進撃せよ
交わす言葉を刃に代えて
進め 進め 突き進め
さあ始めよう 戦いを
Intruder
38.Go ahead
戦況は大きく動いていた。
エトランジェ4人が集まるラキオスに、意識を取り戻したアセリア。
更に元々帝国に属し、地形を把握しているウルカによって、ラキオスは怒涛の勢いで帝国内を攻め入っていた。
「押し進め!退くな!何故なら、進むことにこそ価値がある!!」
声をあげ、先頭を切って走るのは真夜
それに追随するようにヘリオンやセリアといった近距離攻撃部隊が地を、空を蹂躙していく。
場所は法王の壁の手前。
攻めることは易く、防ぐことには強固な地の果てまで続く壁が、真夜達の前に立ちはだかっていた。
だが、それにひるむことなく、ラキオスの兵達は前へと進む。
「散らばるな!数人とチームを作って動くんだ!数は多いが、実力はこちらが上だぞ!!」
アセリアを隣に置き、声を上げる悠人に皆は一声で応える。
その様子に真夜は安堵を覚え、そして詠唱に入った。
「闇を切り裂く光となりて、彼の者に滅びを与えたまえ―――夜天・閃月!!」
光は力となり、オーラの斬戟が周囲の敵スピリットたちを切り裂いていく。
それを見、されど引くことは叶わないサーギオスの妖精は、真夜に向けて一斉に襲い掛かった。
多勢による一斉攻撃。
それは単純だが、それだからこそ乱戦では大きな効果を発揮する。
しかし、それに対し、真夜は驚くことも、止まることもなく……消えた
「………え?」
肩に重みを感じ、その方向を向こうとするが、それより先にブラックスピリットは絶命させられる。
目の前で自分の仲間が殺されたことに、周囲のスピリットたちは困惑した。
一体、誰が―――
「遅いな、お前ら」
声は己らの中央。
何時の間にかそこに着地した真夜が、スピリットたちに取り囲まれる形で立つ。
一瞬の思考の停止。
しかしすぐさま攻撃に移ろうとして……切り裂かれる!
「“夏日連衝・尖夏蓮華”」
肉を貫く嫌な音。
五連の突きが、スピリットたちを穿ち穿ち穿ち穿ち穿つ。
その攻撃は一瞬だ。
取り囲んでいたはずの妖精たちは、真夜の刹那の剣技で一瞬にして息絶えた。
残っているのは、金の光を周囲に立ち上らせる真夜のみ。
「派手にやってるなあ」
「うっせー」
【因果】を肩で担ぎながら、真夜の隣に立ちそう言う光陰に、真夜は【月詠】を鞘に収めながら言う
手応えは…微妙だ。
この門は別に越えられても構わないと言うことなのだろうか。
前回相対した【死聖獣】の姿もなく、いるのは自分らより弱い敵ばかり。
「……気味悪いな」
「真夜も、そう思うか」
おびき寄せられている、気がする。
それほどまでにここの警備は薄いものだった。
「でも、今アタシ達にできることって、進軍することだけじゃない」
あらかたの敵を片付け、【空虚】を鞘に収めた今日子がそう真夜と光陰に言った。
そう、罠であろうと進軍しなければ戦争に勝利はない。
それに罠であろうとなんであろうと……
「勝つ!それだけよ」
「岬は頭の構造がシンプルでいいなぁ」
「そう?じゃあシンプルな思考で考えたんだけど、一発喰らっとく?ライトニングハリセン」
「謹んで辞退させていただきます」
以前、光陰が第二詰所にちょっかいを出しに来て、岬にコテンパンにされていたのを見ている真夜としては、何が何でも断らなければいけない。
スーッと後退し、そして真夜は上を見た。
視線の先にあるのは、法王の壁だ。
エーテルを壁全体に供給することで、神剣での攻撃をシャットアウトする最硬の盾。
先程シンクロアビリティで突き破ろうとしたが、それも出来ないでいた。
「お前とナナルゥちゃんの《レーバテイン・ブラスト》でも破れないとは…どうしたもんかな」
「マナによる攻撃は効かないんだろ?」
だったら、と真夜は瞳を閉じた。
そして、開く先には真紅の瞳。
「力づくで、ぶっ潰す」
「……ねえ光陰。真夜も十分シンプルだと思うんだけど」
「言うな今日子。知らないほうがいい事実だってある」
「聞こえてるんだが……」
大方の敵は殲滅され、門の前には今、真夜たちしかいない。
だから真夜は動いた。
ありったけの力を、右腕に込めて。
『神凪に伝わるたった一つの技、シンちゃんに教えてあげる』
現実世界の、母の言葉を思い出す。
全身の、頭の上から足の裏まで、全ての動きをただ一撃に込める動きを行う。
動きに全てに無駄はなく、体中の筋肉がしなる。
『私は蹴りだけど、シンちゃんは好きにしなさい。技は数多く要らず、一撃で屠るものが唯一つあればいいと、私達のご先祖様が残した技よ』
動いた。
『―――名は』
「鉄貫!!!!!!」
先ずインパクト。
それに追いつこうとするように、巨大な爆音が大気を震え上がらせる。
打ち込まれた鉄の扉から、蜘蛛の巣のようなひびが入り、それは更に壁にまで侵食する。
崩落音が響き、打撃地点を中心に、左右5メートルずつの地点までが崩れ落ちた。
それを見て、味方も、向こう側にいた敵も呆然とする。
真夜は“紅鬼”を解除し、伏せていた顔を上げた。
「…………おおぅ!だ、誰が!?」
「「お前だよ!!」」
後ろに下がっていた光陰と今日子から、同時にツッコマれる
「い、いや。ここまで凄いとは思わなかったからさあ……」
一回だけ、母が使っていたのを見ただけ。
それを真似しようとしたのだが、まさかこれ程とは。
まあ自分の母も岩砕いてたし、当然っちゃあ当然か、と真夜は一人納得していた。
兎にも角にも、道は開けたのだから。
「と、兎に角!進撃続行!!」
何かをごまかすように、真夜は己が開けた道を駆け出した。
Χ Χ Χ
「で、こっからが正念場だな」
リレルラエルを占領し、一夜を過ごすこととなった俺達は、簡易詰所の今に集まっていた。
そして、光陰が話を続ける。
「ここより更に南下して、ゼィギオス、サレ・スニル、ユウソカを落とさなきゃいかんわけだが……ここで俺らが取る道は二つだ」
1.部隊を二つにわけ、ゼィギオス、サレ・スニルを落とし、最終的にユウソカに攻め入る
2.リレルラエルに防衛の部隊を置いて、残った部隊で3つのポイントを確実に潰していく
「案1だと確実に侵攻スピードは上がるが、同時俺らの消耗も激しい」
「2だと、逆にスピードは落ちるけど、確実に進めるってわけか」
そう言って悠人は顎に手を当てた。
侵攻というのは、防衛よりも遥かに体力の消耗が激しい。
加えて、相手はサーギオスだ。
今まで以上に激しい戦いになる。
「………2でいこう」
「へえ、悠人なら1で行くかと思ったんだが」
高峰妹はもうすぐそこだ。
こいつとしては、すぐにでも取り戻したいと思うはずなんだが。
「俺だって出来れば1で行きたいよ。でも、みんなの体力を考えるとな」
無理は出来ないだろ、と言って悠人は椅子に座った。
昔と比べ、焦りや、苛立ちは感じられない。
こいつも、成長してるわけか。
「エスペリア、皆にそう言ってきてくれるか?」
「あ、はい!」
悠人に言われエスペリアは部屋を後にする。
「当面はリレルラエルにエーテルジャンプサーバーを設立。休憩するスピリットはラキオスに一時帰還させよう」
「ま、それが妥当だわな」
「右に同じ」
ジャンプサーバーの設立には一週間前後。
それまでは帰還できないが、防衛戦は最初が肝心だ。
「部隊は、取り敢えず俺・岬組。と悠人・光陰組でいいか?」
ペンを片手に紙に部隊編成を書いていく。
・侵攻部隊
悠人、光陰、アセリア、エスペリア、ウルカ、オルファリル、ナナルゥ、ネリー、シアー
・防衛部隊
真夜、今日子、セリア、ハリオン、ニムントール、ヒミカ、ファーレーン、ヘリオン
「侵攻部隊は火力重視。一気に相手を攻め上げる。防衛部隊は速力重視。どこから来ても絶対死守!」
「ふむ、出来ればヘリオンちゃんやニムントールちゃんも侵攻部隊に―――」
「黙れ」
THE・ロリコ○はバッサリ切り捨て、悠人と岬に視線を送る。
2人は一つ頷くと、それぞれの意見を発した。
「ま、いいじゃない?真夜と組むのは始めてよね?」
「俺もこれでいいと思う。行こう。勝ちに!」
拳を握り締め、そういう悠人に、俺は頷きで返した。
勝つさ、勝とう。
あの娘が、もう一度イースペリアの地を踏めるように。
「っしゃ!行動は明日から!勝つぞ!!」
「「「おう!!!」」」
Χ Χ Χ
悠人たちはサレ・スニルに侵攻を開始。
同時ゼィギオスサイドから向かってくる敵に対しては、真夜、今日子のコンビが迎撃に入っていた。
更にそこにヘリオン、ファーレーンも加わり…戦場は加速する!
「ヘリオンは右頼む!」
「はい!“雲散霧消の太刀”!!」
初速は全速。
二手に分かれた二つの黒が、身を倒しながら更に速度を上げていく。
二つに分けた黒髪は、軌跡を残しながら揺らめき、黄金の瞳は残光を残して敵を切り裂く。
トンッと音がして互いに背中合わせになった。
「強くなったな。ヘリオン」
「そ、そうですか?でもシンヤ様に比べたらまだまだですよ」
だが強くなった。
二年。
歳月は人を強くする。
心も、体も。
なら自分はどうだろう?
変われたか、俺は……
「シンヤ様?」
「……大丈夫だ。シンクロ、行けるか?」
「………はい!」
背中越し。
瞳を閉じ、剣と剣を混じり合わせ、互いの鼓動を感じ取る。
―――落ち着いてるな
ヘリオンはこの戦争で大きく成長したのだろう。
最初はテンパって戦場のど真ん中でコケたりしてたんだが、と真夜は苦笑する。
まあ、それは自分も一緒か、と昔を思い出した。
あれから二年、過ぎ去った日はアッというまで、だけどいつでも思い出せる。
だから、この思い出が、いつか笑って話せるようになれるよう―――
「「共鳴剣―――」」
目を開く。
纏うのは黒のオーラだ。
2人は一歩、前へと進み……消える!!
ブッと音がして、サーギオスのスピリットの首が吹き飛んだ。
だがまだだ。
音すら追いつけぬ速さで、二つの黒は嵐を巻き起こす!
「「疾黒の太刀!!!」」
黒風は嵐となり、轟音を上げながら敵を切り裂く。
速く、迅く、疾く―――
土煙を上げながら、死を呼ぶ嵐は雄たけびを上げた。
そして、止む。
周囲一帯に敵はおらず、いるのはヘリオンと真夜のみだ。
「………ふぅ」
「反動は…余りないな。相性がいいのか?」
【月詠】を収め、真夜は辺りを見回した。
敵は今のところ中の上レベル。
だが、サーギオスと言う国勢からして、これが本気とは思えない。
更に、帝国には「ソーマズフェアリー」などという特殊部隊までいるのだ。
油断はしないし、するつもりもない。
「引いたか。よし、休憩にしようぜって、ヘリオン?」
「あ、あははは……足、動かないです」
反動か、と真夜はそう判断した。
成る程、剣の加護が弱くなるだけではなく、使用者本人に跳ね返る場合もあるのか。
ヘリオンの足ではあの速さは限界を超えていたのだろう。
と、自己分析しても何もならないので、真夜は一つ頷き……ヘリオンを持ち上げる。
「ふぇ!し、シンヤ様!?」
「何だよ?」
「い、いや。真顔でそういわれると、こちらも困るんですけど……」
ヘリオンの指摘したかったのは、今のこの状況。
所謂、「お姫様抱っこ」の構図だ。
真夜の思考回路では、動けない→運ぶ、と言った極めて単純なものだったのだが。
「だ、だめですよぅ。シンヤ様にはアズマリア様がいるじゃないですか」
「いや、なんでここでマリアが出てくるんだよ?」
「……もういいです。嬉しいですし…えへへ」
「?」
結局詰所までそのまま、しかも途中でヘリオンは寝てしまったのは別の話。
<あとがき>
と言う名の言い訳(ぇー
大して進まなかった38話「進撃せよ」
某小説の影響を受けまくっているタイトルですが、気にしないでください……
一息、というところでしょうか?あまりバトル続きでもアレですし(まあ今回のお話もバトル6割な感じでしたが…)、緩和材的な話になっております。
次回から話が動く予定。
せめて50話行く前に四章は終わらせておきたい……
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