叩き潰せ!!!〜弐〜

「参ったな」
「……ああ」

リレルラエル簡易詰所。
部隊を後退させ、一度戻ってきた悠人と光陰は顔を見合わせる。
今日子と真夜が、敵スピリットに負傷させられたと聞き、一旦撤退したのだ。
ここにいるのは、悠人、光陰、今日子、エスペリア。
そして―――

「今日子、傷は大丈夫か?」
「大丈夫大丈夫、ハリオンが回復してくれたから」
「で、これからどうするかだが……」
「…テメエら、これほどけーーーー!!」

手首を縛られ暴れる真夜。
怪我自体は“鬼”の能力で大部分回復していた彼は、戦闘後の負傷は見られなかった。

「駄目だ。ほっといたら勝手に助けに行くだろうが」
「ったり前だろうが!サッサとこれ外せ!!」
「今日子」
「了解」

閃光
【空虚】から放たれた紫電が真夜を撃ち、それによって真夜は倒れる。
黙してしまった真夜に、悠人は少しやり過ぎではなかろうかとも思いながら、皆に対して喋りだした。

「向こうの狙いは戦力の分散、だろうな」
「はい。向こうは【来訪者】級が4人。助けに行こうとすれば、確実にこちらは戦力を割かざるを得ません」

悠人の意見にエスペリアは頷く。
光陰と今日子もそれは分かっているらしく、どう対処するか考えているようだった。
そして悠人も思考する。
不意打ちとは言え、今日子を2人がかりで倒し、そして真夜に手傷を負わせた。
敵の実力は本物だ。
助けるには、こちらの侵攻を止め、兵をそちらに回し、防衛に徹するのが得策か。

―――佳織……

帝国の中枢にいる義妹の姿を思い起こす。
感じるのは焦燥。
それを顔に出すのを抑えてはいるが、やはり今すぐにでも攻め込みたい。
だが、だからこそ悠人は真夜の思いが分かっていた。
起き抜けに一人でアズマリアを助けに行こうとした彼の姿を思い出す。

『危険!?ふざけんな!アズマリアのほうがもっと危険な目にあってるかもしれねえだろうが!!』

結局光陰と自分で組み伏せ、剣を離して今は縄で縛っている。
瞳を閉じ、鼓動を落ち着かせるよう深呼吸を一つ。

―――大切、なんだよな

自分に守りたい物があるように、彼にも守りたい物がある。
自分は知っているのだ。
アズマリアが、真夜と一緒にいる時、彼女が心から笑えている事を。
そして、真夜も―――

「ユート様!!」

エスペリアの声に、閉じた思考が開いていく。
そして、彼女が指差す方を見た。
先ほどいたはずの真夜が、いなくなっている。
【月詠】の姿も消え、あるのは引きちぎられた縄だけ。

「……足も縛った方がよかったか!」

一つ舌打ちして悠人は【求め】を掴む。
【誓い】が近づきつつある今、この神剣は憤怒に近い感情で自分を攻め立てる。
早く、速く、砕け、殺せと。
だが、今はそれに従うわけにはいかないと、そう感じた。

『ユート君は、この国、好きかな?』
『お前は何のために戦ってる?』

好きだよ、レムリア。
真夜、お前は、お前が守りたい物を、守るために戦ってるんだよな。
いつか言ったっけ、俺が戦う理由を。

「みんな守るさ。誰かが守りたいと思った、その人も!」

憎悪を振り払い、前を向く。
行こうか、守るべき物を守るために!






駆ける。
オーラの消耗すら考えず、全速力で。
森の木々すら邪魔だと切り倒し、草木を駆け抜け真夜は疾風の如く東へ進んでいた。
危険?知るか。
一人でだって何だって、彼女だけは守ってみせる。
でなけりゃ、何の為の力だ!

「アズマリア!!」

焦燥が、声になってあふれ出した。

















Intruder
40.smash up!!! 2^Symphony of eight swords^
















「あ…駄目……」
「ん?そうは言ってもなあ」
「あ、そこは、あ、ああ!」
「……ほれ」
「あああぁぁぁぁ!!」

「………何してるんだ、お前ら」
「レイン〜〜!アズマリアがいじめる〜〜〜!!」

ドアを開け、部屋の中に入ってきたレインにエルフィリアが抱きつく。
それに対して、アズマリアは腕を組み、憮然としながら答えた。

「いじめてなどおらん。貴様が弱いからこうなるんだ」
「チョッとぐらい手加減してもいいじゃない!」
「ほう?では手加減して勝って貴様は喜べるのか?」

うううう!!と唸るエルフィリアを見、レインは溜息をつく。
彼女たちがしているのは、簡単な盤ゲームだ。
見る限り、圧倒的な差でアズマリアが勝っているのが分かる。

「……アズマリア様。あなた、自分の立場がお分かりで?」
「ん?人質だろうな」

一応分かってはいるのか、とレインは思う。
と言うのも、半分寝ボケ顔で連れてこられた彼女は、一晩過ぎても余裕の態度を崩さないのだ。
それどころか、今はこうしてエルフィリアと遊んでさえいる。

「私をさらい、助けに来る真夜を戦場から引き離し、その隙をついて攻撃を行う。まあ、戦略としては妥当だな」
「……ありがたきお言葉」

そして、見た目によらず聡明。
レスティーナと言う、ラキオスの王女もだが、ここにいる元イースペリアの女王も中々に喰えない存在だな、とレインは感じた。
そして、だからこそ問う。
この状況で、何故ここまで心乱さずいられるのかを。

「何故、そこまで落ち着いていられる。今すぐにでも、お前は私達に殺されるかもしれないのだぞ?」
「殺すのか?大事な人質を」
「生きていようといなかろうと、敵がこちらに来れば、関係なかろう」

それもそうだな、とアズマリアは笑う。
だが、それでも余裕の態度は崩さない。

「殺す。私を?それは無理だ」
「……その理由は?」
「シンヤが助けに来てくれる」

その言葉に、レインはおろか、隣にいたエルフィリアまでもが驚いた。
頭のいい娘だ。
だがそんな彼女が余裕を崩さない理由が、それ程幼稚な物だと言うのか。

「シンヤは言った。絶対に、守ってくれると。そしてシンヤは嘘はつかん。これまでも、これからもきっと。だから私は恐れない。恐れる理由など、何もない」
「でも、来なかったらどうすんのよ?」

金属製の鍵が開かれ、部屋の中に2人の少女が入ってくる。
メルビスとカムイだ。
そんなカムイの質問にも、アズマリアは笑って答えた。

「来ない?シンヤが?悪いが、私は貴様らよりシンヤのことを知っている」

それよりも、と付け加えアズマリアは周りにいる四人を見る。

「私は、貴様らが神剣の呪縛から解放されてなお、帝国に従うのかが理解できない。自由に生きる道もあったはずだろう?」
「……それは」
「戦いたかったからよ」

言いよどむレインに代わるように、カムイが答えた。
腰に挿した【白誇】柄を握りながら、カムイは続ける。

「帝国とか、ラキオスとか、私達にとっちゃ関係ない。あるのは、強い敵と戦いたい。この力を、使い切ってみたい。そんな欲求だけ」
「……でも、今の帝国には、…シュン様以外に私達とまともに戦えるスピリットがいないんです」
「だっから、要するに私達は【来訪者】と思いっきし戦ってみたいの!!」

平静ながら、瞳に強い意志を感じさせながらメルビスが、そして嬉々として【朱咲】を回すエルフィリアが代わる代わる答えていく。
たった一握り、ソーマと呼ばれる訓練士からの『訓練』を乗り越え、そして手にした力。
自分達にした屈辱は忘れないが、それでも今得た力は大きかった。
そして、手にしたとき、自由を得たとき思ったのだ。
自分は、自分達は、一体どこまで強いのだろうかと。

「……ふむ、でわお前たちは帝国に執着があると言うわけではないのだな?」
「?そうだけど」

そう答えるカムイに対し、アズマリアは声を発そうとした。
しかし同時、爆音が響き渡り、砦の中が振動で揺れる。
それに対し、アズマリアは笑みを浮かべ、彼女たちを促した。

「ほら、早く行け。お前たちの敵が来たぞ?」




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「邪魔ぁ!!」

斬戟。
放たれるそれは、黒いハイロゥの妖精たちを一瞬で切り裂く。
アズマリアの姿を探し、真夜は敵を切り伏せながら砦内を走っていた。
出会いがしらに現れる敵は、全て邪魔だと斬る。
そして、走り抜けた先にあるのは、吹き抜けになった巨大な広場だ。
そして真夜は見た。
二階にいる、【死聖獣】とアズマリアの姿を。

「マリア!!」

着ているものは、昨日と同じ自分のシャツ。
傷一つ無い事に真夜は安堵し、そして構える。
敵は四人、だがそれが何だというだろう。
アズマリアを救うのに、“たった”四人を倒せと言うのなら、すぐにでもやってやる。

「返して、もらうぞ!」
「一人とは、血気盛んなことだ」

そう言いながら、レインは驚いていた。
本当に、来た。
たった一人で、この少女を救いに。
だがそれを表情に出さず、抑揚のない声で真夜に向けて声を発す。

「四対一だが、文句はないな?」
「―――オイオイ、人数間違えてるぞ?」

声。
それは砦の廊下から聞こえてきた。
真夜はそれに対し、振り返る。
視線の先にいたのは―――

「悠人、光陰、岬!?」
「よう真夜、手伝いに来たぞ」
「私はね、どっちかと言うとあの娘が許せないだけ。何?いきなり後ろから襲ってきて『なあんだ、弱っちいの』って。教えてあげる。この今日子ちゃんを怒らせたらどうなるか」

【因果】を担ぎながら光陰は笑みを浮かべながら歩き、そしてその後ろから紫電を迸らせて笑いながら【空虚】を抜く、今日子が来る。
最後に、悠人が真夜の隣に立ち止まった。

「悠人……」
「はは、皆に頼んで来ちまった。さっさと終わらせて帰らないと、エスペリアにどやされちまう」

【求め】を抜いて上を見る。
黒のハイロゥに理性の灯った瞳。
自分は初めて見るが、成る程並のスピリットとはプレッシャーが違う。
これを一人で相手にしようとしていた真夜に呆れ、思わず笑いがこぼれた。

「な、何笑ってんだよ」
「いや、お前も馬鹿だけど、敵の作戦通りに動く俺らも馬鹿だと思ってさ」

でも、いいと思った。
負けるつもりはないし、防衛に徹してくれると言った皆も、不満一つ言わないでくれた。
皆好きなのだ、真夜が、そしてアズマリアが。

「これで四対四。丁度いいだろ?」
「……馬鹿だな」
「お互い様だ」
「ホントにな。……ありがとう」

礼を一つし、そして真夜はアズマリアを見た。
声には出さず、けれど瞳で問う。
どうしたい?と。
それを感じ、アズマリアは一帯に響く澄んだ声で命令を放った。

「聞け、聞け!偉大なる四の神剣を持つ者よ。この者達は、私を浚いながらも、礼節に尽くしてくれた。私は思う。彼女たちを、この戦争が終わった後もイースペリアの剣になって欲しいと!」

この言葉に、【死聖獣】達の表情は驚愕に変わった。
それを感じながらもアズマリアは続ける。

「イースペリアが女王、アズマリア・セイラス・イースペリアが、貴様らに命令を下す。殺すな!叩き潰せ!そして頭を垂れさせろ!!」

紫電が鳴った、萌黄のオーラが迸る。
白のオーラが展開され、月光のオーラが唸りを上げた。

「難しい命令よね」
「ま、女王様の命令だ。嫌とも言えないだろ」
「どうする?真夜」
「……ぶっ殺す予定だったが、変更だ。全力で、ぶっ飛ばす!!」

各々が剣を構え、空間がプレッシャーに埋め尽くされる。
一帯を塗りつぶした殺気が辺りを包んだ。
真夜の瞳は銀の瞳のカムイへ。
光陰の視線の先にはメルビス。
今日子が向かうのはエルフィリア。
そして、悠人が戦う相手は、将であるレイン。

「さあ。派手な喧嘩と、行こうじゃねえの!!」

吹き抜けの空へと、高い剣戟音が響き渡った。








<あとがき>

奇跡の40話「叩き潰せ〜弐〜」でした。
今回はあっさり風味、と言うか心象描写が悠人主体となりました。
この展開を予想された方は多いと思います。
王道のガチンコバトル、どうなるかはお楽しみに。
それでは、また41話で。

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