唯一つを守るために









君を守ると―――



















Intruder
39.To defend only one















「つ・か・れ・た〜!」

ばたりと、第二詰所の自室のベットに体を倒す。
時間は夕方、相変わらずリレルラエルの防衛が続き、3日後ようやくこちらに帰ってこれた。
悠人たちは今、サレ・スニルへと中継地点を陥落させようとしているところだ。
ここ数日はずっと防衛のため前線に出ていたので、体中が軋んでいる。

【お疲れ?】
「一緒に帰ってきた岬も、ヘロヘロだったしな」
【……がんばって】
「さんきゅー」

ようやく向こうからの攻撃も止み、岬と同時に前線から引いていた。
当人は「帰ってお風呂に入りたいわ……」とぼやいていたのを思い出す。
そういや、俺もここ数日入ってないな……

「よっこいしょ!」
【……?】
「お風呂。行くか?」
【ポカポカ?】
「そうだ」
【……いっしょに行く】

鞘に収められた【月詠】を手にし、部屋を出る。
と、そこにアズマリアがやって来た。

「お帰りシンヤ。どこに行くのだ?」
「風呂だよ風呂。連戦続きで入れなかったからさ」
「……そうか」

ふむ、とアズマリアはあごに手を当て考え出す。
……やばいな、いい予感がしない。
ここは一つ、早急に退避しておくか。

「じゃ、じゃあアズマリア。俺行くか―――」
「よし、私も一緒に入るぞ!」

ああ…遅かった。
一度言い出したら聞かないのがこの娘なのだが、今回はそうも言ってられない。

「あのなアズマリア。いいか?お前は女の子だろ?だから、こういうときは一緒に入らないものなんだよ」
「でも、【月詠】は一緒に入るのであろう?」
「いや、こいつはほら……」
「【月詠】も女ではないか。それを、私だけ入れないのはおかしい。そうだろう?」
「ぐ、ぐぅ……」

自分より年下の娘に言い包められる俺って……
そう思いながら、俺は何とか彼女を納得させる術を考える。
しかし、そうしている内にアズマリアは風呂へと歩き出していた。

「どうしたシンヤ?早く行こう」
「………はいはい」

邪気のない笑顔にあてられ、つい苦笑してしまう。
まあいいか、たまにはこんな日があっても。
そうして俺は、わがままなお姫様を連れ、浴場へと足を運んだのだった。




Χ    Χ    Χ




「うむ。城の浴場もいいが、ここも中々綺麗なところだな」
「そうか?」

アズマリアと2人、体にタオルを巻きつけ中に入る。
誰かが準備していてくれたのか、浴槽には既にお湯が入っていた。
アメジストのように綺麗な紫の瞳をキョロキョロさせながら、アズマリアは辺りを見回す。

「どうしたシンヤ。早く入ろう」
「って。その前に体を洗わんか」

そうか、と言いながらアズマリアは椅子の前に座り、体に巻いていたタオルを取る。
真っ白な背中を見せながら、アズマリアは俺に喋りかけた。

「洗ってくれ、シンヤ」
「馬鹿。自分で洗え」
「むぅ。だが、レスティは洗ってくれるぞ?」
「他所は他所。家は家」

ケチだな、と言いながらアズマリアはタオルに石鹸をつけていく。
やはり王族だからなのか、自分で体を洗うということがないらしい。
前はいいが、後ろに手が届かずモゾモゾしている。
一つ苦笑して、俺は背中を洗ってやった。

「……ありがとう」
「次は自分で洗えよ?」

うん、と返事をするアズマリアからタオルを離し、背中越しに手渡す。
前は見ない、と言うか見れない。
俺だって、一応分別ぐらいはあるのだ。

【マスター……】
「分かってるって、ほら」
【気持ちいいの】

立てかけた【月詠】にお湯を流してやると、気持ちよさそうに【月詠】が呟く。
子供連れのお父さんの心境だな、と思い、苦笑を漏らして自分の体を洗い出した。
そこに、後ろからアズマリアの声がする。

「シンヤ。私も洗ってやろう」
「いや、いいっってぇ!!前隠せ前!!」
「む?ああ、忘れていた」

「よくじょーしたか?」「五月蝿い」と会話を交わしながら、アズマリアに背中を洗ってもらう。

「大きいな、シンヤの背中は」
「鍛えてるからな」

そうだな、と笑いながら、アズマリアはごしごしと背中を洗う。

「この背中が、私を守ってくれたのだな……」
「……アズマリア?」
「シンヤ。お前は私を、これからも守ってくれるか?」

背中を洗う手が止まる。
背中越しに伝わるアズマリアの手は、震えていた。
まるで、初めて俺の部屋に来たときのように。

「誰かがいなくなると言うのは、怖いな。シンヤ。お前がずっと一緒にいられないのだと思うと、私は怖くて怖くてたまらない」
「マリア……」
「この戦いが終われば、お前は元の世界に帰る。私は、きっとイースペリアを復興させるべく元の場所に戻るだろう。そのとき、いないんだ。お前は。私の、私の隣に―――」
「マリア、今ちゃんとタオル巻いてるか?」
「……え?あ、ああ」

そうか、と言うと、俺はアズマリアに向き直った。
そして、ゆっくりと彼女を抱きしめる。
触れれば壊れてしまいそうな彼女の体を、安心させるように。

「あ……」
「一緒にいるよ」

ギュっと力を込めた。
彼女の鼓動が聞こえてくる。
そしてそれは、俺の鼓動か彼女に届くと言うことだ。

「帰らない。この戦争が終わっても、俺はずっと、マリアの隣にいる」
「……でも、そんなの」
「アズマリアは、俺がいて欲しいと思ってくれたんだろ?」

だからいるよ、と俺は言う。

「求めてくれる誰かの隣に、俺はずっといたい。その人が泣かないように、剣にも盾にもなる」

『それが私の―――』

ああ、そうだ。
それが俺の―――

「たった一つの願いだから」

ゆっくりと、体を離した。
目の前には、上気して顔が赤くなったアズマリアがいる。
紫の瞳が、じっとこちらを見ていた。
そして、口を開く。

「本当?」
「嘘はつかん」
「ずっといっしょ?」
「お前がそう、望み続けてくれるなら」
「嫌だといっても、離れないぞ?」
「ドンと来いだ」

彼女の吐息が聞こえるほどの、一瞬の静寂。
そしてマリアは、微笑んだ。
それはさながら、聖母マリアの様に。

「ではシンヤ。イースペリア女王、アズマリア・セイラス・イースペリアが命じる。……共に、いてくれ」
「はっ。仰せのままに、我が姫よ」

笑いあう2人の声が、反響して木霊した。




Χ    Χ    Χ




「ふあ……」
「眠かったらもう寝ろよ?」
「いや。もう少しこうしていたい」

俺の服のすそを掴み、マリアはそう言う。
今彼女が着ているのは、俺が着ていたシャツだ。
行動が突飛だった為に着るものがなく、仕方なくそうしている。
くすぐったそうに笑うアズマリアを見て、俺は微笑んだ。
まるで、初めてあった日の夜のようだと、そう思いながら。

「シンヤ……」
「ん?どうした?」
「いや、唯呼んだだけだ」

なんだよ、とそう言う俺に微笑みかけながら、アズマリアはもう一度欠伸をする。
もう遅いもんな、と思った俺は、彼女を促して布団に入った。
横に寝る彼女の頭を撫で、眠りに付こうと―――


カンカンカンカンカンッ―――!!!


「……!!敵か!?」

警報の鐘に反応し、体を起こす。
そして傍に立てかけた【月詠】を手に取った。
今こちらにいるのは俺と岬だけ。
出ないとどうなるかは分からない!

「アズマリア、ここ動くな。すぐ帰ってくるから」
「…分かった。無茶はするな」
「了解!!」

窓から飛び出し、あたりの気配を探る。
敵の反応は………4!
向かう先は王城だ。
つまり―――

「次はレスティーナかよ!?」

駆ける。
疾空アクセル”を使い、一瞬で風のように速く。
最短ルートを抜け、見えた先にいるのは……以前あったブルースピリット。
名は―――

「レイン!!」
「覚えていたか、【黄金漆黒】。今お前を行かすわけにはいかんのだ」

両刃剣を引き抜き、漆黒のハイロゥを展開してレインは構える。
それに対し、俺は鞘から【月詠】を抜き放った。
加速は止めず、そのままぶち当たる!!

「どけボケェ!!!」
「断らせてもらおう!!」

轟音に近い剣戟音が響き渡る。
だが、追撃はしない。
今はそれよりレスティーナを守るのが先だ。
だが、それをさせぬとレインが追いすがる。
振り上げた剣を、“流旋”で往なし、距離を置いた。
進まねばならない先には、レインが立っている。

「っち!簡単には通さないってか」
「私の任務はお前の足止め。存分に相手をしてもらおう」
「他のときならいいけどな……今はそうも言ってられんだろ!!」

オーラの展開。
それと共に、俺は駆ける。

「永遠神剣第6位【青劉】!レイン・ブルースピリット!参る!!」
「永遠神剣第4位【月詠】!神凪・真夜だ!力ずくで、退いてもらうぞ!!」

初速から全開。
出し惜しみはしている余裕がない。
稲妻部隊のスピリットたちが王城の警備をしてくれているが、今ここにレインがいるということは、他の【死聖獣】たちもいる確率が高いと言うことだ。
だから行く。
オーラを収束させ、戟と同時に開放させる!

「“死季・夏日連衝”!!!」

打ち放つ五連の斬戟。
だがそれをレインは【青劉】で受け止めると、反撃に躍り出る。
ハイロゥの加速を剣に乗せ、振りぬく!

「“インパルスブロウ”!!!」
「チィ!“流旋”!!」

攻める“流旋”。
イオに以前使ったそれを、今度はレインに向けて行う。
剣戟は肩を掠めるが、それを気にしている余裕はなかった。
一気に間合いをつめ、【月詠】を叩き込む!!

「クッ!“フローズンアーマー”!!」

だがそれは、レインが展開した氷の鎧に阻まれる。
一つ舌打ちし、俺は更に攻撃を展開した。
攻める。
攻めて攻めて攻め続け、綻んだ所を一気に叩く!!


ガンッ!ガガガガガ!ガキィ!ゴッ!ギャガァ―――!!


二つの剣がぶつかり合い、剣戟の反響音は加速する。
一際大きな音がした後、俺とレインは鍔迫り合いになりながら膠着した。
そして、両者が力を込め、間合いが大きく開く。

「……強いな、【黄金漆黒】。…いや、シンヤ」
「お前もな!嫌になんぜ、全く」

愚痴をこぼす俺に、レインは笑い、そして…声を発した。

「今回の我らの任務。目的はラキオスの王女の暗殺にあらず」
「………なに?」
「目的は他にある。そして、終わりだシンヤ。名残惜しいが、勝負は今度つけよう」
「待て!!お前らの目的は―――」

風が鳴く音。
それと共に、月光をバックに黒の翼を生やした少女が見える。
それは、カムイだ。
飛び上がった場所は、丁度第二詰所の真上。
そして、あそこには今、アズマリアしかいなくて……
突きをバックに映るカムイの手には、アズマリアが―――

「何してやがる……テメエら!!!!!?」

鉄貫!!!
“紅鬼”を一瞬にして開放し、レインに向けて振り下ろす。
だがそれは、硬い“何か”によって阻まれた。
何かが砕ける音がし、視線の先に映るのは…金髪の少女。
その姿を見て、レインは彼女に問う。

「メルビス。【空虚】の所に行ったのではなかったのか?」
「それは―――」
「ゴチャゴチャ何言ってやがる!!」

今度こそぶち抜くべく、俺は右腕を振り上げた。
だがその時、誰かが肩を叩く。
気配は上。
12,3ほどの少女が、スフィアハイロゥの上に乗り、こちらに向けて微笑んだ

「油断大敵だよ?お兄ちゃん☆」
「しま―――」
「おっそーい。《ライトニングファイア・クロスブレイクシフト》!!」

爆音!!
四肢が焼け、双の焔閃が体を撃つ。
地面に叩き付けられると同時に【月詠】を手放し、錐揉み状態から体を打ち付け、力なく倒れた。

「エルフィリアもか。終わったのか?」
「うん!あの雷のお姉ちゃん弱っちいんだもん。拍子抜けしちゃった」

岬もやられたのか。
鬼の血で体を修復しながらも、俺は【月詠】へと手を伸ばす。
兎に角倒す。
そんで、アズマリアもすぐに助ける!!

「<詠唱破棄>………《夜天―――!」
「―――!二人とも下がれ!!」
「閃月》!!!!」

撃った。
もはや力足らず、赤から月光色に戻ったオーラの刃がレインたちに迫る。
だがそれを、レインは避けるでも受けるでもなく―――

「“水天蒼戟”!!!!」

バチィ!!という音が響く。
そう、レインは、手にした【青劉】で、《夜天閃月》を弾き折った。

「―――な!?」
「もはや力など残っていないだろうに、大した精神力だ」

視界がゆがむ。
立っていられなくなり、俺は片膝を地面に付いた。
待て、待ってくれ……
守るって、約束したんだ!
傍に、ずっといるって……!!

「安心しろ、殺しはしない。リレルラエル東にある砦にて、貴様を待つ。来なかった場合は、分かるな?」
「………いいから……返せよ。殺さない?…当然だろうが……!」

思考が纏まらない。
汗が止まらない。
行け、動け、目の前にいる敵を叩き潰せ。
そして、助けるんだ……あの娘を!!

「3日まつ。それまでに、どうするか決めるんだな」

3人が動き出すのを感じる。
だが、この体は動いてくれない。
立つことすら叶わず、ついに俺は地面に倒れた。
ポツリと、雨が降り始める。
伸ばした手は…どこにも届かない。

「…………ちくしょう!!」

遠い雨の音だけが、森の中に聞こえていた。










<あとがき>

「死聖獣激突篇」始動です。
第39話「唯一つを守るために」

ルート確定しちゃいました。イオファンのみんな、ごめんなさい。
一途なまでに真夜を求めるアズマリア。上手く表現できていたらいいのですが……
そして例の如く連れ去られましたw
真夜はどうするのでしょうか?

それでは次回をお楽しみにノシ

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