超越せし者

「まったくお前たちは!あれほど偵察だけだと言っていただろうが!!」
「………ごめんなさい」
「い、いいじゃない。相手の力量も測れたんだ――いえなんでも無いです、すいません」

城内の一角にある部屋の中。
そこで2人の少女が正座をさせられている。
一人は金髪を両サイドに結った緑の目を持つ15、6程の少女、メルビス。
そしてもう一人は長い黒髪に銀の瞳をした、メルビスと恐らく同年代であろう少女、カムイだ。
その前に仁王立ちで立つ肩ほどまで青の髪を伸ばした、20代前後の女性が立っている。
死聖獣カルテット・オブ・エレメンツ】の将、レイン・ブルースピリットだ。

「いっいなあ、来訪者と殺り合えて!ホントはレインもそう思ってるんでしょ?」
「そうそう、……て違う!!エルフィリアは少し黙っていろ!」
「ぶー、つまんなぁ―――い!」

手にしたダブルセイバーを器用に片手で回しながらふて腐れる見た目12、3ほどの少女。
スピリットとは違う特別な存在の一人、スペリオルのエルフィリアだ。
溜息をつきつつ、レインは再び正座したままの2人に向き直る。

「……それで、どうだった?」
「…強いです」
「シンヤの強さは予想外だったわね。データよりも格段に能力が跳ね上がってたわ」

カムイの脳裏に映るのは自分と同じ黒髪の自分と異なる金眼の少年。
ここにいる仲間とでは味わえない、そんな“何か”が彼との戦いにはある。
だから―――

「次は、私が勝つ!!」














Intruder
37.superior^quartet of elements^














「スペリオル?」
「そうだ」

相変わらず汚いヨーティアの部屋に集まった俺たち【来訪者エトランジェ】。
もちろんそこにはレスティーナとアズマリア、ヨーティアもいる。
悠人がアセリアを連れてサーギオスに潜入すると聞き、その前にと俺と光陰が集めたのだ。

「理性ある黒翼か……前例は無いねえ。コウイン殿とバカは大体見当は付いてるんだろ?」

誰がバカだ誰が……
つーか、悠人がボンクラで俺がバカだから………悠人以下!?

「お前今失礼なこと考えてただろ」
「なんとなくだが、予想は付いてる」

こいつスルーしやがった、と言う悠人の声を無視し、俺は続ける。

「通常ハイロゥが黒くなるのは神剣に飲まれた証。つまり片側の精神がマナのすべてを支配するって事だろ?」
「だが彼女たちは精神を飲まれていなかった。これはつまり―――」
「「“スピリット”が“神剣”を飲み込んだ」」

光陰と俺の言葉にヨーティアが満足そうな笑みを見せる。

「そう!前例が無いからと言ってありえないことじゃあない。他に考えられないしねえ」
「にしても、出来るのかそんなこと……」

そう言って俺は【月詠】を見た。

【…飲み込んじゃう?】
「しないって。お前は大事な相棒だからな」

だが神剣を飲み込むということは、自我を保ちながら100%の力を発揮できると言うこと。
現に俺も、光陰も敵を倒せなかったのだ。
つまり―――

「敵に秋月を含め四人以上【来訪者】クラスの敵がいれば……最悪俺たちが負ける」
「なんでよ?」

岬の問いに光陰が答える。

「【蒼い牙ブルー・ファング】と【漆黒の翼ウイング・オブ・ダークネス】ならともかく、普通のスピリットじゃ【来訪者】にはまず勝てない。その戦力が俺らと総当りしたら、地力の低い俺たちに不利ってわけだ」

そう、悠人と秋月を抜けばこちらは【来訪者】三人。
三剣精もいるが対一であのレベルと戦り合うのは難しい。
俺らがあの【死聖獣】と戦り合っている内に押し負けたらそこで終わりだ。

「とにかく、アセリアの意識が戻らない以上スペリオルとは戦り合うな。兎に角逃げろ、いいな」
「…分かった」




Χ    Χ    Χ




「シッ――――!」
「だらッ!!」

柄と刃がぶつかり合い、火花を散らし弾き合う。
そしてイオは一旦距離を開けようと“疾空アクセル”を使うが

「な―――!?」

それより速く真夜が間合いを詰める。
咄嗟に【理想】の穂先を向けるが、それを往なしつつ更に前進。
懐から【月詠】で斬り上げる。
それを“流旋ストリーム”で往なし、弾いて今度こそ間合いを外した。

「ちぇッ。もうチョイだったのによ」
「…………」

疾くなっている、確実に前より。
そして更に驚かされたのは戦闘スタイルの変化。
以前とは違い、“流旋”を攻めるために使っている。
彼が消えた数十日、何があったのかは知らないが、その間で己のスタイルを確立し、そして確実に強くなっている。
独特の構えを崩さない真夜に、イオは一抹の寂しさを覚えながらも、喜んでいた。
ここからは、「本気」で戦える。

「神剣魔法、解禁します。手加減は?」
「いい。全力で、来い!!」

訓練士たちは異様な雰囲気を察したのか、スピリットたちを促し離れていく。
それでいい、巻き込まない自信はないから。

「《壱式・白弾》」

魔法陣の展開、そして生み出される白の光球。
それが一直線に真夜の元に飛ぶ。
それを真夜は“疾空”で回避、更にその勢いのままイオの後ろに回りこむ。
だが―――

「《伍式・白円》」
「――――チッ!」

イオの周囲を白の光円が包む。
それを舌打ちしながら真夜は一度後退した。
だがそれに追い打ちをかけるようにイオは更なる魔法を発動させる。

「《弐式・白曳》」

拳大の光線が放たれ、それを真夜は避ける、が

「ホーミング!?んなのありかよ!!」

避わした方向に光線は曲がり、更に真夜を追い詰める。
それに対し、真夜は言霊を削り神剣魔法を発動、迎撃すべくオーラを放つ!!

「<詠唱破棄>《夜天閃月》!!!」

月光色の斬戟が白の光線とぶつかり合い四散する。
それによって一瞬視界が砂埃で阻まれた。
視界が晴れた先、真夜が見るのは………空を埋め尽くす光刃の雨

「《肆式・星崩》」
「―――――!!!」

咄嗟に左手を突き出し、《ルナティック・アイギス》を発動。
だがそれも長くは持たず罅が入る。
砕けると同時、降りかかる《星崩》を、真夜は“流旋”を使いながら回避した。
掠った部分から血が出るがその情報を脳内から排除する。
痛みよりも、恐怖よりも、今必要なのは動くこと!

空から放たれた刃の雨を避け切る。
そして、イオに向けもう一度攻撃を試みようとするが………イオの姿はない

「どこを見てらっしゃるのですか?」

スッと穂先が首筋に当てられるのを感じ、真夜は体から力を抜いた。
どうやら、ここまでらしい。

「………参りました」




Χ    Χ    Χ




「ああクソッ!また連敗記録更新か!!」
「残念でしたね、結構いいところまでいけてましたから」

それも最初、神剣魔法を使われる前までの話だ。
本気の本気で来られたら、まだ俺はイオには届かないらしい。

「イオすっごいね―――!」
「すごーい」
「フフッ。ありがとうございます」

タオルを持ってやって来たネリーとシアーからそれぞれ受け取り、流れた汗をふき取る。

「あらあら〜、怪我してますね〜。治しましょうか〜?」
「いや、いいよ。これ位ならすぐ塞がる」

【大樹】を淡く光らせ、治癒魔法の準備に入るハリオンを止め、立ち上がった。
鈍い痛みが体を蝕むが、神剣の治癒能力と人間時でも多少作用する“鬼”の力があればこれぐらいの傷は数分で完治するだろう。
今後の課題は神剣魔法に対する対応だな、と考えていると、セリアが近づいてきた。

「派手にやってたわね。結果は?」
「またやられました。まだまだだな」
「全くね」
「お前に言われたくはない」
 
何よ、何だよ、と睨みあっていると、イオがそこに割って入ってきた。
心なしか焦っている様だが、何かあったんだろうか。

「ち、近いです」
「………近い?」
「その…シンヤ様とセリア様が」

ああ、そりゃ睨み合ってるんだから当然なんだが、それで何故イオが慌てなければいけないのだろうか。
………分からん。

「……鈍感」
「何おう!?」

イオといると何故か俺が鈍感扱い受けているような気がするのだが、気のせいだろうか。
この前も光陰に言われたし……
自分じゃ結構鋭い方だと思うんだがなあ。
再び睨み合おうとする俺を、セリアから離しつつイオは言う。

「それで、罰ゲームです」
「罰ゲーム?そんなの約束「罰ゲームです」…はい、何でしょうか」

妙な威圧感に思わず頷いてしまう。
すると、イオは顔を赤らめながら、モジモジとしだした。
何だ?トイレか?

「ち、違います!」
「今俺喋ってたか!?」

周囲を見るがネリーとシアーは首を横に振っている。
ハリオンは「あらあら〜」と笑っていて、セリアは「駄目だわこの男」といった表情でこちらを見ていた。
な、何だよ!俺が悪いのかよ!!

「し、シンヤ様!」
「は、はいぃ!!」

急に大声を出したイオに思わず背筋を伸ばして答えてしまう。
顔を真っ赤にしながら、一生に一度のお願いと言わんばかりの様子。
そんな様子に戸惑いつつも、俺はイオの言葉を待つ。

「い……一緒にお買い物に行ってくれませんか?」
「………は?」

願い事は意外と普通だった。




Χ    Χ    Χ




「今日はいい天気だなあ」
「そうですね」
「明日も晴れるといいな」
「そうですね」
「………イオ?」
「ソウデスネ」

城下に下りたはいいが、イオの方は何故だか緊張してしまっているらしい。
あれか、ヨーティアの世話ばっかしてたから、これだけ沢山人がいる環境に慣れてないのか。
だとしたら仕方がないが、それなら何でわざわざ俺を誘ったりしたのだろう。
やっぱ一人で降りるのは怖いから俺を誘ったのだろうか?
それなら別に罰ゲームにしなくても付き合うのだが。

「そういや前に一緒に行こうって言ってたもんな。悪いな遅れちまって」
「い、いえ。別に……」

もし楽しみにしていたのなら悪い事をしたかな、と少し前を行くイオを見ながら思う。
そして、その姿に重なるのは…イリスだ。
髪の色も、目の色も違ったが、イオと瓜二つの少女。
彼女はエリシアが作ったスピリットと似た存在だと言っていた。
つまり……イオも?

「どうしました、シンヤ様?」
「……いや、何でもない」

イオはイオ。
それも俺が来るずっと前からヨーティアと一緒にいたのだ。
まあ世界には同じ顔の人間が三人はいるって言うし、これもその類だろう。
止めよう、深く考え過ぎるとろくな事がない。

「それより、どこ行くつもりなんだ?」
「あ、え、………」
「考えてなかったのか」

そんな姿に思わず苦笑してしまう。
いつもは大人びているのに、時々子どもの彼女が表れることがある。
信頼されている、と言えば自惚れになるのだろうが、それでもそんな姿を見せてくれるのは嬉しかった。

「取り敢えず、ぶらぶら歩くか」
「……はい!」







「綺麗な空ですね」

場所をいつもの高台に移し、俺とイオは並んで広がる湖を見る。
雲一つない快晴。
戦争中だとは思えないほどの平穏。

「こんな風に、毎日過ごせたらいいのにな……」

思わず口に出してしまう。
それを聞いたイオは、こちらを覗きこんできた。

「シンヤ様は…この戦いが終わったらどうなさるおつもりなんですか?」
「………へ?」
「帰って、しまうのですか?」

それは、元の世界ということだろうか。
聞かれるまで考えてもいなかった。

「んー、どうだろうな……」

待っていてくれる人はいる。
だが、ここには俺を求めてくれる人もいる。
アズマリア……
仲間のスピリット達はきっと俺がいなくなってもやっていける。
これは推測ではなく確信だ。
だが、彼女はどうだろう?
それとも、俺がいなければいけないと、そう思うことこそ自惚れなのだろうか。

「今、アズマリア様のことを考えていましたね?」
「う゛……」
「女性の前で他の女の方のことを考えるのは失礼ですよ?」
「ご、ごめんなさい……」

顔に出ていたのだろうか。
自分の顔に触れてみるが、分からない。
女と言うのは鋭いな、としみじみ思った。
そんな俺に対し、イオは微笑みながら口を開く。

「きっと、あの娘はあなたが必要なはずです。そして、それをきっとあなたには言おうとしない。自分の存在が、あなたを縛る“枷”になってしまうのが嫌だから」
「そういう……もんかな」
「女の子は、シンヤ様が思っている以上に成長するものですよ?」

あの娘に会ってから、もう一年半以上。
そろそろ二年になる頃だ。
見た目も、最初にあった頃よりずいぶん成長した。
背の高さなら年少組の中では一番だろう。
というか最初に会ったころも、身長は低かったがヘリオンと年が同じだったことには驚かされた。

「……まだ、決められないな。でも、ここに俺がいる価値があるなら、俺がいる意味があるなら…ここにいてもいいのかもしれない」

“あの時”大切なものを失った俺にも、今また大切なものがある。
失いたくない、もう二度と……
あんな思いは、二度目はもう耐えられそうにない……

「……少なくとも、私はあなたを必要としています」
「え?」

風にさえぎられた言葉を、もう一度聞き出そうとイオを見る。
しかし、イオは少しだけ笑うと、立ち上がって歩き出した。

「な、何だよ?もう一回言えって!」
「フフ、秘密です」

人差し指を口元に持ってきながらそういうイオに、思わず見とれてしまう。
慌ててその後を追いながら、俺は何故か笑っていた。









<後書き>

小休止な三十七話「超越せし者」
イオルートなんだかどうなんだかよく分からないお話ですが、今回は彼女が前に出てきました。
ごめんね、今まで放って置いて(´・ω・`)
イオの使っていた魔法ですが、これは完全におしょうのオリジナルです。
いや、レスティーナルートとか行ってないし(ぇー
次回サーギオスとの戦争が始まります。
【死聖獣】と【来訪者】との戦いを、お見逃しなく〜ノシ

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