

















Intruder
41.lightning sword 2^thunderclap^

















「さ・て・と」

啼く。
それは悲鳴にも似た雷鳴音。
紫電を迸らせながら、今日子は目の前の敵を見ていた。

―――殺すな。叩き潰せ、ね。

悪くない。
彼女らしい命令だと思う。
優しい、それでいて強い魂を持つ少女。
自分が、いつかああなりたいと、そう思える少女。
その少女が、自分に一つお願いをしてくれた。
それを叶えられなくて、どうして彼女のようになれるだろうか。

「光陰。サポートよろしく」
「りょーかい。向こうも二人で来るみたいだしな」

エルフィリアの前に立つメルビスに視線を離さず光陰が答える。
前回はエルフィリアが割って入って勝負は引き分け。

「―――今度は、俺が勝って一勝一分けだ」
「私が勝って、一勝一分けです」

三又の槍、【玄舞】を構えメルビスは光陰を見る。
展開。
黒塗りの盾が、スフィアが天輪から形を変え、世界に顕在される。

「エル。私が防ぐから、詠唱を」
「分かった!い・く・よ……!!」

周囲の温度が上がりだす。
世界のマナが火を噴き、魔方陣を展開し、詠唱と共にその熱量を増していく。
それを見た今日子は、すぐさま駆け出した。

「んなこと、させますか!」
「させるのが、私の仕事ですから」

激突!
紫電を纏う【空虚】の切っ先と、メルビスのシールドハイロゥが火花を上げる。
今日子は腕を引き、更に一撃。
しかし、それでもメルビスの防御を看破出来ない。

―――硬い!

雷すら防ぐ硬質な防御。
通らない、通さない。
一転に集約した力が、あらゆる攻撃を無効化する。

「今日子、どいてろ!はああぁぁぁ!!」

“ゲイル”が激突し、破砕音が響き渡る!
だが、それでも罅が入るのみ。
“鉄貫”すら通さなかった、最大最硬の防御概念が全ての攻撃を受け止める。

「こな―――!」
「―――くそ!!」
「残念ですが、時間切れです……エル」
「《アークフレア・デビルクロウシフト》」

火は力。
そして全ての破壊を司る。
それが爪を模り、五指で以って今日子と光陰を握り潰さんと襲い掛かる。
二人は揃って舌打ち、各々の詠唱を開始し、爆裂させた。

「《トラスケード》!!」
「《ライトニングブラスト》!!」

雷撃が地から“落ち”、爪の一部を破壊。
しかし残った攻撃を、萌黄の障壁が受け止める。

「グググググッ!【因果】の防御は――世界一ぃぃぃ!!」

込める力を更に加えて、光陰は焔を押し返し霧散させる。
そこで攻防は止まらない。
今日子は更に、追撃の一撃を喰らわせる!

「もう一度、《ライトニングブラスト》!」
「まだまだ!《イグニッション・ドライブ》!!」

雷撃と焔撃がぶつかり合う。
しかし効果範囲を敵一人に集中させた《イグニッション》が拮抗を押し返した。
やば、と思う今日子の前に立つのは、術式を組み終えた光陰。
轟音で声がかき消されながらも展開した《プロテクション》が、威力を殺された《イグニッション》を打ち消す。
時間にして数分、互いの距離は再び開いていた。

「うーん、参ったな。あのメルビスって娘を何とかしないと、どうにもならんぞ」
「分かってるわよ。だから、何とかしましょ」

放つは紫電。
纏うは雷撃。
自分が出しているそれを見ながら、今日子は一歩、前に出る。
どうすればいいのかは分からない。
策があるわけでもない。
けれど、自分には力がある。

「そうでしょう?」

今日子はそう言いながら、過去へと意識を飛ばした。




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リエルラエル駐屯地。
仮訓練場にて……

「あ・た・れ!!」
「無茶言うな!!」

雷鳴音。
穿つ様に放たれたそれを真夜は“疾空アクセル”を使い紙一重で避わす。
そして加速したまま今日子に接近。
【月詠】を薙ぐようにして振る。

「―――っく!」

それを今日子は【空虚】で防ぎ、そして攻撃へと転じようとする。
だがそれより早く、真夜は今日子から間合いを外していた。

「っか―――!腹立つわねー!」
「いや、俺も怪我したくないしな」

今日子の戦闘スタイルはレイピア型の神剣による、突きを主体とした攻撃だ。
だが、そもそも突きとは一撃に特化した攻撃手段であり、連続の使用は難しい。
更に、必要以上間合いを狭めると攻撃が通りにくくなる欠点もある。
遠距離戦はともかく、肉弾戦となると扱い辛い。
【空虚】の支配から逃れた今、今日子はその接近戦の段階で頭を悩ませられる事態となってしまった。

「う〜ん…レイピアなだけ攻撃手段が限られるのよねえ……ていうか突きしか相手に対して有効打にならないし」

だな、と【月詠】を収めた真夜が言う。
何か話をしている彼を見て、不覚にも羨ましいと思ってしまった。
前に少しだけ会話をした事があるが、真夜の神剣はとても無垢だ。
そして、一途なまでに真夜を溺愛している。
愛し愛される関係のうえに成り立つ契約。
自分とは正反対だ。

―――ううん。違う。

彼には彼なりの苦労も、苦難もあっただろう。
殺した数も、犯した咎も、きっと光陰のおかげで極力戦わずに済んだ自分以上のはずだ。
それでも、今彼は笑っている。
強いな…私まだ、弱い。

「―――だから…ておい、聞いてんのか?」
「へ?ええっと……」

知らないうちに不覚まで思考を落としていたらしい。
ッたく、と言いながら腕を組む真夜を見て、一つ自分に気合を入れた。
変わろう。
そう決めたんだ。
悠に助けられ、光陰に助けられ、真夜に助けられたあの日から。
変われる。
きっと大丈夫。
だって、私は私なんだから。

「っで、何?」
「だからだな。お前にあって、俺や悠人。光陰にない物は何だって言ってんだ」
「………は?」

私にしかないもの?
そう言われて、今日子は思案する。
口元に手を当て数秒、閃いたように手を打った。

「乙女心!」
「俺は割と真剣な話をしてるんだが……」

目を細め声を一オクターブ下げた真夜に、今日子は慌てて考え直す。
その間に「そもそもお前に乙女心って―――」とまで言った真夜を、ハリセンで殴り飛ばすことも忘れない。
戦闘と言う局面において、自分だけにしか持ち得ないもの。
それは一体……

「真夜」
「教えないぞ?」

う゛……と漏らす今日子に、真夜は苦笑いを浮かべる。

「多分光陰とかに聞いても教えてくれないだろうな。こういうのは、自分で何とか見つけ出すもんだ」
「……ヒントは?」

そうだな、と視線をめぐらし、真夜は一言。

「お前はそれと、共にある」
「……はい?」
「以上、こっから先は自分で考えろ」

憎たらしい笑顔を残し、訓練場から消えていった真夜を見て、今日子は再び思考をめぐらせる。
私だけにあって、常に私と共にあるもの。
それは?それは、それは―――




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「光陰、私があの娘の防御を崩すから、その後よろしく」
「赤髪の子はいいのか?」
「あの娘には借りがあるの。私がきちんと返さなきゃね」

そうかい、と笑いながら構える光陰を見て、今日子は一つ息を吐いた。
大丈夫、出来る。
答えは見つけた。
それを今、ここで出す。

「我は汝と共にあり、汝は我と共にある。空を切り、海を裂き、大地を穿つ雷よ。今一時、我に力を与えよ……《ブーストサーキット》!!」

魔法陣の形成。
しかし、それは世界に何の変化も与えない。
与えるのは、“世界”にではなく、“今日子”にだ。
表面上は何も変わらない。
だが、内から感じる何かに、メルビスは警戒を示す。

「行・く・わ・よ!!」

動いた。
初動は速いが、しかし追いきれないほどではない。
最高速も変わっていない。
だがメルビスは油断していなかった。
先ほどの詠唱の効果は知らないが、相手は【来訪者】。
油断して勝てると思うほど、自分は愚かではない。

「“イクシード”!!」
「“デボテッドブロック”。受けて」

雷撃を纏う今日子の【空虚】と、メルビスの張った硬質なバリアが衝突する。
ぶつかり合う力と力は大気を捻じ曲げ、風圧と言う名の衝撃を生む。
しかし、やはり防御は看破出来ない。
相手の攻撃に不信感を抱きながらも、メルビスは油断なくシールドを維持するため、マナを再供給しようとした。
だが、その時変化が起こる。

「だっらあ!!」
「―――!?」

予測より早い二撃目が、“デボテッドブロック”を突き破らんとする!
おかしい。
そうメルビスは思う。
敵の攻撃は加速を乗せた突き。
通常ならそこから一度引き、そしてもう一度突き出すと言う動作が必要だ。
なら何故、彼女はここまで早く二撃目を叩き込める!?

「知ってる?人間の筋肉って、体を流れる電気信号で動いてるんだって」
「……!まさか」
「そう、《ブーストサーキット》は私の体を流れる電気信号を、無理矢理加速させる魔法。しんどいのよ、これ。だからさっさと倒れちゃって!!」

加速、加速、加速。
突きから突きへの連続攻撃は、エトランジェの力で強化された肉体を酷使し、更にスピードを上げていく。
壁だ。
突きによって生まれた壁が、メルビスの防御を突き破らんと吼える。

「通れ!“サザンラッシュ”!!」

ブチ破る!!
千の穿戟が、遂にメルビスの防御を看破した。
そして来るのは、光陰の一撃。

「そんじゃ、締めといこうか!」
「―――っく!」

金属音を響かせ、【因果】と【玄武】がぶつかり合う。
柄で受け止めたメルビスだが、光陰の一撃は重く、押しつぶされそうになるのを何とか堪えるのが精一杯。
剣と剣が悲鳴のような音を上げながら、二人の間合いが開いた。
だが止まらない。
光陰は勢いのまま、メルビスに更なる一撃を与えようと駆ける。
巨大な太刀による薙ぎ払い。
一度シールドを破壊されたメルビスにとって、すぐさま新たなシールドを張る術はない。
ここまで―――

「―――何故、止めを刺さないのですか」
「女王様の命令だからな。知ってるだろ?俺らは王族に歯向かえないんだよ」

首の真横で止められた【因果】を見、そして問うメルビスに対し、光陰はそう言って笑う。
それに対してメルビスは呆気にとられてしまった。
本当に、殺すつもりがなかったと言うのか、この人は。


バチィ―――!
ゴアァ―――!


その時、背後から聞こえる二つの音に、メルビスは振り返る。
そこには、炎と雷を纏う二人の少女。

「“緋炎脚”!!」
「“イクシード”!!」

焔を乗せ威力を高めたエルフィリアと、雷撃を付加した今日子の【空虚】がぶつかり合いせめぎ合う。
今日子の呼吸は激しい。
それもそうだろう、通常の動きの限界速度を、無理矢理上げているのだ。
疲労が溜まり、体に異常をきたす事もある。
それでも止まらない。
否、止まれない。

「はっ―――!」
「―――あぁ!!」

一際大きな音を上げ、二人の間合いは大きく開く。
二人の表情は、笑顔だ。

「えへへ、結構やるね。見直したよ」
「当たり前でしょ?誰だと思ってるのよ」

両者の足元には、それぞれ赤と紫の魔方陣が浮かび上がる。
全ての力を、この一撃に……

「最後はパッと行きましょ?」
「そうだね。エルもその方が、楽しいや!」

術式生成。
頭の中に浮かび上がる死の方程式を、正確に繋ぎ合わせ、纏め上げ、形にする。
エルフィリアの周囲の温度は一気に上がり、それによって生み出された上昇気流が、彼女の体を浮かさんとするように激しく吼える。
それに対し、今日子は【空虚】の切っ先をエルフィリアに向けたまま、静かに詠唱を続けていた。
魔方陣は更に輝きを増し、抑え切れない雷のマナが、世界に放たれ暴れだす。
そして、同時に放った。
己が最高の魔術を。

「《アポカリプス・パーガトリィ》!!」
「《サンダー、ストーム》」

轟音。
もはや互いの声は聞こえず、唯々雷鳴と炎獄とがぶつかり合う音のみとなる。
違う。
雷が炎を切り裂く音だ。

「雷は、火すら裂くわよ?」

そんな声が、轟音の中やけに鮮明に聞こえる。
その声は自分の真上から。
エルフィリアはそれに対して上を見た。
今日子だ。
術式を展開し、それを一瞬で全開放。
そして移動してきたと言うのか。
防御は、出来ない。
反撃は、無理だ。
振りかぶる今日子に対し、エルフィリアは溜息を漏らす。

―――あ〜あ。強くなったと思ったのになあ……

そして静かに目を閉じ―――


バシイィィィ!!


来るのは衝撃。
鈍いものではない。
頭の芯まで響くような、そんな一撃にエルフィリアは再び目を開け、そして驚愕する。
今日子の手に握られているものは、【空虚】ではない。
白い、見たこともない武器。

「な、に……それ?」
「知らないの?じゃあ覚えてなさい。ハイペリアに古来から伝わる最強の武器―――」

一息。
今日子はそれを肩に担ぎ、楽しそうに答えた。

「ハリセンよ」













<あとがき>

今日子ちん大活躍の第41話「輝く剣・弐〜雷鳴〜」でした。

正直最後のがやりたかった(ぇー
エルフィリアの魔法名ですが、これは唯単純に他のキャラと区別したかったから。
最初に浮かんだのが《イグニッション・ドライブ》ですね。

更に今日子のオリジナルスキル、《ブーストサーキット》の登場です。
視覚で認識してから動き出すまでの時間。そして単純に動きの一つ一つの切り替え時のタイムロスの削減。
今日子を活躍させようと考えているうちに閃いたのですが、雷と言う特性を上手く使えたかなあと……
オーラに明確な属性があるのは彼女だけですから。

次回は悠人君に活躍してもらう予定。お楽しみにノシ

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